新聞2017介護殺人子供腎臓
【<特養>待機者が急減 「軽度」除外策、介護難民増加か】
(毎日、6.30.21:39)
52万人が入所待ちしていた「特別養護老人ホーム」の待機者が、各地で大幅に減ったことがわかった。埼玉県で4割、北九州市で3割、東京都で2割弱など毎日新聞が取材した10自治体ですべて減っていた。軽度の要介護者の入所制限や利用者負担の引き上げなど、政府の介護費抑制策が原因とみられる。一方、要介護度が低くても徘徊(はいかい)がある人らが宙に浮いており、施設関係者らは「介護難民」が増えたと指摘している。
特養ホームは建設時に公的支援があるため公共性が強く、低所得者や家族のいない人を優先的に受け入れている。希望者が多く、入所まで数年待つことも珍しくない。
だが特養ホームで作る東京都高齢者福祉施設協議会が今年1~2月、457施設に調査したところ(242施設回答、回収率53%)、2013年と15年で1施設あたりの平均待機者数は17・7%減っていた。
都の待機者減が明らかになるのは初めて。待機者数を調べている自治体に毎日新聞が聞き取ると、13~16年ごろにかけて埼玉県42%▽北九州市30%▽神戸市27%▽横浜市16%▽岡山市13%▽兵庫県姫路市11%▽高松市11%▽広島市9%▽長崎県5%--と軒並み減っていた。
協議会は原因に▽要介護1、2の人が昨年4月から原則、入所できなくなった▽有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅が激増した▽特養の自己負担額が高くなった--をあげる。西岡修会長は「要介護度が低くても世話の大変な人の行き場がなくなった」という。中部地方の女性(60)の母(84)は認知症だが要介護2で、特養に入れる見込みはない。一切家事ができず1人にはしておけない母を「どこに入れるというのか」と悩む。
厚生労働省高齢者支援課は「要介護3以上に(入所を)『重点化』したのは限られた資源を真に必要な人に使ってもらうためだ」と説明した。
【要介護者、奪い合い 施設空き出始め】
(毎日、21:41)
数年間の入所待ちが当たり前だった特別養護老人ホームの待機者が大幅に減り始めた。軽度の要介護者を門前払いにし、民間の施設や自宅での介護に回す国の政策が形になり始めた格好だ。一方で要介護度が低くても世話の大変な認知症の人が特養を利用できず、公費を投じた特養の一部に空きが出る矛盾も出ている。
よそより一刻も早く−−。特養の多い地域では要介護者の争奪戦が始まった。
「“営業”しないと入所者数を維持できない」。東京都青梅市の特養「和楽ホーム」の宮沢良浩施設長は打ち明けた。ホームは都心から1時間の山あいにある。かつては都心から希望者が来たが今、待機者は最盛期の300人から100人弱に。このため5人の相談員が毎月、在宅介護の関連施設を回り入所を働きかけている。
資金も十分で入所要件を満たすのは、100人中3人しかいない。「今は結構です」。入所を告げても断られることが増えた。空きを待つうちに他施設に移る人も少なくない。青梅市は地価が安いため特養が約23カ所も建ち、競争は厳しい。
待機者が減るとスムーズに入所が進まず、施設に空きが出る。東京都高齢者福祉施設協議会の調査では、回答の4割にあたる95の特養が「稼働率が下がった」と述べた。昨年4〜10月の平均稼働率は94・9%で、都内で2200人分のベッドが空いていた計算になる。
埼玉県では空きのある特養が3カ所ある。どれも新設で、人手不足もあり満床にするのに1年以上かかるという。ある施設長は「要介護度の低い人や低所得者のニーズに応えられていない」と指摘する。
北関東に住む60代の夫婦はともに認知症だ。夫は要介護2で老人保健施設に入ったが、いつまでいられるかわからない。支援する社会福祉士は「本当は特養に入れたいが漂流するしかない」と悲観的だ。
待機者減の背景には介護保険の利用者負担増もあるとみられる。国は一部のサービス利用料を1割から2割負担とし、特養の入居費や食費の軽減措置も削られた。「認知症の人と家族の会」の田部井康夫副代表は「部屋代や食費が上がり月4万〜5万円負担が増えた人もいる」と打ち明けた。
他の民間施設の激増もある。急成長したのは、国が法改正で11年に政策誘導して作ったサービス付き高齢者住宅(サ高住)だ。税制優遇と補助金で今春、20万戸以上に達した。
金がなくなれば出て行かざるを得ないし認知症になるといられないことが多い」。サ高住について、老人ホーム入居相談大手の担当者はそう話す。要介護度の高い人を受け入れる施設もあるが、サ高住は「終(つい)の住み家」になりにくい。
待機者減の一方で、行き場のない高齢者が増える恐れもある。来年度までに515人分の特養を増設する予定の北九州介護保険課は「業者の参入意欲も弱く計画が未達成になる可能性もある。待機者減が続くなら、整備を控えることもありうる」と話した。
【”介護殺人”当事者たちの告白・NHKスペシャル】
(取材・文=NHKスペシャル “介護殺人”取材班/編集=Yahoo!ニュース編集部7,1.12:10)
NHKスペシャル「“介護殺人”当事者たちの告白」は7月3日(日)午後9時~放送予定(NHK総合)
いま、日本では2週間に一度、「介護殺人」が起きている。配偶者を手にかけてしまう「老老介護」のケースに加え、介護を担っていた娘や息子が親を殺害する事件もある。こうした「介護殺人」は、しばしばニュースで報じられる一方で、正確な統計はなく、全体を把握することは難しかった。NHKは2010年以降の6年間の事件を調査。半年間で11人の当事者に直接話を聞いた。なぜ一線を越えてしまったのか。悲劇を防ぐことはできないのか。当事者の告白から見えてくるものとは。
「何で首を絞めたのかはわからん」
「我に返った時にはタオル持って、(この人)動けへんなって。警察や検事さんからも、何度も聞かれたけど、何で首を絞めたのかはわからん。でもこんな生活耐えられへん思って、やったと思う。あんな地獄は絶対、嫌。ほんまに経験者でないとわからへんもん」
関西地方の閑静な住宅地にある一軒家。夫の遺影が飾られた居間に正座した70代の女性は、認知症の夫を手にかけた時のことを静かに語った。
自宅で夫を介護し続けて3年。ある日、玄関先から突然、夫の悲鳴が聞こえた。駆けつけると、夫は転んで床に倒れていた。打ち所が悪かったのか、足を押さえて「痛い、痛い」と叫んでいた。このままでは近所に迷惑がかかる。急いで部屋に運び込んだ。そして、普段、夫が寝つくようにと服用させていた睡眠薬を痛み止めの代わりに飲ませると、徐々におとなしくなり、やがて寝息を立て始めた。
「寝てるわ」
ほっとして寝顔を見ていた女性の記憶は、そこで途切れている。次に覚えているのは、横たわっている夫の前でタオルを握りしめていた自分。夫の首を絞めたタオルは、夫が立ち上がろうとする際にテーブルに手をついて踏ん張れるようにと常に用意していた、ぬれタオルだった。
「この人こんなかわいそうなん、生きててもええこともないし。昔、元気な人やったから、こんな弱っている姿、情けのうて。本人もつらかったと思うもん。この人もう、ここまで生きたんやから、もうええやろ思った。私、ほんまに余裕がなかった」
「加害者」を訪ねて
「介護殺人」の取材が始まったのは2015年の秋だった。全国にあるNHKの地方放送局の警察担当記者が取材に加わり、2010年以降の6年間に家族の間で起きた殺人や傷害致死、心中などの事件の情報を収集。当時の取材資料や裁判記録を調べ、弁護士への取材や現場周辺での聞き込みを行った。また、可能な場合は刑務所での面会も試みている。
取材の結果「介護が関係していた」と確認できた事件は138件だった。約2週間に一度、悲劇が繰り返されていることになる。ひとつひとつ住所を訪ねて歩くと、ほとんどは空き家か更地になっていた。近所の人にたずねても、所在はわからない。少ないながらも服役後、事件当時の住所にそのまま住んでいるケースや、連絡先が判明するケースはあった。居場所が判明しても取材を断られることもある。取材は難航したが、最終的に半年間で11人の当事者に話を聞くことができた。
冒頭の女性は服役後、介護生活の末に夫の命を奪った家で暮らし続けていた。今年4月、女性の家を訪ね、匿名を条件に話を聞いた。
夫と結婚したのは40年以上前。男女2人の子宝に恵まれた。自営で、建築関係の仕事をしていた夫は、家事は妻に任せるタイプの「昭和の男」だったが、子煩悩でキャンプや旅行によく家族を連れていった。女性も育児のかたわら夫の仕事を手伝い、職場でも家庭でも夫を支えてきた。
「あの人、気は短かったけど、子どもにはすっごい優しかった。バブルの時代は収入もよかったし、私も仕事を手伝っていたから、生活に余裕があって、一番楽しかったね」
バブルの崩壊後は生活が急激に苦しくなった。それでも、夫は家族を養おうと懸命に働き続け、長男と長女は無事に成人。待望の孫も生まれた。夫は孫を可愛がり、家には笑いが絶えなかったという。部屋の柱には、孫の背丈を測ったペンの跡がいくつも残っていた。
息子や娘に迷惑はかけられない
そんな平穏な生活は、夫が脳梗塞で体が不自由になり自宅での介護が始まってから一変した。多い日は1日に20回近くもトイレに付き添い、排せつも手伝った。1度に眠れるのは2時間ほど。ズボンをはかせようとして手間取ると叱られ、手を上げられることもあった。
事件の半年ほど前には、夫が認知症を発症。会話もほとんど成り立たなくなった。夫は溺愛していた孫にテレビのリモコンを投げつけ、昼夜を問わずわめき出すようになった。
「完全に眠れへん。夜中でも、ものすごいわめくし、訳のわからんこと言うんよ。24時間テレビもつけっぱなしで、じーっと画面を見ているだけ。大好きだった野球を観ていても反応しない。もう目が死んでた。頭の中がもうパニックになってきて。ほんま死ぬことばかり考えていた。でも、自分が死んだら、息子や娘に迷惑がかかるから、それはできん」
家庭や仕事がある子どもたちに頼ることはできなかった。介護施設に入居させられないかと自治体にも相談したが、特別養護老人ホームに空きは見つからなかった。民間の有料老人ホームも探したが、入居費用は月15万円。夫婦の年金を大幅に上回っていた。
唯一、介護から離れられたのは、夫がデイサービスに通っている時間だけだった。週3回、午前10時から午後4時までの6時間。その間に買い物や家事を済ませると、一人で近所の公園に出かけ、ベンチに座り続けていたという。
「家におったら、もう気が狂いそうになるから。いつまで介護をやるのかと、頭の中でぐるぐるぐるぐる回って。これからどないしていこう、どないしたらいいんかなと。携帯電話を持ってずーっと眺めてて…。また、あんなつらい思いせなならん思ったら、あの地獄がやってくる思うたら、もうほんまに家に帰るの嫌や思いました。公園で、仲良く楽しそうに散歩しているお年寄り夫婦なんか見ると、元気でいいなって…。ほんまにうらやましかった」
夫の命を奪うことで先の見えない介護生活は終わった。仏壇の前には夫の遺骨が安置され、女性はこの日も手を合わせていた。
「後悔はしてない。やったことは悪い。でも、ああするよりほかなかった」
弟でなければ、自分が殺していたかもしれない
加害者となった家族を助けられなかった自分を、責め続ける人もいる。
今年2月中旬。土曜日の昼下がり、中部地方の県営住宅に住む60代の男性を訪ねた。弟が認知症の母親の首を電気コードで絞めて殺害した。男性は弟と一緒に母親を介護していた。弟は自首し、実刑判決を受けて服役中だ。
