nya介護事故:責任は介護職

【目次】
【01-1業務上過失致死の疑いで、当時介護担当職員の男性(30)と介護主任の女性職員(49)が書類送検された。】【01-2入所者がおやつ詰まらせ死亡、介助の准看護師に有罪判決:朝日新聞3/25(月) 13:49配信 】【02書類送検とはなんですか?】出典:ヴィクトワール法律事務所【03介護担当職員に生じる法的責任 ~法的効果が発生する「主体」(人)という観点から検討してみよう~】行政上の責任。債務不履行責任(民法415条)。不法行為責任(民法709条)。刑事上の責任(業務上過失致死傷罪、刑法211条)。出典:ピクト法律事務所 【04誤嚥事故に関する裁判例の多くは、不法行為責任による損害賠償請求を認めています。】出典:明治安田生命グループ-MY介護の広場【05誤嚥が原因で、低酸素脳症の後遺障害が残ったケースに沿って、損害賠償請求が認められるかを検討。判例(熊本地方裁判所平成30年2月19日)を基に解説。】出典:www.minnanokaigo.com/news/kaigo-text/law/no17/
【01業務上過失致死の疑いで、当時介護担当職員の男性(30)と介護主任の女性職員(49)が書類送検された。
埼玉県さいたま市緑区の有料老人ホーム「イリーゼ浦和大門」で2016年12月、要介護5の女性入所者(当時71)が車いすのまま入浴できる機械浴槽で死亡。
この事故で、安全管理を怠ったとして、今月25日、業務上過失致死の疑いで、当時介護担当職員の男性(30)と介護主任の女性職員(49)が書類送検された。
■「ベルトがない」と指摘も放置
亡くなった女性は病気で上半身の体勢維持が困難であり、職員らが目を離した隙にお湯に浸かって溺死したとされている。
機械浴槽にはもともと腰と胸の位置に安全ベルトが装備されているが、胸のベルトは外されて倉庫にしまってあった。16年7月には業者の点検があり、「ベルトがない」と指摘があったが放置されていたそうだ。
また、入浴介助は通常職員4人で行っていたが、当日は1人が休んだため3人で対応。他の入所者を介護するため、男性らは約5分、女性から目を離したとのこと。
男性元職員は「少しくらいなら大丈夫だと思った」と語り、女性職員は「(職員にベルトを着けるよう)言っても無駄だと思って是正措置を講じなかった」と容疑を認めているという。
【01-2入所者がおやつ詰まらせ死亡、介助の准看護師に有罪判決:朝日新聞3/25(月) 13:49配信 】
 2013年12月、長野県安曇野市の特別養護老人ホームで、女性入所者(当時85)がおやつをのどに詰まらせ、1カ月後に死亡したとされる事件があった。長野地裁松本支部(野沢晃一裁判長)は25日、食事の介助中に女性に十分な注意を払わなかったなどとして、業務上過失致死の罪に問われた長野県松本市の准看護師山口けさえ被告(58)に、求刑通り罰金20万円の有罪判決を言い渡した。
  起訴状などによると、山口被告は同年12月12日午後、同ホームの食堂で女性におやつのドーナツを配った。検察側は女性には口に食べ物を詰め込む癖があったのに、被告は他の利用者に気を取られ、女性への十分な注意を怠ったほか、窒息などに備えておやつがゼリーに変更されていたのに、その確認も怠ったなどと主張した。
  一方、被告側は女性は脳梗塞で死亡したと考えるのが最も合理的で、ドーナツによる窒息が原因で死亡したとの検察側の主張を否定。その上で女性の食べ物を飲み込む力には問題がなく、食事の様子を注視しないといけない状況ではなかった▽ゼリーへの変更は女性が食べ物を吐いてしまうことが理由で窒息対策ではなく、確認の義務はなかった、などとして無罪を求めていた。
  食事介助中の出来事を罪に問うことは介護現場での萎縮を招くとして、裁判は介護関係者の強い関心を呼んだ。無罪を求める約44万5500筆の署名が裁判所に提出された。弁護団も結成され、公判はこの日の判決も含めて23回に及んだ。(佐藤靖)

