きょうだいの会

 【SW19権利擁護と成年後見制度】
【きょうだいの会】
【目次】
【きょうだいの会】
【本文】
【【きょうだいの会】】
わたしたちの会は…
兄弟姉妹に障がい者がいる人達を中心にした会です。「障がいを持つ兄弟姉妹(障がい者)」の幸せをめざし「障がいのないきょうだい」の様々な課題の解決に向け活動しています。
【きょうだいって何?
~ ふつうの「きょうだい」でいたい!~】
1...
Q)ふつうのきょうだいと私達とどこが違うの?
A)基本的には、何も違いません。
きょうだいそれぞれが自分の道を歩んでこそ、良いきょうだい関係が築けると思います。
社会の理解が足りないために損な事もあります。
しかし、家庭の事は家族の考え方や工夫で改善できるのです。
一方、精神的に豊かになれたと思う事もあります。
2...
Q)私達の心配な事は何?
A)主に次の2つの事です。
①障害を持つきょうだいがいることで  結婚が不利になる場合があります。
しかし、最近はあまりなくなったようです。
将来の事を誤解して消極的にならず、自分自身が誠実に生きている事が、相手の人や紹介してくれる人に伝わる事が大切だと思います。
②親が障害を持つきょうだいを世話できなくなった時に、親に代る事が求められます。
しかし自分の生活に大きな負担にならない程度にすれば良いのです。
同居の必要はなく、例えば障害者施設等の利用もできるでしょう。
☆このほかにも色々な事がありますが、正確な情報を得て、改善の方法を工夫していきましょう。
3...
Q)きょうだいは仲良くしなければいけないの?
A)仲良くできないこともあるでしょう。そういう時もありますね。
でも無理に仲良くしようと思わず、同じ立場の仲間と語り合ってみませんか。
その中から自然と答えが出てくるでしょう。
4...
Q)障害を持つきょうだいと「ともに歩む」って?
A)「きょうだいそれぞれが自分の道を歩んで、互いに精神的に支え合うこと」と言えるでしょう。
自分自身が納得できる人生を作ってこそ、
きょうだいの世話をするゆとりができるのだと思います。
5...
Q)困った時は、どうすればいいの?
A)家族で相談することは最も大切ですがきょうだいの利用している施設や学校の職員、福祉関係者、当会の仲間に相談すると良いでしょう。
【きょうだいの会って何?】
1...
Q)きょうだいの会は何をしてくれるの?
A)あなたに正確な情報と、ノウハウを提供します。
そして、同じ課題を持つ仲間・先輩として、課題に立ち向かう「勇気」を共有できるでしょう。
2...
Q)私は、きょうだいの会で何をすればいいの?
A)機関誌やお知らせを読んで下さい。
そして、あなたが必要と思った時に仲間に相談や連絡をしましょう。
さらに進んで、会の仲間と親睦を深めたり、だれもが人間らしく暮らすことのできる社会を目指して社会的な活動をすることができればすばらしいですね。
【障がいのある人のきょうだいに関するアンケート調査報告書・全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会・略称 全国きょうだいの会)】

001頁。
(はじめに) 
当会が初めて障がいのある人のきょうだいについてのアンケート調査をしたのは
1996 年で、1997 年の春に「つくし別冊」として結果を発表しました。今回は 2019 年
に会員を中心にアンケート用紙を送り、23 年ぶりの調査となりました。なお、この
間に当会は、2008 年(平成 20 年)に財団法人国際障害者年記念ナイスハート基金が
行った障がいのある人のきょうだいへの調査にも参加しました。この調査からも11年
ぶりとなります。
数年前より、全国の各地できょうだいの自主的なグループができ、私たち全国きょ
うだいの会の仲間となりました。最近は、マスコミできょうだいのことが取り上げら
れる機会も多くなりました。当会の仲間が関わった映画もできています。
一方、最近は「ヤングケアラー」の対策に政府も力を入れるようになりました。
やっとですが、社会がきょうだいの課題にも気がつき始めました。
これらの状況の中で、私たちのアンケート調査結果をもとに解決すべき課題を明
らかにし、私たちの活動に活かすとともに、社会に訴えて、私たち「障がいのある
人のきょうだい」と「障がいのある人」がともに幸せになるように力を尽くしたい
と思います。
もう一つ、この調査を活かすべきことは、辛さを抱えている「障がいのある人の
きょうだい」が、この調査結果を読んで、同じ境遇の仲間たちに連帯感をもち、その
辛さを軽減できるようになることです。そのための活動にも力を尽くしたいと思い
ます。
2021年10月
全国障害者とともに歩む兄弟姉妹の会
アンケート調査プロジェクト

002頁。
目 次 
 
 (はじめに) 
 
Ⅰ 調査の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
1 調査の目的
2 調査の対象と配布数及び回収率
3 調査の方法
4 調査期間
Ⅱ 障がいのある人のきょうだいが持つ課題と 
 その解決に向けた提案 ・・・・・・・・・・・5
1 きょうだいが持つ課題 
2 課題の解決・改善のための提案
Ⅲ 調査結果 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(A) 回答者自身について ・・・・・・・・・・・・・・・・・10
1 会員種別と入会してからの年数について
2 回答者の性別、年齢
3 住所・自治体人口規模
4 職業
5 回答者と障がいのきょうだいの生まれた順と性別など
6 障がいのきょうだいが亡くなった人について
(B)障がいのきょうだいについて ・・・・・・・・・・・・・・13
1 障がいの種別・程度と知的障害との重複
2 障がいのきょうだいの結婚
(C)障がいのきょうだいとの関わりで感じたこと、障がいのきょうだいの好き嫌い
1 困った行動と辛さの有無 ・・・・・・・・・・15
2 障がいのきょうだいがいることで辛かった事
3 障がいのきょうだいがいることで良かった事
4 障がいのきょうだいの好き嫌い
(D)不登校と心の病 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
(E)結婚について ・・・・・・・・・・・・・・・・・・36
1 結婚の経験について
2 結婚にあたっての問題と心配、打ち明ける時期
(F)きょうだいと障がいのきょうだいの現在と将来の見通し ・・・・・42
1 障がいのきょうだいの生活の場と親やきょうだいとの同居等(現在)

003頁。

2 親がすでにいない人
3 両親の年齢と現在及び将来の日常的な関わり方
4 経済的負担
(G)重要なことの意思決定 ・・・・・・・・・・・・・・・52
1 意思を尊重している人
2 障がいのきょうだいの意思決定にあたっての悩み
(H)親に望むこと ・・・・・・・・・・・・・・・・・55
(I)将来についての話し合いについて ・・・・・・・・・・・・59
1 障がいのきょうだいとの話し合いについて
2 親との話し合いについて・親と話せない理由
3 福祉関係者との話し合いについて
4 今後の見通しについて
(J)子どもの頃にあると良かったこと ・・・・・・・・・・・・65
(K)国などに望むこと ・・・・・・・・・・・・・・68
(L)成年後見制度について ・・・・・・・・・・・・・・70
1 成年後見制度を知っているか
2 成年後見制度の利用
3 後見人など
4 成年後見制度の利用感想
5 困ること
6 全体を通して
(M)やまゆり園事件についての感想 ・・・・・・・・・・・78
1 障がいのきょうだいへの影響
2 自分(回答者)への影響
3 氏名公表
4 このような事件が起きないための対策について
5 全体を通して
(N)入所施設について ・・・・・・・・・・・・・・・・・84
(O)優生保護法について ・・・・・・・・・・・・・・・・・87
(P)出生前検診について ・・・・・・・・・・・・・・・・・88
1 出生前検診を受診するか
2 陽性の時の対応
(Q)当会(全国きょうだいの会)について ・・・・・・・・・・・92
1 入会しての感想
2 きょうだいの会との関り方
3 機関誌に取り上げて欲しいこと
4 会への要望なと
004頁。
5 会の名称について
Ⅳ むすびにかえて ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・101 
Ⅴ アンケート調査用紙について・・・・・・・・・・・・・・・・101
 
********************
 
Ⅰ 調査の概要 
1 調査の目的 
今回の調査の目的は、当会が発足して以来、繰り返し座談会などの活動の中で
多く聞かれているきょうだいたちの悩みについて、現時点の実態を把握し、課題
の解決方法を具体的に検討することです。このため、調査項目は「きょうだいの
悩み」に関することが中心となっており、主に、親との関係に関すること、将来
の不安、過去につらい思いをしたことなどの項目で構成されています。なお、障
がいのある人のきょうだいという立場を乗り越え、前向きに捉えてきた人のこと
についても取り上げました。
この調査結果を活かして、きょうだいの悩みの原因を探り、解決の道について、
私たちきょうだいの仲間と、家族や福祉関係者などとともに考えていきたいと思
います。そして、障がい者本人・私たち障がい者の家族だけでなく、だれもが生
きやすい社会を創ることができれば、それは私たちにとって、この上ない喜びです。
2 調査の対象と配布数及び回収率 
当会の正会員、賛助会員、機関誌購読者とともに、座談会などに来た会員では
ない人にもお願いしました。
調査票配布数 336 通 回収数 165 通 回収率 49%
配布先:正会員 201 名 賛助会員 11 名 機関誌購読者 44 名
その他 80 名:座談会などに参加した会員ではない人
 
3 調査の方法 
アンケート用紙と返信封筒を入れて郵送し、回答を得ました。回答については
個人情報を求めず、安心して回答できるように配慮しました。
4 調査期間 
2019年6月 アンケート調査用紙配布 9月回収
2019年10月~2020年3月 回答データ入力(会員で分担)
2020年6月~2021年 10 月 内容の検討とまとめ
005頁。
Ⅱ 障がいのある人のきょうだいが持つ課題と 
その解決に向けた提案 
今回のアンケート調査の結果を通してみえてきたことについて、要約して先に述
べておきたいと思います。
障がいのあるきょうだいがいることで、辛いことが多い一方、様々な環境や支援
によってその辛さや課題を乗り越えることができることが多いということが分かり
ました。また、障がいのあるきょうだいがいることをプラスにとらえて生きる人も
います。
*これ以降では、次のように表現します。
・私たちのような障がいのある人のきょうだいのことを・・・「きょうだい」
・障がいのあるきょうだいのことを・・・「障がいのきょうだい」又は「障がい者」
・医学用語、法制度、名称等で用いられている「障害」は「障がい」とせず、
そのまま表記しました。
・自由記述における表記は、その表記方法が特別な意味を持つと考えられる場
合以外、概ね全体と統一した表記とさせていただきました。
1、きょうだいが持つ課題 
大きな課題は、1)精神的な不安感、2)自分の人生を自分で決められないこと
(進路、居住地など)、3)結婚、4)親亡き後(親が障がいのきょうだいの世
話ができなくなった時)などです。
☆ きょうだいたちの多くは、これらの課題に立ち向かい、あるいは自分の状
況をプラスにとらえて生きているということも忘れてはなりません。
*このまとめでは、このアンケート結果とともに、普段の座談会などで多くのきょ
うだいが話すことも記載します。(「…多くあります」などと表現します。)
(1)きょうだい自身の課題 
1) 自分以外にも、同じような立場のきょうだいがいることを知らず、多くの人
が孤独感を持ちます。
2) 付き合いの中で、多くの人が障がいのきょうだいがいることを隠そうとします。
3) 大事な時(進路や結婚を考えたとき等)に、障がいのきょうだいがいるため
の不安のために消極的になる人が多くいます。
4) 必要な知識をもたないために、対策を考えたり実行したりすることができな
い人が多くいます。
5) 心の病や不登校などに対応する方法が分からない人が多くいます。
6) 必要以上に家族のことを心配して、自分を追い詰めることもあります。
006頁。
(2)親の対応による課題
1) 愛情不足を感じる人が多くいます。:いつも障がいのきょうだいを優先し、
後回しにされる 等です。
2) 障がいのきょうだいの世話など、通常のきょうだい以上の世話を負担させら
れ、友達との交流も含め、通常の子どものような生活ができなくなることが
あります。
3) 障がいのきょうだいに困らされても、「しょうがないこと」と片付けられ、
気持ちを分かってもらえず、困らないような対応もしてもらえないことが多
くあります。
4) 年少時に、障がいのきょうだいを通所させる時や通院させる時に一緒に行か
され、現地では放って置かれて困ってしまうことなどもあります。
5) 「お前がしっかりしないとだめだ」と過度な負担を押し付けられることが多
くあります。
6) きょうだいの気持ちに関わらず、進学先や職業などを指示されるなど、無理
な期待を負わされることが多くあります。
7) 親に悩みなどを相談できず、相談しても分かってもらえないことが多くあり
ます。
8) 親が障がいのきょうだいの世話をできなくなった時にどうなるのか、どうす
ればいいのかなどを相談しようとしても、聞く耳を持ってくれないことが多
くあります。
9) きょうだいは、子どもの頃から、自分が家庭を持った時に自分の家族に加え
老いた親と障がいのきょうだいを養っていかなければならないのではないか、
という気持ちをもちやすいのです。制度などを活用すればそのような必要は
ないことを親から説明してもらえないことが多くあります。
10) 障がいのきょうだいの自立を促すような子育てや対応が足りないことが多く
あります。親が障がいのある子供との「共依存」になっている場合もあるよ
うです。
(3)障がいのきょうだいの行動などによる課題 
1) 暴力を振るわれたり、大事にしているものを壊されたりすることがあります。
2) 大きな声を出すなどのため、落ち着いて勉強ができないことがあります。
3) 家族一緒の外出などの行動に制限が多いです。
(4)制度や行政機関などの課題 
1) ほとんどの場合、きょうだいの持つ悩みや課題に気がついていません。
2) 障がい者のための制度が不十分です。
3) 障がい関係部門の担当者の理解・知識が不十分で、相談に対応してもらえな
いことがあります。
007頁。
(5)教育機関や子どもの療育施設、福祉施設・機関等の課題
1) 学校などでいじめられることがあります。(きょうだい自身や、障がいのき
ょうだいがいじめられます。)
2) いじめのことを相談できる教員や職員がいないか、仮にいても相談しにくい
場合がほとんどです。
3) 教員や職員等に、障がいのある人のきょうだいについての情報や理解が足り
ないです。
4) 一般の生徒に、障がいのある人への理解を促す教育や環境が少ないです。
(6)社会の課題 
1) 障がい者に対する理解が足りないために、障がいのある人本人やその家族
(親、きょうだい)に対する差別的な対応をすることがあります。
2) 近所の人に、「君がしっかりして家族を支えるように」などと言われること
があります。
3) 結婚の機会がある時に、相手が、障がいのきょうだいがいることで難色を示
すことがあります。相手が理解してくれても、相手の家族が理解してくれな
い場合もあります。
 
