新聞2016

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目次
【遺伝子の異常による疾患】
【酵母】【菌類】【アセルアルデヒト】
【子ども食堂だけでは足らない 子どもの貧困対策・赤石千衣子
【「増税見送り」が妥当と言えるこれだけの理由】東洋経済オンライン
【国際金融経済分析会合の意味合い】
【増税負担で家計所得は抑制されている】
【一時的な減税は成長底上げのオプション】
【襲撃から1年・・】
【教えて診療報酬】
【リファンピシン】
【汚染水を増やさない対策『凍土壁』の運用開始サブドレンポンプの運用が最大の肝・・吉川彰浩一般社団法人AFW】
【児童ポルノ・性的被害・沖縄は貧困が原因】
【<在宅介護>「限界」7割 家族の負担浮彫】
【祖父母や親の介護に追われる若者も】
【「傷ついた」TVタックルひきこもり特集に経験者ら異議】朝日
【インドネシア人の不法残留倍増…ビザ免除1年で】
【<栃木女児殺害>「録音・録画で判断決まった」裁判員ら会見】
追加記事、東京新聞
【判決を受けた発表された遺族の手書き手記】
【豚細胞、人に移植容認へ Ⅰ型糖尿病の患者が対象】
【卵のアレギュリーの原因作れないニワトリ誕生 ゲノム編集】
転送→【ニワトリを改良 卵アレルギー遺伝しない品種 産総研】
【胎児の全染色体検査、妊婦の血液で…新手法開発】
【小泉氏「人口減少強みに変える」=自民若手、社会保障で提言】
【後見弁護士らの着服、昨年37件・・・過去最悪に】
【<ハンセン病>元患者ら「身内に甘い判断」特別法廷報告書に】
【菊池事件】
【「保育士やめたいの私だ」仕事には追われ、給料上がらず】
【米軍出て行け」は×で「沖縄への中傷」は○? ヘイトスピーチ対策の与党法案】
【角膜機能維持、新タンパク質発見 京大など、iPSから作製に道】
【<水俣病>46歳、認められぬ苦難…公式確認60年】
【焦点:進む円高・株安、政府は介入意識させ市場鎮静化狙う】
【ベトナム人留学生はなぜ技能実習生を調査したのか】
【キリンの首を長くした遺伝子ゲノムを解読=科学者チーム】
【学歴はある程度遺伝子で決まる、研究】
【ブタから人へ移植容認=iPS臨床も安全基準―厚労省研究班】
【全既存薬が効かない「悪夢」のスーパー耐性菌、米国で初確認】
【厚生年金逃れ、国の想定以上 建設業・ごみ収集員も】
【<震災5年3カ月>仮設入居者 行き場がない】
【情報流出あなたは見抜けるか JTB がはまった「巧妙なメール」の罠とは】
【<大雨>「じいちゃんが水に…」熊本地震の被災地に追い打ち】
【<高浜原発運転延長>40年ルール看板倒れ…一部審査後回し】
【「EU離脱」ならこうなる! 世界の未来が変わる 運命の6・23国民投票は「離脱派」が日に日に優勢】
【日本眼科学会・視神経の病気】
【<視神経細胞>iPSとESから作製、マウスで初成功】
【<労災>うつ病などの精神疾患で申請1515人 過去最多】
【<汚染土>「管理に170年」…安全判断先送り、再利用方針】
【新パナマ運河が開通 積載量3倍の船も通航可 LNG運搬に期待】
【新聞編集:2016.0629.21:15】
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【<特養>待機者が急減 「軽度」除外策、介護難民増加か】
【要介護者、奪い合い 施設空き出始め】
【”介護殺人”当事者たちの告白・NHKスペシャル】
【介護者サポートネットワークセンター・アラジン】
【私たちの年金を運用するGPIFが約8兆円の損失との報道、年金は大丈夫なの?】
【GPIF、昨年度の運用損5兆円台前半 円高株安で5年ぶり赤字】
【<参院選>年金の未来、本筋棚上げ 運用損問題で応酬】
【子どもから提供された腎臓、子どもへ優先移植…来年度から】
【日銀副総裁「緩和縮小ありえない」 政策検証めぐり強調】
【日銀が追加金融緩和を決定 ETFを買い増しへ】
【トヨタの原価低減要請で部品メーカーの本音】
【金融緩和の検証、物価2%へ具体的な政策対応考えるため=日銀・主な意見】
【慰安婦財団「一定の進展」 日韓、事業内容巡り協議】
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【新聞編集:2017.0208.03:32】
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【解説・黄河に古代の大洪水跡、伝説の王朝が実在?】
【ジカ熱やエイズ克服に現実味、「ゲノム編集」技術はここまで来た】
【子どもの貧困 当事者の声 あきらめないために必要なもの】
【安倍首相>「反対」報道を否定…米の核先制不使用巡り】
【安倍首相・核先制不使用、米司令官に反対伝える 米紙報道】
【台風10号「私の判断ミス」高齢者施設常務理事】
【<厚労省概算要求>社会保障上限超す 1400億円削減必要】
【<医療>残暑の日 危険な「尿が出ない頻尿」に注意!】
【宮本顕二・礼子夫妻(1)寝たきり老人がいない欧米、日本とどこが違うのか】
【<自閉症>発症の仕組みの一端解明 九大グループ】
【孫の自閉症、環境が原因?=答える人・石崎朝世院長】
【風俗店の待機部屋で生活相談 貧困支援の「風テラス」】
【「横暴すぎる老人」のなんとも呆れ果てる実態暴力、セクハラ、万引き…社会は耐えきれるか】
【地下水上昇、地表面に=台風16号の降雨で―福島第1】
【日銀・マイナス金利拡大検討 国債購入手法は議論 20日から総括的検証】
【<日銀>追加緩和議論へ 「総括的検証」20日から決定会合】
【<日銀>長期金利に目標導入 マイナス金利副作用配慮】
【高濃度セシウム>福島第1周辺のダム底に堆積】
【ダム底 高濃度セシウム たまる汚染、募る不安】
【辺野古移設で平行線=稲田防衛相、沖縄知事と初会談】
【<赤ちゃんポスト>関西で設置目指す…NPO法人が設立総会】
【沖縄県が上告=「承認取り消しは正当」-辺野古移設訴訟】
【日銀の「新緩和政策」と「総括的な検証」を読み解く】
【サービス付き高齢者住宅>情報公開を介護施設並みに】
【〈患者中毒死>「悪意ある者の行為防げない」医療現場に波紋】
【夫なぜ殺された 2人目の中毒死判明】
【TPP 与野党応酬 首相今国会で決める 野田氏 強引採決けん制 衆院本会議 代表質問】
【SBS問題 火種に 臨時国会きょう召集 野党の追及必至 TPP審議】
【「死刑」と「無期懲役」のはざまで…裁判員たちの葛藤 母親の訴えに涙も 福岡小5殺害判決】
【<福島原発>8兆円負担増 電事連、国費求める】
【国債買い入れ、財政ファイナンスと誤解される恐れない=日銀総裁】
【日銀の国債保有が400兆円突破、3年半で3倍に】
【焦点:日銀動かした超長期金利の大幅低下、政府と懸念共有】
【待機児童対策、盲点 運営株式会社「人件費7割なら赤字」 保育士に届かぬ補助】
【原発賠償の追加費用、国民負担に 経産省案】
【福島第1の廃炉費用、年数千億円増も 経産相「年内めどに提示」】
【<ATM不正引き出し>全国106人逮捕…指定5暴力団員も】
【<鳥取砂丘>乾燥地研究に海外注目 干ばつや水不足対策で】
【加工会社が製造した「冷凍メンチ」によって、腸管出血性大腸菌】
【<措置入院患者>情報を共有 自治体連携へ法改正へ 厚労省】
【ゴム手袋のみ込み、入所者死亡 相模原の知的障害者施設】
【待機児童対策、盲点 運営株式会社「人件費7割なら赤字」 保育士に届かぬ補助】
【原発賠償の追加費用、国民負担に 経産省案】
【福島第1の廃炉費用、年数千億円増も 経産相「年内めどに提示」】
【恐怖の記憶、意識せず消去 国際電気通信研などが成功】
【<医療保険料>軽減廃止 後期高齢者、厚労省が見直し案】
【介護殺人や心中、全国で179件…13年以降】
【<抗精神病薬>知的障害児の1割に処方…「自傷防止」】
【<新潟避難児童いじめ>母「菌付きいじめ、避難がきっかけ」】」
【外国人実習生」が置かれた過酷な無法地帯…移民政策にもつながる「根の深さ」】
【軍事研究助成18倍 概算要求6億→110億円 防衛省、産学応募増狙う】
【風俗に売られた「3児の母」の壮絶すぎる半生】
【TPP、米抜き現実味 雲散霧消避けたい日本…他の参加国は思惑異なる】
【<福島原発>処理費倍増 国・東電見通し甘く国民負担増懸念】
【廃炉に外国人「我々がやるしかない」 被ばくに不安の声】
【翁長沖縄知事が就任2年 3つのキーワードで読み解く基地問題】
【「磁気カードの弱点」突いたATM14億円引き出し】
【廃炉費用を国民負担に 電力政策小委報告書 福島第一以外も】
【<原発避難者の子いじめ>連絡会が発表した声明(要旨)】
【「帰還強要」政策を強めました。来年3月には帰還困難区域を除いた避難区域を解除し、併せて賠償と住宅支援打ち切り】
【「20ミリシーベルト安全論」です。しかし、ICRP(国際放射線防護委員会)】
【原発避難でいじめ、原告団が声明「報道は氷山の一角」「大人の世界でも嫌がらせ】
【日本との慰安婦合意交渉文書 一部公開命じる判決=韓国裁判所】
【<水俣病>「補償協定ザルに水」…チッソ内部メモ発見】
【「10億円は少女像撤去の対価」は偽り…慰安婦被害者の傷を癒やすため(2
1)(2)】
【「日本の外相だと思った」…ユン・ビョンセ長官「釜山少女像の撤去・移転」を主張】
【なぜ札幌の新人看護師は“自殺“したのか?】
【<日産婦>着床前検査、今春研究開始…中心の慶大不参加】
【介護施設に「能面」ロボ=認知症改善で期待―宮城県】
【目の難病>人工網膜で「光」回復 阪大教授ら効果確認】
【18歳アイドル急死】「致死性不整脈」とは何か 医師の解説】
【日本で売春を強要されたコロンビア人女性が証言する人身売買の闇】

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【新聞編集:2017.0208.03:32】
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介護ぱどニュース
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目次;コラム
【熊本地震】
【日本のゆくえ・現場を歩く】


3月16日
【gooヘルスケア】
【遺伝子の異常による疾患】
ヒトゲノムが解読され、大きな遺伝子の数は3〜4万といわれています。遺伝子には体を構成する蛋白質をつくる遺伝子、体の機能に関係した酵素をつくる遺伝子、遺伝子の制御に関わる遺伝子など、いろいろな種類があります。基本的には遺伝子は蛋白質をつくる情報で、DNAという物質からできています。ミスプリントにより遺伝子の情報が障害を受けると正常な蛋白質がつくられず、先天異常の原因になるわけです。
【単一遺伝子の変異による疾患】
一種類の遺伝子の情報の間違いで病気が出る(専門用語では発現という)ようなものを単一遺伝子異常による疾患(あるいは単一遺伝子病)と呼びます。
 基本的な遺伝子の情報は父親と母親の両方から伝わりますから、2種類の同じ遺伝子の相互作用により病気が出るか出ないかが決まります。これがメンデルの法則ですが、単一遺伝子病の伝わり方はメンデルの法則に従うため、メンデル遺伝病(または古典的遺伝病)と呼ばれることがあります。
【遺伝様式による分類】
単一遺伝子異常のすべてが“疾患”になるわけではありませんが、何らかの遺伝形質発現の原因になり、2万を超える遺伝形質が知られています。そのうち障害の原因になるものを遺伝病と通称しますが、遺伝様式から常染色体優性遺伝病(AD遺伝病)、常染色体劣性遺伝病(AR遺伝病)、X染色体連鎖遺伝病(伴性遺伝病)と分けるのが普通です。よく知られた疾患名を表4Žにあげてありますので、参考にしてください。
 生まれてくる子どもの1〜2%に表4Žにあるような病気がみられます。遺伝子異常の原因は突然変異です。1回のコピーでひとつの情報に突然変異が起こる確率は10万〜100万分の1と低いのですが、遺伝子の数が膨大なため、受精卵には数多くの突然変異が起こっていると考えられます。重い遺伝子異常をもった受精卵の多くは胎生初期に流産すると考えられているので、生まれてくるのは1〜2%にすぎないのです。
【すぐには障害が現れない場合】
遺伝子異常があってもすぐには障害が現れにくい場合があります。常染色体劣性遺伝病の保因者がそのひとつの例です。赤ちゃんに常染色体劣性遺伝病が出ていた場合は両親が保因者の可能性があるので、保因者という言葉は非常に悪いイメージに聞こえます。しかし、一般の人でも平均すると一人あたり10個以上の重い常染色体劣性遺伝病の遺伝子を保因者の状態でもっているのです。同じ遺伝子異常をもつ保因者同士でなければ常染色体劣性遺伝病の赤ちゃんは生まれてこないので、ほとんどの人は自分がどんな病気の遺伝子の保因者なのか知らないまま一生を送っているのです。
 遺伝子異常があっても障害が現れない例がもうひとつあります。常染色体優性遺伝病としてよく知られたハンチントン病や筋緊張性ジストロフィー(成人型)は発病年齢が40歳前後で、若い間は普通に生活できます。遺伝医学の進歩のおかげで病気が出ていなくても遺伝子の診断ができるようになりましたが、治療ができない病気の診断はとくに慎重に行う必要があります。そのほか、遺伝子の異常が障害として現れる過程ではいろいろな要素が関係するので、症状の重さには個人差が現れるのが普通です。
3月17日(木曜日)
【アセルアルデヒト】
酵母とは、自然界の植物、樹液、花蜜、果物など、いろいろなところに生息する「菌」つまり「微生物」です。「カビや麹、乳酸菌や納豆菌」同様、有機物(食物)を利用して分裂しながら成長します。その状態のことを「発酵」といい、私たちはこの自然の力を利用して、古来よりビール、日本酒、ワイン等のお酒、漬物や納豆、味噌、醤油、酢、パンやチーズなどを作ってきました。
酵母は有機物(食物)に含まれる「糖質」をエサにして、それを「アルコール」と「炭酸ガス」に分解しながら、分裂、成長していきます。この状態を「発酵」と言います。
 例えば日本酒は、お米に含まれる「糖質」を「清酒酵母」が「アルコール」と「炭酸ガス」に分解することで「お酒」になります。だから、完成間際の「どぶろく」はシュワシュワ炭酸があり、アルコールもまだ日本酒程高くないのです。その後、火入れをして炭酸が飛んで、日本酒の完成です。
パンも小麦の糖質を酵母が分解して、その炭酸ガスで生地が膨らむのです。同様に焼いたらアルコールが飛びます。
菌類(きんるい)とは、一般にキノコ・カビ・酵母と呼ばれる生物の総称であり、菌界(学名:Regnum Fungi )に属する生物を指す。
細菌などと区別するために真菌(しんきん)とも呼ばれることもある。外部の有機物を利用する従属栄養生物であり、分解酵素を分泌して細胞外で養分を消化し、細胞表面から摂取する。
菌類に属する生物は、ほとんどが固着性の生物である。微視的には、細胞壁のある細胞からなり、先端成長を行うものが多い。これらは高等植物と共通する特徴であり、菌類が当初において植物と見なされた理由でもある。しかし、葉緑体を持たず、光合成も行わない従属栄養生物である。その点は動物と同じであるが、体外の有機物を分解し、細胞表面から吸収する、という栄養摂取の方法をとる。
植物寄生のものが多く、農業上重要なものも多い。他方、菌根など、植物と共生するものも知られる。動物に寄生するものは少ないが、重要な病原体も含まれる。自由生活をするものはさまざまな生物の死体や排泄物などの有機物を栄養源とし、生態系において分解者として働くと考えられる。他に発酵に関わって重要なもの、抗生物質を産出するものなどがある。
菌界は古典的にはツボカビ類、接合菌類、子嚢菌類、担子菌類などから構成される。ツボカビ類は鞭毛をもつ遊走細胞を形成し、祖先的形質を持つ。
菌類と細菌類は微生物として一括りに扱われる場合もあるが、前者は真核生物、後者は原核生物であり、細胞構造が全く異なる生物群である。
菌界は真核生物に含まれる界 (Kingdom) の一つであり、動物界や植物界などと同じレベルの分類群である。生物を二界に分類していたころは、菌類には運動性がなく細胞壁を持つことなどから植物に分類されていた。この場合、構造が単純であることもあって、葉緑体を失った退化的な植物である、と考えられることが多かった。しかし、菌類についての理解が深まるにつれ、細胞構造や分子遺伝学的な系統解析などの研究から得られる情報などから、植物とは異なる、独自の生物群であると考えられるようになり、5界説の頃より独立した界として広く認められるようになった[3]。現在の分子遺伝学的情報からは、植物よりも動物に近い系統であることがわかっている。動物と菌類を含む系統のことをオピストコンタという。
3月21日(月曜日)
【子ども食堂だけでは足らない 子どもの貧困対策・赤石千衣子】
子どもの貧困が大きな問題となっている。
子どもの6人に1人が相対的に貧困状態にあること。
ひとり親家庭の貧困率は50%を超えていること。
子どもの貧困は見えづらいものであること。
しかし、食に困るような深刻な貧困の子どもたち、親が忙しすぎてひとりでご飯を食べているような子どもたちがいること。
などが報道され、問題となっている。
この、子どもの貧困をなくすために、いったい何ができるのだろうか。
現在、「子ども食堂」を各地でつくろうというムーブメントが盛んだ。
食に困っている子どもたち、あるいはひとりでご飯を食べている子どもたち、あるいは、母子だけで父子だけでさびしく食べている親子が子ども食堂にやってきて、楽しくご飯を食べる、そんな取組だ。
ホームレス支援でいえば「炊き出し」にあたる。
私はすばらしいとりくみだと思う。子どもたちの笑顔、それを見られる大人たちもしあわせになり、そして子どもたちが自分たちは孤独ではない、助けてと言ったときに助けてくれる大人たちがこの社会にいるんだ、と思えるようになるのはすばらしいことだ。
同時に、関わる大人たちも、自分の地域を変えていけるそんなきっかけになるのではないだろうか。
また、無料学習支援なども広がっている。
居場所づくり、学習支援、これが子どもの貧困対策の主流となりつつある。
だが、ちょっと待ってほしい。
政府が、自治体がやる子どもの貧困対策が居場所づくりでいいのか? そこに補助金をつけることで、子どもの貧困対策は事足れるのだろうか。
子どもの貧困とは、子どもが育つ世帯の貧困である。子どもの親たちの貧困問題である。多くが非正規や不安定就労、無職などで、子どもたちの育ちに十分な経済的な余裕がなく、あるいは長時間労働で子どもと過ごす余裕がないなどして、孤立している世帯の問題である。
まずはこの世帯の経済的な問題や複合的な問題を解決できるようにしなければならないのではないか。
私は、「ひとり親家庭を救え!キャンペーン」http://save-singleparent.jp/や「あすのば」http://www.usnova.org/の活動を通じて、いくつかのことを要望してきた。
子どもの育つ世帯、特に大きなかたまりとして存在する、ひとり親家庭に支給される児童扶養手当の増額と延長を求めた。
児童扶養手当の、ふたりめ以降の加算額を、二人の場合は5000円を最大1万円に、三人以降の場合には3000円を最大6000円に加算額を増額するよう、平成28年度予算案に盛り込むことができた。予算が通れば実現することとなった。
関係者のみなさんにはほんとうにほんとうに感謝したい。(20歳までの延長についてはまだ実現していない)。
考えてみてほしい。月々5000円の増額は、子どもたちの10日分のおかずになることもできる。あるいは、子どもたち4人で回していたワークブックをひとりずつに買う、といった親もいた。
この児童扶養手当の増額により、ひとり親家庭の貧困率が54.6%から3%、削減されるそうだ。80億円の予算で3%。それだけ厳しい状況だということである。
しかし、ここにはエビデンスがある。
私は子ども食堂が各地にできることで子どもたちの笑顔が増えることもほんとうにうれしいことだと思う。
だが300万人いる相対的に貧困であるといわれる子どもたちに何%がそこにつながれるのだろうか。
いや、だから計測してほしいというのではない。
私は、自治体の子どもの貧困対策には、やはり、子どもの育つ世帯の問題解決、収入増をどう実現するのか、という視点がなければならないと考えている。
根本的には女性たちの低い賃金を上げること、あるいは最低賃金を上げることも、非正規労働を正規にしていくことも、その一環で必要だろう。
ただ、ハードルはそれなりに高い。
手前にできることもある。
まずは、子ども食堂のその次に、親を含めた世帯への、ソーシャルワークが必要となる。親とつながり、抱えている問題解決をできるような取組が必要となる。親が何を抱えているのか。鬱状態でネグレクトになってしまっているのか。あるいは、有効な就労支援がないのか。親も低学歴であったら、高卒資格を取得する道はないのか。あるいは、保育サービスがあれば、就労が出来るようになる場合もあるだろう。ファミリーサポート事業やホームヘルプサービス事業を充実させようと取り組んでいる自治体もある。(私は、子ども食堂をつくる熱気の一部をファミリーサポートへの提供会員になる方向に進めてほしいと思っている)。
子どもの貧困対策が絆創膏を貼るだけ、のような対策にならないよう、私たちは常に効果を検証をしながら、進んでいきたい。
すぐにできること、そして、予算がかからないことは、児童扶養手当、児童手当のまとめ支給を止め、毎月支給にすることだ。
これによって家計管理がずっとしやすくなり、そして、ガス電気水道などの滞納やストップが減るだろう。
ひとり親家庭に限られるが、児童扶養手当の毎年の届のときに、相談を充実させていく方向性もある。
そのほかにもできることがある。
就学援助は、誰にも情報が届くようにしよう。クラス全員の子どもに就学援助の申込み用紙を配布し、クラス全員の子どもから回収すればスティグマは無くなる。
学校給食のない中学をなくそう。
どこで貧困な対象をとらえていくのか、情報は十分に届いているのか。SNSは使えるのか。いろいろな部署が連携してできることは何か、まだまだ知恵を絞ることが必要だ。
私たちも、それをやっていく。
安易な流行や絆創膏対策に終わってはならない

