向精神薬使用ガイドライン

「かかりつけ医のためのBPSDに対応する向精神薬使用ガイドライン(第2版)」
平成27年度厚生労働科学研究費補助金厚生労働科学特別研究事業において行われた「認知症に対するかかりつけ医の向精神薬使用の適正化に関する調査研究」の成果として、当該ガイドラインが策定されましたので公表いたします。
ドライン(第2版)
「本ガイドライン作成の背景と目的
平成27年度厚生労働科学特別研究事業によるかかりつけ500人の中では、家族がもっとも困る症状はもの忘れと共に興奮性BPSDであり、かかりつけの半数以上がそれらに対して抗精神病薬を処方しているとの結果であった。しかし、本ガイドラインを常時参考にしているかかりつけ医は約 10%のみであり、抗精神病薬使用の多くで家族からその何を常に得ているかかりつけ医は28%であ ることも明らかとなった。
「認知症に対する薬物治療は認知症原因疾患の適切な診断のもと行われることが重要であり、必要 に応じて認知度センターなどの専門機関との連携のもとに、身近な存在のかかりつけ医が 適切に使用することで認知症の人のQOL向上につながると考えられる。今回は、各薬剤の有効性と副作用について明確に記載するなどの改訂を中心にしてガイドライン第2版を作成した。
・ガイドライン第2版の利用にあたって
今回の改訂はアルゴリズムや各薬剤の有効性と副作用を中心に分かりやすく記載した小改訂であり、従来のガイドライン(初版)の継続利用も可能であるが、医療安全の観点から第2版の使用を推奨する。
※Algorithm [ˈælgəˌrɪðəm])とは、数学、コンピューティング、言語学、あるいは関連する分野において、問題を解くための手順を定式化した形で表現したものを言う。算法と訳されることもある。
・EBM :Evidence based medicineに基づく治療ガイドラインは既に日本神経学会を中心にまとめられたものがあるが、ここではそのエビデンスを踏まえてより実践的なガイドライン作成を意図した。
・まずは非薬物的介入をご家族や介護スタッフと検討し実施すること、その上でもなお症状が改善しな
い際に薬物療法を考慮すること。
・向精神薬(抗認知症薬、抗精神病薬、抗うつ薬、気分安定薬、睡眠導入薬など)は、認知症を専門とする医師やによると診断をと治療方針を踏まえて使用されることを推奨する。
・激しいBPSDと関連してご本人やご家族の生命や健康を損なうおそれがある場合は、認知症疾患医療センターとの連携を、また特に急を要する場合には精神科救急システムとの連携を推奨する。
・本ガイドラインに基づく診療を継続する中で病状が悪化しているとされる場合は、認知症を専門
とする医師や認知症疾患医療センターとの連携を図ることをする。
・継続使用でBPSDが軽快していると判断できる場合は、 減量・中止の重要性に常に留意し、必要に応
じて量・中止を実施し、できるだけ長期使用は避けることを推奨する ただし、BPSDが軽快した段階での抗認知症薬の減量・中止に関しては、進行性であることを鑑み、 また中止後に認知機能障害が増悪
したとの報告もあることから、必要に応じて医療連携のもとご本人やご家族の理解を得ながら慎重に行うことを推奨する事。