2、課題の解決・改善のための提案 
(1)当会などのきょうだいの会が取り組むべきこと 
きょうだいの課題として取り上げられた課題を軽減・解消するように努めます。
1) 同じ境遇の仲間がいることで、孤独感が解消されます。
2) 体験の語り合い、福祉制度や障がい、精神疾患等に関する知識や対応方法の
学習会などで、不安や課題に立ち向かう勇気と情報を共有することができま
す。辛いことだけでなく、良いこと、乗り越えてきたこと等も共有していき
たいと思います。
3) その他、津久井やまゆり園事件、優生保護法、出生前検診などについての学
習会等を通して、きょうだい自身が正確な知識をもち、社会に発信していき
ます。
4) 上記の取り組みは、小学生、中・高校生、大学生以上の若者、中高年等、各
世代に応じた集まりであることが望ましいです。
5) 特に、子どもの頃にきょうだいの会があれば、今の大人のきょうだいが経験
してきた辛い思いを軽減できます。子どものきょうだいが集まれる場所をつ
くることは、最優先事項と考えて取り組むことが必要です。
☆当会としては、3 年前から東京都足立区のうめだ・あけぼの学園の協力を
得てモデル事業「ふうせんクラブ」を実施しています。この経験を活かし
て、各地での実践を支援します。
6) 若い人を対象とした「きょうだいの会活動」も重要です
008頁。
☆現在は当会も含めて若い人を対象とした活動が多くなっており、マスコミ
などでも報道される機会が増えていますが、さらに関係機関に働きかけて
いく必要があります。当会もそれらの活動と連携していきます。
 
(2)親の会などで取り組んでほしいこと 
1) 親の会としてすでに取り組んでいると思いますが、子育てや制度などの学習
をより積極的に行い、障がいのある子供の「自立」に向けた子育てや制度の
利用を促すことが大切です。親が障がいのある子供との共依存にならないよ
うな、親に対する支援も必要と思われます。このアンケートの回答からは
「良い家族像」も見えてきています。体験談などの親同士の交流や、親の会
2) 私たちきょうだいが講師となる「きょうだい」をテーマにした研修会を開く
など、「親の対応による課題」に記したことを、会員たちに周知して、きょ
うだいを支援していただきたいと思います。

の会員ではない人へも働きかけて、その家族を支えて欲しいと思います。

3) 小・中学生のきょうだいの会の取り組みをお願いしたいと思います。当会と

しても協力します。

(3)教育機関や子どもの療育施設、福祉施設・機関等で取り組んでほしいこと1) 私たちきょうだいが講師となる「きょうだい」をテーマにした研修会を開くなど、各機関がきょうだいの課題を理解して支援していただきたいと思います。
2) 特に教育機関や子どもの療育施設では、きょうだい児(子どものきょうだい)
のことを気にかけて、声をかけていただけると、きょうだい児の悩みは大き
く軽減されます。周りの目を気にせずにスクールカウンセラーに相談できる
環境づくり等、きょうだい児が気軽に相談できる仕組みが必要です。
3) 特別支援学校や子どもの療育施設で、きょうだい児に対応したり、きょうだ
い児の会を開いたりしていただきたいと思います。
4) 教育の中で、障がいへの理解を深める学習や、障がい児との自然なふれあい
が日常的にできる環境を作っていただきたいと思います。現在の教育は、障
がいのある児童生徒は同じ学校であっても特別支援学級に在籍したり特別支
援学校という別の学校に在籍したりすることが多いです。交流の時間はあり
ますがわずかな時間です。それでは、障がいのない生徒たちと障がいのある
生徒との自然なふれ合いは不十分です。インクルーシブ教育を含め、十分に
ふれあうことによって、自然にお互いを理解することができるのではないで
しょうか。それは、障がいのない生徒の心の成長や、社会に存在するさまざま
な障がいや人の立場について理解するためにも大切なことだと考えられます。
5) 親に対する支援も必要です。親に対する研修や個別の対応の中で、親の心の
ケアや制度等の情報の提供、きょうだいについての助言なども必要です。
6) やまゆり園事件では、障がいのある人の生きる意味が問われました。地域の
住民などにそのことを理解していただくためには、障がいのある人と地域の

009頁。
人たちが理屈ではなく「自然にふれ合う」ことが大切だと考えます。
☆ ある関西の施設の「エンパワーメントの連鎖」の例です。福祉施設の職員
が障がいのある人と地域の中に出て行って地域の人たちとふれ合うと、そ
の障がいのある人はとてもうれしくなり自信をつけていき、彼らと接した
地域の人たちも彼らの役に立ったとうれしくなり、それを見ていた職員も、
自分がこのような機会を作ったことに誇りを持つ、というように良いこと
が連鎖していく、というものです。福祉施設などは、このような形で、公
園、商店、公共施設など地域の資源を活用することが、自然に障がい者の
居場所づくりにつながるような活動を日々の支援において積極的に実施し
てほしいと思います。
7) 障がいがある人の生きる意味を色々な人に伝えるためには、障がいのある人
たちが自分の生きることに自信を持つことができるような支援が大切です。
6)のように、周りの人達を喜ばせたり、作業などの活動の中で皆に褒めら
れたりすることで自信がついてきます。これは、障がいのない子ども、大人
でも同じことです。
(4)社会全体として取り組んでほしいこと。 
1) 障がいに対する理解の促進と偏見の軽減がきょうだいにとっても大切なこと
です。
2) 親が安心して社会資源を活用できるようになって欲しいです。それに伴って、
きょうだいの負担も軽減されます。
3) 親亡き後に、障がいのある人ときょうだいがそれぞれ自立して暮らせるよう
な仕組み作りや制度改善、環境整備をしてほしいと思います。ここで注意す
べきことは、理想論ではなく現実に合った制度等です。
4) 子どものきょうだいの会を全国各地に作ってほしいです。
☆ これから子どものきょうだいの会を立ち上げようという団体には、当会が
全面的に協力します。
Ⅲ 調査結果 
1、結果を報告するにあたり、言葉の意味などを次のように表現します。
1) データの中の割合(%)は、特に説明がない場合は全回答数 165 回答に対す
る割合とします。
2) 無回答などを除いた、対象となっている回答数に対する割合を「対象%」と
書きます。その都度説明します。
3) 各選択肢の割合(%)の合計が全体の割合と一致しない場合がありますが、
それは小数点以下を四捨五入した結果の積み重ねのためです。
2、結果の記載の順序は、関連の強い項目の順序にしました。そのため、アンケー
ト用紙の質問の順序とは違う場合があります。


010頁。
(A) 回答者自身について 
1、会員種別と入会してからの年数について 
1) 回答者の 70%が正会員ですが、非会員の回答も 19%あり、会の活動を通して
つながりができたグループの方々、当会(全国きょうだいの会)に関心をもっ
ている方々がアンケートに参加してくださったことは大変うれしく思います。 
(表 A-1)
2) 会の創立(56 年前)から会員である人を調べてみたところ 2 名いました。 
(表 A-2)
(表 A-1) (表 A-2)
回答者 % 入会年数 % 入会年数 %
①正会員 70 ①1 年以下~ 13 ⑥30 年以下 4
②賛助会員 0 ②3 年以下 8 ⑦40 年以下 4
③購読者 3 ③5 年以下 7 ⑧41 年以上 9
④非会員 19 ④10 年以下 16 非会員 22
無回答 8 ⑤20 年以下 9 無回答 9
 
2、回答者の性別、年齢 (グラフ A-1)、(グラフ A-2) 
1) 回答者の性別の内訳をみると、女性が約 70%、男性が約 30%です。
☆ 今回のアンケートでは、女性の回答者が圧倒的に多かったことが大きな
特徴です。 
2) 年代は、20 代から 40 代が同じ程度の
割合で最も多く、その合計で全体の
約 60%でした。50 代と 60 代がそれ
に続きます。20 代から 60 代の合計で
全体の約 90%です。
*この中に 5 才の方の回答が入って
いましたが、それは母が代筆した

葉っぱ
【SW19権利擁護と成年後見制度】
【本文】
118頁。

※2004年富士見市で認知症の姉妹がリフォーム業者から:埼玉県富士見市の高齢姉妹に係る事件(5月初旬~ 報道各紙) ・埼玉県富士見市居住の認知症の高齢姉妹(80 歳と 78 歳)が、3 年間に 5,000 万円以上のリフォ ーム工事を繰り返し、代金が払えず自宅が競売にかけられた(富士見市の申し立てで中止)。

介護保険法115条の45第1項第4号:虐待の防止、早期発見。高齢者虐待防止法28条。老人福祉法32条の2。知的障害者福祉法28条の2.障害者総合支援法77条。精神保健及び精神障害者福祉に関する法律ー精神保健福祉法51条の11の2。知的障害者福祉法28条。

葉っぱ

【新社会福祉士養成講座19、権利擁護と成年後見制度、第4版】

001頁。

第一章、相談援助の活動と法

 社会福祉士が権利擁護の役割を担うためには、相談援助の活動と法との関連を理解しなければならない。

 具体的には、憲法の基本原理、とりわけ基本的人権に関する理解が必要不可欠である。また、社会福祉基礎構造改革によっ て、措置から契約へと転換した社会福祉サービスの利用システムのもとでは、民法の契約に関する理解が極めて重要である。

 社会福祉サービスに伴う紛争を解決するためには、債務不履行、 不法行為などに関する民法の理解も疎かにはできない。相談援助の活動は家族の問題にかかわる以上、親族、相続などに関する民法の理解も求められる。また、社会福祉サービスの利用システムが原則として措置から契約へ転換したといっても、後見的な役割が期待される行政には、例外的に措置の権限が残されているうえ、公的扶助などの分野では行政が措置の権限で対応するシステムが維持されている。そのため、社会福祉士が相談援助の活動によって権利擁護の役割を担うためには、行政不服審査、行政事件訴訟、情報公開など行政法に関する理解も引き続き必要である。

 最後に、社会福祉士の相談援助の活動と密接に関連する社会福祉法制については、概観しておくにとどめる。

この第1章では、以上のような視点から権利擁護に向けた相談援助の活動と法の関連を学ぶ。


002頁。

 第一節、相談援助活動において想定される法律問題

■福祉サービスの利用と契約

社会福祉基礎構造改革によって、福祉サービスの利用システムはこれまでの措置制度 (行政処分)から契約制度に転換した。

 措置制度の場合には、国、都道府県、市町村などの行政がその責任と費用負担において福祉サービスを提供し、利用者は行政と福祉サービス事業者との措置委託契約に基づき福祉サービスを利用する受動的な存在であったが、契約制度の場合には、利用者が介護、福祉、保育等のサービス事業者を選択し、利用契約を締結したうえで、その利用料を負担してサービスを受ける主体的な存在に転換した。

 その意味で子ども、高齢者、障害者分野のサービスを利用する中心的なシステム(子ども・子育て支援法、介護保険法、障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律(障害者総合支援法) 等)は、契約制度へ転換し、措置制度は補充的なシステムになっている。 したがって、ソーシャルワークに際しては、契約の理解が極めて重要になる。 例えば、弁護士などにサービスを依頼するのは委任契約だが、事業者との在宅介護サービス契約は準委任契約(民法第656条)であるとか、銀行から預金の払い戻しを受けるのは消費寄託契約(民法第 666条)になるので、本人に頼まれて代行するためには本人との委任契約に基づく代理権の授与を証明する委任状が必要であるといったことの理解である(58頁参照)。 また、在宅介護サービス契約を解除するに際して、事業者との合意解除で行うのか、事業者の契約違反を理由に債務不履行として解除するのか(民法第415条)、悪質な訪問販売の場合であればクーリングオフによって契約を白紙に戻すのか(特定商取引に関する法律第9条)、その要件・効果の違いを認識できていなければならない(58 頁参照)。