男性は工場で働きながら、父親の死後、20年ほど母親と二人で暮らしていた。事件の2年前、母親が認知症と診断された。症状は日ごとに悪化し、母親は夜通しふすまを激しく叩き、大声で叫ぶようになった。
「騒ぐと寝かしつけて、また起きて寝かしつけての繰り返し。頻尿がひどく、1時間に2,3回起きる。毎晩、ほとんど眠れませんでした」
男性の母親の場合、認知症でも歩行や食事は一人でできたため、要介護2だった。施設への入居も考えたが、民間の有料老人ホームは月に20万円以上かかると言われ、あきらめた。特別養護老人ホームは入居希望者であふれ、4、5年待ちだった。
週に4回、デイサービスに母親を預けてから出勤し、夜は介護に追われる生活。1年ほどたった頃、過労で倒れ、救急車で運ばれた。
体は限界だったが、生活のために仕事はやめられない。男性は、25年前に実家を出た弟を頼った。弟は当時、無職。中学生の時は学校でトップクラスの成績だったが、生真面目すぎるところがあり、人に合わせるということは苦手だったという。会社勤めは長く続かず、40代後半からは生活保護を受けていた。求職中だった弟は、男性の頼みを聞き、同居して母親の介護を分担することになった、
「母ではない化け物」
「全部きっちりやってくれました。掃除も洗濯も。料理は私がやりましたが、それ以外のことは全部任せていました」男性は振り返る。
しかし、認知症が進行した母親の姿は、弟にとって徐々に耐え難いものになっていった。
{「被告人が特に辛かったことは、母親が大便を付着させた衣類の手洗い洗濯と、汚物の処理です。被告人は、認知症の症状によるものということが理解できず、意思の疎通もままならない母親が、次第に『母ではない化け物』であると思い込むようになっていきました」(弁護側の弁論より)}
意味のわからない言葉を叫び続ける母親に、どう接していいかわからなかった弟。ある日、弟は暴れる母親を思わず叩いた。すると一時的におとなしくなったことから、母親が暴れるたび、殴りつけるようになっていった。
平日、男性が仕事に出た後に、弟は電気コードで首を絞めて母親を殺害した。介護を始めてから2カ月後のことだった。裁判の記録によれば、事件の少し前、弟は、母親が服やタオルに大量の大便を付けたままトイレから出てくるのを見た。その姿に、「一番辛いのは母親なのだ」と、殺害を決意したという。
服役中の弟から届いた手紙には、
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。私は絶対に許されないことをしてしまいました。今は毎日毎晩母のことを思いながら手を合わせています」と、几帳面な字で記されていた。
男性は今も、弟の帰りを待ち続けている。
「弟はいきなり最悪の状態の母に直面し、急激に追い込まれてしまった。判決では、2カ月ぐらいでは介護疲れにならないと言われましたが、精神的に追い詰められていけば起こりうることだと思います。私は限界を超えそうになっていました。だから、弟を呼ばなかったら、私が母親を殺していたかもしれません。一番悪いのは、弟を呼んだ私です」
いつ誰が介護者になるかわからない
支援も受けられず、孤立した状態で長年介護を続けた結果、事件に至る―。そんなケースが多いのではないかと、取材前は考えていた。だがその推測は取材を進めると覆された。介護を始めてからの期間が判明した77件のうち、半数以上が介護を始めて3年未満で事件に至っていた。また、当時の状況が判明した67件のうち、4分3のケースで何らかの介護サービスを利用していた。
介護を担う人が550万人を超え、今後も介護が必要な人は増え続ける。誰が、いつ、介護者になるかわからない。「加害者」たちの告白は、大介護時代の課題を浮き彫りにしている。
【「母親に、死んで欲しい・・・」介護者の葛藤】
((取材・文=NHKスペシャル“介護殺人”取材班/編集=Yahoo!ニュース編集部)、7.2.11:59)
「友人に電話で『母に死んでもらいたい』と泣きながら話をした」「死んでくれたら楽になると思い、枕を母の顔に押し付けたことがある」――。アンケート用紙には、家族の介護を担う人たちの切実な声が記されていた。NHKは2010年以降に家族の間で起きた殺人や傷害致死、心中などの事件を調べ、「介護が関係していた」事件が138件あったことがわかった。なぜ「介護殺人」は相次ぐのか。背景を探るため、いま介護を担う人たちの声を聞いた。
NHKは、NPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」の協力を得て、首都圏に住む家族を介護した経験のある615人を対象にアンケートを実施。388人から回答を得た。介護の期間や状況などのほか、「介護する相手を手にかけてしまいたい」「一緒に死にたい」という感情を抱いたことがあるか、という設問も設けた。回答を寄せたうちの一部の人には直接面会して話を聞いている。
30代で始まった両親の介護
(毎日、6.30.21:39)
52万人が入所待ちしていた「特別養護老人ホーム」の待機者が、各地で大幅に減ったことがわかった。埼玉県で4割、北九州市で3割、東京都で2割弱など毎日新聞が取材した10自治体ですべて減っていた。軽度の要介護者の入所制限や利用者負担の引き上げなど、政府の介護費抑制策が原因とみられる。一方、要介護度が低くても徘徊(はいかい)がある人らが宙に浮いており、施設関係者らは「介護難民」が増えたと指摘している。
特養ホームは建設時に公的支援があるため公共性が強く、低所得者や家族のいない人を優先的に受け入れている。希望者が多く、入所まで数年待つことも珍しくない。
だが特養ホームで作る東京都高齢者福祉施設協議会が今年1~2月、457施設に調査したところ(242施設回答、回収率53%)、2013年と15年で1施設あたりの平均待機者数は17・7%減っていた。
都の待機者減が明らかになるのは初めて。待機者数を調べている自治体に毎日新聞が聞き取ると、13~16年ごろにかけて埼玉県42%▽北九州市30%▽神戸市27%▽横浜市16%▽岡山市13%▽兵庫県姫路市11%▽高松市11%▽広島市9%▽長崎県5%--と軒並み減っていた。
協議会は原因に▽要介護1、2の人が昨年4月から原則、入所できなくなった▽有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅が激増した▽特養の自己負担額が高くなった--をあげる。西岡修会長は「要介護度が低くても世話の大変な人の行き場がなくなった」という。中部地方の女性(60)の母(84)は認知症だが要介護2で、特養に入れる見込みはない。一切家事ができず1人にはしておけない母を「どこに入れるというのか」と悩む。
厚生労働省高齢者支援課は「要介護3以上に(入所を)『重点化』したのは限られた資源を真に必要な人に使ってもらうためだ」と説明した。
【要介護者、奪い合い 施設空き出始め】
(毎日、21:41)
数年間の入所待ちが当たり前だった特別養護老人ホームの待機者が大幅に減り始めた。軽度の要介護者を門前払いにし、民間の施設や自宅での介護に回す国の政策が形になり始めた格好だ。一方で要介護度が低くても世話の大変な認知症の人が特養を利用できず、公費を投じた特養の一部に空きが出る矛盾も出ている。
よそより一刻も早く−−。特養の多い地域では要介護者の争奪戦が始まった。
「“営業”しないと入所者数を維持できない」。東京都青梅市の特養「和楽ホーム」の宮沢良浩施設長は打ち明けた。ホームは都心から1時間の山あいにある。かつては都心から希望者が来たが今、待機者は最盛期の300人から100人弱に。このため5人の相談員が毎月、在宅介護の関連施設を回り入所を働きかけている。
資金も十分で入所要件を満たすのは、100人中3人しかいない。「今は結構です」。入所を告げても断られることが増えた。空きを待つうちに他施設に移る人も少なくない。青梅市は地価が安いため特養が約23カ所も建ち、競争は厳しい。
待機者が減るとスムーズに入所が進まず、施設に空きが出る。東京都高齢者福祉施設協議会の調査では、回答の4割にあたる95の特養が「稼働率が下がった」と述べた。昨年4〜10月の平均稼働率は94・9%で、都内で2200人分のベッドが空いていた計算になる。
埼玉県では空きのある特養が3カ所ある。どれも新設で、人手不足もあり満床にするのに1年以上かかるという。ある施設長は「要介護度の低い人や低所得者のニーズに応えられていない」と指摘する。
北関東に住む60代の夫婦はともに認知症だ。夫は要介護2で老人保健施設に入ったが、いつまでいられるかわからない。支援する社会福祉士は「本当は特養に入れたいが漂流するしかない」と悲観的だ。
待機者減の背景には介護保険の利用者負担増もあるとみられる。国は一部のサービス利用料を1割から2割負担とし、特養の入居費や食費の軽減措置も削られた。「認知症の人と家族の会」の田部井康夫副代表は「部屋代や食費が上がり月4万〜5万円負担が増えた人もいる」と打ち明けた。
他の民間施設の激増もある。急成長したのは、国が法改正で11年に政策誘導して作ったサービス付き高齢者住宅(サ高住)だ。税制優遇と補助金で今春、20万戸以上に達した。
金がなくなれば出て行かざるを得ないし認知症になるといられないことが多い」。サ高住について、老人ホーム入居相談大手の担当者はそう話す。要介護度の高い人を受け入れる施設もあるが、サ高住は「終(つい)の住み家」になりにくい。
待機者減の一方で、行き場のない高齢者が増える恐れもある。来年度までに515人分の特養を増設する予定の北九州介護保険課は「業者の参入意欲も弱く計画が未達成になる可能性もある。待機者減が続くなら、整備を控えることもありうる」と話した。
【”介護殺人”当事者たちの告白・NHKスペシャル】
(取材・文=NHKスペシャル “介護殺人”取材班/編集=Yahoo!ニュース編集部7,1.12:10)
NHKスペシャル「“介護殺人”当事者たちの告白」は7月3日(日)午後9時~放送予定(NHK総合)
いま、日本では2週間に一度、「介護殺人」が起きている。配偶者を手にかけてしまう「老老介護」のケースに加え、介護を担っていた娘や息子が親を殺害する事件もある。こうした「介護殺人」は、しばしばニュースで報じられる一方で、正確な統計はなく、全体を把握することは難しかった。NHKは2010年以降の6年間の事件を調査。半年間で11人の当事者に直接話を聞いた。なぜ一線を越えてしまったのか。悲劇を防ぐことはできないのか。当事者の告白から見えてくるものとは。
「何で首を絞めたのかはわからん」
「我に返った時にはタオル持って、(この人)動けへんなって。警察や検事さんからも、何度も聞かれたけど、何で首を絞めたのかはわからん。でもこんな生活耐えられへん思って、やったと思う。あんな地獄は絶対、嫌。ほんまに経験者でないとわからへんもん」
関西地方の閑静な住宅地にある一軒家。夫の遺影が飾られた居間に正座した70代の女性は、認知症の夫を手にかけた時のことを静かに語った。
自宅で夫を介護し続けて3年。ある日、玄関先から突然、夫の悲鳴が聞こえた。駆けつけると、夫は転んで床に倒れていた。打ち所が悪かったのか、足を押さえて「痛い、痛い」と叫んでいた。このままでは近所に迷惑がかかる。急いで部屋に運び込んだ。そして、普段、夫が寝つくようにと服用させていた睡眠薬を痛み止めの代わりに飲ませると、徐々におとなしくなり、やがて寝息を立て始めた。
「寝てるわ」