【02書類送検とはなんですか?】出典:ヴィクトワール法律事務所
逮捕が必要としない事件で起こる

刑事事件の中には、逃亡のおそれがない、証拠隠滅のおそれがないなどの理由から、被疑者(警察等の捜査機関から犯罪をしたという疑いをかけられた人)を逮捕する要件を満たさない事件もたくさんあります。また、逮捕の要件を満たすものの、警察が、敢えて逮捕に踏み切る必要がないと判断することもあります。このような場合、警察は、被疑者を逮捕せず、適宜被疑者を呼び出して取調べをするなどしながら、捜査を進めます。その間、被疑者は、それまでと同じように社会の中で生活を送りながら、何度か警察署へ出向いて、取調べを受けることになります。そして、警察は、取調べの結果などを書類にまとめて検察庁に送る手続を行い、それ以降は検察官が主体となって取調べ等の捜査を行います。これが、いわゆる「書類送検」と呼ばれているものです。
つまり、「書類送検」とは、送検(検察官送致。刑事事件を処理する権限と責任が警察から検察へ移ること。)のうち、その時点で被疑者が身柄拘束されていないもののことです。なお、刑事訴訟法に「書類送検」という言葉はなく、書類送検とはいわゆるマスコミ用語の一種です。また、「書類送検」は、単に事件を取り扱う主体が警察から検察へ移る手続に過ぎず、最終的な刑事処分ではありません。
書類送検された後はどうなるのか

よく、「書類送検なら軽い処分で済む。」というようなことを考えている人がいます。確かに、一般的に言えば、被疑者が逮捕された事件と比べると、逮捕を伴わず書類送検された事件は、結果的に軽い処分で終わる場合が多いといえます。
しかし、これは単なる運用上の割合の違いに過ぎず、書類送検だからといって、軽い処罰で済む保証は法律上どこにもありません。実際、逮捕されることなく書類送検がなされたものの、最終的に罰金刑が科せられたり、正式な裁判(公判)にかけられて執行猶予付きの懲役刑、さらには(数は少ないですが)実刑に処されたりすることもあります。書類送検になったということは、あくまで逮捕の要件が満たされなかった(あるいは、要件は満たすものの警察が敢えて逮捕に踏み切らなかった)ことを意味するにとどまり、このことと最終的な処分や刑罰の重さとは、直接は関係がないのです。
書類送検がなされた事件でも、罰金や懲役刑などの処罰を回避するために弁護人を付けて対応すべき事案は多いので、早めの段階で、是非一度、弁護士にご相談なさることをお勧めいたします。


