025.怪談"飴を買う女”小泉八雲、蜘蛛の糸

【小泉八雲の。。。怪談。。「飴を買う女」】。。。
  島根県。松江市。中原まちにある。大雄寺の、墓場にはこんな。話がある。。。。。。
  中原まちに、水飴を売っている、小さな飴屋があった。
  水飴とゆうのは、麦芽からつくった琥珀色のあまい汁で、お乳が出ない母親が、子どもに、与える物である。。。。。
 この飴屋へ、毎ばん、夜が更けてから、青ざめた、若い女が、白い着物を着て、水飴を、一厘、買いにくる。。。。
【小泉八雲の。。。怪談。。「飴を買う女」】。。。
  島根県。松江市。中原まちにある。大雄寺の、墓場にはこんな。話がある。。。。。。
  中原まちに、水飴を売っている、小さな飴屋があった。
  水飴とゆうのは、麦芽からつくった琥珀色のあまい汁で、お乳が出ない母親が、子どもに、与える物である。。。。。
 この飴屋へ、毎ばん、夜が更けてから、青ざめた、若い女が、白い着物を着て、水飴を、一厘、買いにくる。。。。
  飴屋は、若い女が、あんまりにも痩せこけて、あんまりにも顔色が悪いものだから、心配に思った。。。。
  そして、親切にたびたび尋ねてみたのだが、若い女は、なにも答えてくれない。。。。。。
 そして、
 ある晩のこと、
 飴屋は物好きにも、若い女の、あとをつけて行ってみると、途中でその姿を見失ってしまった。。。。。
 そのあくる晩も、若い女は、やってきた。しかし、その晩は水飴は買わずに、飴屋に自分と一緒に来てくれといって、しきりに手招きをするのである。。。。。。
 そこで飴屋は、自分のにょうぼと、近くの友人を誘って、若い女のあとをついて、墓場へ行ってみた。。。。
 とある、墓の、ところまでくると、若い女の姿が、消えた。。。。。
すると、地面の下から
。。。。赤ちゃんのなき声が聞こえるではないか。。。。
それから、みんなで、墓を、起こしてみると。。。。
墓の中には、若い女の、亡骸があった。。。。
 そのそばに、生きている赤ちゃんが、いる。。。。差し出した提灯の火を見て、にこにこと、可愛く笑っていた。。。。。
赤ちゃんのそばには、水飴を入れた小さな茶碗がおいてあったのである。。。。。
 この母親は、まだ、ほんとうに冷たくならないうちに、葬られたのであろう。。。そして、
墓の中で、この赤ちゃんは、生まれた。。。。。
 そのために、母親は幽霊となって、毎晩、水飴を、買いにやって来て、赤ちゃんに、なめさせていたのである。。。。。。
――母の愛は。。。死よりも強いのである。

【蜘蛛の糸】。。。。。。。。。
。。。。。芥川龍之介。。。。。。。。
  ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りで。。。ぶらぶらと、御歩きになって、いらっしゃいました。
  池の中に咲いている、蓮の花は、みんな、たまのように、まっ白で、そのまん中にある、金色の花びらからは、なんとも云えない、良いにおいが、絶間なくあたりへ、みちあふれて居ります。極楽は、丁度、朝なのでございましょう。。。。。

【蜘蛛の糸】。。。。。。。。。
。。。。。芥川龍之介。。。。。。。。
  ある日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りで。。。ぶらぶらと、御歩きになって、いらっしゃいました。
  池の中に咲いている、蓮の花は、みんな、たまのように、まっ白で、そのまん中にある、金色の花びらからは、なんとも云えない、良いにおいが、絶間なくあたりへ、みちあふれて居ります。極楽は、丁度、朝なのでございましょう。。。。。 
 やがて、御釈迦様は、その池のふちに、たたずみになられて、
  水のおもてを、おおっている、蓮の、はっぱの、あいだから、
  ふと下の様子を、御覧になりました。 この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に、当って居りますから、
  水晶のような、水をすきとおうして、さんずぅの河や、針の山の景色が、
  丁度、のぞき眼鏡を、見るように、はっきりと、見えるのでございます。
  するとその地獄の底に
 神田。。。と云う男が一人、ほかの、ざいにんと、いっしょに、うごめいている姿が、お目に止まりました。。。。。。
  この、神田、とゆう男は、人を殺したり家に火をつけたり、いろいろ悪事を働いた、、、おおぉ泥坊、でございますが、それでもたった一つ、善い事を、致した覚えがございます。。。。。
  と申しますのは、ある時、神田が、深い林の中を通りますと、
  小さな、蜘蛛が、一匹、道ばたをはって行くのが、見えました。。。。
そこで、 神田は、さっそく足を挙げて、
 