ほっとして寝顔を見ていた女性の記憶は、そこで途切れている。次に覚えているのは、横たわっている夫の前でタオルを握りしめていた自分。夫の首を絞めたタオルは、夫が立ち上がろうとする際にテーブルに手をついて踏ん張れるようにと常に用意していた、ぬれタオルだった。
「この人こんなかわいそうなん、生きててもええこともないし。昔、元気な人やったから、こんな弱っている姿、情けのうて。本人もつらかったと思うもん。この人もう、ここまで生きたんやから、もうええやろ思った。私、ほんまに余裕がなかった」
「加害者」を訪ねて
「介護殺人」の取材が始まったのは2015年の秋だった。全国にあるNHKの地方放送局の警察担当記者が取材に加わり、2010年以降の6年間に家族の間で起きた殺人や傷害致死、心中などの事件の情報を収集。当時の取材資料や裁判記録を調べ、弁護士への取材や現場周辺での聞き込みを行った。また、可能な場合は刑務所での面会も試みている。
取材の結果「介護が関係していた」と確認できた事件は138件だった。約2週間に一度、悲劇が繰り返されていることになる。ひとつひとつ住所を訪ねて歩くと、ほとんどは空き家か更地になっていた。近所の人にたずねても、所在はわからない。少ないながらも服役後、事件当時の住所にそのまま住んでいるケースや、連絡先が判明するケースはあった。居場所が判明しても取材を断られることもある。取材は難航したが、最終的に半年間で11人の当事者に話を聞くことができた。
冒頭の女性は服役後、介護生活の末に夫の命を奪った家で暮らし続けていた。今年4月、女性の家を訪ね、匿名を条件に話を聞いた。
夫と結婚したのは40年以上前。男女2人の子宝に恵まれた。自営で、建築関係の仕事をしていた夫は、家事は妻に任せるタイプの「昭和の男」だったが、子煩悩でキャンプや旅行によく家族を連れていった。女性も育児のかたわら夫の仕事を手伝い、職場でも家庭でも夫を支えてきた。
「あの人、気は短かったけど、子どもにはすっごい優しかった。バブルの時代は収入もよかったし、私も仕事を手伝っていたから、生活に余裕があって、一番楽しかったね」
バブルの崩壊後は生活が急激に苦しくなった。それでも、夫は家族を養おうと懸命に働き続け、長男と長女は無事に成人。待望の孫も生まれた。夫は孫を可愛がり、家には笑いが絶えなかったという。部屋の柱には、孫の背丈を測ったペンの跡がいくつも残っていた。
息子や娘に迷惑はかけられない
そんな平穏な生活は、夫が脳梗塞で体が不自由になり自宅での介護が始まってから一変した。多い日は1日に20回近くもトイレに付き添い、排せつも手伝った。1度に眠れるのは2時間ほど。ズボンをはかせようとして手間取ると叱られ、手を上げられることもあった。
事件の半年ほど前には、夫が認知症を発症。会話もほとんど成り立たなくなった。夫は溺愛していた孫にテレビのリモコンを投げつけ、昼夜を問わずわめき出すようになった。
「完全に眠れへん。夜中でも、ものすごいわめくし、訳のわからんこと言うんよ。24時間テレビもつけっぱなしで、じーっと画面を見ているだけ。大好きだった野球を観ていても反応しない。もう目が死んでた。頭の中がもうパニックになってきて。ほんま死ぬことばかり考えていた。でも、自分が死んだら、息子や娘に迷惑がかかるから、それはできん」
家庭や仕事がある子どもたちに頼ることはできなかった。介護施設に入居させられないかと自治体にも相談したが、特別養護老人ホームに空きは見つからなかった。民間の有料老人ホームも探したが、入居費用は月15万円。夫婦の年金を大幅に上回っていた。
唯一、介護から離れられたのは、夫がデイサービスに通っている時間だけだった。週3回、午前10時から午後4時までの6時間。その間に買い物や家事を済ませると、一人で近所の公園に出かけ、ベンチに座り続けていたという。
「家におったら、もう気が狂いそうになるから。いつまで介護をやるのかと、頭の中でぐるぐるぐるぐる回って。これからどないしていこう、どないしたらいいんかなと。携帯電話を持ってずーっと眺めてて…。また、あんなつらい思いせなならん思ったら、あの地獄がやってくる思うたら、もうほんまに家に帰るの嫌や思いました。公園で、仲良く楽しそうに散歩しているお年寄り夫婦なんか見ると、元気でいいなって…。ほんまにうらやましかった」
夫の命を奪うことで先の見えない介護生活は終わった。仏壇の前には夫の遺骨が安置され、女性はこの日も手を合わせていた。
「後悔はしてない。やったことは悪い。でも、ああするよりほかなかった」
弟でなければ、自分が殺していたかもしれない
加害者となった家族を助けられなかった自分を、責め続ける人もいる。
今年2月中旬。土曜日の昼下がり、中部地方の県営住宅に住む60代の男性を訪ねた。弟が認知症の母親の首を電気コードで絞めて殺害した。男性は弟と一緒に母親を介護していた。弟は自首し、実刑判決を受けて服役中だ。
男性は工場で働きながら、父親の死後、20年ほど母親と二人で暮らしていた。事件の2年前、母親が認知症と診断された。症状は日ごとに悪化し、母親は夜通しふすまを激しく叩き、大声で叫ぶようになった。
「騒ぐと寝かしつけて、また起きて寝かしつけての繰り返し。頻尿がひどく、1時間に2,3回起きる。毎晩、ほとんど眠れませんでした」
男性の母親の場合、認知症でも歩行や食事は一人でできたため、要介護2だった。施設への入居も考えたが、民間の有料老人ホームは月に20万円以上かかると言われ、あきらめた。特別養護老人ホームは入居希望者であふれ、4、5年待ちだった。
週に4回、デイサービスに母親を預けてから出勤し、夜は介護に追われる生活。1年ほどたった頃、過労で倒れ、救急車で運ばれた。
体は限界だったが、生活のために仕事はやめられない。男性は、25年前に実家を出た弟を頼った。弟は当時、無職。中学生の時は学校でトップクラスの成績だったが、生真面目すぎるところがあり、人に合わせるということは苦手だったという。会社勤めは長く続かず、40代後半からは生活保護を受けていた。求職中だった弟は、男性の頼みを聞き、同居して母親の介護を分担することになった、
「母ではない化け物」
「全部きっちりやってくれました。掃除も洗濯も。料理は私がやりましたが、それ以外のことは全部任せていました」男性は振り返る。
しかし、認知症が進行した母親の姿は、弟にとって徐々に耐え難いものになっていった。
{「被告人が特に辛かったことは、母親が大便を付着させた衣類の手洗い洗濯と、汚物の処理です。被告人は、認知症の症状によるものということが理解できず、意思の疎通もままならない母親が、次第に『母ではない化け物』であると思い込むようになっていきました」(弁護側の弁論より)}
意味のわからない言葉を叫び続ける母親に、どう接していいかわからなかった弟。ある日、弟は暴れる母親を思わず叩いた。すると一時的におとなしくなったことから、母親が暴れるたび、殴りつけるようになっていった。
平日、男性が仕事に出た後に、弟は電気コードで首を絞めて母親を殺害した。介護を始めてから2カ月後のことだった。裁判の記録によれば、事件の少し前、弟は、母親が服やタオルに大量の大便を付けたままトイレから出てくるのを見た。その姿に、「一番辛いのは母親なのだ」と、殺害を決意したという。
服役中の弟から届いた手紙には、
「ごめんなさい。本当にごめんなさい。私は絶対に許されないことをしてしまいました。今は毎日毎晩母のことを思いながら手を合わせています」と、几帳面な字で記されていた。
男性は今も、弟の帰りを待ち続けている。
「弟はいきなり最悪の状態の母に直面し、急激に追い込まれてしまった。判決では、2カ月ぐらいでは介護疲れにならないと言われましたが、精神的に追い詰められていけば起こりうることだと思います。私は限界を超えそうになっていました。だから、弟を呼ばなかったら、私が母親を殺していたかもしれません。一番悪いのは、弟を呼んだ私です」
いつ誰が介護者になるかわからない
支援も受けられず、孤立した状態で長年介護を続けた結果、事件に至る―。そんなケースが多いのではないかと、取材前は考えていた。だがその推測は取材を進めると覆された。介護を始めてからの期間が判明した77件のうち、半数以上が介護を始めて3年未満で事件に至っていた。また、当時の状況が判明した67件のうち、4分3のケースで何らかの介護サービスを利用していた。
介護を担う人が550万人を超え、今後も介護が必要な人は増え続ける。誰が、いつ、介護者になるかわからない。「加害者」たちの告白は、大介護時代の課題を浮き彫りにしている。
【「母親に、死んで欲しい・・・」介護者の葛藤】
((取材・文=NHKスペシャル“介護殺人”取材班/編集=Yahoo!ニュース編集部)、7.2.11:59)
「友人に電話で『母に死んでもらいたい』と泣きながら話をした」「死んでくれたら楽になると思い、枕を母の顔に押し付けたことがある」――。アンケート用紙には、家族の介護を担う人たちの切実な声が記されていた。NHKは2010年以降に家族の間で起きた殺人や傷害致死、心中などの事件を調べ、「介護が関係していた」事件が138件あったことがわかった。なぜ「介護殺人」は相次ぐのか。背景を探るため、いま介護を担う人たちの声を聞いた。
NHKは、NPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」の協力を得て、首都圏に住む家族を介護した経験のある615人を対象にアンケートを実施。388人から回答を得た。介護の期間や状況などのほか、「介護する相手を手にかけてしまいたい」「一緒に死にたい」という感情を抱いたことがあるか、という設問も設けた。回答を寄せたうちの一部の人には直接面会して話を聞いている。
30代で始まった両親の介護
「母親は認知症になってから問題行動が出るようになりました。不潔になる、ものを取ってきてしまう、暴言を吐く、約束を守らない・・・。一般的には、寝たきりとか、歩行が難しい人の身体的な介護をイメージするかもしれませんが、僕の介護は、母親の引き起こしたトラブルの後始末がほとんどです」
埼玉県の39歳男性はため息をつく。77歳の母親は認知症になってから、トイレを流さなくなった。用を足し続け、何回分かをまとめて流そうとして、詰まってしまうのだ。
「トイレを一式全て交換しなくてはならない。20万かかるんです」
男性は埼玉県内の進学校を卒業し、都内の国立大学に進学。卒業後は、大手生命保険会社に就職し、親と同居しながら通勤していた。
8年前、父親が胃がんで手術。その後、物忘れの症状がみられるようになった。母親も腰を痛めて歩行に障害が出るように。市役所の相談窓口で介護認定を受けるよう勧められ、父親はアルツハイマー型認知症と診断されて要介護1の認定を受けた。
さらに2年前には、母親も認知症と診断された。その後、父親は食道がん、母親は糖尿病、高血圧などで入退院を繰り返す。両親は何度も倒れて救急車で運ばれ、男性はその度に会社を休んで付き添った。姉がいるが、結婚後は実家に寄り付かず、介護を手伝ってはくれなかった。男性は30代半ばで、残業も土日出社もできなくなった。
「本当に介護なのか?」会社の無理解
会社の介護への無理解に男性は苦しめられたという。上司には「本当に介護なのか?」と繰り返し言われた。「お前は介護と言えば何でも休めると思っているのか」などと叱責されることもあった。
そんな状況の中で、両親の高額な医療費がのしかかる。4年前、母親が脱水と感染症で入院した時には、病院から個室に入る必要があると言われ、10日間ごとに10万円を請求された。
「病院に行くと、枕元に請求書が置いてあるんです。1カ月で30万です。自分の稼いだお金が、あっという間に消えていく。初めはなんとかやりくりしようとしましたが、あまりにお金がかかるので、そのうち、いくら節約しても無駄なんだと思うようになりました」