出典:ピクト法律事務所

【介護担当職員に生じる法的責任 ~法的効果が発生する「主体」(人)という観点から検討してみよう~】
今回は、介護事業サービスを行う際の介護担当職員の法的責任について説明していきます。介護担当職員に生じる法的責任の種類は、以前説明した、介護事業者に生じる法的責任の種類と異なります。比較しながら、順番に検討していきましょう。
1 行政上の責任
 それでは、まず、行政上の責任、つまり国との関係で、介護事業担当職員は何か責任を負うのかという点をみていきましょう。
1.1 介護担当職員には行政上の責任は生じない!!
 介護事業者には行政上の責任が生じますが、介護担当職員には行政上の責任は生じません。
この違いは、なぜ生じるのでしょうか?
1.2 法的効果が発生する「主体」!?
 まず、行政上の責任は、指定や許可を出した事業者に対する地方公共団体の指導・監督責任との意味合いが強いものです。したがって、行政上の責任が生じる「主体」は、地方公共団体から指定や許可を得た事業者ということになります。条文上も、行政上の責任が、指定や許可を受けた事業者に生じると明確に規定されています。
つまり、都道府県等の地方公共団体から直接指定又は許可を受けた介護事業者が行政上の責任を負う「主体」であるのに対し、地方公共団体から直接指定や許可を受けていない介護担当職員は行政上の責任を負う「主体」ではありません。
したがって、地方公共団体から直接指定や許可を受けない介護担当職員には行政上の責任は生じません。
2 民事上の責任
 それでは、民事上の責任についてみていきましょう。これは、人との関係で責任を負うのかという問題です。
2.1 債務不履行責任(民法415条)
2.1.1 介護担当職員に債務不履行責任は生じるのか!?
 介護事業者には、介護サービス利用者に対する責任として、民法415条に基づく債務不履行責任が生じます。では、介護担当職員についてはどうでしょうか。条文を確認しながら、先程の「主体」という観点から検討してみましょう。
(債務不履行による損害賠償)
 第415条
 「債務者」がその「債務」の本旨に従った履行をしないときは、「債権者」は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
大まかにいうと、「債権者」が「債務者」に損害の賠償を請求することができる内容であり、債務不履行責任が生じる「主体」は「債務者」であることがわかります。この債務不履行責任は、契約に基づく責任とも言われます。
  今回は、介護サービス利用者が介護担当職員に債務不履行に基づく損害賠償を請求できるかどうかの問題ですから、「債権者」は介護サービス利用者です。では、介護担当職員は債務不履行責任が生じる「主体」たる「債務者」ですか?介護サービス利用者に対して「債務」を負っていますか?
2.1.2 介護事業者は「主体」といえるか!?
 以前説明したように、介護事業者には、介護サービス利用者と介護サービス契約を締結することで、契約で定めた介護サービスを提供する義務=「債務」が発生しました。したがって、介護サービス利用者と直接介護サービスを締結した介護事業者は、介護サービス利用者に対して「債務」を負った「債務者」であるということがわかります。よって、介護事業者には、「債務」を負う「債務者」=「主体」としての債務不履行責任が生じます。
2.1.3 介護担当職員は「主体」といえるか!?
 他方で、介護担当職員は、介護サービス利用者との間で、介護サービスを提供する契約を直接締結しているわけではありません。したがって、介護担当職員には、介護サービス利用者に対して、契約に基づく「債務」を負っておらず、「債務者」ではないことになります。よって、介護担当職員には、「債務」を負う「債務者」=「主体」としての債務不履行責任は生じません。
2.1.4 まとめ
 このように、債務不履行責任は、「債務」を負っている「債務者」=「主体」が負います。そこで、債務を発生させる原因たる契約を締結した当事者が誰であるのかについて検討すれば、契約を締結する当事者ではない介護担当職員には債務不履行責任が生じないことが明確にわかります。
2.2 不法行為責任(民法709条)
2.2.1 介護担当職員に不法行為責任は生じるのか!?
2.2 不法行為責任(民法709条)
2.2.1 介護担当職員に不法行為責任は生じるのか!?.
不法行為による損害賠償)
 第709条
 故意または過失によって他人の「権利又は」法律上保護される「利益を侵害した者」は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
大まかにいうと、「権利又は利益を侵害した者」が侵害された者に生じた損害を賠償する責任を負うという内容ですね.