3月28日(月曜日)
【「増税見送り」が妥当と言えるこれだけの理由】東洋経済オンライン
2017年4月の消費再増税先送りの可能性が高まっている。3月中旬に、内閣府参与の浜田宏一・本田悦朗両氏がメディア等を通じて、経済情勢を踏まえて消費増税に慎重な見方を相次いで示した。注目されるのは、本田参与が「消費増税を凍結する以外に道はない」「消費税率を現行の8%から7%に下げて、国民に対するメッセージを明確にする選択肢もある」と、凍結に加えて減税のオプションに踏み込んで言及した点である。
10%までの税率引上げが一度は既定路線となり、減税は政治的には極めて高いハードルだが、高いボールを投げて、増税凍結を実現しようということだろう。脱デフレを最優先に掲げる安倍政権にとって、法律で定められた消費増税は民主党政権が残した政治的負の遺産と位置付けられるが、安倍政権はこれまで柔軟な立場を保っていた。2015年10-12月GDP成長率がマイナスとなったことが判明した2月末から、経済情勢に応じて増税判断を行う必要性が、複数の政治家からも示されている。
【国際金融経済分析会合の意味合い】
急きょ開催が決まった国際金融経済分析会合にも、官邸や浜田・本田両氏の意向が影響しているとみられ、2014年11月の消費増税先送りが決まった時と同様、消費増税に慎重な立場を持つ一流の経済学者が招かれ、スティグリッツ、クルーグマン両教授が、景気回復を阻害する再増税に引き続き慎重な意見を示した。現状2%インフレ目標実現に足踏みしており総需要不足が続いている状況では、成長を押し上げる金融財政政策が必要になると標準的な経済理論は教えているが、それに沿ったオーソドックスな政策提言である。
  先進各国はリーマンショック後に緊縮財政策を行ったが、2011年のイギリスVAT引上げ、2013年の米国の増税・歳出削減(財政の崖)、2014年の日本の消費増税、そして2011年から2012年の債務危機を挟んだユーロ圏の歳出削減、が挙げられる。いずれも政策金利がゼロの領域という平時から遠い中で、緊縮的な財政政策が成長にブレーキをかけた。非伝統的な金融緩和の支えで景気回復は保たれたが、FRBが一足早く金融引き締めに転じた米国以外では、成長減速による税収押し下げで財政健全化がむしろ遠のいたとみられる。
  緊縮財政のブレーキが強かったため、日本、ユーロ圏では2016年になっても金融緩和強化が必要な状況にある。このため、総需要不足と低インフレの中では、マクロ安定化政策を徹底する必要があるとの認識が強まり、2月に上海で開催されたG20では財政政策による成長押し上げが必要とされた。
2014年4月の消費増税が始まった直後に、「財政収支の帳尻合わせの増税は視野が狭い政策対応」と筆者は消費増税を批判的に評価、減税が必要である可能性に言及した。 経済状況に応じて適切な金融・財政政策の手段を選択しないと、財政健全化が遠のくことは、1997年の増税後に税収が減少し続けた日本はすでに経験している。2014年度は金融緩和によって企業業績の改善が続いたおかげで税収は増えた。ただ、安倍首相が「(消費税を)上げなければ、税収は今頃もっと増えていただろう」(2月27日)と述べたと大手メディアが報じたが、2015年になっても個人消費がほとんど回復していない現状を踏まえれば、この認識は妥当に見える。
【増税負担で家計所得は抑制されている】
2015年10月の再増税は先送りしたが、2016年に入っても2%のインフレ安定実現に足踏みが続いており、2017年の消費再増税も同様にリスクが大きいと考えるのが自然である。最後は、今後の経済指標などを踏まえた官邸の判断になるが、前期の大幅なマイナス成長の後の1-3月GDP成長率(5月中旬公表)は、よくて小幅なプラス成長にとどまるとみられ、消費増税先送りの判断を後押しするとみられる。
  安倍政権は名目GDP600兆円の実現を掲げているが、2015年10-12月時点で名目GDPは約500兆円で、ボトムだった2012年10-12月以降の3年間で約30兆円増えた。それまでの減少トレンドが上昇に転じたが、リーマンショック直前のピークの515兆円に及ばないばかりか、バブル後ピークの524兆円(1997年央)と比べても依然約25兆円下回っている。
  中でも、消費増税による8兆円規模の負担もあり、2015年の家計の可処分所得は、1997年のピーク対比で約30兆円下回ったままと試算される。一方、企業利益は2015年にはリーマン前のピークを越えて過去最高を更新した。企業利益が増え続け、そして2013年から雇用は増え始めたが賃金が抑制されたままなのに増税の負担で家計所得が高まらず、名目GDPが抑制された状況が2014年から続いている。
  経済全体の分配をみるうえで、家計・企業に加えて政府も重要だが、政府部門の税収は、デフレ圧力の緩和を伴う景気回復と増税によって、2015年までに100兆円規模まで増えたと試算される(国民経済計算における一般政府の税収)。この税収の水準は、2007年度(92.3兆円)を上回り、1991年のバブル崩壊直後の過去最高水準に肩を並べる。
上述の企業・家計の所得と税収の動きを踏まえると、名目GDPの回復の伸びが鈍いのは、家計所得の目減りでほぼ説明可能と考える。企業から家計への所得分配を後押しすることが政治テーマとなっているが、2014年の増税によって政府への所得移転が行き過ぎたことで、公的支出拡大の恩恵を受けない大多数の家計負担を高め、民間部門の成長エンジンを弱めた側面はかなり大きいと考えらる。
【一時的な減税は成長底上げのオプション】
 公的支出の削減が難しい中で一定の税収を確保するのは必要だが、アベノミクス発動以降に成長率が回復する過程で、企業vs家計の格差だけではなく、政府vs家計の増税を通じた官民格差も同様に広がったといえる。名目GDP600兆円を目指し成長を長期化させる観点で、停滞したままの家計所得や消費拡大は言うまでもなく必要だが、同時にアベノミクスに対する国民の支持を保つために、家計所得への政策的な手当が必要になっているように思える。
  回復が遅れている家計所得と消費回復を支え、経済成長を高めて脱デフレを後押しするには、増税先送りは妥当な選択だし、本田参与が言及したように減税も成長底上げのオプションになる。
  政府支出拡大も一つの手段だが、すでに税収がバブル後の最高水準まで戻り、政府支出は高止まりしている。2014年消費増税時になし崩し的に決まった公共投資発動のように、裁量的な支出拡大は資源配分を歪める弊害がある。数兆円規模の年末の補正予算策定が常態化しているため、増税と補正予算拡大が同時に行われ、公的支出が膨らみやすい実情がある。
  このため、成長押し上げに追加的な財政政策が必要ならば、一時的な減税がベターな手段になるだろう。減税によって、1)民間主導で持続的な経済成長を支える、2)裁量的な政府支出で資源配分を歪めない、3)増税を理由とした公的部門の肥大化を防ぐ、というメカニズムが働くため、長期的に財政健全化を実現する観点から望ましいと考える。
3月30日(水曜日)
【襲撃から1年・・】
。『シャルリ・エブド』2015年1月の襲撃事件直後にはパリで大規模な市民デモが沸き起こった。表現の自由が暴力によっておびやかされることを看過できない。
250年以上前に哲学者ヴォルテールが著した『寛容論』は、事件後1年間で18万5千部を売り上げた。罪のない人間が狂信者の犠牲になった実際の事件
たとえばローマ法王を侮辱した風刺画が満載の特集号に対しては、「カトリック信者に対して憎しみを挑発する表現」と判断し、シャルリ・エブドに敗訴の判決を下した。一方でマホメットらしき人物が「馬鹿どもに愛されるのはつらいよ」とつぶやいている風刺画はシャルリ・エブドの勝訴。争点は「馬鹿」が何を指すのか、だった。この風刺画には「マホメットは原理主義者で手一杯」のキャプションが添えられている。風刺されているのはマホメットやイスラム教信者ではなく、どの宗教にもいる一部の「原理主義者」であると判断されたのだ。
ここで問題なのは、風刺は弱者が強者に対し行ってこそ意味があるのに、この問題では強者が弱者を侮蔑しているだけのことに、風刺の著者が気づいていない、あるいはわざと見ようとしていないことである。そしてそれに賛同する付和雷同者は自分とは異質の文化であるイスラム教を排斥しようとしているだけの心の狭い人間たちである。まるで日本における韓国人などにヘイトスピーチを仕掛けている在特会のような人々でしかない。そのような人間は、日本ではかなり少数派で、ある意味「特殊な人間」と見られているが、人権問題の先進国であるはずのフランスで、あれほどの大規模な抗議行動となり、大統領までそれに加わるとしたら、フランスという国の理性を疑わざるを得ない。『こういちいけだ』日本大学
【教えて診療報酬】
【リファンピシン】
3月31日(水曜日)
【汚染水を増やさない対策『凍土壁』の運用開始サブドレンポンプの運用が最大の肝・・吉川彰浩一般社団法人AFW】
原発事故から6年目、福島第一原発に関わるニュースも減り、突然の原子力規制委員会の凍土壁運転了承のニュースは、多くの人にとっては「だからどうなの?」程度の解釈で流れ過ぎていったのではないでしょうか。
それもそのはず、凍土壁の運用が始まることだけの情報量で、第一原発の廃炉の取組が分からない私達にとって、なぜ必要か、どういった目的のものか、どうして運転に際して課題が残ってしまうのか、分かりやすく伝えてもらわないと理解できません。
割とさらりと扱われてしまいましたが、現場サイドでは待ちに待った運用開始になります。これまで汚染水が増える要因となっていた建屋内の地下水の流入は、地下水バイパス、サブドレンポンプという井戸による、地下水流入を少しでも減らす対策しか打てていなかったからです。
建屋内に流入していた地下水量の変遷は以下通り。
地下水バイパスにより400m3→300m3
サブドレンポンプにより300m3→150m3 ←現在ここ
凍土壁が完全に完成すれば理論上 150m3→ほぼ0
汲み上げて量を減らす対策から、物理的にブロック(壁を作る)対策として、大幅な地下水の流入を防げるものとして期待されているのが凍土壁になります。
汚染水が増える量が減ると、浄化して蓄えるために作り続けている汚染水タンク作業に余裕が生まれるというメリットがあります。
過去、毎月のようにトラブルが報道されましたが一因に現場に余裕がなかった、本当の意味で突貫自転車操業で蓄えることしか出来なかった時代があります。
汚染水が増えないようになることは、放射性物質を増やさない意味で待ち望んだ事であると同時に、汚染水対策に割く現場労働力を廃炉の本丸である原子炉建屋側に向けられる大きなメリットがあります。
凍土壁とは
別名、陸側遮水壁、凍土遮水壁とも呼ばれ、画像中の青いラインが凍土壁で囲う範囲になります。赤いラインの海側遮水壁と連結することで地下水が大きく迂回して海へ流れる構造になります。
福島第一原発1号機~4号機までを囲む形(全周約1,5km)で、地下30mまで1m間隔で-30°の冷媒の入ったパイプを打ち込み、土中を凍らせ氷の壁を作る取組です。
氷の壁で地下水をシャットダウンする。あまり聞きなれない取組ですが、意外に身近な地下鉄トンネル工事などで実績のある取組です。ですが国費を350億円も投入し、全長約1,5kmもの大規模な物はこれまでに例がありません。世界に名だたる一大建設物とも言えます。
こちら建設の目的は、前述の通り汚染水の発生源となっている原子炉建屋に地下水を流入させず汚染水を増やさないこと、そして汚染水貯蔵対策に費やしてきた労力を激減させることが目的です。
そして、海側遮水壁と繋がることで地下水が1から4号機東側に残る残留汚染に触れず、海へ流れていってくれる効果も期待できるのです。つまり海への汚染防止がより強固になるということになります。
過去の記事で触れていますが、現在、建屋内の高濃度汚染水が直接海へと通じる経路は封じられているからです。
良いことばかりに聞こえますが、凍土壁の運用後のサブドレンポンプ(井戸)の運用次第では汚染範囲拡大の可能性もあります。2016年2月には設備は完成していましたが、原子力規制委員会が中々許可をださなかったのには理由があります。
建屋から高濃度汚染水を出さないためには、地下水の流入は返って好都合
汚染水が増え続ける問題を除けば、地下水が建屋内に流入している状態は、建屋内の高濃度汚染水が漏れない=封じ込められていると言えます。人が近づけないほどの放射線量の高濃度汚染水が、自然の力によって封じ込められている分けです。建屋直近に作られているサブドレンポンプ(井戸です)は、絶妙なバランスで地下水が入り続けるけども余計な量は汲み上げる行為を行っています。
水の高さでコントロールしています。地下水水位が高い状態を維持することがとても重要です。
・サブドレンポンプの運用次第では高濃度汚染水は建屋外へ
地下水によって高濃度汚染水の封じ込めが出来ていた分けです。そこへ地下水を激減させる凍土壁が完成し、サブドレンポンプが建屋内高濃度汚染水の水位より、地下水を汲み上げ過ぎたら。。。水圧が逆転し、高濃度汚染水が建屋外へ流れてでてしまうことになります。
凍土壁が完璧であれば、全周1,5kmの範囲内に留まりますが部分的に凍らない場合、地下水脈を通り海側遮水壁にまで到達してしまう、これが最悪なシナリオとなります。
溜まり続ける汚染水、2月25日時点で約785,000m3、そのうち約78%に相当する615,000m3はトリチウムを含むだけの状態まで浄化し、溶接型のタンクで保管されています。大量の汚染水をこれ以上増やさないための悲願の取組である凍土壁。
しかし、原発事故という過酷事故からの廃炉の中、増やさない対策にはリスクは含まれています。
長らく海への風評被害の基となっている汚染水問題、これは身近で大きな問題です。その問題に対して非常に重要な取組は、決して小さなニュースで収めて良いものでなく、また分かりにくい状態で垂れ流すものでもありません。
これから1,5km、1500本に及ぶパイプの中に―30°の冷媒が流され、順調にいけば夏前に凍土壁は出来上がっていきます。その時、サブドレンポンプの運用が上手くいっているのか、肝になるのは凍土壁とは別の設備になります
凍土壁のニュースの扱い方は、汚染水は本当にこれ以上増やさないで済むのか?だけではありません。リスクと恩恵をしっかりと抑えておくことが重要です。
4月4日(月曜日)
【児童ポルノ・性的被害・沖縄は貧困が原因】
(沖縄タイムズ2015年10月26日通信)
【東京】日本の児童ポルノや買春の状況を調査するため来日した国連特別報告者で人権専門家のマオド・ド・ブーア・ブキッキオ氏は26日、都内の日本記者クラブで会見し、児童の性的搾取に対して包括的な対策が必要との認識を示した。
 東京、大阪に加え那覇も視察した同氏は、県内での被害の原因として貧困と性差に基づく不平等を挙げた。国や県に原因究明、児童生徒への教育、失業対策の必要性を強調した。
 崩壊家庭で育った児童が家出し、被害にあった例を紹介。「明らかに貧困が原因でセックス産業に行き着いている」とし、高い失業率や貧困率が背景にあると指摘した。
 男性に比べ女性の就業が不利な点を挙げ「不平等と貧困などの要因が重なり、特に沖縄では児童の性的搾取が見られる」と述べた。 児童の性的搾取の撲滅には、児童ポルノの閲覧の禁止や厳罰化、被害者ケアの質的向上、個別ケースに対応した社会復帰プランの策定などを求めた。
 最終調査報告書、勧告は来年3月の人権理事会に提出される。
※ 記事・写真の無断転載や複製を禁じます。
【<在宅介護>「限界」7割 家族の負担浮彫】
(2016年毎日)
【祖父母や親の介護に追われる若者も】
(NHK2015年6月17日・介護で閉ざされる未来)
家族の介護を担う若者の実態
 クローズアップ現代
No.35152014年6月17日(火)放送
介護で閉ざされる未来 ~若者たちをどう支える~
.家族の介護を担う若者の実態
学生時代から父の介護を続ける女性がいます。
原島なつみさん(25)
「食べる?
半分とりあえず食べようか?」
原島なつみさん、25歳です。
原島なつみさん(25)
「おいしい?」
脳の障害から、体が徐々に動かなくなる病気の父・保夫さんを介護しています。
今では、寝返りを打つことも、声を出すこともできない保夫さんから、目が離せないといいます。
原島なつみさん(25)
「(父は)自分からSOSが出せないので、静かだったりするとこわいので、30分とか1時間に1回は、必ず様子を見に来ます。」
介護が始まったとき原島さんは高校生でした。
当時、保育園で働いていた母・真由美さんが、介護保険を利用しながら保夫さんの介護を担っていました。
「飲んでいる薬は何種類?」
母 真由美さん
「(薬を)3種類飲んでいます。」
ところが4年前、真由美さんが突然倒れます。
大腸にがんが見つかり、仕事を続けられなくなったうえ、介護もできなくなりました。
当時、大学3年生だった原島さん。
専門知識を身につけ、将来、福祉関係の仕事に就きたいと必死に勉強をしていた時期でした。
原島なつみさん(25)
「これは言語聴覚士の国家試験の勉強ですね。」
介護施設や病院に、父を一時的に預けることも、家族で検討しました。
しかし、介護保険を利用しても金銭的な負担は重く、長女である原島さんが介護を引き受けるしかありませんでした。
介護と学業の両立について相談できる人は見つからず、夢を諦めざるをえませんでした。
原島なつみさん(25)
「もうどうしたらいいか分からなかった。
私にとっては残念と言うか、しょうがなかったのかな。」
今、原島さんは、近くの病院で受付として働きながら、父の介護を続けています。
原島なつみさん(25)
「父がこれから(病気が)進行していく中で、どういった状況になるのか分からないので、正直、先が見えない。」
介護で将来を見通せない。
今、こうした若者たちが、各地で声を上げ始めています。
この日は、介護をした経験がある若者や、福祉関係者が集まり、交流会が開かれました。
16歳から祖母を介護 参加者
「16歳の頃から祖母の介護になりますが、認知症でした。」
幼少より母を介護 参加者
「なかなか助けてくれる大人は、やっぱりいなくて。」
16歳から父を介護 参加者
「介護しながら高校に通って、母親と交代で介護をしていたんですけど、話をする相手っていうのがいなくてですね、非常に苦しんだ。」
若年介護に詳しい 成蹊大学専任講師 澁谷智子さん
「50代、60代とは違う問題。
直面する難しさというのを感じている。
まだ社会の関心、社会の目が(若者に)いっていない。」
若者が直面する厳しい現実。
親の介護を担うことで、仕事を辞めざるをえなくなった人もいます。
金井隆彦さん、26歳です。
金井隆彦さん(26)
「こんにちは。」
若年性認知症の母・邦子さんを、4年前から介護しています。
金井隆彦さん(26)
「耳、掃除する?」
昼夜を問わず、はいかいしたり、言葉のやり取りが難しくなるなど、症状が進んでいます。
金井隆彦さん(26)
介護を始めたころ、金井さんは就職したばかりでした。
金井隆彦さん(26)
「金属加工会社で事務職をしていました。」
金井さんは仕事と介護に追われる中で、体調を崩してしまいました。
休暇を取り、母の介護を続けたものの、次第に会社に居づらくなったといいます。
金井隆彦さん(26)
「(上司が)『10年、20年勤めて貢献している人が、そうやって家庭の事情で休むなら、分かる部分もあるけど、1年目なのにこうやって休んでいるのは、ちょっとおかしいね』っていう話をされた。
僕はもう、うなずくしかなかったです。」
金井さんは父の清隆さんと、どうやって介護を分担するか話し合いました。
その結果、金井さんが退職し、介護に専念。
収入の多い父が、経済的に支えることになりました。
父 清隆さん
「就職できた会社を1年ちょっとぐらいで辞めさせるっていうことは、非常に私自身も迷った。
それは苦渋の判断でした。」
金井隆彦さん(26)
「おいしいね。」
母 邦子さん
「おいしい。」
邦子さんの症状は進み、今では、息子の金井さんを認識できているかも分からない状態だといいます。
母 邦子さん
「うあああ!
ああもうっ。」
会社を辞めて3年余り。
金井さんは母を介護した経験を生かして、いつかは福祉関係の仕事に就きたいと考えています。
金井隆彦さん(26)
「大丈夫だよ。」
金井隆彦さん(26)
「今でもつらいときはたくさんありますけど、でもやっぱり、こうやってやってきた道は無駄じゃなかったと思っているので、そこだけは後悔もないし、この選択で良かったと。」
介護で閉ざされる若者の未来
ゲスト堀越栄子さん(日本女子大学教授)
── ●親を介護する子ども どのように感じたか?
そうですね。
とっても責任感が強くて、親御さんをとっても大事にしていて、本当に一生懸命なんだなというのが伝わってきたんですけれども、やっぱり、いっぱいいっぱいになっているのかなっていう印象も受けました。
なんらかの支援がないと、やっていけないんじゃないかなって、これから。
特にこの年代は、キャリア形成をしていく時代ですので、自分の職業生活もそうだし、人生設計もそうだし、そういう支援を届けないと、無理なく介護を続けられるような、支援が必要かなと思っています。
── ●若者介護の実態 これまで光が当たってこなかったが?
そうですね。
もともと介護している人っていうのは、わりと見つけられにくいんですけれども、介護している人って4つぐらい特徴があって、一つはやっぱり、家族が見なくちゃいけないというふうに、本人も周りも思ってると。
それから2つ目に、見てるともう、いっぱいいっぱいだなと思って、客観的に見ると支援が必要なんだけれども、本人が気付いていないということや、それからどういうふうにSOSを出したらいいか整理ができていないという、なかなかできない。
それで自分の暮らしや人生の見通しが持てないので、だんだん孤立してしまうというのがあるんですが、かてて加えて若者について見ると、若者が介護をしてるってあんまり社会が思ってないので、そういう目で見てもらえないんですね。
例えば親を、お母さんと2人で半分半分見ていても、補助者っていうふうに見られてしまうとか、社会的な手続きに行っても、お母さんと一緒にいらっしゃいって言われてしまったり、なかなか介護者として見てもらえないっていう特徴があります。
それから自分から何か、本当は言いたいんだけれども、友達に言ってもしかたがないし、聞いてくれる大人がいないし、そもそも言う場がない。
それから、やっぱりちょっと隠しておきたいっていう、病気のこととか、いろんなことが重なって、どうしても見つけられにくい存在でした。
ようやくさっきのVTRにあったように、社会的に発言の場があれば、皆さん、語りたいと、自分のこと分かってほしいというように、ようやくなってきたんじゃないかなと思うんですね。
── ●若い時から介護をする人にとって最大の課題は?
今の方たちはちょっと年長さんなんで、キャリア形成が大きな課題かと思うんですが、VTRに出た方たちよりも、もう少し年少の、例えば10代とか、あるいはもう1桁のときから、年齢の、介護しているお子さんたちもいらっしゃるんです。
学齢期の方たちですけれども、そういう人たちは本当は大人に守られて、健やかに成長するのが本当は自分の仕事のはずなんですけれども、結構、家事をやったり、それから排せつの世話から、移動から、着替えとか、いろんなことをやったり、そういう中で自分の時間が全く持てなくて、結局、遅刻したり、欠席があったり、学業がうまく進まなかったり、それから、すぐ帰ってきてねって言われたりする中で、自分の時間が持てないので、お友達と遊べないとか、いろんな経験ができない中で、大人になっていくというのは、本当にそこの、子ども時代が奪われてしまうという意味で、また別の問題があります。
── ●誰か話を聞いてくれる人が欲しい?
そうですね。
ただ、自分も言っていいのかどもうかも分からないし、自分の生活が目の前でもう精いっぱいなので、なかなか子どもから見つけるっていうのは無理ですから、やっぱり大人が、社会が、何か手を差し伸べられるようなものを作らないといけないんじゃないかなと思います。
4月5日(火曜日)
【「傷ついた」TVタックルひきこもり特集に経験者ら異議】朝日
「大人のひきこもり」を特集したテレビ朝日の番組で、取り上げ方などに問題があったとして、精神科医の斎藤環さんやひきこもり経験者らが4日、東京都内で会見を開き、異議を唱えた。放送倫理・番組向上機構(BPO)や放送各社に声明文を送るという。
  番組は3月21日に放送された「ビートたけしのTVタックル」。親の依頼を受けたひきこもりの支援団体が、当事者が説得に応じない場合に、怒鳴ったりドアを突き破ったりして部屋から出そうとする場面などを紹介した。同様の団体を取り上げた番組は、他局にもあるという。
  こうした手法について、斎藤さんは人権意識や倫理性などが欠如しているとし、「支援という名の暴力。好意的に取り上げる番組がこれ以上あってはならない」と訴えた。ジャーナリストの池上正樹さんは、「映像ありきで勧善懲悪のストーリーに落とし込まれている」と指摘。テレ朝に質問したところ「社会問題の一つとして取り上げ、特定の組織・団体等の宣伝に当たるものではない」との回答があったという。
  さらに、ひきこもり経験者たちが共同声明を発表。「放送で出た発言により、自分の過去・現在を完全否定され、精神的に傷つけられた」などとして、放送各社に当事者の声や有識者の見解を取り上げるよう求めた。(佐藤美鈴)
【インドネシア人の不法残留倍増…ビザ免除1年で】
政府が日本を訪れる外国人旅行者の入国要件を緩和したことを受け、インドネシア人の不法残留が急増している。
  2016年1月時点で2228人と、対前年比で2倍弱に増えた。多くが就労目的で在留しているとみられるものの、インドネシアではイスラム過激派による犯行とみられるテロも発生しているため、政府は不審者の入国を防ごうと警戒を強めている。
 日本政府は14年12月、人口約2億5000万人のインドネシアから観光客の誘致を目指し、15日以内の短期滞在者を対象に、事前登録すれば、ビザ(査証)を免除することとした。入国者数は14年の16万4246人から15年には21万412人に増えた。しかし、それ以上の割合で増加傾向にあるのが不法残留者の数だ。
 インドネシア人の不法残留者は、ここ数年、1000人台が続き、15年1月時点で1258人だったが、ビザ免除の影響が表れた16年1月時点で2000人を超えた。インドネシアで難民が発生するような情勢変化はないにもかかわらず、15年の難民申請は14年の17人から969人に急増した。
4月9日(土曜日)
【<栃木女児殺害>「録音・録画で判断決まった」裁判員ら会見】
毎日
◇宇都宮地裁 裁判員たち、物証の「弱さ」を指摘
栃木県日光市(旧今市市)で2005年、小学1年の吉田有希ちゃん(当時7歳)を連れ去り殺害したとして、殺人罪に問われた勝又(かつまた)拓哉被告(33)=栃木県鹿沼市=の裁判員裁判。無期懲役の有罪が言い渡された勝又被告(33)の裁判員裁判を担当した裁判員らが閉廷後、宇都宮地裁で記者会見した。裁判員たちは物証の「弱さ」を指摘する一方、「(犯行を自供した)録音・録画がなければ判断は違っていた」と話した。
見したのは裁判員6人のうち5人と、補充裁判員3人のうち2人の計7人。判決について、7人は「(被告は)真摯(しんし)に受け止め、罪を償ってほしい」と感想を述べた。
  録音・録画について、70歳代の女性は「決定的な証拠がなかったが、録音・録画で判断が決まった」と話した。別の30歳代男性は録音・録画を評価しながらも、「抜けている部分が多いという印象を持った。もっと公開する範囲を広げてほしい」と指摘。女性会社員も「物的証拠が少なく、(判断が)より難しく感じ、はがゆかった」と語った。
  評議時間の短さへの指摘も多く、女性看護師は「(読み込む調書の量など)情報量があまりにも膨大で、どう処理していいか分からなかった。振り返る時間がほしかった」と注文をつけた。判決が3月31日から延期された経緯については、裁判官側から「これでは間に合わないので延期できないか」と申し出があったためという。【高橋隆輔】
【判決を受けた発表された遺族の手書き手記】
【栃木女児殺害自白に頼らぬ操作を】東京新聞社説
栃木県内で二〇〇五年に起きた女児殺害事件の判決は「無期懲役」だった。捜査段階での自白調書が信用できるかが焦点だった。否認に転じた被告の言葉をどう判断するか-。難しい裁判だった。
 強制や脅迫による自白は証拠とすることができない。自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合は有罪とされず刑罰を科せられない-。これらは憲法三八条で定められている。
 つまり任意性のない自白には証拠能力がない原則を明らかにしている。
 任意性のある自白でも、これを補強する証拠が別にないと、有罪の証拠とすることができない。その原則も明示している。
 殺人罪に問われた今回の裁判は、この憲法の規定を思い起こさせる。同県今市市(現日光市)の小一女児殺害事件の裁判員裁判では、ほとんど有力な物証がない中で、被告の捜査段階の「自白」が最大の焦点だったからだ。
 一四年の自白調書では、いたずら目的で女児を車に乗せ、自宅アパートに連れてきたことや、ナイフで胸のあたりを刺したことなどが記されている。
 だが、被告はやがて否認に転じ、「殺していない」と公判でも述べた。弁護側は「捜査段階で『自白すれば刑が軽くなる』との利益誘導があった」などと指摘した。虚偽自白だったとしたのだ。
 検察は取り調べの録音・録画を法廷で再生した。「(女児を)立たせたまま五回くらい刺した」「早く楽にしてあげようと(膝から崩れ落ちた後も)何回か刺した」「顔や車、アパートも知られている。殺すしかないと思った」
 取り調べの中で被告が身ぶり手ぶりを交えて話していることなどを挙げて、検察側は「自白は具体的で迫真性があり、信用できる」と主張した。裁判員らはこの映像などを見て、総合的に判断し、「有罪」へと導いたのだろう。可視化による立証といえよう。
 ただし、一部の可視化は恣意(しい)的に利用される恐れがある。必要なのは取り調べの全過程の録音・録画だ。裁判員裁判と地検特捜部の独自捜査事件をその対象とする法案が出ているが、全事件の3%にすぎない。冤罪(えんざい)を生まぬよう全事件を対象とすべきである。
 また、いくら可視化されているといっても、自白に頼る捜査は危うい。犯人と結び付けられる証拠収集に全力を尽くし、犯人しか知り得ない「秘密の暴露」を探り当てる努力が求められよう。
編集1nya
4月10日(日曜日)
(朝日)
【豚細胞、人に移植容認へ Ⅰ型糖尿病の患者が対象】
動物の臓器や細胞を人に移植する「異種移植」について、厚生労働省の研究班(班長=俣野哲朗・国立感染症研究所エイズ研究センター長)は、これまで事実上、移植を禁じていた指針を見直す。国内の研究グループは数年後にも、1型糖尿病の患者にブタ細胞の移植を計画。患者にとってインスリン注射の重い負担を減らせる可能性がある。
異種移植は、人からの提供不足を解決する手段として世界で研究されている。臓器の大きさや管理のしやすさから、ブタがおもな対象で、近年は細胞を使って強い拒絶反応を避ける技術が一部で実用化。海外では人の治療に応用され始めている。
  国内では、厚労省研究班が2001年度に作った指針で、ブタが進化する過程で遺伝子に組み込まれたウイルスを「人への感染の危険性が排除されるべき病原体」としている。取り除くことが難しいため、これまで移植が実施されたことはなかった。
  だが、海外ではこのウイルスが人やサルに感染した報告がないことなどから、危険性の評価を見直し、新指針では移植後30年間経過を観察することを条件に、認めることにした。5月にも厚労省の部会に報告され、事実上の解禁となる。
【卵のアレギュリーの原因作れないニワトリ誕生 ゲノム編集】
転送→【ニワトリを改良 卵アレルギー遺伝しない品種 産総研】(毎日)
新しい遺伝子改変技術「ゲノム編集」によって、卵アレルギーの原因となるたんぱく質の一種「オボムコイド」を作る遺伝子を持たないニワトリを開発したと、産業技術総合研究所(茨城県つくば市)などの研究チームが発表した。アレルギー原因物質の少ない鶏卵の開発が期待されるという。6日付の英科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」に掲載された。
 ゲノム編集技術は、従来の遺伝子組み換え技術よりも、正確に効率よく遺伝子を改変できる。農水畜産物の品種改良分野で期待が大きく、ブタや養殖マグロなどで研究が進んでいる。だがニワトリなどは遺伝子改変に適したタイミングで受精卵を操作することが難しく、ゲノム編集技術がほとんど使われてこなかった。
 チームは受精卵ではなく、産卵後2日後の鶏卵から精子のもとになる細胞(始原生殖細胞)を取り出し、ゲノム編集技術でオボムコイドを作る遺伝子を壊した。この細胞を他の鶏卵に移植し、成長した雄の精子の多くにオボムコイド遺伝子がないことを確認した。この雄と改変していない雌を交配し、父親由来のオボムコイド遺伝子のない雄、雌が誕生。それらをさらに交配させ、両親いずれからもこの遺伝子を受け継がないニワトリを生み出すことに成功したという。
 大石勲・産総研バイオメディカル研究部門総括主幹は「オボムコイド遺伝子を受け継がないニワトリが産んだ鶏卵について、アレルギー反応を引き起こす力が本当に低下したか調べるとともに、他の性質に影響がないかも解析を進めたい」と話す。
大場あい
(読売)
【胎児の全染色体検査、妊婦の血液で…新手法開発】
妊婦の血液で胎児の病気を調べる新型出生前検査を実施している米国の検査会社「シーケノム」は、すべての染色体にある異常を検出できる新しい検査法を開発したと、7日まで京都市で開かれた国際人類遺伝学会で報告した。
  報告された新検査は「マタニティ・ゲノム」。妊婦の血液中に流れこんだ胎盤のDNAの断片から胎児の病気を調べる。従来の検査では、ダウン症など一部の染色体が3本ある疾患や特定の染色体の欠損などしか調べることができなかった。新しい検査では、すべての染色体について、一定の長さ以上のDNA配列の欠損や重複の可能性を調べることができるという。
  米国では昨年夏に実用化されており、約1100人の妊婦の検査では、おなかに針を刺して行う従来の羊水検査でもわからなかった複雑な染色体異常が検出できた例もあるとしている。
  日本での新型出生前検査は、ダウン症などを対象に2013年から臨床研究として実施。約3万人の妊婦が検査を受けた。
  同社によると、新検査は米国以外の複数の国で実用化が検討されているという。だが、必ずしも重くない疾患も対象になるため、日本への導入が検討された場合、倫理的な面で議論を呼びそうだ。
【小泉氏「人口減少強みに変える」=自民若手、社会保障で提言】
時事
4月14日(木曜日)
自民党の若手議員でつくる「2020年以降の経済財政構想小委員会」(小委員長・橘慶一郎総務部会長)は13日、党本部で会合を開き、社会保障制度の見直しなどを柱とした提言を正式に了承した。
  夏の参院選から選挙権年齢が引き下げられることをにらんだ内容となっており、中心メンバーの小泉進次郎農林部会長は会合後の記者会見で、「人口減少を強みに変えて新たな社会づくりをする」と強調した。
  社会保障制度をめぐり、若者層が高齢層より冷遇されているとの指摘がある中、提言は「政治がレールをぶっ壊して、自由に生きていける日本を創る」などと若者向けのメッセージを記載。高齢者への給付が中心の制度から、「全世代型の社会保障に転換する」ことを訴えた。
【後見弁護士らの着服、昨年37件・・・過去最悪に】
読売
認知症高齢者や親権者のいない未成年者らの財産管理などを行う後見制度で、弁護士や司法書士らの「専門職」による着服が昨年1年間に37件(前年比15件増)確認され、2010年の調査開始以来、過去最悪だったことが最高裁の調査でわかった。
  被害総額は、金額を特定できない2件を除き、計1億1000万円に上った。一方、親族らを含む後見人全体の着服件数は521件(同約37%減)、被害金額は29億7000万円(同約48%減)で、初めて前年を下回った。
  後見制度を巡っては、独り暮らしや認知症の高齢者の増加が見込まれることを踏まえ、「成年後見制度利用促進法」が8日に国会で可決、成立。今後、制度の利用が増えるとみられ、着服などの不正をどう防ぐかが課題となっている。
4月17日(日曜日)
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【ここまで熊本地震関連】
4月25日(月曜日)
「凍土遮水壁」凍結を開始 第1段階、年度内完了目指す
福島民友新聞(4・1・09:17)
東京電力は31日、福島第1原発1~4号機を取り囲むように地盤を凍らせる汚染水抑制対策「凍土遮水壁」の第1段階として、建屋海側(東側)などの先行凍結を始めた。30日に原子力規制委員会の認可が出た海側全面と山側(西側)の95%を3カ月余りかけて凍らせる。
東電は2016(平成28)年度内に全体の凍結完了を目指しており、建屋への地下水流入は現在の日量百数十トンから50トン程度に減らせるとしている。
  凍土壁は長さ約1.5キロ、深さ約30メートルの壁を地中に築き地下水の流れを遮断する、世界的にも例のない大規模工事。実現性や効果が未知数な中、14年6月の着工から約2年で稼働にこぎ着けた。政府と東電は15年度内の凍結完了を目指したが、安全対策の議論が長引いた。建設を請け負った大手ゼネコンの鹿島は「実績のある工法で効果は出ると思う」としている。
東電は建屋海側の全体の凍結と山側の北側一部、地下ケーブル配管などの埋設物があり凍りにくい部分から先行的に凍結させる。その後、水位などを確認した上で、地下水の流れを一気に遮断しないよう山側の7カ所(計約45メートル)を除いた95%まで凍らせる計画。凍結開始後1カ月から1カ月半程度で凍結管の周りの土壌が凍って壁を形成し始めるとみており、地中の温度監視を続ける。
  三つに分けた工程のうち、今回の第1段階でデータを集め、第2段階以降の実施計画を順次取りまとめて規制委に申請する。
凍土壁で建屋周囲の地下水位が下がり過ぎると、建屋内の汚染水の水位と逆転し、汚染水が地中に漏れ出す恐れがある。東電は地下水位が下がり過ぎた場合、凍結中止や建屋周辺の井戸への注水で対応する方針。
  記者会見した東電福島第1廃炉推進カンパニーの増田尚宏最高責任者は「建屋内の高濃度汚染水が漏えいしないよう段階的に慎重に進める」と述べた。
4月26日(火曜日)
【<ハンセン病>元患者ら「身内に甘い判断」特別法廷報告書に】
毎日(4・25・22:52)
「身内に甘い判断だ」。最高裁が25日公表したハンセン病患者の特別法廷の調査報告書が「違憲」と明記しなかったことに対し、元患者たちは不満をあらわにした。熊本県合志(こうし)市の国立ハンセン病療養所菊池恵楓(けいふう)園で25日、記者会見した入所者自治会の志村康会長(83)は「最高裁が司法手続きの誤りを認めて反省するのは異例だが、違憲性を認めなければ謝罪にならない」と歯切れの悪い報告書に異議を示した。
記者会見には入所者自治会の長州次郎さん(88)=仮名=の姿もあった。長州さんは、自分の目で見た特別法廷の姿を現地調査に訪れた最高裁や有識者委員会のヒアリングで語ってきた。「遠い遠い東京から届いたファクスの報告書は胸に響かなかった。こちらの真意が伝わっていない」と残念がる。療養所の正門に開廷を知らせる貼り紙があったとされる報告書の内容には、会見に出た元患者4人は「誰も見たことも聞いたこともない」と口をそろえた。
「黒白2色の“くじら幕”で建物が覆われていた」。長州さんは元患者の男性が特別法廷で無実を訴えながら殺人罪などで死刑になった「菊池事件」の初公判時の様子が目に焼き付いている。1951年、入所者自治会の事務所の畳部屋で、元患者の裁判が開かれていると聞いた。背丈を超える幕から裁判の様子をのぞこうと思ったが、同園の職員によって監禁室へ入らされる懲罰が怖くてできなかった。「中で何をしているかわからんかった。裁判が公開されていたとは思えない。
1年後には舞台や観覧席を備えた園内の公会堂の裁判をのぞいたが、同じように入り口は幕で覆われ、告知の貼り紙を見た記憶はない。感染を恐れた裁判関係者が証拠物を火ばしで扱ったという証言も耳にし、「国が助長した差別と偏見に最高裁ですら毒されていたんだ」。そう考えてきた。
  報告書は謝罪はしても「違憲」の明記を避けたように思える。「設置手続きに問題があったなら、特別法廷での判決は一つ一つ再検証するのが筋じゃないか」。米寿を迎えた長州さんの語気が一層強くなった。
  弁護団らは27日午後4時に最高裁で経緯や説明を受けるという。(」柿崎誠)
  ◇弁護団長「憲法違反に実質的に触れている点は評価できる」
特別法廷の検証を申し入れた菊池事件再審弁護団長の徳田靖之弁護士は、最高裁の報告書について「法の下の平等を定めた憲法14条違反に実質的に触れている点は評価できる」と話した。
  報告書は、ハンセン病国賠訴訟の熊本地裁判決を前提に、遅くとも60年以降の違憲の疑いを認めた。徳田弁護士は「60年以前も特別法廷が差別的だったことは間違いない。60年以降に限定したのは菊池事件の再審に影響することを恐れたのではないか」と指摘した。
  弁護団は2012年、検察官が自ら菊池事件の再審請求をするよう検事総長に求める要請書を熊本地検に提出している。徳田弁護士らは近く同地検を訪れ、最高裁の検証結果を尊重し、再審請求すべきだと伝える方針だ。
  また、最高裁の裁判官会議が48年に、ハンセン病患者の刑事事件は一律に特別法廷にする前提で事務総局に指定手続きを一任したことも報告書で判明した。徳田弁護士は「事務総局が謝罪をしているが、裁判官会議こそ責任を問われるべきだ」と批判。27日に最高裁を訪れ、検証の継続を求める。(江刺正嘉)
◇「違憲の疑いがある」かなり重い
ハンセン病問題の解決をライフワークにしている江田五月元参院議長の話 かなり時間がかかってしまったが、裁判官会議の談話で「心からおわびします」と明記したことは評価したい。有識者委員会が「違憲の疑いがある」と指摘した点を、報告書が「聞き置いた」というような扱いにしている点は残念だが、事務総長が記者会見で「憲法違反の疑いがある」と発言したのであれば、かなり重い。一方で、元患者の家族たちは今年になって熊本地裁に国賠訴訟を起こしている。療養所を負の遺産として後世に残す将来構想もまだ完全ではなく、課題はなお残されている。裁判所には有識者委員会の再発防止に向けた提言をぜひ実行してほしい。
◇裁判官は現場を見て、人権感覚を鋭く
裁判官や法務省人権擁護局長としてハンセン病問題に向き合った吉戒(よしかい)修一弁護士の話 もう少し早くできなかったかという思いはあるが、最高裁が過去の制度運用を検証し、法令違反を認めて謝罪したのは画期的なことだ。療養所は市街地から離れているうえ高い塀で囲まれており、一般の傍聴は難しい。だが、形式的にでも傍聴機会を提供していたならば、憲法違反と断定するのは難しいだろう。東京地裁の裁判長としてハンセン病国賠訴訟を担当した。原告が法廷で本名を名乗らず「原告番号で呼んでください」と言ったことに衝撃を受けた。書面だけで現実を知るには限界がある。裁判官は現場を見て、人権感覚を鋭くしなければならない。
動画有
【菊池事件】
4月27日(水曜日)
毎日(4・25・07:30)
<新型出生前診断>異常判明の96%中絶 利用拡大
妊婦の血液から胎児の病気の有無をたやすく調べられる「新型出生前診断」(NIPT)で、3年前の導入以来、検査で異常が確定して妊娠を続けるかどうか選択できた人のうち96.5%にあたる334人が中絶を選んでいたことが分かった。検査を受けた女性は2万7696人に上り、「命の選別」との指摘がある一方、利用が拡大している実態が浮かんだ。
新型出生前診断を実施している病院グループ「NIPTコンソーシアム」が、加入する44施設の昨年12月までの実績を集計した。
  対象となっている疾患は、21トリソミー(ダウン症)、心臓疾患などを伴う18トリソミーと13トリソミーの計3種類。いずれかで陽性反応が出たのは全体の1.7%にあたる469人。このうち、診断を確定するためその後に行った羊水検査で異常がなかったのは35人、流産・死産が73人のほか、その後が不明の人などもいた。残り346人のうち334人が中絶したのに対し、異常が分かっても妊娠を継続した女性が12人いた。
  新型出生前診断は2013年4月、実施機関を日本医学会の認定施設に限定する臨床研究として開始された。35歳以上や染色体異常の子どもを産んだ経験のある妊婦らが対象。従来の羊水検査などより早い妊娠10週前後からでき、検査が原因の流産の危険性もないため関心を集めている。
  分析した関沢明彦・昭和大教授(産婦人科)は「想定よりも検査の精度が高いことが分かった。臨床研究の形で漫然と続けることには批判もあり、今回の結果は(本格導入など)今後のあり方を見直す議論につながるだろう」と話す。(千葉紀和)
4月28日(木曜日)
【「保育士やめたいの私だ」仕事には追われ、給料上がらず】
ヤフーニュース(4.28・11:51、一部)
保育士たちを苦しめる「持ち帰り」
仕事の大変さと報酬が見合っていない
保育士の有効求人倍率は昨年1月時点で、全国平均で2.18倍だった。都会になると、数字はさらに跳ね上がる。同じ時期、東京都は5.13倍。およそ5件の募集に対し、1人の応募しかない計算だ。
日本保育士協会の2013年度の調査によると、全国の保育園の8割が保育士確保に支障をきたし、そのうち7割は「求人を出しても応募がない」ことを問題として挙げている。
なぜ、保育士の人手不足は起きるのか。東京都内で2人の女性保育士に会った。木村さつみさん(27)と田中留衣子さん(27)。2人とも現役の保育士で、7年の経験を積んできた。給与はともに手取りで月18万円ほどだという
「仕事はきつく、賃金も安い。疲れて、土日はずっと家にいる感じでした。あまりに時間の拘束が長かった。サービス残業も当たり前。子どもは可愛いけど、ほかの仕事のほうが楽だ、プライベートを充実させたい、と思いました」
保育士時代、佐藤さんの月給は手取りで月14万円ほどだった。「勤務時間に対する給料は少ないなあ、と思っていました。サービス残業も当たり前でした」。朝は7時か8時には園に出る。残業は当たり前で、夜8時まで働くことも多かったという。
“持ち帰り”もつらかった。自宅に仕事を持ち帰るケースが、保育士ほど多い職種もないかもしれない。佐藤さんも「一番きつかったのは持ち帰り」だった。発表会で使う飾り付け品などは徹夜でやっていた。材料を自分の負担で用意しなければいけないこともあった。
自分が保育士だと人に伝えると、「毎日楽しいですよね。子どもと遊んでるんですもんね」と言われることがある。その反応に、木村さんは強い違和感を感じている。「そういうイメージなんだ、って。だから、給料安くてもしょうがない、って思われてる」。
だが、保育士は大事な子どもの命を預かる責任の重い仕事だと、木村さんは話す。「精神的に考えたら、結構つらい。それでこの給料というのは、なんかなあ、と」
仕事の大変さと給与が見合っていない、と田中さんも言う。「20万円は欲しいです。7年も働いているんだから。結婚して子どもが生まれたら、この仕事は辞めますね」
【米軍出て行け」は×で「沖縄への中傷」は○? ヘイトスピーチ対策の与党法案】
沖縄タイムズ(4・24・09:02)
人種や民族への差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)対策として自民、公明両党が参院に提出した法案で、米軍人が保護の対象となることが分かった。法案は「本邦外出身者」への「不当な差別的言動は許されない」と宣言する内容。日米地位協定上の特権を持つ米軍人が、マイノリティーである在日コリアンと同様に保護される。一方、沖縄の人々は「本邦外出身者」ではないためヘイトスピーチを受けても保護されない。
法案は19日に審議入りした。そのまま成立すれば、「米軍は沖縄から出て行け」という訴えが米軍人へのヘイトスピーチとされる恐れがあり、専門家から懸念が出されている。
 法案について、自民党の長尾敬衆院議員(比例近畿)は自身のフェイスブックやツイッターで「沖縄の米国人に対するヘイトスピーチにも関連する」「米国軍人に対する排除的発言が対象」と説明している。
 法案を審議する参院法務委員会が在日コリアンへのヘイトスピーチがあった川崎市を視察したことに関連し、「普天間、辺野古基地のゲート前、地域住民のお声にも耳を傾けてください」と求める書き込みもあった。
 本紙の取材申し込みに対し、長尾氏の事務所は「どなたの取材も遠慮している」と応じなかった。長尾氏は昨年、自民党の「文化芸術懇話会」で沖縄メディアについて「左翼勢力に完全に乗っ取られている」などと発言し、党から厳重注意を受けた。
 与党のヘイトスピーチ対策法案は、表現の自由との兼ね合いから罰則を設けていない。旧民主党など野党も昨年5月に対策法案を参院に提出し、継続審議になっている。国籍を問わず「人種等を理由とする不当な行為」を「禁止」する内容で、やはり罰則規定のない理念法になっている。(北部報道部法案は19日に審議入りした。そのまま成立すれば、「米軍は沖縄から出て行け」という訴えが米軍人へのヘイトスピーチとされる恐れがあり、専門家から懸念が出されている。
 法案について、自民党の長尾敬衆院議員(比例近畿)は自身のフェイスブックやツイッターで「沖縄の米国人に対するヘイトスピーチにも関連する」「米国軍人に対する排除的発言が対象」と説明している。
 法案を審議する参院法務委員会が在日コリアンへのヘイトスピーチがあった川崎市を視察したことに関連し、「普天間、辺野古基地のゲート前、地域住民のお声にも耳を傾けてください」と求める書き込みもあった。
 本紙の取材申し込みに対し、長尾氏の事務所は「どなたの取材も遠慮している」と応じなかった。長尾氏は昨年、自民党の「文化芸術懇話会」で沖縄メディアについて「左翼勢力に完全に乗っ取られている」などと発言し、党から厳重注意を受けた。
 与党のヘイトスピーチ対策法案は、表現の自由との兼ね合いから罰則を設けていない。旧民主党など野党も昨年5月に対策法案を参院に提出し、継続審議になっている。国籍を問わず「人種等を理由とする不当な行為」を「禁止」する内容で、やはり罰則規定のない理念法になっている。(北部報道部)
5月1日(日曜日)
【角膜機能維持、新タンパク質発見 京大など、iPSから作製に道】
京都新聞(4・29・09:24)
黒目の表面を覆う角膜上皮の機能性の維持に重要な働きをしている新たなタンパク質を、京都大iPS細胞研究所の升井伸治講師や京都府立医科大の北澤耕司助教らのグループが発見した。iPS細胞(人工多能性幹細胞)からの角膜上皮細胞の作製や、病気やけがの治療に役立つ成果で、米科学誌セル・リポーツで29日発表する。
  角膜上皮は、角膜を守るバリアーとして機能しており、病気やけがで傷つくと角膜が濁り、視力の低下を招く。角膜上皮を人工的に作製する研究も行われているが、角膜上皮が作られるメカニズムの詳細はよく分かっていない。
  升井講師はこれまでに、iPS細胞になるのを阻害するようなタンパク質は、成熟した細胞への分化や機能性の維持に関与することを見つけており、この仕組みを利用して細胞の分化にかかわるタンパク質を効率的に探し出す手法を開発している。今回、同手法を利用して、角膜上皮に多く存在するタンパク質の中から、角膜上皮への分化や機能の維持に関わる「OVOL2」を見つけた。角膜上皮細胞にあるOVOL2の働きを阻害するとバリアー機能が大きく低下した。
北澤助教は「OVOL2は、角膜上皮の機能性の維持に関与する複数のタンパク質の中でも特に重要な働きをしているとみられる。品質の高い角膜上皮を見分ける目印としても期待できる」と話している。
5月2日(月曜日)
【<水俣病>46歳、認められぬ苦難…公式確認60年】
毎日(5.1.21:12)
「公害の原点」とされる水俣病は1日、公式確認から60年を迎えた。患者認定や被害補償を求める訴訟が続き、60年を迎えても解決の道筋は見えない。
◇特措法の救済、生年で線引き
一定の感覚障害がある未認定患者に一時金などが給付される水俣病被害者救済特別措置法(特措法)は、対象を原則「1969年11月末生まれ」までとしている。しかし、その後に生まれた40代の人々が被害を訴えている。
チッソ水俣工場は水俣病原因物質のメチル水銀を生み出したアセトアルデヒド製造を68年5月に終了した。国、熊本県はこれをもって「69年以降、水俣病が発生するレベルの水銀汚染はない」との立場を取っている。特措法は妊娠期間を考慮し対象を69年11月末までの出生としている。
  熊本県南部に住み、医療福祉関係の仕事をしている女性(46)の誕生日は、その十数日後。親族が認定患者であるにもかかわらず、救済の枠の外に置かれたままだ。
女性の家は、水俣工場の排水が流れ込んだ不知火(しらぬい)海でイワシ漁をしていた網元。母(71)は「魚をすりつぶして離乳食にしていたし、網子さんたちも抱っこしては魚を食べさせていた」と振り返る。
  女性は小さい頃から「どうしてここで?」という場所でよく転んだ。手足に傷ができても気づかなかったり、就職後も知らないうちにボールペンを落としたり。頭痛やこむらがえりもひどくなった。
  祖父は死亡後に親族が認定申請して水俣病と認められていた。女性と同様の症状に悩んでいた母も2005年、水俣病不知火患者会が国などを相手に起こした未認定患者の損害賠償請求訴訟に参加。和解で救済を受けた
女性は「自分は水俣病とは関係ない」と思っていた。しかし、母の勧めで検診を受けると症状を指摘された。熊本県に特措法の適用を求め申請したが「対象外」の判定だった。
  出生時期や、提出したへその緒の水銀値が比較的低かったことなどが理由とみられる。だが、納得のいく説明はなく賠償請求訴訟に加わった。「出生年の線引きはおかしい。確かに症状があるのに。認めてほしい」(笠井光俊)
【焦点:進む円高・株安、政府は介入意識させ市場鎮静化狙う】
5月3日(火曜日)
ロイター(5・2・17:54)
[東京 2日 ロイター] - 日銀が4月の金融政策決定会合で追加緩和を見送った後、円高・株安が進行している。米為替報告書で日本が「監視国」に指定されたことに加え、今月下旬の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)を前に、為替介入に踏み切れないとの市場観測が広がっていることも影響している。
 麻生太郎財務相は円売り介入辞さずの姿勢を示したが、反転の兆しは見えない。日本政府は「介入」を意識させながら、市場の鎮静化を見守る戦術を取る可能性が高い。
<市場が注目する米為替報告書>
 「明らかに一方的に偏った投機的な動きが見られているので、極めて憂慮している」──。麻生太郎財務相は4月30日夜、羽田空港で記者団に囲まれ、これまでよりも1段階トーンを上げて、円売り介入も辞さない姿勢を示した。しかし、2日の東京市場ではドル/円<JPY=EBS>が106円台前半まで下落。日経平均株価<.N225>も一時4月12日以来となる1万6000円割れとなり、「口先介入」に対する反応は鈍かった。
 背景には、「実弾介入」の可能性について、市場が懐疑的にみていることがある。米財務省が29日に発表した外国為替報告書で、日本は「監視リスト」に指定された。さらにもう1段厳しい「為替操作国」に認定される3要素のうち、2要素に該当していることが明らかとなり「ここで介入すれば、操作国と認定されかねない」(外資系銀関係者)との見方が一挙に市場で多数派を形成することになった。
これに対し、日本の財務省幹部は「(為替報告書が)日本の介入を制限するものではない」との姿勢を崩していない。
ただ、政府部内にも日本が単独介入した際に「米国が『ビナイン・ネグレクト』(静観)してくれる可能性は低い」と指摘する向きもあり、介入の実効性は不透明だ。
また、市場の一部には米為替報告書が批判の対象として、日銀の追加緩和も想定しているのではないかとの思惑も出ている。しかし、日銀内にはこの見方を明確に否定する声が圧倒的に多い。
<市場との溝>
一方で、政府部内には今回の円高が、4月28日の日銀金融政策決定会合における追加緩和見送り後に起きていることに言及する関係者もいる。複数の関係者は、日銀の決定が相場に影響を与えた可能性があると見られるなら、為替介入の正当性が保たれるのか微妙だとの見解を示している。
 日銀の黒田東彦総裁は、決定会合後の記者会見で「市場との対話に問題があるとは思っていない」と語った。日銀内でも、その後の相場変動についてのコメントを控える一方、追加緩和見送りの決定は間違っていなかったと指摘する声が多い。
しかし、政府部内には追加緩和の有無にかかわらず、市場変動が大きくなるケースがあることから「(日銀と市場の対話に)ボタンの掛け違いがあるかもしれない」(政府関係者)との声も出ている。
一方で、政府部内には今回の円高が、4月28日の日銀金融政策決定会合における追加緩和見送り後に起きていることに言及する関係者もいる。複数の関係者は、日銀の決定が相場に影響を与えた可能性があると見られるなら、為替介入の正当性が保たれるのか微妙だとの見解を示している。
 日銀の黒田東彦総裁は、決定会合後の記者会見で「市場との対話に問題があるとは思っていない」と語った。日銀内でも、その後の相場変動についてのコメントを控える一方、追加緩和見送りの決定は間違っていなかったと指摘する声が多い。
しかし、政府部内には追加緩和の有無にかかわらず、市場変動が大きくなるケースがあることから「(日銀と市場の対話に)ボタンの掛け違いがあるかもしれない」(政府関係者)との声も出ている。
5月26─27日の主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)では「現下の経済情勢が最大のテーマとなる」(安倍晋三首相)見通しだ。
 政府・日銀は、議長国として議論をリードするためにも、市場の混乱を早期に収束させたい考えだが、サミットまでを考えた場合、手元にあるカードは多くなさそうだ。ただ、円買いのポジションが膨らむ中、市場における介入警戒感がくすぶり続けているのも事実。今週発表予定の米経済指標などをきっかけに円安方向に相場が反転する可能性もある。
 政府は、介入の可能性を意識させつつ、円高圧力の鎮静化を狙っていると思われるが、そのためにはポジション動向など市場の変化を正確に把握することが不可欠。
サミットまでに市場との溝をどれだけ埋められるか、政府・日銀の正念場はなお続きそうだ。
(梅川崇、竹本能文、梶本哲史 編集:田巻一彦)
5月3日(水曜日)
「保育士の給料」はいったいどれだけ安いのか
東洋経済(5・3・06:00)
政府は重要政策の一つとして掲げる「待機児童ゼロ」の実現に向けて、保育士の待遇改善を打ち出した。安倍晋三首相は4月26日、「1億総活躍国民会議」の中で2017年度から保育士の月給を2%増に当たる約6000円引き上げる方針を表明した。介護士についても同1万円の昇給を図るようだ。
 「保育士の賃金は安すぎる」とはこれまで一般的に指摘されてきたことだ。実際のところはどうなのだろうか。保育士の給料は全国平均で年収323.3万円(平均年齢35.0歳)と、全産業平均の489.2万円(同42.3歳)に比べて確かに高くはない(平成27年度 賃金構造基本統計調査)。というよりも、明らかに「安い」といえる水準だ。
公務員保育士の給料は世間並み以上
一方で、保育士すべての給料が安いかというと、そうでもない。保育所には運営主体によって、地方公共団体が運営する公立保育所と、社会福祉法人や株式会社が運営する私立保育所がある。公立保育所に勤める、いわゆる公務員保育士なら話は別だ。
  東京都練馬区を例に挙げよう。同区が運営する保育所に勤める保育士の平均年収は539.1万円(平成27年度 練馬区人事行政の運営等の状況の公表)。平均年齢が44.0歳ということを考慮しても、全産業の平均給料よりも高い。
つまり保育士の給料は官民格差が大きい。公務員保育士は勤続年数に応じた昇給のほか、水準としても平均的な公務員と同程度の収入が確約される。そのため、公立保育所の保育士採用試験には応募が殺到し、自治体によって倍率は数倍から10倍を超えることも珍しくないようだ。
  逆に、なぜ私立保育所の保育士の賃金は低いのか。
私立保育所の求人をいくつか眺めてみると、正社員の初任給は20万円前後で募集している保育所が多いことがわかる。初任給20万円というと、多くの業種における大卒新入社員の初任給とそんなに大差はない。
  問題はそこからの昇給幅の少なさである。保育士全体の平均年齢35.0歳に対し、平均月給は21.9万円。35歳の保育士なら少なくとも10年以上の経験があるはずなのに、初任給からほぼ昇給していない計算となる。
これは私立保育所の収益構造によるところが大きい。私立保育所は、認可保育所と認可外保育所に分かれている(公立保育所も「認可」「認可外」の区分においては、認可保育所の一種であるが、人件費の考え方が違うので、ここでは除外する)。
経営努力をしても収入を増やしにくい
 私立の認可保育所は、施設や職員数などにおいて国の設置基準を満たし、公費により運営される保育所である。市区町村が一括して集めた保育料に税金を足して認可保育所運営のための原資とし、各認可保育所に運営費として分配する。認可保育所へ分配される運営費の額は、原則として当該保育所に在籍する年齢階層ごとの園児数によって計算される。
  園児1人を受け入れるのにかかる1カ月あたりの費用を「保育単価」とし、年齢階層ごとの「保育単価」×「園児数」の積み上げが、保育所の収入となる。在籍する保育士の平均勤続年によって最大12%の加算があるが、基本的には在籍する園児数によって予算額が決まってしまい、経営努力をしても保育所に入ってくる収益を増やせない。これが私立の認可保育所で職員を昇給させることが難しい根本的な理由だ。
私立の認可外保育所はどうか。認可外保育所とは、施設の広さや職員数などで国の設置基準を満たすことができず、公費の支給を受けることができないので、原則として保育料収入だけで運営される保育所のことを指す。東京都の「認証保育所」制度のように、認可外保育所に対し独自の補助を与えている地方自治体もあるが、やはり、保育士の待遇は認可保育所と同等か、それに満たない場合も少なくないようだ。
  政府が打ち出した保育士の昇給のための補助金の対象範囲はまだ不明確であるが、認可外保育所で働く保育士も、認可保育所で働く保育士と職務内容に何ら変わりはないので、認可外保育所の保育士が補助金の対象から外れるということは望ましくないだろう。
とはいえ月6000円程度の引き上げで保育士の待遇が大幅に改善され、働き手から見て魅力を増すとは言い難い。年間に直せば7万2000円の昇給にすぎず、賞与に一部反映されるとしてもまだまだ水準そのものが低い。保育士には給与水準そのものの低さに加えて、働きに対する正当な報酬が支払われていないという問題もありそうだ。いわゆるサービス残業である。
平成27(2015)年度 賃金構造基本統計調査によると、保育士の時間外労働は1カ月平均「4時間」という調査結果になっている。ただ、筆者が知人や友人などからヒアリングしてみた限り、保育士の時間外労働が月4時間で収まっているとは到底思えない。賃金に反映されていない水面下の時間外労働が、少なからずあるのではないかと推測される。
保育士には意外と時間外労働もある
というのも、保育士は園児と直に接する以外にもさまざまな労働をしているからだ。園児が到着するよりも早く出勤をして、掃除や換気など園児を受け入れる準備をしたり、園児が帰宅した後も日誌を書いたり翌日の授業の用意をしたりなども日々の重要な業務の一部である。発表会や運動会、遠足など、各種行事の前は、その企画や準備のため深夜まで保育園に残ったり、自宅に仕事を持ち帰ったりすることも珍しくないようである。
  労働基準法では、所定労働時間に限らず、実質的に事業主の指揮命令を受けていた時間は、全て賃金の発生する労働時間としてカウントされるべきものとしているので、これらの時間の一部も労働時間とカウントできるかもしれない。賃金引き上げだけに限らず、保育士に対する残業代が労働基準法上のルールに基づいて、正しく支払われるようになれば、保育士の年収がおのずと上がる可能性もある。
2014年度に東京都福祉保健局が公表した「東京都保育士実態調査報告書」にも注目したい。報告書内に示されている統計データの1つで、都内で就業中の保育士8214名から有効回答を得たアンケートであるが、複数回答可で職場への改善希望点を尋ねたところ、59.0%の方が給与・賞与等の改善を求めたのに続き、職員数の増員を40.4%、事務・雑務の軽減を34.9%、未消化(有給等)休暇の改善を31.5%の方が求めていることが分かった。
  給与面に続き、1人当たりの負荷の高さや休みの取りにくさに不満を感じている保育士が多いということだ。保育士の離職理由に関しても同様の傾向が見られたので、賃金の低さだけでなく、労働環境の厳しさも保育士不足の背景にあるということが統計上も確認できるわけである。
そうすると、国の支援策としては、当人の給与を引き上げるだけでなく、保育所が職員の負荷分散のため、雇用者する保育士の数を増やす余力を持てるようにすることも必要であろう。保育士が有給休暇を取得することも踏まえて、代替要員を無理なく確保できるような前提条件を充分に検討してもいいだろう。
  いずれにしても、地方公務員と同等の待遇が受けられる公立保育所であれば保育士が集まっていることは事実なのだから、私立保育所でも一定の労働条件の引き上げ環境が整えば、保育士の離職率が下がる。また、潜在的保育士も保育の現場に戻ってきて、待機児童問題の解消にもつながるのではないだろうか。
最後に補足だが、非常勤保育士の待遇改善も課題である。待遇が良いとされる公立保育所においても、非常勤職員として採用された場合は、時給ベースでの賃金となり、フルタイムに近い形態で勤務したとしても年収は200万~300万円程度にしかならない。「同一労働同一賃金」の推進が政府の大きな方針にある以上、同じ保育士という仕事をしていても、正社員であるか非常勤であるかという、採用の入口が違っただけで大きな差が生じてしまう待遇格差についても議論が必要になってくるだろう。
5月8日(日曜日)
【ベトナム人留学生はなぜ技能実習生を調査したのか】
(1)差別と搾取の技能実習制度と「憧れの日本」
巣内尚子(4.21)
「現代の奴隷」と呼ばれることさえある外国人技能実習生。日本の「外国人技能実習制度」をめぐっては、技能実習生が低賃金で就労していることに加え、人権侵害やハラスメントへのリスクにさらされるなど、数々の課題が指摘されてきた。
だが、それでも今、技能実習生として日本で働くベトナム人が増えている。技能実習生の多くを占めてきた中国出身者は最近では減少傾向にあり、これをベトナム人技能実習生が補っている格好だ。そんな技能実習生を調査し大学の卒業論文を書き上げたベトナム人の男性留学生がいる。彼はなぜ、技能実習生を調査したのか。ベトナム人留学生が技能実習生を調査するに至った背景を何回かにわけて掘り下げたい。
「ベトナム人技能実習生に対する調査は自分の使命
現金収入を求め農村から都市への出稼ぎ者が増加中だが、海外へ出稼ぎに行く人もいる。筆者撮影
ベトナム人技能実習生のことを調査するのは自分の使命だと思った――。
ハノイ市郊外出身のグエン・ヒュー・クイーさん(27)は、こう切り出した。
それは2016年1月、ハノイ市の中心部にあるホアンキエム湖の近くのカフェでのことだった。クイーさんは京都の龍谷大学国際文化学部の学士課程に正規入学した後、4年の課程を終えて、2015年9月に卒業したという。
そんなクイーさんが龍谷大学での卒業論文のテーマに選んだのが、日本の「外国人技能実習制度」により日本で働くベトナム人技能実習生の就労状況だった。
はきはきと話し、にこやかな表情を見せてくれるクイーさん。ときおり関西弁も出てくる流ちょうな日本語で自身について話してくれる。その日本語能力の高さと日本に関する知識の深さから、クイーさんが日本で必死に勉強をしてきたことをうかがわせる。同時に、彼の話からは、彼自身が社会に関して批判的な視点を持っていることをひしひしと感じさせる。
「どうして技能実習生を卒業論文のテーマにしたのですか。
こうたずねると、それまでにこやかだった彼の表情はすっと引き締まった。
彼はこちらをじっと見据えながら、「自分は技能実習生でした。自分が経験したことだから、これを研究して実態を明らかにしたいと、龍谷大学に入る前から決めていました。実習生の調査は自分の使命でした」と、言い切った。
「日本の製造業の高い技術を学びたい」という強い希望
クイーさんは1988年にハノイ市近郊のハタイ省(現在はハノイ市に吸収合併)に生まれた。
ベトナムでは、長きにわたった戦争の後、1975年のサイゴン陥落、翌76年の南北統一を経て現在のベトナム社会主義共和国となった。
一方、「戦後」のベトナムはカンボジア、中国との武力衝突を経験するとともに、国際的に孤立する。旧ソ連をはじめとする東側諸国との外交関係をよりどころにしつつも、西側諸国との貿易や投資関係は進展せず、国内経済は困難に陥った。
その後、1986年のベトナム共産党の第6回党大会で、市場経済の導入と対外開放を柱とする「ドイモイ(刷新)」政策が採択され、社会・経済体制の転換へと舵が切られた。現在に続く経済成長時代を迎えるのは、それ以降となる。クイーさんが生まれたのは、「戦後」ベトナムの大規模な社会変革の最中だった。
クイーさんの父親は技術者。母親は、以前は農業をしていたが、現在は主婦として家にいる。兄は医師だ。
こうしたクイーさんが技能実習生としての来日を決めたのは、高校卒業後に入学した専門学校時代の2007年のことだった。
ベトナムでは、短期大学や大学の卒業生の就職難が問題となっている。学歴を積んでもなかなか良い仕事がに就くことのできない若者が少なくない。また、以前から「起業したい」という希望があったことから、クイーさんは高校卒業後に大学には行かず専門学校に入学し、旋盤などの技術を勉強していた。
そんな学生時代のある日、在籍していた専門学校が日本への技能実習生の送り出しを手掛ける仲介会社と提携し、技能実習生として来日する学生の募集を開始した。
この情報を得たクイーさんは、「日本の製造業の高い技術を学びたい」と、技能実習生の募集に応募した。そして、面接やペーパー試験などの学内選考を通過した後、受け入れ企業の面接にも合格し、技能実習生として日本にわたることになった。
専門学校で金属加工を学んだ彼にとって、金属加工をはじめとする製造業部門の高い技術を有する日本は、技術や知識を伸ばすことのできる大きな可能性を秘めた場所に思えたのだ。
クイーさんは、「自分の学んだ分野で技能実習生の募集があったので、応募しました。技術が生かせない分野だったとしたら、技能実習生に応募しなかったでしょう」と話す。
彼は金属加工の専門性を高めるため、日本の技術に大きな希望を抱いた。日本の技術を学ぶことが自分の夢を叶え、人生を豊かにすることだと思えたのだ。両親も彼が技術を学ぶために渡日することに賛成し、笑顔で送り出してくれることになった。
「日本の技術」への期待、喧伝される「憧れの日本」
「日本の技術」への技能実習生の期待は大きい。
技能実習生の受け入れ機関を監視する役目を担っている国際研修協力機構(JITCO)は、ホームページで、「技能実習制度は、最長3年の期間において、技能実習生が雇用関係の下、日本の産業・職業上の技能等の修得・習熟をすることを内容とするもの」と説明する。また、「この制度は、技能実習生へ技能等の移転を図り、その国の経済発展を担う人材育成を目的としたもので、我が国の国際協力・国際貢献の重要な一翼を担って」いるとする。
一方、技能実習制度の下では、多くの技能実習生が単純労働部門で働くとともに、人権侵害にさらされる事例もあるなど、これまでに技能実習制度の「技術移転」「国際協力」という建前が有名無実化しているケースが多々指摘されてきた。
だが、ベトナムでは今も技能実習生として日本にわたる若者たちの中には、本国よりも高い収入を得るという経済的な利益だけでなく、「日本の技術」「日本の働き方」を身につけることへの期待に胸を膨らませている人も少なくない。
ベトナムでは、日本の対ベトナム政府開発援助(ODA)や日本企業の対ベトナム投資の規模が大きい上、日本製品が普及しており、日本はハイテク技術を有する「経済大国」として、ととらえられているからだ。
そして、こうした「日本の高い技術」への期待を増幅させるのが、「実習生ビジネス」を担う仲介会社(いわゆる「送り出し機関」)だ。
ベトナムでは政府の認可を得た仲介会社だけが技能実習生を送り出すことができるが、こうした仲介会社は技能実習生の候補者を集める際に「日本の技術」「日本の働き方」という文言を打ち出し、若者たちを日本での技能実習へと引き付けようとしている。
一方、送り出し地ベトナムで展開されている「実習生ビジネス」において、技能実習生は搾取にさらされている。技能実習制度においては、日本という受け入れ先国で技能実習生が搾取されるだけではなく、送り出し地においても搾取の構造が構築されていると言えるだろう。
次回は、送り出し地ベトナムにおける「実習生ビジネス」において、クイーさんがなにを経験したのかをリポートしたい。
(2)
送り出し地の実習生ビジネスと借金による「拘束」
数々の課題が指摘されてきた日本の「外国人技能実習制度」。この制度のもとで働くベトナム人技能実習生を調査し、大学の卒業論文を書いたのは、ベトナムから日本に留学したハノイ市郊外出身のグエン・ヒュー・クイーさん(27)だ。クイーさんはなぜ、技能実習生について卒業論文を書いたのだろうか。
今回は、クイーさんが技能実習生として来日するに当たり直面したベトナムにおける「実習生ビジネス」について伝えたい。
「実習生ビジネス」の広がりと100万円の渡航前費用
ベトナム人が技能実習生として来日することは、そうたやすいことではない。
「ベトナム人留学生はなぜ技能実習生を調査したのか(1)差別と搾取の技能実習制度と『憧れの日本』」で書いたように、クイーさんは、当時在籍していた専門学校の学内でのペーパー試験などの選考に加え、受け入れ企業との面接にも合格する必要があった。
さらに、なによりも大きなことは、日本にわたる前に、仲介会社(いわゆる「送り出し機関」)に対して、高額の渡航前費用を支払うことが求められたことだ。
クイーさんは来日に当たり、60万円程度を仲介会社に「保証金」として預けることが要求された。銀行口座をつくり、そこに60万円程度の預金をしてから、その口座の通帳を仲介会社に預けたという。
この「保証金」は3年という契約期間を満了すれば、手元に戻ってくるもので、契約に違反すれば没収されるという預け金だ。この「保証金」を取り戻そうとすれば、何か起こっても、途中で技能実習生としての就労をやめることができなくなる。
クイーさんはさらに、渡航前訓練センターで学ぶ日本語の授業料、ビザ(査証)やパスポートの手数料、航空券、各種の必要書類の手数料として、40万円以上を仲介会社に支払った。つまりクイーさんは来日前に、まだ何も稼ぎを得ていない段階で、日本へ技能実習生としてたるため渡航前費用として計100万円程度を支払ったことになる。
ベトナムの最低賃金は2016年1月に、最低賃金が最も高いハノイ市やホーチミン市などが入る「地域1」で月350万ドン(約157米ドル、約1万7,555円)に引き上げられた。
こうしたベトナムの賃金水準から見ると、100万円という金額は非常に大きなものになり、ベトナムの人々にとって簡単に支払うことができないものであることが分かるだろう。もちろん日本の水準から見ても、100万円は高額だ。
しかも、「仕事をする」という目的を持った人、つまりお金を稼ぐ必要のある人が、これだけの金額を支払うのだ。
ベトナムでは、技能実習生として日本にわたる場合、ベトナム労働・傷病軍人・社会省(MOLISA)の認可を受けた仲介会社を通じて手続きを行うことが必要になる。
技能実習生にとって仲介会社の利用は必須な上、仲介会社はその事業活動を活発化させている。そして仲介会社が設定する高額な手数料や保証金を支払うことが一般化している。
私が、ベトナムで、日本や台湾など海外への移住労働の経験者に、「なぜ仲介会社を使うのですか」とたずねた際、「仲介会社を利用しなければ、海外に行けない」と答えた人もいた。
ベトナムでは、技能実習生としての来日をはじめの送り出しは、もはや仲介会社が重要な役割を担う「実習生ビジネス」になっているのだ。
詐欺事件、高額の費用、「保証金」という名の足かせ
技能実習生の多くはクイーさんのように渡航前費用として、渡航前訓練センターの授業料、ビザ、パスポート、各種手続きの手数料、航空券などの費用を仲介会社へ支払う。
渡航前費用は人によって異なるが、日本への技能実習生としての渡航の場合、100万~150万円という高額になるケースも少なくない。
さらに、渡航費用だけ徴収して、実際には海外に送り出さない仲介会社や、仲介会社を紹介するとして手数料をだましとる仲介者もおり、こうした詐欺行為によって大金を失う人も出ている。
また、クイーさんの事例のように「保証金」が渡航前費用に含まれるケースもある。「保証金」は契約を満了して帰国すれば返金されるが、契約を満了しなかった場合、返金されない。
借金によって工面する渡航前費用、奪われる自由
一方、技能実習生として来日するベトナム人は、そもそもお金を稼ぐという目的を持った人たちであり、こうした大金を手元に持っていないケースがほとんどだ。
そのため、ベトナム人技能実習生の大半が借金をして、渡航前費用を工面している状況がある。私が移住労働経験者に話を聞いた中では、渡航前費用のほぼ全額を借り入れたというケースも少なくなかった。
つまり、技能実習生の多くは、ベトナムで普通に働くだけではとうてい稼ぐことが不可能な莫大な額の借金を背負った形で来日し、働くことになるのだ
技能実習生は高額の借金につながれた形で就労することになる。
そのことは技能実習生の行動を制限することにつながるだろう。
借金があるために、就労環境や賃金をはじめとする処遇などに問題や不満があったとしても、受け入れ機関に対し、苦情や不満を訴え、状況の改善を求めることは容易ではない。
日本ではこれまでに、受け入れ機関が外国人技能実習生を「強制帰国」させるケースも発生しており、こうした中で、もしも技能実習の期間が満了するのを前に帰国させられることになれば、日本での技能実習生としての就労の中で満足に稼げないだけでなく、多額の借金が残ってしまうことになる。
そして、それだけ多額の借金をベトナムで稼ぐことが困難な中では、技能実習生とのその家族の経済状況は一気に悪化する。
こうした借金にしばられ、拘束された状況が、技能実習生の権利や自由を奪うケースもあるだろう。
借金をして来日するという、ベトナムから日本への技能実習生としての移住労働のあり方――。このことは「送り出し地」における「実習生ビジネス」をめぐる課題だが、同時に外国人技能実習制度を運用する日本にとっても関係のある問題だ。しかし、日本の政府や受け入れ機関はこの問題に対し、これまで真摯に取り組んできたことがあっただろうか。
(3)搾取にさらされた労働と技能習得の「不可能性」
日本の「外国人技能実習制度」。アジア諸国の若者たちがこの制度を通じ、日本各地で就労し、日本の産業を支えている。だが、外国人技能実習制度をめぐっては、低賃金などの処遇の問題に加え、就労先での暴力やセクハラ、不当な「強制帰国」など数々の人権侵害が伝えられてきた。
ベトナムから日本に留学したハノイ市郊外出身のグエン・ヒュー・クイーさん(27)は、こうした技能実習制度について調査し、大学の卒業論文を書いた。
3回目となる今回は、技能実習生の「技能習得」をめぐる実態と、技能実習生が低賃金労働に置かれていること、さらに「家賃」の支払いなどを求められるため思ったように稼げない状況をリポートする。
打ち砕かれる技術習得への希望、技能実習制度を知らない?受け入れ企業
クイーさんは100万円に上る高額の渡航前費用を借金により工面した上で、この費用を仲介会社(いわゆる「送り出し機関」)に支払った後、来日前の日本語研修を経て、2008年3月に来日した。
クイーさんは、日本到着後は監理団体による日本語研修を京都で受け、その後、滋賀県の実習先機関(受け入れ企業)での就労をスタートした。
しかし、ほどなくしてクイーさんは受け入れ企業で予想しなかった事態に直面する。
専門学校で学んだ技術や知識を生かせると思って期待に胸を膨らませて来日したものの、受け入れ企業の工場では、彼に金属加工の技術や専門性の高い仕事を丁寧に教えてくれることはなかったからだ。
そもそも現場で働く従業員は、技能実習制度についてよく知らない様子だったという。そして、クイーさんに与えられたのはいわゆる「雑用」で、技能習得のチャンスはなく、単純労働を毎日繰り返すほかなかった。
技術を教えることを拒否された技能実習生
だが、こうした中でも、クイーさんは工場の日本人従業員の技術を目で追いながら、技術を「自分のものにしよう」と考えるなど、簡単には希望を捨てなかった。
クイーさんは勤務後、毎晩のように自室で日本語の勉強をするとともに、技術関連の資料を読みこんだ。
日本の高い技術を身につけたい――。
日本の技術を身につけてからでないと、帰国できない――。
そんな思いを抱くクイーさんはある時、自分で工場の機械を動かしてみようとした。
それは現場の従業員の許可を得ないままの「勝手な」行動だった。しかし、技術を身につけたいと来日したクイーさんにとっては、なんとかして技術を学びたいという切実な願いから出たものだ。
だが、この彼の行動は現場の従業員を怒らせることになり、彼は従業員から厳しく注意を受けた。
この際、クイーさんは泣きながら、「なぜ技術を教えてくれないのですか」と日本人従業員に訴えた。
しかし、返された言葉は、クイーさんをさらに打ちのめすことになる。
「おまえに技術を教えても、3年間の実習が終わったら国に帰る。おまえに教えても、うちの会社のためにはならない」
日本人社員はこう言い放ったのだという。
それまで技術の習得を期待してきたクイーさんは、この言葉を前にして身動きできなくなった。 
彼は「日本の高い技術を身につける」という希望を抱き、学内での選考を通過した上で、100万円に上る高額の渡航前費用を借金してまで工面し、人生の貴重な3年間を日本ですごそうと思いながら、来日したのだった。
彼は技能実習生としての来日に、自分の人生を賭けていたのだ。
けれど、日本で技能実習生としてのクイーさんに求められていたことは、決して技術の習得ではなかった。
残業がないということの意味、少ない賃金を補う残業
その上、クイーさんを悩ませたのは、「思うように稼げない」という状況だった。
もともとの低賃金に加え、当時はリーマンショックの時期でもあり、職場ではほとんど残業がなかったからだ。
クイーさんもそうだが、技能実習生の多くは高額の渡航前費用を仲介会社(いわゆる「送り出し機関」)に支払って来日している。
渡航前費用は借金によって工面しているケースが多いこともあり、技能実習生の中には、「残業によってより多くの稼ぎを得たい」と考える人は少なくない。
限られた賃金しか得ることのできない技能実習生にとって、残業の持つ意味は大きいのだ。
しかし、リーマンショックの影響は大きく、クイーさんの実習先企業も残業をするほどの仕事量がなかったようだ。そのため彼は技術を習得する道を阻まれただけではなく、思ったような稼ぎを得ることもできなかった。
手にした賃金でまず借金返済、「お金が貯まらない」
クイーさんが直面した課題は他にもあった。
彼の収入は、研修1年目には基本給9万3,000円程度で、そこから税金、保険料、「家賃」2万5,000円を引かれると、手取りは6万5,000円だけだった。この手取りから食費などを出すと残ったのは月に3~4万円だけになる。
2年目、3年目は基本給が11万8,000円ほどで、保険料、税金、「家賃」を引くと、手取りは9万5,000円程度になった。そこから食費などの生活費を払うと、残るのは5万円程度である。
クイーさんは、基本的に自炊し、昼食も自分たちでお弁当をつくって職場に持って行くなどして支出を切り詰めていたが、手元には思ったほどのお金が残らなかった。
一方、クイーさんは渡航前費用を支払うために借金をしていたため、手元に残ったお金はまず借金返済に充てられた。
もともと限られた収入。そして借金の返済。貯金は容易ではなかった。
「家賃」による搾取、室内でもコートが必要な老朽化した部屋
さらに、クイーさんが支払っていた「家賃」には疑問がつきまとっていた。
クイーさんは同僚のベトナム人実習生1人と会社が用意した部屋で同居をしていた。この際、1部屋に対し「家賃」は1人2万5,000円ずつ、2人で5万円を支払っていたことになる。
ただし、会社が用意した部屋は2DKと広さこそ十分にあったものの、古く老朽化した建物だった。設備は不十分で、夏はとにかく暑く、冬はとても寒かった。
クイーさんは、電気代節約のためにクーラーは極力使わないようにしていた。少ない賃金しかないため、電気代も馬鹿にならないのだ。
また、部屋にはこたつがあったものの、途中から壊れて使用できなくなった。クイーさんたちにはものを余計な買う経済的な余裕がないため、ほとんどものがないがらんとした和室で、暑さや寒さにたえながら過ごすほかなかったのだ。
冬の寒さは特に厳しく、「外よりも部屋の中のほうが寒かった」というほどだったため、クイ―さんは室内でも常にコートを着て寒さをしのいだ。あまりに寒さに耐えかね、会社に訴え、やっとのことで電気ストーブとカーペットを支給されたが、それまでずっと我慢して過ごしていた。 
ベトナムでは日本はまだまだ経済大国として憧れの存在であり、技能実習生の募集に当たっては「日本の高い賃金」が喧伝されている。
私もベトナムにいた際、ベトナム人から「日本では月の給料は25~30万円が普通でしょう?」と聞かれたことがあった。こうした日本の賃金や就労に関するイメージと、技能実習生の実際の日本での賃金実態や就労状況はかけ離れているとしか言いようがない。
それでも多くのベトナム人が、日本での技能実習生としての就労に自分たちの夢や希望を託そうとするのだ。
一方、外国人技能実習制度では、「国際協力」「国際貢献」のために技能実習生への技能移転を図るという建て前を掲げながらも、実際には、技能実習生の中には低賃金の単純労働部門に配置されている人が少なくなく、技能実習生が技能習得の機会を十分に与えられているとはいいがたい。
建て前と実態の間に大きなかい離が存在するのだ。
そして、日本で技能実習生が直面する技能実習の実態は、夢や希望を叶えることが生易しいものではないということを技能実習生自身に鋭く突き付ける。
(4)気のいい普通のおじさんを変えてしまう恐ろしい制度
ベトナムから日本に留学したハノイ市郊外出身のグエン・ヒュー・クイーさん(27)。私がハノイで出会ったクイ―さんは技能実習生として来日して3年にわたり日本ではたらいた後に、日本の大学に入学した。そして自身の技能実習生としての経験から出てきた問題意識をもとに、日本の「外国人技能実習制度」について調査し、卒業論文を書いた。
この連載の1回目ではクイーさんの来日の背景を、2回目ではベトナムにおける「実習生ビジネス」について、そして3回目では技能実習生の「技能習得」をめぐる実態と低賃金などの搾取的な労働の在り方を伝えた。
一方、外国人技能実習制度の複雑さはそれが合法的に外国から技能実習生を受け入れる制度ながらも、この制度が運用される中で搾取や人権侵害が起きているということだ。
この半面、技能実習制度の理解を難しくするのは、技能実習生が受け入れ企業と良好な関係を構築するケースもあることだ。その上、技能実習生自身が低賃金労働や人権侵害に直面しても、それを不当なことだと認識していない場合もあり、これも技能実習制度というものが持つ意味合いを容易には咀嚼できないようにしている。
合法的な技能実習生の受け入れなのに、搾取や人権侵害があり、一方では、技能実習生と受け入れ企業とが関係を構築することもある。外国人技能実習制度は、さまざまな側面を持ち、一筋縄ではいかない制度のようだ。
4回目となる今回は日本の受け入れ企業と技能実習生との関係から、技能実習制度について考えたい。
受け入れ先企業の社長と3年間続けた「交換日記」、”搾取”と”良好な関係”のはざまで
「高い日本の技術」を身につけたいと、100万円に上る高額の渡航前費用を借金により工面し技能実習生として来日したクイーさんだったが、受け入れ企業では「雑用」をあてがわれ、技能習得への期待を打ち砕かれた。
一方、クイーさんはこうも語る。
「実習先は中小企業だったので、そもそも日本人社員も楽ではなかったのだと思います。技能実習生とはもちろん給料は違うけれど、日本人社員も残業をするなど、仕事で大変なことがあったと思います」
また、もともとこの企業が技能実習生を受け入れたのは、クイーさんともう1人の実習生が初めてのことで、技能実習生制度についても社内ではよく知られていなかったようだ。そして、日本人社員自身が、仕事に追われていたという。
日本人社員の中にはクイーさんを地域の日本語ボランティア教室に連れて行ってくれるなど、親切にしてくれた人もいた。
同時に、この会社の社長とクイーさんは、日本語学習のためもあり3年にわたり日本語で日記を交換したのだという。
社長はクイーさんのことを気にかけて、日本語のことだけではなく、自身の考えや仕事の哲学を日記に書いて教えてくれた。
社長との日記の交換は、日本での技能習得の希望を打ち砕かれてしまったクイーさんをはげますこととなった。
クイーさんのケースは、現場での仕事では、雑用を押し付けられ技術を教えてもらえない上、低賃金で働かされる半面、親切にしてくれる人もいるというように、その状況は複雑なものだったのだ。搾取され、労働現場で希望に沿わない不当な扱いを受ける一方で、一定の親密さを有する人間関係も構築していたのだ。
技能実習生の経験者からは、クイーさんが経験したような日本企業の日本人との交流も聞かれることが少なくない。
また、技能実習生の経験者と話していたとき、彼ら彼女らから「会社の人とまた会いたい」「会社があるまちを再訪したい」という発言が出たこともあった。
たしかに、海外からやってきた若者たちの面倒をみたり、親切にしたりする人もいるだろう。
さらに、ベトナム人技能実習生の受け入れ企業の中には、実習生の働きぶりにほれこみ、ベトナムに進出して、現地法人の幹部に元実習生を充てるケースも出ている。企業の中にも、技能実習生を事業を支える重要な存在としてとらえ、関係を構築したり、現地法人の幹部に登用したりする企業もあるのだ。
ベトナム人技能実習生の比較対象はベトナムの賃金水準や就労状況
この半面、「日本の会社の人に親切にされた」と話す技能実習生経験者に、就労状況や賃金について詳しく聞くと、実際には低賃金の搾取的な労働を行っていたという話がでてくることもある。
けれど、そうした状況を、彼ら彼女らは一定程度、受け入れてもいるのだ。
なぜだろうか。
これは、ベトナム人技能実習生にとっては、比較の対象になるのは、日本の賃金水準や就労状況ではなく、ベトナムの賃金水準や就労状況だからだろう。
技能実習生の賃金は、日本人労働者にとっては就労を躊躇する金額であっても、ベトナムの水準とくらべればたしかに高い。
その上、ベトナムでは労働者保護や関連法規の整備は現在でも課題となっている。出身国で、労働者保護のぜい弱性や賃金水準の低さといった課題がある中で、技能実習生としての日本での就労は場合によっては「出身国よりはよいし、まし」としてとらえられることもあるのではないだろうか。
なによりも、経済発展の最中にあるベトナムから来た技能実習生にとっては、お金を稼ぎ、家族に送金することは、家族の暮らしを支えるという重要な意味を持つ。家族のため、自分の人生のために、さまざまなことを我慢してでも、日本での就労を乗り切り、ベトナムよりも高い賃金をできるだけ多く持ち帰りたいと思うのではないだろうか。
だが「出身国よりはよいし、まし」という技能実習生としての就労を、技能実習生本人が許容したとしても、それを日本社会の側が許容してもいいのだろうか。
日本人労働者が敬遠しがちな労働部門で、日本との経済格差のあるベトナム出身者が、低賃金で、かつぜい弱な労働者保護体制のもとで働くという技能実習制度のあり方への疑問はつきない。日本の労働現場で、アジア出身の若者が搾取的な低賃金労働を担うとことが、公然と行われてしまうのはなぜだろうか。
「よい会社」と出会えるかどうかは”運しだい”
その上、受け入れ企業と技能実習生とが常に良好な関係を構築するとは言えない。
技能実習生制度では、たしかに場合によっては「人と人との交流」が生まれる可能性があり、受け入れ企業やそこで働く日本人と技能実習生との間で「個人的な関係」が構築されることもあるだろう。
しかし、技能実習制度をめぐっては、賃金水準の低さや差別的な待遇、長時間労働、賃金の未払いなど数々の課題が既に起きている。
私が聞き取りをした元技能実習生の中にも、就労先企業の日本人に暴力やセクハラを受けた人もいた。
重要な問題は、技能実習生がどのような受け入れ企業で就労するのかは、「偶然」に左右されることが少なくないということだ。
さらに、技能実習生は受け入れ企業との間で課題があっても、別の企業に転職することができない。
そのため技能実習生が日本で搾取的な処遇に直面するのか、あるいはきちんと処遇してくれる受け入れ企業で働けるのかどうかは、「運まかせ」なのだ。
”期間限定の低賃金労働”を許す技能実習制度、構造が生み出す搾取と人権侵害
この言葉を発したのは、技能実習生など外国人労働者の支援活動を長年にわたり行ってきた鳥井一平氏(全統一労働組合)だ。
鳥井氏は2015年6月27日に法政大学市ヶ谷キャンパスで開かれた公開研究セミナー「在留管理と共生-“偽装”移民政策を問う」(主催:移住者と連帯する全国ネットワーク=移住連)で、技能実習制度が構造的に持つ課題をふまえながら、「技能実習生を受け入れる企業の経営者は気のいい普通のおじさん。技能実習生制度は気のいい普通のおじさんを変えてしまう恐ろしい制度」だと語った。
個人それぞれの優しさや親切心があったとしても、そもそも低賃金での期間限定の労働を日本と経済格差のあるアジア出身者に担わせるという技能実習生制度の構造そのものが、技能実習生への搾取や人権侵害を招くなど、技能実習生を困難な状況におとしめるのではないだろうか。
技能実習制度の中で、人と人との交流も確かに生まれるだろう。けれど、そもそもの制度の持つ構造的な課題は受け入れ企業の「気のいい普通のおじさん」を変えるとともに、技能実習生を搾取や人権侵害のリスクにさらされやすくする。
(5)「受け入れ企業が怖い」インタビューを拒む実習生
5回目となる今回は、クイーさんが龍谷大学の卒業論文に向けて、技能実習生を調査する中で直面した課題について伝えたい。
日本語ボランティア教室に通い強める
クイーさんは「日本の高い技術」を身につけるという大きな期待を抱き、100万円に上る高額の渡航前費用を借金により工面した上で、この費用を仲介会社(いわゆる「送り出し機関」)に支払った後、2008年3月に来日した。
だが、滋賀県の受け入れ企業で彼に与えられたのは、いわゆる「雑用」だった。
クイーさんが「技術を教えてほしい」と頼んだものの、日本人社員は「おまえに技術を教えても、3年間の実習が終わったら国に帰る。おまえに教えても、うちの会社のためにはならない」と言い、技術を教えることを拒否したのだという。
クイーさんは日本人社員からの「お前に教えても会社のためにならない」との言葉を受け、技能実習生として日本の製造業の技術を身につけるということへの希望を持つことができなくなってしまった。彼が当初抱いていた希望は打ち砕かれたのだ。
だが、このまま3年の技能実習の期間をやりすごすわけにはいかない。
そう考えたクイーさんが賢明に取り組んだのは日本語の勉強だった。それまでも仕事が終わった後、毎晩、日本語を学んでいたが、技術関連の勉強をやめ、日本語の勉強に集中することにした。
仕事の後、スーパーマーケットで買い物し帰宅して、そこで夕飯を済ませてから、夜7時から24、25時まで日本語を独学で勉強した。
さらに、会社が休みとなる土日など、外出の時間がある日には、地域の日本語ボランティア教室をいくつかはしごしてまわった。
日本にはボランティアが無料で日本語を教える教室が各地にある。こうした日本語ボランティア教育は日本に暮らす外国人の日本語習得を支援している。
クイーさんは自分の自宅周辺のいくつかの日本語ボランティア教室を1日に何カ所かめぐり、そこで日本語会話の勉強をしていたのだ
最難関のN1を取得
こうした毎日こつこつ勉強を続けたクイーさんは、来日から2年目の2009年に日本語能力試験(JLPT)の「N2」を取得した。
日本語能力試験(JLPT)は日本語を母語としない人の日本語能力を測定・認定するための試験で、N1~5のレベルで能力は測定される。
N2は上から2番目のレベルで、「日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる」水準という。
その上、クイーさんはさらに勉強を継続し、2010年には最難関の「N1」に合格した。
技能実習生は就労に時間を取られるほか、日本語を学ぶ機会も不十分なため、例え日本で3年暮らしたとしても高いレベルの日本語を身につけられることのできる人は、実際にはそう多くはない。
日本語能力試験に合格したとしても、そうとう勉強した人でも「N2」が良いほうである上、これより下のレベルの「N3」を取得することも簡単ではない。働きながら外国語を学ぶことは、容易ではないのだ。
そうした中でのクイーさんの「N1」取得は快挙と言える。技能実習生を管理している管理団体はクイーさんの「N1」取得を称えるため、彼に米アップルの「アイパッド(iPad)」を贈ったという。
龍谷大学に合格
一方、クイーさんの目標はただ単純に日本語を身につけることではなかった。彼は日本の大学への正規入学を目指していた。
ただし、大学の試験はペーパー試験に加え、面接もあった。面接では高度な日本語の会話能力が求められる。クイーさんが日本語ボランティア教室に通い詰めたのは、より多くの日本人と会話をすることにより会話能力を習得するためだったという。
勉強の時間をほとんどとれない技能実習生にとって、日本語を身につけることだけでもハードルが高い。さらに、日本の大学の入試を突破するのは異例といっていいだろう。クイーさんは技術を身につけるという当初の希望を果たすことはできなかったが、独学で勉強を続けることで、大学に合格を果たした。
調査協力者がみつからない、「会社が怖い」
こうして大学生になったクイーさんは入学前から研究テーマを決めていた。
それがベトナム人技能実習生の就労実態だった。
彼自身が経験した技能実習生として日本での就労と暮らしから、クイーさんはベトナム人技能実習生の就労実態を明らかにすることを「自分の使命」だと思ったのだ。
だが、彼の固い決意とは裏腹に、ベトナム人技能実習生の調査は思うようには進まなかった。
フェイスブックなどを使い、インタビュー協力者を募ったものの、まったく反応がなかったのだ。
日本でもお馴染みのSNSだが、ベトナムでも若者の間に急速に浸透しており、ベトナム人のフェイスブック使用は活発だ。ベトナムの若者にとってSNSはなくてはならないものになっている。
そのためフェイスブックなどに投稿すれば,あっという間に関係者に情報が広がる。しかし、クイーさんの投稿に対する反応は皆無だった。
なぜだろうか。
後で分かったことは、ベトナム人技能実習生がインタビューへの協力によって受け入れ先企業や管理団体から注意を受けたり、インタビュー協力を問題視されたりすることを恐れていたことだった。
これまでも書いたように、技能実習生の大半は、借金をして高額の渡航前費用を支払って来日している。クイーさんのように高額の保証金を仲介会社に預けているケースも多い。
借金を返済する必要がある上、保証金は契約期間を満了しなければ戻ってこない。そのため、技能実習生は日本の受け入れ企業との間でトラブルを抱えたり、最悪のケースとして「強制帰国」させられたりすることを恐れているのだ。
借金を返すだけのお金が貯まらないうちに「強制帰国」させられれば、後に残るのは借金だけだ。ベトナムの所得水準と比べ、はるかに高額の借金をベトナム国内での就労で返済することは困難だろう。
こうした中、技能実習生の中には、実習先の企業との間でのトラブルをさけようという気持ちが働くのではないだろうか。
クイーさんは、「実習生は企業を怖がっていた」と話す。
このためクイーさんは知人などのつながりを経てたどり着いたベトナム人技能実習生に対し、一人ひとり時間をかけて説得し、インタビューをお願いすることにした。
調査の目的や意図、調査を行う理由などをできるだけ丁寧に説明し、調査対象者それぞれとの関係を構築してから、インタビューを実施したという