 
踏み殺そうと致しましたが、。。。。
  いやいや、
  これも小さいながら、命のあるものに違いない。
  その命を、むやみに、とるとゆう事は、いくら何でも、可哀そうだ。
  と、
  こう急に思い返して、とうとう、その蜘蛛を殺さずに、助けてやったのでございます。。。。。。
  御釈迦様は、地獄の様子を、御覧になりながら、
  この、神田には、蜘蛛を助けた事があるのを、思い出しになりました。。。。。
  そうして、それだけの善い事をしたむくいには、出来るなら、この、神田を、地獄から救い出してやろうと御考えになりました。。。。。
  幸い、
  そばを見ますと、ひすいのような、色をした、蓮の葉っぱの上に、
  極楽の蜘蛛が一匹、
  美しい、銀色の糸を、かけて居ります。 御釈迦様は、その蜘蛛の糸をそっとお手に、おとりになって、
  玉のような、
  蓮のあいだから、遥か下にある、地獄の底へ、
  まっすぐに、それをおろしなさいました。
 
 。。。。。。。。。
  こちらは地獄の底の血の池で、ほかの ざいにん と いっしょに、浮いたり沈んだりしていた、神田で、ございます。。。。。
 
  なにしろどちらを見ても、まっ暗で、たまに、その暗闇から、ぼんやりと、浮き上っているものがある、と思いますと、それはそれは、おそろおしい、針の山の、針が、光るのでございますから、その、こころぼそさ、と、いったらございません。。。。。
その上のあたりは墓の中のようにし~んと静まり返って、たまに、聞えるものといっては、ただ、ざいにん の、かすかなうめきごえばかりでございます。。。。。。
  これは、ここへ、落ちて来るほどの人間は、もう、さまざまな、地獄のせめくに、つかれぇはてて、なきごえを出す力さえなくなっているので、ございましょう。。。。。
  ですから、さすがの、おおぉ泥坊の神田も、やはり、血の池の血に、むせびながら、まるで、死にかかった、蛙のように、ただただ、もがいてばかり居りました。。。。。
  ところが。。。。
  ある時の事でございます。。。。。 なにげなく、神田が、頭を挙げて、血の池の空を、ながめますと、そのひっそりとした、暗闇の中を、とおうい遠い、てぇんの上から、銀色の、蜘蛛の糸が、まるで、人目にかかるのを、恐れるように、ひとすじ、ほそく、光りながら、するすると、自分の上へ、垂れて参るのではございませんか。。。。。。
  神田は、これを見ると、思わず手をうって、喜びました。この糸に、すがりついて、どこまでもどこまでも、のぼってゆけば、きっとお、地獄から。。。ぬけ出せるのに相違ございません。。。。。。
  いや。。。。
  うまく行くと。。。。
  極楽へはいる事さえも。。。。
  出来ましょう。。。。。
  そうすれば、もう針の山に、のぼらされる事もなくなれば、血の池にしずめこまられる事も、ある筈はございません。。。。。。
  こう思いましたから、神田は、早速、その蜘蛛の糸を、両手で、しっかりと、つかみながら、一生懸命に、上へ、上へと、たぐりのぼり始めました。元よりおおぉ泥坊の神田の事で、ございますから、こうゆう事には昔から、慣れ切っているのでございます。。。。。。
  しかし、地獄と、極楽との、あいだは、何万里となく、ございますから、いくらいくら、あせって見た所で、容易に、上へはあがられません。ややしばらく、のぼるうちに、とうとう、神田も、くたびれて、くたびれて、もうひとつも、たぐりたぐって、上のほうへは、のぼれなくなってしまいました。。。。。。
  そこで仕方がございませんから、まず、ひとやすみ、休むつもりで、糸のちゅうとで、ぶらさがりながら、遥かに、目の、下を、みおろしました。。。。。
  すると、一生懸命に、のぼった甲斐があって、さっきまで、自分がおった血の池は、今ではもう、暗闇の底に、いつのまにかに、かくれて消えています。それから、あのぼんやりと、光っている、おそろおしい、針の山も、足のしたに、なってしまいました。。。。。
  このぶんで、のぼってゆけば、地獄からぬけ出す事も、存外、わけがないかも知れません。。。。。
  神田は、両手を、蜘蛛の糸に、からめながら、ここへ来てから、いちども、出した事のない声で、
  しめたしめた。。。。。
  と笑いました。。。。。
  ところが、ふと、気がつきますと、蜘蛛の糸の下の方には、かずかぎりもない、
、ざいにん たちが、自分の、のぼった糸から、まるで、蟻の行列のように、やはり、上へ上へと、一心によじのぼって来る。。。。ではございませんか。。。。。
  神田は、これを見ると、驚いたのと、おそろおしい、の、とで、しばらくはただただ、ばかのように、大きな口を、あけたまま、目、ばかりを動かして居りました。。。。。。
  自分ひとりでさえ、切れそうな、この細い蜘蛛の糸が、どうして、あれだけのにんずうの重みに、堪えうる事が出来ましょう。。。。。。
  もしも、万一、途中で、切れたとしたら、ここへまで、のぼって来た、この自分までもが、元の地獄へ、真っ逆さまに、落ちてしまわなければなりません。そんな事があったら、大変でございます。。。。。。
  しかし。。。。。
  そうゆううちにも、ざいにん たちは、何百となく、何千となく、真っ暗な、血の池の底から、うようよと、はいあがって、ほそく光っている、蜘蛛の糸を、一列になりながら、せっせと、のぼって参ります。。。。。。。
 