2.2.2 介護担当職員は「主体」といえるか!?
 不法行為責任には、債務不履行責任のような契約に基づいて発生する「債務」を負っている「債務者」という観念がなく、単純に「権利又は利益を侵害した者」=「主体」であることがわかります。つまり、介護サービス利用者の権利又は利益を侵害した介護担当職員は、不法行為責任の「主体」となります。
  したがって、介護担当職員が、故意または過失によって、介護サービス利用者の権利を侵害し、これによって介護サービス利用者に損害が生じた場合には、介護担当職員には不法行為責任が生じます。
3 刑事上の責任(業務上過失致死傷罪、刑法211条)
 刑事上の責任は、条文上明らかなように、違法行為を行った者に課せられるものです。したがって、「主体」=行為者であり、介護担当職員が故意または過失で利用者の心身に損害を与えた場合には、刑事上の責任も発生する余地があります。しかしながら、よほど悪質な行為でない限り、刑事責任まで追及される例は少ないでしょう。
4 最後に
 以上、介護担当職員に生じる法的責任につき、「主体」は誰かという観点から検討してきました。この意識を持って条文を読めば、誰に責任が生じるかということに悩むことは少なくなるでしょう。
【04誤嚥事故に関する裁判例の多くは、不法行為責任による損害賠償請求を認めています。】出典:明治安田生命グループ-MY介護の広場
質問
 特別養護老人ホームで、食事介助中、のどにコンニャクをつまらせ窒息しCさんが死亡しました。誤嚥の場合、損害賠償請求が認められる場合と、認められない場合があると聞きました。どこに違いがあるのでしょうか?
回答
【04誤嚥事故に関する裁判例の多くは、契約から導かれる一定の配慮義務の懈怠責任(脚注1)ではなく、不法行為責任による損害賠償請求を認めています。】
  不法行為責任が認められるための重要な要素が介護従事者の不注意(過失)の存在です。
  過失が認められる場合には損害賠償請求も認められますが、過失はなかったと判断された場合には、損害賠償請求も認められません。
  そして、ここにいう不注意(過失)は、一般的な介護従事者であれば誤嚥が発生することを予想することができること(予測可能性)を前提とした予見義務違反、及び誤嚥という結果を回避することができたといえること(結果回避可能性)を前提とした結果回避義務違反をいいます。
  そして、多くの裁判例では、(ⅰ)誤嚥事故発生に至るまでの経緯と(ⅱ)事故発生後の対応に分けて不注意(過失)があったか否かを検討しています。
解説