(6)不当な「家賃」と巧妙化する搾取、悪化する対日感情
京都の龍谷大学に留学したベトナム・ハノイ市郊外出身のグエン・ヒュー・クイーさん(27)。
もともと技能実習生として日本で働いていたクイ―さんは、自らの能実習生としての経験から得た問題意識をもとに、日本の「外国人技能実習制度」について調査し、卒業論文を書いた。
「技能実習生を調査することは自分の使命」とするクイーさん。彼はなぜ、そうした強い思いを持ち、技能実習生を調査するに至ったのだろうか。
クイーさんの調査で明らかになったベトナム人技能実習生が直面している「時給制」「日給制」の働かせ方や、不当な「家賃」が徴収されるなど、技能実習生に対する搾取が巧妙化していることを伝える。同時に、技能実習生の対日感情の悪化が起きていることも報告したい。
時給制や日給制で少ない賃金がさらに安くなる
クイーさんは技能実習生の調査は「自分の使命」だとし、調査対象者をなかなか得られない中でも、なんとか調査を続けた。
クイーさんは2014年、アンケート調査、LINEやスカイプを使ったヒアリング調査、そして岡山県と滋賀県での実地調査を実施した。
複数の調査手法を用いることにより、総合的にベトナム人技能実習生の就労実態や日本での暮らしの状況を明らかにしたかったのだ。
実地調査では、岡山県で建設業に従事しているベトナム出身の男性技能実習生の居住地と、滋賀県で縫製業に従事しているベトナム人女性技能実習生の居住地を訪れ、実際の就労実態を探るとともに、居住状況も調べた。
その結果明らかになったのは、ベトナム人技能実習生が置かれた数々の過酷な状態だった。
クイーさんがまず驚いたのは、技能実習生の中に賃金を時給や日給で計算されている人がいたことだった。
アンケート調査では、対象となったベトナム人技能実習生38人中、給与計算方法として日給制が適用されている人が8人、時給制が適用されている人が5人いた。
就労先の企業によっては、「仕事のある日」「仕事のある時間」だけ給与を支払う時給制や日給制の賃金制度を導入しているところがあり、アルバイトのように実質労働分しか賃金が支払われていなかったのだという。
日給制や時給制の給与計算方法が導入されていたのは、就労状況が天候の影響を受けやすい農業や建設業だった。
農業部門の技能実習生の中には、時給制の契約で、土日など関係なく、雇用主に命じられた日に働いている上、天候が変わり作業が中止になると、そのぶんの給与が払われなくなるという人がいた。
受け入れ先の企業にとっては、日給制や時給制は技能実習生に支払う賃金を圧縮するなど、人件費節減に効果があるだろう。
しかし、再度述べたいが、ベトナム人技能実習生の多くは100万円を超えることさえある高額の渡航前費用を借金して工面して来日し、それを返済しながら日本で就労している。債務にしばられながら、日本で働いているのだ。
技能実習生として働く中では、まず借金を返すという目標があり、借金返済が終わってからやっと貯金をすることができるようになる。
それにもかかわらず、日給制や時給制が適用され、「仕事がない時間」が増えれば、賃金は低く抑えられることになる。技能実習生の賃金水準はもともと低いが、日給制や時給制はその低い賃金がさらに低くなるという可能性があるのだ。
一方、技能実習生は基本的に、最初の就労先から職場を変えることができない。転職できないのだ。
だが、技能実習生は、こうした時給制や日給制を我慢して受け入れることが多いのではないだろうか。
それは、会社との間で、トラブルが起きたり、あるいは最悪の場合、途中で「強制帰国」させられたりすれば、技能実習生に残るのは高額の借金だけだからだ。なんとしてでも、日本で就労を続け、借金を返し、そして生活費をできるだけ切り詰め、なんとかしてできるだけ多く貯金し、家族に仕送りしようとする技能実習生は少なくない。
途中で「強制帰国」させられれば、本国の所得水準ではとうてい返済不可能な高額の借金だけが残り、技能実習生とその家族の経済状況は破たんしてしまう。こうした背景から、ベトナム人技能実習生は、期待とは裏腹の低い賃金を受け入れ、帰国の日までひたすら我慢するということにもつながる。
「家賃」という名前の不当搾取
さらに、クイーさんが驚かされたのは、技能実習生がもともと低い賃金の中から「家賃」という形で不当な金銭を徴収されていたことだ。
例えば、岡山の技能実習生の事例では、20平方メートルの部屋に6人で暮らしており、1人当たりの「家賃」は2万円だった。6人で計12万円が20平方メートルの部屋に払われていたことになる。
大阪のケースでは、30平方メートルの部屋に5人で暮らし、「家賃」は1人当たり2万5,000円。30平方メートルの部屋に対し、5人で計12万5,000円の家賃が払われている格好だ。
そして、「家賃」が最も高額だったのは滋賀のケースで、30平方メートルの部屋に5人で暮らし、「家賃」は1人当たり3万3,500円もした。この30平方メートルの部屋に対して、5人分の「家賃」16万7,500円が徴収されていた。
また、クイーさんが実際に訪れた岡山のベトナム人技能実習生の住居は40平方メートルの室内に6人が暮らしていた。外壁の崩落が激しいなど老朽化している上、日当たりが悪いために暗く、換気も良くなかった。6人はそれでも1人当たり月2万円を「家賃」として払っている。
滋賀の縫製業で働く技能実習生の住居では11人が暮らしており、二段ベッドが詰め込まれ、プライバシーのない状況だった。
しかも、11人は1人当たり月2万8,500円を「家賃」として引かれていた。
11人分で「家賃」は月に31万3,500円にも上る。その上で、11人は割高な共益費と光熱費も支払っていたのだという。
巧妙化する搾取と技能実習制度の構造的課題
日給制や時給制による賃金の圧縮や、不当な「家賃」の徴収。たとえ、受け入れ企業が最低賃金を守っていたとしても、こうした仕組みが構築されることにより、技能実習生からより巧妙に搾取がなされるということだろう。
受け入れ先の企業の中には、制度の趣旨を理解し、適正に技能実習生を受け入れているところや、技能実習生を育て技術移転を図っている企業もあるだろう。
一方、繰り返えしになるが、技能実習生は転職の自由がないため、どのような企業で就労できるのかは、運まかせの要素が多いということを理解する必要がある。
さらに、各受け入れ企業の不正や不適切な技能実習生への対応も問題だが、同時に、悪質な対応をする受け入れ企業の発生を許す技能実習制度がかかえる構造自体が大きな問題と言える。
ベトナムという日本と大きな経済格差を抱えるとともに労働者保護や人権擁護が道半ばの国から、日本語もまだ十分ではない上、日本の制度や法律をよく知らない、諸権利が制限された期間限定の外国人労働者を受け入れるという制度の在り方。
そして、送り出し地では、送り出し国政府の積極的な労働者送り出し政策の下、高額の渡航前費用を徴収する仲介会社(いわゆる「送り出し機関」)の利用が、技能実習生としての来日には欠かせないという移住システムが形成されるとともに、経済的な困難や地元の賃金水準の低さ、日本への「憧れ」などから、借金をしてまで渡航前費用を工面し技能実習生として来日しようとする人が多数存在するという現状がある。
ベトナムからの技能実習生は来日後、債務にしばられつつ、働きながら借金を返済し、できるだけ貯金しようとする。当然、契約期間を満了することが借金返済と貯金には欠かせないため、受け入れ企業とのトラブルや「強制帰国」を恐れている。
このような構造の中で、ベトナム人技能実習生は受け入れ企業との非対称の権力関係の下、就労をすることになり、さまざまな搾取やハラスメントをも我慢して過ごすことが必要になるケースも出てくるだろう。その中で、巧妙化する搾取にさらされつつ、我慢して働き続けることになるのではないだろうか。
対日感情が悪化
さらにクイーさんが調査で明らかにしたのは、技能実習生の対日感情の変化だった。
クイーさんは調査協力者に対し、来日してから日本のイメージが変化したかどうかを聞いた。
その結果、来日前の日本の印象ついては「とても良かった」が63%、「まあまあ良かった」が34%で計97%にも上った。そのほか3%は無回答だったことから、来日前の日本への印象はおおむね肯定的だったと言える。
これに対し、来日後の日本への印象については「良かった」が8%、「まあまあ良かった」が50%となり、肯定的な回答をした人は58%に大きく減った。
さらに「あまりよくなかった」が37%になり、日本に対する印象が悪化したことが伺えたという。
厳しい就労環境や貧弱な居住空間、日給制や時給制などもあり低く抑えられる賃金といった事態を受け、ベトナム人技能実習生の中には日本への印象が悪化した人が出たと考えられるだろう。
外国人技能実習制度はアジア諸国への技術移転や国際協力をうたいながらも、実際には低賃金労働者を受け入れるとともに、アジア出身者を厳しい環境の中で低賃金で働かせ、結果的に技能実習生の日本への印象を悪化させているということだろうか
現在進行形の技能実習生制度
調査によりベトナム人技能実習生の課題を把握したクイーさん。一方、技能実習生制度はいまも継続し、ベトナムなどアジア諸国出身の技能実習生たちが日本で就労を続けている。
技能実習制度は現在進行形で運営され、外国人技能実習生は今も、日本各地でさまざまな産業分野で就労し、日本の各種産業を支え、その中で、技能実習生一人ひとりはさまざまな経験をしながら、日本で働き、生活している。
「この制度をやめれば、問題を解決できる。でも、こんな良いビジネスはないと思う人がいるのでしょう」
クイーさんはこう語る。
彼が言うように、抜本的な制度改革がなければ、外国人技能実習生を取り巻くさまざまな構造的課題は容易には解決できないだろう。
同時に、技能実習生というアジア出身の若者たちを、一人ひとりの人間としてとらえ、彼ら彼女らがなにを考え、何に困っているのか、何をしたいのか、そのことへ寄り添っていくことが求められる。
外国人技能実習生は”代替可能な外国人労働者”ではないし、”顔の見えない匿名の誰か”ではない。それぞれの人生を切り開こうとする一人の個人がそこにいる。
そのことへの想像力を持つことが、日本という受け入れ国とその社会、そして、送り出し国であるベトナムのとその社会に問われている。(了)
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5月19日(木曜日)
【キリンの首を長くした遺伝子ゲノムを解読=科学者チーム】
ロイター(5・18.16:46)
[ロンドン 17日 ロイター] - 科学雑誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された記事によると、タンザニアの研究所などの科学者チームが、キリンの首を長くしたとみられる遺伝子のゲノムを初めて解読した。
キリンにとって、心臓から2メートル上にある脳に血液を送るためには強力な心臓と、他の哺乳類の2倍の血圧が必要。水を飲むために頭を下げ、気絶せずに元の姿勢に戻るためには特殊な安全弁が要る。こうしたことから、進化論を提唱したチャールズ・ダーウィンはじめ、キリンのユニークな体型は生物学者の間で謎とされてきた。
今回の研究では、キリンと、キリンに最も近く、首の短いオカピのゲノムを比較。体型と循環の変異をつかさどる遺伝子が特定された。その結果、キリンの首は少数の遺伝子変異により、心臓の強化と並行して長くなったとみられることが示唆されたという。
ただ、なぜキリンの首が長くなったかという根本的な疑問は未解決のまま。高い位置にある食べ物を取るためとの仮説が自然に発生したが、ここ20年あまり、雌の獲得をめぐる雄同士の戦いの結果との説との間で議論が交わされている。
【学歴はある程度遺伝子で決まる、研究】
AFP(5・14.12:31)
AFP=時事・・人の学歴をある程度決定する74の遺伝子を特定したとする研究論文が11日、発表された。これらの遺伝子にどのような変異があるかで決まるという。
遺伝子が学歴に与える影響は、食生活や家庭環境、機会などの環境要因と比べるとごくわずかで、その割合は0.5%にも満たない。
しかし、英科学誌ネイチャー(Nature)に掲載された研究結果は、個人レベルとは言わないまでも少なくとも社会レベルにおいて、強い意志や論争好きといった遺伝子に関係する性格的特徴が教育の達成度と一致するとの結論を導き出す程度に強固なものだ。
論文の問い合わせを担当する共著者、米南カリフォルニア大学(University of Southern California)のダニエル・ベンジャミン(Daniel Benjamin)教授は、「最も影響が大きい遺伝子変異に関しては、コピーを二つ持つ人はコピーを持たない人に比べて就学期間が平均9週間長い」と語った。
 研究チームは、遺伝子プロファイルによって差別が生じる可能性を懸念する声が上がることを予想し、遺伝子を学歴や知性と直接結びつけるべきではないとしている。一方で、今回の研究結果によって、遺伝子が行動に与える影響が環境の変化によっていかに増減するかの理解につながると指摘している。
5月26日(木曜日)
福島第一の凍土壁、1割凍結せず 東電、追加工事の方針
朝日(5・26.06:44)
東京電力福島第一原発の汚染水対策として1~4号機を「氷の壁」で囲う凍土壁について、凍結開始から1カ月半以上経過しても土壌の温度が下がりきらず、計測地点の約1割で凍っていないとみられることが25日、分かった。東電は、特に温度が高い場所は今後も凍らない可能性が高いとして、原子力規制委員会に追加工事をする方針を伝えた。地下水の流れが速く凍りにくくなっていると見て、セメントを流し込むなどの工法を検討している。
凍土壁は、1~4号機建屋の周囲に1568本の凍結管を地下30メートルまで埋め、零下30度の液体を循環させて土壌を凍らせるもの。建屋に流れ込む地下水を遮断し、新たな高濃度汚染水の発生を抑える狙いがある。これまでに約345億円の国費が投じられた。
東電は、まず建屋の海側を中心に約820メートルの全面凍結を目指し、3月末に凍らせ始めた。東電によると、凍結管近くの地中の温度は、5月17日時点で、約5800カ所の計測地点の88%しか0度以下になっていない。なかには10度ほどと高いまま推移している地点もあるという。こうした地点は、凍結管を埋める工事の際に目の粗い石が多く確認された場所だといい、石の隙間を地下水が速く流れ、凍りにくいとみられる。氷の壁にいくつもの穴が開いているような状態で、東電はセメントや薬剤を流し込んで塞がりやすくする方針だ。
東電は5月中旬にも、段階的に進めてきた山側の凍結の割合を倍増させる予定だったが、遅れている。報告を受けた規制委の担当者は「期待していたほど凍土壁の効果が出ていないのであれば、追加工事について東電と意見交換しながら検討していく」としている。
【ブタから人へ移植容認=iPS臨床も安全基準―厚労省研究班】
時事(5・17.20:16)
厚生労働省の研究班は27日、動物の臓器や細胞を人に移植する「異種移植」で、ブタからの移植を容認する方針を厚労省審議会部会に報告し、了承された。海外の移植で感染が確認されていないことなどから、従来の指針を改定する。
異種移植は、人からの臓器や細胞の提供不足を補う手段として検討されている。海外では1型糖尿病患者へのブタの膵島細胞移植が行われており、国内にも数年以内の実施を目指すグループがある。
研究班は2001年、ブタが進化する過程で遺伝子に組み込まれたウイルスにより、人に新たな感染症が生じる恐れがあるとして、移植を事実上禁じる指針を作成。異種移植はブタが主なため、国内では行われていなかった。
新たな指針では、ウイルスの組み込みが少ないブタを選ぶことや、移植を受けた患者らの健康状態を生涯にわたって調べ、新たな感染症が生じた場合に見逃さないようにすることを求める。
27日の部会では、人工多能性幹細胞(iPS細胞)をさまざまな細胞に変えて患者に移植する臨床研究について、別の研究班がまとめた安全基準も了承した。基準が作られるのは初めてで、移植に用いる細胞にがんに関わる遺伝子変異がないかや、マウスに移植して腫瘍ができないかを調べるよう求めている。
【全既存薬が効かない「悪夢」のスーパー耐性菌、米国で初確認】
時事=AFP(5.27.12:04)
(AFP=時事)全ての既存薬に耐性を持つスーパー耐性菌への感染が米国内で初めて確認されたと、米疾病対策センター(CDC)が26日、発表した。抗菌薬が効かない「ポスト抗生物質時代」の到来に警鐘を鳴らしている。
感染が確認されたのは、米ペンシルベニア(Pennsylvania)州在住の女性(49)。尿路感染症の検査で、感染症治療における最終選択薬とされている抗生物質「コリスチン」への耐性を持つ大腸菌株の陽性反応が出た。
トマス・フリーデン(Thomas Frieden)CDC所長によると、コリスチンは「悪夢の細菌」の異名で知られるカルバペネム耐性腸内細菌(CRE)に対して唯一有効な抗菌薬だという。
見つかったスーパー耐性菌が保有する遺伝子「MCR-1」は、中国や欧州でも確認されている。米国微生物学会(American Society for Microbiology)の専門誌「抗菌剤と化学療法(Antimicrobial Agents and Chemotherapy)」に掲載されたCDCの報告書は、米国での「MCR-1」初確認について「まさに全既存薬を無効にする耐性菌の出現を告げるもの」だとしている。
ペンシルベニア州の女性患者の容体に関する詳細は報告書に記載されていない。スーパー耐性菌の中には致死性の高いものもあるが、全ての患者が死に至るわけではない。
この女性には海外渡航歴がないため、米国外で耐性菌に感染した可能性はないとフリーデン所長は指摘。「われわれは、ポスト抗生物質時代にいる危険を冒している」と述べた。
コリスチンは1959年からある抗菌薬で、大腸菌やサルモネラ菌、アシネトバクター属菌などによる重い感染症の治療に用いられた。腎毒性が高いことから1980年代に人体への使用が中止され、中国を中心に家畜に使われるのみとなっていたが、近年、耐性菌の出現により他の抗菌薬が効かない場合の最終選択薬として医療機関で再び使用されるようになっていた。
【厚生年金逃れ、国の想定以上 建設業・ごみ収集員も】
朝日(5.30.10:12)
従業員に資格があるのに事業所が厚生年金に入れていない「加入逃れ」が政府の想定以上に広がっている。厚生労働省は未加入者を約200万人と推計して事業所の調査に乗り出したが、対象に含まれない建設作業員やごみ収集員の一部も未加入なことが朝日新聞の調べでわかった。
従業員5人以上の個人事業所は厚生年金に加入する義務がある。だが、建設業者の中には雇っている作業員を「一人親方」として仕事を外注している実態が判明。厚生年金の保険料負担を避ける狙いで、こうした作業員は保険料が全額自己負担の国民年金に入る。一人親方は2015年度で全国に約60万人おり、加入逃れのため装われたケースも少なくないとみられる。
東京23区の日雇いのごみ収集員(2千~3千人)のほとんども厚生年金に未加入だ。同じ業者に1カ月以上続けて雇われれば厚生年金の加入条件を満たすが、委託業者の一部は違法に加入を避けている。
厚労省年金局事業管理課は調査対象から漏れていることを認め、「実態が把握できれば適切に対応したい」とコメント。把握できていない加入逃れは、ほかの業界にも広がりそうだ。
厚生年金は平均的な収入の人で毎月約3万9千円(雇い主も同額)の保険料を40年間払うと、月約15万6500円を受け取れる。一方、国民年金は月約1万6千円の保険料で、受給額は満額でも月約6万5千円。厚生年金の「加入逃れ」は、将来的に低年金者を増やすことになる。(久永隆一、井上充昌)
<厚生年金の未加入問題〉 厚生年金は会社員や公務員ら約4千万人が加入している公的年金。厚労省は昨年末、加入できるのに約200万人が未加入だと推計し、中小・零細企業を中心に保険料負担を逃れているとみられる約79万事業所に対する集中調査を始めた。未加入のままでは低年金や無年金になり、老後は低所得に陥るリスクが高い。生活保護の利用者が増えることで、社会的コストも増大する。

【<震災5年3カ月>仮設入居者 行き場がない】
河北新報(6.11.10:38)
被災借家未解体は要件外
宮城県内で東日本大震災に伴う仮設住宅の入居世帯の1割を超える1853世帯が、今後の転居先を決められずにいることが河北新報社の調べで判明した。「再建計画を検討中」という世帯が多数を占めるが、経済的事情などで行き場のないケースも相当数に上る。11日で震災から5年3カ月。プレハブ仮設住宅の解消が見込まれる2020年度が近づく中、最大被災地の石巻市では新たな支援策の模索も始まった。(報道部・高橋公彦)
被災市町の最新データを基にした集計では、仮設住宅からの転居先が決まっていない世帯が最も多いのは石巻市の1119世帯(5月1日現在)。
 このうち3割近くが、震災前に入居していた民間賃貸住宅が被災しても解体されずに残されたため、要件を満たせず、災害公営住宅に入居できないケースだ。多くは住民税が減免対象の低所得世帯とあって自力再建は困難とみられる。
復興庁は「災害公営住宅の入居要件は自治体が柔軟に決めてほしい」と助言するが、石巻市は「これまでに仮設住宅を出て自立した世帯との公平性が崩れる」と、ここに来ての要件緩和には慎重だ。代わりに市営住宅の活用や家賃補助制度の創設を模索する。
 市は、市営住宅に空室がないため、災害公営住宅の空室や民間賃貸住宅を転用することを検討している。老朽化で廃止した市営住宅約60戸を修繕し、再利用する計画も念頭に置く。
ただ、実現には(1)災害公営住宅は対象の入居者がいなくなるまで市営住宅に転用できない(2)民間賃貸住宅は市営住宅の基準を満たすか審査が必要-などの課題がある。入居まで相当の時間を要するのが実情だ。
 家賃補助は、仮設住宅から民間賃貸住宅へ転居した世帯に期限付きで実施。市営住宅に空きが出次第移ってもらう。市は「民間賃貸住宅を市営住宅に転用するより手続きが容易。被災者の素早い住宅再建が可能」と利点を強調するが、震災後、市内の空き物件は減っており、ハードルは残る。
市は復興基金を財源としたい意向で、国との協議を進めている。復興庁は「市営住宅整備の原資とするのは基金の趣旨にそぐわない」と疑念を呈しており、新支援制度の行方は不透明だ。
【情報流出あなたは見抜けるか JTB がはまった「巧妙なメール」の罠とは】
(Buuzz Feed Japan,6.15,05;00)
グループ会社に不正アクセスがあり、790万人分もの個人情報が流出した可能性があると発表したJTB。その始まりは、一通の「巧妙なメール」にあった。
発端は、3月15日。「i.JTB」のオペレーターが開いたメールには、ウイルスが仕組まれていた。
 「なんの不信感もなかった。極めて巧妙な内容であり、やむを得なかった」
6月14日に国道交通省で開かれた会見で、金子和彦・経営企画部長(IT企画担当)は、メールの内容についてこう説明した。
件名は「航空券控え 添付のご連絡」。メールアドレスは、「ごくごく普通のありがちな日本人の苗字@実在する国内航空会社のドメイン」だった。
メールに本文はなく、PDFファイルが添付されていた。「北京行きのEチケット」。本物の可能性もある精巧なものだった。
ウイルスが仕組まれているとは気づかず、オペレーターはこのファイルを開いた。書かれていた乗客の名前をシステムで検索しても、該当する名前は見つからない。
そのままこのオペレーターは、メールの送り主に「該当はありません」と返信までしていたという。ウイルスメールだとは、最後まで気づかなかった。
返信後、すぐにエラーメールが戻ってきた。その時点でオペレーターは、異変に気付くことができなかった。
われたのが、このメールだった。
アドレスは間違いなく、実在する航空会社のもの。しかし、事案の発覚後、メールの詳細が記されている「ヘッダー」を確認すると、実際はレンタルサーバーから送られてきたものとわかった。アドレスは、偽造されていた。
 金子部長は「一目しただけでは判断できるものではなかった」と話す。オペレータは通常業務として、航空会社とメールでやり取りをしているという。
「知らないメールを開くな、というルールはありますが、これだけでそのオペレーターを責めるには、少し無理がある」
 巧妙に仕組まれていたメール。「犯人」はJTBを狙っていた可能性もある。
JTBを襲ったのは「標的型メール」と呼ばれる攻撃だ。
2015年6月、日本年金機構は約125万件の個人情報が流出したと発表したが、これも同じ手口による攻撃が原因だった。情報セキュリティ関連企業などが繰り返し注意喚起をしているが、官公庁や大企業を中心に被害が続いている。
 標的型メール攻撃には、どのような対策が有効か。独立行政法人情報処理推進機構(IPA)が公開しているレポート「標的型攻撃メールの例と見分け方」が参考になる。
 実際の標的型攻撃メールをもとに、業務でメールを利用する人に向けて、標的型攻撃メールに注意する時の着眼点や見分け方、具体的な対応方法などを記している。
を最新の状態に保つとともに、日々のやり取りの中で「あやしい」と感じたメールは安易に開かず、組織内のセキュリティ担当者や専門家に相談することだ。
これは、情報流出が起こるたびに言われる対策だ。しかし、日々大量のメールを扱う私たちにとって、これほど徹底することが難しい対策はないのかもしれない。
6月18日(土曜日)
【日本のゆくえ・現場を歩く】(1)
【2016参院選/2 介護・子育て(その1) 夜勤6回、月給14万円 女性介護士、母と娘支え】(毎日、東京朝刊、6.6)
暗い廊下に小さな声が響く。午後9時40分、秋田県大仙市の特別養護老人ホーム「真森苑(まもりえん)」。介護士の高橋亜子(あこ)さん(43)が、自宅で寝ずに待つ小学3年の長女(8)に電話をかけた。
 夜勤は午後4時半、入所者の夕食介助から始まる。食事を終えた順に部屋へ戻し、歯磨き、着替えをさせてベッドに寝かせる
午後6時半過ぎにオムツ交換を始める。入所者65人を、3人の夜勤職員のうち2人で担当する。「かわいいパジャマね」「ここ、かゆい?」。熱いタオルを手の上で冷まし、下着を下ろして拭いたあとオムツを替える。
 床ずれしないよう体にクッションを挟み、「おやすみ」と声をかける。たいてい何の反応もない。1人終わるたびせっけんで手を洗うため、高橋さんの両手は真っ赤に腫れていく。交換が終わったのは午後9時過ぎだ。
 全国の特養入所待機者は2013年度約52万人。団塊の世代が75歳以上となる25年にはさらに増え、逆に介護士は約38万人も不足する見通しだ。増え続ける高齢者を、減っていく現役世代が支える。
政府はアベノミクス「新三本の矢」で「介護離職ゼロ」を打ち出し、20年代初頭までに介護の在宅・施設サービスの受け皿を50万人分増やす方針だ。
 安倍晋三首相は、社会保障費の財源不足を招きかねない消費増税再延期を表明した際に「確実に進める」と強調した。だが、実現性を疑問視する声は消えない。
 高齢化率全国一の秋田県(昨年7月現在33・6%、全国26・0%)では問題がすでに顕在化し、施設や介護士の不足は深刻だ。高橋さんの働く大仙市は35・1%でさらに高い。真森苑にも700人以上の待機者がいる。介護士の給与は低く、嘱託で採用しても仕事を覚えたころに辞めていく。
高橋さんは14年秋から嘱託で働き、休日や夜間の勤務もこなす。5月の夜勤は6回。それでも月給は手取り14万円ほどだ。娘が3歳の時に夫と離婚し、娘と実母(74)の3人で暮らす。毎月1万円弱貯金しているが、これから膨らんでいく娘の教育費をまかなえるのか不安だ。
 「1億総活躍」「希望出生率1・8」。安倍首相の言葉は常に力強い。その陰で何が起きているのか。高橋さんの夜勤に密着した。
(介護士、娘とすれ違い激務 )
秋田県大仙市の特養「真森苑(まもりえん)」で午後6時ごろ、介護士の高橋亜子(あこ)さん(43)と合流した。夜勤の前はいつも家で洗濯や掃除をし、家族の夕食と朝食を準備。下校した娘とすれ違いで夕方に自宅を出る。仕事の合間に、電話で娘から家での様子を聞いた。午後9時過ぎにオムツ交換が終了し、手のひらほどの弁当箱を開ける。家で準備した料理の残り物で、その夜はハムとホウレンソウのサラダ。彼女の夕食だ。
食べる間に入所者のコールが鳴る。20件以上鳴る夜もある。「眠れない。寝かせて」と言う女性。車椅子で施設内をぶらつく男性に「どこ行くの?」と声をかけたら「おうちさ帰るとこ」。認知症だという。叫び声やうなり声がどこからか聞こえる。くっついて歩くだけなのに、激しい空腹と疲労を覚えた。
「お年寄りと一緒にいると、優しい気持ちになれます」。高橋さんは介護職に喜びを感じているが、仕事は果てしない単純作業だ。夜勤のオムツ交換は午後6時半、同11時、午前3時、同6時の計4回。臭いも当然ある。「仕事きつくないですか?」。高橋さんは少し考えて言った。「きついけど、つらくはない」。質問した自分が恥ずかしくなった。
昔から介護士に憧れていたという。結婚、出産、離婚を経て、娘の小学校入学を機に働き始めた。真森苑は実質的に大仙市などが運営し、正規職員の採用には年齢制限がある。嘱託の高橋さんはどんなに頑張っても正職員になれない。
 小松一典所長は「これでは若い人が集まらない」と嘆く。最近では50、60代の就労希望も珍しくない。「このままだと老人が老人の面倒を見ることになる」。安倍政権の介護施設50万床増設計画については「金もなく人もおらず、できるはずがない」と突き放した。春は施設の裏山で桜が咲き誇り、冬は隣の田に白鳥が飛来するが、介護士が足りず入所者を散歩に連れ出すこともできない。
高橋さんは収入を増やそうと、進んで夜勤に入る。体力がある今しかできない仕事だと分かっている。娘の学校は過疎で2、3年生計10人が一つのクラスで学ぶ。「ママと同じ仕事がしたい」と言うのはうれしいが、娘が成人するころ地域はどんな風景か。
 「1億総活躍って、テレビの中でしか聞きません」。消滅可能性が指摘される地域の介護を女性が低賃金で支え、子を産み育てている。アベノミクスはどこの国の話だろう。
午前0時半から2時間ほど仮眠。午前3時ごろから最も忙しくなる。一緒にオムツ交換に回るうちに、窓の外が白んできた。洗顔。車椅子への移乗(いじょう)。朝食介助。歯磨き。ベッドへの移乗。再びオムツ交換……。夜勤を終えた午前10時半過ぎ、情けないことに足がパンパンにむくんでいた。
 印象に残る場面があった。めったに反応がないというおばあちゃんが何か言った。よく聞き取れなかった。高橋さんは笑顔で言った。「おはようって。すごくうれしい。夜勤の疲れが吹き飛びます」
【「両親を離婚させるしか…」 介護費倍増、揺らぐ中流】
(朝日、6.19.18:41)
両親に離婚してもらうしかないのかも知れない――。東京都内の男性会社員(44)は、こんなことを真剣に考えている。
脳出血で半身マヒになった母(80)は最も重度な要介護5。4年待った末、東京23区内の特別養護老人ホームで2年前から暮らす。
その特養からの請求額が昨夏以降、はね上がった。食費や部屋代に介護保険の自己負担分なども含め、月約8万円から約17万円に倍増。両親の年金は月約28万円だが、実家の借地料は月8万円近く、一人暮らしをする父(75)の医療費や社会保険料の負担も重い。男性は毎月4万円の仕送りを始めたが、なお足りない。
負担が増えたのは、介護保険制度の改正で昨年8月から施設の食費・居住費の補助(補足給付)を受けられる条件が厳しくなったため。母は特養の住所で住民票登録をしており、実家の父と「世帯分離」をしている。これまで非課税世帯とみなされた母は補助を受けられていたが、制度改正によって世帯が別でも配偶者が住民税の課税世帯なら補助の対象外になった。
自治体の生活相談窓口では、担当職員から「国にはもう財源がない。生活プランを見直して欲しい」と言われ、在宅介護も勧められた。男性は住宅ローンや教育費を抱え、仕送りはギリギリ。両親を離婚させて再び補足給付を受けるしか手段がないと思い悩み、弁護士とも相談している。
「いくら財政が厳しいと言っても、利用料がいきなり倍なんて尋常じゃない」
住民税が非課税の世帯も一定の預貯金があれば、補足給付を受けられなくなった。厚生労働省によると、昨年8月末の補足給付の認定数は約90万件で、前月末の約120万件から一気に減った。制度改正の影響が大きいとみられる。
金沢市で二つの特養を運営する「やすらぎ福祉会」の酒井秀明さんによると、昨年夏の一連の介護保険制度見直しで計144人の入居者の3割ほどで負担が増えたという。「中間層でも生活がギリギリになる人がいる。『払える人が負担する』という制度の趣旨を超えている。負担増の線引きがこれでいいのか疑問だ」
その特養の個室に入居する認知症の女性(88)も夫(80)と「世帯分離」をしている。夫の年金収入で補助の対象外となり、施設利用料は月約7万円値上がりして約14万円に。合計月23万円余りの夫婦の年金だけでは足りず、貯金を取り崩すようになった。。
20歳で上京して電線会社で長年働き、定年後に故郷の金沢に戻った夫は「アベノミクスで成長って言われても、こんな負担増が続けばいずれ暮らしが成り立たなくなる」と嘆く。守り続けてきた「中流」の暮らしの揺らぎを感じている。
【<大雨>「じいちゃんが水に…」熊本地震の被災地に追い打ち】
(毎日、6.21・11:05)
熊本地震の被災地に記録的な大雨が追い打ちをかけた。20日夜から21日未明にかけて1時間に100ミリを超す雨を各地で観測。自宅敷地で溺死したり、土砂崩れに巻き込まれるなどして死者や安否不明者が相次ぎ、避難所に集まった人たちは不安な夜に逆戻りした。
熊本県甲佐町では曽我収さん(79)が死亡した。町内に住む収さんの孫で会社員の拓矢さん(18)は「夜中に『じいちゃんが水に倒れて浮いていた』と電話がかかってきた。慌てて車で向かったが、着いた時は救急車で心臓マッサージを受けていたが、息を吹き返さなかった。僕が高校で野球をしていた時、毎週のように試合の応援にきてくれた。優しくて大好きなじいちゃんだった。残念です」と話した。
拓矢さんによると、収さんの家のすぐ前には幅2~3メートルほどの大井手川が流れている。収さんは、増水してあふれた水が自宅に流れ込むのを食い止めようと、妻や娘と一緒に土のうを積むなどの作業をしていたという。
  80代の女性1人が亡くなった熊本市北区津浦町のがけ崩れ現場でも、住民が恐ろしかった夜を振り返った。近くの女性(68)は20日午後11時過ぎ、「ドンッ」という大きな音と竹が割れる「メリメリッ」という音を聞いた。「その時は何が起きているか分からなかったが、1時間ほどして消防隊員が自宅に来て『避難してください』と言われた。40年以上ここに住んでいるが、がけ崩れは初めて。熊本地震で地盤が緩んでいるのかもしれない」と不安そうな様子だった。
80代女性の近くに住む友人の女性(83)は「5、6年前には一緒に天草地方に旅行しました。最近は足を悪くしてデイケアに通っていたが、優しい人。まさかあそこでがけ崩れが起きるとは思わなかった」と語った。
  記録的な大雨が降った甲佐町は、地震で全半壊900棟を超す建物被害が出ており、町は全域に避難勧告を発令。多くの町民が避難所で不安な夜を明かした。町職員は「21日の午前中は雨の被害確認で追われている。状況が分かってから参院選で投票所が使えるかどうかなどまた確認しなくてはいけない」と漏らした。
【<高浜原発運転延長>40年ルール看板倒れ…一部審査後回し】
(毎日、6.20・21:18)
「極めて例外的」とされた原発の運転延長が認められた。東京電力福島第1原発事故の教訓から、原発の運転期間は原則40年と定められたが、原子力規制委員会は20日、関西電力高浜原発1、2号機(福井県)について、40年超の運転延長を初めて認可した。一部の審査を認可後に後回しにするなど、「40年ルール」は看板倒れになりかねない。
「最初から40年という寿命で原発ができているわけではない」。規制委の田中俊一委員長は20日の記者会見でこう述べ、「運転延長は相当困難」(2012年の規制委発足時)との発言を一転させた。
  老朽原発の運転延長は、40年ルールの導入当初「極めて例外」(当時の民主党政権)と位置付けられていた。運転延長には新規制基準への適合と工事計画の認可、運転延長の認可の三つをそろえなければならない。特に高浜1、2号機の場合は、期限が今年7月7日と全国の老朽原発で最も早く、間に合わなければ廃炉になる可能性があった。
これに対し、規制委は事実上の「救済措置」に乗り出した。審査のスピードを上げるため、人員をこの2基に集中。さらに、通常なら数年かかるとみられる1次系冷却設備の耐震確認作業を先送りし、期限切れによる廃炉を回避した。
  先送り後に確認作業がうまくいかなくても延長の認可は取り消されず、規制委内部からも「確認のやり直しは社会の理解を失う」(伴信彦委員)との批判が出たほどだった。
2基合わせて全長1300キロにも及ぶ可燃性ケーブルの防火対策にも「抜け道」が講じられた。すべて難燃性に交換するには膨大な時間とコストがかかるが、規制委は、交換が難しい場所については防火シートで巻く関電の対策を認めた。同様のケーブルを使っている原発は他に4基あり、「高浜方式」を採用すれば認可される前例を作った。
規制委にとっては、行政上の期限で廃炉になれば関電から訴訟を起こされるリスクがある。関電も、高浜の延長認可をモデルにできれば、すでに延長申請している美浜3号機(福井県)の審査も円滑になり、他社の原発にとっても延長認可されやすい環境が整う。
  期限目前の「駆け込み認可」は、両者の思惑が一致した結果だった。「全国で初めてで、後続原発の先駆けになる」。関電は規制委の認可を歓迎するコメントを出した。
6月25日(土曜日)
サンデー毎日(7.3)
【「EU離脱」ならこうなる! 世界の未来が変わる 運命の6・23国民投票は「離脱派」が日に日に優勢】
英国は6月23日、欧州連合(EU)から離脱するかどうかを問う国民投票を実施。現地では「離脱派」が優勢と伝えられる。「EU離脱が決まれば世界経済は大混乱する」との見方が広がり、急激な円高と株安が日本に襲いかかった。離脱論は今後、尾を引きそうだ。
今、世界で最もホットなキーワードは「ブレグジット」だろう。「ブリテン(英国)」と「イグジット(脱出、転じてEU離脱)」の合成語で、4年前に懸念されたギリシャのユーロ圏離脱、つまり「グレグジット」をもじっている。今回の国民投票は「離脱」「残留」の二者択一形式で英国民に判断を委ねるものだ。「離脱」が過半数を占めれば、英国はEUと離脱に向けた交渉と手続きを始め、早ければ2年後に実現する。
なぜ国民投票に踏み切るのか。2013年1月に実施を決めたキャメロン首相は当時、その理由を演説で次のように説明した。
「国はそれぞれ異なり、違う選択をするものだ。全てを統合できない。例えば、もしEU本部が英国の議会や医師の意向に反して英国医師の勤務時間を決め、『EUの決定に従うことは欧州単一市場とEUに加盟する国の義務だ』というなら、そんな主張は間違っている」
そもそも英国がEUに加盟したのは、関税を撤廃した「欧州単一市場」に参加して経済を活性化するためだった。しかし、現実のEUは違った。「多くの英国人には受け入れがたい水準の政治統合に向かっている」と首相は指摘した。EU本部の肥大化した官僚組織が「無駄な規制」を乱発し、ギリシャなど財政危機に陥った国の救済に加盟国は財政支出を強いられ、「英国民のいらだちは高まっている」。EUが英国の改革要求に取り組む猶予を与えた後、「英国民に判断を任せるべきだ」として国民投票を打ち出したのだ。
それから3年半。キャメロン首相は「残留すべし」と主張するが、世論調査では離脱・残留の両派は拮抗(きつこう)。6月に入ると「離脱派優勢」が伝えられ、波紋は瞬時に世界に広まった。英ポンドとユーロはドルに対して値下がりする一方、円は16日に一時103円台に達するほど急激な円高が進んだ。株価は主要市場で軒並み下げ、とりわけ日経平均株価は直近高値の8日から17日にかけて7%超も急落した。値下がり率が4%台の英国や1・5%の米国に比べて影響が大きい。
金融市場や世界経済に与える影響は後で触れるとして、まずは英国人が「ブレグジット」をどう見るか、東京在住のジャーナリストに聞いた。ロイター東京支局のティム・ケリー記者と保守系紙『デイリー・テレグラフ』のダニエール・デメトリオ特派員は共に「残留派」。2人とも「離脱派が支持を広げる主因は移民問題」という見方だ。先の演説で首相は「我々の島国意識は、英仏海峡をせき止められない以上、変えられない」と述べたが、移民問題には触れなかった。
ケリー氏は帰国中の5月、70代の知人女性から「近所に引っ越してきたルーマニア人一家がいかに迷惑か」を聞かされたばかり。知人女性は当然、離脱派だ。
EU圏内で英国人は「外国人」に
EU加盟国民は原則として、在留許可や労働ビザを得ることなく他の加盟国に自由に滞在できる。英国で人口急増中の移民は、04年と07年にEUに加盟した旧ソ連ブロックの東欧諸国出身者が多い。英国家統計局によると、英国に在留する東欧EU諸国の国民は、04年の14万人から14年の157万人へと11倍に急増。中でもポーランド人は7万人から85万人へと12倍になり、英国の在留外国人トップに躍り出た。在英ルーマニア人も18倍増の18万人に上る。
「ルーマニア人など東欧出身者は犯罪に手を染め、貧しく、うるさいから迷惑だ」という偏見が労働者階級を中心に広がり、「そんな移民流入を食い止めるにはEU離脱しかない」という結論になるのだという。ケリー氏は中部の工業都市マンチェスターで労働者階級の家庭に生まれ、父親はアイルランド移民。自身は「移民はよく働くし、優れた文化をもたらすなど社会にとってプラスの方が大きい」という見方だが、労働者階級が反対する背景は想像できるという。
「1970年代の幼少期、南アジアからの移民が近所に続々と住むようになり、人種差別を目の当たりにしました。中流階級からは『お前たちは差別主義者だ』と罵(ののし)られましたが、彼らは移民と接することが少なく、実態を知らなかったと思う。暴力や犯罪はすさまじいものがありました」(ケリー氏)
 発行部数が最大の大衆紙『サン』は離脱を支持する社論を打ち出し、「EUに残留すれば移民問題は悪化、雇用は悪化、賃金は悪化、そして我々の生活も悪化する」と、雇用市場で移民と競合する労働者階級の声を代弁する(6月13日付電子版)。シリアなどイスラム圏からヨーロッパに大量流入する難民も、離脱派を勢いづかせる一因だろう。
高まる反移民感情を背景に、キャメロン首相は「在英4年未満のEU出身者は公営住宅に入居できなくする」「子が英国外にいるEU出身者は児童手当を受給できなくする」といった内容の改革案をEUに要求したが、2月の合意にはわずかしか盛り込まれなかった。
 投票日まで1週間に迫った6月16日には、移民や難民の受け入れに積極的な主張をしていた下院議員が殺害された。容疑者は議員を襲った際、極右団体の名称と同じ「英国第一」と叫んでいたという。
 最新の世論調査では離脱派のリードが広がっている。デメトリオ氏は「ブレグジットは甚大な悪影響を及ぼす」と懸念する
「メディアは“不確実”という言葉を多用していますが、すでに不動産取引は凍りつき、ポンドやユーロ、それにヨーロッパ中の株価は急落し、経済がまひしかかっている。離脱派が勝てば、今の状況は氷山の一角にすぎなかったと振り返ることになるでしょう」
 上の地図と表の通り、英国は国境検査を撤廃するシェンゲン協定に参加せず、共通通貨ユーロも非導入。もともとEU加盟国中の統合水準は最低ランクだ。それでも、前述の通り、域内貿易には関税がかからず、自由に域内の他国に住んで働ける。離脱すれば域内輸出に関税が設けられ、EU圏に住む英国人は外国人として在留許可を得るなどの手続きが必要になる。
“安倍予言”が当たってしまう!?
「英国の産業や経済を支えるために必要な貿易協定を締結し直すには何年もかかります。留学生や海外就業者はもちろん、企業がロンドンから撤退し、景気が悪化することで生じる失業者を考えると、国民のかなりの部分が打撃を受けてしまう」(デメトリオ氏)
 外資系運用会社の幹部によれば、「英国の景気は離脱が決まってからすぐに、中央銀行が利下げしなければならないほど悪化する」という見方は金融関係者の間では「ほぼコンセンサス」だという。
 さらに他の加盟国でEUかユーロ圏からの離脱が騒がれ始めると危ない。金融アナリストの久保田博幸氏はこう懸念する。
「頭が痛いのはギリシャ。ユーロ圏離脱が再燃する恐れがあり、そうなるとユーロ自体が崩壊しかねません。安倍首相が伊勢志摩サミットで言った『リーマン・ショック前と似た状況』が実現してしまう」
 信州大の真壁昭夫教授も「“安倍予言”が当たってしまうかも」と恐れる。
「離脱が決まるとユーロは売り込まれ、『EUの仕組みが維持できるのか』と疑念が一気に高まる。そもそも経済力に大きな差がある諸国が同一通貨を使うという欠陥が露(あら)わになり、最終的にEUの瓦解(がかい)に向かう恐れも……」(真壁氏)
 一昨年、英北部スコットランドで分離独立を問う住民投票があった。ブレグジットが決まれば再投票に向かう。そんな見通しから、6月26日に総選挙を迎えるスペインでは、カタルーニャ地方などの分離独立機運が一段と高まるのではと緊張が走っている。
 無論、日本にとっても対岸の火事ではない。前出の久保田氏は「離脱が決まればすぐに1ドル=100円を割り込むと市場関係者は皆、言っている」と話す。輸出企業の想定為替レートは105~115円が多い。105円を想定する自動車大手にとっては数百億円の減益要因だ。「当然、株価は暴落するでしょう」
 混迷を深めるヨーロッパから目が離せない。
(本誌・谷道健太)
(サンデー毎日2016年7月3日号から)