 さらに老人福祉施設に入所中の事故に関して、誰にどのような損害賠償責任を追及すればよいのか、介護職員の過失に基づく事故であればその介護職員に対して不法行為責任を追及するのか(民法第709条)、その介護職員が所属する社会福祉法人の契約責任(債務不履行)を追及するのか(民法第415条)、それに併せてその社会福祉法人の使用者責 任も追及できるのか(民法第715条)、その社会福祉法人が都道府県から措置委託を受け


003頁。


ていたとすれば、都道府県の国家賠償責任を追及する事もできるのか(国家賠償法第1条)、契約に基づく福祉(介護) サービスをめぐる事故に関しては、多角的な視点から 損害賠償請求のあり方を検討する必要がある (62頁参照)。

 しかしそれ以上に重要な問題は、契約制度に内在する隘路である。その隘路とは契約制度の大原則である意思主義である。

 意思主義は契約の主体が理性的に判断し合理的に行動する存在であることを前提にしているため、意思能力(判断能力)の不十分な認知症高齢者、知的障害者、精神障害者がいわば主役ともいうべき福祉サービスの利用形態において、判断能力の不十分な認知症高齢者、知的障害者、精神障害者の契約的自立を支援するシステムがない場合には、 契約制度に転換したとしても実効性がない。

「措置から契約への転換」は介護保険法の成立、次いで障害者自立支援法、さらに障害者総合支援法、子ども・子育て支援法の成立などによって明確になったが、このような契約による福祉(介護) サービスのもとで、判断能力の不十分な認知症高齢者、知的障害者、精神障害者の契約的自立を支援するサブシステムとして、成年後見制度が導入さ

れた。

 また、成年後見制度を補完するシステムとして、福祉サービス利用援助事業(日常生活自立支援事業(旧・地域福祉権利擁護事業))が立ち上げられた。

 繰り返すが、このように福祉(介護) サービスが契約によって利用するシステムに転換すると、判断能力の不十分な認知症高齢者、知的障害者、精神障害者は、契約を有効に締結して福祉(介護) サービスを利用できない結果、日本国憲法第25条の生存権、第13条の幸福追求権が形骸化することが危惧される。その意味で社会福祉士には、成年後見制度、さらにはそれを補完するシステムとして福祉サービス利用援助事業をソーシャ ルワークの見地から縦横に利用し得る専門性が求められる。

 なお「措置から契約への転換」に示される契約システムはあくまで原則であって、例外的には措置システムが温存されている。また法定後見制度は親族申立てとは別に、福祉的な見地から市町村長に申立権が付与されている。

 その意味で判断能力の不十分な高齢者、障害者の権利擁護は、契約制度のもとで、いかに成年後見制度を機能させるか、またいかにして措置制度を補充的に機能させるか、

 契約制度と措置制度の双方を視野に、ソーシャルワークは展開されなければならない。

■消費者被害と消費者保護

 民法は消費者という概念をもち合わせていない。民法は契約の主体を理性的に判断し 合理的に行動する存在と観念し、そのような契約主体による契約自由の原則を大前提に


004頁。


している。

 民法が規制するのは意思に瑕疵が存在するような場合だけであって詐欺、強迫、錯誤などの救済規定が存在するが、そのような救済システムでは理性的に判断し合理的に行動するはずの市民を救済し得ない現実が存在する。

 そこで消費者保護の視点から、消費者契約法、特定商取引に関する法律(特定商取引 法)などが成立し、債務不履行がない限り契約を解除できない民法の原則を修正し、契約後一定の期間内であれば無条件で契約を白紙に戻すことのできるクーリングオフの制度が導入された。

 ところで、判断能力の不十分な認知症高齢者、知的障害者、精神障害者も市場原理の支配する資本主義社会のなかで生活している以上、市場原理に基づく自由競争と無縁ではあり得ず、市場原理に基づく自由競争の犠牲になることも少なくない。

 このような判断能力の不十分な認知症高齢者、知的障害者、精神障害者が契約トラブルに巻き込まれないためには、成年後見制度によって擁護されている必要がある。もし、あらかじめ成年後見制度によって擁護されていれば、成年後見人の権限によって悪質な契約トラブルに有効に対応できるが、あらかじめ成年後見制度によって擁護されていない場合には、成年後見人の取消権は機能しない。。

 しかしクーリングオフであれば、一定期間内である限り、無条件で契約を白紙撤回できるので、判断能力の不十分な認知拡高齢者、知的障害者、精神障害者にとって極めて有力な武器になる。

 ソーシャルワークを展開するプロセスで、どのような場合にどのようにクーリングオフを行使すれば、判断能力の不十分な認知症高齢者、知的障害者、精神障害者の権利を擁護できるのか、消費生活センターとの連携も含めて十分に熟知し精通している必要がある。

 成年後見制度、クーリングオフなどによっても対応することができず、判断能力の不十分な認知症高齢者、知的顔害者、精神障害者が莫大な借金を抱え、取り立てに苦慮し絶望的な状況に追い込まれることがある。

 判断能力の不十分な認知症高齢者、知的障害者、精神障害者が、不必要な契約を次々と重ねて消費者金融からの借金が膨らむ場合もあれば、判断能力の不十分さにつけ込ま れて消費者金融などの借金が拡大する場合もある。その借金を返済するために、さらに 消費者金融から借り入れて雪だるま式に借金が膨れ上がる場合もある。生活保護を受けながら、それを事実上の担保に消費者金融などからの借金を重ねる場合もある。


005頁。


 いずれにせよ、そのような借金生活から決別し生活を立て直すためには借金の整理が必要不可欠である。借金の整理には、任意整理、自己破産などがあるが、ソーシャル ワーカーだけでは手に余る問題である。したがって、弁護士、司法書士と連携して消費者金融問題を法的に解決しつつ、ソーシャルワーカーとしてはその後の生活再建の道筋 を明らかにする必要がある。

 金銭管理が不得意な判断能力の不十分な認知症高齢者、知的障害者、 精神障害者であれば、ソーシャルワーカーとしては社会福祉協議会の日常生活自立支援事業につなげるか、判断能力がかなり減退しているかまたは判断能力を喪失している認知症高齢者、知的障害者、精神障害者であれば、親族の後見申立て支援、市町村長の後見申立にへの橋渡しなどが必要不可欠である。

 次に保証であるが、例えばマンションに入居するための賃貸借契約、銀行から融資を受けるための消費貸借契約などに関して保証人(連帯保証人)を引き受けてほしいと依頼された場合、ソーシャルワーカーはどのように対応すればよいであろうか。

 結論はケースバイケースであるが、保証人は本人に同じ責任を最終的には引受けることになるという保証の法的効果について、十分理解したうえで対応する必要がある。例えばマンションの賃貸借契約であれば本人が滞納した家賃を保証人を引き受けたソーシャルワーカーが返済することになるし、銀行との消費貸借契約であればローンの残金 を保証人を引き受けたソーシャルワーカーが返済しなければならない。保証人として返済後、本人に求償することはできるが、そのような場合の本人には収入、資産のないことが多く、保証人自体が自己破産に追い込まれることもある。

 相続などの相談を受けた場合も、被相続人に保証人としての債務がないかよくチェッ クする必要がある。

■ 行政処分と不服申立

 福祉サービスの利用システムは、社会福祉基礎構造改革によって「措置から契約」に 転換し、契約制度が原則になったとはいえ、措置制度は補充的に存続している。

 契約制度のもとで事故が発生すれば、利用者は事業者との契約に基づき、債務不履行 責任 ( 58 頁参照)または不法行為責任 (62頁参照)を追及し損害賠償を請求することになるが、措置制度のもとでは国家賠償を請求することになる。

 措置委託先の社会福祉法人の経営する施設での事故であれば、国家賠償責任とともに 社会福祉法人の使用者責任、事故を招いた職員の不法行為責任を追及することになるが、 2007(平成19) 年最高裁判決はこのような場合の責任について、国家群償責任は認めるが、使用者責任、不法行為責任は否定されると判示した(63頁参照)。


006頁。

このような事故によって傷害を受けた利用者または死亡した利用者の遺族を支援する ソーシャルワーカーとしては、どのような場合はどのよ引な損害賠償を請求できるのか、 弁護士の助言を受けながら利用者または遺族と協議し正確に決断しなければならない。 

 行政処分の典型は生活保護である。生活保護をめぐる行政処分に不服な要給者から相 談を受けたソーシャルワーカーであれば、行政不服審査法に基づき、行政処分を行った 福祉事務所の上級機関である都道府県知事に審査請求を行い、それが却下された場合に は行政事件訴訟法に基づき行政事件訴訟を提起するか、生活保護法に基づきさらに上級 機関である厚生労働大臣に再審査請求を行うか、十分に検討しなければならない(なお、 生活保護法は審査請求前置主義になっているので、審査請求抜きにいきなり行政事件訴 訟を提起することはできないが、審査請求前置主義は再審査請求を要件にしているわけ ではない。朝日訴訟 (14頁参照)では審査請求、次いで再審査請求した後、行政事件訴 訟を提起したが、審査請求後に行政事件訴訟を提起することも可能である)。

 行政事件訴訟のなかでも取消訴訟を提起するためには、出訴期間の制限がある。それ を経過すると、取消訴訟は提起できなくなるので注意が必要である。なお、取消訴訟以 外の行政事件訴訟には出訴期間の制限はない。


010頁。


3、憲法上の権利と基本的人権


■憲法上の権利、人権、基本的人権

 権利と人権は同じか、それとも違うのか。

 英語でいうと、権利は rights である。この権利の根拠には、憲法、条約、法律、条例 などがあるが、法体系のなかで最上位の憲法に明記された権利(憲法上の権利)のなか で、自然法(自然権)の思想を背景にしたアメリカ独立宣言、フランス人権宣言などに よって高らかに謳われた人間としての権利、それが hurhan rights という意味での「人権」であり、「基本的人権」(fundamental humlan rights)と呼ばれることもある。 

 憲法学では人権と基本的人権を同義に理解したうえで、憲法第3章が保障する権利の なかで、自由権だけでなく、参政権、社会権も人権(基本的人権)に含まれるが、国家賠償請求権(日本国憲法第 17 条)、刑事補償請求権(第10条)などの受益権は人権(基 本的人権)には含まれないと理解する見解とともに、自然権的権利とされる自由権以外 に、市民の権利とされた参政権、福祉国家によって認められるようになった社会権を人 権(基本的人権)に含めることに批判的な見解がある。

 なお例えば法律上の権利は、どんなに重要な権利であってもあくまで rights であっ て、決して human rights とは呼ばない。また、契約上の権利は、債権、claim と呼ばれる。

 最後に憲法、条約、法律、条例などに明記された権利・人権は、実定法上の権利・人 権であるが、まだそのような実定法の裏づけがない権利・人権もある。そのような権利・ 人権は、理念上・思想上の権利・人権とか、新しい権利・人権と呼ばれる。

■人権の類型と幸福追求の権利

人権(基本的人権)をどのように類型化するかをめぐっても憲法学の見解は一致して いないが、伝統的には第一に自由権(国家に対して不作為を請求する権利)、第二に受益権(国家に対して作為を請求する権利)、第三に社会権(国家に対して具体的な給付を請 -求する権利)、第四に参政権(国民が国家の活動に参加する権利)として類型化されてきた。しかし、最近では第一に包括的基本権、第二に消極的人権 (自由権)、第主に積極的人 権 (受益権と社会権)、第四に能動的人権(参政権)として類型化する見解が有力である。 

 包括的基本権として類型化されるのは、憲法第13条は憲法第14条であるが、社会福 祉基礎構造改革ではそれを推進する理念として、憲法第13条の「個人の尊重、生命・自由・幸福追球の権利」(幸福求権)が強調されている。これまで社会福祉の理念として は、「健康で文化的な最低限県の生活を営む権利」(日本国憲法第15条)が重視されてい


011頁。


たが、「最低限度」(ミニマムスタンダード)の強調によって、管理的、集団的、恩恵的な社会福祉が形成される結果となった。このような社会福祉のあり方を見直すために、 憲法第13条の「個人の慎重」「幸福追求権がクローズアップされ、自己決定と選択を 重視した「施しから誇りの福祉」への転拠が目指されている。

 憲法第 14 条について補充すると、前段は法の下の平等(権利の平等)、後段は不合理な差別の禁止という意味での平等権を保障していると理解されている。

 憲法第14条をめぐっては、成年被後見人の参政権剥奪(公職選挙法第 11 条第1項第 | 1号) が議論されていたが、東京地方裁判所 (2013 (平成25) 年3月14日) 違憲判決を 契機に、公職選挙法が改正され、選挙権および被選挙権が回復された(2013(平成 25) 年6月30日施行)。

■人権と公共の福祉

 基本的人権は「侵すことのできない永久の権利」日本国憲法第11条、第97 条)とさ れているが、公共の福祉によって制約される(第14条)。

 基本的人権を制約できる「公共の福祉」には、内在的制約と政策的制約という二つの原理がある。前者は自由権の衝突を調整する原理であり(第13条)、後者は社会権を実現するために財産権などを制約する原理である(第22条第1項、第4条第2項・第3項)。