1.誤嚥事故発生に至るまでの経緯のなかでの過失
 誤嚥事故発生に至るまでの経過のなかでの過失の有無については、次のような事情に着目して判断しています。
(1)誤嚥の予見義務違反
  誤嚥の予見義務違反については、事故に近接した時期の要介護者の嚥下能力、医師から嚥下障害の可能性が指摘、むせたり、咳き込んだりなどの異常その他の症状に着目して判断されています。
  上記判断要素からして、誤嚥の兆候があり、それを認識することができたにもかかわらず、誤嚥の可能性を認識しなかった場合には、誤嚥の予見義務違反があるといえます。
  裁判例(脚注2)は、要介護者にむせるといった症状はあったものの、その症状には波があり、かつその誤嚥をうかがわせる症状はなく、要介護者が食事を全量摂取すること多かった事実から、誤嚥の兆候はなく、認識することができなかった以上、予見義務違反はないと判断しました。
  また、通常は自力で食事をしていた高齢者が誤嚥に陥った事案について予見義務違反はないと判断した判例もあります(脚注3)。
(2)食事介助行為の過失
  質問にありますこんにゃくやはんぺん、かまぼこはそれ自体嚥下障害の患者に向かない食物であると指摘されています(脚注4)。
  裁判例(脚注5)では、このような食物を食べさせるに際しては、とくに細心の注意を払うべきであり、口の中を確認し、また嚥下動作の確認を行う義務があると判断されています。
  したがって、このような確認行為を怠ったといえる場合には、過失があったとして損害賠償が認められます。
  同裁判例では、要介護者が高齢で、飲み込みが悪いことが介護職員に告げられ、記録にも嚥下障害がある旨記載されていた事実も併せて考慮して、こんにゃく等を食べさせる際の確認が不十分であったと判断して過失を認めました。
  このように、こんにゃく等を食物として選択したとしてもそのことから直ちに過失が認定されるわけではありません。こんにゃく等の食物を食べさせたとしても、その際、口の中を十分に確認し、嚥下動作を確認するなどしていた場合には過失はなかったと判断されます。
  ただし、裁判例では、介護職員が要介護者を斜め上から見下ろすような体勢で食事介助をしていたことについて、当該角度では嚥下を十分に確認できなかったはずであると判断して確認が不十分であったとしています。また、「次は何を食べます?」との声かけに応じて口を開けたことから嚥下を完了したと判断したことについても、当該要介護者に軽度の認知症が存するなど理解力に問題があったことから、確認行為を行ったとはいえないと判断しています。
  確認行為を十分に行ったと認められるか否かは、事実に照らして厳格に判断されるのです。
  なお、食事介助については、介助事業者が、①覚醒をきちんと確認しているか、②頸部を前屈させているか、③手、口腔内を清潔にすることを行っているか、④一口ずつ嚥下を確かめているかなどの点を確認し、これらのことが実際に行なわれるように介護を担当する職員を教育、指導すべき注意義務があったと判示し、かかる注意義務に違反したとして損害賠償責任を認めた例もあります(脚注6)。
2.誤嚥事故発生後の対応の過失
 誤嚥事故発生後の対応の過失については、誤嚥事故が極めて重大な結果に直結することから、①迅速かつ適切な応急処置がとられたか否か、②事故後一刻も早く医師若しくは救急車を呼び救急隊員の手に委ねたか否かが問われています。
(1)①の点の過失を検討した裁判例
  横浜地裁川崎支部平成12年2月23日判決では、救急車を呼ぶまでの間に、バイタルチェック、看護士による心臓マッサージ、家族への電話しかしなかった点をとらえて適切な応急処置がとられたとはいえないとして過失を認めています。
  これに対し、神戸地裁平成16年4月15日判決では、要介護者の誤嚥類型を明らかにしたうえで、当該類型の誤嚥に対する救命措置として、背中をたたき、吸引機で吸引したり、掃除機にノズルを付けた吸引機で吸引したこと、看護士がアンビューバックで人工呼吸をし、心臓マッサージを行なったことに落ち度があったとはいえないと判断しました(①)。
  また、横浜地裁平成12年6月13日判決でも、タッピング、背中をたたく、准看護士による吸引機での吸引などをした事実をもって、「一刻を争う救命救急措置の現場において、複数存在する救命方法の選択は、患者の態様等をふまえて、実施者が適当と思われる方法を適宜選択して実施されるべきものであって、その手段方法が、医学上通常行われる方法で行われていた以上、」「それをもって相当とすべきであると判断されています(①)。
  さらに、エアウェイの挿入などが、介護福祉士が法令上禁止されている医行為に該当する可能性が極めて高いことをもって、エアウェイの挿入などを行なわなかったことについて過失はないと判断した裁判例もあります(横浜地裁平成22年8月26日)。
(2)②の点の過失を検討した裁判例
  東京地裁平成19年5月28日判決では、当該施設には専門的な医療設備がなく、介護職員らが医師免許や看護士資格を有せず、医療に関する専門的な技術や知識を有していなかったことから、誤嚥をしたと疑われる場合に、介護職員らが応急処置をしたとしても、気道内の異物が完全に除去されたか否かを的確に判断することは困難であったのであるから、介護職員らは、引き続き経過を観察し、再度様態が急変した場合には、直ちに専門家である嘱託医に連絡をして適切な処置を施すよう求めたり、救急車の出動を直ちに要請すべき義務を負っていたと認定しました。
  そして、同裁判例では、介護職員らが注意深く経過を観察せず、急変後救急車の出動を要請しなかったことから、介護職員らに不注意があったと判断しました。これは、②に加えて、経過観察義務を認めた点に大きな特徴があるといえます。

1.東京地裁平成19年5月28日判決(判例時報1991号81頁)では、一定の契約上の義務に言及していますが、結論として不法行為に基づく損害賠償請求を認めています。
2.神戸地裁平成16年4月15日判決。
3.東京地裁平成22年7月28日判決。ただし、本判決は契約上の義務違反の有無を検討しています。
4.かかる食物を選択したことから直ちに過失があったと判断されているのではありません。
5.名古屋地裁平成16年7月30日判決。
6.松山地裁平成20年9月24日判決。
【05誤嚥が原因で、低酸素脳症の後遺障害が残ったケースに沿って、損害賠償請求が認められるかを検討。判例(熊本地方裁判所平成30年2月19日)を基に解説。】
www.minnanokaigo.com/news/kaigo-text/law/no17/