6月29日(火曜日)
【日本眼科学会・視神経の病気】
初めに
視神経は、眼球(網膜)で集められた外界から光の情報を脳に伝える神経線維(電線に例えられる)の集まりです(図1)。この電線のもとになる神経細胞は網膜にあって、そこからの情報を伝達してはじめて、脳で意味のある「ものを見る」ことができます。この電線になんらかの障害を起こす病気を視神経症と呼びます。原因がはっきりしていることもありますが、不明な場合も多くあります。
図1・視神経周辺部の構造
視神経の症状と診断
片眼、時には両眼の急激な視力の低下や視野の真ん中が見えないといった中心暗点(図2)や上または下半分が見えなくなる(図3)のが主な症状で、眼球運動痛(眼球を動かすときの目の痛み)、目の圧迫感などを伴うこともあります。視神経症の原因を探るために、視力検査・眼底検査・視野検査のほか、磁気共鳴画像(MRI)検査・血液検査・髄液検査などが必要に応じて行われます。
図・2中心暗点のイメージ
図・3下半分視野欠損のイメージ
視神経症の分類、治療
特発性視神経炎
特発性とは原因不明の意味です。20代から50代の、女性の方がやや多い疾患で、比較的急激に、片眼または両眼の視力低下が生じます。視力低下が生じる数日前ごろから、あるいはほぼ同時に眼球運動をさせると痛みを感じたり、眼球の後ろに種々の程度の痛みを感じる場合が約半数あります。見ようとするところが見えない中心暗点型の症状が多いですが、全体に霧がかかるとか、視野の一部からだんだん見えにくくなることもあります。視神経乳頭(視神経の眼球側の端)が赤く腫れる場合(視神経乳頭炎ともいう)と、視神経乳頭には当初所見がなく正常にみえる場合(球後視神経炎ともいう)がありますが、前者は比較的改善率が良いものです。しかし後者は多発性硬化症という、視神経以外の脊髄や大脳の白質(神経線維の集まり)にも病変が及び、しばしば軽快と悪化を繰り返すタイプの病気の一部になることもあります。
  一方、最近では、多発性硬化症や視神経炎の一部に自己抗体(本来は自分の組織には抗体はできないが、何らかの原因で免疫系が自分の組織なのに自己でないと判断して、自己抗体が作られることがあります。そして、抗原抗体反応を起こして自分の組織に、ちょうど、他人のものを移植したときの拒絶反応のような抗原抗体反応を起こしてしまう)を作り、これまでの多発性硬化症などの概念とは異なる炎症を起こす型のものがあることが分かってきました((2)「抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎」の項を参照)。自然回復傾向の強いものもあって、治療は程度、病態分類などで異なりますが、通常、副腎皮質ステロイドやビタミン薬の点滴が用いられます。
抗アクアポリン4抗体陽性視神経炎
アクアポリンとは細胞の表面にある水チャネルのことで、このサブタイプの一つであるアクアポリン4に対する抗体が作られ、脳や脊髄、視神経の毛細血管に障害を起こすことが分かってきました。従来は多発性硬化症の一種で日本人に多いとされていた視神経脊髄炎の一部でこの抗体が最初に同定されました。視神経炎の約10%にこの抗体が証明され、ほとんどが女性で、両眼を侵し、重篤な視力低下を生じます。治療はメチルプレドニンの大量療法が用いられますが、反応が乏しい場合は血漿交換療法、免疫抑制薬や大量ガンマグロブリン治療が応用されます。いったん改善しても再発の可能性が高く、副腎ステロイドなどによる維持治療が必要になります。
虚血性視神経炎
特発性視神経炎と並んで視神経症の二大疾患といわれる、視神経の栄養を与える血管に循環障害が起こる病気です。身体のほかの部位の循環障害(例えば脳梗塞や心筋梗塞)と同じように、多くは高齢者の片眼に、ある日ある時間に突然視力低下や視野欠損が起こるのが特徴です。ただし、一気に視力が下がる場合と、発症時より数日後のほうが悪化する場合とがあります。視野は中心暗点や、水平半盲(下半分あるいは上半分の視野欠損)がよくみられます。ほとんどの場合は、高血圧、糖尿病、高脂血症、心疾患、血液疾患などの全身の危険因子が存在しますが、比較的若年者で生じたものは、視神経乳頭が生まれつき小さいなどの眼局所の危険因子が存在することもあります。まれですが、側頭動脈炎などの一種の膠原病が原因となったり、大きな開腹手術などで、長時間全身の循環が悪くなった場合に出現することもあります。一方、循環不全が急に起こらず、徐々に進んだ場合には、視力・視野障害が少しずつ進行するので、緑内障との見分けが大切になります。
圧迫性視神経症
視神経は眼球の後端から約30 mmのところで視神経管を経て頭蓋内に入り、間もなく視交叉という左右の視神経が集合する部位で50%は交叉し、50%は交叉せずに、視索を経て脳に入ります。この途中で、腫瘍などに圧迫されると、視神経が徐々に障害されて視力や視野の障害が起こります。多くは脳外科的治療が必要です。
外傷性視神経症
落下事故、交通事故などで前額部(特に眉毛の外側に近い部位)を強打した場合に、片側の視神経管内の視神経が挫滅して、視力・視野障害が起こることがあります。受傷早期(通常24時間以内)であれば、副腎ステロイドの大量投与が試みられます。視神経管開放手術については議論があります。
中毒性視神経症
薬物のうち、比較的長期投与において視神経を障害しうるものがあります。抗結核薬(エタンブトールなど)が有名ですが、抗生物質や抗癌薬の一部などかなりの薬物で中毒性視神経症が報告されています。新薬でまだ報告のないものもありうるので、薬物投与中に視力・視野障害が出現したら、医師に申告する必要があります。医薬品以外では、各種シンナー(トルエン、メチルアルコールなど)、農薬などで視神経障害が出現することがあります。疑いのある薬物の減量・中止が治療の基本です。
遺伝性視神経症
レーベル病と優性遺伝性視神経萎縮が、遺伝性視神経症で比較的よくみられるものです。前者は10代から40代までに発症する場合が多く、両眼(左右眼発症に数日から数か月の時間差のある症例も少なくありません)の中心部分(見ようとするところ)の視力低下で発症します。男性に多く、母系遺伝です。はじめは視神経炎と間違えられることが多いですが、血液をサンプルとして、ミトコンドリアDNAの変異の有無をみて診断できるようになりました。両眼とも0.1以下になる例が大半ですが、周辺の視野は正常で、まれにかなりの改善が特に若い時期に発症した場合にみられることがあります。後者は小学生ごろから多少両眼の視力の低下がみられるものの、通常は著しい低下になりません。どちらの疾患も、まだ、遺伝子レベルの治療はできず、治療法は確立していません。
その他
その他の原因として、副鼻腔手術後、時を経て嚢腫ができて視神経を侵す「鼻性視神経症」と呼ばれるものや、最近は少ないですがビタミンB群などの欠乏による「栄養欠乏性視神経症」もあります。ただ、今なお、視神経症の10~20%は原因の分からないものがあるとされ、また眼底に異常の認められない網膜疾患の場合もあり、医学的診断は視神経症に関する限り、まだ万能とはいえません。
【<視神経細胞>iPSとESから作製、マウスで初成功】
(毎日、6.28.00:30)
マウスのiPS細胞(人工多能性幹細胞)とES細胞(胚性幹細胞)から視神経細胞を作製することに世界で初めて成功したと、国立成育医療研究センター(東京都)と埼玉医科大の研究チームが27日、発表した。失明の恐れがある緑内障など視神経の病気で、視覚を回復させる治療法開発につながるという。
 チームは、マウスの皮膚細胞から作ったiPS細胞を特殊な液で培養し、視覚情報を電気信号として伝えるための数センチの「神経線維」を持つ視神経細胞に変化させた。実際に電気を通し、神経として機能することを確認した。また、マウスのES細胞でも同様の方法で視神経細胞を作製した。両方の細胞から視神経細胞を作れたことで、治療法研究の選択肢が増えるという。
チームは昨年、同じ技術を使い、ヒトの皮膚から作ったiPS細胞を視神経細胞に変化させることに成功している。新しい治療法などの開発にはマウスなどでの動物実験が欠かせず、今回のマウス細胞での成功により、視神経細胞の死滅を抑える薬の開発や、移植による視覚回復に近付くと期待される。
  国立成育医療研究センターの東範行・視覚科学研究室長は「動物種や幹細胞の種類に関係なく、同様の技術で視神経細胞が作れることが分かった。作製した視神経細胞をマウスに移植する実験などを進めており、人への応用につなげたい」と話す。
【iPS細胞皮膚を丸ごと再生 理研チームが成功】
(毎日、4.4.・10:28)
マウスの人工多能性幹細胞(iPS細胞)から、毛が生える元となる毛包や脂を分泌する皮脂腺を含む皮膚を丸ごと再生することに成功したと、理化学研究所多細胞システム形成研究センター(神戸市)などのチームが、米オンライン科学誌に公表した。
 辻孝チームリーダーは「やけどや脱毛症の治療で皮膚の再生につながる成果だ」と話している。
皮膚は表皮、真皮、皮下脂肪の3層に分かれており、乾燥から保護する皮脂腺や体温を調整する汗腺などを含む複雑な構造で、皮膚全体の再生が難しかった。チームはマウスの歯肉から作ったiPS細胞を1週間培養し、皮膚の再生を促す物質を加えて細胞の塊を作製した。その塊をコラーゲンに埋め込みマウスの体内に移植すると、30日後に腫瘍のような肉片ができた。
 肉片を調べると、毛包などを含む皮膚のほか、粘膜や腸の一部など皮膚以外のさまざまな組織が見つかった。
そこから毛包10〜20個を含む皮膚片を取り出し毛が生えないマウスに移植すると、皮膚片は周囲とよくくっついて毛が生え、通常のマウスと同じ周期で3回生え替わった。iPS細胞はがん化の懸念があるが、3カ月間観察しても、がんは生じなかった。
 人へ応用する場合は体外で培養する仕組みが必要で、チームは人の皮膚の再生に適した環境や条件を研究している。
(共同)
【<労災>うつ病などの精神疾患で申請1515人 過去最多】
(6.24.22:55)
◇長時間労働やパワハラ原因 15年度の厚労省まとめ
長時間労働やパワーハラスメントが原因でうつ病などの精神疾患を発症した労働災害の請求が1515人(前年度比59人増)と初めて1500人を超え、過去最多となったことが24日、厚生労働省が公表した2015年度の労災状況まとめで明らかになった。うち472人(同25人減)が労災認定された。脳・心疾患などの労災申請も、前年度から増加するなど高止まりしている。
精神疾患の請求のうち、自殺(未遂を含む)が199人(同14人減)で、過去2番目に多い93人(同6人減)が認定された。請求が多い業種は「社会保険・社会福祉・介護」が157人(同17人増)、次いで「医療業」が96人。人手不足もあり、対人関係の業界でハラスメントや過重労働が深刻化していることをうかがわせる。
脳・心臓疾患の請求は795人(同32人増)で、認定は251人(同26人減)。請求が多い業種は「道路貨物運送業」が133人(同13人増)、次いで「総合工事業」が48人。「道路旅客運送業」も30人にのぼり、運転労働者の業務の過酷さが浮かんだ。
  精神疾患で請求した人を年代別にみると、50代が287人(同70人増)と大幅増加、40代が最多の459人(同5人増)と、中高年の増加が目立った。30代は419人で高止まり、20代は281人で16人減少した。認定の原因では「心理的な負荷が極度に高い出来事」が87人で最多、「仕事の内容や量の変化」が75人、パワハラや暴行が60人だった。
14年に過労死等防止対策推進法(過労死防止法)が制定され、過労死の啓発や長時間労働縮減の取り組みが始まっている。過労死防止学会で活動する森岡孝二関西大名誉教授は「防止法の施行で過労死への認識が高まり、請求が増えている側面もあると思うが、まだまだ長時間労働がはびこっている。労働時間の上限規制や仕事と仕事の間に一定の時間を空けるインターバル規制が求められる」と話している。
【<汚染土>「管理に170年」…安全判断先送り、再利用方針】
(毎日、6.27.08:00)
◇環境省非公開会合
東京電力福島第1原発事故に伴う除染で出た汚染土を巡り、環境省の検討会が再利用の方針を決めた際、法定の安全基準まで放射能濃度が減るのに170年かかるとの試算を非公開会合で示されながら、長期管理の可否判断を先送りしていたことが分かった。環境省は汚染土を道路の盛り土などに再利用し、コンクリートで覆うことなどで放射線を遮蔽(しゃへい)するとしているが、非公開会合では盛り土の耐用年数を70年と提示。道路の供用終了後も100年間の管理が必要で、専門家は「隔離もせずに計170年もの管理をできるはずがない」と厳しく批判している。
この非公開会合は「放射線影響安全性評価検討ワーキンググループ(WG)」。汚染土の減容や再利用を図るため環境省が設置した「中間貯蔵除去土壌等の減容・再生利用技術開発戦略検討会」の下部組織で、メンバーは一部重なる。
  毎日新聞が入手したWGの内部資料によると、1~5月に6回開かれ、放射線の専門家ら委員8人と環境省や日本原子力研究開発機構(JAEA)の担当者ら計20人余が出席した。原子炉等規制法は原発解体で生じる金属などの「安全に再利用できる基準」(クリアランスレベル)を放射性セシウム1キロ当たり100ベクレル以下と定める一方、事故後成立した放射性物質汚染対処特別措置法は8000ベクレル超を指定廃棄物とし、同ベクレル以下を「問題なく廃棄処理できる基準」と規定。WGはこの8000ベクレルを汚染土再利用の上限値とするための「理論武装」(WG委員長の佐藤努北海道大教授)の場となった。
環境省は汚染土をコンクリートで覆うことなどで「放射線量はクリアランスレベルと同程度に抑えられる」として道路の盛り土や防潮堤など公共工事に再利用する計画を発案。1月27日の第2回WG会合で、委員から「問題は(道路などの)供用後。自由に掘り返していいとなると(再利用の上限は)厳しい値になる」との指摘が出た。JAEAの担当者は「例えば5000ベクレル(の汚染土)を再利用すれば100ベクレルまで減衰するのに170年。盛り土の耐用年数は70年という指標があり、供用中と供用後で170年管理することになる」との試算を提示した。
その後、管理期間を巡る議論は深まらないまま、上部組織の戦略検討会は8000ベクレルを上限として、コンクリートで覆う場合は6000ベクレル以下、植栽した盛り土の場合は5000ベクレル以下など用途ごとに目安を示して再利用を今月7日に了承した。
  環境省は年内にも福島県内の仮置き場で濃度の異なる汚染土を使って盛り土を作り、線量を測る実証実験を始めるとしている。
  戦略検討会の委員を兼ねるWGの佐藤委員長は管理期間170年の試算を認めた上で、「議論はしたが何も決まっていない。今回は再利用の入り口の考え方を示したもので、(170年の管理が)現実的かどうかは今後検討する」とした。
  環境省除染・中間貯蔵企画調整チーム長だった小野洋氏(6月17日異動)は、「最後どうするかまでは詰め切れていないが、そこは環境省が責任を持つ」と述べた。同じ検討会の下に設置され土木学会を中心とした別のWGでは汚染土再利用について「トレーサビリティー(最終段階まで追跡可能な状態)の確保は決して容易ではない」との見解が示されている。
◇捨てているだけ…熊本一規・明治学院大教授(環境政策)の話
汚染管理は、一般人を立ち入らせないことや汚染物が埋まっていることを知らせるなどの要件を満たすことが必要だ。道路など公共物に使いながら170年間も管理するのはあまりに非現実的。70年の耐用年数とも矛盾する。このような措置は管理に当たらないし、責任を取らないと言っているに等しい。実態としては捨てているだけだ。
◇◇除染による汚染土◇
住宅地などの地表面をはぎ取った汚染土はフレコンバッグなどに入れ現場の地下に埋設保管されているほか、自治体などが設置した仮置き場で集積保管されている。推計で最大2200万立方メートル(東京ドーム18個分)とされる福島県内分は双葉、大熊両町に整備中の中間貯蔵施設で最長30年間保管後、県外で最終処分する方針だが、処分先などは未定。福島県外では栃木、千葉など7県で計約31.5万立方メートルが昨年9月末時点で保管されているが、今後の取り扱いは決まっていない。
【新パナマ運河が開通 積載量3倍の船も通航可 LNG運搬に期待】
(産経、6.27.10:00)
太平洋と大西洋を結ぶ国際海運の要衝パナマ運河で26日、拡張工事を終えた運河を最初の船が通航し、祝賀式典がパナマで行われた。第1号船は中国国有の海運大手、中国遠洋運輸集団(コスコ・グループ)の大型コンテナ船で、大西洋側の新たな「アグアクララ水門」から運河に入り、太平洋側の「ココリ水門」に到達した。
パナマは拡張工事に約54億ドル(約5500億円)をかけ、従来の約3倍の積載量の船が通航可能になった。米東海岸とアジアの貿易ルートとして、北米大陸の陸路やエジプトのスエズ運河を通るルートとの競争力を強化する狙いがある。
なかでも米国産液化天然ガス(LNG)をアジア市場に輸出する大型船のルートとして期待されている。
  大西洋と太平洋を結ぶ海運ルートをめぐっては、中国企業が中米ニカラグア政府との間で運河を建設する計画を進めている。
  祝賀式典には、パナマと国交を結ぶ台湾の蔡英文総統らが出席。バレラ大統領は「パナマにとり本日は歴史的な一日だ」と祝辞を述べた。
【新パナマ運河が開通 積載量3倍の船も通航可 LNG運搬に期待】
(AFP、6,27,11:19)
約10年に及ぶ拡張工事を終えたパナマ運河(Panama Canal)を26日、中国の大型貨物船が初通航し、完成を祝う式典が開かれた。
パナマのフアン・カルロス・バレラ(Juan Carlos Varela)大統領は式典で「今日は偉大な日、国民の結束の日だ。パナマのための日だ」と語った。「これは世界を一つに結ぶルートだ」
中国船は大西洋(Atlantic)側から運河に入り、数時間かけて太平洋(Pacific)側に到達。集まった数千人の人々がゆっくりと進む貨物船に歓声を上げ、手を振った。
パナマ運河の最多利用国は、米国と中国。運河の拡張は北米とアジアを結ぶ海運貿易に多大な恩恵をもたらすと期待される。
1914年に米国によって作られたパナマ運河では、国際貿易の増加を見込んで2007年から拡張工事が始まった。予定より2年遅れで完成した工事の総工費は少なくとも55億ドル(約5600億円)。これまでの3倍の貨物輸送能力を持つ新型の大型貨物船「ネオパナマックス(Neopanamax)」級が通航できるようになった。
また、拡張によって液化天然ガス(LNG)大型タンカーの通航も始めて可能になり、米国から日本や韓国への天然ガス輸出の追い風になると予想される。
参:パナマックス(英: Panamax)とは、
パナマ運河を通過できる船の最大の大きさ。閘門の寸法、水深により制限されている。これは、貨物船を設計するときの重要な要素であり、多くの船が制限値ぎりぎりの設計で作られているとともに、事実上、世界の海を制約無く航行できる最大サイズである。
実際に通過が許可されている船舶の大きさの制限値は以下の通りである[1]
全長:294.1m 全幅:32.3m 喫水:12m(熱帯淡水において)
最大高:57.91m 排水量65000トンが典型的な大きさである[2)
nya
【新聞編集:2016.0629.21:15】
【<特養>待機者が急減 「軽度」除外策、介護難民増加か】
(毎日、6.30.21:39)
52万人が入所待ちしていた「特別養護老人ホーム」の待機者が、各地で大幅に減ったことがわかった。埼玉県で4割、北九州市で3割、東京都で2割弱など毎日新聞が取材した10自治体ですべて減っていた。軽度の要介護者の入所制限や利用者負担の引き上げなど、政府の介護費抑制策が原因とみられる。一方、要介護度が低くても徘徊(はいかい)がある人らが宙に浮いており、施設関係者らは「介護難民」が増えたと指摘している。
特養ホームは建設時に公的支援があるため公共性が強く、低所得者や家族のいない人を優先的に受け入れている。希望者が多く、入所まで数年待つことも珍しくない。
だが特養ホームで作る東京都高齢者福祉施設協議会が今年1~2月、457施設に調査したところ(242施設回答、回収率53%)、2013年と15年で1施設あたりの平均待機者数は17・7%減っていた。
都の待機者減が明らかになるのは初めて。待機者数を調べている自治体に毎日新聞が聞き取ると、13~16年ごろにかけて埼玉県42%▽北九州市30%▽神戸市27%▽横浜市16%▽岡山市13%▽兵庫県姫路市11%▽高松市11%▽広島市9%▽長崎県5%--と軒並み減っていた。
協議会は原因に▽要介護1、2の人が昨年4月から原則、入所できなくなった▽有料老人ホームやサービス付き高齢者住宅が激増した▽特養の自己負担額が高くなった--をあげる。西岡修会長は「要介護度が低くても世話の大変な人の行き場がなくなった」という。中部地方の女性(60)の母(84)は認知症だが要介護2で、特養に入れる見込みはない。一切家事ができず1人にはしておけない母を「どこに入れるというのか」と悩む。
厚生労働省高齢者支援課は「要介護3以上に(入所を)『重点化』したのは限られた資源を真に必要な人に使ってもらうためだ」と説明した。
【要介護者、奪い合い 施設空き出始め】
(毎日、21:41)
数年間の入所待ちが当たり前だった特別養護老人ホームの待機者が大幅に減り始めた。軽度の要介護者を門前払いにし、民間の施設や自宅での介護に回す国の政策が形になり始めた格好だ。一方で要介護度が低くても世話の大変な認知症の人が特養を利用できず、公費を投じた特養の一部に空きが出る矛盾も出ている。
よそより一刻も早く−−。特養の多い地域では要介護者の争奪戦が始まった。
 「“営業”しないと入所者数を維持できない」。東京都青梅市の特養「和楽ホーム」の宮沢良浩施設長は打ち明けた。ホームは都心から1時間の山あいにある。かつては都心から希望者が来たが今、待機者は最盛期の300人から100人弱に。このため5人の相談員が毎月、在宅介護の関連施設を回り入所を働きかけている。
資金も十分で入所要件を満たすのは、100人中3人しかいない。「今は結構です」。入所を告げても断られることが増えた。空きを待つうちに他施設に移る人も少なくない。青梅市は地価が安いため特養が約23カ所も建ち、競争は厳しい。
 待機者が減るとスムーズに入所が進まず、施設に空きが出る。東京都高齢者福祉施設協議会の調査では、回答の4割にあたる95の特養が「稼働率が下がった」と述べた。昨年4〜10月の平均稼働率は94・9%で、都内で2200人分のベッドが空いていた計算になる。
埼玉県では空きのある特養が3カ所ある。どれも新設で、人手不足もあり満床にするのに1年以上かかるという。ある施設長は「要介護度の低い人や低所得者のニーズに応えられていない」と指摘する。
 北関東に住む60代の夫婦はともに認知症だ。夫は要介護2で老人保健施設に入ったが、いつまでいられるかわからない。支援する社会福祉士は「本当は特養に入れたいが漂流するしかない」と悲観的だ。
待機者減の背景には介護保険の利用者負担増もあるとみられる。国は一部のサービス利用料を1割から2割負担とし、特養の入居費や食費の軽減措置も削られた。「認知症の人と家族の会」の田部井康夫副代表は「部屋代や食費が上がり月4万〜5万円負担が増えた人もいる」と打ち明けた。
 他の民間施設の激増もある。急成長したのは、国が法改正で11年に政策誘導して作ったサービス付き高齢者住宅(サ高住)だ。税制優遇と補助金で今春、20万戸以上に達した。
金がなくなれば出て行かざるを得ないし認知症になるといられないことが多い」。サ高住について、老人ホーム入居相談大手の担当者はそう話す。要介護度の高い人を受け入れる施設もあるが、サ高住は「終(つい)の住み家」になりにくい。
 待機者減の一方で、行き場のない高齢者が増える恐れもある。来年度までに515人分の特養を増設する予定の北九州介護保険課は「業者の参入意欲も弱く計画が未達成になる可能性もある。待機者減が続くなら、整備を控えることもありうる」と話した。
【”介護殺人”当事者たちの告白・NHKスペシャル】
(取材・文=NHKスペシャル “介護殺人”取材班/編集=Yahoo!ニュース編集部7,1.12:10)
NHKスペシャル「“介護殺人”当事者たちの告白」は7月3日(日)午後9時~放送予定(NHK総合)
いま、日本では2週間に一度、「介護殺人」が起きている。配偶者を手にかけてしまう「老老介護」のケースに加え、介護を担っていた娘や息子が親を殺害する事件もある。こうした「介護殺人」は、しばしばニュースで報じられる一方で、正確な統計はなく、全体を把握することは難しかった。NHKは2010年以降の6年間の事件を調査。半年間で11人の当事者に直接話を聞いた。なぜ一線を越えてしまったのか。悲劇を防ぐことはできないのか。当事者の告白から見えてくるものとは。
「何で首を絞めたのかはわからん」
「我に返った時にはタオル持って、(この人)動けへんなって。警察や検事さんからも、何度も聞かれたけど、何で首を絞めたのかはわからん。でもこんな生活耐えられへん思って、やったと思う。あんな地獄は絶対、嫌。ほんまに経験者でないとわからへんもん」
関西地方の閑静な住宅地にある一軒家。夫の遺影が飾られた居間に正座した70代の女性は、認知症の夫を手にかけた時のことを静かに語った。
自宅で夫を介護し続けて3年。ある日、玄関先から突然、夫の悲鳴が聞こえた。駆けつけると、夫は転んで床に倒れていた。打ち所が悪かったのか、足を押さえて「痛い、痛い」と叫んでいた。このままでは近所に迷惑がかかる。急いで部屋に運び込んだ。そして、普段、夫が寝つくようにと服用させていた睡眠薬を痛み止めの代わりに飲ませると、徐々におとなしくなり、やがて寝息を立て始めた。
「寝てるわ」
ほっとして寝顔を見ていた女性の記憶は、そこで途切れている。次に覚えているのは、横たわっている夫の前でタオルを握りしめていた自分。夫の首を絞めたタオルは、夫が立ち上がろうとする際にテーブルに手をついて踏ん張れるようにと常に用意していた、ぬれタオルだった。
「この人こんなかわいそうなん、生きててもええこともないし。昔、元気な人やったから、こんな弱っている姿、情けのうて。本人もつらかったと思うもん。この人もう、ここまで生きたんやから、もうええやろ思った。私、ほんまに余裕がなかった」
「加害者」を訪ねて
「介護殺人」の取材が始まったのは2015年の秋だった。全国にあるNHKの地方放送局の警察担当記者が取材に加わり、2010年以降の6年間に家族の間で起きた殺人や傷害致死、心中などの事件の情報を収集。当時の取材資料や裁判記録を調べ、弁護士への取材や現場周辺での聞き込みを行った。また、可能な場合は刑務所での面会も試みている。
取材の結果「介護が関係していた」と確認できた事件は138件だった。約2週間に一度、悲劇が繰り返されていることになる。ひとつひとつ住所を訪ねて歩くと、ほとんどは空き家か更地になっていた。近所の人にたずねても、所在はわからない。少ないながらも服役後、事件当時の住所にそのまま住んでいるケースや、連絡先が判明するケースはあった。居場所が判明しても取材を断られることもある。取材は難航したが、最終的に半年間で11人の当事者に話を聞くことができた。
冒頭の女性は服役後、介護生活の末に夫の命を奪った家で暮らし続けていた。今年4月、女性の家を訪ね、匿名を条件に話を聞いた。
夫と結婚したのは40年以上前。男女2人の子宝に恵まれた。自営で、建築関係の仕事をしていた夫は、家事は妻に任せるタイプの「昭和の男」だったが、子煩悩でキャンプや旅行によく家族を連れていった。女性も育児のかたわら夫の仕事を手伝い、職場でも家庭でも夫を支えてきた。
「あの人、気は短かったけど、子どもにはすっごい優しかった。バブルの時代は収入もよかったし、私も仕事を手伝っていたから、生活に余裕があって、一番楽しかったね」
バブルの崩壊後は生活が急激に苦しくなった。それでも、夫は家族を養おうと懸命に働き続け、長男と長女は無事に成人。待望の孫も生まれた。夫は孫を可愛がり、家には笑いが絶えなかったという。部屋の柱には、孫の背丈を測ったペンの跡がいくつも残っていた。
息子や娘に迷惑はかけられない
そんな平穏な生活は、夫が脳梗塞で体が不自由になり自宅での介護が始まってから一変した。多い日は1日に20回近くもトイレに付き添い、排せつも手伝った。1度に眠れるのは2時間ほど。ズボンをはかせようとして手間取ると叱られ、手を上げられることもあった。
事件の半年ほど前には、夫が認知症を発症。会話もほとんど成り立たなくなった。夫は溺愛していた孫にテレビのリモコンを投げつけ、昼夜を問わずわめき出すようになった。
「完全に眠れへん。夜中でも、ものすごいわめくし、訳のわからんこと言うんよ。24時間テレビもつけっぱなしで、じーっと画面を見ているだけ。大好きだった野球を観ていても反応しない。もう目が死んでた。頭の中がもうパニックになってきて。ほんま死ぬことばかり考えていた。でも、自分が死んだら、息子や娘に迷惑がかかるから、それはできん」
家庭や仕事がある子どもたちに頼ることはできなかった。介護施設に入居させられないかと自治体にも相談したが、特別養護老人ホームに空きは見つからなかった。民間の有料老人ホームも探したが、入居費用は月15万円。夫婦の年金を大幅に上回っていた。
唯一、介護から離れられたのは、夫がデイサービスに通っている時間だけだった。週3回、午前10時から午後4時までの6時間。その間に買い物や家事を済ませると、一人で近所の公園に出かけ、ベンチに座り続けていたという。
「家におったら、もう気が狂いそうになるから。いつまで介護をやるのかと、頭の中でぐるぐるぐるぐる回って。これからどないしていこう、どないしたらいいんかなと。携帯電話を持ってずーっと眺めてて…。また、あんなつらい思いせなならん思ったら、あの地獄がやってくる思うたら、もうほんまに家に帰るの嫌や思いました。公園で、仲良く楽しそうに散歩しているお年寄り夫婦なんか見ると、元気でいいなって…。ほんまにうらやましかった」
夫の命を奪うことで先の見えない介護生活は終わった。仏壇の前には夫の遺骨が安置され、女性はこの日も手を合わせていた。
「後悔はしてない。やったことは悪い。でも、ああするよりほかなかった」
弟でなければ、自分が殺していたかもしれない
加害者となった家族を助けられなかった自分を、責め続ける人もいる。
今年2月中旬。土曜日の昼下がり、中部地方の県営住宅に住む60代の男性を訪ねた。弟が認知症の母親の首を電気コードで絞めて殺害した。男性は弟と一緒に母親を介護していた。弟は自首し、実刑判決を受けて服役中だ。
男性は工場で働きながら、父親の死後、20年ほど母親と二人で暮らしていた。事件の2年前、母親が認知症と診断された。症状は日ごとに悪化し、母親は夜通しふすまを激しく叩き、大声で叫ぶようになった。
「騒ぐと寝かしつけて、また起きて寝かしつけての繰り返し。頻尿がひどく、1時間に2,3回起きる。毎晩、ほとんど眠れませんでした」
男性の母親の場合、認知症でも歩行や食事は一人でできたため、要介護2だった。施設への入居も考えたが、民間の有料老人ホームは月に20万円以上かかると言われ、あきらめた。特別養護老人ホームは入居希望者であふれ、4、5年待ちだった。
週に4回、デイサービスに母親を預けてから出勤し、夜は介護に追われる生活。1年ほどたった頃、過労で倒れ、救急車で運ばれた。
体は限界だったが、生活のために仕事はやめられない。男性は、25年前に実家を出た弟を頼った。弟は当時、無職。中学生の時は学校でトップクラスの成績だったが、生真面目すぎるところがあり、人に合わせるということは苦手だったという。会社勤めは長く続かず、40代後半からは生活保護を受けていた。求職中だった弟は、男性の頼みを聞き、同居して母親の介護を分担することになった、
「母ではない化け物」
「全部きっちりやってくれました。掃除も洗濯も。料理は私がやりましたが、それ以外のことは全部任せていました」男性は振り返る。
しかし、認知症が進行した母親の姿は、弟にとって徐々に耐え難いものになっていった。
{「被告人が特に辛かったことは、母親が大便を付着させた衣類の手洗い洗濯と、汚物の処理です。被告人は、認知症の症状によるものということが理解できず、意思の疎通もままならない母親が、次第に『母ではない化け物』であると思い込むようになっていきました」(弁護側の弁論より)}
意味のわからない言葉を叫び続ける母親に、どう接していいかわからなかった弟。ある日、弟は暴れる母親を思わず叩いた。すると一時的におとなしくなったことから、母親が暴れるたび、殴りつけるようになっていった。
平日、男性が仕事に出た後に、弟は電気コードで首を絞めて母親を殺害した。介護を始めてから2カ月後のことだった。裁判の記録によれば、事件の少し前、弟は、母親が服やタオルに大量の大便を付けたままトイレから出てくるのを見た。その姿に、「一番辛いのは母親なのだ」と、殺害を決意したという。
服役中の弟から届いた手紙には、
 「ごめんなさい。本当にごめんなさい。私は絶対に許されないことをしてしまいました。今は毎日毎晩母のことを思いながら手を合わせています」と、几帳面な字で記されていた。
男性は今も、弟の帰りを待ち続けている。
「弟はいきなり最悪の状態の母に直面し、急激に追い込まれてしまった。判決では、2カ月ぐらいでは介護疲れにならないと言われましたが、精神的に追い詰められていけば起こりうることだと思います。私は限界を超えそうになっていました。だから、弟を呼ばなかったら、私が母親を殺していたかもしれません。一番悪いのは、弟を呼んだ私です」
いつ誰が介護者になるかわからない
支援も受けられず、孤立した状態で長年介護を続けた結果、事件に至る―。そんなケースが多いのではないかと、取材前は考えていた。だがその推測は取材を進めると覆された。介護を始めてからの期間が判明した77件のうち、半数以上が介護を始めて3年未満で事件に至っていた。また、当時の状況が判明した67件のうち、4分3のケースで何らかの介護サービスを利用していた。
介護を担う人が550万人を超え、今後も介護が必要な人は増え続ける。誰が、いつ、介護者になるかわからない。「加害者」たちの告白は、大介護時代の課題を浮き彫りにしている。
【「母親に、死んで欲しい・・・」介護者の葛藤】
((取材・文=NHKスペシャル“介護殺人”取材班/編集=Yahoo!ニュース編集部)、7.2.11:59)
「友人に電話で『母に死んでもらいたい』と泣きながら話をした」「死んでくれたら楽になると思い、枕を母の顔に押し付けたことがある」――。アンケート用紙には、家族の介護を担う人たちの切実な声が記されていた。NHKは2010年以降に家族の間で起きた殺人や傷害致死、心中などの事件を調べ、「介護が関係していた」事件が138件あったことがわかった。なぜ「介護殺人」は相次ぐのか。背景を探るため、いま介護を担う人たちの声を聞いた。
NHKは、NPO法人「介護者サポートネットワークセンター・アラジン」の協力を得て、首都圏に住む家族を介護した経験のある615人を対象にアンケートを実施。388人から回答を得た。介護の期間や状況などのほか、「介護する相手を手にかけてしまいたい」「一緒に死にたい」という感情を抱いたことがあるか、という設問も設けた。回答を寄せたうちの一部の人には直接面会して話を聞いている。
30代で始まった両親の介護
「母親は認知症になってから問題行動が出るようになりました。不潔になる、ものを取ってきてしまう、暴言を吐く、約束を守らない・・・。一般的には、寝たきりとか、歩行が難しい人の身体的な介護をイメージするかもしれませんが、僕の介護は、母親の引き起こしたトラブルの後始末がほとんどです」
埼玉県の39歳男性はため息をつく。77歳の母親は認知症になってから、トイレを流さなくなった。用を足し続け、何回分かをまとめて流そうとして、詰まってしまうのだ。
「トイレを一式全て交換しなくてはならない。20万かかるんです」
男性は埼玉県内の進学校を卒業し、都内の国立大学に進学。卒業後は、大手生命保険会社に就職し、親と同居しながら通勤していた。
8年前、父親が胃がんで手術。その後、物忘れの症状がみられるようになった。母親も腰を痛めて歩行に障害が出るように。市役所の相談窓口で介護認定を受けるよう勧められ、父親はアルツハイマー型認知症と診断されて要介護1の認定を受けた。
さらに2年前には、母親も認知症と診断された。その後、父親は食道がん、母親は糖尿病、高血圧などで入退院を繰り返す。両親は何度も倒れて救急車で運ばれ、男性はその度に会社を休んで付き添った。姉がいるが、結婚後は実家に寄り付かず、介護を手伝ってはくれなかった。男性は30代半ばで、残業も土日出社もできなくなった。
「本当に介護なのか?」会社の無理解
会社の介護への無理解に男性は苦しめられたという。上司には「本当に介護なのか?」と繰り返し言われた。「お前は介護と言えば何でも休めると思っているのか」などと叱責されることもあった。
そんな状況の中で、両親の高額な医療費がのしかかる。4年前、母親が脱水と感染症で入院した時には、病院から個室に入る必要があると言われ、10日間ごとに10万円を請求された。
「病院に行くと、枕元に請求書が置いてあるんです。1カ月で30万です。自分の稼いだお金が、あっという間に消えていく。初めはなんとかやりくりしようとしましたが、あまりにお金がかかるので、そのうち、いくら節約しても無駄なんだと思うようになりました」
あまりのつらさに会社に行けなくなり、その年の夏、退職した。
一線を越えてもおかしくなかった
男性は、両親を手にかけたいと思ったことがあるという。
父親の認知症が重かった4年前。「今日は何日」「今、何時だ」と何度も何度も尋ねられた。何度答えても繰り返す父親にかっとなり、「さっきも答えただろう。いい加減にしてくれよ」と突き放すと、「何だお前は」と頭を殴られ、 一階の居間から二階のベランダまでしつこく追い回された。
理解不能の行動を取る父親の存在は恐怖となっていた。男性は、父親から身を守ろうと、枕元にナイフを置いて寝ていたという。
「父親を殺すか、自殺するか、どちらかしかないと思っていました」
父親は2年前に他界。ぎりぎりのところで踏みとどまったが、今度は母親の行動に悩まされるようになった。自宅に近所のスーパーの名前が書かれたトイレットペーパーが転がっていたとき。店から無断で持ち出したと考えた男性が、母を問いただすと罵声を浴びせられた。そんな言い争いが度々起きた。
「人生台無しにされたんだからさ。殺したいよ、死んでほしい」。口論の中で、男性が怒鳴ると、激昂した母親が睡眠薬を取り出した。
「これを飲んで死ねばいいんだろう!」
男性は冷静になり「死んで欲しいというのはうそだ、飲まないでくれ」と説得したが、母親は「お前はそう言ったじゃないか」と繰り返した。死まで、紙一重だと感じた。
一線を越えなかった理由は何かと尋ねると、男性はこうつぶやいた。
「でも自分は、犯罪者になりたくないですもん。自分が大事だから。それだけです」
介護の後も先が見えない
介護のために仕事ができず、先行きが見えない状況に苦しむ人たちは他にもいる。
「先の見えない状況に絶望し、親子心中を考えるようになった」と 東京都の51歳男性はアンケートに記入した。母親が認知症になり、営業の仕事を辞めて介護に専念。母親は銀行で引き出した生活費を全て失くす。同じ話を延々と繰り返す。真夏に暖房をつけて熱中症で倒れる寸前になるなど、信じられない出来事が続く日々。男性は、いらだちが募り、毎日が地獄のようだったという。
デイサービスを利用してはいるが、費用の面から、通えるのは週に3日だけ。徘徊のおそれがあり、ガスの元栓など火の始末の不安があるため、目が離せない。とても、仕事ができる状況ではないという。母親の介護が終わったとしても、その先をどう生きるのか―。将来を考える時、不安、という言葉では言い尽くせない、鬱々
とした感情に支配されてしまう。男性は、「介護殺人」を他人事とは思えないという。
「最悪の状態のとき、さらに悪い条件がもう1つ2つ重なっていたら、自分も母も、今はここにいなかったかもしれません。これから先も、どうなるかわかりませんけどね」
「親が死んだら出来るだけ早く死にたい」
「母が死んだ今、今度は父(の介護)で仕事もろくにつけないし、将来も何もない、たぶん、親が死んだら自殺するしかないと思う」
こう記述したのは都内に住む46歳の女性だ。
中小企業で社長秘書などを勤めていたが、40歳のとき、70歳の母親が膠原病を発症。女性は会社を辞め、実家で介護することにした。母親は入退院を繰り返し、身体がほとんど動かず寝たきりとなった。
介護しながらでも出来るだけ働きたい。派遣会社に登録し、区役所の窓口に勤務した。働き始めてすぐ、母親が体調を崩して救急車で運ばれ、早退したことがあった。職場には、同じように親の介護をしている職員もいたが、彼らには休暇や早退が認められるなか、上司は派遣社員である女性に冷たかった。
「母親が具合が悪いからって、気もそぞろで仕事が出来ていない」「彼女はやる気がない」と派遣会社に苦情が寄せられ、結局、数カ月で契約を切られたという。
「介護のために仕事が出来ず、自分で稼げたお金は1年に100万円未満です。短い時間でも働きたいが、40代になると仕事もめったになく、いつ親が倒れてまた呼ばれるかわからないので、仕事を始める意欲も気力もなくなってしまいました。やりたいこともなく、将来に何の希望も持てていません」
将来への強い不安。ハンカチで涙をぬぐいながら女性は言った。
「介護している父親が死んだら、自分を看取る人もいないし、できるだけ早く死にたいです」
介護者を支える枠組みを
子どもが親を介護する場合、仕事を辞めざるを得なかったり、結婚の機会を逃したりと、人生設計が狂ってしまうことも少なくない。親の介護を担う人たちは、親への愛情と、自分の人生への不安や焦りの間で、気持ちが揺れ動いている。
アンケートの実施に協力したNPO法人、介護者サポートネットワークセンター・アラジンの牧野史子理事長は、「介護されるお年寄りの側を支える仕組みはあっても、介護する側の家族を支援する仕組みは不十分」だと指摘する。
行政の窓口も地域包括支援センターも、介護の手続きなどについての相談はできるが、介護者自身の気持ちや、悩みに寄り添うことはしてくれない。だからハードルが高くて行けないのだと、牧野理事長は話す。アラジンは、介護の初心者の方が気軽に相談に来られるカフェを開いているという。
「介護と両立可能な仕事の探し方を具体的に教えてくれたり、介護のストレスを聞いてくれたりする場所が必要です」
平成24年就業構造基本調査によれば、介護をしている人は全国で557万人にのぼる。不安と絶望を押し殺し、今日も家族の介護を続ける人がいる。彼らを置き去りにしないための、支援の枠組みが求められている。
【介護者サポートネットワークセンター・アラジン】
【私たちの年金を運用するGPIFが約8兆円の損失との報道、年金は大丈夫なの?】
(The Page,15,12,10,07:00)
公的年金というのは、とかく何かにつけてあまり評判がよくありません。古くは年金積立金の壮大なむだ遣いといわれたグリンピアの問題、年金の加入記録の消失問題、そして最近では2015年5月に起きた個人情報流出の問題など、私達を不安にさせるような問題が相次ぎました。
さらに最近では、15年の7~9月の3カ月間で年金積立金の運用が株価の下落の影響によって大幅にマイナスとなり、その損失額が7兆8,899億円ということが発表されました。この数字だけを見て驚いた人も多いでしょうし、一体年金には何が起こっているのだ! こんなことで将来の年金は大丈夫なのか? とさらに不安を募らせる方もいらっしゃることだと思います。
そこでそもそも年金積立金とは一体何なのか? それを運用しているGPIFというのは何者で、8兆円近い損失というのは一体何を意味しているのか、といった事柄について、できるだけわかりやすくお話をしていきましょう.
公的年金には、実は貯金がある?
私たちが国から受け取る年金というのはある種の保険みたいなものです。つまり現役で働いている人が保険料を払い込み、一定の年齢以上(65歳)の人に年金として支給する仕組みですから、言わば現役世代がお年寄りを支えている制度だということになります。ここで大事なことは、これらの保険料の徴収と年金の支給は基本的には単年度ごとに精算しているということです。
  つまりその年に徴収した保険料は原則、全てその年に年金として支給しているのです。ところが昨今のように少子高齢化が進んでくると徴収額より支給額の方が多くなるという事態が起こってきます。実際、現状でいえば年間5兆円ぐらいが足りなくなってきています。
ではその足りない部分は一体どうやって工面しているのかということですが、実は年金制度には貯金があります。これが「年金積立金」と言われるもので、国の一般会計とは別枠で「年金特別会計」として、貯金されています。この金額が一体どれぐらいあるのかというと14年度末で約146兆円あります(厚生年金と国民年金)。足りないお金はこの貯金から引き出しているのです。ではこの146兆円というお金は一体どこから来たのでしょうか?
 今でこそ毎年の保険料徴収と年金支給の差額はマイナスになっていますが、以前はそういうわけではありませんでした。高度成長の時代には給料も増えていましたし、年金を受け取る人の数もそれほど多くなかったため、毎年の収支はすっと黒字だったのです。そうやってかつて黒字が出ていた分をプールして運用してきたのがこの「年金積立金」です。したがって、現在のように毎年赤字になる場合はこの貯金を取り崩していくことで対応が可能なわけです.
リーマンショック時は約9兆7,000億円の損失も トータルの収益を見てみると?
「でもいつかは貯金もなくなるよね?」、「そうなったら年金制度は崩壊しちゃうんじゃないの?」という不安もあります。そうならないために国はこの146兆円を運用して、少しでも利息や収益をあげようとしているのです。このお金を運用しているのがGPIFという組織です。正式名称は「年金積立金管理運用独立行政法人」と言いますが、名前が長いので英語の名前「Government Pension Investment Fund」の頭文字をとって、一般的にはGPIFと言われています。この組織は厚生労働省が所管する独立行政法人で、厚生年金と国民年金の積立金を管理・運用しています。
このGPIFが年金積立金の運用を始めたのは01年度からです。14年度までの13年間でこのGPIFがあげた収益の累計額は50兆7,338億円にもなります。もちろん今まで全て運用が順風満帆で来たわけではなく。過去には07年のサブプライムローンの時には約5兆5,000億円、08年のリーマンショックの時は9兆7,000億円ぐらいの損失が発生しています。そうした損失を乗り越えてのトータル収益が上記の50兆円あまりなのです.
15年の7~9月では確かに8兆円近い損失が出ていますが、これは率にすれば約5.5%の下落です。同じ時期の日経平均で見れば20%近い下落があったわけですからこれぐらいの損失はあっても不思議ではありません。ただし10月以降はまた株価が上昇基調になっていますのでおそらく10~12月ではこの損失もかなりの部分が回復していると想像できます。
マスコミの多くは損失が出たときには大きく報道しますが利益が出たときはあまり報道しません。実際に14年度一年間では15兆円あまりの利益が出ています。もちろん今後も順調に利益が積み上がっていくかどうかは誰にもわかりませんが、GPIF自体の運用を見ていると、それほど大きなリスクをとるような運用方針にはなっていませんので、毎年の収支不足を埋めて行ったとしてもそう急に積立金が大幅に減っていくことはないだろうということが予想されます。
ただ前にも述べたように、公的年金制度はあくまでも単年度決済が基本です。可能な限り、毎年の収支がプラスになるよう維持していかなければなりません。そのためには経済が活性化し、給料が上がることで保険料も増えることになりますから、やはり大切なことは経済の成長がないといけないということです。年金に限らず何ごとにおいても経済成長が大事だということですね。
【GPIF、昨年度の運用損5兆円台前半 円高株安で5年ぶり赤字】
(ロイター、7.1.07:59)
公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の2015年度の運用損失が5兆円台前半となったことが分かった。関係筋が明らかにした。年度を通して赤字となるのは10年度以来5年ぶり。
英国の欧州連合(EU)離脱で金融市場はなお不安定な動きを続けており、積立金140兆円の運用は今後も厳しいかじ取りを迫られそうだ。
 6月30日に運用委員会を開き、概要を伝えた。年初からの円高・株安の影響で、保有する国内外の債券、株式のうち国内債券以外の資産で赤字が膨らんだもようだ。
GPIFは、昨年12月までの3四半期で5108億円の赤字を計上。以降も米利上げに伴う世界的なリスク回避の動きが直撃し、日経平均株価<.N225>が1500円以上下落したほか、円相場が対ドルで8円程度上昇し、保有資産の価値が目減りした。
 運用実績などを取りまとめた業務概況書は参院選後に正式発表される見通しだが、7月10日の投開票日を前に民進党などの野党は追及の声を強めそうだ。
 GPIFは「昨年度の運用状況については7月29日に公表することにしている」(広報担当者)としている。
【<参院選>年金の未来、本筋棚上げ 運用損問題で応酬】
(毎日、7.6.21:37)
安倍晋三首相が消費税率10%への引き上げ再延期を決断したのを受け、年金など社会保障は参院選の大きな争点になるとみられていた。しかし、各党が増税先送りをそろって容認したため、制度をどう持続するかという肝心の議論は低調だ。民進党は株式にシフトした年金運用の「危うさ」を追及するが、与野党とも有権者の関心に応えているとは言い難い。
消費増税の再延期によって、政府が予定していた社会保障充実策をすべて実施することは難しくなった。政策の優先順位は決まっておらず、自民党は公約で触れていない。
 公明党は、保険料を10年納めれば年金を受給できるようにする無年金者対策や、低年金者に対する最大月額5000円(年6万円)の給付金の早期実施を掲げた。井上義久幹事長は3日、NHKの討論番組で「受給資格期間の短縮や低年金加算は何とか財源を手当てして先行実現すべきだ」と述べた。
民進党は公明党より踏み込み、社会保障充実策を来年4月から実施するよう求めている。財源は行政改革などで工面するという。岡田克也代表は先の国会で赤字国債発行を提案したが、与党は厳しく批判している。
  選挙戦終盤になって野党が注目したのは、公的年金の積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)だ。
安倍政権は年金の基本ポートフォリオ(運用資産の構成割合)について、2014年10月から国内株式と外国株式の割合をそれぞれ12%から25%に倍増させ、国債など国内債券を60%から35%に引き下げた。日銀の金融緩和で超低金利が続き、国債では利益が出にくいためだ。
しかし、中国の景気減速など世界経済の不透明感が高まり、15年度は5兆数千億円の損失を計上することが選挙期間中に判明。英国の欧州連合(EU)離脱問題の影響も見込まれる今年度は、運用損失が一層膨らむ可能性がある。
  民進党の山尾志桜里政調会長は2日、横浜市で「株価を上げるために年金を犠牲にした」と訴えた。岡田氏も、第1次安倍政権時代の07年参院選で自民党が大敗する一因になった年金記録問題になぞらえ、「第二の『消えた年金』ではないか」と批判を強めている。
同党は公約で「現政権の年金運用を改め、株への投資を減らす」と明記しており、社民党も同様の立場だ。
  ただ、12~14年度は計約37兆円の収益を上げている。塩崎恭久厚生労働相は6月28日の記者会見で「短期的な変動はありうるが、長い目でみて年金受給者に必要な年金額が確保できるかどうかという観点で考えている」と述べた。
  年金制度に詳しい日本総研の西沢和彦主席研究員は「国民の最大の関心は年金が持続可能かどうかだ。それには給付を抑制し、保険料をしっかり徴収するしかなく、与野党とも本筋論に目を向けていない」と指摘する。

参:基本ポートフォリオ(運用資産の構成割合)
分散投資(複数の資産に投資すること)でリスクを抑えながら期待収益率を上げるとしている[7]。
現行の基本ポートフォリオは、国内債券35%、国内株式25%、外国債券15%、外国株式25%である[8]。平成27年12月末の時点では、以下のように、基本ポートフォリオ(長期的な観点からの資産構成割合)を策定している[7]。

【子どもから提供された腎臓、子どもへ優先移植…来年度から】
(読売。6.30.10;04)
厚生労働省の臓器移植委員会は29日、子どもから提供された腎臓は子どもに優先的に移植できるようにする基準の設定を了承した。
 今後、具体的な年齢基準を決めて指針を改正し、来年度から適用する方針だ。
 心臓は18歳未満の提供なら18歳未満の患者に移植すると指針に明記。肺や肝臓も大きさが適合の決め手となるため、子どもに移植される傾向がある。しかし、腎臓は待機年数が長い患者が優先で、すべて成人に提供されていた。
8月5日(金曜日)
【日銀副総裁「緩和縮小ありえない」 政策検証めぐり強調】
(16・8・5・19:17)
日本銀行が9月に金融政策を検証することについて岩田規久男副総裁は4日、「(検証の結果)金融緩和の程度を縮小することはありえない」と強調した。横浜市内での記者会見で答えた。
日銀は7月29日の金融政策決定会合で、これまでの金融緩和の効果や問題点を9月の会合で検証することを決めた。市場では「国債の買い増しやマイナス金利政策を見直すのでは」といった臆測が広がり、長期金利が高騰した。岩田氏の発言はこれまで通り大規模な緩和を続けると強調することで、市場の動揺を抑える狙いがあるとみられる。
2%の物価上昇目標について岩田氏は「早期に達成する所信を変えるつもりはない」と主張し、下方修正したり、中長期的な目標に切り替えたりする考えはないとした。一方、貸出金利の低下や運用難に苦しむ金融機関から評判の悪いマイナス金利政策に関しては、「(国債買い入れなどと)どういう組み合わせが一番いいかを検証する」と述べるにとどめた。
岩田氏は記者会見に先立つ講演で、日銀の金融緩和とともに政府が大型の経済対策に取り組むことは「相乗効果によって景気刺激効果は非常に強力なものになる」と述べた。そのうえで、「中央銀行のマネーの恒久的な増加を原資に財政拡張を行うのが『ヘリコプターマネー』だ」と定義し、いまの政府・日銀の協調関係は「(ヘリコプターマネーとは)異なる」と説明した。(藤田知也)
【日銀が追加金融緩和を決定 ETFを買い増しへ】
(16・7・29・13:55朝日)
日本銀行は29日の金融政策決定会合で、追加の金融緩和を決めた。株価指数に連動する上場投資信託(ETF)を買い入れる額を、現在の年間3・3兆円を6兆円にほぼ倍増させる。政府の新たな経済対策と歩調を合わせ、消費や投資を後押しする狙い。ただ、大規模な追加緩和を見込んでいた市場では失望感が出て、一時1ドル=102円70銭近辺と約2週間半ぶりの円高水準をつけ、日経平均株価も一時300円超下落するなど乱高下した。
追加緩和は、政策委員9人(総裁、副総裁2人、審議委員6人)のうち、賛成7、反対2の賛成多数で決めた。量的緩和で市場に流し込むお金の量は年80兆円で変えず、金融機関から預かるお金の一部につけるマイナス金利は年0・1%で据え置いた。企業の海外展開を支援するドル資金の供給は現在の120億ドル(約1・2兆円)から240億ドル(約2・5兆円)に増やす。決定内容の公表文に「政府の取り組みと相乗的な効果を発揮する」と盛り込んだ。
同時公表の「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、消費者物価指数(生鮮食品除く)の上昇率の見通しは2016年度の0・5%を0・1%に下方修正したが、17年度は1・7%で据え置いた。前年比2%の物価上昇目標を達成する時期は、4月時点の「17年度中」を維持した。
【トヨタの原価低減要請で部品メーカーの本音】
(ニューススイッチ16・8・7・09;51)
下期、部品値下げ幅拡大。「円高を理由に上乗せするのはいかがなものか」
トヨタ自動車は取引先部品メーカーから購入する部品価格の引き下げ幅を、16年度下期(10月―17年3月)からさらに拡大する。トヨタと部品各社は1年に2回、部品価格の引き下げについて交渉している。トヨタが要請する引き下げ幅は業種や業績によって異なり、前の期に比べ0・5%減や1・0%減といった水準で提示される。16年度下期については上期の水準から、さらに0・2ポイント引き下げるなど、0コンマ数ポイントの上乗せを求める方向で調整している。
それに対し部品メーカーからは早くも悲鳴が聞こえてくる。「うちが(上乗せを)のんでも、うちの仕入れ先に(値下げを)どう言おうか…」。こう頭を抱える部品メーカーは、仕入れ先である中小企業の業績が全般的に良くないという。とはいえ値下げを求めないと、すべて自社の持ち出しになってしまう。「タフな交渉になりそうだ」と身構える。
<為替リスク直撃>
また別の部品メーカーは「以前は為替リスクをトヨタが100%負っていたから協力もやむなしだったが、今は部品メーカーも海外展開が進み、我々も直接負っている部分がある」と指摘。そうした状況の中で「円高を理由に上乗せするのは、いかがなものかという思いはある」と吐露する。
 こうした声が代表するように価格引き下げというと「トヨタが下請けから利益を吸い上げている」などと見られがち。しかし価格改定は競争力を高めるための重要な仕組みというのがトヨタの基本の考えだ。
幹部は「競争力をつけて、もっといいクルマにして、より多くのお客さまに乗ってもらって、仕事量も増えて、トヨタもサプライヤーもウィン-ウィンになるという取り組みの一環」と説明する。
とかく1年に2回の値下げという事象だけが話題となってしまうが、それは無駄を見つけて改善するというトヨタ生産方式(TPS)の基本のサイクルをまわす中での一つの出口だとしている。
4日に決算発表の会見をした大竹哲也常務役員も「サプライヤーと一緒になって設計の改善、つくり方の改善を含めて部品の原価を下げる活動」と強調した。連綿と続く、この仕入れ先と一体となった原価低減活動がトヨタを頂点とする産業ピラミッド全体の競争力を支えてきたのは事実だ。
<外部環境の変化で強弱>
一方で、トヨタは外部環境の変化や社会要請を受けて価格改定に強弱をつけてきた。11年頃の超円高では一時1ドル=70円台にまで進みトヨタなど日本の輸出型産業が苦しめられた。トヨタは11年度下期から2期連続で価格引き下げ幅の大幅上乗せを、仕入れ先に要請した。
 規模の大きな仕入れ先に対しては10年度の引き下げ幅だった1・5%に、さらに1・5%を上乗せし合わせて3%の値下げを求めた。関係者の間では「円高協力分」と言われた上乗せだ。円高による損失は、実際に輸出しているトヨタが引き受けてきたという背景がある。
「自分たちの等身大の姿」の力が試される
大手企業の利益を裾野の中小企業まで波及させるという「トリクルダウン」が叫ばれていた14年度。円安の追い風も受け、日本一稼ぐ企業となっていたトヨタも「利益をどう社会に還元するか」が求められていた。
そうした中、14年度下期は価格改定の実施自体を一律で見送る異例の措置をとった。この措置は15年度上期も続いた。
 しかし期待されたトリクルダウン効果は出なかった。トヨタは1次部品メーカーとの間での値下げは見送ったが、その効果は「3次、4次の中小までいきわたらなかった」(トヨタ首脳)。価格改定見送りによる競争力向上の停滞を懸念し、15年度下期から再開した。そして16年度下期は、再び上乗せを要請する意向だ。
まりを上げるなど地道な原価改善活動にもっと力をいれていく」(川治豊明常務執行役員)と宣言した。
  トヨタの自動車生産の7割方は部品メーカーが支えている。その部品メーカーと一丸となった原価低減活動は、トヨタが得意とするところ。
  リーマン・ショック後の10年3月期から16年3月期の7年間の原価低減努力による効果は合計で2兆2600億円に上る。17年3月期も期初予想からすでに350億円積み増し3750億円の原価低減努力効果を見込む。「たゆまぬ原価改善活動に取り組み、さらなる収益改善に努める」(大竹常務役員)と一層の上積みを図る。
円安の追い風がやみ、これから「自分たちの等身大の姿」(豊田社長)の力が問われるトヨタ。得意技の本領を発揮し競争力を一段高める構えだ
【金融緩和の検証、物価2%へ具体的な政策対応考えるため=日銀・主な意見】
(ロイター16・8・8・・09:18)
日銀が8日に公表した7月28、29日の金融政策決定会合の「主な意見」によると、9月会合で行う金融緩和策の「総括的な検証」の狙いについて、ある委員が、物価2%目標の早期実現に向けた具体的な政策対応を考えるため、と発言していたことがわかった。
黒田東彦総裁は会合で、物価2%目標の早期実現の観点から、9月会合において13年4月に導入した量的・質的金融緩和(QQE)とマイナス金利政策の「総括的な検証」を行うとし、執行部にその準備を指示した。
物価2%達成の不確実性の高まりや、金融政策の限界が意識される中、市場では検証によって大規模な国債買い入れの減額やマイナス金利政策の撤回などの思惑も出ているが、黒田総裁は緩和策の縮小を否定している。
7月会合では検証について、ある委員が2%の早期実現のために「何が必要か」という視点で行うべきと指摘。「具体的な政策対応を考えるうえで、総括的な検証が必要」との見解も表明された。検証によって緩和策の縮小や目標の柔軟化などの必要性を訴える意見はなかったもようだ。
 <ETF倍増で心理悪化を防止、市場歪めるとの懸念も>
会合では、上場投資信託(ETF)の買い入れ額を年6兆円に倍増する追加の金融緩和措置と邦銀のドル資金調達の円滑化措置が決定された。
 委員からは「海外発の不確実性が、企業や家計のコンフィデンスに影響している。ETF買い入れを倍増するといった資産価格に働きかける緩和策が有効」など企業や家計の心理悪化を防止する観点からETF買い入れ増額を支持する意見が目立つ。
一方、ETF買い入れ倍増は「過大」とし、「市場の価格形成を歪め、出口の難度を高めるほか、本行財務への悪影響も懸念される」との指摘や、「政策の限界を一層明確に意識させるほか、政策の逐次投入とみられ、際限ない催促相場に陥る」との懸念も示された。
また、政府が事業規模約28兆円におよぶ経済対策の策定を進める中、会合では「積極的な財政支出と物価安定目標を実現するための金融緩和政策の組み合わせは、一般的なポリシーミックスだ」とし、市場でささやかれるヘリコプターマネーの思惑をけん制する発言も出た。
【慰安婦財団「一定の進展」 日韓、事業内容巡り協議】
(朝日・16・8・9・23:28)
外務省の金杉憲治アジア大洋州局長と韓国外交省の鄭炳元(チョンビョンウォン)・東北アジア局長がソウルで9日、慰安婦問題の日韓合意に基づいて韓国政府が設立した「和解・癒やし財団」の事業の内容をめぐって協議した。金杉氏は終了後、「一定の進展があった」と記者団に語った。
金杉氏は、具体的な進展の内容について説明は避けた。今後は協議結果をそれぞれ政府の上層部に報告し、引き続き、日韓で連携していくことを確認したという。日韓合意に基づいて日本政府が財団に拠出する10億円については「タイミングなどは未定だ」と述べた。
財団の事業をめぐっては、元慰安婦と遺族に一定額を支給する案が韓国側では検討されている。名目としては「癒やし金」などが取りざたされているが、日本政府には「賠償金」と受け止められないかとの懸念が出ている。日本政府としては、賠償問題は1965年の日韓請求権協定で解決済みとの立場からだ。
金杉氏は元慰安婦らへの直接支給については「日韓請求権協定についての我々の立場は変わっていない」と述べるにとどめた。
韓国の聯合ニュースが7日に報じた財団の金兌玄(キムテヒョン)理事長のインタビューによると、事業は韓国政府に登録された元慰安婦238人と、韓国政府機関に被害者と認定され、すでに亡くなっている7人の計245人を対象に行われるという。金氏はこのほか、被害者の「慰霊塔」を建てる案などもあることを説明したほか、理事に歴史学者や女性学者を追加する考えも示した。
一方、韓国の最大野党「共に民主党」の文在寅(ムンジェイン)前代表が7月25日、島根県の竹島(韓国名・独島〈トクト〉)に上陸した問題について、金杉氏は9日の局長協議で韓国側に抗議した。
【解説・黄河に古代の大洪水跡、伝説の王朝が実在?】
(ナショナル ジオグラフィック日本版・16・8・9・07:20)
「ノアの大洪水に相当するほど重要」と研究者、中国最古の夏王朝の裏づけか
8月4日、科学誌「サイエンス」に掲載されたある研究結果が、中国屈指の重要な伝説を地質学的に裏付けるかもしれない。
4000年近く前、中国の奥地で地滑りが起こり、岩や土砂が黄河の峡谷に流れ込んだ。崩れ落ちた土砂は高さ200メートルにもなる巨大な自然のダムとなり、数カ月にわたって川をせき止めた。やがてダムが決壊すると水が一気に流れ下り、周辺の地域に押し寄せて大洪水を引き起こした。これが「サイエンス」で報告された筋書きだが、この洪水が、中国史を大きく動かした可能性がある。幻と言われる中国最古の王朝、夏王朝は、大洪水をきっかけに成立したと言われてきたからだ。
「この洪水は、西洋で言えばノアの大洪水に相当するほど重要です」と話すのは、この研究を主導した北京大学の呉慶龍氏だ。
伝説によると、古代の中国は湿った土地がどこまでも広がり、住めるようにするのに何十年もかかった。それが成し遂げられたのは、禹(ウ)という英雄の力が大きい。この功績によって禹は政治的権力を得て、夏王朝を起こした。
だが、夏王朝の実在をめぐっては激しい論争が続いている。その存在については、数世紀後に書かれた物語が根拠となっており、考古学的な裏付けのある文献が夏王朝と具体的に結び付けられたことはなかった。
新たに確認された洪水の跡が伝説の大洪水だとすれば、夏王朝の存在に関して興味深い証拠が得られたことになる。まず、この洪水が発生したのは紀元前1920年ごろと推定され、中国史における重要な画期と一致する。青銅器時代と二里頭文化の始まりで、この時期が夏王朝にあたると考える考古学者もいる。
論文の共著者で国立台湾大学のデビッド・コーエン氏は、「大洪水が実際に起きていたとすれば、夏王朝も実在した可能性が高いと言えます。洪水は夏王朝の成立に切り離せない事柄ですから」と話す。
黄河の水位が一気に40メートル上昇
呉氏にとって、この発見は9年間の長旅に区切りをつけるものとなった。黄河上流の渓谷、積石峡を調査していた呉氏が洪水の痕跡を初めて見つけたのは2007年のことだ。
現地調査とグーグルアースの写真から、峡谷に湖の跡に残るような黄色がかった堆積物があるのが確認された。つまり、過去のある時点でこの川がせき止められていたことになる。
次いで呉氏は、25キロほど下流にある喇家(らつか)遺跡を調査。地震で破壊された洞窟群がある場所だ。この遺跡から出た人骨を放射性炭素により年代測定したところ、洞窟は約3900年前に破壊されたことが判明した。
  喇家遺跡には、周辺の土砂とは違う特徴的な黒い砂がこびりついていた。呉氏は、この黒い砂は地震から1年以内に喇家に流れ込んだに違いないと指摘する。分析の結果、この土砂は上流、ちょうど積石峡のあたりから流れてきたことが分かった。
間もなく、呉氏は有力な証拠を見つけた。地滑りによって積石峡に押し寄せた、天然ダムの残骸だ。この発見は2009年に発表されたが、その後、自然のダムが想定よりはるかに大きかったと分かった。一帯をあらためて調査すると、幅800メートル、奥行き1300メートル、高さ200メートルという巨大なダムの痕跡が見つかった。
論文の共著者で、米パデュー大学の地質学者ダリル・グレンジャー氏は、「米国のフーバーダムや中国の三峡ダムに匹敵する大きさです」と話す。「それほどのダムが決壊したと想像してみてください。
研究チームが再計算したところ、9カ月間せき止められていた川の水が数時間のうちに放出され、ピーク時には、1秒間にオリンピックサイズのプール160杯分の水が川を流れ下ったという数値がはじき出された。
 このとき、喇家では水位が土手より最大で40メートルも高くなった。これにより、数百キロ離れた低地では黄河の川筋も変わってしまい、土地が湿った状態が何年も続く原因になったのかもしれない。
今回発生が確認された洪水と下流への影響が空前の規模であったことを考えると、これが伝説の大洪水のことだと呉氏は主張する。「夏王朝と大洪水、そして治水は、中国で2500年以上にわたって事実とされてきました」と呉氏。「今回の研究で、大洪水に関して科学的な証拠が示されました。これは、夏王朝に関する他の文献にも信頼性があることを意味します。
歴史が先か、神話が先か
しかし今回確認された洪水は、夏王朝の実在をめぐる論争に終止符を打つ発見とまではならないようだ。なかには、この論争は決して決着しないとする専門家もいる。
米ダートマス大学で古代中国を研究するサラ・アラン氏は、今回の研究には関わっていないが、「中国の成り立ちを理解するのに、今回確認された証拠が有益であると認識するのは大切です」と話す。一方で「彼らは、修正や改変があるにせよ、大洪水伝説には歴史的事実が含まれていることを前提としています。私は、伝説は必ずしも事実ではないと思います」と語る。
アラン氏や他の研究者たちは、大洪水の伝説を「後に現れた王朝が、支配を正当化するために利用した創造神話」と理解するのが最も適切だと論じる。この見解を説いた著書の中で、アラン氏は「殷王朝(商とも呼ばれる)は、太陽の末裔とされる王たちが夏王朝と戦った、と自らを神話化した。さらに、続く周王朝は、この物語を歴史的な先例として、殷の征服を正当化した」と記している。
アラン氏は呉氏らが洪水の発生を実証したことは賞賛しつつも、夏王朝の史実性は夏時代の文献が現れなければ確定しないと指摘している。今回確認された洪水の痕跡だけでは解決できない問題だ。
 「彼らは洪水について、歴史が神話になったのだと主張しますが」とアラン氏は言う。「私は、神話が歴史になったのだと考えます」
参:
青銅器時代
二里頭文化
積石峡
放射性炭素
喇家遺跡