 今のうちに、どうにかしなければ、糸は、まん中から二つに切れて、落ちてしまうのに違いありません。。。。。
  そこでは大きな声を出して、
  こら!
  ざいにん どもお。。。。。。
  この蜘蛛の糸は、
  おれのものだぞ!
  お前たちはいったい。。。
  誰にきいてのぼってきた!
  下りろ! 下りろ!。。。。
  と、
  わめきました。。。。。
  その途端でございます。。。。。。 今まで、何ともなかった、蜘蛛の糸が、急に、神田の、ぶらさがっている所から、ぷつりと、音を立てて、きれました。。。。。。。。
  ですから、神田も、たまりません。。。。。。
  あっとゆうまに、風を切って、まるで、こまのように、くるくると、まわりながら、見る見るうちに、
  くらやみの底へ、真っ逆さまに、落ちてしまいました。。。。。。
  あとには、ただ、極楽の蜘蛛の糸が、きらきらと、細く光りながら、月も、星もない空の、まんなかに、短く、垂れている、ばかりでございます。。。。。。
 
 
  御釈迦様は極楽の蓮池のふちに立って、この一部始終を、じっと、見ていらっしゃいましたが、やがて、神田が血の池の底へ石のように沈んでしまいますと、悲しそうな顔をなさりながら、また、ぶらぶらと 歩き始めました。自分ばかり地獄からぬけ出そうとする、神田の無慈悲な心が、そうしてその心に、相当なバツをうけて、元の地獄へ落ちてしまったのが、御釈迦様の目から見ると、あさましく思召されたのでございましょう。
  しかし極楽の蓮池の蓮は、少しもそんな事には頓着致しません。その玉のような白い花は、御釈迦様の おみあしの まわりに、ゆらゆらと動いて、そのまん中にある 金色の花びら からは、何とも云えないよい香りが、たえまなくあたりへ あふれて居ります。極楽ももう昼に近くなったのでございましょう。
 
(大正七年四月十六日)