あまりのつらさに会社に行けなくなり、その年の夏、退職した。
一線を越えてもおかしくなかった
男性は、両親を手にかけたいと思ったことがあるという。
父親の認知症が重かった4年前。「今日は何日」「今、何時だ」と何度も何度も尋ねられた。何度答えても繰り返す父親にかっとなり、「さっきも答えただろう。いい加減にしてくれよ」と突き放すと、「何だお前は」と頭を殴られ、 一階の居間から二階のベランダまでしつこく追い回された。
理解不能の行動を取る父親の存在は恐怖となっていた。男性は、父親から身を守ろうと、枕元にナイフを置いて寝ていたという。
「父親を殺すか、自殺するか、どちらかしかないと思っていました」
父親は2年前に他界。ぎりぎりのところで踏みとどまったが、今度は母親の行動に悩まされるようになった。自宅に近所のスーパーの名前が書かれたトイレットペーパーが転がっていたとき。店から無断で持ち出したと考えた男性が、母を問いただすと罵声を浴びせられた。そんな言い争いが度々起きた。
「人生台無しにされたんだからさ。殺したいよ、死んでほしい」。口論の中で、男性が怒鳴ると、激昂した母親が睡眠薬を取り出した。
「これを飲んで死ねばいいんだろう!」
男性は冷静になり「死んで欲しいというのはうそだ、飲まないでくれ」と説得したが、母親は「お前はそう言ったじゃないか」と繰り返した。死まで、紙一重だと感じた。
一線を越えなかった理由は何かと尋ねると、男性はこうつぶやいた。
「でも自分は、犯罪者になりたくないですもん。自分が大事だから。それだけです」
介護の後も先が見えない
介護のために仕事ができず、先行きが見えない状況に苦しむ人たちは他にもいる。
「先の見えない状況に絶望し、親子心中を考えるようになった」と 東京都の51歳男性はアンケートに記入した。母親が認知症になり、営業の仕事を辞めて介護に専念。母親は銀行で引き出した生活費を全て失くす。同じ話を延々と繰り返す。真夏に暖房をつけて熱中症で倒れる寸前になるなど、信じられない出来事が続く日々。男性は、いらだちが募り、毎日が地獄のようだったという。
デイサービスを利用してはいるが、費用の面から、通えるのは週に3日だけ。徘徊のおそれがあり、ガスの元栓など火の始末の不安があるため、目が離せない。とても、仕事ができる状況ではないという。母親の介護が終わったとしても、その先をどう生きるのか―。将来を考える時、不安、という言葉では言い尽くせない、鬱々
とした感情に支配されてしまう。男性は、「介護殺人」を他人事とは思えないという。
「最悪の状態のとき、さらに悪い条件がもう1つ2つ重なっていたら、自分も母も、今はここにいなかったかもしれません。これから先も、どうなるかわかりませんけどね」
「親が死んだら出来るだけ早く死にたい」
埼玉県の39歳男性はため息をつく。77歳の母親は認知症になってから、トイレを流さなくなった。用を足し続け、何回分かをまとめて流そうとして、詰まってしまうのだ。
「トイレを一式全て交換しなくてはならない。20万かかるんです」
男性は埼玉県内の進学校を卒業し、都内の国立大学に進学。卒業後は、大手生命保険会社に就職し、親と同居しながら通勤していた。
8年前、父親が胃がんで手術。その後、物忘れの症状がみられるようになった。母親も腰を痛めて歩行に障害が出るように。市役所の相談窓口で介護認定を受けるよう勧められ、父親はアルツハイマー型認知症と診断されて要介護1の認定を受けた。
さらに2年前には、母親も認知症と診断された。その後、父親は食道がん、母親は糖尿病、高血圧などで入退院を繰り返す。両親は何度も倒れて救急車で運ばれ、男性はその度に会社を休んで付き添った。姉がいるが、結婚後は実家に寄り付かず、介護を手伝ってはくれなかった。男性は30代半ばで、残業も土日出社もできなくなった。
「本当に介護なのか?」会社の無理解
会社の介護への無理解に男性は苦しめられたという。上司には「本当に介護なのか?」と繰り返し言われた。「お前は介護と言えば何でも休めると思っているのか」などと叱責されることもあった。
そんな状況の中で、両親の高額な医療費がのしかかる。4年前、母親が脱水と感染症で入院した時には、病院から個室に入る必要があると言われ、10日間ごとに10万円を請求された。
「病院に行くと、枕元に請求書が置いてあるんです。1カ月で30万です。自分の稼いだお金が、あっという間に消えていく。初めはなんとかやりくりしようとしましたが、あまりにお金がかかるので、そのうち、いくら節約しても無駄なんだと思うようになりました」
あまりのつらさに会社に行けなくなり、その年の夏、退職した。
一線を越えてもおかしくなかった
男性は、両親を手にかけたいと思ったことがあるという。
父親の認知症が重かった4年前。「今日は何日」「今、何時だ」と何度も何度も尋ねられた。何度答えても繰り返す父親にかっとなり、「さっきも答えただろう。いい加減にしてくれよ」と突き放すと、「何だお前は」と頭を殴られ、 一階の居間から二階のベランダまでしつこく追い回された。
理解不能の行動を取る父親の存在は恐怖となっていた。男性は、父親から身を守ろうと、枕元にナイフを置いて寝ていたという。
「父親を殺すか、自殺するか、どちらかしかないと思っていました」
父親は2年前に他界。ぎりぎりのところで踏みとどまったが、今度は母親の行動に悩まされるようになった。自宅に近所のスーパーの名前が書かれたトイレットペーパーが転がっていたとき。店から無断で持ち出したと考えた男性が、母を問いただすと罵声を浴びせられた。そんな言い争いが度々起きた。
「人生台無しにされたんだからさ。殺したいよ、死んでほしい」。口論の中で、男性が怒鳴ると、激昂した母親が睡眠薬を取り出した。
「これを飲んで死ねばいいんだろう!」
男性は冷静になり「死んで欲しいというのはうそだ、飲まないでくれ」と説得したが、母親は「お前はそう言ったじゃないか」と繰り返した。死まで、紙一重だと感じた。
一線を越えなかった理由は何かと尋ねると、男性はこうつぶやいた。
「でも自分は、犯罪者になりたくないですもん。自分が大事だから。それだけです」
介護の後も先が見えない
介護のために仕事ができず、先行きが見えない状況に苦しむ人たちは他にもいる。
「先の見えない状況に絶望し、親子心中を考えるようになった」と 東京都の51歳男性はアンケートに記入した。母親が認知症になり、営業の仕事を辞めて介護に専念。母親は銀行で引き出した生活費を全て失くす。同じ話を延々と繰り返す。真夏に暖房をつけて熱中症で倒れる寸前になるなど、信じられない出来事が続く日々。男性は、いらだちが募り、毎日が地獄のようだったという。
デイサービスを利用してはいるが、費用の面から、通えるのは週に3日だけ。徘徊のおそれがあり、ガスの元栓など火の始末の不安があるため、目が離せない。とても、仕事ができる状況ではないという。母親の介護が終わったとしても、その先をどう生きるのか―。将来を考える時、不安、という言葉では言い尽くせない、鬱々
とした感情に支配されてしまう。男性は、「介護殺人」を他人事とは思えないという。
「最悪の状態のとき、さらに悪い条件がもう1つ2つ重なっていたら、自分も母も、今はここにいなかったかもしれません。これから先も、どうなるかわかりませんけどね」
「親が死んだら出来るだけ早く死にたい」
「母が死んだ今、今度は父(の介護)で仕事もろくにつけないし、将来も何もない、たぶん、親が死んだら自殺するしかないと思う」
こう記述したのは都内に住む46歳の女性だ。
中小企業で社長秘書などを勤めていたが、40歳のとき、70歳の母親が膠原病を発症。女性は会社を辞め、実家で介護することにした。母親は入退院を繰り返し、身体がほとんど動かず寝たきりとなった。
介護しながらでも出来るだけ働きたい。派遣会社に登録し、区役所の窓口に勤務した。働き始めてすぐ、母親が体調を崩して救急車で運ばれ、早退したことがあった。職場には、同じように親の介護をしている職員もいたが、彼らには休暇や早退が認められるなか、上司は派遣社員である女性に冷たかった。
「母親が具合が悪いからって、気もそぞろで仕事が出来ていない」「彼女はやる気がない」と派遣会社に苦情が寄せられ、結局、数カ月で契約を切られたという。
「介護のために仕事が出来ず、自分で稼げたお金は1年に100万円未満です。短い時間でも働きたいが、40代になると仕事もめったになく、いつ親が倒れてまた呼ばれるかわからないので、仕事を始める意欲も気力もなくなってしまいました。やりたいこともなく、将来に何の希望も持てていません」
将来への強い不安。ハンカチで涙をぬぐいながら女性は言った。
「介護している父親が死んだら、自分を看取る人もいないし、できるだけ早く死にたいです」
介護者を支える枠組みを
子どもが親を介護する場合、仕事を辞めざるを得なかったり、結婚の機会を逃したりと、人生設計が狂ってしまうことも少なくない。親の介護を担う人たちは、親への愛情と、自分の人生への不安や焦りの間で、気持ちが揺れ動いている。
アンケートの実施に協力したNPO法人、介護者サポートネットワークセンター・アラジンの牧野史子理事長は、「介護されるお年寄りの側を支える仕組みはあっても、介護する側の家族を支援する仕組みは不十分」だと指摘する。
行政の窓口も地域包括支援センターも、介護の手続きなどについての相談はできるが、介護者自身の気持ちや、悩みに寄り添うことはしてくれない。だからハードルが高くて行けないのだと、牧野理事長は話す。アラジンは、介護の初心者の方が気軽に相談に来られるカフェを開いているという。
「介護と両立可能な仕事の探し方を具体的に教えてくれたり、介護のストレスを聞いてくれたりする場所が必要です」
平成24年就業構造基本調査によれば、介護をしている人は全国で557万人にのぼる。不安と絶望を押し殺し、今日も家族の介護を続ける人がいる。彼らを置き去りにしないための、支援の枠組みが求められている。
こう記述したのは都内に住む46歳の女性だ。
中小企業で社長秘書などを勤めていたが、40歳のとき、70歳の母親が膠原病を発症。女性は会社を辞め、実家で介護することにした。母親は入退院を繰り返し、身体がほとんど動かず寝たきりとなった。
介護しながらでも出来るだけ働きたい。派遣会社に登録し、区役所の窓口に勤務した。働き始めてすぐ、母親が体調を崩して救急車で運ばれ、早退したことがあった。職場には、同じように親の介護をしている職員もいたが、彼らには休暇や早退が認められるなか、上司は派遣社員である女性に冷たかった。
「母親が具合が悪いからって、気もそぞろで仕事が出来ていない」「彼女はやる気がない」と派遣会社に苦情が寄せられ、結局、数カ月で契約を切られたという。
「介護のために仕事が出来ず、自分で稼げたお金は1年に100万円未満です。短い時間でも働きたいが、40代になると仕事もめったになく、いつ親が倒れてまた呼ばれるかわからないので、仕事を始める意欲も気力もなくなってしまいました。やりたいこともなく、将来に何の希望も持てていません」
将来への強い不安。ハンカチで涙をぬぐいながら女性は言った。
「介護している父親が死んだら、自分を看取る人もいないし、できるだけ早く死にたいです」
介護者を支える枠組みを
子どもが親を介護する場合、仕事を辞めざるを得なかったり、結婚の機会を逃したりと、人生設計が狂ってしまうことも少なくない。親の介護を担う人たちは、親への愛情と、自分の人生への不安や焦りの間で、気持ちが揺れ動いている。