【ジカ熱やエイズ克服に現実味、「ゲノム編集」技術はここまで来た】
(ナショナルグラシフィック日本語版・16・8・9・17:37)
昨年ブラジルで大発生し、今も感染が拡大しているジカウイルスは、さまざまな神経障害を引き起こすようだ。胎内で感染した新生児の小頭症もその一つ。頭が異常に小さく、脳の発達が遅れるまれな先天性障害である。
蚊の遺伝子を操作して、感染症を媒介しないようにできないか。米カリフォルニア大学アーバイン校の分子遺伝学者アンソニー・ジェームズはこの課題に取り組んできたが、おおむね理論的な研究にとどまっていた。だが、CRISPR-Cas9(クリスパー・キャス9)と呼ばれる革新的な遺伝子改変技術と、特定の遺伝子を子孫に伝えやすくする「遺伝子ドライブ」という技術の登場で、事態は一変する。両者を組み合わせることで、理論はにわかに現実味を帯びてきた。
クリスパーを使えば、ヒトを含めたほとんどの生物のゲノム(全遺伝情報)を迅速かつ正確に、望み通りに編集できる。DNAの部分的な書き換えや削除を容易にする、まったく新しい道具を人類は手に入れたのだ。
難病治療への応用に期待
クリスパーというゲノム編集技術が登場したおかげで、ここ3年ほどで生物学は様変わりした。すでに世界中の研究者が、この技術を利用して遺伝性の難病である筋ジストロフィーや嚢胞性線維症、あるいはB型肝炎といった病気の予防や治療の研究を進めている。クリスパーでエイズ患者の細胞からウイルスを消滅させる実験も行われ、将来的にはエイズを完治させることも夢ではなくなった。
臓器移植の分野では、ブタの臓器を人間の患者に移植できるよう、クリスパーを使って臓器からウイルスを除去する研究が進んでいる。ほかにも絶滅危惧種の保護や、作物の品種改良など、クリスパーを応用した研究は多岐にわたる。クリスパーで害虫に耐性をもつ作物を開発できたら、農薬を大量に散布する必要もなくなるだろう。
過去100年間、科学は多くの発見を成し遂げてきたが、クリスパーほど大きな可能性を秘めた発見はほかにない。と同時に、これほど厄介な倫理問題を突きつける発見もない。とりわけ大きな議論になっているのは、人間の精子や卵子など、次世代に引き継がれる遺伝物質を含んだ生殖細胞に対してクリスパーを使う試みだ。遺伝的な欠陥を修正するにせよ、望ましい性質をもたせるにせよ、こうした試みを行えば、改変された遺伝子が代々受け継がれていくことになる。その結果、何が起きるのか。現段階で十分に予測することは不可能とは言わないまでも、非常に難しい。
「さまざまな活用例が見込める素晴らしい技術ですが、生殖細胞の遺伝子を操作するなど、重大な影響を及ぼす実験を行うなら、どうしてもやらざるを得ないという強固な理由が必要です」。そう警告するのは、米国のハーバード大学とマサチューセッツ工科大学(MIT)が共同で設立したブロード研究所の所長で、ヒトゲノム解読プロジェクトを率いたエリック・ランダーだ。「社会がそれを選択したのでなければ、やってはいけません。幅広い合意が大前提だということです。科学者の間でも見解は固まっておらず、こうした問題に答えられないのが実情です」
「ガイド役」と「はさみ」のセット
クリスパー・キャス9は、二つの要素から成る。一つは「キャス9」と呼ばれる酵素で、細胞内ではさみのような働きをして、DNA(デオキシリボ核酸)を切断する。この酵素は自然界に存在し、細菌がウイルスのDNAを切断して無害化するために使っているものだ。もう一つの要素は「ガイドRNA(リボ核酸)」と呼ばれるもので、切断すべき遺伝子を見つけて、キャス9に知らせる役割をもつ(ちなみに、クリスパーは「クラスター化された、規則的な間隔を置いて繰り返される短い回文型の反復配列」という意味の英語の頭文字をとった略称)。
ガイドRNAの正確さは驚異的だ。ゲノムは数十億もの塩基で構成されるが、その中のどの部分でも、ほかの塩基配列と入れ替えられる。ガイドRNAが目的の場所に到達すると、キャス9が標的の配列を切断する。この切断箇所には、クリスパーとともに送り込まれた塩基配列が挿入される。
プエルトリコではジカ熱の集団発生が収まるまでに、全人口350万人の4分の1以上がジカウイルスに感染するとみられている。だとすれば、何千人もの妊婦が感染することになる。
今のところ、ジカ熱の有効な予防策は殺虫剤の大量散布しかない。ジェームズらはそれよりはるかに優れた方法として、クリスパーで蚊のゲノムを編集し、改変した遺伝子を集団全体に広げる研究を進めている。そのために使われるのが、遺伝子ドライブだ。
遺伝子ドライブは、改変した遺伝子を通常よりも高い確率で子孫に伝えるための技術である。有性生殖を行う動物は1対の遺伝子を父親と母親から1個ずつ受け継ぐ。つまり、親の遺伝子が子に伝わる確率は50%だ。ところが、遺伝子のなかには、50%を超える確率で子孫に伝わる性質をもつ「利己的な」遺伝子がある。クリスパーを使ってこうした遺伝子に有益な性質のDNA配列を付加し、改変した個体を野生種と交配させれば、理論上は野生種の遺伝子を書き換えられるはずだ。遺伝子ドライブとクリスパーを組み合わせれば、一つの集団のあらゆる個体に、ほぼ望み通りに有益な性質をもたせることができる。
(ナショナル ジオグラフィック2016年8月号特集「生命を自在に変える DNA革命」より)
【子どもの貧困 当事者の声 あきらめないために必要なもの】
(湯浅誠16・8・11・08:47)
努力するエンジンがない
久波孝典(くば・たかのり)という若者がいる。現在23歳の大学4年生。
東洋大学の夜間部に通い、現在就活中だ。まだ決まっていない。
彼は小学校5年から高校3年生までを児童養護施設で過ごした。
その彼が、先日開催された「公益財団法人子どもの貧困対策センター・あすのば 一周年の集い」で、興味深いスピーチをした。
「自分には『努力をする』というエンジンが備わっていない」と言うのだ。
彼のスピーチはこうだった。
自分はそもそも「努力をする」というエンジンが備わっていない人間だと思いながら過ごしています。
ずっとその答えを探していましたが、先日ある文献に出会いました。
みなさんは、人間はなぜ努力するのだと思いますか。
その文献には、努力の向こうに、勝利や成功などの対価を得た経験があるからだと書かれていました。
そういった経験があるからその後も努力を積み重ねることができて、そうした良いサイクルに入れる。
私にはあまりそのエンジンが乗っかっていないと思います。
私にそのエンジンが乗っていないのは紛れもなく私自身の責任です。それは言うまでもありません。
ただ、本当は助けてほしかったです。
本当は、同じ学校のクラスメイトのように、こうした社会問題の存在を意識せずに生活したかった。
「進学したい、何かになりたい、あれをやりたい」、そんな純粋な気持ちをまるっきりそのままだけで叶えられるような生活をしたかった。
私にそれができなかったのは、ただただ私の責任で、情けないことこの上ないだけのお話なのですが、この「努力できない人間」を、「頑張ることで成功体験を得られなかった人間」を、どうか再生産させないでください。
初めから報われる可能性がないと思い込んでいるから、努力することを思いつきすらしないだけなんです。
私は恥ずかしながら、ただそれだけの想いのために活動に参画させていただいております。
自分は幸せになりたいとか、生きる希望を持つことができれば、それが努力の糧になると思うので、些細な幸せでもいいから、子どもたちがただ純粋に何かを目指そうとすることのできる社会を作っていけたらと思います。
私は野球が好きで、この前イチローがヒットの世界記録を更新した時なんかは、池袋に号外の新聞をもらいに行ったほどなんですけれども、そんな偉業を成し遂げたイチローは以前、こんな言葉を口にしました。
「小さいことを積み重ねるのが、とんでもない所へたどり着くただ一つの道です」。
私はこの言葉がすごく好きなのですが、でも正直、私もそうしたかった。
純粋に好きなことだけを追いかけていたかった。
イチローの言葉をこんな形で拝借するのは申し訳ないのですが、努力を積み重ねていくそのことだけで、子どもたちが報われていく社会を目指したいと思います。
ご清聴ありがとうございました。
「『努力をする』というエンジンが備わっていない」――興味深い表現だ。
児童養護施設出身者向けの給付型奨学金をかき集め、アルバイトと学業を両立し、自分で学費と生活費をまかなっている久波君に努力するエンジンが備わっていないとは思えない。
それでも、彼から彼自身がどう見えているのか、貧困の子どもたちがどう見えているのかは知りたくなった。
努力するエンジン、やる気スイッチ、あきらめない力…貧困家庭に限らず、多くの親たち大人たちが探し求めているものだ。
子どもの貧困対策を1ミリでも進めるヒントが、彼から得られるかもしれない。
そう思って、改めて時間をとってもらい、教えを乞うた。
何かに興味をもつということがない子どもがいる…
「子どもたちに機会の平等が必要だということ、その合意はもう社会的にとれている。でもそれでは足りないと思うんです」と久波君は切り出した。
久波君が見てきた児童養護施設の子どもたちの中には、そもそも何かに興味を持つということがない子どもがいる。
仮に機会が平等にあっても、その与えられた機会を生かそうと思うこと自体ができない。
児童養護施設には、さまざまな子どもたちが入所してくる。
親が育児をできなくなって、親の同意の下で入所してくる子たちもいれば(同意入所)、親の虐待から命からがら逃れてきた子たちもいる(措置入所)。
あまりにも凄惨な人生を送ってくると、何かを目指そうとする気力が生まれなくなる。
学習支援は重要だが、進学を目指す意欲以前の問題を抱えている子がいて、その子たちに学習支援は届かないし、響かない。
苛烈ではない教育熱心さ
どうすればいいのか。
久波君の答えはこうだ。
「僕の母をマイルドにしたような人が必要なのではないか」。
久波君の母親は、いわゆる教育ママだった。
家族は完結しており、親戚づきあいもない。周囲から孤立した核家族だった。両親の仲は悪く、専業主婦の母親の情熱は、一人息子の久波君の教育に向けられていた。
さらに小学校2年のときに父親が自殺。残された母親のエネルギーは久波君に一身に注がれ、彼の言動が気に入らないと暴力をふるうようになった。
小学生の彼は、その母親から逃れるため家出を繰り返し、保護されて児童養護施設に入所した。
その母親を「マイルドにする」とは?
自分の母親のような苛烈さではない教育熱心さだと、久波君は言う。
たとえば、幼いころからキャンプや習い事はもちろん、キッザニアに連れて行ったり、こども議会に参加させたり。
子どもは何に反応するかわからない。
わからないからこそ、さまざまな体験をさせる。
しかし、単発ではダメだ。
そこにずっと寄り添って、その子が何に引っかかるか、何にこだわりを持つか、それを見極め、後押しし、伸びていく方向性を一緒に探してくれるような大人が必要だ、と。
施設職員にはできない?
児童養護施設の職員に、それはできないのか。
「難しい」と久波君は言う。
職員の仕事は本来それだろうと言うことはできる。親代わり。
しかし実際は、あまりにも凄惨な体験をしてきた子どもたちと向き合っている結果として、「食べられればよい」「暮らしていければよい」とハードルが下がってしまう。
教育・養育の質にまで目が向かない。
そして、そうした問題意識をもっている職員も、社会福祉的な養成しか受けていないので、社会経験や人脈が不十分で、多角的な体験を提供できない人もいる。
だからといって、養子縁組して家族になってもらうことで問題解決すればいい、とも思えない。
それでは結局「家族以外は誰もやってくれない」という現状と、根本的には変わらないんじゃないか。
家族と他人の間に、そのようにして子どもに寄り添ってくれる人の存在する余地はないのか。
ーー久波君の話しはこのようなものだった。
「アニキ」とか「オヤッさん」とか
ある、と私は思う。
その人たちはかつて「アニキ」とか「オヤッさん」とか「センパイ」とか呼ばれていた。
「面倒みてくれる」人たち。
面倒見ながら、一緒にふざけたり、バカやったりしながら関係と信頼ができ、だからその人の「おまえ、それ結構向いてるんじゃない?」が強い影響力をもった。
特に珍しくもない、ごくありふれた、どこにでもある関係だった。
ただ、それはいろいろとややこしいしがらみと背中合わせでもあった。
「イヤなのに、どうして無理に付き合わなきゃいけないんスか」と言われると、それでもと強要するのが難しい性質のものだった。
一歩間違うと「あの子たちとはあまり深く付き合わない方がいい」と言われるような関係に転化するかもしれないものだった。
また、ごくありふれたものだったからこそ、私たちはあまり作り方を意識してこなかった。
そういう関係が、あちこちで勝手につくられているときはよかった。
勝手につくられなくなると、さて、どうやったらつくれるものなのか、誰もみんなを納得させる答えは持っていないのだった。
勝手につくられなくなると、さて、どうやったらつくれるものなのか、誰もみんなを納得させる答えは持っていないのだった。
家族と他人の間のどこに位置づけられるべきものなのかも、
人によって意見が分かれる。
一人で背負い込むには重すぎるだろう。
だからといって、どのようなチームが望ましいのか、わかりやすい正解があるわけでもない。
誰かに「よろしく」と頼んで済むことではない。
ナナメの関係
ただ、その関係が重要なことは認識され「メンター」とか「ナナメの関係」とか言われるようになっている。
欧米では、このような関係を取り結ぶ若者たちが「ユースワーカー」として、社会福祉の中に位置付けられてもいる。
それも参考にしつつ、日本でどのような仕組みと体制が望ましく、そして現実的なのか、多くの人たちが試行錯誤を繰り返している。
機会の平等の確保は必要で、重要なことだ。
その上で、さらにそこに手が届かない子どもたちに手を伸ばす試みも積み重ねられていくべきで、積み重ねられている。
しんどい思いをしている子どもや若者のメンターとなり、ナナメの関係を切り結んでいくのは、私かもしれないし、あなたかもしれない。
「1ミリでも進める」とはそういうことだろう、と。
その努力を一人ひとりが積み重ねていくことが「あきらめない力」を育むだろう。
大人たちがあきらめない社会でこそ、あきらめない子どもたちが育っていくはずだ。
【安倍首相>「反対」報道を否定…米の核先制不使用巡り】
(毎日、16・8・20・20:06)
安倍晋三首相は20日、オバマ政権が導入の是非を検討している核兵器の先制不使用政策を巡り、首相がハリス米太平洋軍司令官に反対の意向を伝えたと米ワシントン・ポスト紙が報じたことについて、「核の先制不使用についてのやりとりは全くなかった。どうしてこんな報道になるのか分からない」と否定した。羽田空港で記者団に答えた。
首相は「先般、オバマ大統領と広島を訪問し、核なき世界に向け決意を表明した。着実に前進するよう努力を重ねたい」と従来の見解を繰り返したうえで、先制不使用については「米側は何の決定も行っていないと承知している。今後も米国政府と緊密に意思疎通を図っていきたい」と述べるにとどめた。・梅田啓祐
【安倍首相・核先制不使用、米司令官に反対伝える 米紙報道】
(毎日、16・8・16・10:48)
権が導入の是非を検討している核兵器の先制不使用政策について、安倍晋三首相がハリス米太平洋軍司令官に「北朝鮮に対する抑止力が弱体化する」として、反対の意向を伝えたと報じた。同紙は日本のほか、韓国や英仏など欧州の同盟国も強い懸念を示していると伝えている。
「核兵器のない世界」の実現を訴えるオバマ政権は、任期満了まで残り5カ月となる中、新たな核政策を打ち出すため、国内外で意見調整をしている。米メディアによると、核実験全面禁止や核兵器予算削減など複数の政策案を検討中とされる。核兵器を先制攻撃に使わないと宣言する「先制不使用」もその一つだが、ケリー国務長官ら複数の閣僚が反対していると報道されている。同盟国も反対や懸念を示していることが明らかになり、導入が難しくなる可能性がある。
同紙は複数の米政府高官の話として、ハリス氏と会談した際、安倍首相は米国が「先制不使用」政策を採用すれば、今年1月に4度目の核実験を実施するなど核兵器開発を強行する北朝鮮に対する核抑止力に影響が出ると反対の考えを述べたという。同紙は、二人の会談の日時は触れていないが、外務省発表によると、ハリス氏は7月26日午後、首相官邸で安倍首相と約25分間会談し、北朝鮮情勢をはじめとする地域情勢などについて意見交換している。
 日本政府は、日本の安全保障の根幹は日米安保条約であり、核抑止力を含む拡大抑止力(核の傘)に依存しているとの考えを米国に重ねて伝えている。先制不使用政策が導入されれば、「核の傘」にほころびが出ると懸念する声がある。
2010年には当時の民主党政権が、米国が配備している核トマホーク(巡航)ミサイルの退役を検討していることについて、日本に対する拡大抑止に影響が出るのかどうかを問う書簡を、岡田克也外相がクリントン米国務長官(いずれも当時)などに対して送ったと公表している。核軍縮を目指す核専門家からは「核兵器の廃絶を目指す日本が、皮肉なことにオバマ政権が掲げる『核兵器のない世界』の実現を阻んでいる」という指摘も出ている。
【台風10号「私の判断ミス」高齢者施設常務理事】
(毎日・16・8・31・21:49)
大型の台風10号は30日に岩手県に上陸した後、東北地方を縦断して日本海に抜け、31日午前0時に温帯低気圧に変わった。岩手県や県警によると、岩泉町の小本(おもと)川が氾濫し、同町乙茂地区にある高齢者グループホーム「楽(ら)ん楽(ら)ん」で入所者の高齢者9人が意識不明の状態で見つかり、全員の死亡が確認された。
高齢者グループホーム「楽ん楽ん」を運営する法人の佐藤弘明・常務理事(53)は31日、現地で取材に応じ、「亡くなった方、遺族の方に本当に申し訳ない限りです。本当にすみません」と10秒以上、頭を深く下げた。過去の経験から「大丈夫だろう」と考えたと悔やんだ。
佐藤理事によると、30日午後5時50分ごろには足首程度だった水位が急上昇。救助のため施設に向かったが、施設付近で鉄砲水に押し流された。「今思えば午前のうちに避難しておけば良かった。全て私の判断ミスです」と唇をかんだ。
30日午後4時ごろ、町役場から川の水量を問い合わせる電話が来た。川があふれるまで20センチ程度余裕があることを確認してビデオで撮影。「過去の経験から2時間ほどの余裕はある」と4時半ごろ、町役場に伝えに行った。しかし、戻って来た5時50分ごろ、すでに施設は胸の高さまで水位が上昇していた。
 楽ん楽んは平屋建てで、入居者9人と夜勤の女性職員が1人いた。水位が上がる中、職員は男性入居者を抱えながら泳いで救助を待ったが男性は水が引く前に力尽きたという。
9人のうち3人は個室で、2人はキッチンで、他の入所者は玄関近くなどで見つかったという。
【<厚労省概算要求>社会保障上限超す 1400億円削減必要】
(毎日、9・30・14・32)
厚生労働省の2017年度予算の概算要求は、過去最大規模の31兆1217億円と、30兆円台の要求は5年連続となった。高齢化が進むことによる社会保障費の自然増は6400億円と見込むが、財務省からは最終的な増加額を5000億円程度に抑えることが求められている。今後の予算編成での調整に注目が集まる。
主要分野別にみると、待機児童の解消に向けた取り組みに1169億円、介護サービスの確保に2兆9907億円、年金制度の運営に11兆4067億円、医療・介護連携の推進に3兆482億円、医療保険制度の運営に11兆5795億円などを要求した。
年末の予算編成に向けて焦点となるのが、少子高齢化の進展に伴って増加を続ける社会保障費の抑制だ。昨年6月に閣議決定した「骨太の方針」は、社会保障費の伸びを16~18年度で計1・5兆円に抑える「目安」が盛り込まれた。
「目安ではなく実質的な上限だ」(与党厚労族議員)との指摘もあり、単純に割り算すると、各年度5000億円ずつに抑える必要がある。財務省が減額を求める根拠になっている。昨年の概算要求では約6700億円だった自然増の見込みが、最終的に4997億円に絞り込まれた。医療の公定価格である診療報酬改定率が、年末の塩崎恭久厚労相と麻生太郎財務相の交渉で、マイナス1・03%で決着したことが大きく寄与した結果だ。
来年度予算では診療報酬改定など大きな制度改正がない。「目安」を超える1400億円を、どのように削減するのか。現在、社会保障審議会で介護保険法改正に向けた議論が進む。買い物などの生活援助サービスを保険対象から外すことや収入が高い大企業のサラリーマンなどの保険料負担を増やす「総報酬割り」の導入など、介護サービス抑制や負担増などで財源を捻出する可能性もある。
ただし、厚労省幹部は「削減できなかった額が18年度に持ち越されることも想定している」と話す。その場合、18年度に予定されている診療報酬と介護報酬の同時改定や生活保護法改正などで、報酬切り下げや生活保護基準の見直しが選択肢として浮上し、いずれも国民へのしわ寄せが不可避となる。
【<医療>残暑の日 危険な「尿が出ない頻尿」に注意!】
(毎日、16・9・4・10:20)
9月になりましたが、残暑はしばらく続きそうです。気象庁の1カ月予報によると今後も全国的に平年より暑い日が続く見込みで、涼しい秋の到来はしばらく先かもしれません。暑い日の注意事項と言えば熱中症ですが、暑さが原因で起きる意外な病気があるそうです。それは「頻尿」。発症するのは比較的まれですが、時に命にかかわることもあるといいます。その仕組みと対策を、よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニックの奥井識仁院長に聞きました。
前立腺肥大症の人は暑気あたりで頻尿になることがある
暑さで体調を崩すことを「暑気あたり」といいます。暑気あたりには、軽いものから重いものまでさまざまありますが、特に注意を要するのが熱中症です。今年は猛暑だったため、メディアでは連日、熱中症の警告が行われていましたが、その中に熱中症になると「尿が少なくなる」という説明があります。事実、暑気あたりになると体が脱水状態になり、トイレの回数は減ります。しかし時折、逆に頻尿になる人がいます。まれですが、命にかかわりかねない重症になることもあります。
泌尿器科に通院している男性の多くは、前立腺肥大症という病気を持っています。前立腺は尿道とぼうこうのつなぎ目にあり、クルミぐらいの大きさをしていますが、60代以降になると大きく肥大し、時にはこぶし大になることがあります。そのために起きる代表的な病気が前立腺肥大症で、排尿したい感じが強くなり(尿意切迫感)、何度も排尿に行き(頻尿)、排尿しても出し切れない(残尿感)などの不快感が付きまといます。
前立腺肥大症は、前立腺への血行が悪くなると症状が強くなります。肥満の人は脂肪に圧迫されて前立腺やぼうこう、直腸などを含む「骨盤内臓器」への血行が悪くなります。すると前立腺の新陳代謝は悪くなり、むくみやすくなって、前立腺肥大症が悪化します。長時間座ったままも同様です。また加齢とともに血管自体も衰えて血液の流れが悪くなるため、高齢の人はさらに症状が強くなります。
尿意はあるのに尿はあまり出ない
暑気あたりの時、前立腺はどうなるのでしょうか? この分野には症例報告がありません。前立腺肥大症の人でも大半は汗が出て排尿の回数が減るのですが、日ごろ診療をしていると、逆に重症の頻尿になる人が時折いることに気が付きます。体が熱を持ち、水分が不足すると、肺や心臓のような太い血管をもつ臓器には血液が流れますが、前立腺やぼうこうのような細かく細い血管しかない臓器の血行は著しく悪くなります。このため前立腺がむくみ、前立腺肥大症の症状が強くなって頻尿になると考えられます。
この時、体全体で見ると暑気あたりのため汗をかき過ぎ、脱水になっているので、あまり尿が作られていません。そのため尿意は感じているのに、あまり尿は出ないという状態になります。また前立腺が腫れているので、排尿時に痛みを感じる人もいます。もし、身近な60代以降の男性が暑い日に極端に何度もトイレに行くようになったら、あるいは前立腺肥大症で通院中の方の症状が著しく悪化したら、暑さがその原因の一つかもしれません。
ちなみに前立腺肥大症ではない人は、尿意は起きず、体が尿を作らないためほとんどトイレには行かなくなります。
ぼうこう瘤や慢性ぼうこう炎の女性も要注意
そして女性でもぼうこうの血行が悪い人は、同様の症状になることがあります。
たとえば高齢女性に見られる、骨盤の中の筋肉が衰えて、ぼうこうが膣(ちつ)から落ちてくる「ぼうこう瘤(りゅう)」という病気の人は、ぼうこうにつながる血管が長く伸びているために血行が悪化し、頻尿になりがちです。そのような人が暑気あたりになると、ぼうこうへの血行がさらに悪化し、さらに重症の頻尿になります。
またぼうこう炎を繰り返して抗生物質をずっと服用している人は、ぼうこうの中にカビである真菌が増え、その死骸を餌にして細菌が増えることがあります。その結果、ぼうこうがむくみ、頻尿になる人がいます。これは慢性ぼうこう炎の原因の一つなのですが、このような患者さんも暑気あたりで頻尿の症状が増します。尿があまり出ないのは男性の例と同じです。
脳梗塞の前兆になることも
これらの症状が危険なのは、頻尿の次には、もっと太い血管で同じように血行不足が起きる可能性があるからです。例えば、脳梗塞(こうそく)など命にかかわる危険な状態です。暑気あたりは、清暑益気湯(せいしょえっきとう)、白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)など、体内の熱を取る作用のある漢方薬をうまく使うと、ある程度の予防や症状の改善が期待できます。加えて水分を十分に取り脱水を治すことが大切です。その上で、残暑の日に頻尿が悪化したら、泌尿器科医に「暑気あたりで脱水になり、調子が悪い」という可能性を伝えて、しっかり診察を受けてください。
【宮本顕二・礼子夫妻(1)寝たきり老人がいない欧米、日本とどこが違うのか】
(読売15・6・4)
北海道中央労災病院長、北海道大名誉教授。1976年、北海道大卒。日本呼吸ケア・リハビリテーション学会理事長。専門は、呼吸器内科、リハビリテーション科。「高齢者の終末期医療を考える会」事務局。
桜台明日佳病院認知症総合支援センター長。1979年、旭川医大卒。2012年に「高齢者の終末期医療を考える会」を札幌で立ち上げ、代表として活動。
世界一の長寿を誇る日本は、医療技術が進歩したばかりに、高齢者が意識のない状態で何年間も寝たきりになる国でもある。読売新聞の医療サイト「ヨミドクター」でそんな状況に疑問を投げかけ、反響を呼んだブログ「今こそ考えよう 高齢者の終末期医療」。このブログに大幅加筆して、『欧米に寝たきり老人はいない―自分で決める人生最後の医療』(中央公論新社、税抜き1400円)を6月10日に出版する内科医、宮本顕二・礼子夫妻に話を聞いた。(ヨミドクター編集長・岩永直子)
なぜこのテーマで書かれたのですか?
夫妻
日本では高齢者が終末期に食べられなくなると、点滴や経管栄養(鼻チューブ、胃ろう)で水分と栄養が補給されます。本人は何もわからないだけでなく、とても苦しいたんの吸引をされ、床ずれもできます。栄養の管を抜かないように手が縛られることもあります。人生の終わりがこれでよいのだろうかとブログで発信すると、多くの読者から体験に基づいた切実な意見が寄せられました。これを本にして多くの人に紹介し、高齢者の延命問題を一緒に考えたいと思いました」
礼子
ヨミドクターのブログ連載は、非常に反響が多かったです。なぜこれほど関心を集めたと思いますか?
「多くの人にとって切実な問題となっているからだと思います。たとえば、私の認知症外来は、家族の方も一緒に診察室に入っていただきます。そして、お話しできる患者さんには、『将来、食べられなくなった時に、胃ろうや鼻チューブで栄養を補ってほしいですか』と聞きます。一部の患者さんは『わからない』と言いますが、多くの患者さんは『そんなことはされたくない。そうなったらもうおしまいだわ』と言います。その時、家族も必ず自分の希望を言います。『私も望まない』と言う人ばかりです。『尊厳死協会に入っています』と言う人もいて、皆さん関心が高いです。『自分の親は何年も胃ろうで生きていて切なかった』という人もいます。そういう人は、意思がより強固です」
「そして、マスコミの影響もあるのでしょう。何年も前から胃ろうの問題はあちこちで取りあげられるようになってきました。また、胃ろうや鼻チューブや点滴の高齢者があまりにも増え、必ず誰か知り合いに使っている人がいます。関心を持たずにはいられませんよね」
賢二
「多くの人が80歳、90歳まで長生きするようになり、寝たきり老人も増えました。同時に、そういう姿を見ている人も増えているのでしょうね。そして、考えるのではないでしょうか、自分の親にはどうするか、自分の場合はどうするかと」
終末期の高齢者に延命治療が普通に行われる背景に、どんな状態でも延命すべきと思い込んでいる医師が多数いると書かれています。先生方は問題意識を持つ前は、どのような対応をしていましたか?
「医学生時代は終末期医療の教育を受けませんでした。医療現場では終末期医療について、先輩や同僚と話をすることはありません。そのため、延命に対して問題意識を持つまでは、点滴や経管栄養を減らすとか、行わないとかは考えもしませんでした。むしろ、脱水状態や低栄養にしてはいけないと思っていました。終末期の高齢者だからといって、医療の内容を変えることはしませんでした」
「僕が研修医の時は患者が亡くなる時まで濃厚な医療をやっていました。たとえば、がん末期の患者が亡くなる時は心臓マッサージをして、同時に人工呼吸器を付けるのは当たり前でした。当然そうするものだと思ってやっていました」
「ただ、高齢者は体力が違いますから、大腸の内視鏡とか、胃カメラとか、検査に耐えうるかどうかは、考えて決めていました」
患者の家族の方でも、延命医療を望む人はいるのではないですか?
「最近はいないですが、以前は、家族の中には、『他の家族が着くまでは生かしておいてほしい』と言う人がいて、心臓マッサージを家族が来るまで続けたことがありました。また、最近でも『生きているだけでいいから』とアルツハイマー病の終末期の患者に、経管栄養を希望する家族もいます」
「家族からの要望は、病気によっても違います。がんだと、結局亡くなるのだから延命処置は意味がないと、家族は思っています。問題はがん以外の病気です。がん以外の病気で亡くなることに納得できない家族が多く、延命処置を望む人は多いですね」
2007年にスウェーデンに終末期医療の視察に行かれて、先生方の意識も変わられたのですね。何が一番印象的でしたか?
「スウェーデンが初めての海外視察だったのですが、食べなくなった高齢者に点滴も経管栄養もしないで、食べるだけ、飲めるだけで看取みとるということが衝撃的でしたね。脱水、低栄養になっても患者は苦しまない。かえって楽に死ねるとわかり、夫と私の常識はひっくり返ったのです。そして施設入所者は、住んでいるところで看取られるということも、日本の常識とは違うので驚きました。視察先の医師も、自分の父親が肺がんで亡くなった時に、亡くなる数日前まで普通に話をしていて、食べるだけ、飲めるだけで穏やかに逝ったと言っていました」
「日本では、高齢で飲み込む力が衰えた人は、口内の細菌や食べ物が肺に入って起きる『誤嚥ごえん性肺炎』を繰り返して亡くなることが多いです。誤嚥性肺炎の論文もほとんど日本人の研究者が書いているのです。当時も今も誤嚥性肺炎対策が高齢者医療の重要なテーマです。この誤嚥性肺炎について、スウェーデンで尋ねたら、『何それ?』ときょとんとされたのが衝撃でした。スウェーデンでは、誤嚥性肺炎を繰り返すような悪い状態になる前に亡くなっているので、あまり問題にならないのです。延命処置で病気を作って、かえって患者を苦しめている日本の現状を強く認識しました」
日本の終末期医療とは全く違うと感じたのですね?
「180度違いました。日本は終末期の高齢者であっても、医療の内容を変えることはありません。一方スウェーデンでは、緩和医療に徹しています」
「肺炎でも点滴も注射もしない。それは日本とは全く違うので驚きでした。スウェーデンは、当初、認知症治療がどうなっているのかを見るのが目的だったのです。しかし、終末期医療の違いにびっくりして、次のオーストラリア視察は、終末期医療の視察に目的が変わりました」
「オーストラリアに行った理由は、緩和医療に熱心に取り組んでいる国と聞いたからです。しかし正直なところ、スウェーデンがあまりにも日本と違うことをしているので、スウェーデンだけが特殊な国ではないかと思い、他の国の実態を確かめに行ったのです。そうしたら、日本のほうが特殊な国だった。ただ、よく考えてみると、日本も昔はスウェーデンと同じで、食べられなくなった高齢者はリンゴの搾り汁を口に含む程度で、家で穏やかに亡くなっていました。昔の日本の終末期医療は、今のスウェーデンやオーストラリアと同じであったことに気がつきました」
「スウェーデンに行った時、研修医の時にお世話になった、ベテランの副院長のことを思い出しました。僕ら研修医はがんがん延命処置をするわけですが、副院長は当時の僕から見たらのらりくらりで何もしない。しかし、僕ら研修医が手を尽くした患者さんが亡くなった時、その患者さんの状況はというと悲惨なのです。血が飛び散って、点滴によるむくみもひどい。だから、看護師が家族をいったん外に出し、患者さんの体をきれいにしてから対面させたものです。一方、副院長が看取った患者さんは皆きれいで穏やかでした。当時の副院長の思いが、今になってわかりました」
「帰国後に、以前勤めていた病院で報告会をしたんです。その病院は、99歳でも胃ろうを作るし、終末期であっても人工呼吸器をつけたり血液透析をしたりする、スウェーデンとは正反対の病院でした。点滴や気管に入っている管を抜かないように、体がベッドに縛り付けられる患者さんの姿に、『年を取るのが恐ろしい』、『このようなことが許されるのか。医療が高齢者を食い物にしている』と怒っていた看護師もいました。そのためか、私の報告に対して、現場の看護師から称賛の声が上がりました。『私も年を取った時に、こういう亡くなり方をしたい』と。海外視察で、日本の高齢者の終末期の悲惨さは許されないことであることに気づき、この現状を変えるために何かしようと思い始めたのです」
スウェーデン、オーストラリア、オーストリア、オランダ、スペイン、アメリカと6か国の終末期医療を視察し、その様子が本の中で詳しく紹介されています。無意味な延命治療をしないというプラス面も書かれていますが、必要な治療が受けられないなどの、マイナス面も書かれています?
「医療は過少でも過剰でもないことが理想ですが、その国の医療制度が反映されるので、その実現はなかなか難しいです。良いことばかりではないです。日本ならば助かる肺炎の患者さんも、この国では亡くなるだろうと思いました。そのため、諸外国のまねをするのではなく、日本の終末期医療のあり方を模索することが大事だと思います。
「海外の医療状況を紹介している本を読んでみても、いいことしか書かれていない。リハビリが素晴らしい、とか。でも日本のリハビリだって素晴らしいし、決して欧米にひけを取らない。そもそも根本から、終末期医療の考え方が違うということをこの本で伝えたかったんです」
「延命処置をしないというと勘違いされるのですが、何もしないわけじゃない。延命処置はしなくても、緩和医療には手を尽くす。延命処置をする時間があったら、緩和医療に時間や人を割こうというのが、海外視察を通じて学んだことです」
海外に比べ、日本は終末期の緩和医療はおろそかにされていますか?
「海外では、がん以外の患者にもモルヒネを使い、痛みや苦しさを緩和することを重視していますが、日本ではあまり使いません。また、日本では延命処置をしないことが緩和医療につながると理解している医療者は少ないです。点滴の針を刺したり、尿道にカテーテルを入れて、つらい思いをさせます。水分も過剰に投与するので、痰たんが多く、痰を吸引する苦しみを与えています。ストレスから消化管出血もよく起こします。誤嚥性肺炎を繰り返し、発熱や呼吸困難が起きます。問題は濃厚な延命処置を行って、患者を苦しめていることに気がついていない、あるいは気がついても目をつぶっていることと思います。その視点に立つと、日本では緩和医療がおろそかにされていると思います」
お二人は、2012年に「高齢者の終末期医療を考える会」を、札幌で立ち上げました。どのような会なのですか?
「高齢者が穏やかな最期を迎えられるために、医療・介護関係者向けの講演会と市民公開講座をそれぞれ年1回開催しています。『平穏死のすすめ』を書かれた石飛幸三先生にも講演していただきました。来年は『大往生したけりゃ医療とかかわるな』を書かれた中村仁一先生にビデオ講演をお願いしています。お二人とも、終末期の高齢者には無駄な延命処置をするべきではないと考えている医師です。毎回400人近くの参加があり、関心の高さを感じます」
一方、本の中で、「終末期医療の問題に、大半の医師は積極的にかかわろうとしない。むしろ解決を妨げている」と厳しく指摘もされています?
「例えば、私が今までに勤めた病院では、高齢者の終末期医療について『これでいいのか』と問題提起をした医師は誰もいませんでした。ブログのコメントには、問題意識のある先生が『これでいいと思っている医師は一人もいません』と書いていますが、現状を変えようとして行動を起こす医師はなかなかいません。私は、北海道にそうした会がなかったので、自分で作りました」
医師は疲れているのでしょうか?
「自分一人の力では変えられないと思っているのではないでしょうか。延命に対する国民の意識の問題、医療制度・診療報酬の問題、看取みとってくれる自宅や施設の受け皿の問題など、問題がたくさんあり過ぎて、どうしようもないと思っているのではないでしょうか」
「家族との対応ひとつにしてもそうです。たとえば、今の状況で、自分の考えに従って自然な看取りを実践しようとしても、患者の家族に一人でも反対者がいれば、後で訴訟に巻き込まれる可能性があります。それを防ごうとしたら、ものすごく手間と時間をかける必要があります。家族に説明する時間も10分や20分で済むはずがありません。しかも繰り返す必要があります。多忙な医療現場でそんな余裕はないでしょう」
「病院経営の問題もあります。今や、療養病床の半分以上、多分7、8割は、経管栄養や中心静脈栄養で延命されている人たちです。そのため、点滴や経管栄養を行わなかったり、中止したりすると、患者さんは2週間ほどで亡くなるので、病床が空き、病院経営が苦しくなります。しかし、2030年には死亡者が今より40万人増加し、看取り先の確保が困難になると言われています」
「胃ろうについては動き出しました。昨年から胃ろうを作る時の診療報酬が減額になりました。また、胃ろうを年間50件以上作っている施設では、作る前にのみ込む機能の検査をしないと診療報酬がさらに減額になりました。しかし、胃ろうを作ったからと言って、胃ろうの患者を診ている病院の診療報酬が上がるわけではありません」
先生方は医師ですが、病院経営側から、終末期の医療に口を出されることがありますか?
「直接はありません。しかし療養病床は、中心静脈栄養や24時間の持続点滴を行ったり、人工呼吸器をつけたりすると診療報酬が高くなります。そうすると、点滴も何もしないで看取る患者は診療報酬が低いので、経営的には不利になります。そのため、診療報酬が低い人は何名までに抑えてください、と言われます。診療報酬が低い人は、入院できないことが多いです。」
そうなると、声を上げても無駄だとあきらめてしまう医師が多いのもわかりますね。
「そうですね。一番の問題は、点滴も経管栄養も行わずに死んでいける場所がないということです。自宅でも看取ってくれる医師が少ないし、家族も介護しきれない。施設はどうかというと、92歳の夫の母が有料老人ホームに入っていますが、少量しか食べなくなってきています。家族は、できればそこで看取ってほしいと思っていますが、訪問診療をしている先生は、いざとなったら病院に行ってほしいと言っています」
「僕も、母はもう年だからここで看取ってほしいと言っています。でも、訪問診療の医師からは、心筋梗塞や肺炎などを疑ったら、救急車を呼ぶとはっきり言われています。結局は静かな看取りの場がないのです」
進行性の難病患者の例も本の中で挙げられています。1人目は、意思疎通ができなくなったら人工呼吸器を外してほしいと病院に要望し、倫理委員会でもその要望を尊重することにしたのに、院長の判断で受け入れなかった例です。2人目は、ALSの患者ご本人が、「自力で呼吸ができなくなったり、食べられなくなったら人工呼吸器や胃ろうは使わないと宣言している」とコメントされた例。3人目は、ALSの患者さんと病院実習で交流した経験から、「生きなくてもいい権利」を訴えた救急救命士のコメントです。終末期の高齢者の差しひかえとは違う議論になると思うのですが、いかがですか。?
「意思表示ができる時は、本人の意思を尊重することが基本です。本人の意思が無視されるのは問題です。人工呼吸器も、経管栄養も、本人の意思が尊重されるべきだと思います。本人の意思であれば、選択した内容に私は何の意見もありません」
「こうした終末期医療の記事を書くと、ALSや筋ジストロフィーの人のことが必ず出てきます。でも、彼らは意思表示がしっかりできる。自分で判断でき、自分で選択できるんです。その選択を認めないという、そちらの方が問題だと言っているんです。終末期の高齢者とは、そういう意味で違うんです」
ただ、高齢者の場合は、人工呼吸器や経管栄養などの延命処置はしない方がいいと主張していらっしゃる?
「そう思います。その方が穏やかな最期を迎えられますので」
そもそも医学的にプラスにはならない終末期の高齢者の延命処置と、進行性の難病の患者の延命処置は、違う意味合いがあると思います。個人的には、意思表示ができるかどうかで、延命するかどうかの線引きをすることにも、迷いを感じます。?
「別問題です。それを一緒にして議論すると、平行線になって意味はありません」
「進行性の難病患者は意思表示できる人ですから。意思表示できなくなったら、こうしてほしいというのを残しておけばいい」
高齢者についても事前の意思表示は必要と訴えていらっしゃいますね?
「終末期の延命問題を扱うと、色々な意見が出てきます。延命は正しい、正しくない、という問題ではないので、公平性を期すためには、本人の事前指示に従うのが一番よいと思います。現状では家族が延命するかどうかを決めています。しかし、それを何とかしなくてはいけないと思っています
欧米ですと、そもそも医学的適応のないことは、患者の意思にかかわらず、最初から医師の判断でやらないと書かれていますね。?
「そうです。しかし日本の場合は、その病院に人工呼吸器などの装置があればやらざるを得ない」
本人や家族からどうしてもやってほしいと言われれば、できる施設を探して紹介するようにしないと、私たち医師の責任が問われます。
本の中で、日本の医学会は、終末期の高齢者の延命は医学的に意味がないことを示すべきと書かれています?
そう思います。家族の葛藤を書いたところで触れましたが、本人の意思が示されていない限り、家族はどちらの判断をしても悩むのです。『断るのも地獄、やるのも地獄』とおっしゃった家族がいました。だから、医学会が終末期の高齢者の延命は医学的に意味がないことを示せばよいのです。そうすると、家族は肩の荷を下ろせます。延命処置をするかしないか二つの選択肢を示されると、家族は決断した後に、『これで良かったのか』と悩みますので。私は家族に選択をしてもらう時には、必ず、自分の意見を言います。『患者さんはこういう状態だから医学的に意味はなく、やらない方が楽だと思います』と。」
「インフォームド・コンセント(説明の上の同意)と言うと、若い医師は、同じ価値づけをして選択肢を示します。でも、それでは家族は困ります。優先順位を付けてあげるのが、専門職の仕事だと思います。」
「『私はこれを勧めます』とか『自分が患者ならこれを選びます』と」
「『自分の親だったら、こうします』とか」
医学的に意味はないということを示すだけではなく、看護師さんでもいいから、現場レベルで、「むくんで、たんが増えます。たんを定期的に吸引することになると本人はかえって苦しいです」とか、わかりやすい言葉で伝えてあげる必要があるのでは?
「私はそういうふうに説明をします。『点滴を500ミリリットルしたら、こうなります。しなかったらこうなります』と。過去の経験をありのままに伝えます。そうすると、『先生にお任せします』と言われることが多いです。食べるだけ、飲めるだけにすると決めると、患者さんを見舞う家族の表情も良くなります。もう先がないとわかるので、足しげく通って来て、『先生、ゼリーを3口食べました』と何気ないことに喜びを見いだすようになります。延命処置をして、先の見えない時間を憂鬱ゆううつに過ごすよりも、最後の時間を患者さんと共に大切に過ごすようになります。」

【<自閉症>発症の仕組みの一端解明 九大グループ】
(毎日、9・8・02:00)
自閉症を引き起こす仕組みの一端を遺伝子異常の側面から解明したと、九州大の研究グループが発表した。
7日付の英科学誌「ネイチャー」電子版に掲載される。
中山敬一・九大主幹教授(細胞生物学)らは、CHD8がないマウスを作製し、行動を観察。正常なマウスに比べ、不安を強く感じたり、仲間に関心を示さなかったりする自閉症の傾向がみられたという自閉症の原因に関係すると考えられる遺伝子は数多く報告されている。特にDNAの転写などに関わる「CHD8」を持っていない人は患者で最多の約0.4%いるとの研究もあるが、具体的な因果関係は不明だった。
次にさまざまな遺伝子の働きを調べ、CHD8のないマウスは「REST」というたんぱく質が異常に活性化することが分かった。
RESTは胎児の神経細胞の発達を止める働きがある。そのため、自閉症を引き起こすと考えられるという。
中山主幹教授は「RESTの働きを抑制する薬を作り、患者に届けたい」と話した。
【孫の自閉症、環境が原因?=答える人・石崎朝世院長】
(毎日、16・6・19)
答える人・石崎朝世院長 公益社団法人発達協会・王子クリニック(小児神経科)
Q,孫の自閉症、環境が原因?
小学1年の孫は自閉症です。2歳の時、妹の入院で両親がかまってやれず、発達の遅れに気づきました。環境要因でも発症するのでしょうか。(兵庫県川西市、女性、72歳)
A,療育で症状軽減できる
Q,自閉症は生まれつきの脳機能障害です。人との関わりやコミュニケーションが苦手だったり、こだわりが強く想像力が働きにくかったりする症状があります。
一般的には1歳くらいで指さしをしない、言葉がないといった兆候がみられます。2歳まで発達の遅れを感じなかったそうですが、専門医が診れば分かったかもしれません。軽い症状で自閉症と気付かなくとも、不安な経験をきっかけに特性がはっきり表れる子もいます。下の子の出産で母親と離れ、久しぶりに会うと目線が合わなくなっていたケースなどがあります。
また、まれに2〜3歳で、これまで出ていた言葉がなくなるなど、持っていた能力がなくなる「折れ線型」の自閉症もあります。
環境的な要因はあくまできっかけです。この時期、情緒が安定していれば症状の出方が少なかった可能性はありますが、経過を大きく変えたとは考えにくいでしょう。
 自閉症は療育で症状を軽くできます。まず不安や緊張のない環境を整えることが必要です。電車や人形遊びなど本人の好きなことに共感し、たくさんほめる機会を作ることも良い影響があります。気持ちのいいやり取りは学ぶ意欲を高め、ソーシャルスキルの習得にもつながります。
 できることとできないことがアンバランスなのも特徴で、例えば絶対音感がある人、記憶力が突出した人などもいます。得意な分野で力を伸ばすことは充実した人生につながります。お孫さんの可能性を引き出してあげてください
【風俗店の待機部屋で生活相談 貧困支援の「風テラス」】
(福祉、9・9・09:58)
性産業で働く女性を支援する「風テラス」が注目を浴びている。ソーシャルワーカーと弁護士がタッグを組み、風俗店の待機部屋で月に1回、無料で生活相談に応じ、関係機関にもつなげる。相談の中身は障害や病気、借金などさまざまで、中には社会的に排除された女性もいるという。支援者らは「男性の貧困は路上、女性の貧困は待機部屋に現れる」と口にする。
待機部屋は居場所
東京のJR池袋駅からほど近いマンションの1室に風俗店「池袋おかあさん」の待機部屋はある。壁には「本番行為一切禁止。発覚次第即クビ」の文字が貼ってある。
社会福祉士と精神保健福祉士の資格を持ち独立型の「PandA社会福祉士事務所」を運営する及川博文さんと、弁護士の徳田玲亜さんが、小さな机を挟んで女性と向かい合った。「今日はよろしくお願いしますね」。及川さんが明るく語りかけると、女性は「はい」と小さくつぶやいた。
40代後半というこの女性は、2015年秋に入店。しかしうつ病で外出すらできず、半年で数回しか出勤していなかった。不眠も訴えながら「今は両親の年金と、自分の貯金を崩して暮らしています」とうつむいた。
そのうち女性はせきを切ったようにさまざまな悩みを語り出した。及川さんらは話を受け止めた上で、障害者手帳や自立支援医療、地域活動支援センターの存在などを伝えた。
「もどかしい状況を少しでもよくしたいですね」。30分ほどの面接を終えて及川さんがそう話すと、女性は「また来ます」と少し表情が明るくなった。
 風テラスは、一般社団法人「ホワイトハンズ」(坂爪真吾代表)が呼び掛け、15年秋から月1回で活動を開始。誘いに応じたソーシャルワーカーや弁護士5人が、専門性を生かして相談にのる。
現在2社にかかわっており、支援した女性は延べ50人。徳田弁護士は「性産業関係だから特別な相談内容というわけではない。仕事を隠さずに相談でき、問題の深刻化を防げることに意義がある」と話す。
支援は、性産業からの脱却だけを目指していないのも特徴だ。「待機部屋はコミュニティーであり、社会的な居場所になっている。無理やり辞めさせて、収入を断っても問題は解決しない」と及川さんは強調する。
福祉へのアクセス
風俗店は、なぜ風テラスの支援を受け入れているのか。
「おかあさん」の齋藤明典社長は「普通の会社員以上に稼ぐ自立した女性もいるが、半数以上はメンタル面に問題がある。しかし福祉の素人である我々には解決するすべがない」と理由を明かす。
同店には40~70代の女性が100人ほど在籍しており、兼業も多い。平均月収は約18万円程度という。
面接では応募の動機だけでなく、生活状況を詳しく聞く。時には3時間以上かけて、収入状況や家賃、光熱費、既往歴までヒアリング。例えば、携帯電話代などが高すぎる際は徹底的に原因を洗い出し、改善の提案までする。
また齋藤社長はこれまで、弁護士の紹介や市役所の手続き同行などもしてきた。ある意味、課題を抱える女性へ寄り添うインフォーマルな支援とも言える。
警察庁によると、15年時点で届け出のある性風俗店は全国に2万1620店。働く女性は30万人以上という試算もあり、齋藤社長は「どの風俗店でも女性の生活支援は課題になっているのではないか」と推察する。
風テラスは今後、さまざまな協力団体を増やしながら「本番行為など法律違反をしていない」「反社会的勢力との関係がない」などを条件に支援する店を広げたい考えだ。
坂爪代表は「性産業の存在は社会的に公認されないが、現実として従事する女性はいなくならない。その前提に立ち、福祉制度のアクセシビリティーを高める活動を続けたい」と話している。
【「横暴すぎる老人」のなんとも呆れ果てる実態暴力、セクハラ、万引き…社会は耐えきれるか】
(東洋経済、16・3・16)
JR6社や日本民営鉄道協会などの調査によると、鉄道係員に暴力を振るった加害者の年齢別では60代以上が2014年度まで5年連続でトップだった。ちなみに加害者全体のうち6割弱が飲酒しており、発生した時間帯は22~翌5時が最も多い。酒を飲んだ後の終電時刻前後でのトラブルが多いと推測できる。
高齢者は自尊心が強いのも特徴だという。「人に注意されたり、何かを教えられたりするのを嫌がる人が多い。よくあるのが指定席の券売機でのトラブル。操作方法がわからないまま挑み続け、後ろに行列ができる。係員が助けに入ろうとしても『うるさいな』と拒否。そのうち後ろに並んでいる人から『早くしろ』という怒りの声が飛び、もめ事になる。尋ねてくれればすぐ解決する問題なのに…。言葉は通じなくても何でも聞いてくる外国人のほうがよっぽど対応しやすいですよ」(社員)
病院での暴力・暴言、セクハラも多い
東京・新橋の東京慈恵会医科大学附属病院は2004年から「院内交番」と呼ばれる渉外室を設置している。配属されているのは警察OB。患者からの暴力や悪質なクレームなどに対応するのが目的だ。
「病人かつ高齢者となると『いたわってもらって当たり前』という認識がある。そのため自己中心的な振る舞いをしがちで、院内暴力につながっていく」。慈恵医大の渉外室設立時から昨年3月まで勤務していた、警視庁OBで同渉外室名誉顧問の横内昭光氏はそう話す。
私立大学病院医療安全推進連絡会議が2011年、11施設の全職員に調査を実施(有効回答約2.3万人)したところ、患者やその家族から暴力を受けたことがあると回答した職員は4割超に上った。院内暴力などをふるった人を年齢別で見ると、暴力は70代、セクハラは60代が最も多く、暴言についても60代が2番目に多い。
院内暴力や悪質なクレームによって、優秀な職員が辞めてしまうことも少なくない。病院が警察OBを採用して院内暴力などに対処する動きは全国に広がっており、病院関係者の危機感は強まっている。
高齢者による犯罪も深刻な問題だ。一般刑法犯の検挙人員数を年齢別に見ると65歳以上は約4.7万人に上り、14~19歳に次ぐ水準だ。全体の数は約25万人と10年前から3割強も減少しているにもかかわらず、高齢者の数は約1割増加している。高齢者犯罪で最も多いのは窃盗で約3.5万人と断トツで10年前と比べて約3割増、暴行(約0.35万人)は約4倍、傷害(0.16万人)も約5割増となっている
年をとれば穏やかな性格になり、好々爺然としてくる――というイメージを抱いている人は多いかもしれない。だが実は高齢者の暴言やエキセントリックな言動など「キレやすくて自己中心的」になるのは必然だという。
加齢によって脳の機能が低下
人の感情をつかさどる脳は年を重ねるごとに萎縮することが明らかになっている。萎縮に比例して脳の機能は衰えるため、物忘れのような老化現象が現れる。そして脳の中で早い段階から萎縮が始まるのが、衝動の抑制や理性、意欲などを担う「前頭葉」。これによって感情抑制機能の低下、判断力・意欲の低下などが起こる。それ以外にも喫煙や飲酒などの長年の生活習慣によって脳の機能低下は起こる。