「誤嚥注意」と診断されていた女性
70歳で認知症とパーキンソン病を患っていた女性の利用者Xのケースです(※実際の事案は大脳皮質基底核変性症でしたが、病名を変更した事案を設定しています。)
利用者Xは1月から、特別養護老人ホームYのショートステイを利用していました。
入所当時は時間をかけつつ、自分で普通食を食べていましたが、半年ほど経つと自力で食事を摂取しないことが増え始めていました。
そして8月になったとき、利用者Xは要介護4と認定されました。
このとき主治医による意見書では、食事は「全面介助」とされ、留意点として「誤嚥に注意」と記載されていました。
それから女性Xは、10月に正式にその特別養護老人ホームYに入所しました。
そのとき施設が作成した利用者Xのケアプランでは、食事前後に口腔内を確認することが記載されています。
しかし、入所して翌月の11月、利用者Xに誤嚥事故が発生。
誤嚥事故当日の利用者Xの夕食の介助は、その施設の介護士Zが行っていました。
利用者Xは4割ほど食べ終えた時点でしゃっくりが出始めましたが、介護士Zが利用者Xに食事を続けるか尋ねたところ、Xは(身振り等で)食べると答えたそうです。
そのとき、まだしゃっくりはおさまっていませんでしたが、Zは食事介助を継続。
女性Xが6割ほど食べ終えた時点で、しゃっくりはさらに強くなりました。
Zは再び食事を続けるか尋ねたところ、Xは(身振り等で)もういいと言いました。
そこで介護士Zは食事介助を中止し、Xの口腔内に食物が残っているか確認することなくその場を離れました。
食事を終えてからしばらく経って、Xが苦しそうに汗をかいているのを別の職員が発見しました。
看護師が口腔内から少量の残渣物を掻き出し、背部を叩き、吸引器で吸引したところ、米粒状の残渣物が吸引されました。
Xはその後、救急搬送され、一時は心肺停止に陥りましたが蘇生。しかし、低酸素性脳症の後遺障害が残ってしまいました。
過失(あるいは安全配慮義務違反)が認められるためには、事故の結果を予見することができた(事故の予見可能性があった)にもかかわらず、結果を回避する措置を怠った(事故の回避可能性があったのに回避義務を果たさなかった)ことが必要です。
ここからは、介護士Zに過失があったかを考えていきます。
過失とは、事故の結果を予見でき、避けることができたのに、その注意を怠ったことをいいます。
過失(あるいは安全配慮義務違反)が認められるためには、事故の結果を予見することができた(事故の予見可能性があった)にもかかわらず、結果を回避する措置を怠った(事故の回避可能性があったのに回避義務を果たさなかった)ことが必要です。
ここからは、介護士Zに過失があったかを考えていきます。
過失とは、事故の結果を予見でき、避けることができたのに、その注意を怠ったことをいいます。
①身体状態の確認
利用者Xは認知症とパーキンソン病で要介護4であった
1年前までは何とか自分で食事の摂取ができていたが、今年の夏(事故3か月ほど前)からは食事摂取が困難となった
事故3か月前の主治医意見書では食事は全面介助で、誤嚥に注意が必要と記載されていた。
被介護者のこういった心身状態を前提としたとき、介護者Zの対応に過失がなかったかをみていきましょう。
この事例では、利用者Xは事故の3か月前から食事摂取が難しくなり、この時点で要介護認定が3から4に上がるほど能力の低下が認められます。
そして、要介護認定が4に上がる時の主治医意見書では誤嚥に注意が必要であると記載されていました。
これに加えて、事故が起こった時には、Xにしゃっくりが出ています。
喉に食べ物が残っているタイミングでしゃっくりが出ると、嚥下のタイミングがずれ、誤嚥する危険が高いといえます。
また、ケアプランで食後に口腔内の確認をすると書かれていたことから、口腔内に食物が残存することによる誤嚥のリスクもあったといえるでしょう。