 なお、思想・良心の自由、信教の自由、拷問および残虐な刑罰の禁止などは、公共の福祉によっても制約できないと理解されている。

 なお判断能力の不十分な子ども、高齢者 障害者を保護するために、パターナリズム (保護主義)に基づき、どこまでその自己決定権に介入することが許るされるのか、とい う問題があることに留意する。

4、自由権と社会権

■ 夜警国家・市民法原理 自由権

 アメリカ独立宣言、オランス人権宣言は、人々が自由かつ平等であることを認め、政 府の干渉・介入を拒否する権利(人権)を強調した。資本主義経済もまた、市場におけ る自由な商品の交換と私的自治を重視した。

 政府の役割は、防衛、治安維持など必要最小限度の公共的役割に限定され、人々の自 由な活動に介入してはならないとされた。上のような政府からの介入、干渉を拒否する 権利(人権)を自由権(市民権)、そのような政府の役割を何警国家(消極国家、その


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ような法の役割を市民法原理と呼ぶ。

 くり返して説明すると、政府の権力が大きくなれば自由を脅かすおそれがある。したがって、政府は夜警の役割に徹すべきであり、その意味での小さな政府が標榜された。 このように19世紀では夜警国家・小さな政府のもとで、憲法に自由権を明記し、政府が人々の自由を侵害しないように憲法で政府を縛り、自由権を確保することが重視されたのである(立憲主義・市民法原理)。 ここで自由権について補充しておく。 自由権の類型は、憲法第18条以下に規定されているが、第一に精神的自由権としては、 思想・良心の自由(日本国憲法第19条)、信教の自由(第20条)、集会・結社・表現の自由、検閲の禁止、通信の秘密 (第 21条)、学問の自由(第23条)がある。第二に身体

的自由権としては、奴隷的拘束および苦役の禁止(第18条)、適正手続きの保障(第31条)、被疑者の権利(第33条の逮捕、第34条の抑留・拘禁、第35条の住居侵入・捜査 押収)、被告人の権利(第 37 条の公平な裁判所の迅速な公開裁判、証人審問権、弁護人依頼権、第38条の不利益供述の強要禁止、自白の証拠能力の制限)、拷問および残虐な刑罰の禁止 (第 36 条)、刑罰法規の不遡及、二重処罰の禁止 (第39条)がある。第三に経済的自由権としては、居住・移転・職業選択の自由、外国移住・国籍離脱の自由(第 22条)、財産権(第29条)がある。

 身体的自由権をここまで具体的に詳しく保障した憲法は珍しいが、明治憲法下の人権蹂躙の歴史に対する反省が込められている。

 これまでの社会福祉のあり方は、後述する社会権(特に生存権)を中心に検討されて きたが、自由権に対する十分な配慮も必要不可欠である。

 後述する社会福祉基礎構造改革の背後には、福祉国家の見直しを迫る新自由主義が伏在するため、社会権重視のスタンスは堅持されなければならないが、同時にこれまで軽視されてきた自由権への配慮が強調されなければならない。 「福祉国家のもとで、高齢者、障害者、児童、女性らは、「社会的弱者」(弱い私人)と して救済、保護の客体でしかなかったため、社会福祉サービスを利用する主体として、 自由への配慮を十分に受け得なかった。しかも近代憲法下の自由権は「国家からの自由」 が重視されたため、「家族」のなかでの虐待、暴力などに関して、十分な救済、保護、援 助、支援を受けることができなかった。

 最近になって、児童虐待の防止等に関する法律(児童虐待防止法)、配偶者からの暴力 の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV 防止法)、高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)、障害者虐待の防止、障害者の擁護者の支援に関する法律(障害者虐待防止法)が相次いで成立し児童、女性


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高齢者、障害者の「生命、自由、幸福追求の権利」(日本国憲法第13条)を救済、保護、援助、支援する政府の役割が重視されるようになったことは画期的といえる。


■ 福祉国家・社会運原理・社会権

 産業革命を経て資本主義が隆盛すると、貧富の格差が拡大し、貧困・失業・病気など の社会問題が発生する。レッセ・フェール」((仏) lassez-faird ; 自由放任)のもとでは、 そのような社会問題の発生は不可避であり、政府はその解決のために積極的な役割を引き受けざるを得なくなる。このような社会国家はさらに「富める者」に対して累進課税 などを導入し、それを財源にして「富まざる者」の最低限度の生活保障を目指すようになる。これが20世紀に登場した福祉国家であり、ドイツのワイマール憲法(1919年)がはじめて福祉国家の理念を示した。

 このような政府に対する保護、暖助、支援を求める権利(人権)を社会権、そのよう な政府の役割を福祉国家(積極国家)、そのような法の役割を社会法原理と呼ぶ憲法25条も福祉国家の原理に立脚している。

 福祉国家は、政府が積極的に社会保障・社会福祉・公衆衛生の向上を目指すので、夜警国家と対比すると、そのための財源と役割において大きな政府にならざるを得ない。 また、社会権は政府に対して積極的な保護、援助、支援を求めるという意味で、政府の介入を拒否する自由権と性格が正反対になる。


081頁。


第二章、成年後見制度


082頁。


第1節、成年後見の概要


1 成年後見制度とは

成年後見制度は、判断能力が不十分な人(本人)の生活、療養看護および財産の管理 に関する事務を、本人とともに本人の支援者である成年後見人等が行うことによって、 本人の意思や自己決定を尊重しながら本人を保護するための法律上の制度である。成年後見制度は、法定後見制度と任意後見制度とに大別され、法定後見制度は、後見、保佐 および補助の三つの類型によって構成されている。@1.

2法定後見制度全体の概要

 法定後見制度は、現に判断能力が不十分な状態にある本人について、本人または家族 (配偶者または四親等内の親族)等の申立てに基づき、家庭裁判所が法定後見(後見、 保佐または補助)の開始の審判をして、本人の契約締結能力(行為能力)@2.に一定の制限 を加えるとともに、適任者を本人の成年後見人等(成年後見人、保佐人または補助人)。 として選任し、家庭裁判所によって選任された成年後見人等が、法律および家庭裁判所 の審判によって付与された代理権・取消権等の権限を適切に行使することによって、本人を保護するとともに支援する制度である。

 法定後見は、家庭裁判所の審判によって開始されるものであり、法律の規定および家庭裁判所の審判によって本人の行為能力が制限されるとともに成年後見人等に一定の権


@1) 後述するとおり、法定後見制度の対象者は、すでに判断能力が不十分な状態になっている認知症高齢者・知的障害者・精神障害者等であるが、対象者(本人)の判断能力の程度に応じて、後見、保佐または補助のうちの

いずれかの適切な類型を選択して制度を利用することになる。

@ 2) 契約は、複数の人によって意思表示がされ、その複数の意思表示の内容が合致したことにより、権利や義務が発生しまたは消滅する等の法律効果が生じる行為であるが、契約のような「意思表示がされたことにより、そ の効果として権利や義務の発生・消滅等の法律効果が生じる行為」を「法律行為」という。そして、単独で有効に法律行為をすることができる能力(ほかの人の同意を得ることなく、また、ほかの人に代理してもらわな くても、その人一人の意思表示がされるだけで、取り消されることのない完全に有効な法律行為をすることが できる能力)を「行為能力」という。なお、「行為能力」を制限されている人を「制限行為能力者」といい、民法第20条第1項は、「未成年者」「成年被後見人」「被保佐人」および「同意権付与の審判(被補助人が特定の 法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の家庭裁判所の審判)(民法第17条第1項) を 受けた被補助人」を「制限行為能力者」というと定めている。


083頁。


限が付与される法定の後見制度であるが、保佐類型と補助類型については、本人の申立 てまたは本人の同意を要件としたうえで、本人の行為能力が制限される範囲や、保佐人 または補助人の権限(代理権・取消権)の範囲を、当事者自身(本人や審判の申立てをする家族)が任意に選択する余地を大幅に認めているため、実際には、本人の意思に基づく選択の幅がかなり広く認められており、自己決定の尊重の理念に即した柔軟かつ弾力的な制度となっている。 本節では、法定後見制度のうちの後見類型の概要について説明する。

3成年後見の対象者(成年被後見人)

■成年後見利用の実質的要件

 成年後見の対象者(成年被後見人)は、精神上の障害により判断能力(法文上は「事理を弁識する能力」)を欠く常況にある人である(民法第7条)。

「精神上の障害」とは、身体上の障害を除くすべての精神的障害を含む広義の概念であ り、認知症、知的障害、精神障害のほか、自閉症、事故による脳の損傷または脳の疾患 に起因する精神的障害等も含まれる。また、「判断能力(事理を弁識する能力)を欠く」 とは、自分の行為(自分がした法律行為)の結果について合理的な判断をする能力がないことをいう。なお、「(判断能力を欠く)常況にある」とは、一時的に判断能力を回復することはあっても、通常は判断能力を欠く状態にある、ということを意味する。必ずしも、終始判断能力を欠く状態にあることが成年後見利用の要件となるわけではない。

 具体的には、🐱1.通常は日常の買物も自分ではできず、誰かに代わってやってもらう必要がある人、2.ごく日常的な事柄(家族の名前、自分の居場所等)がわからなくなっている人、3.完全な植物状態(遷延性意識障害の状態)にある人、等が成年後見の対象者となる。

 ちなみに、未成年者であっても、精神上の障害により判断能力を欠く常況にあれば、 成年後見を利用することができる。例えば、親権(または未成年後見)の終了と成年後


084頁。


見の開始との間に時間的間隔を生じないようにする場合や、財産管理が複雑な場合等は、未成年者について成年後見を開始する実益があると考えられる。未成年者に対して 成年後見開始の審判がされて、成年後見人が選任された場合であっても、親権者(ま は未成年後見人)の地位が失われることはなく、成年後見人と親権者(または未成年合 見人)は、それぞれ単独で権限を行使することができる。

 成年後見利用の形式的要件(後見開始の審判) 精神上の障害により判断能力を欠く常況にある人は、それだけで当然に成年後見を利用することができるわけではない。家族等の一定の請求権者から家庭裁判所への🐱1.「後見開始の審判」の申立て、2、家庭裁判所による前記の実質的要件の具備に関する審査、 を経たうえで、家庭裁判所が、本人が精神上の障害により判断能力を欠く常況にあると認め、後見開始の審判をすることにより、はじめて成年後見を利用することが可能となる(民法第7条)。

 「後見開始の審判」は、判断能力を欠く常況にある本人の行為能力を制限するとともに、 特定の適任者を成年後見人(本人の支援者・保護者)に選任することを内容とする家庭裁判所の審判であり、原則として成年後見人に選任される者が審判書の謄本を受け取った日から2週間が経過することにより、その効力が確定する。 後見開始の審判の申立手続きについては後述する(本章第4節参照)。

4、成年被後見人の行為能力

 後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とされ、その支援者・保護者として成年後見人が付される(民法第8条)。

 成年被後見人がした契約等の法律行為は、原則として取り消すことができる(第9条)。 成年被後見人は、通常は判断能力を欠き、自分がした法律行為の結果として生じる利害得失について合理的な判断をすることができない状態にあるので、形式上、成年被後見人が契約等の法律行為(意思表示)をしたとしても、そこには、実質的には法律行為の効果を発生させたいという意思が存在していないことが多い。そのため、そのような成年被後見人がした法律行為は、無条件に(成年被後見人がした法律行為であるという理由だけで)取り消すことができるのである。もっとも、🐱成年後見の新しい理念である自 己決定権の尊重、残存能力の活用、ノーマライゼーション等の観点から、成年被後見人 がした日用品の購入その他日常生活に関する法律行為については、取り消すことができ ないとされている(第9条ただし書)。なお、取消しは、成年後見人のほか、成年被後見


085頁。


人自身がすることもできる(第120 条第1項)。

5、成年後見人の役割

■成年後見人の選任

 家庭裁判所は、後見開始の審判をするときは、職権で、成年後見人を選任する(民法第843条第1項)。成年後見人が欠けたときにも、家庭裁判所は、成年被後見人もしくは その親族その他の利害関係人の請求によって、または職権で、成年後見人を選任する(第 343条第2項)。成年後見人の人数に特に制限はないので、家庭裁判所は、必要に応じて、 数人の成年後見人を選任することができる(当初から数人の成年後見人を選任することも、追加的に数人の成年後見人を選任することもできる)(第843条第3項)。この場合 ここは、家庭裁判所は、職権で、数人の成年後見人が、共同してまたは事務を分掌して、 その権限を行使すべきことを定めることができる(第859 条の2第1項)。家庭裁判所 が数人の成年後見人を選任する場合には、現状ではいわゆる親族後見人と第三者後見人 を一人ずつ選任するという形をとることが多いが、数人の第三者後見人、例えば、福祉の専門職である社会福祉士と法律の専門職である司法書士または弁護士を選任するという形や、いわゆる市民後見人(専門職ではないが、成年後見に関する一定の知識、能力、 技術、倫理等を身につけている第三者後見人)と専門職後見人を選任するという形の複敦後見も考えられる。また、家庭裁判所は、必要があると認める時は、成年被後見人、 その親族もしくは成年後見人の請求によって、または職権で、成年後見監督人を選任し、成年後見人の支援および監督の任に当たらせることもできる(なお、家庭裁判所は、 長年後見監督人の選任の有無にかかわりなく、成年後見人の事務を監督する(第863条))。