【地下水上昇、地表面に=台風16号の降雨で―福島第1】
(時事、)
東京電力は21日未明、福島第1原発の護岸近くで、台風16号の降雨で地下水の水位が上昇し、地表面に達したと発表した。
  護岸近くの地下水は放射性物質に汚染されている可能性があるとして、ポンプなどでくみ上げ作業が行われていた。
  東電によると、護岸の東側は同原発の港湾となっている。20日午後10時前に護岸近くの観測用井戸で地下水が地表面に到達。地下水の噴き上げはないが、雨水が地下に浸透せず地表面を通って港湾に流れ込む可能性があるという。
  東電は地下水のくみ上げ作業を継続するとともに、今後港湾内の海水の放射性物質濃度分析などを行うと説明している。第1原発1~4号機の周辺では地下水が広範囲に汚染されており、東電は港湾への流出を抑制するための遮水壁を設置。さらに、その手前で地下水のくみ上げ作業を行っていた。
【日銀・マイナス金利拡大検討 国債購入手法は議論 20日から総括的検証】
(毎日、9・15)
日銀は20、21日の金融政策決定会合で、異次元緩和の「総括的な検証」をまとめる。大量の国債購入やマイナス金利などの緩和策の効果はあったと評価したうえで、今後も2%の物価上昇目標の早期達成に向けてマイナス金利の深掘りを中心に追加緩和を模索する姿勢を示す方向。会合では、マイナス金利の副作用を抑制するために、国債の購入手法の見直しを議論する見通しだ。
日銀が2013年4月に「異次元緩和」に踏み出してから、約3年半が経過。日銀はこの間、国債の買い入れ量を年50兆円から80兆円に増やしたり、マイナス金利を導入したりするなど強化したものの、今年7月の全国消費者物価指数(生鮮食品を除く)はマイナス0・5%と、2%の目標に遠く及ばない。このため、総括的な検証によって政策を総点検することにした。
検証の主な柱は、2%の物価目標達成の阻害要因と、マイナス金利の効果と副作用。物価目標は、国債の大量購入によって金利を押し下げ、将来的に物価が上昇していくとの予想を高めるなどの効果があったものの、原油安の進行などで目標達成には予想以上の時間がかかっているとの認識で、会合に参加する政策委員はほぼ一致する見通し。
そのうえで、2%目標を堅持。ただ、当初の「2年程度で達成」という約束については、すでに2年が経過していることから、改めて早期の目標達成を目指す姿勢を強調する。
日銀が今年2月に導入したマイナス金利については、住宅ローンなどの金利が大幅に低下する効果があった一方で、金融機関からは「収益が悪化する」との反発の声が出ている。銀行などの資金調達の手段である預金金利はマイナスまで下げられない一方で、貸出金利が大幅に低下することで「利ざや」を稼ぐのが困難になっているためだ。黒田東彦総裁も5日の講演で、金融機関の収益悪化や保険や年金の資金運用難など、マイナス金利の副作用に留意する必要があることを認めた。
しかし、黒田総裁は国債買い入れとマイナス金利の組み合わせが「極めて強力であることがはっきりした」と評価。総括的検証では、マイナス金利の深掘りは可能との意見で政策委員の意見はおおむね一致するとみられ、効果と副作用のバランスを考慮に入れながら、今後も必要に応じてマイナス金利を現行の0・1%からさらに引き下げることを検討する姿勢を打ち出す方向だ。実施時期についても慎重に判断する。
一方で、副作用を抑制するために、短期金利に比べて長期金利を比較的高く保ち、銀行が収益を上げやすいように国債の購入方法を見直す案が出ている。現在は国債の満期までの期間が平均で「7〜12年程度」になるよう国債を買い入れているが、償還までの期間が短い国債購入を増やし、長期の買い入れを減らすことなどを議論する。国債の購入額は維持する方針。
ただ、長期金利が上昇すれば経済活動にマイナスになると受け止められる恐れもあることから、否定的な意見も出ており、会合では意見が割れる可能性もある。
【<日銀>追加緩和議論へ 「総括的検証」20日から決定会合】
(毎日、9・19・09:00)
日銀は20、21日に金融政策決定会合を開き、2013年4月から実施してきた大規模な金融緩和(異次元緩和)について「総括的な検証」をまとめる。物価上昇率2%目標の達成が見通せないなか、検証を踏まえ、目標の早期実現に向けて、どのような手を打つかが焦点。マイナス金利幅の拡大など追加緩和策の可否を議論するとみられる。
黒田東彦(はるひこ)総裁は今月5日の講演で総括的検証について「2%目標の早期実現のために何をすべきか議論する」と表明。緩和縮小の方向となることは否定した。
決定会合では、現在の物価低迷が原油安や新興国経済の減速など外的要因が主因と確認し、物価目標を早期実現する姿勢を改めて示す見通し。現在の緩和策の枠組みは維持する方向だ。
追加緩和策の議論は、マイナス金利幅(現在はマイナス0・1%)の拡大が軸になるとみられる。黒田総裁はマイナス金利について、住宅ローン金利の大幅な低下などを踏まえ、「企業や家計の資金調達コストの低下につながっている」と効果を強調している。
しかし、マイナス金利幅を拡大すると、住宅ローン金利などがさらに下がり、銀行の収益が圧迫される。金利低下で年金や保険の運用も悪化し、将来への不安も高まる。こうした副作用は、黒田総裁も指摘しており、日銀は効果と副作用を慎重に見極める考えだ。
副作用を抑えるため、国債の購入方法を見直す案も浮上している。年金の運用先となっている償還期間の長い国債(20年債や30年債)の金利を一定水準確保するため、こうした国債の購入ペースを減らす。一方、償還期間の短い国債の購入を増やし、企業向け貸出金利に影響する短期金利を下げる--といった案などを検討するもようだ。
また、米連邦準備制度理事会(FRB)が20、21日、金融政策を決める連邦公開市場委員会を開く。追加利上げの可否を判断するが、時差の関係で日銀の決定会合の後に結論が出る。
市場では「FRBは利上げを見送る」との見方が多く、「日銀が追加緩和を見送れば、円高が進む」との観測が出ている。ドルの金利上昇と円の金利低下が見込めず、ドルを売って円を買う動きが強まる可能性があるからだ。
ただ、「日銀が追加緩和に踏み切ってもFRBが利上げしなければ円安効果は限られる」との指摘もあり、日銀は難しい判断を迫られそうだ。
【<日銀>長期金利に目標導入 マイナス金利副作用配慮】
(毎日、9・21・13:56)
◇金融政策決定会合で賛成多数
日銀は21日の金融政策決定会合で、国債の金利を一定水準にコントロールする「金利ターゲット(目標)」を新たに導入することを賛成多数で決めた。マイナス金利政策で長期金利が下がり過ぎる副作用を抑制する狙い。当面は長期金利の指標となる10年物国債金利がゼロ%程度で推移するように買い入れる。国債購入ペースは現行の年間80兆円を「めど」とし、「物価が2%を超えるまで」国債購入を続けるとした。マイナス金利はマイナス0.1%のまま維持する。金利ターゲットは世界的にも異例の政策となる。
会合では、2013年4月に始めた大規模な金融緩和(異次元緩和)の「総括的な検証」を行い、2%の物価上昇目標の達成が長期化することを事実上認めた。目標をできるだけ早期に達成するため大規模な金融緩和を維持するとともに、緩和の長期化や副作用を踏まえ、政策を大幅に修正する必要があると判断した。
金利ターゲットの導入は賛成7、反対2の賛成多数で決定した。金利ターゲットを導入後、景気や物価情勢に応じてマイナス金利幅や長期国債の金利水準を変更する。金利ターゲットを導入すれば、日銀に高値で転売する目的で国債を購入する投機的な動きに歯止めがかかり、金利の大幅な低下が避けられると予想され、金融機関の資金運用難を抑える効果が期待できる。
また、、日銀の保有国債は発行残高の3分の1超に達しているが、長期金利ターゲットの採用で国債の購入量が削減できれば、「日銀の国債購入が限界になる」との懸念も払拭(ふっしょく)できそうだ。
世界では、米国が1940年代、財政悪化の懸念から生じるインフレを抑制する目的で、長期金利を2%に固定化する金融政策を取ったことがある。
政策変更は上場投資信託(ETF)の買い入れ増額を決めた前回7月会合に続き、2回連続となる。年間6兆円ペースのETF購入は現状のまま維持する。
総括的な検証では、異次元緩和は経済好転に効果を発揮したものの、原油価格下落や消費増税後の消費低迷などが物価を押し下げたと分析。足元の物価低迷で、企業や家計が「将来、物価が上がる」という確信を持てなくなっていることから、2%の物価上昇目標の実現が難しくなっているとの見方を示し、目標達成が長期化することを事実上認めた。
一方、今年2月に導入したマイナス金利政策については、住宅ローン金利低下など効果がある半面、金融機関の収益悪化や生保・年金の運用難といった副作用に言及した。マイナス金利幅拡大は金融業界に反対論が強いうえ、政府の経済対策の効果も見込めることから、現時点で必要ないと判断したもようだ。
【高濃度セシウム>福島第1周辺のダム底に堆積】
(毎日、9・25・09:00)
10カ所で8000ベクレル超
東京電力福島第1原発周辺の飲料用や農業用の大規模ダムの底に、森林から川を伝って流入した放射性セシウムが濃縮され、高濃度でたまり続けていることが環境省の調査で分かった。50キロ圏内の10カ所のダムで指定廃棄物となる基準(1キロ当たり8000ベクレル超)を超えている。ダムの水の放射線量は人の健康に影響を与えるレベルではないとして、同省は除染せずに監視を続ける方針だが、専門家は「将来のリスクに備えて対策を検討すべきだ」と指摘する。
貯水線量、飲料基準下回る
同省は原発事故半年後の2011年9月、除染されない森林からの放射性物質の移動を把握するためダムや下流の河川などのモニタリング調査を開始。岩手から東京までの9都県のダム73カ所で1カ所ずつ数カ月に1回程度、観測している。
このうち底土表層濃度の11~15年度の平均値が指定廃棄物の基準を超えるダムは、いずれも福島県内の10カ所で、高い順に岩部(がんべ)ダム(飯舘村)1キロ当たり6万4439ベクレル▽横川ダム(南相馬市)同2万7533ベクレル▽真野ダム(飯舘村)同2万6859ベクレル--など。ただ、表層の水は各ダムとも1リットル当たり1~2ベクレルで、飲料水基準の同10ベクレルを下回る。
同省の調査ではダム底に堆積(たいせき)したセシウム総量は不明だが、10ダムのうち福島県浪江町の農業用「大柿ダム」で、農林水産省東北農政局が13年12月、総量を独自調査。ダム底の110カ所から抜き取った堆積土の数値をもとに10メートル四方ごとの堆積量を試算。セシウム134と137の総量は推定値で約8兆ベクレルになった。
国立環境研究所(茨城県つくば市)は近く、複数のダムで本格調査に乗り出す。環境省は「ダムに閉じ込めておくのが現時点の最善策。しゅんせつすれば巻き上がって下流を汚染する恐れがある」としている。
【ダム底 高濃度セシウム たまる汚染、募る不安】
(毎日、9・25)
東京電力福島第1原発周辺のダムに放射性セシウムがたまり続け、実質的に「濃縮貯蔵施設」となっている。有効な手立ては見当たらず、国は「水は安全」と静観の構えだ。だが、福島県の被災地住民には問題の先送りとしか映らない。原発事故がもたらした先の見えない課題がまた一つ明らかになった。
国「放置が最善」/地元「決壊したらどうする」
図、ピクチャー:
「このままそっとしておく方がいいのです」。福島県の10のダム底に指定廃棄物の基準(1キロ当たり8000ベクレル超)を超えるセシウム濃度の土がたまっていることを把握しながら、環境省の担当者はこう言い切る。
同省のモニタリングでは、各ダムの水に含まれる放射性セシウムは1リットル当たり1〜2ベクレルと飲料水の基準(同10ベクレル)を大きく下回る。ダム周辺の空間線量も毎時最大約2マイクロシーベルトで、「近づかなければただちに人の健康に影響しない」。これが静観の構えを崩さない最大の理由だ。今のところ、セシウムは土に付着して沈み、底土からの放射線は水に遮蔽(しゃへい)されて周辺にほとんど影響を与えていないとみられる。
国が除染などを行うことを定めた放射性物質汚染対処特別措置法(2011年8月成立)に基づく基本方針で同省は「人の健康の保護の観点から」必要な地域を除染すると規定している。ダムに高濃度のセシウムがたまっていても健康被害の恐れが差し迫っていない限り、「法的に問題ない」というのが同省の見解だ。
「ダムが水不足で干上がった場合は周囲に人が近づかないようにすればいい。もし除染するとなったら作業期間中の代替の水源の確保はどうするのか。現状では除染する方が影響が大きい」と担当者は説明する。
こうした国の姿勢に地元からは反発の声が上がる。
「環境省はダムの水や周囲をモニタリングして監視するとしか言わない。『何かあれば対応します』と言うが、ダムが壊れたらどうするのかと聞いても答えはない。町民に対して環境省と同じ回答しかできないのがつらい」。政府が来年春に避難指示区域の一部を解除する浪江町のふるさと再生課の男性職員がため息をついた。
町内の農業用ダム「大柿ダム」では農水省の調査でセシウムの堆積(たいせき)総量が約8兆ベクレルと推定(13年12月時点)されている。農水省はダムの水が使用される前に、堆積総量や水の安全性を再調査する方針だ。福島県産の農水産物は放射性物質の規制基準を下回ることが確認されてから出荷される。それでも町の男性職員は「いくら水が安全だと言われても、ダム底にセシウムがたまったままで消費者が浪江産の農産物を手に取るだろうか」と風評被害への懸念を口にする。
国立環境研究所の調査に協力している日本原子力研究開発機構(JAEA)は、ダム底でセシウム濃度を測定する新型ロボットを開発中だ。高さ約1メートル、重さ140キロの箱形。遠隔操作でダム底に接地し、1地点1〜2分で濃度を測る。JAEA福島研究開発部門の眞田幸尚サブリーダーは「表層を広域に調べれば新たにたまるセシウムの総量を知ることができる」と話す。小型化や操作性の向上を図り、今年度中の完成を目指す。
【辺野古移設で平行線=稲田防衛相、沖縄知事と初会談】
(時事、9・24・18:45)
稲田朋美防衛相は24日、就任後初めて沖縄県の翁長雄志知事と県庁で約40分会談した。
翁長氏は米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐる訴訟で県が上告したことを伝え、移設計画を断念するよう文書で求めた。しかし、稲田氏は譲らず、話し合いは平行線に終わった。
  席上、翁長氏は「過重な基地負担の軽減に真摯(しんし)に取り組んでほしい」とも要請。稲田氏は「安倍政権としては辺野古移設を方針としている」と伝える一方、県が上告したことに対しては「裁判を進めながらも意見交換を行うことが重要だ」と、県との協議を継続する意向を示した。
【<赤ちゃんポスト>関西で設置目指す…NPO法人が設立総会】
(毎日、9・24・20:37)
親が育てられない子どもを匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」の関西での設置を目指し、24日、NPO法人「こうのとりのゆりかごIN関西」(理事長=人見滋樹・京都大名誉教授)の設立総会が開かれた。大阪、京都、兵庫3府県の各1病院で2年以内の設置を目標に検討を始める。ゆりかごは2007年に熊本市の慈恵病院が日本で初設置し、関西が2例目となる。
総会は大阪市内で開かれ、医療・教育関係者、地方議員ら計約20人が出席。顧問には慈恵病院の蓮田太二理事長らが就任した。自治体や助産院と連携して準備を進め、妊娠や出産に関する相談体制も整備する。
慈恵病院では、15年度末までに計125人を受け入れた。熊本県外からが大半を占め、近畿からも計10人が預けられ、昨年度は海外からも確認された。多くの命を救う一方、匿名の受け入れを認めていることから「子どもから出自を知る権利を奪う」「安易な預け入れを助長させる」などの指摘もある。
総会後の記者会見で人見理事長は、預ける前の相談の重要性を強調し「安心して相談に来てもらい、支援していきたい」と述べた。蓮田顧問は「関西に開設されれば、全国に取り組みが広がると期待している」と話した。
今後、大阪府にNPO法人の認可を申請し、来年2月に認められる見通し。
【沖縄県が上告=「承認取り消しは正当」-辺野古移設訴訟】
(時事、9・23・19:09)
米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設をめぐり、埋め立て承認を取り消した翁長雄志知事が是正指示に従わないとして、国が起こした違法確認訴訟で、沖縄県は23日、国の主張を全面的に認めた福岡高裁那覇支部の判決を不服として、最高裁に上告した。早ければ年度内にも最高裁判決が出る見込み。
 翁長知事は23日、「高裁判決は憲法や地方自治法、公有水面埋立法の解釈を誤った不当な判決で、到底受け入れられない。埋め立て承認の取り消しが法的に正当であるとの判断を最高裁に求める」とのコメントを出した。
【日銀の「新緩和政策」と「総括的な検証」を読み解く】
(nikkeiBpnet、16・9・26・09:43)
池田健三郎
日銀の「新緩和政策」と「総括的な検証」の中身
今月(2016年9月20-21日)の日銀金融政策決定会合の決定をごく簡単にレビューしておくと、先ず過去の政策に対する「総括的な検証」については、(1)「量的・質的金融緩和」導入後3年間の経済・物価動向と政策効果については、実質金利を低下させ金融環境の改善をもたらすことにより、経済・物価を好転した(物価の持続的下落という意味でのデフレは解消)ものの、(2)目標とする2%の物価上昇率は実現できていないとした。
また、マイナス金利政策については、国債買入れとの組み合わせにより、短期のみならず長期金利も大きく押し下げ、その有効性が明らかになったと結論付けた。
この「総括的な検証」は、あくまで日銀の「自己評価」であるため、当然ながら自身の取り組みを全肯定あるいは全否定する筈もなく、どのみち「これまでの政策は一定程度の効果をあげたが、物価上昇目標は未達であった」という結論が導き出されることは予め想定されたことである。
次に、今回の決定事項のポイントは、(1)新たに「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」(実際には「長短金利操作およびマイナス金利付き量的・質的金融緩和」)を導入し、<a>イールドカーブ・コントロール(長期金利操作=10年物国債金利がゼロ%程度を維持するよう国債を買入れ)を行うとともに、<b>オーバーシュート型コミットメント(CPI上昇率が安定的に2%を超えるまでマネタリーベース拡大を継続)を実施する、(2)マイナス金利の深掘りは行わない(現状維持)、(3)ETFとREITの買入額は維持、といったところである。
なぜ長期金利操作を枠組み変更メニューに加えたか
この発表を受け、筆者の頭に様々な疑問が浮かび上がったが、主なものは、「なぜ長短金利の操作を行うイールドカーブ・コントロールを枠組み変更のメニューに加えたのか」と「インフレ目標達成期限はなくなったのか」という2点である。
その第一は、今回、新規導入されることとなった「イールドカーブ・コントロール」に関してである。
先ず、従来は日銀自身、「市場で決まる長期金利を完全にはコントロールできない」としてきたにもかかわらず、何故、今回の金融政策の枠組み変更のメニューに加えたのかということである。率直に言って、これは(少なくとも形式的には)従来の日銀的な常識を覆す変化といえよう。
事実、日銀のウェブサイト上にある「日本銀行の金融調節を知るためのQ&A」をみると、次のような記載がなされている。
Q6. 長期金利は誘導しないのですか?
長期金利の形成は、資金の需要量と供給量のバランスだけでなく、将来のインフレ率に対する市場参加者の予想や将来の不確実性等によって大きく左右されるため、オーバーナイト物金利のように資金量を調節して誘導することは容易ではないのです。むしろ、長期金利の形成は市場メカニズムに任せて、そこから市場参加者の予想等に関する情報を読み取れるようにすることが、とても重要なのです。
このように、長期金利のコントロールが容易ならざるものであることは、日銀自身が力説してきたところである。それゆえ、今後は金利形成を市場メカニズムに完全には委ねず、中央銀行の政策ターゲットとすることの妥当性・有効性について詳細な説明がほしいところである。
次に、その長期金利を概ね現状程度(ゼロ%程度)で推移するよう、国債の「買入れ」を行うという部分であるが、まず何故、現状程度(ゼロ%程度)の金利水準が望ましいのかという点がよく分からない。これについて日銀としては、「望ましいイールドカーブの水準は、毎回の決定会合で経済・物価情勢に基づいて決める」ので、足元の情勢にかかわらず一定水準に金利を固定させるペッグ制を採るのではなく、機動的・弾力的に判断するからよかろうということなのかも知れない。
量的緩和政策との整合性が問われる可能性も
また、「ゼロ%程度の水準を維持」しようとする場合、上下両サイドのリスクを勘案するのは当然のことである。
仮にイールドカーブに過度の上方圧力がかかった際には、長期国債の「買入れ」での対処となる(誘導目標と実勢値との乖離が甚だしい場合には買入れ規模が大きくなり、いわゆる「国債買入れ限界論」が台頭する可能性もある)が、逆にイールドカーブに過大な下方圧力が生じた場合は当然、「売却」となる。
発表文には「買入れ」としか記載がないが、「売却」となればこれはもはや金融緩和ではなく引き締めとなり、量的緩和政策との整合性が問われる可能性も出てこよう(上述の「総括的な検証」において日銀は「イールドカーブの過度な低下、フラット化は広い意味での金融機能の持続性に関する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある」点には留意すべしと述べている)。
日銀がこの二面性から目を背けているとは考え難い。とはいえこの局面においてストレートに「買入れもしくは売却」とはさすがに発表できなかったとみえ、そのあたりに日銀の苦悶が滲み出ているとの見方もできよう。
さらに言えば、政策目標達成のためには無制限でオペを実施するとしながらも、国債買入れ額は概ね現状程度のペース(残高ベースで年間+80兆円増加)を維持する、とした点もやや分かりにくい。長期金利のコントロールという未踏の世界へチャレンジするに際し、年間買入れ額に縛りを設けたのでは実効性を担保できない可能性を指摘されるのは当然であろう。
発表文では「(80兆円を)めどとしつつ」とあるので、あくまで「めど」であって、「絶対ではない」というロジック、あるいは「あくまで残高ベースで80兆円」なので途中段階でのフローの上振れ・下振れは当然ありうるということなのかもしれないが。
なぜインフレ目標達成期限はなくなったのか
疑問点2:なぜインフレ目標達成期限はなくなったのか?
疑問点の第二は、従前のインフレ目標達成という文脈から「時間的要素を排除したのか」という点である。
これまで日銀は「2年でインフレ率2%」といったような、ゴールの時期と合わせてインフレ目標を設定していたところであるが、今後は2%を「安定的に持続するために必要な時点まで」緩和を継続する、といった言い振りに変えている。
このことからすると、日銀は今回、これは「2%にするのだという、一段と強い意思を示した」と説明をしているものの、実際には政策目標から「いつまでに」という時間的要素を排除し、「できるだけ早期に」という表現に後退させたと読めなくもない。
ただ、今後の金融緩和は「オーバーシュート型」に変更されたのだから、オーバーシュート(行き過ぎ=物価上昇率が2%を超えるような事態)が起きても、それが一時的であれば緩和は続けられ、CPI上昇率が「安定的に」2%を超えるまでマネタリーベース拡大が継続される。そこで、「安定的に」と判断されるまでの期間(指標が不安定に推移するような期間)を予見することは困難という前提に立ち、敢えて時間的コミットを外したのだという理解も出来なくはあるまい。
もっとも、従前の物価目標が「ワンタッチでもよいからとにかく2%達成」といった「瞬間芸」を指向するような概念であったとも考え難いところではある。
以上から今回の政策決定を概括すると、上述の総括的検証を踏まえた新たな枠組みの導入とはいいつつも、全体としては従来の金融政策の方向性を踏襲したものであり、各論レベルでは長期金利を操作目標に標榜するといった一定の変化はありながらも「大きな方針転換」とまでは言えないのではないかと筆者は捉えている。
明白な追加緩和を伴わない政策手法の効果は限定的
無論、イールドカーブ・コントロールやオーバーシュート型コミットメントといった「新メニュー」を追加するなど、政策当局としての日銀の苦心の跡は窺えるものの、そもそも従前より金融政策は「アート」とも言われ、あらゆる要素を勘案し、中央銀行としてなしうる調節手段を駆使して物価安定という目標達成をめざす総合芸術のような活動であり、その本質は変わらない。
今回のイールドカーブ・コントロールやオーバーシュート型コミットメントにしても、従前の政策手段のなかに存在しなかったものを新たに考案したのではなく、従来から持っていた「アート」の個別手法に新たな名称を付け、1つの政策手法として再提示したと捉えたほうがよいかもしれないのである。
こうしたことから、今回のような、明白な追加緩和を伴わず、個別の政策手法に名称を貼りつけて目新しさを演出する、いわば「ラベリング」の効果は自ずと限定的なものにならざるを得ない気がしており、マーケットの反応も、マイナス金利の深掘り回避による銀行・生保株の上昇など一部に動きはみられたものの、為替相場では当初の円安効果がすぐに剥落するなど、これまでのところさほど大きなものではないようだ。
いずれにせよ、今回の「総括的な検証」で日銀が提示したように、デフレ脱却のためには「フォワード・ルッキングな期待形成」を図ることこそが重要であり、これは金融政策のみでは実現しえないので政府の果断な政策対応が不可欠である。この点、日銀は「政府の財政運営、成長力強化の取組みとの相乗的な効果により、日本経済をデフレからの脱却と持続的な成長に導くものと考えている」とやんわり述べるにとどまっているが、金融緩和政策の限界論に対峙するうえでも、今回の検証を機にもう少し具体的に踏み込んで政府に注文を付けるくらいでもよかったのではと感じている。
【サービス付き高齢者住宅>情報公開を介護施設並みに】
【毎日、9・26・09:10】
国土交通省は、安否確認などのサービスのある「サービス付き高齢者向け住宅」(サ高住)に関し、今年度中にスタッフの体制や生活支援の詳細をインターネットで公表する仕組みを始める。サ高住は賃貸住宅の位置づけだが、介護の必要な入居者が多い状況を踏まえ、介護施設並みの情報公開を事業者に求める。第三者による評価も公表する。急増するサ高住は質のばらつきが課題とされており、入居希望者に比較材料を提供する狙いがある。
サ高住は高齢者が安心して暮らせることを目指し2011年10月にスタート。居室はバリアフリー構造で原則25平方メートル以上の広さがあり、安否確認と生活相談のサービスを受けられる。都道府県などへの登録制で、新築や改修などの費用には国の補助がある。7月末現在の登録数は20万3783戸にまで増えている。
登録情報は専用ホームページ上で都道府県ごとに公開されている。しかし、「賃貸物件」としての情報にとどまり、スタッフの体制やサービス内容など詳しい運営実態はほとんど公表されていない。入居希望者からは「情報提供が不十分」との不満も出ていた。
このため、国交省が公開情報の統一基準を設け、都道府県別の物件サイトに運営状況の欄を新設。ここをクリックすると、重度認知症の人の受け入れの可否や入居者の年齢別人数など計約60項目が分かるようにする。
公表内容を事業者側の申請により高齢者住宅推進機構が有料でチェックする仕組みも設ける。情報公開も第三者評価も任意だが、事業者が積極的に応じているかどうかも物件選びの判断材料となることが期待される。
【〈患者中毒死>「悪意ある者の行為防げない」医療現場に波紋】
(毎日、16・9・26・20:45)
横浜市神奈川区の大口病院で点滴に異物が混入され入院患者が殺害された事件は、患者の命を預かる医療の現場に波紋を広げている。病院では、ミスによる医療事故への対策に万全を期すことが求められる一方、悪意のある者の故意に基づく行為を防ぐことには限界があるとの指摘もある。
NPO法人「医療ガバナンス研究所」の上昌広理事長は「犯罪を防ぐためにどれだけのコストをかけることができるか。すべての規模の病院を同列で議論するのは難しい」と指摘する。多くの医療機関は経営が厳しい中、ぎりぎりの人員で当直態勢をやりくりしているという。
大口病院の事件では、ナースステーションに運び込まれた点滴袋の保管場所は施錠されておらず、だれでも触れられる状態だった。上理事長は「点滴はいつでも使える状況にしておく必要がある。看護師は夜中のナースコールで病院中を駆け回っている。鍵をかけさえすれば犯罪を防止できるわけではない」と話す。
東京都八王子市内の病院の看護部長も、今回の事件について「医の倫理からすればありえないが、故意があれば防ぎようがない」と話す。
ナースステーションは鍵がかからない構造の病院が多いといい、治療上必要な麻薬などの危険物は個別にカギをかけて管理しているという。界面活性剤を含む消毒液などは医療機器の洗浄のため院内に常備されており、市販もされている。消毒液を鍵がかかるところで管理することは可能だが「外から持ち込むこともできるので現実的でない」という。
大阪府豊中市内の病院に勤務する看護師(43)は「事件を聞き、病院のセキュリティーの甘さが恐ろしいと感じた」という。「ナースステーションには、消毒剤よりもっと危険な薬物がいくらでもある。施錠できるナースステーションは今ではほとんどなく、だれでも入れてしまう。こうした事件はどこの病院で起きてもおかしくない。完全に防ぐのは難しいだろう」と危惧する。
多くの病院は、患者との面会を理由に不特定多数の人々が入ることができる。加藤良夫・南山大法科大学院教授(医事法)は「無防備な部分がどうしてもできてしまう。犯罪を完全に止めることは難しいが、だからこそ、点滴の管理方法を見直すなど、できることから対策を立てていくしかない」と語る。
【夫なぜ殺された 2人目の中毒死判明】
(毎日、16・9・26・22:38)
大口病院の高橋洋一院長「病院の管理責任者として自責の念」
横浜市神奈川区の大口病院で入院患者が点滴に異物を混入されて殺害された事件は26日、新たに入院患者1人の中毒死が確認され、被害者が2人となった。患者の安全が守られるはずの病院内で起きた事件は、連続殺人ともみられる事態に発展。誰が、何の目的で−−。関係者や医療の現場に衝撃が走った。
【TPP 与野党応酬 首相今国会で決める 野田氏 強引採決けん制 衆院本会議 代表質問】
(日本農業新聞、9・28・07:00)
衆院本会議で27日、安倍晋三首相の所信表明演説に対する各党の代表質問が行われた。環太平洋連携協定(TPP)について、首相は「日本がこのタイミングで国内手続きを前進させることが不可欠だ。今国会でやらなければならない」と述べ、今国会でのTPP承認案と関連法案の成立に強い意欲を示した。一方、民進党の野田佳彦幹事長は、米など重要5品目が守られていないとして反対を表明。拙速な審議や採決を強行しないようけん制した。臨時国会は序盤から、TPPを巡る与野党激突の構図が鮮明になった。
TPPを巡っては、民主党政権時代に、菅直人首相(当時)が参加検討を表明し、野田首相(同)が交渉参加に向けた事前協議を進めていた。
野田氏は代表質問で、重要5品目が守られていないことや自動車分野のメリットが小さいことを挙げ「われわれが参加をちゅうちょしていたものをのみ込んだとしか思えない」と批判。「現在の協定案には反対せざるを得ない」と明言した。
また、米大統領候補が共にTPPに反対していることを踏まえ「(日本だけが)早期発効を進める理由がない」と主張。政府・与党に「強引な採決は決してしないことを提案する」とくぎを刺した。
首相は、国会審議で政府として丁寧な説明に努めるとする一方、「熟議の後に決めるべきときは決めなければならない」と述べた。
一方、民進党の大串博志政調会長は、売買同時入札(SBS)米を巡って業者間で不透明な取引があった問題を取り上げ、徹底的な調査・検証を要求。TPPではSBS方式で、米国とオーストラリアに計7万8400トンの輸入枠を新設することを踏まえ「安い(輸入)米が入ってこないことが明確に証明された後にならなければ、補正予算、TPPの審議に進むことができない」と訴えた。
首相は「国産米を備蓄米として買い入れることにより国内の需給および価格に与える影響を遮断する」との従来の政府見解を維持。SBS入札の問題には、農水省が行っている業者への聞き取り調査や価格動向の分析などを「可能な限り速やかに公表したい」と述べるにとどめた。
【SBS問題 火種に 臨時国会きょう召集 野党の追及必至 TPP審議】
(日本農業新聞、16・9・25)
第192臨時国会が26日、召集される。環太平洋連携協定(TPP)の承認を今国会の最優先事項に位置付ける政府・与党は、11月8日の米大統領選や同月30日の会期末をにらみ、10月中の衆院通過を目指す。ただ、農産物の合意内容に加え、売買同時入札(SBS)米の不透明な取引があった問題を巡り、野党の厳しい追及は必至だ。
臨時国会ではまず、農林水産関係5739億円を含む2016年度第2次補正予算案を審議する。政府・与党は10月中旬までに成立させ、直後から衆院特別委員会でTPP承認案と関連法案の審議に入りたい考えだ。
米大統領選候補がいずれもTPPへの反対姿勢を強める中、政府・与党は11月8日の大統領選までの衆院通過を至上命題とする。日本がTPPを承認する見通しを付けることで、米国側の再交渉要求を封じるとともに、米国側の早期承認を促すというのが政府の狙いだ。
さらに政府・与党は、今国会での承認を確実にしようと、会期中の「自然承認」が可能となる10月28日までの衆院通過を目指す。TPP承認案は条約に当たる。憲法の規定で、条約は衆院で可決した後、参院で30日以内に議決しなかった場合、衆院での議決を優先して自動的に承認されるからだ。ただ、関連法案は自動的には成立しない。
自民党は衆院TPP特別委員長を、通常国会で自身の著作を巡り、野党の厳しい追及を受けた西川公也氏から塩谷立氏に交代。また筆頭理事を森山裕前農相に代えた。一方、民進党は同委員会の野党筆頭理事に党内きっての反TPP論者の篠原孝元農水副大臣を起用。農産物を巡る合意内容は国会決議違反として反対姿勢を強める。
またSBS米の価格偽装問題を受け、野党はTPPの主食用米への影響を否定してきた政府を追及する方針だ。農水省の調査結果次第では審議の停滞は避けられず、与党による強行採決や会期延長の可能性もある。
【「死刑」と「無期懲役」のはざまで…裁判員たちの葛藤 母親の訴えに涙も 福岡小5殺害判決】
(西日本、16・10・4・10:59)
6人の裁判員たちは「死刑」と「無期懲役」のはざまで、大きく揺れ動いたのではないか-。3日、福岡地裁小倉支部であった福岡県豊前市の小5女児殺害事件の判決。殺人などの罪に問われた内間利幸被告(47)の審理をすべて傍聴したが、無期懲役を言い渡した判決内容からは、裁判員たちの苦渋がにじんだ。
「遺族が『死刑しかない』と訴えるのも当然」「更生は困難と言わざるを得ない」。判決文を読み上げる裁判長は、厳しい言葉を続けた。薄い青色シャツと黒いズボン姿で法廷に現れた内間被告は約25分間、伏し目がちに聞き入り、感情は読み取れなかった。
審理が開かれた5日間、傍聴席で被告の様子を見続けた。死体遺棄以外の全ての起訴内容を否認した被告は、終始消え入るようなか細い声で発言。問われている凶悪な罪と、目の前の様子にはギャップがあった。
一方で、彫りの深い顔に浅黒い肌。シャツの上から見ても分かる筋肉質な体は、法廷で「身長170センチ、85キロ」と語られた。「こんな人に押さえられたら逃げられないだろう」と感じた。大人の私でもそうなのだから、138センチの女児ならなおさらだ。
法廷で、検察からは犯行の詳細な様子が次々と明らかにされた。新聞記者の私でも耳をふさぎたくなる。普通の生活を送る裁判員の心痛を思った。
傍聴席からすすり泣く声、耳を赤くする裁判員
被告は「静かにしてほしくて口を押さえた」と主張し、一貫して殺意を否認した。「自分のためにも(女児に)死んでほしくなかった」と繰り返した。
「女児と親しく、女児が(事件現場の知人宅に)『行きたい』と言ったので連れて行った」とも言い、親しい証拠として女児にもらったというキーホルダーを提出した。
そうした言葉は遺族の神経を逆なでし、裁判員が被告に注ぐ視線はさらに厳しくなり、法廷内の空気が変わっていくのを感じた。
検察側証人として出廷した女児の母親が、声を詰まらせ「かわいくて、本当に仲が良くて。一緒に服を買ったり音楽を聴いたりしていた」と話すと、傍聴席からすすり泣く声が漏れ、目を赤くする裁判員もいた。
同じ日、父親も被害者参加制度を使って証言台に立ち、被告に「亡くなった後までも娘の尊厳を傷つけている。汚し続けている」と静かな怒りをぶつけた。検察は死刑を求刑した。
「個人的な感情と、公正な裁判という事で最後まで葛藤した」
判決は、被告の態度を「反省の言葉を口にした一方で、不合理な弁解をした。心から反省しているとは考えられない」と断じた。一方で、過去の判例を踏まえて死刑を回避し、無期懲役とした。
命をもって償いを求める死刑と、生きて償いを迫る無期懲役-。その差を分けたものは何だったのか。
判決後、ある女性裁判員は「市民の声や思いが反映されなければ裁判員制度は必要なのか」と語り、判決を決める評議で死刑を主張したことをうかがわせた。その上で、この女性は「事件の内容を知れば知るほど痛ましく、個人的な感情と、公平な裁判ということで最後まで葛藤した」と語った。記者としての私の葛藤も、この言葉と同じ所にある。
両親「納得できない」
被害女児の両親は3日、「判決に対する遺族の思い」と題したコメントを発表。裁判官や裁判員に対し「被告人の弁解は不合理で全く信用ならず、心から反省していないと言い切ってくれた」と感謝した。
しかし、「死刑判決でなかったことは納得できない。娘の死後の状況だけでなく、生前に受けた苦しみ、痛み、恐怖を考えれば死刑しかない」と無期懲役の判決は受け入れがたいという考えを示した。
判決が「二度とこのような事件を起こさないために何ができるか、真剣に考える必要がある」とした点をとらえ、「このような事件にこそ死刑判決を下し、厳しい姿勢でのぞむことが、同じような事件を起こさないための大きな歯止めになる」と強調。「娘のためにも、二度と被害者を出さないためにも、遺族としては強く死刑判決を求めたい。検察官には控訴をお願いし、私たちもできる限りのことをしていきたい」と結んだ。
【<福島原発>8兆円負担増 電事連、国費求める】
(毎日、16・10・4・14:00)
電力業界団体の電気事業連合会(電事連)が、東京電力福島第1原発事故の損害賠償・除染費用について、東電を含む大手電力各社の負担額が当初計画を約8兆円上回るとの試算をまとめ、超過分を国費で負担するよう政府に非公式に要望していることが4日明らかになった。政府はこれまで「賠償・除染費用は原則的に原発事業者の負担」との立場を取ってきており、慎重に検討するとみられる。
福島第1原発事故の賠償・除染費用は、(1)国がいつでも現金に換えられる「交付国債」を原子力損害賠償・廃炉等支援機構(国の認可法人)に渡す(2)東電は機構から必要な資金の交付を受け、賠償・除染に充てる(3)機構は後に東電を含む大手電力から負担金を受け取り、国に返済する--という仕組み。賠償分は東電と他の大手電力が分担▽除染費用は機構が持つ東電株の売却益を充当▽中間貯蔵施設の費用は電源開発促進税で賄うことになっている。
政府は2013年、賠償費用5.4兆円▽除染費用2.5兆円▽中間貯蔵施設の建設費などを1.1兆円と見込み、機構への資金交付の上限を9兆円とした。
だが、関係者によると、電事連は、賠償費用が見通しより2.6兆円増の8兆円、除染費用が4.5兆円増の7兆円になると試算。また、東電株売却益も株価下落で1兆円減少し、合計で8.1兆円の資金が不足すると見積もっている。大手電力各社は「除染費用は東電株の売却益で賄えず、最終的に電力各社が負担を迫られる」とみている。
一方、原発再稼働の停滞や、電力小売り自由化による競争激化などから大手電力の経営環境が悪化したとして、賠償・除染費用の超過分の政府負担を求めた。
福島第1原発の廃炉費用を巡っては、東電が2兆円を工面しているが、数兆円規模の財源不足も予想される。東電ホールディングスは7月、廃炉費用などの負担支援を政府に求めている。今回の電事連の要望に廃炉費用は含まれていない。
政府は福島第1原発の賠償や廃炉費用の負担について、5日から始める「東京電力改革・1F問題委員会」などで議論することにしており、電事連の要望も今後協議される可能性がある。
解説 事故つけ回し「無責任」
電気事業連合会が東電福島第1原発事故の賠償・除染費用の超過分を国に負担するよう要望した。だが、大手電力各社はこれまで「原発のコストは安い」と説明してきた。事故のつけを国に求める姿勢は、「無責任」との批判が免れない。
電力各社には「原発は『国策民営』で推進されてきたのに、事故が起きたときは事業者が責任を取らされる」との不満がある。東電以外の大手には「東電の事故の責任を負わされるのは理不尽」との思いもある。
だが、大手電力は原発稼働で巨額の利益を上げてきた。原発の「安全神話」に寄りかかり、事故対策を怠ってきた面は否定できない。福島第1原発事故に伴う賠償・除染費用が膨大な額に達する見通しになったからといって、国に負担を押しつけるのは筋が通らない。国が負担を引き受ければ、最終的に税金が投入され、国民負担につながる。
福島第1原発事故の処理費用は、国が原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じていったん立て替えるが、最終的に電力各社が負担する仕組みだ。この制度の趣旨にも大きく反する。
【国債買い入れ、財政ファイナンスと誤解される恐れない=日銀総裁】
(ロイター、16・3・31・13:43)
黒田東彦日銀総裁は31日午後の参院財政金融委員会で、大規模な国債買い入れの狙いは2%の物価安定目標を早期に達成するためであり、「財政ファイナンスと誤解されるおそれはない」との認識を示した。小池晃委員(共産)への答弁。
そのうえで総裁は、市場に十分に理解してもらえるよう、常に説明を心がけたい、と語った。
【日銀の国債保有が400兆円突破、3年半で3倍に】
(ロイター、16・3・31・20:59)
 日銀によると、長期国債と国庫短期証券を合わせた日銀の国債保有残高が7日に400兆3092億円となり、初めて400兆円を突破した。国債発行残高のほぼ4割に達する。
日銀は2013年4月に2%の物価安定目標の実現を目指し、大規模な長期国債の買い入れを柱とする量的・質的金融緩和(QQE)を導入。当時の国債保有残高は130兆円程度だったが、3年半にわたる積極的な金融緩和で約3倍に膨らんだことになる。
日銀による長期国債買い入れは、QQE導入当初は保有残高を年間50兆円増加させるペースとしていたが、14年10月の追加緩和で80兆円ペースに拡大。今年9月の金融政策決定会合では、金融政策の軸足をそれまでの「量」から「金利」に転換する枠組みに変更したが、長期国債の買い入れは年間80兆円増加させるペースを「めど」とすることを決めている。
【焦点:日銀動かした超長期金利の大幅低下、政府と懸念共有】
(ロイター、16・9・28・10:16)
[東京 28日 ロイター] - 「量」の緩和効果を3年半にわたって強調してきた日銀。それが「金利」を重視する枠組みに変更され、市場に起きた困惑は、さざ波を超えて大きなうねりになる可能性がある。何が、日銀を動かしたのか。舞台裏を探ると、超長期の国債利回りが大幅に低下した「副作用」の深刻さと、その懸念を政府と共有した構図が浮かび上がる。
イールドカーブ・コントロール(YCC)が公表される1カ月半ほど前の8月2日、日銀の黒田東彦総裁は、麻生太郎・副総理兼財務相・金融担当相と会談した。
政府筋の1人は、マイナス金利導入後に大幅に低下した超長期国債利回りの問題が、テーマの1つに浮上したと打ち明ける。
席上、麻生財務相は40年国債の増発方針を黒田総裁に表明した。その背景にどのような狙いがあったのか──。
別の政府筋によれば、マイナス金利の導入後、ヘッジファンドが銀行株を中心に日本株売りのポジションを拡大し、さらに株価が下がるリスクを懸念する声が政府内で浮上した。イールドカーブをスティープ化すれば、銀行、生保、年金などの収益機会を増やし、株安リスクを縮減できるとの観点で、40年国債の増発に踏み切ることにしたという。
こうした見方は日銀に伝わった。日銀自身も銀行や生保の幹部から、長期ゾーンや超長期ゾーンの金利が下がり過ぎ、この政策が長期化した場合、経営の根幹に大きな影響を与えかねないという厳しい「現状認識」を聞いていた。
8月中下旬になると、日銀内でも「量的緩和とマイナス金利の組み合わせは、予想以上の効果が出ている。長期ゾーンや超長期ゾーンの金利は、当初の想定よりも下がっている」「追加緩和をしないで、長期ゾーンや超長期ゾーンの金利が下がるのは、どうしてなのか」「イールドカーブはフラット化し過ぎだ」という懸念が出てくるようになった。
YCC浮上までの曲折>
こうしてYCCが徐々に現実味を帯び、多くの日銀関係者の前に姿を現し出す。複数の関係筋によると、YCCが少人数の関係者の下で本格的に検討され始めたのは、今年3月ごろだったという。
もともと米財務省と米連邦準備理事会(FRB)との間で1951年3月に締結されたアコードについて、日銀は研究を進めてきた。
日本軍の真珠湾攻撃後、太平洋戦争の終結、朝鮮戦争と財政拡張の圧力が強まる中で、FRBは長期金利2.5%を事実上の天井とする政策に協力。この政策はアコード締結まで続き、長期金利ターゲットの嚆矢(先駆け)とされる。
極めて少数の日銀関係者の間では、長期金利ターゲットという手法が、量的・質的金融緩和(QQE)を続ける中で、採用可能なのかイメージトレーニング的な「思考実験」が、1年以上前には進んでいた。
昨年6月、日銀の中堅3人が「均衡イールドカーブ」という概念について論文を作成した。景気を過熱も減速もさせない金利水準を年限ごとに並べ、それを「均衡イールドカーブ」と命名。現在の実質金利を並べたイールドカーブを比較し、政策効果を推し量ることを可能とする内容だ。
年限10年超の超長期金利は、利下げによる景気刺激効果が中短期より小さい、と今回の「総括検証」とほぼ同様の結論となっている。日銀幹部の1人はその当時、将来の政策を考える上でも貴重な成果であるとの考え方を示していた。
YCCの概念は、この論文が土台となる。そして今年7月、日銀がイールドカーブ低下による経済への影響について本格的な分析に着手すると、「量」から「金利」への基準変更の方向性が、より多くの日銀関係者に認識されるようになる。
総括検証の分析作業とともに、YCCの具体的な手法の検討も急ピッチで進められた。問題はマイナス金利を採用している短期金利と線を結ぶ一方を、どの年限でピン止めするか。
年限を長くすればするほど国債需給以外に人々の物価観や成長率見通し、リスクプレミアムなどの要素が増え、制御が効かなくなる。
他の中銀と同様に、日銀内でも「中央銀行が長期金利をコントロールするのは不可能」(別の幹部)との考えは根強く、当初は5年など中期金利をマイナス水準に誘導することも検討対象に挙がったようだ。
それでもマイナス金利導入以降、イールドカーブを大きくフラット化させた成功体験に加え、長期金利という代表的な金利指標をゼロ%に設定する「わかりやすさ」が10年という選択につながったとみられる
ある日銀関係者は、世界的に超低金利環境にある中で、現在の為替市場が注目する内外金利差は「過去に言われていた2年などでなく10年」とし、「10年金利を明確なプラスにしないことで、円高を回避する狙いもあるのではないか」と解説してみせた。
<金利と量の併存>
平行して日銀執行部は、3年半の黒田緩和の効果と影響を「総括的な検証」として9月の金融政策決定会合で議論できるよう、政策委員の根回しに動く。
「量」の効果について、強い確信を持つ複数のボードメンバーの動向が、YCC実現への大きなポイントだった。
複数の関係筋によると、行き過ぎたイールドカーブのフラット化が「検証」の大きなポイントとなり、その修正が様々な観点から必要である、ということに関して、理解が得られたという。
その結果、21日に公表された「総括的な検証」では、イールドカーブのフラット化の効果と金融面への影響について「経済への影響は、短中期ゾーンの効果が相対的に大きい」「広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性がある」ことが明記された。
消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続する新たなコミットメントを導入するとともに、国債買い入れにあたっては保有残高を年間80兆円増加させる現行ペースをめどとすることも明記した「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の導入が賛成多数で決まった。