したがって、Xが事故時の食事の際に誤嚥を起こすリスクは、十分に予見することができたといえそうです。
誤嚥事故の場合、利用者側が敗訴している裁判例では、誤嚥事故を「具体的に予見することが不可能であった」という理由で過失が認められず、敗訴していることが非常に多いです。
「具体的に予見」することができたかどうか、これが勝負の分かれ目と言ってもよいと思われます。
事故の回避可能性
結果を予見できたとしても、結果を回避できる手段があったのか、これを行う義務が介護士Zにあったのかも重要です。
これを「結果の回避可能性」といいます。
今回のケースでは、しゃっくりが出た段階で、介護士Zが食事介助を中断し無理に食べさせようとしなければ、そもそも誤嚥は生じなかったと考えられます。

また、嚥下能力が低下してきた人は、口腔内に食べ物をためてしまうことがあるので、食事介助をした人が「ゴックンと飲み込んだかどうか」、「口の中に食べ物が残っていないか」を確認する必要があります。
本件では、介護士Zは、飲み込んだかどうかの確認はしていたようですが、口の中に食べ物が残っているかどうかまで確認せずに、その場を離れてしまいました。
本件の経過からすれば、食事をいったん終えた後に(判決では、食事を終えてからXが苦しそうにしているところが発見されるまでの正確な時間が不明ですが、前後の記載からすると、おそらく数分程度後に)、Xの容態が急変しています。
Xの口の中には食べ物が残っており、それが誤嚥につながったと考えるのが自然です(その時にしゃっくりが続いていた影響もあるかもしれません)。
以上のとおり、予見可能性も結果回避可能性も認められることから、過失ないし安全配慮義務違反は認められそうです。
介護士Zは、利用者Xのしゃっくりが治まっていないのに、すまし汁などの流動性の高い食物を与える食事介助を継続。
その途中でしゃっくりが強くなったにもかかわらず、食事介助の終了時に口腔に食物が残っていないことを確認せずに離席。
これらの理由から、介護士Zには安全配慮義務違反があった。
介護士Zには、介護サービスの契約に基づく債務不履行としての過失、あるいは安全配慮義務違反が認められます。
介護サービスの契約をしていた特別養護老人ホームYには、一定の賠償義務が認められそうですね。
実際の損害額について、裁判所はXの被った損害として、事故前のXの状態と事故後のXの状態を比較して慰謝料を判断しました。
具体的には、利用者Xは事故以前、認知機能や日常生活上の能力が低下していたものの、見守りがあれば杖で歩行することができ、施設の行事に参加することができていました。
しかし事故後は、寝たきりとなって行動能力のほとんどを失うに至ったことから、慰謝料を1200万円と認定しました。
そして特別養護老人ホームYに、入院諸費用等の損害を加算した約1960万円の損害賠償を利用者Xにするよう命じる判決を出しました。

なぜ事故は起こったか
今回のケースをもとに、どうして事故が起こったのか、どうすれば事故を防ぐことができたのかを考えてみたいと思います。
判決を読んでいると、施設側としては、Xの食事がなかなか進まないことがある中で、何とか全量を摂取させてあげたいという気持ちを持っていたようです。
そのことが、しゃっくりが出ても食事を無理に継続したことにつながったのかもしれません。
しかし、判決でも、介護士Zに介護に関する知識や経験が十分でなかったために、しゃっくりによる誤嚥の危険についての認識を欠いたのではないかと指摘されている部分があります。
介護に携わる者としての知識・経験の不足が一つの原因かもしれません。
また、決定的なのは、ケアプランでも、食事後は口腔内を確認することとされていたのに、Zがこれをせずに席を離れた点です。

決められているルールをその通りに実行しなかったことも、事故につながったと言えそうです。
【甲斐みなみ】京都大学法学部卒業後、2002年(平成14年)弁護士登録。あすなろ法律事務所勤務・共同経営者を経て2010年4月に「甲斐みなみ法律事務所」開設。2012年4月に事務所名を「甲斐・広瀬法律事務所」に変更。弁護士登録以来,医療事故・薬害事件等を取り扱っていたが、介護事故の取扱件数増加に伴い、2014年に介護職員初任者研修(旧ヘルパー2級)修了。2017年1月「介護事故の法律相談室」開設し介護事故で困っている人向けの窓口を設立。関西を中心に介護事故の解決に積極的に取り組んでいる。

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