 家庭裁判所が成年後見人を選任するには、成年被後見人の心身の状態ならびに生活及び財産の状況、成年後見人となる者の職業および経歴ならびに成年被後見人との利害 係の有無、成年被後見人の意見その他一切の事情を考慮しなければならないとされている(第843条第4項)。家庭裁判所は、法人を成年後見人に選任することもできるが、その場合には、その法人の事業の種類および内容ならびにその法人およびその代表者と成年被後見人との利害関係の有無をも考慮しなければならない(第843条第4項かっこ書 )。介護・福祉のサービス提供事業者である法人、例えば施設を経営する法人(および ーの代表者・従業員)と、そのサービス・施設を契約によって利用する人との間には、 一般的に利害の対立があるので、例えば、施設を経営する法人やその代表者・従業員を、 該施設の入所者の成年後見人として選任することは避けるべきであると判断される。


086頁。


(第 108条参照)。 なお、次の者は、そもそも法律上成年後見人となることができないとされている(欠格事由)(第847条)。1,未成年者、2,家庭裁判所で免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人(具体的には、親権喪失、親権停止または管理権喪失の審判を受けた神権者、解任の審判を受けた後見人・保佐人・補助人・遺言執行者など)、3,破産者、4,成年後見人に対して訴訟をし、またはした者ならびにその配偶者および直系血族、5,行方の知れない者。

■成年後見人の権限・義務

成年後見人の権限

編集中

 成年後見人は、成年被後見人の財産を管理し、かつ、成年被後見人の財産には、 律行為について成年被後見人を代表(代理)する権限を有する(民法第 859条(SAT

理権を そして、成年後見人は、成年被後見人の法定代理人であり、かつ財産管理権を、 で(第 859 条第1項)、成年被後見人がした契約等の法律行為を取り消すことができ 120条)。

すなわち、成年後見人は、財産管理権、代理権および取消権という三つの権 され、これらを適切に行使することにより、成年被後見人を支援し、保護する。 0 成年後見人の代理権・取消権の対象となる行為

暦43 成年後見人の代理権・取消権の対象となる行為は、成年被後見人の「財産 法律行為」であり、これには、1狭義の財産管理を目的とする法律行為(例: と、 貯金の管理・払戻し、不動産その他の重要な財産の処分、遺産分割、相続の 棄、賃貸借契約の締結・解除など)が含まれるほか、2生活または療養看護、 護)を目的とする法律行為(例えば、介護契約・施設入所契約・医療契約の締り も含まれる。また、これらの法律行為に関連する登記の申請や要介護認定のE の公法上の行為、およびこれらの後見事務に関して生ずる紛争についての訴訟 産に関する訴訟行為)も、成年後見人の代理権・取消権の対象に含まれる。 2 代理権の制限

14120

なものとする権限・機器

3)後述するとおり、保佐人には一定の範囲で取消権とともに同意権(被保佐人がする契約等の法律行為少女戦 与えてこれを完全に有効なものとする権限)が付与されているが、成年後見人には同意権(成年被後、 た法律行為に同意を与えることによって成年被後見人の法律行為を確定的に有効なものとする権限) 成年被後見人の意思表示は、正常な判断能力に基づかないでされている可能性が高く、そのため、成区YT10 に同意権を認めたとしても、そもそも法律行為の効力を発生させるのに必要不可欠な意思自体が矢 ことを理由に法律行為が無効となる可能性が高い。そこで、法律行為の相手方、さらには成年被後見区( 保護し、取引の安全を図る観点から、成年後見人には同意権が付与されていない。


087頁。

 

成年後見人が、本人の事実行為(例えば、カジリリリリ LOULD UNIONE ■生ずべき契約をする場合には、本人の同意を得る必要がある(民法第859条第2項)。 2 成年後見人が数人ある場合には、家庭裁判所は、職権で、数人の成年後見人が、 共同して権限を行使すべきこと、または事務を分掌して権限を行使すべきことを定 めることができる(第859条の2第1項)。 3 本人の居住用不動産について処分(売却、賃貸、賃貸借の解除または抵当権の設 「定等)をするには、家庭裁判所の許可を得る必要がある(第859条の3)(116頁参

照)。

1 本人と利益が相反する行為(本人・成年後見人間の売買・遺産分割協議等)につい ては、成年後見人は、本人を代理することができず、家庭裁判所が選任した特別代理

人(成年後見監督人がいれば、成年後見監督人)が本人を代理する(第860条)。 5 成年後見人が、本人を代理して営業を行う場合、または本人を代理して民法第13

条第1項に列挙された重要な財産行為(元本の領収を除く)をする場合において、 2.成年後見監督人が選任されているときは、成年後見監督人の同意を得る必要がある

(第864条)。 6 婚姻・離婚・認知・養子縁組・離縁・遺言等の身分行為は、原則として代理権の 一回の対象とならない(第738条、第764条、第780条、第799条、第812条、第962条)。

取消権の制限 13 成年後見人の取消権も、包括的なものであり、原則として、本人がした法律行為は すべて取消しの対象となるが、1日用品の購入その他日常生活に関する行為、および 2身分行為については、取消しの対象とならない。

表2-0 成年被後見人の法律行為

☆成年被後見人が単独でした契約等の法律行為の効果

取り消すことができる

そのまま取り消さなければ、有効となる。 → 成年後見人または成年被後見人が取り消せば、無効となる(最初から効力が生

じなかったことになる)。 ☆成年被後見人が契約等の法律行為をする方法(成年被後見人に契約等の法律行為の効果 を確定的に帰属させる方法)

○成年後見人が成年被後見人を代理して契約等の法律行為をする。 ×成年被後見人のした法律行為に成年後見人が同意を与える(86頁の脚注3)参照)。

4)「日用品の購入その他日常生活に関する法律行為」は、取消権の対象からは除外されているが、代理権の対象

には含まれる。



088頁。


成年後見人の事務の範囲でさがする

一 成年後見人が行う事務(後見事務)は、「成年被後見人の生活、療養看護及び財産の管 理に関する事務」であるとされており(民法第 858条)、通常は、「財産管理事務」と「身 上監護事務」とに分けて整理することが多い。 0 財産管理事務(財産の管理に関する事務)

「財産の管理」には、財産の保存を目的とする行為(現状を維持する行為)、財産の 性質を変えない範囲での利用・改良を目的とする行為のほか、財産を処分する行為を 含み、一切の法律行為および事実行為を含む。その内容は、印鑑・預貯金通帳の保管、 年金その他の収入の受領・管理、介護サービス契約の締結などの日常の身近な事柄か 信ら、不動産などの重要な財産の処分まで、多岐にわたる。 2身上監護事務(生活および療養看護に関する事務)

以下に掲げる事務およびこれらに関する契約の締結、相手方の履行の監視、費用の 支払い、契約の解除、およびそれに伴う処理等の事務、ならびに要介護認定の申請ま たは要介護認定に対する異議申立て(審査請求)等の公法上の行為は、すべて成年後 見人が行う身上監護事務に含まれる。「介護・生活維持に関する事務、2住居の賃貸 借等の住居の確保に関する事務(なお、生活の基盤となる居住の利益を保障する観点 から居住用不動産の処分につき家庭裁判所の許可が必要とされることについては、87 C頁の23参照)、3施設の入退所、処遇の監視・異議申立等に関する事務、4医療に関

する事務、5教育・リハビリテーションに関する事務。

なお、後見事務は、成年後見人がその有する代理権または取消権等の権限を行使し て行う(通常は、成年後見人が成年被後見人の法律行為を代理して行う)ものである ことから、成年後見人の「身上監護事務」とは、結局、成年後見人が、成年被後見人 のために施設入所契約・介護契約等の法律行為をすることであり、介護や看護などの 事実行為は、成年後見人の事務の範囲には含まれない。

また、本人の身体に対する強制を伴う事項(手術や入院の強制、施設への入所の強 制、介護の強制、リハビリテーションの強制、健康診断の受診の強制等)や、一身専 属的な事項(婚姻、養子縁組、臓器移植の同意等)も、成年後見人の事務の範囲には 含まれない。

5) もっとも、契約を締結する際の調査や、契約の履行(処遇)の監視など、身上監護事務として行う法律行為に

付随して当然に行うべき事実行為は、成年後見人の事務に含まれる。例えば、住居の確保や医療・介護に関す る契約などをするためには、契約に付随して、業者や場所の調査・選択等ある程度の事実行為を行うことが不 可欠となるが、これらの事実行為は、成年後見人の事務に含まれる。



089頁。


善管注意義務」

成年後見人は、後見の本旨に従い、善良な管理者の注意をもって、後見事務を処理 する義務を負う(「善良な管理者の注意義務」または「善管注意義務」)(民法第 869条、 第644条) (113頁参照)。 2 本人の意思の尊重義務・身上配慮義務

成年後見人は、成年被後見人の生活、療養看護および財産の管理に関する事務を行 うにあたっては、成年被後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態および生活の 状況に配慮しなければならない(民法第858条)。成年後見人が成年被後見人の財産 を管理する場合には、もちろん、利殖を目的とするわけではないので、投機的な運用 は避け、安全確実な管理・保全を心がける必要がある。しかし、だからといって、成 年被後見人の財産をできるだけ使わないことが最良最善の後見事務であるというわけ ではない。成年後見人は、成年被後見人の心身の状態や生活の状況に十分に配慮をし、 成年被後見人の生活の質の維持や向上を目指すための財産管理を行うことが義務づけ られているのである。つまり、成年後見人は、成年被後見人の自己決定の尊重、残存 能力の活用およびノーマライゼーションに資するよう、積極的に本人の財産を活用す る、という視点をもって後見事務を行わなければならない。

成年後見は、成年被後見人の財産を適切に管理するため(だけ)の制度、いわば財 産管理自体を目的とする制度であるととらえられがちであるが、実際には、成年後見 における財産管理は、成年被後見人を支援する手法の一つ(非常に重要な手法の一つ) にすぎない。成年後見は、成年被後見人を支援し、保護することによって、成年被後 見人の生活の質を維持し、向上させることを目的とするものであり、その目的を達成 するために、成年後見人は、財産管理権・代理権・取消権を行使して、財産管理や身 上監護の事務を行うのである。

6)成年被後見人のために医療契約を締結することは、当然に成年後見人の事務職務権限)に含まれる。しかし、

成年被後見人が医療・治療を受けること(手術・注射等の医的侵襲行為を受けること自体については、成年 被後見人自身の自己決定に基づく同意(承諾)が絶対的に必要であり、成年被後見人以外の者が成年被後見人 に代わってその同意をすることはできないと解されている。そのため、現状では、成年後見人には、成年被後 見人を代理して成年被後見人が治療を受けることに関する同意をする権限(医療行為の同意に関する代理権) はないと解されている。



112頁。
第6節、成年後見人等の義務と責任


1「成年後見業務の特徴
0 成年被後見人と成年後見人は事実上対等ではない
成年後見制度は、判断能力の不十分な成年者を保護するとともに支援するための制 一度であるので、成年後見人は成年被後見人の生涯にわたってその生活全般を支えなけ
ればならない。そこで問題となるのが、成年被後見人は判断能力が不十分であるため、 成年後見人の執務について反対したり意見を述べたりすることが難しいということで ある。例えば、成年後見人から施設入所を勧められた場合、成年被後見人は本心では 自宅で暮らしたいと思っていても、判断能力が不十分なうえに、世話になっていると いう負い目などもあり、成年後見人の言いなりになってしまいやすい。さらに極端な ケースでは、成年後見人から虐待を受けたり財産を横領されたとしても、苦情を言う ことができず、それどころか成年後見人をかばって被害を隠すことさえあるかもしれ
・任意後見においては、判断能力があるうちに契約を締結するのであるが、この場合 でも情報の質および量、そして交渉力などにおいて本人より任意後見受任者のほうが 圧倒的に優位にある。そのため、本人にとって不利な契約内容であっても言われるが ままに応じてしまいかねない。その代表的なものが、高額な報酬の規定である。 2 依頼者と成年被後見人は別の場合が多い
法定後見制度を利用しようとする場合の依頼者(相談者)は、権利を守られるべき 客体である成年被後見人ではない場合が多いことも成年後見制度の特徴である。例え ば、不動産の処分を主な動機とする成年後見の申立ては、通常、親族や建設業者、金 融機関などから依頼を受けるが、この場合依頼者は「成年被後見人の利益」よりも「家 族の利益」等を優先して申立ての相談をするなど、成年後見人は、どうしても依頼者 の意向に引きずられがちである。 8 定型化されたマニュアルがない
成年後見制度は法律、福祉、医療等交錯する新しい分野だけに、実務書や判例も少 なく、成年後見人は判断に迷ったり試行錯誤を繰り返しながら職務を行っているのが