<市場との対話、模索する日銀>
ここまでの過程をみると、もう1つ大きく変わったことがある。それは超大国による「衝撃と畏怖」戦略ばりの「サプライズ路線」を大幅に転換し、事前に大きなヒントを市場に与えて、日銀の意図が正式発表時により浸透しているということを狙った「新戦略」だ。
総括検証の総裁指示を公表した7月会合以降の市場の混乱も見越し、見解を収れんさせる意図も込めて9月に黒田総裁と中曽宏副総裁の講演を相次いでセット。
総裁と副総裁の講演で、イールドカーブの過度なフラット化が保険・年金などを含めた「広い意味での金融機能」に悪影響を与える可能性に言及。金融仲介機能への影響を認め、そうしたコストに対応する必要性を示唆した。
それでも金融界に疑心暗鬼が残る。日銀会合直前の9月中旬に都内で開かれた地銀と金融庁の幹部会合。
ある地銀のトップが「マイナス金利政策により、貸出金利ざやの縮小、国内債の利回り低下など収益環境は厳しさを増しており、長期化すると金融仲介機能に影響を及ぼしかねない」と警戒感をあらわにした。
そして、日銀と市場の「神経戦」は、21日の新スキーム発表後も展開された。ゼロ%がターゲットの10年国債利回りJP10YTN=JBTCは28日、マイナス0.085%まで低下。日銀がどこまで「幅」を許容するのか、市場による手探りの確認作業が続く。
複数の日銀関係者は、20年から40年の超長期ゾーンについても、21日の新スキーム発表直前のイールドカーブが当面の理想的なかたちで、それ以上のスティープ化は望んでいないと述べる。
しかし、それも銀行サイドからすれば「入札で購入して、オペで超長期の買い入れを絞られると、大きな損失が出てしまうので、当面は警戒しながらの展開になる」(国内銀関係者)ということになる。
次の緩和はいつなのかも含め、仕切り直した日銀と市場の「対話」は始まったばかりだ。
。【待機児童対策、盲点 運営株式会社「人件費7割なら赤字」 保育士に届かぬ補助】
(16・10・16、毎日)
東京都内の民間の認可保育所と小規模保育所の財務状況の調査では、行政側の認識と企業の考え方のズレを浮き彫りにした。政府は待機児童解消に向け税金投入を続けているが、既に保育士不足のために保育所の増設も難しくなりつつある。実情を踏まえた待遇改善を進めなければ安心して子どもを預ける環境は整わない。
「補助金の多い都内で人件費割合を70%にすれば資金を保育所の新設に回せない。社会のニーズに応えて新設を求められても、赤字を垂れ流せと言われているようなものだ」。「アスク」の名称で認可保育所を全国展開する保育事業最大手「JPホールディングス」(本社・名古屋市)の荻田和宏社長は言い切る。
認可保育所と小規模保育所の運営に必要な経費は、国や自治体が助成している。主な財源は国と自治体の税金だ。さらに独自に補助金を支出している都道府県や市区町村もある。都内では数千万円もの独自補助金を受け取っている施設もある。
補助金は想定される使途ごとに積算され、人件費相当分は70%程度だ。かつてはこの割合通りに使うよう定めていたが、1987年から保育士の配置人数の基準を守るなど要件を満たせばある程度自由に使えるようになった。一方、2000年に株式会社なども認可保育所を運営できるよう規制緩和された。
労働経済ジャーナリストの小林美希さんは「株主や融資銀行などの要望を受け、規模を拡大して利益を出そうとするだろう」と指摘。「複数の保育所の事務作業を本社に集約して職員の人件費を抑えるにしても限界があるはずだ」と話し、人件費割合が低い施設では保育士の給与引き上げに資金が十分に回っていない可能性があるとしている。
一方、別の株式会社の経営者は「長期的な経営の安定のためにはある程度資産を蓄えておきたい」と本音を語り、「一番安心な投資先は国債。国債を買っている事業者は他にもある」と打ち明ける。
県境を越え広域に保育所を運営する株式会社の場合、独自補助金の少ない地域の保育所に資金を回しているケースもある。複数の経営者が「都内の補助金の一部を本社に吸い上げ、赤字経営の保育所などに回している」と証言する。
企業にとっては、地域による補助額の差は「不合理」に映る。首都圏を中心に展開する「グローバルキッズ」(本社・東京都千代田区)の中正雄一代表取締役は「保育士から『勤務地で給与がなぜこんなに違うのか』と不満が上がっている。本音で言えば東京と他県の保育士の給与をもっと近づけたい」と語る。保育の質を良くするため独自の補助を設けたのに資金が他府県に流れている現状に、東京都の担当者は「指をくわえて見ているしかない」とこぼす。
こうした中、東京都世田谷区が対応に乗り出した。株式会社などの急増に備え昨年度から、開設2年目以降で人件費割合が5割を切れば独自補助金の支給を制限することにした。同区の担当者は「保育所は人がすべて。保育士にお金が回らなければ子どもに直接影響する。最低限の質を確保するために仕組みを作った」と説明する。
社福法人も待遇格差
人件費割合が平均70%程度だった社会福祉法人だが、保育士の待遇改善が進まない背景として株式会社とは別の問題を抱えるケースもある。
ある区の担当者は「今のやり方で本当に保育士の待遇が改善されるのだろうか」と疑問を口にする。法人の役員を兼ねる施設長や事務長が多額の報酬を得ている例があり、補助金の人件費分が保育士に十分に届いていない可能性があるからだ。
関係者によると、都内のある法人は認可保育所を複数運営し、理事長親子がそれぞれ施設長を務め、年収はいずれも約1800万円。年収1000万円超の事務長も親族が務めているという。自治体担当者は「施設長が多額の報酬を得るのではなく、保育士の給与や子どもの遊具の購入費などに充ててほしい」と語る。この保育所の施設長は毎日新聞に対し「取材には応じられない」と述べた。
保育所の運営を巡り13、14年に東京都の検査を受けた法人もある。「施設長と事務長の給与が高すぎる」として適正水準に是正するよう文書で指摘を受けた。施設長と事務長は法人の役員で、関係者によるといずれも数千万円の年収を得ていたという。この法人も取材に応じなかった。
都の担当者は「保育士らの給与とあまりにも額が違えば是正を求める。指導に至らなくても施設長が千数百万円の年収を得ている事例はある」と話す。
ここまで極端ではないにしても、社会福祉法人によって保育士の待遇には大きな差がある。全国福祉保育労働組合(東京都)が、加盟労組のある都内の認可保育所26カ所に15年度の給与体系を聞いた。それによると、各施設の保育士の年収は5年目で280万〜384万円、10年目で315万〜450万円、30年目では369万〜722万円と2倍近い差があった。 
同労組の小山道雄・副中央執行委員長は「施設規模や経営状態の影響もあるだろうし、子どもに手厚く対応するために人員を基準より多く配置したため一人一人の給与が下がった保育所もあるかもしれない。だが、国や自治体、各法人には保育士に対し適正な給与と労働環境を保障するよう求めていきたい」と話す。
【原発賠償の追加費用、国民負担に 経産省案】
(朝日、16・11・12・08:22)
経済産業省は11日、東京電力が福島第一原発事故の被害者に払っている賠償費について、新たに発生した費用の一部をより多くの国民に負担してもらう制度案を有識者会議に示した。大手電力に払う送電線使用料に上乗せする手法で、廃炉費についても同様の議論が進んでいる。年内に固め、来年の通常国会での法案提出をめざしている。
経産省はこれまで、福島事故をめぐる費用を総額11兆円(廃炉費など2兆円、賠償費など9兆円)と見積もり、うち賠償費に限ると5・4兆円と見込んでいた。お金は国が出資する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が一時的に立て替え、東電を通じて被害者に支払われている。あとで東電と大手電力が、利用者から集めた電気代などから返す仕組みだ。
だが、経産省の内部資料によると福島事故の賠償費は約3兆円、廃炉費は約4兆円膨らみそうだ。このため、会議は新たな追加費用をだれにどう負担してもらうか議論をしてきた。
【福島第1の廃炉費用、年数千億円増も 経産相「年内めどに提示」】
(ロイター、16・10・2608:45)
経済産業省は25日、東京電力<9501.T>福島第1原発の廃炉費用について、燃料デブリ取り出し作業により増加する見込みで、年間数千億円程度の資金確保が必要になる可能性があるとの見方を示した。同日朝に開催された「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)の資料で明らかにした。
世耕弘成経産相は東電委員会後の記者会見で、福島第1原発の廃炉費用の試算について「想定される金額は年内をめどに提示したい」と述べた。経産省によると、2013年度から15年度までの3年間の平均金額は約800億円になっている。
同資料では、廃炉や賠償など福島原発事故に伴う費用の負担について4つの「シナリオ」のイメージを提示。1)国が肩代わりし東電は現状維持、2)公的資金を投入し東電は長期公的管理、3)国が東電を放置し東電は法的整理、4)国が必要な対応を行い、東電は改革を実行━━とした。
2回目の開催となった同委員会の冒頭で、世耕経産相は「東電委員会は東電救済ではなく、東電の改革を検討する場。電力やエネルギー産業の姿、福島を支える仕組み、事故に備えた制度のあり方を指し示す基礎となる。国民的テーマを扱う議論の場だ」と述べた。
 同委員会は非公開で運営しており、世耕氏の冒頭発言の後、報道陣は会場から退出を求められた。世耕氏は会見で会議を非公開にしていることについて「個社の経営や海外との話も出てくる。議事要旨の公開で対応したい」と述べた。
<議論は東電改革とセットで>
 会議終了後、東電委員会の伊藤邦雄委員長(一橋大学大学院商学研究科特任教授)らが記者会見した。
 4つのシナリオの中から選択して議論するのかとの質問に対して伊藤氏は、「シナリオ1、2、3は採らない。今後の議論はシナリオ4(東電の改革)の中で細部も含めて具体的な議論をしていく」と述べた。
 東電の数土文夫会長は今年7月末の記者会見で、「事業再編も含めた非連続な経営改革が必要」と表明。東電委員会での配布資料には「非連続な経営改革(事業再編)」として「送配電」や「原子力」での「連携の実行」が記載されている。
資源エネルギー庁電力・ガス事業部の畠山陽二郎政策課長は、「東電持ち株会社の中に原子力事業があるが、引き続き持ち株会社の中でやっていくのか、子会社にして他社との連携も含めて考えるのかなど、あらゆる可能性を排除しないという意図」と説明した。
【<ATM不正引き出し>全国106人逮捕…指定5暴力団員も】
(毎日、16・11・12・02:30)
17都府県のコンビニの現金自動受払機(ATM)で18億円超が一斉に不正引き出しされた事件で、11日までに全国の警察が少なくとも106人の容疑者を逮捕し、その中に五つの指定暴力団の傘下組織の組員が含まれていることが毎日新聞の取材で分かった。事件発生から15日で半年。警察当局はハッカー組織との間に介在する犯罪組織が暴力団組員らと連携していたとみて解明を進めている。
事前に予行練習か
 事件は今年5月15日午前5時ごろから約3時間の間に各地で発生。コンビニに設置されたセブン銀行などのATM約1700台から計約18億6000万円が引き出された。引き出しには南アフリカのスタンダード銀行が発行したクレジットカード情報を入力した偽造カードが使われた。防犯カメラの映像などから、現金引き出し役の出し子として事件に関与した者は約600人に上るとみられる。
  毎日新聞が各都道府県の警察本部などに取材したところ、出し子を中心に少なくとも106人が窃盗容疑などで逮捕されていたことが判明した。この中には、山口組(本部・神戸市)▽神戸山口組(兵庫県淡路市)▽稲川会(東京都港区)▽道仁会(福岡県久留米市)▽合田一家(山口県下関市)の五つの指定暴力団の傘下の組
事前に予行練習か
 事件は今年5月15日午前5時ごろから約3時間の間に各地で発生。コンビニに設置されたセブン銀行などのATM約1700台から計約18億6000万円が引き出された。引き出しには南アフリカのスタンダード銀行が発行したクレジットカード情報を入力した偽造カードが使われた。防犯カメラの映像などから、現金引き出し役の出し子として事件に関与した者は約600人に上るとみられる。
  毎日新聞が各都道府県の警察本部などに取材したところ、出し子を中心に少なくとも106人が窃盗容疑などで逮捕されていたことが判明した。この中には、山口組(本部・神戸市)▽神戸山口組(兵庫県淡路市)▽稲川会(東京都港区)▽道仁会(福岡県久留米市)▽合田一家(山口県下関市)の五つの指定暴力団の傘下の組幹部や組員が10人以上含まれていた。新潟県では山口組系の組幹部だった男(36)がまとめ役になったグループに、山口組と対立関係にある神戸山口組の傘下組幹部(39)が加わったケースがあった。
  詐欺に関与したことのある者も、今回の事件で検挙されている。新潟県警は、振り込め詐欺事件で逮捕した男の関係先から、不正引き出しの手順を示す紙を押収した。埼玉、山口両県警は架空請求詐欺事件で逮捕された男について、今回の事件に関わったとして窃盗容疑などで逮捕した。
  一斉引き出しに向けた準備とみられる動きは4月に始まっていた。東京都内では何者かがコンビニのATMで偽造カードを使い、引き出しや残高照会の操作を計5回行った。捜査関係者は「本番に向けて手順を確認していたのではないか」とみている。新潟県内でも4月中旬に出し子を集める動きがあったことが確認されている。
事件では、スタンダード銀行のシステムにサイバー攻撃を仕掛け、カードの暗証番号の承認機能を無効にしたハッカー組織が存在しているとみられる。また警察当局は、ハッカー組織と引き出しを実行したグループとの間に、国内の犯罪組織が介在している可能性があるとみており、実態の解明を進めている。捜査幹部は「ハッカーとつながる犯罪組織が、各地の暴力団組員や特殊詐欺グループと連動したのではないか」と分析している。
  ◇ハッカー組織化脅威…専門家指摘
  「同様の事件がまた起こり、被害は深刻化するおそれがある」。サイバー攻撃に関する技術を善良な目的に生かす「ホワイトハッカー」らで作るセキュリティー企業「スプラウト」(東京都渋谷区)の高野聖玄社長はそう指摘する。高度な攻撃技術を持つハッカーが組織化し、政府機関や企業に攻撃を仕掛けるケースが近年、世界的に目立っているという。
わずか3時間で約18億6000万円が不正に引き出された今回の事件も、ハッカー組織と日本の犯罪組織が連携して実行したとみられる。高野社長は「双方にとってこんなにおいしい仕事はない。同じことをやりたいと思うのが当然」と話す。
  こうした犯罪ビジネスも、鍵となるのは組織同士の信用だという。提供されたカード情報は本物なのか。引き出しに成功し、それが裏付けられたことが信用につながり、ハッカー組織と犯罪組織の結びつきはより強くなったと予想される。
  事件後、セブン銀行は不正に使われたタイプの磁気ストライプ型カードによる1回の引き出し限度額を10万円から3万円に引き下げた。ATMの不正利用を即座に検知するシステムも導入するなどセキュリティー対策を強化している。
  しかし高野社長は「対策に終わりはない」と警鐘を鳴らす。ハッカーが限度額の設定や不正検知機能を無効化する可能性も捨てきれない。「攻撃を受けた企業などが速やかに情報を共有し、被害が拡大しないよう社会全体で対策を講じる仕組み作りが重要だ」
【<鳥取砂丘>乾燥地研究に海外注目 干ばつや水不足対策で】
(毎日、16・11・12・15:45)
鳥取砂丘を舞台に培われてきた乾燥地研究に、砂漠化の進行などを背景に海外からの関心が高まっている。拠点の鳥取大乾燥地研究センター(鳥取市浜坂)には中東・サウジアラビアが今夏10万ドル(約1000万円)の支援を表明し、先月にはアフリカ南部・ボツワナの駐日大使も視察に訪れた。乾燥地の緑化や食糧生産につながる品種改良などの研究依頼が多く、研究者は「深刻な干ばつや水不足への対策につなげたい」と意欲を示している。
  鳥取砂丘近くにあるセンターは、前身組織が1923(大正12)年に設立され、乾燥地を専門に研究する国内唯一の組織だ。鳥取大にとどまらず、全国の大学などの共同研究拠点として干ばつや砂漠化の問題に取り組む。毎年各国から留学生や研究者が訪れ、ここ5年間で25カ国と共同研究をしている。
  熱い視線を送るのが、国土の多くを砂漠に覆われているアフリカや中東諸国だ。
  サウジアラビアは今年7月、国営石油会社の日本法人を通じて10万ドルを支援する内容で鳥取大と合意し、具体的な研究内容について協議を進めている。
  ボツワナはかつてバイオエネルギー分野でセンターと連携してきたが、現在は緑化に適した植物の輸入を検討している。地元の緑化事業会社「フジタパラダイスパーク」(鳥取県岩美町、藤田道明社長)がセンターと共同で品種改良した常緑キリンソウ「トットリフジタ1号」で、温度変化に強いうえ約90日間水を与えなくても枯れない。まず首都ハボローネ周辺で数十株を試験栽培する計画だ。
  カラハリ砂漠が国土の8割以上を占めるボツワナは、緑化を水不足の解消や農地の増加につなげたいと考えている。ジェイコブ・ディッキー・ンカテ大使は毎日新聞の取材に「素晴らしいパートナーとの連携で、ボツワナの経済が発展するといい」と語った。
  ほかにも、スーダンとは、世界中の小麦から暑さに強いDNAを特定して品種改良するプロジェクトを進めている。カタールとの共同研究では、遺伝子組み換え技術を用いて乾燥に強い植物を作ろうとしている。
 センターの辻本寿(ひさし)教授(育種学)は「長年続けてきた研究に対し、国として興味を持ってもらうのは光栄だ」と話している。
【加工会社が製造した「冷凍メンチ」によって、腸管出血性大腸菌】
(今村顕史 がん・感染症センター都立駒込病院感染症科部長)
ある加工会社が製造した「冷凍メンチ」によって、腸管出血性大腸菌O(オー)157の集団食中毒が発生しました。さらに、同じ加工会社が製造した商品を発売している有名メーカーからも、関連製品を自主回収するとの発表がありました。
 みなさんは、なんとなく冷凍食品は安心だと思い込んでいませんか? その思い込みは大間違い。実は、冷凍でも食中毒が起こることはあるのです。今回は、この食中毒事例のポイントを解説しましょう。
O157って何者?
 みなさんの腸の中には、多くの菌が「常在菌」として共同生活をしています。そして、そのひとつとして大腸菌も 棲(す) んでいます。しかし、この大腸菌は、人の腸の中にいる限りは悪さをしません(尿路や血液など、他の場所に入ると感染症を発症してしまいます)。
 大腸菌には多くの種類があり、牛などの腸の中にも症状を起こさない様々な大腸菌がいます。しかし、牛には悪さをしない大腸菌でも、人に対しては病原性をもってしまう菌もあるのです。このような大腸菌の代表が腸管出血性大腸菌です。腸管出血性大腸菌は、その血清型で多くの種類に分けられ、その中でも最も有名なのが「O157」なのです(最初の「O」はアルファベットの「オー」です)。
  腸管出血性大腸菌は、もともと牛などの腸の中にいる菌です。このため、食肉として処理する時に、肉の表面に菌が付着する可能性があります。この大腸菌は感染力が強く、ごくわずかな菌の量でも発症してしまいます。したがって、この菌によって食材が汚染されると、規模の大きな集団食中毒を起こすことも多いのです。
  O157に感染して発症すると、下痢・おう吐・発熱などの食中毒症状を起こします。また、乳児や高齢者は重症化しやすく、脳炎や溶血性尿毒症症候群を合併して死亡することもあります。

こんな集団感染も…
 O157といえば肉が多いわけですが、菌数が少なくても発症することから、間接的に土壌や水が汚染されることで集団発生を起こすこともあります。たとえば、野菜を扱う時の水が汚染されてしまい、感染源となってしまうことがあるのです。最近の事例でも、「白菜の浅漬け」や、花火大会の露天で販売された「冷やしキュウリ」でも、大規模な集団食中毒が発生しています。
  さらに、保育所でのプールが感染経路であると疑われたO157の集団感染事例の報告もあります。これは、保育所での小さなプールが塩素消毒されていなかったため、感染した園児からプールの水を介して二次感染が起こったものと考えられています。
【<措置入院患者>情報を共有 自治体連携へ法改正へ 厚労省】
(毎日、16・11・15・08:00)
相模原市の障害者施設殺傷事件の再発防止策を検討している厚生労働省は、措置入院した精神疾患患者の退院後の孤立を予防するため、精神保健福祉法を改正し、自治体の役割を明示して自治体間連携を促す方針を固めた。退院後の患者が引っ越した場合、転出先の自治体に必要な情報を提供することが柱で、児童虐待防止の仕組みをモデルにする。12月に専門家会議で詳細な制度の議論を始め、来年の通常国会への改正案提出を目指す。
  同事件については、厚労省の有識者検討チームが、容疑者の事件前の措置入院や措置解除(退院)の判断などを検証。9月にまとめた中間報告で、容疑者が相模原市内の病院を退院後は市外の両親と同居すると主治医らに伝えていたにもかかわらず、個人情報保護を理由に市が転居先とされた自治体に連絡していなかった対応などが不十分だったと指摘した。検討チームは今月中に再発防止策を盛り込んだ最終報告をまとめる。
  子どもの虐待対応では、児童福祉法に基づく児童相談所(児相)運営指針で、子どもの転居時は担当する児相を移し、これまでの対応や住所など必要な情報を引き継ぐことを定めている。児童虐待防止法にも同趣旨の規定がある。精神障害者の措置入院では、現行法でも患者本人の同意を得るなどすれば転居先への情報提供は可能だが、法律で明文化することによって自治体間の連携強化を促す。
  ただし、精神障害を持つ人の暮らしは施設入院から地域へ移していく国の方針があり、地域で暮らしにくくなる過剰な介入や監視につながらないような配慮も必要になる。
  さらに、厚労省は退院時に病院が自治体へ提出する「症状消退届」の書式を変え、退院後の支援について詳しい記入を求めることや、患者の入院中から自治体が中心になって退院後の支援計画を作る仕組みの構築などを検討している。
【ゴム手袋のみ込み、入所者死亡 相模原の知的障害者施設】
(朝日、16・11・15・06;46)

相模原市緑区佐野川の知的障害者施設「藤野薫風」で、入所者の男性(42)が夕食中にゴム手袋をのみ込んで窒息死していたことが施設や神奈川県警津久井署への取材でわかった。手袋は食事の介助時に使われているもので、署は詳しい状況を調べている。
  署や施設を運営する社会福祉法人ラファエル会によると、男性は8日夜、施設の食堂で夕食をとった後、突然倒れて搬送先の病院で死亡が確認された。のどからゴム手袋が見つかり、司法解剖の結果、死因はゴム手袋を誤ってのみ込んだことによる窒息死だった。
  夕食時、約60人の入所者のうち28人が食事をし、職員6人が介助にあたっていた。男性は支援の度合いが最も高い「区分6」の知的障害があり、食事の介助を必要としたという。
  施設の佐藤晃事務長は「男性は物を口に含もうとするので、注意をしていたが、当時は施設内でのけんかなどに職員が気を取られていた。大事な命が失われたことを重く受け止めている。これまで使用前のゴム手袋を机の上に置いていたが、事故後は誤飲を防ぐために離れた場所に置くなど対策をとっている」と話した

溶血性尿毒症症候群:
【待機児童対策、盲点 運営株式会社「人件費7割なら赤字」 保育士に届かぬ補助】
(16・10・16、毎日)
東京都内の民間の認可保育所と小規模保育所の財務状況の調査では、行政側の認識と企業の考え方のズレを浮き彫りにした。政府は待機児童解消に向け税金投入を続けているが、既に保育士不足のために保育所の増設も難しくなりつつある。実情を踏まえた待遇改善を進めなければ安心して子どもを預ける環境は整わない。
「補助金の多い都内で人件費割合を70%にすれば資金を保育所の新設に回せない。社会のニーズに応えて新設を求められても、赤字を垂れ流せと言われているようなものだ」。「アスク」の名称で認可保育所を全国展開する保育事業最大手「JPホールディングス」(本社・名古屋市)の荻田和宏社長は言い切る。
認可保育所と小規模保育所の運営に必要な経費は、国や自治体が助成している。主な財源は国と自治体の税金だ。さらに独自に補助金を支出している都道府県や市区町村もある。都内では数千万円もの独自補助金を受け取っている施設もある。
補助金は想定される使途ごとに積算され、人件費相当分は70%程度だ。かつてはこの割合通りに使うよう定めていたが、1987年から保育士の配置人数の基準を守るなど要件を満たせばある程度自由に使えるようになった。一方、2000年に株式会社なども認可保育所を運営できるよう規制緩和された。
労働経済ジャーナリストの小林美希さんは「株主や融資銀行などの要望を受け、規模を拡大して利益を出そうとするだろう」と指摘。「複数の保育所の事務作業を本社に集約して職員の人件費を抑えるにしても限界があるはずだ」と話し、人件費割合が低い施設では保育士の給与引き上げに資金が十分に回っていない可能性があるとしている。
一方、別の株式会社の経営者は「長期的な経営の安定のためにはある程度資産を蓄えておきたい」と本音を語り、「一番安心な投資先は国債。国債を買っている事業者は他にもある」と打ち明ける。
県境を越え広域に保育所を運営する株式会社の場合、独自補助金の少ない地域の保育所に資金を回しているケースもある。複数の経営者が「都内の補助金の一部を本社に吸い上げ、赤字経営の保育所などに回している」と証言する。
企業にとっては、地域による補助額の差は「不合理」に映る。首都圏を中心に展開する「グローバルキッズ」(本社・東京都千代田区)の中正雄一代表取締役は「保育士から『勤務地で給与がなぜこんなに違うのか』と不満が上がっている。本音で言えば東京と他県の保育士の給与をもっと近づけたい」と語る。保育の質を良くするため独自の補助を設けたのに資金が他府県に流れている現状に、東京都の担当者は「指をくわえて見ているしかない」とこぼす。
こうした中、東京都世田谷区が対応に乗り出した。株式会社などの急増に備え昨年度から、開設2年目以降で人件費割合が5割を切れば独自補助金の支給を制限することにした。同区の担当者は「保育所は人がすべて。保育士にお金が回らなければ子どもに直接影響する。最低限の質を確保するために仕組みを作った」と説明する。
社福法人も待遇格差
人件費割合が平均70%程度だった社会福祉法人だが、保育士の待遇改善が進まない背景として株式会社とは別の問題を抱えるケースもある。
ある区の担当者は「今のやり方で本当に保育士の待遇が改善されるのだろうか」と疑問を口にする。法人の役員を兼ねる施設長や事務長が多額の報酬を得ている例があり、補助金の人件費分が保育士に十分に届いていない可能性があるからだ。
関係者によると、都内のある法人は認可保育所を複数運営し、理事長親子がそれぞれ施設長を務め、年収はいずれも約1800万円。年収1000万円超の事務長も親族が務めているという。自治体担当者は「施設長が多額の報酬を得るのではなく、保育士の給与や子どもの遊具の購入費などに充ててほしい」と語る。この保育所の施設長は毎日新聞に対し「取材には応じられない」と述べた。
保育所の運営を巡り13、14年に東京都の検査を受けた法人もある。「施設長と事務長の給与が高すぎる」として適正水準に是正するよう文書で指摘を受けた。施設長と事務長は法人の役員で、関係者によるといずれも数千万円の年収を得ていたという。この法人も取材に応じなかった。
都の担当者は「保育士らの給与とあまりにも額が違えば是正を求める。指導に至らなくても施設長が千数百万円の年収を得ている事例はある」と話す。
ここまで極端ではないにしても、社会福祉法人によって保育士の待遇には大きな差がある。全国福祉保育労働組合(東京都)が、加盟労組のある都内の認可保育所26カ所に15年度の給与体系を聞いた。それによると、各施設の保育士の年収は5年目で280万〜384万円、10年目で315万〜450万円、30年目では369万〜722万円と2倍近い差があった。 
同労組の小山道雄・副中央執行委員長は「施設規模や経営状態の影響もあるだろうし、子どもに手厚く対応するために人員を基準より多く配置したため一人一人の給与が下がった保育所もあるかもしれない。だが、国や自治体、各法人には保育士に対し適正な給与と労働環境を保障するよう求めていきたい」と話す。
【原発賠償の追加費用、国民負担に 経産省案】
(朝日、16・11・12・08:22)
経済産業省は11日、東京電力が福島第一原発事故の被害者に払っている賠償費について、新たに発生した費用の一部をより多くの国民に負担してもらう制度案を有識者会議に示した。大手電力に払う送電線使用料に上乗せする手法で、廃炉費についても同様の議論が進んでいる。年内に固め、来年の通常国会での法案提出をめざしている。
経産省はこれまで、福島事故をめぐる費用を総額11兆円(廃炉費など2兆円、賠償費など9兆円)と見積もり、うち賠償費に限ると5・4兆円と見込んでいた。お金は国が出資する「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が一時的に立て替え、東電を通じて被害者に支払われている。あとで東電と大手電力が、利用者から集めた電気代などから返す仕組みだ。
だが、経産省の内部資料によると福島事故の賠償費は約3兆円、廃炉費は約4兆円膨らみそうだ。このため、会議は新たな追加費用をだれにどう負担してもらうか議論をしてきた。
【福島第1の廃炉費用、年数千億円増も 経産相「年内めどに提示」】
(ロイター、16・10・2608:45)
経済産業省は25日、東京電力<9501.T>福島第1原発の廃炉費用について、燃料デブリ取り出し作業により増加する見込みで、年間数千億円程度の資金確保が必要になる可能性があるとの見方を示した。同日朝に開催された「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)の資料で明らかにした。
世耕弘成経産相は東電委員会後の記者会見で、福島第1原発の廃炉費用の試算について「想定される金額は年内をめどに提示したい」と述べた。経産省によると、2013年度から15年度までの3年間の平均金額は約800億円になっている。
同資料では、廃炉や賠償など福島原発事故に伴う費用の負担について4つの「シナリオ」のイメージを提示。1)国が肩代わりし東電は現状維持、2)公的資金を投入し東電は長期公的管理、3)国が東電を放置し東電は法的整理、4)国が必要な対応を行い、東電は改革を実行━━とした。
2回目の開催となった同委員会の冒頭で、世耕経産相は「東電委員会は東電救済ではなく、東電の改革を検討する場。電力やエネルギー産業の姿、福島を支える仕組み、事故に備えた制度のあり方を指し示す基礎となる。国民的テーマを扱う議論の場だ」と述べた。
 同委員会は非公開で運営しており、世耕氏の冒頭発言の後、報道陣は会場から退出を求められた。世耕氏は会見で会議を非公開にしていることについて「個社の経営や海外との話も出てくる。議事要旨の公開で対応したい」と述べた。
<議論は東電改革とセットで>
 会議終了後、東電委員会の伊藤邦雄委員長(一橋大学大学院商学研究科特任教授)らが記者会見した。
 4つのシナリオの中から選択して議論するのかとの質問に対して伊藤氏は、「シナリオ1、2、3は採らない。今後の議論はシナリオ4(東電の改革)の中で細部も含めて具体的な議論をしていく」と述べた。
 東電の数土文夫会長は今年7月末の記者会見で、「事業再編も含めた非連続な経営改革が必要」と表明。東電委員会での配布資料には「非連続な経営改革(事業再編)」として「送配電」や「原子力」での「連携の実行」が記載されている。
資源エネルギー庁電力・ガス事業部の畠山陽二郎政策課長は、「東電持ち株会社の中に原子力事業があるが、引き続き持ち株会社の中でやっていくのか、子会社にして他社との連携も含めて考えるのかなど、あらゆる可能性を排除しないという意図」と説明した。
【<ATM不正引き出し>全国106人逮捕…指定5暴力団員も】
(毎日、16・11・12・02:30)
17都府県のコンビニの現金自動受払機(ATM)で18億円超が一斉に不正引き出しされた事件で、11日までに全国の警察が少なくとも106人の容疑者を逮捕し、その中に五つの指定暴力団の傘下組織の組員が含まれていることが毎日新聞の取材で分かった。事件発生から15日で半年。警察当局はハッカー組織との間に介在する犯罪組織が暴力団組員らと連携していたとみて解明を進めている。
事前に予行練習か
 事件は今年5月15日午前5時ごろから約3時間の間に各地で発生。コンビニに設置されたセブン銀行などのATM約1700台から計約18億6000万円が引き出された。引き出しには南アフリカのスタンダード銀行が発行したクレジットカード情報を入力した偽造カードが使われた。防犯カメラの映像などから、現金引き出し役の出し子として事件に関与した者は約600人に上るとみられる。
  毎日新聞が各都道府県の警察本部などに取材したところ、出し子を中心に少なくとも106人が窃盗容疑などで逮捕されていたことが判明した。この中には、山口組(本部・神戸市)▽神戸山口組(兵庫県淡路市)▽稲川会(東京都港区)▽道仁会(福岡県久留米市)▽合田一家(山口県下関市)の五つの指定暴力団の傘下の組
事前に予行練習か
 事件は今年5月15日午前5時ごろから約3時間の間に各地で発生。コンビニに設置されたセブン銀行などのATM約1700台から計約18億6000万円が引き出された。引き出しには南アフリカのスタンダード銀行が発行したクレジットカード情報を入力した偽造カードが使われた。防犯カメラの映像などから、現金引き出し役の出し子として事件に関与した者は約600人に上るとみられる。
  毎日新聞が各都道府県の警察本部などに取材したところ、出し子を中心に少なくとも106人が窃盗容疑などで逮捕されていたことが判明した。この中には、山口組(本部・神戸市)▽神戸山口組(兵庫県淡路市)▽稲川会(東京都港区)▽道仁会(福岡県久留米市)▽合田一家(山口県下関市)の五つの指定暴力団の傘下の組幹部や組員が10人以上含まれていた。新潟県では山口組系の組幹部だった男(36)がまとめ役になったグループに、山口組と対立関係にある神戸山口組の傘下組幹部(39)が加わったケースがあった。
  詐欺に関与したことのある者も、今回の事件で検挙されている。新潟県警は、振り込め詐欺事件で逮捕した男の関係先から、不正引き出しの手順を示す紙を押収した。埼玉、山口両県警は架空請求詐欺事件で逮捕された男について、今回の事件に関わったとして窃盗容疑などで逮捕した。
  一斉引き出しに向けた準備とみられる動きは4月に始まっていた。東京都内では何者かがコンビニのATMで偽造カードを使い、引き出しや残高照会の操作を計5回行った。捜査関係者は「本番に向けて手順を確認していたのではないか」とみている。新潟県内でも4月中旬に出し子を集める動きがあったことが確認されている。
事件では、スタンダード銀行のシステムにサイバー攻撃を仕掛け、カードの暗証番号の承認機能を無効にしたハッカー組織が存在しているとみられる。また警察当局は、ハッカー組織と引き出しを実行したグループとの間に、国内の犯罪組織が介在している可能性があるとみており、実態の解明を進めている。捜査幹部は「ハッカーとつながる犯罪組織が、各地の暴力団組員や特殊詐欺グループと連動したのではないか」と分析している。
  ◇ハッカー組織化脅威…専門家指摘
  「同様の事件がまた起こり、被害は深刻化するおそれがある」。サイバー攻撃に関する技術を善良な目的に生かす「ホワイトハッカー」らで作るセキュリティー企業「スプラウト」(東京都渋谷区)の高野聖玄社長はそう指摘する。高度な攻撃技術を持つハッカーが組織化し、政府機関や企業に攻撃を仕掛けるケースが近年、世界的に目立っているという。
わずか3時間で約18億6000万円が不正に引き出された今回の事件も、ハッカー組織と日本の犯罪組織が連携して実行したとみられる。高野社長は「双方にとってこんなにおいしい仕事はない。同じことをやりたいと思うのが当然」と話す。
  こうした犯罪ビジネスも、鍵となるのは組織同士の信用だという。提供されたカード情報は本物なのか。引き出しに成功し、それが裏付けられたことが信用につながり、ハッカー組織と犯罪組織の結びつきはより強くなったと予想される。
  事件後、セブン銀行は不正に使われたタイプの磁気ストライプ型カードによる1回の引き出し限度額を10万円から3万円に引き下げた。ATMの不正利用を即座に検知するシステムも導入するなどセキュリティー対策を強化している。
  しかし高野社長は「対策に終わりはない」と警鐘を鳴らす。ハッカーが限度額の設定や不正検知機能を無効化する可能性も捨てきれない。「攻撃を受けた企業などが速やかに情報を共有し、被害が拡大しないよう社会全体で対策を講じる仕組み作りが重要だ」
【恐怖の記憶、意識せず消去 国際電気通信研などが成功】
(日本工業新聞、16.・11・27・08:00)
辛い記憶、思い出さずにPTSD治療

国際電気通信基礎技術研究所脳情報通信総合研究所の川人光男所長と、情報通信研究機構脳情報通信融合研究センターの小泉愛研究員らは、辛い記憶を思い出さずに、恐怖による反応を克服する技術を開発した。恐怖記憶と関係ない暗算などの思考訓練をくり返し、無意識の記憶の痕跡を変容させたようだ。従来の恐怖緩和法は恐怖の対象をくり返し見せて反応を抑えるため、被験者に負担だった。心的外傷後ストレス障害(PTSD)などの治療につながる可能性がある。
 米カリフォルニア大学ロサンゼルス校と英ケンブリッジ大学との共同研究の成果。安全のため健常者に人為的な恐怖記憶を植え付けて実験した。実験手法は研究機関の研究倫理審査委員会の承認を得ている。
  まず緑色の丸い図形を見せ、電気刺激を使った恐怖記憶をあらかじめ作成する。この時の脳活動を計測し、人工知能(AI)技術を使って活動パターンを解析。その後、関係のない思考訓練を与え、図形を見たときの脳活動パターンに近づいたら金銭報酬を与えた。
 すると訓練後は図形を見せても恐怖をつかさどる扁桃(へんとう)体の活性や発汗反応などが表れなかった。訓練をしないと恐怖反応が表れる。思考訓練の中身は暗算や歌を思い浮かべるなど人によってまちまちで、図形や色とは関係がない。
  PTSD患者はすでに恐怖記憶が定着しているため、恐怖を想起させない脳活動パターン解析法を開発する。
【<医療保険料>軽減廃止 後期高齢者、厚労省が見直し案】
(毎日、16・11・30・21:36)
厚生労働省の社会保障審議会の部会が30日開かれ、2017年度以降の公的医療保険制度の見直し案を示した。75歳以上を対象とした後期高齢者医療制度の保険料は、特例で実施している低所得者や中程度の所得者らの負担軽減を20年度までに廃止し、段階的に引き上げる。医療費の自己負担に月ごとの上限額を設ける高額療養費制度でも、70歳以上の上限を引き上げるとした。これまで高齢者については負担を軽くする優遇策を実施してきたが、17年度からは多くの高齢者の負担が増えることになる。
また、低所得者向けに、年金収入が153万~211万円の人は所得割り部分を5割免除している特例を、17年度に廃止する。年金収入が168万円未満の人の均等割り部分は本来のルールでは7割軽減だが、特例で最大9割軽減となっている。その特例を17年度から20年度にかけて段階的に廃止することも検討する。年金収入が80万円以下の人の保険料は、月380円が17年度は570円となる。
  高額療養費は、70歳以上の現役並み所得者(年収約370万円以上)と、一般所得者(年収約370万円未満)の負担を引き上げる。厚労省は見直し案を複数検討中で、最終的に与党と調整し、年内に決定する。
  また、長期療養を目的とする医療療養病床に入院する患者の光熱水費の負担増は、来年10月から実施する方針。かかりつけ医以外を受診した際の定額負担の導入などは、17年度以降も検討する。
【介護殺人や心中、全国で179件…13年以降】
(読売、16・12・5・06:11)
高齢者介護を巡る家族間の殺人や心中などの事件が2013年以降、全国で少なくとも179件発生し、189人が死亡していたことが読売新聞の調査で明らかになった。
  ほぼ1週間に1件のペースで発生しており、70歳以上の夫婦間で事件が起きたケースが4割を占めた。介護が必要な人が10年前の1・5倍の600万人超に上る中、高齢の夫婦が「老老介護」の末に悲劇に至る例が多いことが浮き彫りになった。
  読売新聞は、13年1月から今年8月までの3年8か月間に発生し、介護を受けている60歳以上が被害者、その家族が加害者となった殺人(未遂含む)や心中、傷害致死などの事件を対象に調査。警察発表や裁判資料のほか、湯原悦子・日本福祉大准教授(司法福祉論)の研究資料などから事例を収集し、分析した
【<抗精神病薬>知的障害児の1割に処方…「自傷防止」】
(16・12・4・09:00)
◇過剰投与、副作用の危険
主に統合失調症の治療に使われる抗精神病薬が知的障害児の約1割に処方されていることが、医療経済研究機構などのチームが健康保険組合加入者162万人を対象に行った調査で分かった。人口に対する統合失調症患者の割合よりはるかに高く、うちほぼ半数で年300日分以上も薬が出ていた。チームは「大半は精神疾患がないケースとみられ、知的障害児の自傷行為や物を破壊するなどの行動を抑制するためだけに処方されている可能性が高い」と警鐘を鳴らす。
  チームは、健康保険組合の加入者162万人の診療報酬明細書(レセプト)のデータベースを使い、2012年4月~13年3月に知的障害と診断された患者2035人(3~17歳)を1年間追跡調査。その結果、抗精神病薬を期間内に1回でも使った人は12.5%いた。年齢別では、3~5歳が3.7%▽6~11歳が11%▽12~14歳が19.5%▽15~17歳が27%--と、年齢が上がるほど処方割合が高くなっていた。
  また、2種類以上の薬が31日以上継続して処方される「多剤処方」の割合も年齢と共に増加していた。
  統合失調症患者は人口の0.3~0.7%とされ、発症も10代後半から30代半ばが多い。患者の大半には抗精神病薬が処方されるという。
知的障害児の行動障害の背景に精神疾患が認められない場合、世界精神医学会の指針では、まずは薬を使わず、環境整備と行動療法で対処するよう勧めている。抗精神病薬は興奮や不安を鎮めるが、長期服用により体重増加や糖代謝異常などの副作用があるほか、適切な療育が受けられない恐れも出てくる。
  チームの奥村泰之・同機構主任研究員(臨床疫学)は「国内でも指針を整備し、知的障害児に安易に抗精神病薬が処方されないようにすべきだ」と指摘する。
【<新潟避難児童いじめ>母「菌付きいじめ、避難がきっかけ」】」
(毎日、16・12・4・22:19)
◇横浜の中学生の「菌」付け報道に、小4男児「僕と同じだ」
  東京電力福島第1原発事故で福島県から自主避難している新潟市立小4年の男子児童が、同級生や担任の男性教諭から名前に「菌」をつけて呼ばれ、11月下旬から登校できなくなっている問題で、男児の母親が毎日新聞の取材に応じた。同市教委は「いじめと避難は結びついていない」としているが、母親は東日本大震災5年の今年3月ごろから「菌」付けで呼ばれるようになったことなどから「福島からの避難がきっかけだ」と関連性を訴えた。(堀祐馬、柳沢亮)
  母親によると、今年3月11日の前後、学校の授業で原発事故のことが取り上げられるようになると、男児は積極的に自らの体験を発言したという。「たくさん答えられることがうれしかったのだろう」。しかし、その頃から同級生に「菌」を付けて呼ばれるようになった。「福島から来ていることを知っている一部の子が菌付けで呼び、それをきっかけに、知らない子まであだ名のように呼ぶようになった」と振り返る。
 男児は6月、「ばい菌扱いされている。嫌だ」と担任に相談。その時点では男児はいじめとの認識はなかったとみられ、夏休み明けに初めて担任から名前に「菌」をつけて呼ばれた際には、深刻に落ち込む様子はなかったという。
 ただ11月上旬に、横浜市立中学で福島県から避難してきた生徒が「菌」を付けて呼ばれた問題が発覚すると、男児は「僕と同じだ」と漏らした。「自分もいじめられているのだと認識したのだろう」。母親の勧めで、男児は同月17日に担任に改めて相談した。帰宅すると、ガッツポーズで「ばっちり相談してきた」と笑顔を見せていたという。
 だが、同22日早朝、福島県沖を震源とする地震が起き、福島県で働く父親と連絡が取れないまま、男児は不安そうに登校。その日の昼休み、教室で担任から連絡帳を受け取る際に名前に「菌」を付けて呼ばれ、ショックを受けて帰宅したという。男児はその後「学校には行きたいけど、担任がいるから無理」などと話し、24日から休んでいる。
  母親によると、当初学校側は担任の発言を否定。25日に父親が学校に電話し、「自殺してしまう子だっているんですよ」と涙ながらに訴えたが、担任は騒動については「すいません」と謝罪したものの、「私は今年から担任なので」と素っ気ない対応だったという。担任は現在、男児に謝罪したいとの意向を示しているが男児は拒絶しているといい、校長が連日自宅を訪れているという。
 家族は、借り上げ仮設住宅の無償提供の期限が切れる今年度末での引っ越しを考えていた。母親は「息子は『同じ学区にして』と言っていたが、こんなことが起きたからには転校もやむを得ない。自主避難している身なので、新潟の人には迷惑を掛けたくない」と複雑な胸中を明かした。
 新潟市教委によると、福島県から新潟市内に避難している児童は291人。「福島からの避難に関連したいじめはない」としている。
  ◇男子児童へのいじめを巡る経緯
 <2011年>
 3月 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故が発生。その後、新潟市へ避難
 <2016年>
 3月ごろ 仲間はずれにされたり、「菌」と呼ばれたりし始める
4月 4年生に進級し、担任教諭が代わる
6月 児童が「ばい菌扱いされている」と担任に相談。担任はいじめた児童らを指導
11月上旬 横浜市に自主避難した中学生が「菌」と呼ばれるなどのいじめが報道される
11月17日 児童が再びいじめについて担任に相談
   22日 昼休みに教室で担任から同級生の前で名前に「菌」をつけて呼ばれる
   24日 児童が学校を休み始める(23日は祝日)
   29日 学校が児童らに聞き取り調査。複数の児童が担任の発言があったとし、担任も認めた
※保護者や新潟市教委などへの取材に基づく
【外国人実習生」が置かれた過酷な無法地帯…移民政策にもつながる「根の深さ」】
(弁護士ドットコム16・10・30・08:25)
山脇康嗣
慶應義塾大学大学院法務研究科修了。入管法・国籍法・関税法・検疫法などの出入国関連法制のほか、カジノを含む賭博法制(ゲーミング法制・統合型リゾート法制)や風営法に詳しい。第二東京弁護士会国際委員会副委員長、日本弁護士連合会人権擁護委員会特別委嘱委員(法務省入国管理局との定期協議担当)。主著として『詳説 入管法の実務』(新日本法規)、『入管法判例分析』(日本加除出版)、『Q&A外国人をめぐる法律相談』(新日本法規)、『外国人及び外国企業の税務の基礎』(日本加除出版)がある。「闇金ウシジマくん」「新ナニワ金融道」「極悪がんぼ」「鉄道捜査官シリーズ」「びったれ!!!」「SAKURA~事件を聞く女~」「ゆとりですがなにか」など、映画やドラマの法律監修も多く手掛ける。

「外国人実習生」が置かれた過酷な無法地帯…移民政策にもつながる「根の深さ」
写真はイメージ
外国人技能実習生として、岐阜県の鋳造会社で働いていたフィリピン人男性、ジョーイ・トクナンさん(当時27歳)が亡くなったことについて、岐阜労働基準監督署は8月、長時間労働による「過労死」として認定した。
報道によると、ジョーイさんは技能実習生として、2011年8月に来日し、岐阜県の鋳造会社で働いていた。ところが、2014年4月、心疾患のために従業員寮で亡くなった。亡くなる前の3カ月間、1カ月に96時間〜115時間の時間外労働をしていたという。
外国人技能実習制度は、日本の技術を学んでもらうことを目的に外国人を受け入れる制度だが、その労働環境は「劣悪だ」という批判も多い。技能実習生の労働実態や移民受入れのあり方について、入管法など外国人の法律問題にくわしい山脇康嗣弁護士に聞いた。
「安価な労働力確保」のための手段になっている
そもそも「外国人技能実習制度」の建前は、途上国に技術を伝え、その国の人材育成を支援するという国際貢献です。
 しかし、実態として、多くの場合、「安価な労働力確保」のための手段となっています。実習現場では、法令違反が横行しており、海外から「人身売買」「現代の奴隷制度」などと批判されることもあります。今年6月時点で、実習生は約21万人います。
 なお、誤解がないように述べておきますが、体力に余裕のある実習機関(企業など)が、充実した技能実習計画を作り、親身に実習生を教育し、国際貢献に寄与している例もあります。
 ただ、全体をみると、厚生労働省が昨年、5173の実習機関に監督指導を実施したところ、過去最多の3695の機関で労働基準関係の法令違反がありました。
 具体的には、違法な時間外労働、安全措置が講じられていない機械の使用、賃金の不払いなどです。また、法務省入国管理局は昨年、273機関に「不正行為」を通知しました。
 「不正行為」とは、技能実習の適正な実施を妨げる行為です。具体的には、暴行・脅迫・監禁、旅券の取上げ、人権を著しく侵害する行為、偽変造文書の行使・提供、二重契約、技能実習計画との齟齬(そご)、名義貸し、不法就労者の雇用などです。
虚偽書類の提出が横行、入国管理局による審査も杜撰
 なぜ、技能実習制度がそのような法令違反の温床となるかというと、以下のような構造的な原因があるからです。
 まず、「入り口」の審査の段階で、入管法が有名無実化しています。入管法は、実習生の入国を認めるための要件を次のように定めています。
「(1)実習生が修得しようとする技能が同一作業の反復のみによって修得できるものではないこと(つまり単純反復作業でないこと)
(2)日本で修得した技能を要する業務に帰国後に従事する予定であること
(3)本国で修得することが不可能または困難である技能であること
(4)日本人が従事する場合と同等額以上の報酬が与えられること」
 しかし、いずれの要件についても、虚偽の書類の提出が横行し、入国管理局による審査も杜撰です。その結果、同一作業の反復のみによって修得できて、しかも本国でも修得できるような「技能」にかかる単純作業を劣悪な環境下で、最低賃金並(あるいはそれ以下)で行わされるということが発生します。
 日本で修得したとされる技能を要する業務に、本国帰国後に従事しているかどうかについては、ほとんどまともに調査すら行われていないという現状です。
 現在の技能実習制度は、1年目の「技能実習1号」と2〜3年目の「技能実習2号」とがあります。報道などで問題が顕在化するのは、職種制限がある「技能実習2号」が多い印象です。これは、「技能実習2号」に対しては、曲がりなりにも立入り調査などが行われているからです。実際には「技能実習1号」のほうが、もっと闇が深いという側面もあります。
 職種制限がない「技能実習1号」については、数年前まで、実効的な立入り調査などがほとんど行われておらず、虚偽の技能実習計画を確信犯的に仕組む悪質な反社会的勢力なども関与し、一部では「無法地帯」とすら評しうる事態となっていました。
実習生には「移籍の自由」が認められていない
 次に、実習生が日本に入国したあと、劣悪な環境下におかれざるをえない最大の理由は、実習機関の「移籍(職場移転)の自由」が基本的に認められていないことです。
 実習生に「移籍の自由」が認められていれば、劣悪な環境下で労働を強いる実習機関からは誰もいなくなり、悪質な実習機関は淘汰されるはずです。
 しかし、現行法では、決められた技能実習計画を計画的に遂行するためという理由で、「移籍の自由」が認められていません。そのため、労使対等が根本的に実現せず、弱い立場におかれざるをえない実習生が劣悪な労働環境から逃れられないのです。
 そのほか、海外の送出し機関から、失踪防止などを名目として、高額の保証金を徴収されているといった理由もあります。
 このような問題が指摘され続けているにもかかわらず、技能実習制度が廃止されず、むしろ拡大の傾向にあります。
 その理由は、日本政府が「単純就労者は受け入れない」という外国人政策を一応、とっているためです。外国人技能実習制度を廃止するとなれば、人手不足に悩む業種のために、単純就労者についても独立した在留資格を新たに作り、正面から入国・在留を認める入管法改正を行わざるをえないことになります。
 しかし、「単純就労者は受け入れない」という外国人政策(建前)をとっているため、そのような入管法改正ができないのです。
「単純就労者は受け入れない」という建前が実質的に崩壊している
 私自身は、現時点においては、これ以上の単純就労者の受入れの急激な拡大には慎重です。
 なぜなら、現状、すでに「単純就労者は受け入れない」という建前が実質的には崩壊し、今や、高度ともいえない普通の(一般的な日本人と労働市場において競合する)レベルの仕事について、外国人の就労をなし崩し的に認めているからです。
 就労を認める在留資格(就労系在留資格)を許可する基準は、年々緩和され続けています。日本の大学や専門学校などを卒業した外国人留学生による「留学」から就労系在留資格への変更許可率は、一昨年時点で91.4%にも達しています。
 今年6月時点で25万人以上にのぼる外国人留学生は、入管法上、在学中、週28時間以内であれば、単純就労も認められているところ、実際には多くの留学生が、週28時間をオーバーして就労しています。また、就労系在留資格を持つ外国人の家族も、同様に週28時間以内の単純就労が認められています。
 このように、日本は、すでに一般的な普通レベルの職種においても、外国人労働者を多く受け入れています。しかも、定住化が進み、移民社会の一歩手前となっています。
 「短期滞在」や不法滞在者などを除く中長期在留外国人は、今年6月時点で196万人ですが、そのうち活動が認められる範囲に一切制限がない居住資格(「永住者」や「定住者」など)を有する外国人は105万人であり、53%以上にも達しています。そのほか34万人の「特別永住者」(いわゆる在日韓国・朝鮮人などの方)も、活動範囲に制限がありません。
 誤解が多いですが、外国人の就労の許否について、現在の日本の入管法のハードルは、諸外国と比較して、決して高くありません。
「単純労働者」の受入れを認めることに弊害も
 単純就労者の受入れを正面から認めた場合、生産性が低い状況を固定化して、構造改革を阻害するおそれがあります。単純就労者は、基本的に現在の産業構造を維持するために必要とされている人材です。
 そのため、単純就労者の受入れと採用を制約なく認めると、生産性の向上に対する 企業努力が払われなくなります。結果として、国力を削ぐことになる可能性があります。また、日本人労働者との競合がより熾烈化し、雇用をますます不安定にさせます。
 少子化による生産人口の減少には、基本的に生産性の向上(そのための人材・技術・設備の各面における積極的投資)と産業構造の改革、女性や高齢者の活用などによって乗り切るべきです。移民を前提とした単純就労者の受入れという「劇薬」は、まだ使うべき局面には至っていないと考えています。
 もちろん、多様性によるダイナミズムが国を牽引するとか、国力を失ってからの移民政策では遅い(国力を失ってからでは移民が来てくれない)という主張にも傾聴すべき点はあります。
 しかし、「劇薬」には強い副作用が予測されます。関連法令を含め、日本社会一般に外国人受入れ態勢が十分に整っていないため、現時点で移民社会に舵を大きく切れば、大きな混乱と深刻な摩擦・分断が起きるのは確実です。
 