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BPSD治療アルゴリズム;まずアルゴリズムにより対応方針を確認する。
確認要件
1.他に身体的原因はない(特に、感染症、脱水、各種の痛み、視覚・聴覚障害など)
2.以前からの精神疾患はない(あれば精神科 受診が望ましい)
3.服用中の薬物と関係ない(注1)
4.服薬遵守に問題ない
5.適応外使用も含めて当事者より十分なイン フォームドコンセントが得られている(注2)
注1: 激越、攻撃性、妄想、幻覚、抑うつ、錯乱、せん妄、等の 精神症状は服用中の薬剤で引き起こされる可能性もある(特に、 抗認知症薬(コリン分解酵素阻害薬、メマンチン)、H2ブロッカー、 第一世代抗ヒスタミン薬、ベンゾジアゼピン系薬剤、三環系抗う 三つ葉、その他の抗コリン作用のある薬剤)関連が疑われる場合 には投与を中止するなど添付文書に準じた適切な処置を行うこ と。薬剤については「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015"(日本老年医学会)」を、せん妄の治療については「せん 変の治療指針第2版(日本総合病院精神医学会)」を参照されたい。
<抗認知症薬を含め保健適応外使用が多いので、次ページ以降の各薬剤の解説を参照する事>
1.幻覚、妄想、焦燥、攻撃性
- 抗認知症薬の副作用を否定した上で、保険適用上の最大用量以下もしは 未服用の場合には、メマンチンやコリン分解酵素阻害薬の増量もしくは投与開始も検討可能だが、 逆に増悪させることもあるので注意が必要である。これらにより標的症状が改善しない場合は、その薬剤は減量・中止の上、抗精神病薬、抑肝散や気分安定薬(注3)の使用を検討する。なお、「抗認知症薬は重症度によって保険適用薬が異なるので注意すること(次頁参照)
2.抑うつ症状、アパシー(無為)
コリン分解酵素阻害薬を用い、改善しない場合抗うつ薬の使用を検討する。
3.不安、緊張、易刺激性
抗精神病薬、抗不安薬、抗うつ薬の有効性が示唆されているが、抗不安薬は中等度以上の認知症では使用しない。
4.睡眠障害
睡眠覚醒リズムの確立のための環境調整を行ったうえで、病態に応じて睡眠導入薬/抗うつ薬/抗精神病薬の使用を検討する。
1.~4.→
低用量で開始し、 症状をみながら漸増する
・どの薬剤でも添付文書の最高用量を超えないこと ・薬物の相互作用に注意すること ・用量の設定では、年齢、体重、肝・腎、脳機能などへの身体的状況を勘案すること
5.過食、異食、徘徊、介護への抵抗
向精神薬の有効性をしさするエビデンスは不十分で科学的根拠に乏しい。
日常生活のチェック (必ずチェックしてから薬物投与を開始して下さい。)
口日中の過ごし方の変化
口昼間の覚醒度の変化、眠気の有無
口夜間の睡眠状態(就眠時間、起床時間、夜間の徘徊数など)の変化
口服薬状況(介護者/家族がどの程度服薬を確認しているかなど)の確認
ロ水分の摂取状況(特に制限を必要としない限り)
食事の摂取状況
ロ排尿や排便の変化
ロパーキンソン症状の有無
(振戦、筋強剛、寡動、小刻み歩行、前傾姿勢、仮面様顔貌など)
ロ転倒傾向の有無
薬物療法のリスク・ベネフィットを常に考慮する。
 QOLの確保に逆効果であると判断すれば減量・中止を行う。
注2: かかりつけ医は、まずなるべく平明な表現でもって、薬剤使用の一般的な 利益・不利益を説明し、本人の意向を把 握するよう努める必要がある。平明な表 現で説明をしてもなお本人の理解が及ばない場合や、本人の意向が確認できない 場合、または妄想などと関連して自己の 「医療についての利益・不利益を判断する 実際的能力を明らかに欠く場合には、本 人の同意以外に治療上の根拠を探すべき である。具体的には、第一に事前指示書 の有無を確認する必要がある。事前指示書により代理人の指定がある場合には、 本人が指定した代理人に対してイン ・フォームドコンセントを行う。事前指示書などによる事前の代理人指定がない場合には、適当な家族(本人との間に信頼 関係があることが望ましい)に対してイ ンフォームドコンセントを行うことが適当である。(白石弘巳:老年精神医学会誌, 2002)
注3: 抑肝散、バルプロ酸、カルバマゼ ピンは非探性興奮に対して有効であったとの報告があるが科学的根拠は十分でなく、必要な場合には考慮しても良い。と くに高齢者の興奮症状の場合は、副作用の観点から抗精神病薬投与の前に検討す ることは可能。ただし、抑肝散による低 ・カリウム血症、バルプロ酸による死亡リスク、カルバマゼピンによる皮膚粘膜眼 症候群(Stevens-Johnson症候群)に は特に注意する。

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BPSD 治療に使われる主な向精神薬:使い方の留意点
抗認知症薬
アルツハイマー型認知症にはコリン分解酵素阻害薬およびメマンチン、レビー小体型認知症にはドネペジルが保険適用を受けているが、他の認知症疾患に対する使用は適用外使用となる。また、上記のような内の使用であっても、BPSDの種類によっては増悪することもあるので、常にリスク・ベネフィッ トの観点から使用の妥当性を検討すべきである。
コリン分解酵素阻害薬は、抑うつ、アパシー・意欲低下、不安、幻覚、妄想、興奮・攻撃性、易刺激性などに有効であったとの報告があるが、薬剤間、研究間でばらつきがみられ科学的根拠は不十分で、実臨床では症例ごとに効果を評価する必要がある。重症度(病期)によって使えるコリン分解酵素阻害薬に違いがあるので、軽度、中等度、高度障害の判定が重要となり、病期に基づいて適応外となった際は医療連携の中で中止を含めて慎重に検討されることを推奨する。
メマンチンは、興奮・攻撃性、易刺激性,行動変化・異常行動,妄想に有効であったとの報告が複数あるが、統計学的に有意差を認めなかったという論文もあり、科学的根拠が不十分である。
レビー小体型認知症へのドネペジル投与は、本邦で行われた第III相治験では実薬群、プラセボ群とも明らかなBPSD改善がある 一方,両群間では統計学的に有意差は得られなかった。したがって、レビー小体型認知症の BPSDに対するドネペジルの有効性は 確認されていないが、本邦で行われた第II相治験では探索的有効性評価の一つで BPSD に対する有効性が確認されていること、そ してレビー小体型認知症では抗精神病薬などへの過敏な反応(少量でも重篤な副作用が出やすい)が懸念されることから、レビー 小体型認知症の BPSDが非薬物的介入のみで改善しない場合、ドネペジルは選択肢の一つとして検討可能である。ただし、ドネペ ジルにより逆に症状を悪化させることもあるのでその際には減量あるいは中止すること。


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