113頁。

実情である。加えて、家族や利害関係人から不当な干渉を受けたり、医師から「医療行為の同意」を要請されたりするので、「迷い」は枚挙にいとまがない。しかし、各々 の事案は十人十色であって、定型化にはなじまない。そのため、成年後見人にとって、 長期間に及ぶ権利擁護活動を安定して行うための確固たる「羅針盤」が求められてい
以上のような特徴があることから、成年被後見人を保護するため、成年後見人にはい くつかの法律上の義務が課されている。
2「善管注意義務猫
成年後見人の法律上規定されている基本的な義務として、まず善管注意義務があげら れる(民法第 869条、第644条の準用)。成年後見人は、財産管理についても身上監護に ついても、その執行にあたっては善良なる管理者の注意をもってしなければならない。 この注意義務に反して成年後見人が成年被後見人に損害を与えると損害賠償責任を負う (第415条)。これは、子の財産管理の親権者における自己のためにすると同一の注意 義務(第827条)よりも加重されている(ちなみに、親権者が子の成年後見人に就任し た場合には善管注意義務を負うと解される。そのため、成年後見人となった親権者は、 子の財産はあくまで「他人の財産」であるという意識をもつ必要がある)。
善管注意義務とは、成年後見人の職業・地位・知識等に応じて一般的に要求される平。 均人の注意義務を指す点で抽象的である。しかし、具体的な場合の取引の社会通念に 従って、相当と認むべき人がなすべき注意の程度をいうものとされる。例えば、法律専 門家、福祉の専門家には自ら定めた独自の職業倫理、会則、執務規則等が存在し、それ らの組み合わせによって具体的な「善管注意義務」は決定されると考えられる。
善管注意義務の具体例としては、まず分別管理である。親族が成年後見人の場合、成 年被後見人の収入と成年後見人の収入を一体としてしまうことが往々にして見受けられ、 るが、このような「どんぶり勘定」は改めなければならない。つまり、成年被後見人の 支出には成年被後見人の収入を充て、成年後見人の支出には成年後見人の収入を充てな ければならない。
次に、自己執行義務である。成年後見人は本人との信頼関係が基本である。また、本 - 人の生活状況を的確に把握していなければならない。したがって、自ら事務を行うこと が求められ、安易に復代理人や事務代行者を選任し、これらに任せるべきではない。 2008(平成20) 年、未成年後見の事例であり、かつ刑事事件であったが、成年後見人
等の善管注意義務を考えるにあたって、注目すべき判例が出された。

114頁。

事案の概要は次のとおりである。未成年者Aの後見人に選任されたAの祖母Xは、 ここから預り保管中の貯金口座から高額の貯金を引き出し横領した。この場合の未成年後!
人がAの祖母であったため、刑法第244条の親族相盗例(一定の親族間においては横 罪などを犯しても刑を免除する制度)に該当するとの主張がなされたが、最高裁判所は 被害者Aとの関係が親族であっても、家庭裁判所から未成年後見人に選任された以上、 公的任務を帯びるのであるから、親族相盗例の適用はなく、Xの行為が横領罪に相当す るとされた(最高裁 2008 (平成20) 年2月18
この判例によって、未成年後見人の公的性格が明らかにされたと考えられる。裁判所 による任命によって公的任務を帯びるという点では、成年後見人にも当てはまる考え方 である。
成年後見人等の善管注意義務は、民法上の義務のみならず、家庭裁判所の公的な信任 関係に基づき国家からも一定の義務が託されている、と考える。
3 「身上配慮義務および本人の意思尊重義務
■ 身上配慮義務
では、成年後見人は「善管注意義務」を忠実に守り誠実にしっかりと本人の財産を管 理していれば、それでよいのだろうか。その答えが民法第 858 条の「成年後見人は、成 年被後見人の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務を行うに当たっては、成年被 後見人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならな い」という規定である。立法担当者は、この規定の法的性質を「身上監護の充実の観点 から、成年後見人が成年被後見人の身上面について負うべき善管注意義務の内容を敷衍 し、かつ明確にしたもの」であると位置づけている。成年後見人の本分はあくまで身上 への配慮、すなわち本人の生活全般や福祉のあり様に目を向けることにあり、そこで成 一年後見人の職務遂行上の指針として、「身上配慮義務および本人の意思尊重義務」を設け たのである。この規定により、「善管注意義務」は「身上配慮および本人の意思尊重」に
融合され、成年後見人の職務のあり方がより具体的になった。多様なニーズに応える成 1年後見事務のいわば羅針盤ともいうべき指導原理を定めることにより、すべての成年後 二見人の到達目標を明らかにしたのである。要は、成年後見人は財産管理のみに気をとら れ、単に本人の財産と成年後見人の財産とを分けて管理するという程度に終始していた
9) 田山輝明「公的成年後見制度」『実践成年後見』 No.28, 2009.、照沼亮介「後見人の横領行為と親族相盗例
最高裁平成20年2月18日決定を契機として」『実践成年後見』No.26, 2008.

115頁。

のでは権利擁護の担い手としては失格である、という事を示している。
例えば、本人が自宅で身の回りの事するのが困難になった場合は、本人の財産を有効に使って配食サービスや訪問介護を手配しなければならない。自宅での生活に支障 が生じるようになったら本人の意思も確めつつ施設への入所を検討するなど積極的な対 応が求められる。成年後見人が何もせず本人を放置すれば身上配慮義務に違背し、その 結果、本人に損害が生じれば、成年後見人はそれを賠償しなければならない(民法第415 条)。また、任務を怠ったものとして家庭裁判所から成年後見人としての責任を問われ ることもある。
| 本人の意思尊重義務が生 本人の判断能力が低下しても、また十分に意思が表明できなくても、生活の主体はあ くまで本人である。そこで成年後見人は、「見守り」を行ったり、家族や介護者などから 意見を聞くなどして、本人の身上を的確に把握し、本人が望む(望むであろう)最もよ い方法(選択)、すなわち「最善の利益(ベスト・インタレスト)」を具体化する必要が ある。
また、成年後見人は「本人の意思尊重」と「本人保護」との調和を図りながら成年後 見事務を行うことが求められる。つまり、本人の希望や自己決定が必ずしも妥当性が
あって安全性の高いものとは限らず、時には保護の必要性と本人の意思の衝突という事
態に直面することもある。例えば、宗教団体への寄附、アルコール依存症患者の飲酒、
高額なダイエット食品の購入等である。成年後見人は、このようなときに、本人保護の
ためパターナリスティック(父親的態度)からこれを許さない方向でいくのか、それと
も本人の意思尊重という指針を重視するのか、という選択を迫られる。
後見事務の羅針盤として 成年後見業務は、人間感情や利害関係が錯綜する業務であり、成年後見人は頭では理 解していても判断に迷うこともある。このようなとき、民法という実体法において、「身 上配慮義務および本人の意思尊重義務」という成年後見人共通の指導原理が明らかにさ れたことは、成年後見人の執務姿勢をゆるぎないものにするうえで大きな意義がある。 成年後見人が家族や利害関係人にあれこれ言われ、判断の岐路に立ったときは、基本理 念に立ち返ればよいのである。

116頁。

4 居住用不動産の処分
■成年後見人は、成年被後見人の財産に関する法律行為について包括的な代理権をもっ ている(民法第 859条第1項)が、居住用不動産の処分という場合に限定して家庭裁判 所の許可を要するものとされている(第859条の3)。居住環境の変化は精神医学的に 成年被後見人の精神の状況に大きな影響を与えるものとされているためである。 信
したがって、成年後見人は、不動産を処分する場合、まず、居住用かどうかを検討す る必要がある。居住用とは、現に居住の用に供し、また供する予定があることをいう。 施設に入所したため自宅を長期間空けていても、過去において居住の用に供していた不 動産は成年被後見人の心のよりどころとなっていることが多いため、将来において居住 の用に供する可能性が少しでもあれば、居住用とみるべきである。また、「土地」であっ てもそれが唯一の不動産であれば、居住用不動産とみなされるので注意する必要がある。
次に、本当に処分する必要があるかどうかである。成年被後見人の療養看護費用や生 活費等の捻出のためなど具体的な必要性がなければならない。例えば、本人に十分預貯 金がある場合は、有利な条件で処分できるからというだけでは必要性に疑問がある。
対象となる行為は、成年被後見人の居住用の建物または敷地についての売却、賃貸、
賃貸借の解除、抵当権の設定、そして贈与、使用貸借などがある。
許可の申立ては、処分の相手が確定した段階で行う。成年後見人が家庭裁判所の許可 を得ないで成年被後見人の居住用不動産を処分した場合には、当該処分行為は無効にな ると解される。
5|利益相反行為
成年後見人と成年被後見人との利益が相反する行為については、成年後見監督人があ る場合を除いて、成年後見人等は家庭裁判所に特別代理人の選任を申立てなければなら ない(民法第860条、第826条)。利益が相反する場合には、成年後見人が自己の利益の ために成年被後見人にとって不利益な行為をするおそれがあるから、成年後見人の権限 を制限し、成年被後見人のために別の代理人を立てることにしたのである。これに反し、 てなされた成年後見人の行為は無権代理行為となる(第 113 条)。
代表的な行為として、まず、成年後見人と成年被後見人との契約である。成年後見人 が成年被後見人を代理して自己(成年後見人自身)と契約を締結する行為は利益相反行 為である。売買、貸借、金銭消費貸借等があげられる。ただし、成年後見人から成年被 後見人への贈与など、成年被後見人が単に利益を受けるだけの契約は含まれない。

117頁。

次に、成年後見にんと成年被後見人がともに相続人である場合の遺産分割協議は、成年被後見人と成年被後見人との間で互いに自己の利益を主張し、あるいは譲渡しあったりする行為であるので、成年後見人が成年被後見人を代理して遺産分割協議を行うことは利 益相反行為に該当する。結果的に成年被後見人が法定相続分あるいはそれ以上取得して も遺産分割協議それ自体が利益相反行為であると解されている。特別代理人選任の申立 ては、契約書案や遺産分割協議書案を添付して行う。
また、成年後見人が負担する債務について、成年被後見人に保証、連帯保証させ、あ るいは成年被後見人の所有不動産に担保権を設定し、あるいは成年被後見人に債務を引 き受けさせる行為も利益相反行為に該当する。
E
6 家庭裁判所等との連携
・成年後見人の職務は、日常の細々とした金銭の管理から、財産の処分、療養契約の締 結、身上監護に至るまで多岐にわたる。特に、身上監護については、見守り、虐待防止、 介護サービスや医療に対する監視、改善の要求など相当に広い。そこで、成年後見人に は広汎な知識や実務対応能力を必要とされるが、たとえ専門職後見人であっても一人の 力では限界がある。例えば、施設入所者の場合も、医師や施設関係者の協力なしには、 本人の身上配慮義務を果たすことはできない。 そのため、重要な法律行為を行う場合等は、独善的に結論に導くのでなく、謙虚にほ
かの専門職能に相談したり、関係機関に応援を求めるなどして、最善の方法を選択し実
行すべきである。そのような努力をせず、また連携を求めず、何でも自分一人の判断で 行おうとするのは不適切な姿勢といわざるを得ない。
特に家庭裁判所との連携は重要である。家庭裁判所から誠実に職務を果たすことが期
待できる適任者として選任された成年後見人は、成年被後見人のために家庭裁判所と協
力する必要がある。例えば、重要な財産(非居住用不動産等)の処分、遺産分割、親族 への贈与・貸付、慶弔に伴う高額な支出などをする場合は、事前に家庭裁判所に相談す ることが望ましい。
プパター12ムに3世 7 保佐人、補助人の義務と責任
前述の善管注意義務、身上配慮義務および本人の意思尊重義務、居住用不動産の処分、
家庭裁判所等との連携については、保佐人、補助人についても同様である。

118頁。

第7節、成年後見制度の最近の動向と課題
1「成年後見制度の運用状況
成年後見制度の利用は、毎年ほぼ右肩上がりで増加しており、社会に定着しつつある。 2012 (平成 24) 年1月から12月までの1年間における全国の家庭裁判所の成年後見 係事件(後見開始、保佐開始、補助開始および任意後見監督人選任事件)の申立件数に 3万4689 件で、旧制度(禁治産・準禁治産制度)のそれと比して飛躍的に増加した。そ の結果、成年後見制度が施行された2000(平成 12)年4月から2012 (平成24) 年12月 末日時点における成年後見制度の利用者数は合計で16万6289人にのぼる。
しかし、わが国の認知症高齢者は推定で462万人、知的障害者は約55万人、精神障害 者は約323万人といわれている実態と対比すると、利用者数は少ないといわざるを得な い。成年後見を必要としながら、その利用から疎外されている高齢者や障害者が数多く 存在するという現実を直視し、申立人や後見人が見つからない人でも、資産の少ない人 でも「誰でも利用できる制度」にするための方策を立てる必要がある。
次に、運用状況をみてみよう。2004 (平成 16) 年5月に埼玉県富士見市で認知症の姉 妹がリフォーム業者から必要のないリフォーム工事契約を締結させられ、それによって 多額の負債を負った事件が起きた。不幸な事件ではあったが、この事件を契機に、不当 な訪問販売などによる権利侵害などから認知症高齢者を守るには成年後見制度の利用が 非常に有効であるという指摘がなされるようになった。
こうした状況を受け、2005(平成17)年6月に介護保険法が改正されて、高齢者等に 対する虐待の防止および早期発見等の権利擁護事業が市町村の必須事業とされるように なった(介護保険法第 115条の45第1項第4号)。さらに、2006(平成18) 年4月1日 から施行されている「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」 (以下、高齢者虐待防止法) 第28条では、国および地方公共団体は、成年後見制度が広 く利用されるようにしなければならない旨を定めている。他方、障害者総合支援法にお いても、障害者の権利擁護を市町村の責務とし、都道府県も市町村と協力して障害者の 権利擁護のため必要な援助を行うことと規定されている(障害者総合支援法第2条)。 最近、成年後見制度の利用を促進するうえで大きな動きがあった。一つは、2011