犬と笛。。。。。
芥川龍之介。。。。
     いく子さんに献ず。。。。
        第一章。。。。
  昔、やまとの国、かつらぎやまの麓に、かみながひこ、という若い、きこりが、住んでいました。。。。これは顔かたちが女のようにやさしくって、そのうえ髪までも、女のように長かったものですから、こういう名前をつけられていたのです。
  かみながひこは、たいそう、笛が上手でしたから、山へ木を、きりに行く時でも、仕事のあいまには、腰にさしている笛を出して、ひとりでそのねを、楽しんでいました。。。。すると、また不思議なことには、どんな、とり、けものや、くさきでも、笛の面白さはわかるのでしょう。かみながひこがそれを吹き出すと、草はなびき、木はそよぎ、鳥や獣はまわりへ来て、じぃっと、しまいまで、聞いていました。。。。
  ところが、ある日のこと、かみながひこはいつもの通り、とある大木のきりかぶに、腰を卸しながら、余念もなく笛を吹いていますと、たちまち自分の目の前へ、青いまがたまを、沢山ぶらさげた、足の一本しかない大男が現れて。。。。
 お前は仲々笛がうまいな。俺はずっと昔から山奥のほらあなで、かみよの夢ばかり見ていたが、お前が木をきりに、きはじめてからは、その笛の音に誘われて、毎日面白い思いをしていた。。。。そこで今日は、そのお礼に、ここまでわざわざ来たのだから。。。
。。何でも好きなものを望むがよいい。。。。
と、言いました。。。。
  そこで、かみながひこは、しばらく考えていましたが。。。
 。。わたくしは犬が好きですから、どうか犬を一匹下さい。。。。
と答えました。
  すると、大男は笑いながら。。。
 。。たかが犬を一匹くれなどとは、お前も、よっぽど、欲のない男だ。。。しかし、その欲のないのも感心だから、ほかには、またとないような不思議な犬をくれてやろう。こう言う俺は、かつらぎやまの、あしひとつの神だ。。。。
と言って、一声高く口笛を鳴らしますと、森の奥から一匹の白い犬が、落ち葉を蹴り立てて、かけて来ました。
  足一つの神はその犬を指して。。。
 。。。この犬は名前を、カゲと言って、どんな遠い所の事でもかぎ出して来る利口な犬だ。では、一生、俺の代りに、大事に飼ってやってくれ。。。。
と言うかと思うと、その姿は霧のように消えて、見えなくなってしまいました。。。。
  かみながひこは大喜びで、この白い犬といっしょに里へ帰って来ましたが、あくる日また、山へ行って、なにげなく笛を鳴らしていると、今度は黒いまがたまを首へかけた、手の、いっぽんしかない大男が、どこからか形を現して。。。
 。。きのう俺の兄貴の足ひとつの神が、お前に犬をやったそうだから、俺も今日は礼をしようと思ってやって来た。何か欲しいものがあるのなら、遠慮なく言うが好い。。。俺はかつらぎやまの、手のひとつの神だ。。。。
と言いました。。。。
  そうして、かみながひこが、また。。。
。。カゲにも負けないような犬が欲しい。。。
と答えますと、大男はすぐに口笛を吹いて、一匹の黒い犬を呼び出しながら。。。
 。。この犬の名前はトベと言って、誰でも背中へ乗ってさえすれば、百里でも千里でも、空を飛んで行くことが、出来る。あしたは、また俺の弟が、何かお前に礼をするだろう。」。。。
 と言って、前のようにどこかへ消え失せてしまいました。
  するとあくる日は、まだ、笛を吹くか吹かないのに、赤いまがたまを飾りにした、目の一つしかない大男が、風のように空から舞いくだって。。。
 「俺は、かつらぎやまの目ひとつの神だ、兄貴たちが、お前に礼をしたそうだから、俺もカゲやトベに劣らないような、立派な犬をくれてやろう。。。。
と言ったと思うと、もう口笛の声が森中にひびき渡って、一匹のぶちいぬが、きばをむき出しながら、駈けてきました。。。。
。。これはカメという犬だ。この犬を相手にしたが最後、どんな、おそろおしい、おにがみでも、きっと、ひとかみに噛み殺されてしまう。ただ、俺たちのやった犬は、どんな遠いところにいても、お前が笛を吹きさえすれば、きっとそこへ帰って来るが、笛がなければ来ないから、それを忘れずにいるが好い。。。。
  そう言いながら目ひとつの神は、また森の木の葉をふるわせて、風のように舞いあがってしまいました。

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