アンケートの実施に協力したNPO法人、介護者サポートネットワークセンター・アラジンの牧野史子理事長は、「介護されるお年寄りの側を支える仕組みはあっても、介護する側の家族を支援する仕組みは不十分」だと指摘する。
行政の窓口も地域包括支援センターも、介護の手続きなどについての相談はできるが、介護者自身の気持ちや、悩みに寄り添うことはしてくれない。だからハードルが高くて行けないのだと、牧野理事長は話す。アラジンは、介護の初心者の方が気軽に相談に来られるカフェを開いているという。
「介護と両立可能な仕事の探し方を具体的に教えてくれたり、介護のストレスを聞いてくれたりする場所が必要です」
平成24年就業構造基本調査によれば、介護をしている人は全国で557万人にのぼる。不安と絶望を押し殺し、今日も家族の介護を続ける人がいる。彼らを置き去りにしないための、支援の枠組みが求められている。
【介護者サポートネットワークセンター・アラジン】
【私たちの年金を運用するGPIFが約8兆円の損失との報道、年金は大丈夫なの?】
(The Page,15,12,10,07:00)
公的年金というのは、とかく何かにつけてあまり評判がよくありません。古くは年金積立金の壮大なむだ遣いといわれたグリンピアの問題、年金の加入記録の消失問題、そして最近では2015年5月に起きた個人情報流出の問題など、私達を不安にさせるような問題が相次ぎました。
さらに最近では、15年の7~9月の3カ月間で年金積立金の運用が株価の下落の影響によって大幅にマイナスとなり、その損失額が7兆8,899億円ということが発表されました。この数字だけを見て驚いた人も多いでしょうし、一体年金には何が起こっているのだ! こんなことで将来の年金は大丈夫なのか? とさらに不安を募らせる方もいらっしゃることだと思います。
そこでそもそも年金積立金とは一体何なのか? それを運用しているGPIFというのは何者で、8兆円近い損失というのは一体何を意味しているのか、といった事柄について、できるだけわかりやすくお話をしていきましょう.
公的年金には、実は貯金がある?
私たちが国から受け取る年金というのはある種の保険みたいなものです。つまり現役で働いている人が保険料を払い込み、一定の年齢以上(65歳)の人に年金として支給する仕組みですから、言わば現役世代がお年寄りを支えている制度だということになります。ここで大事なことは、これらの保険料の徴収と年金の支給は基本的には単年度ごとに精算しているということです。
つまりその年に徴収した保険料は原則、全てその年に年金として支給しているのです。ところが昨今のように少子高齢化が進んでくると徴収額より支給額の方が多くなるという事態が起こってきます。実際、現状でいえば年間5兆円ぐらいが足りなくなってきています。
ではその足りない部分は一体どうやって工面しているのかということですが、実は年金制度には貯金があります。これが「年金積立金」と言われるもので、国の一般会計とは別枠で「年金特別会計」として、貯金されています。この金額が一体どれぐらいあるのかというと14年度末で約146兆円あります(厚生年金と国民年金)。足りないお金はこの貯金から引き出しているのです。ではこの146兆円というお金は一体どこから来たのでしょうか?
今でこそ毎年の保険料徴収と年金支給の差額はマイナスになっていますが、以前はそういうわけではありませんでした。高度成長の時代には給料も増えていましたし、年金を受け取る人の数もそれほど多くなかったため、毎年の収支はすっと黒字だったのです。そうやってかつて黒字が出ていた分をプールして運用してきたのがこの「年金積立金」です。したがって、現在のように毎年赤字になる場合はこの貯金を取り崩していくことで対応が可能なわけです.
リーマンショック時は約9兆7,000億円の損失も トータルの収益を見てみると?
「でもいつかは貯金もなくなるよね?」、「そうなったら年金制度は崩壊しちゃうんじゃないの?」という不安もあります。そうならないために国はこの146兆円を運用して、少しでも利息や収益をあげようとしているのです。このお金を運用しているのがGPIFという組織です。正式名称は「年金積立金管理運用独立行政法人」と言いますが、名前が長いので英語の名前「Government Pension Investment Fund」の頭文字をとって、一般的にはGPIFと言われています。この組織は厚生労働省が所管する独立行政法人で、厚生年金と国民年金の積立金を管理・運用しています。
このGPIFが年金積立金の運用を始めたのは01年度からです。14年度までの13年間でこのGPIFがあげた収益の累計額は50兆7,338億円にもなります。もちろん今まで全て運用が順風満帆で来たわけではなく。過去には07年のサブプライムローンの時には約5兆5,000億円、08年のリーマンショックの時は9兆7,000億円ぐらいの損失が発生しています。そうした損失を乗り越えてのトータル収益が上記の50兆円あまりなのです.
15年の7~9月では確かに8兆円近い損失が出ていますが、これは率にすれば約5.5%の下落です。同じ時期の日経平均で見れば20%近い下落があったわけですからこれぐらいの損失はあっても不思議ではありません。ただし10月以降はまた株価が上昇基調になっていますのでおそらく10~12月ではこの損失もかなりの部分が回復していると想像できます。
マスコミの多くは損失が出たときには大きく報道しますが利益が出たときはあまり報道しません。実際に14年度一年間では15兆円あまりの利益が出ています。もちろん今後も順調に利益が積み上がっていくかどうかは誰にもわかりませんが、GPIF自体の運用を見ていると、それほど大きなリスクをとるような運用方針にはなっていませんので、毎年の収支不足を埋めて行ったとしてもそう急に積立金が大幅に減っていくことはないだろうということが予想されます。
ただ前にも述べたように、公的年金制度はあくまでも単年度決済が基本です。可能な限り、毎年の収支がプラスになるよう維持していかなければなりません。そのためには経済が活性化し、給料が上がることで保険料も増えることになりますから、やはり大切なことは経済の成長がないといけないということです。年金に限らず何ごとにおいても経済成長が大事だということですね。
【GPIF、昨年度の運用損5兆円台前半 円高株安で5年ぶり赤字】
(ロイター、7.1.07:59)
公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度の運用損失が5兆円台前半となったことが分かった。関係筋が明らかにした。年度を通して赤字となるのは10年度以来5年ぶり。
英国の欧州連合(EU)離脱で金融市場はなお不安定な動きを続けており、積立金140兆円の運用は今後も厳しいかじ取りを迫られそうだ。
6月30日に運用委員会を開き、概要を伝えた。年初からの円高・株安の影響で、保有する国内外の債券、株式のうち国内債券以外の資産で赤字が膨らんだもようだ。
GPIFは、昨年12月までの3四半期で5108億円の赤字を計上。以降も米利上げに伴う世界的なリスク回避の動きが直撃し、日経平均株価<.N225>が1500円以上下落したほか、円相場が対ドルで8円程度上昇し、保有資産の価値が目減りした。
運用実績などを取りまとめた業務概況書は参院選後に正式発表される見通しだが、7月10日の投開票日を前に民進党などの野党は追及の声を強めそうだ。
GPIFは「昨年度の運用状況については7月29日に公表することにしている」(広報担当者)としている。
【<参院選>年金の未来、本筋棚上げ 運用損問題で応酬】
(毎日、7.6.21:37)
安倍晋三首相が消費税率10%への引き上げ再延期を決断したのを受け、年金など社会保障は参院選の大きな争点になるとみられていた。しかし、各党が増税先送りをそろって容認したため、制度をどう持続するかという肝心の議論は低調だ。民進党は株式にシフトした年金運用の「危うさ」を追及するが、与野党とも有権者の関心に応えているとは言い難い。
消費増税の再延期によって、政府が予定していた社会保障充実策をすべて実施することは難しくなった。政策の優先順位は決まっておらず、自民党は公約で触れていない。
公明党は、保険料を10年納めれば年金を受給できるようにする無年金者対策や、低年金者に対する最大月額5000円(年6万円)の給付金の早期実施を掲げた。井上義久幹事長は3日、NHKの討論番組で「受給資格期間の短縮や低年金加算は何とか財源を手当てして先行実現すべきだ」と述べた。
民進党は公明党より踏み込み、社会保障充実策を来年4月から実施するよう求めている。財源は行政改革などで工面するという。岡田克也代表は先の国会で赤字国債発行を提案したが、与党は厳しく批判している。
選挙戦終盤になって野党が注目したのは、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だ。
安倍政権は年金の基本ポートフォリオ(運用資産の構成割合)について、2014年10月から国内株式と外国株式の割合をそれぞれ12%から25%に倍増させ、国債など国内債券を60%から35%に引き下げた。日銀の金融緩和で超低金利が続き、国債では利益が出にくいためだ。
しかし、中国の景気減速など世界経済の不透明感が高まり、15年度は5兆数千億円の損失を計上することが選挙期間中に判明。英国の欧州連合(EU)離脱問題の影響も見込まれる今年度は、運用損失が一層膨らむ可能性がある。
民進党の山尾志桜里政調会長は2日、横浜市で「株価を上げるために年金を犠牲にした」と訴えた。岡田氏も、第1次安倍政権時代の07年参院選で自民党が大敗する一因になった年金記録問題になぞらえ、「第二の『消えた年金』ではないか」と批判を強めている。
同党は公約で「現政権の年金運用を改め、株への投資を減らす」と明記しており、社民党も同様の立場だ。
ただ、12~14年度は計約37兆円の収益を上げている。塩崎恭久厚生労働相は6月28日の記者会見で「短期的な変動はありうるが、長い目でみて年金受給者に必要な年金額が確保できるかどうかという観点で考えている」と述べた。
年金制度に詳しい日本総研の西沢和彦主席研究員は「国民の最大の関心は年金が持続可能かどうかだ。それには給付を抑制し、保険料をしっかり徴収するしかなく、与野党とも本筋論に目を向けていない」と指摘する。
【私たちの年金を運用するGPIFが約8兆円の損失との報道、年金は大丈夫なの?】
(The Page,15,12,10,07:00)
公的年金というのは、とかく何かにつけてあまり評判がよくありません。古くは年金積立金の壮大なむだ遣いといわれたグリンピアの問題、年金の加入記録の消失問題、そして最近では2015年5月に起きた個人情報流出の問題など、私達を不安にさせるような問題が相次ぎました。
さらに最近では、15年の7~9月の3カ月間で年金積立金の運用が株価の下落の影響によって大幅にマイナスとなり、その損失額が7兆8,899億円ということが発表されました。この数字だけを見て驚いた人も多いでしょうし、一体年金には何が起こっているのだ! こんなことで将来の年金は大丈夫なのか? とさらに不安を募らせる方もいらっしゃることだと思います。
そこでそもそも年金積立金とは一体何なのか? それを運用しているGPIFというのは何者で、8兆円近い損失というのは一体何を意味しているのか、といった事柄について、できるだけわかりやすくお話をしていきましょう.