119頁。

年6月老人福祉法に第32条の2(後見等に係る整備等)が追加され、成年被後見人等の人材確保や育成を市町村の努力義務に位置づける以止が行われたことである(施行は 2012 (平成24) 年4月1日)。続いて、知的障害者福祉法第28条の2、障害 者総合支援法第77条においても同様の改正があり、市民後見人の育成および活用に向 けての取組みが本格的に始動している。 ■具体的には、市民後見人の養成研修の実施、履修者に対する家庭裁判所への推薦、後 見人への支援などである。この改正により、市民後見人が成年後見制度の担い手として。 公的に位置づけられることになり、市町村申立ての活性化につながることが期待される。
もう一つは、2011 (平成 23) 年6月に公布され 2012 (平成 24)年4月1日に施行され た「民法等の一部を改正する法律」により改正された民法および児童福祉法等である。 この改正は、児童虐待の防止等を図り児童の権利利益を擁護する観点から、民法に「親 権停止」の制度を新設するとともに、法人または複数による未成年後見人の選任を認め るものである。従来は、未成年者が財産を持つ場合を除いて、親権者のいない未成年者 に後見人をつけることはほとんどなかった。しかし、虐待防止や適切な身上監護を図る ため成年後見制度が整備されたように、未成年後見制度についても改正がなされ、今後 いっそう未成年者の権利擁護が図られることになった。
2 課題
■ 医療行為の同意 医療を受けるための契約を締結することは、成年後見人の療養看護に関する職務に属 するが、医療行為を受けること自体については、本人の同意が必要であり、成年後見人。 には、その同意を代理する権限はないとされている。この点について立法担当者は、「医 療行為の同意については成年後見人だけの問題ではなく、未成年や一時的に意識を失っ た場合の他者同意と共通の問題がある。また、誰が決定、同意するのか、その根拠、限 界は何かなど、社会一般のコンセンサスがとれていないから、これから幅広い議論が必 要である」としている。
ところが、後見実務上では、医療機関から成年後見人等が医療行為の同意を求められ ることが多い。現場からはインフルエンザの予防接種、足の切断、経管栄養、眼球摘出 など成年後見人が同意を求められた事例が多数報告されている。多くは、成年後見人に は医療の同意権がないと説明して了承させているが、「同意がなければ医療行為ができ ない」と言われて、やむなく同意書に署名したというケースも少なくない。また、医師 から胃瘻造設の手術の同意を求められ、同意できない旨を説明しても、さらに強く要請

120頁。

され、家庭裁判所の了解を得てやっと同意した事例も報告されている。この事例では、 対応を決定するまでに多くの時間を費やし、成年被後見人が取り返しのつかない不利益 を被るおそれがあった。
医療を受ける必要がある者が、同意する者がないために医療を受けられないという事 態は絶対に避けなければならない、との観点から、レントゲン検査、インフルエンザの 予防注射等当該診療契約から当然予測される危険性の少ない軽微な医療行為については 成年後見人に同意に関する代行決定権があると解釈する見解が発表され、実務において も一定の影響を与えている。 また、日本弁護士連合会、公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート、最近
では日本成年後見法学会等が、医療行為同意権についての改善提言を行っている。
■ 本人死亡後の成年後見人の事務
成年被後見人等の死亡によって、成年後見は終了する。成年後見人の権限は消滅し、 その後、成年後見人の事務は、管理計算(民法第 870条)、相続人への財産の引継を行っ て完了し、その間は、成年後見人は応急処分義務(民法第874条、第 654条)を負うの みとなる。また、本人の死亡により残った財産は相続人に帰属するので、「成年後見人で あった者」の財産管理権は相続人に引き継がれる。
しかしながら、実際問題として、成年後見終了から財産承継までの間に、成年後見人 には、明確な法的根拠なしにさまざまな行為を周囲から求められることが多い。これは、 親族が成年後見人である場合はあまり問題とならなかったのだが、第三者後見人の場合 に顕在化してきた問題であるといえる。例えば、相続人が存在しない場合や、存在して も協力しない場合、葬儀等を第三者後見人等が行わなければならない場合が現実に生じ ている。その他、遺体の引き取り、葬儀、埋葬、法要・永代供養等の費用の支出、未払 いの医療費・入院費・施設利用料・公共料金の支払い、成年後見人による預貯金の出金・ 解約等が問題となる。また、保管していた財産の相続人等への引継についても、相続人 間に紛争がある場合等困難な問題を生じている場合がある。ただし、死亡届については、 戸籍法が改正され、2008(平成 20) 年5月より成年後見人等に届け出の権限が認められ るようになった(戸籍法第 87 条第2項)。
このような場合、解釈上、応急処分義務(民法第 874条、第654条)や事務管理(民 法第 697 条)の適用が考えられる。さまざまな解釈がなされているが、広く応急処分義 務とすれば、成年後見人に多大な義務を認めることとなり、現行法の解釈としては限定
10) 上山泰「専門職後見人と身上監護』 民事法研究会,111~125頁,2008.

121頁。

的に認めるべきであろう。また、事務管理とすれば、成年被後見人に多くの負担を負わせるのみで、報酬請求権すら認められないことになる。
このように、成年被後見人の死亡によって成年後見人の職務が終了し、応急処分義務 が認められる場合以外は何らの権限も失ってしまうというのでは、成年後見人を極めて 不安定な地位に放置することになる。成年被後見人死亡後であっても、成年後見人にそ の後に必要となる事務処理を行いうる権限を与えるような法整備を行うべきである。
成年被後見人・被保佐人の資格制限の見直し 現行の成年後見制度が導入されるに際して、成年被後見人・被保佐人の資格制限規定 について一応は見直され、158 件から118 件(当時)への削減を実現したものの、その後 追加された法律等もあり、現在では 170 件を超える資格制限、欠格条項が引き続き存置 された状態である。これらの項目のなかには、成年被後見人・被保佐人の社会参加を阻 むようなものも含まれており、ノーマライゼーションの理念から考えて、見直すべきで あるという意見が多い。 , 特に、公職選挙法第11条第1項第1号は、成年被後見人は選挙権・被選挙権を有しな いと規定されていたが、後見開始時では選挙に関する能力について測られていない。そ もそも、財産管理をする能力と選挙権を行使する能力とは同一とは限らない。本人の能 力の多様性を無視して、これを一律に制限するのは禁治産宣告と同様のスティグマ(烙 印)を与え、憲法で保障された普通選挙の理念に反し、著しく基本的人権を損なうもの として学者や実務家から問題視されていた。こうした世論が盛り上がり、2013(平成25) 年3月14日、東京地方裁判所は、「成年後見を利用すると選挙権を失うことになる公職 選挙法は、憲法に違反し無効である」とする判決を下した。この判決により、約13万 6400 人の成年被後見の選挙権が回復し、その後初の国政選挙となる同年7月21日の参 議院選挙には、多くの人が投票したと思われる。
しかし、2006年12月13日、国連総会において「障害者の権利に関する条約」が全会 一致で採択され、わが国も 2007(平成19) 年9月28日これに署名した。そして、2013 (平成25)年 12月の国会の承認を受け、政府が批准手続を進めている。これを機に、制度 の利用を逡巡させてしまうような他の資格制限を早急に見直すことが求められている。
市町村長申立ての活性化 市町村長に申立権を付与した法の趣旨は、身寄りのない認知症高齢者等について、民 生委員や福祉関係者からの情報に基づいて迅速かつ的確に法定後見開始の審判の申立て が行われ、適切な保護がされることにある。そのために、老人福祉法第32条、精神保健

122頁。

及び精神障害者福祉に関する法律第 51条の11の2、知的障害者福祉法第28条におい て、「その福祉を図るため特に必要と認めるときは」市町村長も申立てができることと なった。しかし、「特に必要と認めるときは」という文言から自治体の一部では市町村長 の申立ては行政の自由裁量であるかのように受け取られているところもある。
介護保険法の改正、高齢者虐待防止法の制定、障害者自立支援法(現・障害者総合支 援法)の制定等により、保護必要事案における市町村長の成年後見申立ては自治体の義 務と解される。したがって、前述した老人福祉法の改正(第32条の2の追加) 等を契機 に、自治体においては成年後見制度を利用して高齢者や障害者の権利擁護を図るための 体制整備が急がれる。
■ 成年後見人の養成と支援
を 行う | 2005(平成17)年、市民後見人という名称が、リーガルサポートや日本成年後見法学 会によって提唱されてから早8年が経過した。当初は、「専門職でない人が権利擁護活 動を担えるのか」等の消極論がみられたが、東京都品川区、世田谷区、大阪市をはじめ とする先駆的な取組みにより、市民後見人は社会的にも評価され、その存在はより確か なものとなった。認知症高齢者推計約462万人、知的障害者約 55 万人、精神障害者約 323 万人という膨大な人々の生活を考えると、親族後見人と専門職後見人だけで支援し ていくことは、到底不可能と言わざるを得ない。
特に明らかになったのは、市民後見人は、専門職後見人の補充でなく、本来的な担い 手であるという点である。身上監護面におけるきめ細かい見守りなどの強みがあり、事 案によっては市民後見人の方が適任というケースが一定程度あることも認識された。既 に、社会貢献を生きがいとして、意欲ある市民が養成研修を受け、市民後見人として(個 人受任)、また法人後見の支援員として、活躍している。
その流れを大きく決定づけたのが、2012 (平成24)年4月1日に施行された老人福祉 法等の改正である。同法第 32 条の2において、市町村における市民後見人育成および 活用が努力義務とされた。これは、成年後見制度の利用促進に最も必要とされる担い手 の確保を求めたものであり、公的支援の導入にほかならない。
注目すべきは、最高裁判所の概況報告「8 成年後見人等と本人との関係」においても、 2011 (平成 23) 年の統計から「市民後見人」という独立した名称が用いられていること である。最高裁判所は、親族後見人や「その他の個人」とも異なり、かつ専門職後見人 でもない市民後見人を新たな担い手として公的に認知したといえよう。市民後見人の活 動は、社会的にも評価され、かつ国の施策や司法においても一定の位置づけがなされて いることから、市民後見人はわが国の高齢社会にしっかり根を張り始めたといえる。

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市民後見人の定義は、まだなされていないが、リーガルサポートは、
 司法書士・弁護士・社会福祉士などの専門職でない一般市民であるさ 2 市民後見実施機関が行う市民後見人養成講座を修了している
。 家庭裁判所から成年後見人等として選任されている 0 個人受任が原則である(多数の社協、NPO 法人等が法人後見を行っている現状から、 7 法人後見の「支援員」として活動している形態もある) 6 任意後見人は含まない。 6 自治体またはその委託を受けた社協、NPO法人等の市民後見実施機関、さらに専門
職等のサポートを受けている 0 本人と同じ地域に住んでいる
。 8 社会貢献として本人のための権利擁護活動をする 。 としている。要約すると、「市民後見人とは、家庭裁判所から後見人として選任され、社 協、NPO法人等のサポートを受け、地域社会で社会貢献を目的として本人の権利擁護活 動を行う一般市民のことである」となる。 これから市民後見人を養成・育成していくうえで、留意すべき点を指摘したい。 第一に、市民後見人は、家庭裁判所という公の機関の判断(審判)によって初めて活 動ができることである。市民後見人になろうとする人が、いかに意欲があっても、高い 志があったとしても、法律や福祉を熟知していても、「本人の権利擁護者にふさわしい」 という「お墨付き」(審判)がなければ、市民後見人の「候補者」に過ぎない。市民後見 人の活動は、「自発的な意思に基づいて行う社会貢献活動」という点では、一般のボラン ティア活動と共通しているが、市民後見人は家庭裁判所の審判により生じた後見活動、 つまり「公的任務」を帯びている点で、一般のボランティア活動と峻別される。
第二に、市民後見実施機関として想定されている社協、NPO法人、一般社団法人等は、 厚生労働省の勧める50時間の研修を自前で用意する必要がある。これは、市民後見人 になるための要件の一つと思われるから尊重すべきである。また、市民後見人養成ない し活動は、成年後見制度の利用を必要とする市町村、社協の委託や協力要請に応える形 で実施されるべきである。市町村と何の脈絡もなく、養成だけが先行して行われると、 養成された市民は「市民後見人」に選任されないまま放っておかれることになりかねな
第三に、市民後見実施機関は、家庭裁判所、専門職との協力関係を築くことが重要と 考える。市民後見人が活動をしていくなかで、対応に迷ったり、問題が起きたりしたと きに、「自分だけで解決する」「実施機関の内部で処理する」という考え方は、事件の発 見を遅らせ、その問題をさらに大きなものにし、場合によっては取り返しのつかない結