公的年金には、実は貯金がある?
私たちが国から受け取る年金というのはある種の保険みたいなものです。つまり現役で働いている人が保険料を払い込み、一定の年齢以上(65歳)の人に年金として支給する仕組みですから、言わば現役世代がお年寄りを支えている制度だということになります。ここで大事なことは、これらの保険料の徴収と年金の支給は基本的には単年度ごとに精算しているということです。
つまりその年に徴収した保険料は原則、全てその年に年金として支給しているのです。ところが昨今のように少子高齢化が進んでくると徴収額より支給額の方が多くなるという事態が起こってきます。実際、現状でいえば年間5兆円ぐらいが足りなくなってきています。
ではその足りない部分は一体どうやって工面しているのかということですが、実は年金制度には貯金があります。これが「年金積立金」と言われるもので、国の一般会計とは別枠で「年金特別会計」として、貯金されています。この金額が一体どれぐらいあるのかというと14年度末で約146兆円あります(厚生年金と国民年金)。足りないお金はこの貯金から引き出しているのです。ではこの146兆円というお金は一体どこから来たのでしょうか?
今でこそ毎年の保険料徴収と年金支給の差額はマイナスになっていますが、以前はそういうわけではありませんでした。高度成長の時代には給料も増えていましたし、年金を受け取る人の数もそれほど多くなかったため、毎年の収支はすっと黒字だったのです。そうやってかつて黒字が出ていた分をプールして運用してきたのがこの「年金積立金」です。したがって、現在のように毎年赤字になる場合はこの貯金を取り崩していくことで対応が可能なわけです.
リーマンショック時は約9兆7,000億円の損失も トータルの収益を見てみると?
「でもいつかは貯金もなくなるよね?」、「そうなったら年金制度は崩壊しちゃうんじゃないの?」という不安もあります。そうならないために国はこの146兆円を運用して、少しでも利息や収益をあげようとしているのです。このお金を運用しているのがGPIFという組織です。正式名称は「年金積立金管理運用独立行政法人」と言いますが、名前が長いので英語の名前「Government Pension Investment Fund」の頭文字をとって、一般的にはGPIFと言われています。この組織は厚生労働省が所管する独立行政法人で、厚生年金と国民年金の積立金を管理・運用しています。
このGPIFが年金積立金の運用を始めたのは01年度からです。14年度までの13年間でこのGPIFがあげた収益の累計額は50兆7,338億円にもなります。もちろん今まで全て運用が順風満帆で来たわけではなく。過去には07年のサブプライムローンの時には約5兆5,000億円、08年のリーマンショックの時は9兆7,000億円ぐらいの損失が発生しています。そうした損失を乗り越えてのトータル収益が上記の50兆円あまりなのです.
15年の7~9月では確かに8兆円近い損失が出ていますが、これは率にすれば約5.5%の下落です。同じ時期の日経平均で見れば20%近い下落があったわけですからこれぐらいの損失はあっても不思議ではありません。ただし10月以降はまた株価が上昇基調になっていますのでおそらく10~12月ではこの損失もかなりの部分が回復していると想像できます。
マスコミの多くは損失が出たときには大きく報道しますが利益が出たときはあまり報道しません。実際に14年度一年間では15兆円あまりの利益が出ています。もちろん今後も順調に利益が積み上がっていくかどうかは誰にもわかりませんが、GPIF自体の運用を見ていると、それほど大きなリスクをとるような運用方針にはなっていませんので、毎年の収支不足を埋めて行ったとしてもそう急に積立金が大幅に減っていくことはないだろうということが予想されます。
ただ前にも述べたように、公的年金制度はあくまでも単年度決済が基本です。可能な限り、毎年の収支がプラスになるよう維持していかなければなりません。そのためには経済が活性化し、給料が上がることで保険料も増えることになりますから、やはり大切なことは経済の成長がないといけないということです。年金に限らず何ごとにおいても経済成長が大事だということですね。
【GPIF、昨年度の運用損5兆円台前半 円高株安で5年ぶり赤字】
(ロイター、7.1.07:59)
公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度の運用損失が5兆円台前半となったことが分かった。関係筋が明らかにした。年度を通して赤字となるのは10年度以来5年ぶり。
英国の欧州連合(EU)離脱で金融市場はなお不安定な動きを続けており、積立金140兆円の運用は今後も厳しいかじ取りを迫られそうだ。
6月30日に運用委員会を開き、概要を伝えた。年初からの円高・株安の影響で、保有する国内外の債券、株式のうち国内債券以外の資産で赤字が膨らんだもようだ。
GPIFは、昨年12月までの3四半期で5108億円の赤字を計上。以降も米利上げに伴う世界的なリスク回避の動きが直撃し、日経平均株価<.N225>が1500円以上下落したほか、円相場が対ドルで8円程度上昇し、保有資産の価値が目減りした。
運用実績などを取りまとめた業務概況書は参院選後に正式発表される見通しだが、7月10日の投開票日を前に民進党などの野党は追及の声を強めそうだ。
GPIFは「昨年度の運用状況については7月29日に公表することにしている」(広報担当者)としている。
【<参院選>年金の未来、本筋棚上げ 運用損問題で応酬】
(毎日、7.6.21:37)
安倍晋三首相が消費税率10%への引き上げ再延期を決断したのを受け、年金など社会保障は参院選の大きな争点になるとみられていた。しかし、各党が増税先送りをそろって容認したため、制度をどう持続するかという肝心の議論は低調だ。民進党は株式にシフトした年金運用の「危うさ」を追及するが、与野党とも有権者の関心に応えているとは言い難い。
消費増税の再延期によって、政府が予定していた社会保障充実策をすべて実施することは難しくなった。政策の優先順位は決まっておらず、自民党は公約で触れていない。
公明党は、保険料を10年納めれば年金を受給できるようにする無年金者対策や、低年金者に対する最大月額5000円(年6万円)の給付金の早期実施を掲げた。井上義久幹事長は3日、NHKの討論番組で「受給資格期間の短縮や低年金加算は何とか財源を手当てして先行実現すべきだ」と述べた。
民進党は公明党より踏み込み、社会保障充実策を来年4月から実施するよう求めている。財源は行政改革などで工面するという。岡田克也代表は先の国会で赤字国債発行を提案したが、与党は厳しく批判している。
選挙戦終盤になって野党が注目したのは、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だ。
安倍政権は年金の基本ポートフォリオ(運用資産の構成割合)について、2014年10月から国内株式と外国株式の割合をそれぞれ12%から25%に倍増させ、国債など国内債券を60%から35%に引き下げた。日銀の金融緩和で超低金利が続き、国債では利益が出にくいためだ。
しかし、中国の景気減速など世界経済の不透明感が高まり、15年度は5兆数千億円の損失を計上することが選挙期間中に判明。英国の欧州連合(EU)離脱問題の影響も見込まれる今年度は、運用損失が一層膨らむ可能性がある。
民進党の山尾志桜里政調会長は2日、横浜市で「株価を上げるために年金を犠牲にした」と訴えた。岡田氏も、第1次安倍政権時代の07年参院選で自民党が大敗する一因になった年金記録問題になぞらえ、「第二の『消えた年金』ではないか」と批判を強めている。
同党は公約で「現政権の年金運用を改め、株への投資を減らす」と明記しており、社民党も同様の立場だ。
ただ、12~14年度は計約37兆円の収益を上げている。塩崎恭久厚生労働相は6月28日の記者会見で「短期的な変動はありうるが、長い目でみて年金受給者に必要な年金額が確保できるかどうかという観点で考えている」と述べた。
年金制度に詳しい日本総研の西沢和彦主席研究員は「国民の最大の関心は年金が持続可能かどうかだ。それには給付を抑制し、保険料をしっかり徴収するしかなく、与野党とも本筋論に目を向けていない」と指摘する。
参:基本ポートフォリオ(運用資産の構成割合)
分散投資(複数の資産に投資すること)でリスクを抑えながら期待収益率を上げるとしている[7]。
現行の基本ポートフォリオは、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%である[8]。平成27年12月末の時点では、以下のように、基本ポートフォリオ(長期的な観点からの資産構成割合)を策定している[7]。
【子どもから提供された腎臓、子どもへ優先移植…来年度から】
(読売。6.30.10;04)
厚生労働省の臓器移植委員会は29日、子どもから提供された腎臓は子どもに優先的に移植できるようにする基準の設定を了承した。
今後、具体的な年齢基準を決めて指針を改正し、来年度から適用する方針だ。
心臓は18歳未満の提供なら18歳未満の患者に移植すると指針に明記。肺や肝臓も大きさが適合の決め手となるため、子どもに移植される傾向がある。しかし、腎臓は待機年数が長い患者が優先で、すべて成人に提供されていた。
8月5日(金曜日)
【日銀副総裁「緩和縮小ありえない」 政策検証めぐり強調】
(16・8・5・19:17)
日本銀行が9月に金融政策を検証することについて岩田規久男副総裁は4日、「(検証の結果)金融緩和の程度を縮小することはありえない」と強調した。横浜市内での記者会見で答えた。
日銀は7月29日の金融政策決定会合で、これまでの金融緩和の効果や問題点を9月の会合で検証することを決めた。市場では「国債の買い増しやマイナス金利政策を見直すのでは」といった臆測が広がり、長期金利が高騰した。岩田氏の発言はこれまで通り大規模な緩和を続けると強調することで、市場の動揺を抑える狙いがあるとみられる。
2%の物価上昇目標について岩田氏は「早期に達成する所信を変えるつもりはない」と主張し、下方修正したり、中長期的な目標に切り替えたりする考えはないとした。一方、貸出金利の低下や運用難に苦しむ金融機関から評判の悪いマイナス金利政策に関しては、「(国債買い入れなどと)どういう組み合わせが一番いいかを検証する」と述べるにとどめた。
岩田氏は記者会見に先立つ講演で、日銀の金融緩和とともに政府が大型の経済対策に取り組むことは「相乗効果によって景気刺激効果は非常に強力なものになる」と述べた。そのうえで、「中央銀行のマネーの恒久的な増加を原資に財政拡張を行うのが『ヘリコプターマネー』だ」と定義し、いまの政府・日銀の協調関係は「(ヘリコプターマネーとは)異なる」と説明した。(藤田知也)
【日銀が追加金融緩和を決定 ETFを買い増しへ】
(16・7・29・13:55朝日)
日本銀行は29日の金融政策決定会合で、追加の金融緩和を決めた。株価指数に連動する上場投資信託(ETF)を買い入れる額を、現在の年間3・3兆円を6兆円にほぼ倍増させる。政府の新たな経済対策と歩調を合わせ、消費や投資を後押しする狙い。ただ、大規模な追加緩和を見込んでいた市場では失望感が出て、一時1ドル=102円70銭近辺と約2週間半ぶりの円高水準をつけ、日経平均株価も一時300円超下落するなど乱高下した。
追加緩和は、政策委員9人(総裁、副総裁2人、審議委員6人)のうち、賛成7、反対2の賛成多数で決めた。量的緩和で市場に流し込むお金の量は年80兆円で変えず、金融機関から預かるお金の一部につけるマイナス金利は年0・1%で据え置いた。企業の海外展開を支援するドル資金の供給は現在の120億ドル(約1・2兆円)から240億ドル(約2・5兆円)に増やす。決定内容の公表文に「政府の取り組みと相乗的な効果を発揮する」と盛り込んだ。
同時公表の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、消費者物価指数(生鮮食品除く)の上昇率の見通しは2016年度の0・5%を0・1%に下方修正したが、17年度は1・7%で据え置いた。前年比2%の物価上昇目標を達成する時期は、4月時点の「17年度中」を維持した。
【トヨタの原価低減要請で部品メーカーの本音】
(ニューススイッチ16・8・7・09;51)
下期、部品値下げ幅拡大。「円高を理由に上乗せするのはいかがなものか」
トヨタ自動車は取引先部品メーカーから購入する部品価格の引き下げ幅を、16年度下期(10月―17年3月)からさらに拡大する。トヨタと部品各社は1年に2回、部品価格の引き下げについて交渉している。トヨタが要請する引き下げ幅は業種や業績によって異なり、前の期に比べ0・5%減や1・0%減といった水準で提示される。16年度下期については上期の水準から、さらに0・2ポイント引き下げるなど、0コンマ数ポイントの上乗せを求める方向で調整している。
それに対し部品メーカーからは早くも悲鳴が聞こえてくる。「うちが(上乗せを)のんでも、うちの仕入れ先に(値下げを)どう言おうか…」。こう頭を抱える部品メーカーは、仕入れ先である中小企業の業績が全般的に良くないという。とはいえ値下げを求めないと、すべて自社の持ち出しになってしまう。「タフな交渉になりそうだ」と身構える。
<為替リスク直撃>
また別の部品メーカーは「以前は為替リスクをトヨタが100%負っていたから協力もやむなしだったが、今は部品メーカーも海外展開が進み、我々も直接負っている部分がある」と指摘。そうした状況の中で「円高を理由に上乗せするのは、いかがなものかという思いはある」と吐露する。
こうした声が代表するように価格引き下げというと「トヨタが下請けから利益を吸い上げている」などと見られがち。しかし価格改定は競争力を高めるための重要な仕組みというのがトヨタの基本の考えだ。
幹部は「競争力をつけて、もっといいクルマにして、より多くのお客さまに乗ってもらって、仕事量も増えて、トヨタもサプライヤーもウィン-ウィンになるという取り組みの一環」と説明する。
とかく1年に2回の値下げという事象だけが話題となってしまうが、それは無駄を見つけて改善するというトヨタ生産方式(TPS)の基本のサイクルをまわす中での一つの出口だとしている。
4日に決算発表の会見をした大竹哲也常務役員も「サプライヤーと一緒になって設計の改善、つくり方の改善を含めて部品の原価を下げる活動」と強調した。連綿と続く、この仕入れ先と一体となった原価低減活動がトヨタを頂点とする産業ピラミッド全体の競争力を支えてきたのは事実だ。
<外部環境の変化で強弱>
一方で、トヨタは外部環境の変化や社会要請を受けて価格改定に強弱をつけてきた。11年頃の超円高では一時1ドル=70円台にまで進みトヨタなど日本の輸出型産業が苦しめられた。トヨタは11年度下期から2期連続で価格引き下げ幅の大幅上乗せを、仕入れ先に要請した。
規模の大きな仕入れ先に対しては10年度の引き下げ幅だった1・5%に、さらに1・5%を上乗せし合わせて3%の値下げを求めた。関係者の間では「円高協力分」と言われた上乗せだ。円高による損失は、実際に輸出しているトヨタが引き受けてきたという背景がある。
「自分たちの等身大の姿」の力が試される
大手企業の利益を裾野の中小企業まで波及させるという「トリクルダウン」が叫ばれていた14年度。円安の追い風も受け、日本一稼ぐ企業となっていたトヨタも「利益をどう社会に還元するか」が求められていた。
そうした中、14年度下期は価格改定の実施自体を一律で見送る異例の措置をとった。この措置は15年度上期も続いた。
しかし期待されたトリクルダウン効果は出なかった。トヨタは1次部品メーカーとの間での値下げは見送ったが、その効果は「3次、4次の中小までいきわたらなかった」(トヨタ首脳)。価格改定見送りによる競争力向上の停滞を懸念し、15年度下期から再開した。そして16年度下期は、再び上乗せを要請する意向だ。
まりを上げるなど地道な原価改善活動にもっと力をいれていく」(川治豊明常務執行役員)と宣言した。
トヨタの自動車生産の7割方は部品メーカーが支えている。その部品メーカーと一丸となった原価低減活動は、トヨタが得意とするところ。
リーマン・ショック後の10年3月期から16年3月期の7年間の原価低減努力による効果は合計で2兆2600億円に上る。17年3月期も期初予想からすでに350億円積み増し3750億円の原価低減努力効果を見込む。「たゆまぬ原価改善活動に取り組み、さらなる収益改善に努める」(大竹常務役員)と一層の上積みを図る。
円安の追い風がやみ、これから「自分たちの等身大の姿」(豊田社長)の力が問われるトヨタ。得意技の本領を発揮し競争力を一段高める構えだ
【日銀副総裁「緩和縮小ありえない」 政策検証めぐり強調】
(16・8・5・19:17)
日本銀行が9月に金融政策を検証することについて岩田規久男副総裁は4日、「(検証の結果)金融緩和の程度を縮小することはありえない」と強調した。横浜市内での記者会見で答えた。
日銀は7月29日の金融政策決定会合で、これまでの金融緩和の効果や問題点を9月の会合で検証することを決めた。市場では「国債の買い増しやマイナス金利政策を見直すのでは」といった臆測が広がり、長期金利が高騰した。岩田氏の発言はこれまで通り大規模な緩和を続けると強調することで、市場の動揺を抑える狙いがあるとみられる。
2%の物価上昇目標について岩田氏は「早期に達成する所信を変えるつもりはない」と主張し、下方修正したり、中長期的な目標に切り替えたりする考えはないとした。一方、貸出金利の低下や運用難に苦しむ金融機関から評判の悪いマイナス金利政策に関しては、「(国債買い入れなどと)どういう組み合わせが一番いいかを検証する」と述べるにとどめた。
岩田氏は記者会見に先立つ講演で、日銀の金融緩和とともに政府が大型の経済対策に取り組むことは「相乗効果によって景気刺激効果は非常に強力なものになる」と述べた。そのうえで、「中央銀行のマネーの恒久的な増加を原資に財政拡張を行うのが『ヘリコプターマネー』だ」と定義し、いまの政府・日銀の協調関係は「(ヘリコプターマネーとは)異なる」と説明した。(藤田知也)
【日銀が追加金融緩和を決定 ETFを買い増しへ】
(16・7・29・13:55朝日)
日本銀行は29日の金融政策決定会合で、追加の金融緩和を決めた。株価指数に連動する上場投資信託(ETF)を買い入れる額を、現在の年間3・3兆円を6兆円にほぼ倍増させる。政府の新たな経済対策と歩調を合わせ、消費や投資を後押しする狙い。ただ、大規模な追加緩和を見込んでいた市場では失望感が出て、一時1ドル=102円70銭近辺と約2週間半ぶりの円高水準をつけ、日経平均株価も一時300円超下落するなど乱高下した。
追加緩和は、政策委員9人(総裁、副総裁2人、審議委員6人)のうち、賛成7、反対2の賛成多数で決めた。量的緩和で市場に流し込むお金の量は年80兆円で変えず、金融機関から預かるお金の一部につけるマイナス金利は年0・1%で据え置いた。企業の海外展開を支援するドル資金の供給は現在の120億ドル(約1・2兆円)から240億ドル(約2・5兆円)に増やす。決定内容の公表文に「政府の取り組みと相乗的な効果を発揮する」と盛り込んだ。
同時公表の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、消費者物価指数(生鮮食品除く)の上昇率の見通しは2016年度の0・5%を0・1%に下方修正したが、17年度は1・7%で据え置いた。前年比2%の物価上昇目標を達成する時期は、4月時点の「17年度中」を維持した。
【トヨタの原価低減要請で部品メーカーの本音】
(ニューススイッチ16・8・7・09;51)
下期、部品値下げ幅拡大。「円高を理由に上乗せするのはいかがなものか」
トヨタ自動車は取引先部品メーカーから購入する部品価格の引き下げ幅を、16年度下期(10月―17年3月)からさらに拡大する。トヨタと部品各社は1年に2回、部品価格の引き下げについて交渉している。トヨタが要請する引き下げ幅は業種や業績によって異なり、前の期に比べ0・5%減や1・0%減といった水準で提示される。16年度下期については上期の水準から、さらに0・2ポイント引き下げるなど、0コンマ数ポイントの上乗せを求める方向で調整している。
それに対し部品メーカーからは早くも悲鳴が聞こえてくる。「うちが(上乗せを)のんでも、うちの仕入れ先に(値下げを)どう言おうか…」。こう頭を抱える部品メーカーは、仕入れ先である中小企業の業績が全般的に良くないという。とはいえ値下げを求めないと、すべて自社の持ち出しになってしまう。「タフな交渉になりそうだ」と身構える。
<為替リスク直撃>
また別の部品メーカーは「以前は為替リスクをトヨタが100%負っていたから協力もやむなしだったが、今は部品メーカーも海外展開が進み、我々も直接負っている部分がある」と指摘。そうした状況の中で「円高を理由に上乗せするのは、いかがなものかという思いはある」と吐露する。
こうした声が代表するように価格引き下げというと「トヨタが下請けから利益を吸い上げている」などと見られがち。しかし価格改定は競争力を高めるための重要な仕組みというのがトヨタの基本の考えだ。
幹部は「競争力をつけて、もっといいクルマにして、より多くのお客さまに乗ってもらって、仕事量も増えて、トヨタもサプライヤーもウィン-ウィンになるという取り組みの一環」と説明する。
とかく1年に2回の値下げという事象だけが話題となってしまうが、それは無駄を見つけて改善するというトヨタ生産方式(TPS)の基本のサイクルをまわす中での一つの出口だとしている。