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果を生むことにもなりかねない。そのようなときは、専門職や家庭裁判所等に相談
協力を求めるという姿勢が大切である。専門的な知識・経験をもつ人の知見の協力・支 援を求めようとしなければ、市民後見人を支援すること、その先にある本人を支援する ことも難しくなるのではないかと考える。
■ 後見制度支援信託の導入
家庭裁判所は、成年後見監督人等の選任の有無にかかわりなく、成年後見人の事務を 監督する(85頁参照)。しかし、親族後見人等による不正事案の発生が問題となってお り、その対策が喫緊の課題となっているところ、最高裁判所は、横領等の不正防止のた め「後見制度支援信託」を2012 (平成 24)年2月から開始することを発表した。この制 度は、新規に親族後見人を選任する事案において、被後見人の財産のうち、日常生活に 使用しない分を信託銀行に信託財産(基本的には現金および預貯金等)として預け、日 常生活などに必要な額を後見人が管理する仕組みである。未成年後見事件もその対象と なる。
後見制度支援信託を利用する場合は、信託の条件を適切に定めるなどのため、原則と して後見開始当初は専門職に関与してもらうことが想定されている。
なお、2013(平成25) 年1月、最高裁判所は、信託の対象を管理継続中の事件を後見 制度支援信託の利用対象に加えたいとの意向が示された。この制度の趣旨から妥当と思 われるが、不正防止のためには、後見人の監督・支援体制の拡充・強化が喫緊の課題と 考える。
3「誰でも利用できる制度として
成年後見制度が施行されて10余年が経過し、法制度上および運用上のさまざまな課 題が指摘されている。 「目を世界に転じると、ハーグ国際私法会議「成年者の国際的保護に関する条約」(1999 年)、国際連合「障害者の権利に関する条約」(2006年)が採択されており、判断能力が不十 分な人をどのように保護・支援していくかという課題は、世界共通のものになっている。
このような状況のなか、横浜で「2010年成年後見法世界会議」が開催され、その成果 として「成年後見制度に関する横浜宣言 (Yokohama Declaration) が採択された。この 横浜宣言は、成年後見制度が世界各国において果たすべき役割の重要性をあらためて確 認したうえで、世界各国が共通して直面している課題のほか、わが国独自の課題を取り 上げている。

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2010年10月4日
横浜にて
1.世界の課題
3. (成年後見制度の基本原則)
そのうえで次の5点をここに宣言する。 (1) 人は能力を欠くと確定されない限り特定の意思決定を行う能力を有すると推定され
なければならない。 (2) 本人の意思決定を支援するあらゆる実行可能な方法が功を奏さなかったのでなけれ
ば、人は意思決定ができないとみなされてはならない。 (3) 意思能力とは「特定の事柄」「特定の時」の両方に関連するものであり、行なおうと する意思決定の性質および効果によって異なること、また同じ人でも一日の中で変動 し得ることを立法にあたっては可能な限り認識すべきである。 (4) 保護の形態は、本人を守ろうとするあまり全面的に包み込み、結果としてあらゆる 意思決定能力を奪うものであってはならず、かつ本人の意思決定能力への制約は本人 または第三者の保護に必要とされる範囲に限定されるべきである。 (5) 保護の形態は適切な時期に独立した機関により定期的に見直されるべきである。 4. (成年後見人の行動規範)
特定の時に特定の意思決定を行う能力を欠くすべての成年者は、意思決定過程におい て他に支援や代理を得ることができない場合には次のような資質を有する後見人を持つ 権利があることを、更に宣言する。 (1) 本人に代わって意思決定を行なう際には適切に注意深く行動する。 (2) 公正かつ誠実に行動する。 (3) 本人の最善の利益を考えて行動する。 (4) 本人に明らかな危害が及ばない限り、本人の要望、価値観、信念を事前に知ること
ができ、または推認することができるときには、それらを最大限に尊重し、遵守する。 (5) 本人の生活に干渉する場合は最も制約が小さく、最も一般化された方法にとどめる。 (6)本人を虐待、放棄、搾取から守る。 (7) 本人の人権、市民権を尊重し、これらの侵害に対しては常に本人に代わってしかる - べき行動を取る。 (8) 本人の権利である年金、社会福祉給付金、福祉サービスなどを本人を支援して積極
的に取得させる。 (9) 後見人という立場を私的に利用しない。 100本人と利害対立が起きないよう常に配慮を怠らない。 (11)本人が可能であればいつでも独立した生活を再開できるよう積極的に支援する。 (12) 本人をあらゆる意思決定過程に最大限参加させる。 (13)本人の参加を奨励し、本人のできることは本人にまかせる。 (14) 正確な会計記録を付け、任命権者たる裁判所あるいは公的機関の要請に応じて速や

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かにそれを提出する。 (15)任命権者たる裁判所あるいは公的機関より付与された権限の範囲で行動する。 (16)どのような形態の後見が継続して必要であるかについて定期的に見直しをうける。
中略】 II.日本の課題
2010年成年後見法世界会議における日本からの参加者は、本宣言Iの趣旨に全面的な賛 意を表明したうえで、特に国連の「障害者権利条約」とハーグ国際私法会議の「成年者の 国際的保護に関する条約」を日本政府が早期に批准することを要望し、以下の事項を「横 浜宣言」に含めることを確認し、これに海外からの参加者も同意した。 1.現行成年後見法の改正とその運用の改善 (1) 全国の市区町村長が成年後見等に関する市区町村長申立てをさらに積極的に実施し
うる体制を法的に整備すべきである。 (2) 成年後見制度を利用するための費用負担が困難である者に対しては公的な費用補助
を行うべきである。 (3) 成年後見等の開始には本人の権利制限という側面があることに鑑み、原則として鑑 定は実施すべきであり、また本人面接は省略すべきではなく、鑑定・本人面接の実施 率が低水準にとどまっている現状を改善すべきである。 (4) 現行成年後見法は、成年後見人が本人の財産に関してのみ代理権を有すると規定し ているが、成年後見人の代理権は財産管理に限定されるべきではなく、これを改める べきである。成年後見人は、本人の医療行為に同意することができるものとすべきで
ある。
(5) 現行成年後見制度に多く残されている欠格事由は撤廃すべきである。特に後見開始
決定に伴う選挙権の剥奪には合理的根拠はなく、憲法で保障された普通選挙の理念に 反し、基本的人権を著しく損なうものである。 (6) 任意後見制度は「自己決定権の尊重」に最も相応しい制度であるが、その利用は決 して多いとはいえない。任意後見制度の利用を促進し、同時にその濫用を防止する立
法的措置を講じるべきである。 2.公的支援システムの創設
成年後見制度は、利用者の資産の多寡、申立人の有無等にかかわらず「誰でも利用で きる制度」として位置づけられるべきであり、そのためには行政が成年後見制度全体を 公的に支援することが不可欠である。このような公的支援システムは「成年後見の社会 化」を実現するものであり、行政による公的支援システムの創設を提言する。成年後見 制度の運用面における司法機能、とりわけ家庭裁判所の機能の一層の拡充・強化を図る ことが公的支援システムの円滑な実施の大前提となるべきである。このような公的支援 システムの創設は、本人の親族、一般市民、各専門職間のネットワークを拡充させ、適 切な成年後見人の確保、成年後見制度の権利擁護機能の強化に資するものである。 3.新たな成年後見制度の可能性
現行成年後見法の枠内にとどまることなく、常に新しい理念を求めてさらなる発展の 可能性を模索すべきである。 (1) 現行成年後見法は後見、保佐、補助、という3類型を前提としているが、とりわけ

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後見類型においては本人の能力制限が顕著である。国連の障害者権利条約第12条の趣旨に鑑みて、現行の3類型の妥当性を検討する必要がある。同時に、成年後見手続 における本人の保護に関する検討も必要である。 (2) 本人の能力制限をともなわない保護手段として信託の活用が考えられるが、日本に
おいてはこのようなタイプの信託は普及していない。裁判所が信託設定に関与する成 年後見代替型の信託制度導入について検討する必要がある。 (3) 交通事故被害者等の高次脳機能障害者が成年後見制度を殆ど利用していない現状を
改善するために、新たな立法によって高次脳機能障害者が成年後見制度を利用しやす くするための方途を講じるべきである。







第六章 地域支援事業等(地域支援事業)●第百十五条の四十五 市町村は、介護予防・日常生活支援総合事業のほか、被保険者が要介護状態等となることを予防するとともに、要介護状態等となった場合においても、可能な限り、地域において自立した日常生活を営むことができるよう支援するため、地域支援事業として、次に掲げる事業を行うものとする。●一 被保険者の心身の状況、その居宅における生活の実態その他の必要な実情の把握、保健医療、公衆衛生、社会福祉その他の関連施策に関する総合的な情報の提供、関係機関との連絡調整その他の被保険者の保健医療の向上及び福祉の増進を図るための総合的な支援を行う事業●二 被保険者に対する虐待の防止及びその早期発見のための事業その他の被保険者の権利擁護のため必要な援助を行う事業

※市民後見人の養成研修松山市市民後見人養成講座(基礎編)開催のご案内 将来的な市民後見制度の創設を視野に入れながら、成年後見制度の啓発を図り、松山市 内の成年後見事業の利用を促進することを目的として、認知症高齢者及び知的・精神障がい者の生活支援や後見等の補助業務にあたる人材の養成講座を開催します。

平成25年度成年後見制度啓発事業研修会 - 高齢者や障がい者が安心して地域で暮らすために - 1.目 的 少子・高齢化社会の進展等を背景に、認知症高齢者や知的・精神障がい者が増加 しており、判断能力の低下・喪失した成年者の権利擁護を目的に成年後見制度の利 用ニーズが高まるとともに、身近な地域で成年後見活動を行う市民後見人の養成・ 活用が求められております。 こうした状況を踏まえ、成年後見制度や市民後見制度を幅広く啓発することによ り、市民や福祉関係者等への理解と協力を得るとともに、松山市が取り組んでいる 市民後見人の養成を促進し、認知症高齢者等社会的弱者が安心して暮らすことがで きる地域づくりにつなげることを目的としています。●2.日 時 平成25年1月31日(金)10:00~12:00 3.場 所 松山市総合福祉センター 5階 中会議室(松山市若草町8-2)●4.内 容 演題「成年後見制度と市民後見人について ~認知症高齢者や知的・精神障がい者を守るために~」 講師 公益社団法人成年後見センター・リーガルサポート 理 事 梶田美穂氏●申込み及び問合せ先 松山市社会福祉協議会 地域福祉課(権利擁護担当) 〒790-0808 松山市若草町8―2 TEL.089―913-9046 FAX.089―941-4408 

障害者総合支援法●第三章 地域生活支援事業(市町村の地域生活支援事業)●第七十七条 市町村は、厚生労働省令で定めるところにより、地域生活支援事業として、次に掲げる事業を行うものとする。●障害者等の自立した日常生活及び社会生活に関する理解を深めるための研修及び啓発を行う事業●二 障害者等、障害者等の家族、地域住民等により自発的に行われる障害者等が自立した日常生活及び社会生活を営むことができるようにするための活動に対する支援を行う事業●三 障害者等が障害福祉サービスその他のサービスを利用しつつ、自立した日常生活又は社会生活を営むことができるよう、地域の障害者等の福祉に関する各般の問題につき、障害者等、障害児の保護者又は障害者等の介護を行う者からの相談に応じ、必要な情報の提供及び助言その他の厚生労働省令で定める便宜を供与するとともに、障害者等に対する虐待の防止及びその早期発見のための関係機関との連絡調整その他の障害者等の権利の擁護のために必要な援助を行う事業(次号に掲げるものを除く。)●四 障害福祉サービスの利用の観点から成年後見制度を利用することが有用であると認められる障害者で成年後見制度の利用に要する費用について補助を受けなければ成年後見制度の利用が困難であると認められるものにつき、当該費用のうち厚生労働省令で定める費用を支給する事業

121頁。猫

2013年東京地裁「成年後見を利用すると選挙権を失う事になる公職選挙法は、憲法に違反し無効である」読売新聞 314()

事案:「成年後見人が付くと選挙権を失う」とした公職選挙法の規定は参政権を保障した憲法に違反するとして、知的障害がある茨城県の女性が国に選挙権の確認を求めた訴訟。提訴していたのは、ダウン症がある同県牛久市のNさん(50)。Nさんの財産管理を心配した父親が2007年に成年後見人に付いたため、選挙権を失った。選挙権を制限する規定はもともと、判断力が欠如した「禁治産制度」の利用者を対象とし、同制度を改正して00年に始まった成年後見制度の下でも引き継がれた。原告側は「選挙権を奪うのは、障害者らの決定権を尊重した成年後見制度の理念に反する」と指摘。「選挙権は平等に保障されており、障害の有無などを理由に制限するのは許されない」と主張していた。●結果:規定を違憲、無効とした上で、女性の選挙権を認める判決を言い渡した。●備考:この規定の合憲性を巡る初の司法判断。今回の判決は、札幌、さいたま、京都の各地裁で起きている同種訴訟にも影響を与えそうだ。国側は控訴を検討する。

※精神保健福祉法:第八章 雑則●(審判の請求)●第五十一条の十一の二 市町村長は、精神障害者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法(明治二十九年法律第八十九号)第七条、第十一条、第十三条第二項、第十五条第一項、第十七条第一項、第八百七十六条の四第一項又は第八百七十六条の九第一項に規定する審判の請求をすることができる。●(後見等を行う者の推薦等)

葉っぱ

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