4日に決算発表の会見をした大竹哲也常務役員も「サプライヤーと一緒になって設計の改善、つくり方の改善を含めて部品の原価を下げる活動」と強調した。連綿と続く、この仕入れ先と一体となった原価低減活動がトヨタを頂点とする産業ピラミッド全体の競争力を支えてきたのは事実だ。
<外部環境の変化で強弱>
一方で、トヨタは外部環境の変化や社会要請を受けて価格改定に強弱をつけてきた。11年頃の超円高では一時1ドル=70円台にまで進みトヨタなど日本の輸出型産業が苦しめられた。トヨタは11年度下期から2期連続で価格引き下げ幅の大幅上乗せを、仕入れ先に要請した。
規模の大きな仕入れ先に対しては10年度の引き下げ幅だった1・5%に、さらに1・5%を上乗せし合わせて3%の値下げを求めた。関係者の間では「円高協力分」と言われた上乗せだ。円高による損失は、実際に輸出しているトヨタが引き受けてきたという背景がある。
「自分たちの等身大の姿」の力が試される
大手企業の利益を裾野の中小企業まで波及させるという「トリクルダウン」が叫ばれていた14年度。円安の追い風も受け、日本一稼ぐ企業となっていたトヨタも「利益をどう社会に還元するか」が求められていた。
そうした中、14年度下期は価格改定の実施自体を一律で見送る異例の措置をとった。この措置は15年度上期も続いた。
しかし期待されたトリクルダウン効果は出なかった。トヨタは1次部品メーカーとの間での値下げは見送ったが、その効果は「3次、4次の中小までいきわたらなかった」(トヨタ首脳)。価格改定見送りによる競争力向上の停滞を懸念し、15年度下期から再開した。そして16年度下期は、再び上乗せを要請する意向だ。
まりを上げるなど地道な原価改善活動にもっと力をいれていく」(川治豊明常務執行役員)と宣言した。
トヨタの自動車生産の7割方は部品メーカーが支えている。その部品メーカーと一丸となった原価低減活動は、トヨタが得意とするところ。
リーマン・ショック後の10年3月期から16年3月期の7年間の原価低減努力による効果は合計で2兆2600億円に上る。17年3月期も期初予想からすでに350億円積み増し3750億円の原価低減努力効果を見込む。「たゆまぬ原価改善活動に取り組み、さらなる収益改善に努める」(大竹常務役員)と一層の上積みを図る。
円安の追い風がやみ、これから「自分たちの等身大の姿」(豊田社長)の力が問われるトヨタ。得意技の本領を発揮し競争力を一段高める構えだ
【金融緩和の検証、物価2%へ具体的な政策対応考えるため=日銀・主な意見】
(ロイター16・8・8・・09:18)
日銀が8日に公表した7月28、29日の金融政策決定会合の「主な意見」によると、9月会合で行う金融緩和策の「総括的な検証」の狙いについて、ある委員が、物価2%目標の早期実現に向けた具体的な政策対応を考えるため、と発言していたことがわかった。
黒田東彦総裁は会合で、物価2%目標の早期実現の観点から、9月会合において13年4月に導入した量的・質的金融緩和(QQE)とマイナス金利政策の「総括的な検証」を行うとし、執行部にその準備を指示した。
物価2%達成の不確実性の高まりや、金融政策の限界が意識される中、市場では検証によって大規模な国債買い入れの減額やマイナス金利政策の撤回などの思惑も出ているが、黒田総裁は緩和策の縮小を否定している。
7月会合では検証について、ある委員が2%の早期実現のために「何が必要か」という視点で行うべきと指摘。「具体的な政策対応を考えるうえで、総括的な検証が必要」との見解も表明された。検証によって緩和策の縮小や目標の柔軟化などの必要性を訴える意見はなかったもようだ。
<ETF倍増で心理悪化を防止、市場歪めるとの懸念も>
会合では、上場投資信託(ETF)の買い入れ額を年6兆円に倍増する追加の金融緩和措置と邦銀のドル資金調達の円滑化措置が決定された。
委員からは「海外発の不確実性が、企業や家計のコンフィデンスに影響している。ETF買い入れを倍増するといった資産価格に働きかける緩和策が有効」など企業や家計の心理悪化を防止する観点からETF買い入れ増額を支持する意見が目立つ。
一方、ETF買い入れ倍増は「過大」とし、「市場の価格形成を歪め、出口の難度を高めるほか、本行財務への悪影響も懸念される」との指摘や、「政策の限界を一層明確に意識させるほか、政策の逐次投入とみられ、際限ない催促相場に陥る」との懸念も示された。
また、政府が事業規模約28兆円におよぶ経済対策の策定を進める中、会合では「積極的な財政支出と物価安定目標を実現するための金融緩和政策の組み合わせは、一般的なポリシーミックスだ」とし、市場でささやかれるヘリコプターマネーの思惑をけん制する発言も出た。
【慰安婦財団「一定の進展」 日韓、事業内容巡り協議】
(朝日・16・8・9・23:28)
外務省の金杉憲治アジア大洋州局長と韓国外交省の鄭炳元(チョンビョンウォン)・東北アジア局長がソウルで9日、慰安婦問題の日韓合意に基づいて韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」の事業の内容をめぐって協議した。金杉氏は終了後、「一定の進展があった」と記者団に語った。
金杉氏は、具体的な進展の内容について説明は避けた。今後は協議結果をそれぞれ政府の上層部に報告し、引き続き、日韓で連携していくことを確認したという。日韓合意に基づいて日本政府が財団に拠出する10億円については「タイミングなどは未定だ」と述べた。
財団の事業をめぐっては、元慰安婦と遺族に一定額を支給する案が韓国側では検討されている。名目としては「癒やし金」などが取りざたされているが、日本政府には「賠償金」と受け止められないかとの懸念が出ている。日本政府としては、賠償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場からだ。
金杉氏は元慰安婦らへの直接支給については「日韓請求権協定についての我々の立場は変わっていない」と述べるにとどめた。
韓国の聯合ニュースが7日に報じた財団の金兌玄(キムテヒョン)理事長のインタビューによると、事業は韓国政府に登録された元慰安婦238人と、韓国政府機関に被害者と認定され、すでに亡くなっている7人の計245人を対象に行われるという。金氏はこのほか、被害者の「慰霊塔」を建てる案などもあることを説明したほか、理事に歴史学者や女性学者を追加する考えも示した。
一方、韓国の最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)前代表が7月25日、島根県の竹島(韓国名・独島〈トクト〉)に上陸した問題について、金杉氏は9日の局長協議で韓国側に抗議した。
(ロイター16・8・8・・09:18)
日銀が8日に公表した7月28、29日の金融政策決定会合の「主な意見」によると、9月会合で行う金融緩和策の「総括的な検証」の狙いについて、ある委員が、物価2%目標の早期実現に向けた具体的な政策対応を考えるため、と発言していたことがわかった。
黒田東彦総裁は会合で、物価2%目標の早期実現の観点から、9月会合において13年4月に導入した量的・質的金融緩和(QQE)とマイナス金利政策の「総括的な検証」を行うとし、執行部にその準備を指示した。
物価2%達成の不確実性の高まりや、金融政策の限界が意識される中、市場では検証によって大規模な国債買い入れの減額やマイナス金利政策の撤回などの思惑も出ているが、黒田総裁は緩和策の縮小を否定している。
7月会合では検証について、ある委員が2%の早期実現のために「何が必要か」という視点で行うべきと指摘。「具体的な政策対応を考えるうえで、総括的な検証が必要」との見解も表明された。検証によって緩和策の縮小や目標の柔軟化などの必要性を訴える意見はなかったもようだ。
<ETF倍増で心理悪化を防止、市場歪めるとの懸念も>
会合では、上場投資信託(ETF)の買い入れ額を年6兆円に倍増する追加の金融緩和措置と邦銀のドル資金調達の円滑化措置が決定された。
委員からは「海外発の不確実性が、企業や家計のコンフィデンスに影響している。ETF買い入れを倍増するといった資産価格に働きかける緩和策が有効」など企業や家計の心理悪化を防止する観点からETF買い入れ増額を支持する意見が目立つ。
一方、ETF買い入れ倍増は「過大」とし、「市場の価格形成を歪め、出口の難度を高めるほか、本行財務への悪影響も懸念される」との指摘や、「政策の限界を一層明確に意識させるほか、政策の逐次投入とみられ、際限ない催促相場に陥る」との懸念も示された。
また、政府が事業規模約28兆円におよぶ経済対策の策定を進める中、会合では「積極的な財政支出と物価安定目標を実現するための金融緩和政策の組み合わせは、一般的なポリシーミックスだ」とし、市場でささやかれるヘリコプターマネーの思惑をけん制する発言も出た。
【慰安婦財団「一定の進展」 日韓、事業内容巡り協議】
(朝日・16・8・9・23:28)
外務省の金杉憲治アジア大洋州局長と韓国外交省の鄭炳元(チョンビョンウォン)・東北アジア局長がソウルで9日、慰安婦問題の日韓合意に基づいて韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」の事業の内容をめぐって協議した。金杉氏は終了後、「一定の進展があった」と記者団に語った。
金杉氏は、具体的な進展の内容について説明は避けた。今後は協議結果をそれぞれ政府の上層部に報告し、引き続き、日韓で連携していくことを確認したという。日韓合意に基づいて日本政府が財団に拠出する10億円については「タイミングなどは未定だ」と述べた。
財団の事業をめぐっては、元慰安婦と遺族に一定額を支給する案が韓国側では検討されている。名目としては「癒やし金」などが取りざたされているが、日本政府には「賠償金」と受け止められないかとの懸念が出ている。日本政府としては、賠償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場からだ。
金杉氏は元慰安婦らへの直接支給については「日韓請求権協定についての我々の立場は変わっていない」と述べるにとどめた。
韓国の聯合ニュースが7日に報じた財団の金兌玄(キムテヒョン)理事長のインタビューによると、事業は韓国政府に登録された元慰安婦238人と、韓国政府機関に被害者と認定され、すでに亡くなっている7人の計245人を対象に行われるという。金氏はこのほか、被害者の「慰霊塔」を建てる案などもあることを説明したほか、理事に歴史学者や女性学者を追加する考えも示した。
一方、韓国の最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)前代表が7月25日、島根県の竹島(韓国名・独島〈トクト〉)に上陸した問題について、金杉氏は9日の局長協議で韓国側に抗議した。
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