実習生の人権侵害を看過することはできない
 そうすると、現実問題として、人手不足に悩む業種のために、当面は外国人技能実習制度を維持せざるをえないわけですが、だからといって、実習生の人権侵害を看過することはできません。
 制度の適正化による実習生の保護や待遇改善を目的とする「外国人技能実習新法」が、今国会で成立予定です。この法律を厳格に適用し、法令違反を積極的に摘発するとともに、少なくとも実習4年目以降の「技能実習3号」については、「移籍の自由」を認めるなどの柔軟な運用を行って、実習生の人権侵害を防ぐということになります。
 また、海外の不適切な送出し機関を排除するための二国間協定も積極的に締結すべきです。
 それでもなお、不正が減らず、実習生に対する人権侵害が続いたらどうするか。そのとき、少子化傾向が改まっておらず、生産性も向上しておらず、しかし、多くの国民が日本が経済大国であり続けることを望むならば、移民を前提とした単純就労者の受入れという「劇薬」に手を付けざるを得ないかもしれません。
 その場合、良くも悪くも、日本社会のあり方が激変することを覚悟する必要があるでしょう。
【ゴム手袋のみ込み、入所者死亡 相模原の知的障害者施設】
(朝日、16・11・15・06:46)
相模原市緑区佐野川の知的障害者施設「藤野薫風」で、入所者の男性(42)が夕食中にゴム手袋をのみ込んで窒息死していたことが施設や神奈川県警津久井署への取材でわかった。手袋は食事の介助時に使われているもので、署は詳しい状況を調べている。
 署や施設を運営する社会福祉法人ラファエル会によると、男性は8日夜、施設の食堂で夕食をとった後、突然倒れて搬送先の病院で死亡が確認された。のどからゴム手袋が見つかり、司法解剖の結果、死因はゴム手袋を誤ってのみ込んだことによる窒息死だった。
 夕食時、約60人の入所者のうち28人が食事をし、職員6人が介助にあたっていた。男性は支援の度合いが最も高い「区分6」の知的障害があり、食事の介助を必要としたという。
 施設の佐藤晃事務長は「男性は物を口に含もうとするので、注意をしていたが、当時は施設内でのけんかなどに職員が気を取られていた。大事な命が失われたことを重く受け止めている。これまで使用前のゴム手袋を机の上に置いていたが、事故後は誤飲を防ぐために離れた場所に置くなど対策をとっている」と話した。(天野彩)
【軍事研究助成18倍 概算要求6億→110億円 防衛省、産学応募増狙う】
(東京、16・9・1)
防衛省は31日、過去最大の総額5兆1685億円に上る2017年度予算の概算要求を発表した。16年度当初予算比2・3%増。このうち、企業や大学に対し、軍事に応用可能な基礎研究費を助成する「安全保障技術研究推進制度」予算として、一六年度の6億円から18倍増となる110億円を要求した。資金提供を通じ「産学」側に軍事研究を促す姿勢を強めた。(新開浩)
 この制度は、軍事への応用が期待できる基礎研究を行う機関に、最大で年約四千万円の研究費を三年間助成する内容。制度が創設された一五年度は三億円の予算枠に百九件の応募があり、九件が採用された。一六年度は予算を六億円に倍増したが、応募は前年度の半数を下回る四十四件に減少。採用は十件だった。
  応募が減った背景には、主に大学での軍事研究の拡大に対する研究者の警戒があるとみられる。新潟大学は昨年、学内の科学者の倫理行動規範に「軍事への寄与を目的とする研究は行わない」と明記。京都大は今年、学長らでつくる部局長会議が、軍事研究に関する資金援助は受けない従来の指針を再確認した。
 一方、自民党の国防部会は五月、軍事研究費の助成制度を百億円規模に増額するよう提言。多額の武器開発費を投じる中国への対策が必要だと強調した。これを受けた今回の大幅増要求により、防衛省は一七年度以降、研究テーマ一件当たりの助成費の増額や研究期間の延長を目指す。
 これまでに助成対象となったテーマは、レーダーに探知されにくいステルス性能が期待できる新素材の開発や、海中での長距離・大容量通信を可能とする新型アンテナの研究など。
◆軍事費増やす構図
<大学の軍事研究に反対する「日本科学者会議」事務局長の井原聡東北大名誉教授(科学史)の話> この助成制度は、民生にも役立つ技術を研究するという名目で、軍事費を増やすシステムだ。研究者を大金でからめ捕るやり方は許し難い。助成額を大きくすることで、減少した応募件数を増やす狙いではないか。
【風俗に売られた「3児の母」の壮絶すぎる半生】
(東洋経済、16・12・2・04:40)
この連載では、女性、特に単身女性と母子家庭の貧困問題を考えるため、「総論」ではなく「個人の物語」に焦点を当てて紹介している。個々の生活をつぶさに見ることによって、真実がわかると考えているからだ。今回紹介するのは、神奈川県に住むシングルマザー48歳。彼女は病と闘っている。
んああ、えんああぁ、んぁああ……」
  神奈川県某市。足元がおぼつかなく、マスク姿で現れた山内里美さん(48歳、仮名)が何を言っているのか、わからなかった。聞き耳を立てて近づいたが、わからない。彼女はカバンからメモ帳とペンを取り出す。「20分後には薬が効くと思うのでしゃべることができます。申し訳ありません」と書いてあった。達筆だった。
精神障害と向精神薬の副作用、脳脊髄液減少症に長年苦しむ。この4年間は働くどころか、普通の日常生活も送れない。普段は自宅から出ず、一日中横になって療養する。服装はジャージ、首にはコルセット。自宅から徒歩5分程度のここにも、なんとかやって来たという状態だ。普段は動けないが、服薬すると一時的に回復し、しゃべることができるという。
  バツ1のシングルマザーで、子どもは男1人、女2人。現在は近くの古い団地に21歳の長男、19歳の次女と3人で暮らす。彼女と次女は、生活保護を受給している。薬が効くまでの間、持参してもらった生活保護の受給証明書、障害基礎年金の振込通知書、昔の写真を見せてもらった。若干色あせた写真には、華やかで美しい笑顔の女性が写る。22年前、26歳のときの山内さんだ。当時はシングルマザーになり、水商売をしていた。彼女は池袋の有名店の人気キャバ嬢だったという。
  華やかな22年前、そして歩くことすらままならず、筆談する現在の弱り切った姿。壮絶なギャップに絶句した。
生活保護課の紹介で精神科を受診
「私は精神病院に精神障害者にさせられたと思っています。まさか自分がそうなると思わなかったですが、現実にそういうことがあるのです」
  20分後、声が出た。マスク越し、小さな声でゆっくりとした口調。健康だった頃は品のある女性だったろう、と思った。
  「精神科に最初に行ったのは12年前です。当時、横浜の訪問介護事業所の社員だったのですが、小さな子どもを3人も抱えた状態で何年間も長時間労働せざるをえず、無理して脳脊髄液減少症になってしまいました。脳脊髄液が漏れて、頭痛やめまいが止まらなくなる病気。とても働けません。それに倦怠感とか眠れないとか、いろいろ重なって生活保護を受けました」
  市役所の生活保護課の紹介で、指定された精神病院で受診する。
「最初は“軽いうつでしょう”っていう話だったのに、通院するたびにどんどん薬が増えた。あるときに診断書を見る機会があって、そこに“統合失調症”とか“うつ病”とか“不眠症”とか、いろんな病気が書いてありました」
  最終的に精神科から8種類の薬を処方された。子育てと長時間労働で体を酷使し、大病を患った。しかし生活保護を受給して精神病院に通院するようになってから、彼女の本当の地獄が始まった。服薬してから不眠はさらにひどくなり、幻聴や幻覚、頻繁に記憶を失う。さらに自傷行為や被害妄想、記憶にないところでヒステリーを起こして暴れるようなことも起こったのだという。山内さんは向精神薬によって破壊されてしまったと考えているようだ。
  母親が壊れて、家庭は荒れた。中学生だった長女は非行に走り、家に帰って来ない。万引きや窃盗、家庭内暴力が収まらなくなり、頻繁に警察から電話がかかってくる。さらに小学校低学年だった次女は登校拒否、クラスメートや担任を怖がって学校にいっさい行かなくなった。長男だけは母親や長女が荒れれば黙って耳をふさぎ、なんとか普通に学校に行く。
  長女は夜遊びや窃盗だけでなく、売春行為でも補導された。山内さんは警察から連絡があるたびに引き取りに行き、何度も謝る。長女の非行は自分のせいだという自覚があったので、何をしても怒ることができなかった。長女は警察ざたを起こして自宅に戻っても、すぐに家を出てしまって帰ってこない。
  「長女に対して、何とか親の役割を果たそうと頑張りましたが、なかなかうまくいきませんでした」
  母親は深刻な精神病で苦しみ、長女は荒れて、小学校低学年の次女は引きこもる。そんな絶望的な家庭をさらなる悲劇が襲う。
  「最終的にトドメを刺されたのは、4年前にジスキネジア(反射的に体が動く障害)を発症したことです。薬の副作用です。今はマスクをしていますけど、口の周りがもう自分の意志で動かせない。普通の食べ物をかむこともできないし、薬なしではしゃべることもできない。顔の筋肉がおかしくなっているので、マスクを取った顔はとてもお見せできない状態です。鏡には自分でも恐ろしくなるような顔が映ります」
■薬を飲み続けるか、死ぬしかない
 行政から指定された病院に通院することで、病気が治るどころか破壊されてしまった。山内さんはもう生涯、食べ物をかむことができない。死ぬまでミキサー食やゼリーを食べるしかない。マスクを取った素顔で外出することも、もう二度とかなわないという。
  「行政や病院がおかしいと思ったのは、遅いのですが、ジスキネジアを発症してからです。患者の私たちには何の情報もない。だから疑うだけですが、それは生活保護の患者を精神病院が食い物にするということ。すべてが薬を飲んでから始まっているし、そうとしか思えない。どんな病気であっても病名をつけて薬を出せば、患者は一生通う。私はもう症状を薬で抑えることができても、病気は生涯治ることはありません。薬を飲み続けるか、死ぬしかないのです。悔しいです」
  山内さんは、絞りだすような小さな声で、そう言う。
どうしてこのような状況になったのか?
 目の前にいる彼女は、まさにボロボロといった状態だ。私は絶句し、同席する女性編集者は口元を押さえて涙を浮かべる。いったい、どうして現在に至ってしまったのか。
  東北出身、地元の専門学校を卒業して就職で上京。20歳から普通にOLをしながら都会で平穏に暮らした。22歳で社内結婚して、24歳で出産のために退職。長女を出産。27歳のときに長男が生まれる。長女3歳、長男1歳のときに離婚、子どもを2人抱えてシングルマザーになった。離婚の理由は「触れないでほしい」という。
 「突然、シングルマザーになってしまって、慰謝料も養育費ももらえない。選択肢は夜の仕事しかありませんでした。キャバクラです。池袋、上野、六本木といろいろなところで働いて、当時はそれなりに稼げました。子どもは夜間保育園です。私なりに必死で生きて、決してネグレクトではなかったですが、今思えば、子どもには申し訳ないことをした。寂しい思いをさせてしまいました」
  キャバクラは20時~1時まで、週4~5日は出勤した。売り上げは多く、店のナンバーワンに入ることもたびたびだった。お客さんとの会話はすべて記憶して、相手が求めるように振る舞うと面白いように指名が取れた。毎月10万円以上の保育料はかかったが、2年間で貯金は1000万円を超えた。
  「子ども2人抱えての東京暮らしは厳しいと、実家に帰ろうと思っていたとき、ある男性と知り合いました。キャバクラのお客です。意気投合して同棲して、子どもも懐いた。結婚しようって約束もしました。一緒に住んですぐに次女を妊娠した。でも、出産してすぐその男性はおカネを全部持って行方不明になりました。自動車販売店を経営しているってことも、結婚しようって言葉も全部ウソだったのです」
■「借金1000万円」の連帯保証人に
 次女の父親である男が消えてから1カ月後、ヤミ金から返済を迫る連絡があった。男は山内さんを勝手に連帯保証人にして1000万円弱を借金、すぐに返せとのことだった。貯金はすべて奪われて、さらに身に覚えのない1000万円弱の返済を迫られた。金融業者に事情を話すと「1年後から風俗で働け、それで返せ」と提案された。山内さんはうなずき、次女が1歳になったとき金融業者に紹介されたファッションヘルスで働くことになった。
  「週6日、朝9時から18時までずっとお客をとりました。それなりに稼げる店だったので、1年間で1000万円は返しました。女の子からのイジメもすごかったし、ツラかった。やっぱり気持ちが張りつめていて、全額返済したとき、糸がプッツンと切れた。最後の日、お恥ずかしい話だけど、更衣室で4時間ずっと泣いて、仕事ができない状態に。それで辞めさせてもらいました。好きでもない人に性的な行為をするのは、私はすごくツラかった」
  1990年代後半は消費者金融を筆頭に、ヤミ金融や性風俗は活況だった。ヤミ金融が債務者女性を性風俗に売り、肉体で返済させるのは日常茶飯事で、私も何十人とそういう境遇に陥る女性に会っている。最近は女性をアダルトビデオに無理やり出演させるAV強要問題が話題となったが、ターゲットとなるのはいつの時代も換金しやすい美人女性だ。市場原理が働く。美人で責任感の強い女性は、悪徳な人物が近づいてきてワナにはまりやすい。
介護の仕事に就いたが……
3人の子どもを育てなければならない。借金を完済して風俗を辞めた山内さんは、介護の仕事に就く。介護保険導入直前で介護業界は未来産業として盛り上がっていた。ヘルパー2級を取得し、訪問介護事業所の登録ヘルパーとなった。しばらく続けるうちに社員になることを誘われて役職に就いた。
  「介護は大変でした。異常っていうくらいやることがあって、時間内では絶対に終わらない。登録ヘルパーからサービス提供責任者、管理者って責任がどんどん重くなって、私が主にやらされたのは書類や事務関係の全部です。書類整備や国保請求から、給与計算、新しい事業所の認可の書類まで作らされて。勤務時間は朝8時~夜11時みたいな状態です」
  介護事業所は現在に至っても常勤社員に長時間労働をさせ、差額を利益にするという悪質事業所だらけだ。山内さんはいわれない借金を背負わされて風俗に売られ、そこから抜け出した後はブラック労働に足を踏み入れてしまったのだ。1日15時間に及ぶ労働をさせられたら、子どもを育てようがない。家庭は小学生の長女が弟と妹の面倒をみる、という状況となった。
■夕方一度帰ってまた仕事に戻る日々
  「休憩を挟むっていう決まりがあるじゃないですか。夜6時ぐらいに1時間だけ休憩をもらって、一度家に帰って子どもにご飯を食べさせてまた仕事に戻るみたいな。介護は5年続けましたが、家事もしなきゃならないし、結局、睡眠時間を削るしかないですよね。1日2時間とか3時間しか眠れない日々が続いて、最終的には体を壊しました」
  給与は手取り24万円ほど。シングルマザーは長時間労働をしないと家庭を維持できる賃金を稼ぐことができない。しかし、長時間労働をすれば育児ができず、子どもが犠牲になる。そして多くの介護事業所は違法労働によって従業員の家庭が壊れることに無頓着だ。
  「その介護で無理に働いたことで、長女が不安定になりました。親の愛情が十分じゃなかったことが理由です。本当に申し訳ないと思っています。次女が適応障害になって不登校になったのは、それからしばらくしてだけど、私が当時家にいてあげられなかったことは大きいでしょう。自分の精神状態もどんどんおかしくなって、記憶が途切れるみたいなことが起こり始めたのもその頃からです。何もかもがおかしくなりました」
  不眠が始まって、何日か眠れないという状態が頻繁に起こる。執拗な頭痛とめまい、頭が痛くて視界が二重になる。耐え難い苦痛で、仕事は手につかない。病院に行くと脳脊髄液減少症と診断された。長時間労働と子育てに追われ、限界を超えて働いたことが理由だった。
  「続けるのは不可能だったので、訪問介護事業所は辞めました。一応、会社に事情は話しましたが、あまり興味ない感じで謝罪もねぎらいの言葉もなく、冷たく追い払われた感じです。ほかの仕事をしたくてもできる状態じゃない。わらにもすがる思いで役所と福祉事務所に行って生活保護を受けることにしました。
長女は非行に走り、次女は登校拒否
生活保護を受給して自宅で療養したが、壊れた家族が元に戻ることはなかった。長女は地元の似たような境遇の仲間とつるむようになり、非行に走った。なんとかしようと長女とは何度もぶつかった。「男にだまされるあんたが悪い」と何度もなじられた。次女は小学校1年で登校拒否となった。7歳から外にでることを怖がり、学校にほとんど行かなくなった。19歳になる現在まで、その状態が続いている。
  そして山内さんは向精神薬によってどんどんと状態はおかしくなり、完全に破壊されてしまった。
  「自殺は何度も何度も考えました。実際に自殺未遂は何度もしていますし。でも今思うのは、私にできることは絶対に死んではいけないってこと。私が逃げてしまったら、おそらく次女は後追いします。それだけは親として許されないし、現実とか生きることから逃げてはいけないと思うのです」
  長女は成人して家を出て、現在は他県で恋人と同棲する。すっかり落ち着き、たまに連絡がある。長男はコツコツと勉強して奨学金をフルで借り、中堅大学に進学して勉強を続けている。1日でも早く家を出ることを望み、深夜にアルバイトをしておカネを貯めているという。そして次女だけが負のスパイラルから抜け出せずにいる。
■生活保護から抜けて普通になりたい
 「私も次女も望んでいるのは、やっぱり生活保護から抜けて普通になりたいということです。人様の税金で生かされて、自分が健康だったらそれはズルいと思うだろうし、抜けたい、人に迷惑をかけたくないという気持ちは強くあります」
  今月。10年間以上、引きこもる次女は腹をくくってアルバイトを始める。近所のレストランの厨房に面接に行き、来週から仕事をすることが決まった。山内さんも生活保護から抜けることを最大の目標にする。とてもフルで働ける健康状態ではないが、「登録ヘルパーに戻って少しずつ働く」と決めている。週1~2日、薬を飲んで3~4時間働くのが現在できることの精いっぱいだ。
  彼女が抱える現実はまさに地獄だった――ただ絶対に逃げない、それが子どもたちのためにできるたったひとつのことだから。
 本連載では貧困や生活苦でお悩みの方からの情報をお待ちしております(詳細は個別に取材させていただきます)。こちらのフォームにご記入ください。
【TPP、米抜き現実味 雲散霧消避けたい日本…他の参加国は思惑異なる】
(SankeiBiz、12・10・08:15)
 環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は9日、域内2位の経済力を持つ日本が承認手続きを終えたことで、かろうじて命脈を保った。政府は他の参加各国にも批准を呼び掛け、離脱を表明したトランプ次期米大統領の翻意に期待をつなぐ。ただ、米国の不在が長引けば発効に向けた期待感が薄れるのは避けられず、TPP以外の枠組みを目指す機運が高まる可能性がある。
  「説得に数年かかるかもしれないが、日本は絶対にTPPを諦めない」。経済官庁幹部はトランプ氏が来年1月の就任初日に離脱を通知すると表明した後も、翻意を求め続ける構えだ。
  TPPは、工業製品の関税を最終的に99.9%撤廃するなど高レベルの貿易自由化に加え、投資や知的財産などのルールも定めた包括的な協定。既に多くの分野で関税を撤廃している日本には、輸出や投資拡大が見込める有利な枠組みだ。
  欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)や、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)など、日本が関わる他の通商交渉でも事実上の指標になる。たとえ発効が絶望的になっても雲散霧消だけは避けたい。
  ただ、他の参加国の思惑は異なる。シンガポールのリー首相は、米国が離脱するなら「アジアの貿易圏構築に中国が関与するのは当然だ」と指摘し、新たな枠組みを検討する構えだ。
  そこで注目を浴びるのが、中国などが主導し、米国は参加しないRCEP。実現すれば日本の輸出企業が払う関税負担が2兆円弱軽減できるとの試算もある。
  だが、各国の発展レベルの差を許容した緩やかな経済協力を志向するため、自由化レベルはTPPより落ちる見込み。アジア太平洋地域で中国の影響力が強まる“副作用”も指摘される。
  また、トランプ氏が強硬姿勢を貫けば米国抜きのTPPも現実味を帯びる。再協議で発効規定を書き換えれば技術的には可能だ。もっとも、日本単独で14兆円の国内総生産(GDP)拡大を見込む巨大な経済効果は半減する見通しで、「意味がない」(安倍晋三首相)。
  日本は当面、大詰めを迎えたEUとのEPA交渉で妥結を急ぎ、自由貿易推進の機運を保ちたい考え。しかし、TPP合意で巨大自由貿易協定(メガFTA)が一気に広がると期待が高まった1年前と比べ、状況は暗転した。通商戦略をどう立て直すのか、トランプ氏の出方をうかがいながら手探りの検討が続きそうだ
【<福島原発>処理費倍増 国・東電見通し甘く国民負担増懸念】
(毎日、12・9・21:54)
 経済産業省は9日、東京電力福島第1原発事故の処理費用が、従来の見込み(11兆円)の約2倍となる21・5兆円に膨らむとの試算を公表。追加費用を電気料金への上乗せや税金などで賄う方針を提言案に明記した。当初の見通しの甘さを露呈した形だが、東電の自力負担が前提の廃炉費などは今後も膨らむ可能性があり、国民負担はさらに増す恐れもある。
 21.5兆円は東電福島第1原発事故の廃炉、賠償、除染、中間貯蔵に必要な費用の試算。廃炉では「溶けて固まった燃料(燃料デブリ)の取り出しに要する資金の試算が困難」であるほか、賠償は「商工業や農林漁業に関する営業損害、風評被害の収束の遅れ」、除染は労務費などの上昇が響いた。
  世耕弘成経産相は9日の閣議後記者会見で「福島第1原発事故はわが国が経験したことがない未曽有の災害で、限られた知見の中では予測することが難しかった部分がある。作業が進捗(しんちょく)する中で、資金を確保する必要があるという判断に至った」と当初の見通しが甘かったことを認めた。
 「今回、きちんと金額を出してもらったが、当初予想の倍だ。今後、本当にこの金額で終わるのだろうかと、逆に不安に思ってしまう」(日本消費生活アドバイザー・コンサルタント・相談員協会の大石美奈子理事)。経産省が9日開いた有識者会議「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」では、廃炉や賠償費用などが大幅に増えたことに委員から疑問の声が上がった。
  福島第1原発の廃炉費用は東電の負担となったが、同原発事故の賠償と除染、中間貯蔵に必要な費用は、政府の「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が交付国債で立て替える仕組み。賠償費用については大手電力に加え、原発を持たない新電力も同機構への「一般負担金」として返済することになる。新電力は大手電力の送電線を使う際の利用料(託送料)に上乗せして負担するため、消費者の電気料金は値上げとなる。
 除染の費用は国が保有した東電株を将来、売却して充てるが、東電株の値上がりが前提となっており、政府の思惑通りになるかは未知数だ。中間貯蔵はエネルギー関連の税金で負担する。「これから問題が出てくるたびに、託送料に乗せることになったらかなわない。託送料への上乗せは本来はあってはならないこと。今回を最後にしてもらいたい」。東京大学の松村敏弘教授は、託送料を通じた国民負担の増大に懸念を表明した。
 
  ◇廃炉費、さらに増加も
 福島第1原発事故の廃炉費は「8兆円」との見積もりが示された。2013年時点で想定した2兆円の4倍にも上るが、新たに設置される基金に収益を積み立てる形で、東電が引き続き自力で負担する。東電は原発や送配電など事業ごとに他社と提携・統合して収益性を高める考えだが、思惑通り相手が見つかるかは見通せない。
  東電の経営再建策を話し合う経産省の有識者会議「東京電力改革・1F問題委員会」(東電委員会)では、まず送配電事業のコスト削減や柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働に取り組んだ後、事業ごとの提携・統合を東電に提言すると決めた。東電側も、送配電事業では需給調整機能の統合から始め、施設の統廃合などに踏み込む案などを東電委に示した。
 だが、実質国有化されている東電と組むことに、大手電力は「国主導で福島原発事故処理に巻き込まれかねない」と警戒感を持つ。柏崎刈羽原発の再稼働も新潟県の米山隆一知事が慎重な姿勢を示している。東電委のシナリオ通りに再建が進む保証はない。
  廃炉費用がさらに膨らむ可能性もある。福島第1原発1~3号機は、原子炉内の詳細な様子すら分かっておらず、燃料デブリを取り出す工法も確立されていない。8兆円は有識者からの聞き取りをもとに、「米スリーマイル島原発事故(1979年)時の廃炉費などから算出した数値」(経産省)でしかなく、「これまでの支払い実績などで一定の蓋然(がいぜん)性がある賠償や除染の試算とは性格が違う」(同)のが実態だ。
 東電委での議論は、7月に東電が「廃炉は世界でも未踏の分野に入る」(数土文夫・東電ホールディングス会長)と強調し、国に支援を要請したのが発端だった。廃炉費がかさむ一方で東電が提携先を見つけられなければ、廃炉費用の国民負担が現実味を帯びる。
【廃炉に外国人「我々がやるしかない」 被ばくに不安の声】
(毎日、16・11・7・08:00)
東京電力が廃炉を進める福島第1原発の過酷な最前線で、外国人が働いていた。「日本人がやらないなら、外国人がやるしかないと思った」。汚染水貯蔵タンクの建設に従事した日系ブラジル人の男性は言った。彼らは、必要な人数がそろわない日本人の穴を埋めていた
 「福島第1原発について私は皆さんに約束する。状況はコントロールされている」。安倍晋三首相は五輪招致に向けて2013年9月、国際オリンピック委員会の総会で力説した。第1原発ではその前月、鋼材をボルトでつなぐフランジ型のタンクから汚染水約300トンが漏れ出た。
 現場は増え続ける汚染水と格闘していた。政府は溶接型タンクの増設を指示し、東電は大手ゼネコンに発注。2次下請けに入った東京の溶接会社は13年11月ごろ、半年で約50基建設という日程的に厳しい作業に着手した。
 溶接会社の社長は取材に「当初は原発で働く予定だった日本人従業員も、直前に家族の反対で断念した。(ぎりぎりの要員で)毎日が戦争状態だった」と証言。「日本人溶接工三十数人を集めたが、技量不足で半数を入れ替えた」と話す。
 「外国人がやるしかない」と語った津市在住の溶接工、石川剛ホーニーさん(43)はブラジル生まれの日系2世で日本に移って日本国籍を取得。外国人作業員たちのまとめ役を務めた。彼らも日系2、3世やその配偶者で就労制限はなかった。
 石川さんは14年1月に初めて第1原発に入り、目を疑った。汚染水の円柱タンク(高さ、直径とも約10メートル)は、分割された約20個の部材を溶接でつなぎ合わせて作る。だが、現場に集められた日本人作業員の多くは高齢で溶接の技量が低く、作業は進まなかった。
 最初のころはタンクの残り容量に余裕がなく、突貫工事を強いられた。トイレに行く時間も惜しく、現場で用を足した。外国人作業員をタンク上部の足場に残したまま、下部で溶接の火花から引火したとみられるボヤ騒ぎも起きたという。
日当は通常の約1.5倍。「一緒に働く外国人から、被ばくしたら補償はあるのかと不安の声も上がった。こちらは『この日当は他では出ない』と報酬の話をするしかなかった」と振り返った。
 外国人作業員のうち40代の日系ブラジル人男性が取材に応じた。石川さんから作業を請け負った後も有期で別の会社に雇われ、日本人が次々去る現場で約1年間タンク建設に携わった。「(廃炉作業に)日系人が入ったのは私たちが初めてだと思う。その後は他のグループが溶接以外の現場にも入るようになった」と話す。
 事前に放射線防護教育も受けた。内容は核燃料物質の知識や放射線の身体への影響、関係法令など。労働安全衛生法の規則に基づき原子力施設で働く作業員に雇用主が行うが、第1原発では東電が元請け企業などを支援する立場でテキストを作り、実施する。男性は「日本人と同じ講義で通訳もなく、漢字の形を暗記した」と話す。
 外国人作業員のうち何人かは、別の元請けの下でも外国人グループを組んで働いた。そこに加わった別の40代日系ブラジル人男性はこう説明した。「グループは10人くらいで、約25基を作った。作業中の会話はポルトガル語で、構内放送があると日本語ができる作業員が苦手な作業員に意味を教えていた。
 
福島第1原発の汚染水
 山側から大量の地下水が原子炉建屋に流れ込み、溶けた核燃料に触れるなどして放射性汚染水が発生している。東京電力は昨年9月から建屋への流入前に地下水をくみ上げて海に放出し、流入量は1日約400トンから一時は約150トンに減った。だが、降雨の影響で再び増え、現在1日300~400トンで推移する。貯蔵タンクはフランジ型から溶接型に順次建て替え、計約1000基(容量約100万トン)に上る
【翁長沖縄知事が就任2年 3つのキーワードで読み解く基地問題】
(沖縄タイムズ、16・12・10・09:40)
 沖縄県の翁長雄志知事は10日、就任から2年を迎えた。任期の折り返し地点に差し掛かった翁長県政。辺野古新基地建設の阻止が膠着(こうちゃく)する一方、完全失業率や有効求人倍率など、主要な雇用関連指標が大きく改善している。一方、県内は子どもの貧困率が29・9%と全国平均の倍近くに達することが判明し、貧困対策が急務となっている。沖縄振興計画は次年度から後期5年となり、県民所得の向上など住民が豊かさを実感できる県づくりへの手腕が試される。
1:<4つの訴訟>県上告 最高裁判断に注目
 就任から約10カ月が経過した2015年10月13日、翁長雄志知事は名護市辺野古への新基地建設を阻止するため辺野古沿岸部の埋め立て承認を取り消した。「前知事の承認には瑕疵(かし)がある」との理由からだ。以来、国と県は四つの訴訟で争ってきた。
  知事の承認取り消しに対し、国は即座に対抗策に打って出た。翌14日、沖縄防衛局は公有水面埋立法を所管する国土交通相へ審査請求と執行停止を申し立て、国交相は同じ政府機関の申し立てを認め、知事の取り消し効力を停止した。知事の承認取り消しから2週間後には、防衛局は埋め立て工事を再開できる状況になった。10月29日、防衛局は工事に着手した。
  一方、県は執行停止を不服として総務省の第三者機関「国地方係争処理委員会(係争委)」へ審査を申し出た。
  国の方針に応じない姿勢をみせる翁長知事に対し、国は強権的な手法に出る。11月17日、知事に代わって承認取り消しの撤回を求める代執行訴訟を提起した。 代執行訴訟では、国は知事の新基地建設阻止の意思が固いとし「代執行以外で違法な承認取り消し処分を取り消すことは困難」と主張。県側は「国から独立した行政主体としての判断が尊重されなければならず、国は代執行の前に取り得る手続きを経ていない」と反論した。
  代執行訴訟と並行して、国と県は「抗告訴訟」と「係争委不服訴訟」でも争った。12月24日、係争委は県の審査申し出を却下。これを受け県は翌25日に執行停止決定の取り消しを求める抗告訴訟を那覇地裁に提起。係争委の判断も不服として、訴訟で国の関与取り消しを求めた。
  承認取り消しを巡り訴訟が相次ぐ中、16年1月29日、代執行訴訟の第3回口頭弁論で多見谷寿郎裁判長は和解を勧告。「普天間飛行場の返還について協力して米国と話し合うべきだ」とするA案(根本案)と「訴訟の一方で円満解決に向けた努力をする」としたB案(暫定案)を示し、国と県は3月4日、B案を柱とする案で和解した。
  和解条項に基づき、国は残りの訴訟や防衛局の執行停止申し立てを取り下げる一方、承認取り消しの撤回を求めて県に是正を指示。係争委を経て7月22日、国交相は「是正指示に従わないのは違法」として知事を再び訴えた。
  違法確認訴訟で9月16日、一審・福岡高裁那覇支部は「承認には裁量権の逸脱や乱用はない」と指摘。「承認取り消しは違法であり、是正指示に従って承認取り消しを撤回しないのは違法」と結論付け、県が敗訴した。知事は最高裁へ上告。現在、最高裁が上告と上告受理申し立てを受理するか、注目が集まっている。
 
2:<2度の訪米>議員らと面談「手応え」
 米軍普天間飛行場の早期返還と名護市辺野古の新基地建設反対を訴えるため、翁長知事は2年間で2回訪米し、辺野古断念を直訴した。
  初の訪米は15年5月。ハワイでデービッド・イゲ州知事、ワシントンでは上下両院議員、シンクタンク研究者、国務省の日本部長ら計15人と面談した。沖縄の基地集中の歴史や過重負担の不平等性などを訴えた知事は「大きな成果があった」と強調した。
  ただ、米国内には辺野古新基地問題は「日本の国内問題」と冷ややかに見る向きが根強く、米側は普天間問題は「決着済み」と従来の姿勢を崩さなかった。
  1年後のことし5月に世界のウチナーンチュ大会のPRで訪米した知事は、連邦議員や研究者ら12人と意見交換。米側から「辺野古が唯一」との言葉が出なかったことに対し、知事が「少しずつ糸がほぐれる思いがした」と述べるように、前年に比べ手応えを感じていた。
  米有力議員のコクラン上院歳出委員長は面談後、「基地を抱える地元の声を直接聞く機会は貴重だった。何ができるか検討したい」と本紙に述べた。元米副大統領で駐日大使を務めたウォルター・モンデール氏は知事との会談で米軍による強制接収の歴史に触れ「大変申し訳ない」と語った。
  知事は、次期米大統領のトランプ氏との会談を希望しており、来年2月にも訪米し、辺野古新基地建設の断念を直訴する考えだ。
3:<国連演説>基地問題を世界へ訴え
 翁長知事は15年9月、スイス・ジュネーブの国連人権理事会に出席し、「沖縄の人々の自己決定権がないがしろにされている辺野古の状況を、世界中から関心を持って見てほしい」と演説した。国連演説は知事選時の公約で、日本の都道府県知事としては初めて。世界に向け、沖縄の基地問題の発信を狙った。
  知事は演説で、沖縄の米軍基地は沖縄戦以降に土地を強制接収され、建設されたと歴史を説明。「自ら望んで土地を提供したことはない」と、沖縄の人たちの意思に関係なく、基地が存在する不条理を訴えた。
  また、国土面積の0・6%の沖縄に在日米軍専用施設の73・8%が集中するため、事件・事故や環境問題など、県民生活に大きな影響を与えると指摘。「沖縄の人々の自己決定権や人権はないがしろにされている」と理解を求めた。
【「磁気カードの弱点」突いたATM14億円引き出し】
(毎日プレミアム、ニッポン金融ウラの裏)
【廃炉費用を国民負担に 電力政策小委報告書 福島第一以外も】
(東京、16・12・17)
経済産業省は十六日、有識者会合「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」を開き、これまでの議論を踏まえた報告書をまとめた。東京電力福島第一原発事故の賠償費用や、ほかの原発の廃炉費用の一部を国民の電気料金に上乗せする一方で、原発を持たない新規参入の電力会社(新電力)が原発でつくった電力を利用しやすくすることなどを盛り込んだ。
 既に福島第一原発の事故処理に必要と見積もった21兆5千億円のほとんどを、国民の電気料金から回収する方針が固まっていた。この日の委員会では、二十一兆五千億円のうち、二兆四千億円は「原発事故に備え、過去に電気料金に上乗せしておくべきだった費用」という「過去分」と位置付け、電気料金への上乗せを正式に決定。二〇二〇年から四十年にわたって電気料金に乗せ続ける。
 福島第一以外の原発についても、稼働から原則四十年で廃炉にする計画より早く廃炉が決まった場合は、費用の一部を国民が払う電気料金に上乗せすることにした。廃炉に必要な費用を国民に広く負担させる一方で、原発などでつくった電力を集めた「ベースロード(基幹)電源市場」をつくり、ここから新電力が電気を調達できるようにする。新電力は売れる電力が増えるが、原発でつくった電力を使いたくない消費者は、選択肢が狭まる。
 経産省は年内に報告書についての意見の公募を始めるが、内容は変えない。
廃炉積み立て 不足分電気料金
 十六日の「電力システム改革貫徹のための政策小委員会」では、計画より早く廃炉が決まった原発のために国民負担を求めることも決まった。福島第一原発の処理に必要とされる二十一兆五千億円の陰に隠れがちだが、事故を起こしていない原発の費用も電気料金に上乗せされる。
 原発の廃炉に必要な費用は、あらかじめ見積もった資金を四十年ほどかけて積み立てる。しかし福島第一原発の事故を受けて原発への規制が強まり、関西電力美浜原発1、2号機など六基が早期の廃炉を決めた。
 この六基の積み立て不足などの費用は計約千八百億円(二〇一六年三月末時点)。経産省は「円滑な廃炉を支援する」とし、二〇年から電気料金に分割して上乗せできるようにする。電力各社の管内の住民は、原発を持たない新電力の契約者であっても、これを負担せねばならない。
 さらに全ての原発について、廃炉にかかる費用が事前の見積額を上回る場合は、電気料金に上乗せできるようにする。現在の見積額は一定の仮定を用いた計算式で機械的に算出するため、実際の費用は見積額を上回る可能性があるからだ。福島第一だけでなく、ほかの原発についても国民負担の上限は見えていない。
【<原発避難者の子いじめ>連絡会が発表した声明(要旨)】
(毎日、16・12・23・20:11)
原発被害者訴訟原告団全国連絡会(2016年12月22日)
胸が痛むいじめ事件
横浜市の事例をはじめとして、各地に避難している原発避難者の子どもに対するいじめ事件が報道されています。
  私たちは、「いじめ」の連鎖に深い悲しみと怒りに打ちひしがれています。どのような理由であれ、いじめは絶対に許されるものではないことを訴えます。学校は子どもたちの成長や悩みに寄り添い、すこやかな人格形成を進める場であってほしいと願います。
 残念なことに、報道された原発避難者の子どもに対するいじめは氷山の一角です。子どものみならず、大人の世界でも、心ない仕打ちや嫌がらせが続いているのが実情です。全国21か所で提訴している私たちの裁判の中でも、多くの法廷で、子どもや大人に対するいじめや嫌がらせがあることが明らかにされています。
・避難地から福島に戻り、新しい学校に転校、少し新学期から遅れたために、いじめにあった。不登校になり、転校した。
・福島県民と分かると差別されるので、出身地を言えない。隠れるように生活している。
・福島から来ましたとあいさつしたら、あなたとはおつきあいできませんと言われた。
  このような事態が生じてしまう根底には、残念ながら、以下のとおり、原発事故による被害者が置かれた現状に対する周囲の理解不足があると感じています。
原発事故による避難者が置かれた現状
 原発避難者は、原発事故そのものによる被害を受けたばかりか、被害区域の線引きによる「分断」、不当な「帰還政策」による被害者の切り捨てによって、さらに苦しめられています。
  被害補償の打ち切りによって不本意な帰還を余儀なくされ、他方では避難区域外からの避難者は、現に避難生活が続いているのに、何の保障も得られず、困窮に陥るという事態が生じたのです。
  さらに昨年から、国と東京電力は
【「帰還強要」政策を強めました。来年3月には帰還困難区域を除いた避難区域を解除し、併せて賠償と住宅支援打ち切り】
という被害者の切り捨てを強行しようとしており、福島県もそれを容認しています。
 他方で、帰還困難区域についても、復興支援住宅などへの「定住」を求める政策が始まっています。これらは、「もう安全だから避難など認めない」か、「もう戻れないのだから移住しろ」という両面によって、「避難者をいなくする=抹消する」ことを目論む政策と言わざるを得ません。
  その「論拠」として言われているのが「20ミリシーベルト以下の放射線被ばくには健康への影響はない、がんの発症率は、喫煙、肥満、野菜不足のほうが高い」などという
【「20ミリシーベルト安全論」です。しかし、ICRP(国際放射線防護委員会)】
の見解では、100ミリシーベルト以下においても、被ばくした線量に応じた影響があるとされています。それにもかかわらず、国と東京電力は、あたかも福島県全土が放射能汚染から解き放たれた安全な地域になった、帰らないほうが悪いと思わせようとする政策をとり続けているのです。
  こうした意図による「復興政策」のために、困難な避難生活をしている被害者が一層困難な状況に追いやられていることを、どうかご理解頂きたいと思います。
 
深刻な被害の継続と、国と東電の明白な加害責任
 各地における被害者を原告にした裁判を通じて、避難区域からの強制避難者も避難区域外からの避難者も同様に、避難生活による著しい生活阻害による苦痛が今も続いていること、そして、「故郷(ふるさと)の喪失」という深刻な被害が生じていることが明らかになっています。
  被災者の多くは、懐かしい町で家庭を築き、学び、働き、地域の暖かな交流の中で過ごしてきたのです。そうした大切な故郷に戻れないということは、耐えがたい事態です。
  多くの被害者は皆、故郷を深く愛しているけれども、避難をする必要があるので避難を続けているのです。誰が、深く愛している故郷を、理由もなく離れることができるでしょうか。被ばくを避けるためにやむを得ず行っている避難生活について、心ない批判や理不尽な仕打ちを受けることは、まことに残念な事態です。
 
私たちは訴えます
 子どもの社会で起きていることは、大人の社会を映し出している鏡のようなものです。子ども達に対するいじめがあってはならないことはもちろんですが、これを子どもだけの問題として捉えるのでは不十分です。私たちは、上記のとおり、やむを得ず故郷を失い、困難な避難生活を送っている深刻な被害、あるいは今も日々被ばくの不安にさらされている被害の実相について、多くの国民のみなさんのご理解を切に願うものです。それが、原発事故を二度と起こさないための、そして被害者への二重の侵害となるいじめを繰り返さないために必要な礎になると信じます。
  みなさまのご理解と温かいご支援をお願いいたします。
        以上
【原発避難でいじめ、原告団が声明「報道は氷山の一角」「大人の世界でも嫌がらせ】
(弁護士ドットコム、16・12・22)
 東京電力福島第一原子力発電所の事故後、福島県から避難した子どものいじめ被害が各地で発覚したことを受けて、原発被害者訴訟原告団全国連絡会が12月22日、声明を発表した。「報道された原発避難者の子どもに対するいじめは氷山の一角」「子どものみならず、大人の世界でも、心ない仕打ちや嫌がらせという事態が続いているのが実情」と事態の深刻さを指摘している。
 声明によると、裁判の中でも、「福島県民と分かると差別されるので、出身地を言えない」などの事例があげられており、「被害者である避難者が、被ばくを避けるためにやむを得ず行なっている避難生活について、心ない批判や理不尽な仕打ちを受けることは、まことに残念な事態です」と言及している。
同日、東京・霞が関の司法記者クラブで開かれた記者会見で、東京原告団長の鴨下祐也さんは「放射能とか菌と呼ばれたり、『タダで東京に住んでいるのか』と言われたという事例も聞いている。賠償金は取り返しのつかない汚染をした償いで支払われていて、宝くじが当たったというような性質ではないのに、お金が転がり込んできたという認識をされているのではないか」と述べた。
 同連絡会事務局長の佐藤三男さんは「特定のいじめの犯人探しをするのではなく、いじめの背景にある原発被害者の実態を知って理解を深めてほしい」「子どもだけではなく、被害者全体に対する差別、いじめが起きていると捉えてほしい」と話していた。
【日本との慰安婦合意交渉文書 一部公開命じる判決=韓国裁判所】
(聯合ニュース、17・1・6・17:33)
ソウル聯合ニュース】韓国の弁護士団体「民主社会のための弁護士会」の宋基昊(ソン・ギホ)弁護士が外交部を相手取り、旧日本軍の慰安婦問題をめぐる2015年末の韓日合意の交渉に関する文書の一部を公開するよう求めた訴訟で、ソウル行政裁判所行政6部は6日、文書を公開するよう言い渡した。
 判決が確定する場合、外交部は日本との交渉で日本軍と官憲の強制連行を認めるかどうかを協議した文書を公開しなければならない。第1~12回の局長級協議の全文などが該当する。
 判決は「情報公開法の目的は国民の知る権利を保障し、国政運営の透明性を確保するためのもの」とした上で、「慰安婦被害者問題は被害者個人では決して消し切れない人間の尊厳性侵害、身体自由の剥奪という問題であり、韓国国民の慰安婦被害者を守れず、しっかり面倒をみられなかったことへの意識、もしくは責任感の問題で、事案の重要性が大きい」と指摘。「慰安婦合意でこの問題が最終的・不可逆的に解決されるのなら、被害者だけでなく韓国の国民は日本政府がいかなる理由で謝罪と支援をするのか、その合意過程がどのような方法で行われたかを知る必要がある」とした。
 また、「日本は慰安婦合意に至る過程で、韓日外交当局の過去の協議内容を詳しく紹介し、外交慣行に反した前例もある」とも指摘した。これは韓国政府だけが非公開にする必要はないとの意味に受け止められる。
 宋弁護士は両国が合意の発表で「軍の関与」との用語を選択し、その意味を協議した文書、「性奴隷」「日本軍慰安婦」などの用語使用について協議した文書まで公開するよう求めていたが、裁判を進める中で争点を強制連行を認めるかどうかについて協議した文書に絞った。
 一方、同団体が大統領秘書室長を相手取り、朴槿恵(パク・クネ)大統領と安倍晋三首相の電話会談の内容を公開するよう求めた訴訟で、ソウル行政裁判所行政1部は「外交的、政治的な攻防の対象になる憂慮が大きく、今後の他国との首脳会談でも韓国政府の信頼性にとって大きなダメージとなり、外交交渉力が弱まりかねない」として棄却した。
【<水俣病>「補償協定ザルに水」…チッソ内部メモ発見】
(毎日新聞 1/7(土) 21:33配信)
◇政府、認定抑制図る
 水俣病の原因企業チッソが患者補償の負担軽減で、1978年に公的な財政支援を受けるまでの経緯をまとめた同社の内部メモが見つかり、7日に熊本県水俣市であった水俣病の研究集会で発表された。
 
 政府高官が補償支払いを減らすよう求めた発言も記録され、専門家はチッソ支援と合わせ患者認定の抑制が図られたことを示す重要な資料としている。
 メモは77~89年にチッソ副社長を務めた久我正一氏(故人)が、相談役退任後の93年3月に作成し同社に提出した。チッソ経営史を研究している「技術と社会」資料館(東京)の矢作正(やはぎただし)館長が写しを入手した。
 水俣病の患者補償を巡っては73年、水俣病第1次訴訟で患者側勝訴の判決確定後、チッソが患者に1600万~1800万円の慰謝料などを支払う補償協定が締結された。
 認定申請が急増し、支払い困難に陥ったチッソが国や熊本県に支援を求めた。メモは77年1月以降の経緯を記している。

 メモによると、77年秋に、当時の福田赳夫内閣の官房副長官が地元衆院議員の名を挙げ「先生をかついでもっと派手に騒がせよ」とチッソ側に指示。78年1月にも、元環境庁事務次官が「(チッソ救済は)水俣市の存亡にかかわるとして社会問題化させないと容易でないぞ」と発言していた。
 一方、77年7月には旧環境庁が複数の症状の組み合わせを要件とする認定基準を策定。認定申請の棄却が相次ぎ、被害者団体は「患者切り捨て」と批判している。メモには基準策定に直接触れた記述はないものの、78年に内閣官房の高官らの「補償協定の改定をせよ。今のままでは、ザルに水を注ぐがごとしだ」「補償金支出の歯止めが欠落している」といった発言が並び、補償の減額や認定審査の厳格化が必要とする政府側の意向がうかがえる。
  こうした経過の末、78年6月、熊本県が地方債を発行してチッソに貸し付け、補償金支払いに充てる救済策が閣議了解された。チッソ総務部広報室はメモについて「申し上げることはありません」としている。
大阪市立大の除本理史(よけもとまさふみ)教授(環境政策論)は「チッソへの支援と患者絞り込みが一体であることは指摘されていたが、それが裏付けられた。東京電力福島第1原発事故でもチッソのケースが参考にされており、資料からは企業支援のあり方についてさまざまな論点が浮かび上がる」としている。笠井光俊
【坂本しのぶさん】
(毎日新聞2016年11月12日 西部夕刊)
【「10億円は少女像撤去の対価」は偽り…慰安婦被害者の傷を癒やすため(2
1)(2)】
岸田文雄外相が8日(現地時間)、チェコ訪問中の記者らに会い、日本政府が慰安婦被害者支援のための和解・癒やし財団に10億円を拠出した事実を浮き彫りにした。「日本は(韓日間慰安婦合意を)履行しており、韓国側に対し、少女像の問題も含め、合意内容の着実な実施を求めたい」と述べながらだ。
  安倍晋三首相も8日、NHKの番組「日曜討論」で「日本は10億円の拠出を既に行った。次は韓国がしっかり誠意を示していただかなければならない」と述べた。あたかも「10億円が少女像撤去の対価」であるかのように話している。果たしてこうした主張は事実なのか。韓日間の12・28慰安婦合意に関してQ&A方式で整理してみる。
  Q=12・28合意で韓国は少女像撤去を約束したのか。
  A=そうではない。尹炳世(ユン・ビョンセ)外交部長官は2015年12月28日、岸田外相との共同記者会見で次の通り明らかにした。「韓国政府は日本政府が在韓日本大使館前の少女像に対して公館の安寧・威厳の維持という観点で憂慮しているという点を認知し、韓国政府も可能な対応の方向について関連団体との協議などを通じて適切に解決されるように努力する」。ここで『解決』が事実上撤去を意味するものではないかという指摘もある。しかし政府はその後、『少女像は民間が設置したものであり、政府があれこれと言える問題でない。合意文のそれ以上でもそれ以下でもない』という立場を維持してきた。当時、外交部北東アジア局長として交渉の実務を引き受けたイ・サンドク駐シンガポール大使は昨年9月、国会外交統一委員会国政監査に証人として出席し、「少女像は民間が自発的に設置したものであり、地方自治体が許認可したものなので、我々は関与できず、そのような表現を使った」と述べた。少女像に関して裏面合意も存在しない。裏面合意があるのなら、すでに日本政府はマスコミを使って圧力を加えたはずだ。
  Q=10億円の拠出と少女像問題は関係があるのか。
  A=偽りだ。岸田外相は合意直後の共同記者会見で「韓国政府がすべての慰安婦の方々への支援を目的とする財団を設立し、これに日本政府の予算で資金を一括で拠出する」とし「規模はおおむね10億円程度を想定している」と述べた。当時、岸田外相が明らかにした10億円の拠出は少女像の撤去でなく慰安婦被害者の「心の傷を癒やす措置」を講じるためのものだった。
(中央日報日本語版 1/10(火) 7:59配信 )
Q=日本は10億円の拠出で合意上の義務を果たしたのか。
 A=半分だけが真実だ。12・28合意は「日本が10億円を拠出し、慰安婦被害者の名誉と尊厳の回復に資する心の傷を癒やすための事業に使う措置を履行する場合、韓国政府はこの問題が最終的かつ不可逆的に解決されることを確認する」となっている。合意の文面上、日本側がするべき明示的な義務は10億円の拠出がすべてだ。しかし日本の主張のように10億円を出したことで合意を忠実に履行したと見ることはできないというのが専門家らの指摘だ。被害者に日本側の謝罪メッセージを伝える案について安倍首相が「毛頭考えていない」(10月)と述べたのが代表的な例だ。国民大の李元徳(イ・ウォンドク)日本学研究所長は「12・28合意の本質は日本政府が責任を認めて謝罪と反省をしたものであり、安倍首相のこのような発言は事実上の合意否定」とし「お金を出したから終わりというような態度は合意の精神に外れる」と述べた。
 Q=日本が出した10億円は返せるのか。
 A=可能ではある。ただ、被害者から現金を返してもらわなければいけない。生存者には1億ウォン、死亡者の遺族には2000万ウォンずつ支給するのが両国の合意だった。和解・癒やし財団によると、12・28合意当時、生存者46人を基準に受領の意思を明らかにした被害者は34人だった。現在まで31人に対して1億ウォンずつ支給を完了した。亡くなった被害者は199人であり、うち35人が現金受領意思を表した。財団は6月30日まで受け付け、理事会の審議などを経て現金を伝える予定だ。
【「日本の外相だと思った」…ユン・ビョンセ長官「釜山少女像の撤去・移転」を主張】
(ハンギョレ新聞 1/14(土) 10:14配信 )
「公館前の造形物は望ましくない」 ユン外交長官、国会外交通商委員会で主張 与野党議員から非難の嵐 少女像推進委員会「ユン長官は辞任せよ」
 ユン・ビョンセ外交部長官は、昨年12月30日に設置された釜山(プサン)日本領事館前の「平和の少女像」と関連して、「国際社会では外交公館や領事公館の前に施設や造形物を設置することは望ましくないというのが一般的立場」だと話した。
  ユン長官は13日、国会外交統一委員会に出席し「釜山少女像の問題は関連当事者と共に可能な解決方案を探すよう努力する」として、このように話した。事実上、釜山日本領事館前の少女像を他所に移さなければならないという主張であり、波紋が予想される。
  日本の公館前の少女像が「外交関係に関するウィーン協約」で「不可侵」領域と規定した「公館地域」の安寧や品位をかく乱・損傷させるかは比較する先例がなく、多数説は存在しないことから、ユン長官の主張は一方的だ。「少女像」の設置は大韓民国憲法が規定した「表現の自由」に該当するもので、公館の安寧や品位より上位の価値でもある。
  ユン長官はまた、韓日政府の日本軍「慰安婦」被害者問題に関連した12・28合意を「私たちが願う解決方案に最も近接した結果」だと自賛した後、「合意が最近の状況(釜山少女像の設置)により破棄されるならば、韓日関係と韓国の対外信用度の墜落など、国益に深刻な影響を与える恐れがある」と主張して、議員たちのひんしゅくを買った。
  共に民主党のカン・チャンイル議員は「私は日本外相が書いたものかと思ったが、大韓民国のユン・ビョンセ長官の報告書だった」としたうえで、「加害者は日本なのに、破棄される場合、韓国の国益に影響を及ぼすというのはどういうことなのか」と問い詰めた。同党のイ・インヨン議員は「2015年12月の韓日慰安婦合意関連の交渉文書を公開せよ」という行政裁判所の判決に言及し、「韓日慰安婦合意過程における局長級会議録を公開せよ」と要求した。ユン長官は「手続きが進められている」として難色を示したが、度重なる要求に「1審判決(で公開する)」と答えた。与党のセヌリ党のユン・ヨンソク議員も「日本が10億円を拠出したことで、合意をすべて履行したかのような態度を取るのを到底納得できない」としたうえで、「合意文にひとこと言ったことで、日本が謝罪と反省をしたとは決して思わない」と話した。
  シム・ジェグォン外交通商委員長(共に民主党)は「(慰安婦の合意は)日本に免罪符を与えた、もう一度慰安婦被害者ハルモニ(おばあさん)たちを売り渡した売国的行為」だとしたうえで、「長官は辞任すべきだ。責任を取るべきだ」と強調した。
  日本領事館前に少女像を設置した「未来世代がたてる平和の少女像推進委員会」(推進委)は、ユン長官の発言に対して「日本軍“慰安婦”問題を解決するには、日本政府が心からの謝罪と法的賠償に出なければならない」として「日本の立場を代弁するユン長官は辞任せよ」と明らかにした。日本でこの知らせを聞いた韓国挺身隊問題対策協議会のユン・ミヒャン代表は「日本政府が流している“国際常識”をそのまま繰り返す外交部長官は辞任すべきだ」とし、「(慰安婦)被害者の側に立って彼女らを救済する常識を論じなければ、大韓民国の外交部長官とは言えない」と批判した。
「死ぬ権利」は必要なのか――尊厳死法制化の是非を問う
1/30(月) 14:45 配信
延命治療の選択をめぐっては様々な議論が重ねられてきた。2012年には超党派の議連により「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」(仮称)が公表されるなど、法制化に向けた動きも続いている。悔いのない最期を迎えるためには「死ぬ権利」を法で定めておくべきなのか。3人の識者に聞いた。(ライター・福島奈美子/Yahoo!ニュース編集部)
<医療現場の萎縮を解くには法制化が必要だ>
 鈴木裕也・日本尊厳死協会副理事長、医学博士
<法制化の先にあるのは看取りの「効率化」でしかない>
 川口有美子・一般社団法人日本ALS協会理事
<医療者が患者に「問いかける」ことの重要性>
 原井宏明・なごやメンタルクリニック院長
日本には現在、「尊厳死」の定義や手続きについて明確に規定した法律は存在しない。そのため、過去には、医師が患者の人工呼吸器を外した際に、その行為の適法性をめぐって警察が介入するケースが相次いだ。
法制化に向けた動きとしては、2012年に超党派の国会議員連盟により「終末期の医療における患者の意思の尊重に関する法律案」(仮称)が2案、公表されている。
内容は、患者が「回復の可能性がなく、かつ、死期が間近である」状況において、医師が患者の意思に基づいて延命治療を差し控えたり、中止したりした場合、「民事上、刑事上及び行政上の責任を問われない」という医師の免責を規定するものだ。しかし、いまだ国会提出には至っておらず、議論が続いている――。
2030年には、5人に1人が75歳以上という超高齢社会が到来する。
死や老いがより身近になっていくなかで、「尊厳死」のあり方についても法で定めておくべきなのか。「法制化は必要」とする日本尊厳死協会副理事長など、それぞれの立場から意見を聞いてみた。
<医療現場の萎縮を解くには法制化が必要だ>
鈴木裕也・日本尊厳死協会副理事長、医学博士
鈴木裕也(すずき・ゆたか)日本尊厳死協会副理事長・同関東甲信越支部理事。医学博士。慶應義塾大学医学部・同大学院卒業後、埼玉メディカルセンター他に勤める。内科医として糖尿病の早期発見と治療、合併症の進展防止に向けた予防活動などを行うほか、心療内科医として、拒食症、過食症の治療を手がける。埼玉社会保険病院名誉院長。(撮影:岡村大輔)
私たち日本尊厳死協会(以下、尊厳死協会)は、1976年につくられて以来、ずっと「尊厳ある自然な死を選ぶ権利」の確立を社会に訴えてきました。
世間ではいまだに誤解されやすいのですが、日本における「尊厳死」は、薬物などを使って死期を積極的に早める「安楽死」とは別物です。尊厳死協会では「不治で末期に至った患者が、本人の意思に基づいて、死期を単に引き延ばすためだけの延命措置を断わり、自然の経過のまま受け入れる死」と定義しています。
また、現在公になっている法案の内容はあくまで「患者の意思の尊重」を条件に延命治療について述べたものであって、延命治療自体の価値を否定するものではありません。
私たちが一貫して主張しているのは、本人も家族も望んでいないにもかかわらず、ただ単に命を延ばすだけの治療で生かされ続けるような事例をできるだけなくしていきたい、ということです。
医療技術が進歩し寿命が延びた反面、「看取り」における知識や経験は、現場でまだ十分に蓄積していないという(イメージ:アフロ)
2016年8月12日に、朝日新聞でこんな事例が報道されました。
2013年に83歳の女性がけいれん発作を起こして、特養ホームから救急搬送され、一命はとりとめたものの回復は難しい状態だった。女性は生前、延命措置を望まないことを意思表示しており、家族は担当医にそのことを説明したが、「いったん入れた管(栄養補給の管)は抜けない」と伝えられた。女性は3年以上経った今も、意識が定かでない状態が続いているそうです。
こうした、本人も望まない延命治療は、なぜなくならないのか。その背景には、第一に、医療技術が年々進歩している反面、医師が「看取り」についての教育をほとんど受けていないという状況があります。
さらに、「現場の萎縮」という難しい問題がある。「萎縮」とはどういうことか――。
人工呼吸器や人工栄養を外す「治療行為の中止」をめぐっては、家族の同意があっても、医師が責任を問われて警察が介入したケースが1990年代から2000年代にかけて何度も起こっています。
2006年に富山県射水市の病院で、ある男性医師が終末期患者の人工呼吸器を外したことがわかり、殺人容疑で書類送検されました。結果として不起訴処分になったものの、男性には2年以上殺人容疑がかかったままだった。また、2007年にも和歌山県の病院で、医師が脳死状態の患者の人工呼吸器を外したとして殺人容疑がかけられた。
これらの事件は、当時、新聞などでも大きく取り上げられました。その結果、本人の意向や家族の同意があっても「いったん着けた人工呼吸器や胃ろうなどを外さない」という医師が、ぐんと増えたのです。
こうした状況を受けて、2007年に厚労省から出された「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」(2015年に「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」に改訂)が出されました。この年以降、他の医療団体もそれぞれ終末期医療にまつわるガイドラインを発表しています。しかし、これらは法的なリスクをゼロにしてくれるものではなかった。現場の医師たちからすれば、不安はぬぐえません。
厚生労働省による「人生の最終段階における医療に関する意識調査」(2014年・当時のガイドラインは旧名称)では、ガイドラインを「参考にしている」と回答した医師は19.7%。看護師は16.7%、介護職員は22.7%と、すべて2割前後の割合にとどまった(図表制作:ケー・アイ・プランニング)
撮影:岡村大輔
いまだ、患者の望まない延命治療が続けられている現状において、何が必要なのか。
そもそも、欧米には「人生の最期は自分で決めるもの」という文化があり、例えばアメリカでは、国民の約4割がリビングウイル(患者本人が延命治療を拒否すると意思表示した文書。尊厳死協会では「尊厳死の宣言書」と呼んでいる)を書いています。しかし、日本ではそうした価値観は薄く、どちらかというと周囲にまかせてしまう風潮がある。
終末期医療において本人の意思に沿って治療が行われるためには、土台として、リビングウイルの普及と、医師に対する「看取り」教育の充実が鍵となるでしょう。
そして、医療現場の萎縮を解くには、やはり、医師の免責を保障してくれる法律が必要だと考えます。
一部の障害者の団体などから「(尊厳死法制化によって)障害者や難病患者の生きる権利が奪われるのではないか」という声も上がっていますが、杞憂です。なぜなら、わが国は、障害者を大切にすることを、リビングウイルが法で守られている欧米諸国から教わってきた国なのですから。
<法制化の先にあるのは看取りの「効率化」でしかない>
川口有美子・一般社団法人日本ALS協会理事
川口有美子(かわぐち・ゆみこ) 一般社団法人日本ALS協会理事。1995年に実母がALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹患、在宅人工呼吸療法での介護を経験。2003年に訪問介護事業所ケアサポートモモを設立。2009年にALS/MND国際同盟会議理事就任。共編著書に『在宅人工呼吸器ポケットマニュアル』、著書に大宅壮一ノンフィクション賞を受賞した『逝かない身体―ALS的日常を生きる』など(撮影:岡村大輔)
私が30代のときに実母がALS(筋萎縮性側索硬化症)という難病にかかり、自宅で介護して看取りました。今は介護支援のNPOを運営しています。
「いざというときに余計なことはしてほしくない」「周囲に迷惑をかけたくない」と思う人の気持ちはわかりますし、延命治療を拒否する考え方そのものを否定するつもりもありません。しかし、人生の終え方というきわめて個人的な問題に「法」を介入させる必要はない、というのが私の考えです。
私が危惧しているのは、死に対して潔くあること、つまり延命治療の開始・継続を選ばない価値観や行動を「よし」とするような風潮が、「社会の当たり前」になっていくことです。法は社会の規範です。尊厳死法制化は、たとえ(法制化推進・賛成派が)意図せずとも、追い風となってそうした風潮を強めていくでしょう。
何が一番、怖いのか。
まだ生きようと思えば生きられる人が「そこまでして生きていたいのか」という社会的圧力を感じて、延命治療の開始や継続を選択できなくなる。そもそも「生きたい」と声を上げられなくなっていく、ということです。
それは杞憂だ、と思うでしょうか。しかし、今ですら障害者や難病患者、高齢者への差別感情はないとは言えません。さらに、介護制度の基盤の脆弱さが「身体が不自由な人間は家族や国に迷惑をかけている」という意識に拍車をかけている。
「まだ生きようと思えば生きられる人が、そもそも『生きたい』と声を上げられなくなっていく可能性が怖い」(川口氏)(イメージ:アフロ)
例えばALS患者は、症状が進むと自発呼吸が困難になり、人工呼吸器の装着が必要になりますが、ほぼ8割の方が呼吸器をつけることを選ばずに亡くなっています。介護負担を慮って、そもそも医者がすすめないケースも珍しくない。尊厳死が法制化することによって、継続的な治療や介護を必要とする人たちが、さらに生きづらい社会になっていく可能性は高いでしょう。
また、法制化に賛成している方々は「法制化すれば、(治療の中止について)本人の意思が尊重されるようになる」と主張していますが、まったく逆の事態も起こりうるのではないでしょうか。
本来尊重するべきは、「その時点」での本人の意思です。
撮影:岡村大輔
確かに、法案の条文には「延命措置の不開始を希望する旨の意思の表示は、いつでも、撤回することができる(第八条)」とあり、理論上は問題がないように見えます。しかし、実際に現場でどんなことが起こるかを、きちんと想像した方がいいと思うのです。
法制化によってリビングウイルの効力が強まれば、医師は明確でスムーズな判断が可能になるかもしれない。「この人は以前(延命措置を)やめてくれと言っていましたね、では呼吸器を外しましょう」と。しかし、その代償として「その時点」での家族や本人の声がかき消されてしまうリスクが生まれるように思います。
例えば、本人に意識がない場合――意識が戻る可能性がわずかにあったとしても、リビングウイルを根拠に、家族と十分な話し合いをせずに「治療の中止」が行われてしまう危険性はないのでしょうか。
また、生死の境をさまよって意識が戻ったときに「やっぱり死にたくない」と思っていたら? ――重い障害を負っていたら、家族の負担を想像して「生きたい」と言い出せないかもしれない。
とくに後者のようなケースは社会の中ではなかなか可視化されませんが、十分起こりうるというのが介護現場を見てきた私の実感です。
こう考えていくと、法制化でもたらされるものは「看取り」の効率化に過ぎないように思えます。多くの人が抱く「納得のいく最期を迎えたい」という希望には、むしろ背を向けるような代物なのではないでしょうか。
2007年に厚労省から出されたガイドラインでは、患者の終末期について、家族も含めた関係者で綿密な話し合いを重視するように指導しています。現場への浸透はまだこれからだと思いますが、少なくともこの年以降、延命治療の中止で医師が殺人罪に問われた例はない。「法はいらない、ガイドラインで十分だ」というのが私の考えです。
<医療者が患者に「問いかける」ことの重要性>
原井宏明・なごやメンタルクリニック院長
原井宏明(はらい・ひろあき)医師。医療法人和楽会なごやメンタルクリニック院長。専門は心療内科、精神科。1984年岐阜大学医学部医学科卒業後、国立肥前療養所(現・肥前精神医療センター)、国立菊池病院勤務(現・国立病院機構菊池病院)などを経て2008年より現職。不安障害、アルコール依存症、パニック障害などの治療に携わる。著書に『「不安症」に気づいて治すノート』『図解やさしくわかる強迫性障害』など、訳書にアトゥール・ガワンデの『医師は最善を尽くしているか――医療現場の常識を変えた11のエピソード』『死すべき定め』がある(撮影:岡村大輔)
私の本業は精神科医です。尊厳死法制化については、賛成でも反対でもありません。しかし、以前、高齢者の認知症専門の病院に10年ほど勤務していたこと、また、昨年刊行された『死すべき定め』という、アメリカの終末期医療の現場を描いたノンフィクションの翻訳を手がけたことから、改めて「死」や「看取り」というものについて深く考える機会がありました。
『死すべき定め』の著者であるアトゥール・ガワンデは、事実と数字だけを示して「あなたはどうしたいですか?」と聞くだけの医師を“情報提供的な医師”と表現し、自身もそのような医師だったことを告白しています。こうした医師は日本でもいたって普通の存在です。
例えば、「まだ助かるかもしれない」という段階で患者に「最期はどのように過ごしたいか」などと医師が積極的に問いかけるケースはまれですよね。
自戒を込めて言うのですが、医師はえてして、技術を磨くことに注力しがちです。あらゆる技術を尽くして患者の命を救うことが医師の本務だと考え、一方で、患者の人生そのものにはなかなか向き合えない。私自身、認知症専門の病院でこれまで患者を看取る機会も多くありましたが、「彼らが人生をどう終えたいか」という問題に踏み込もうという発想がありませんでした。
とくに今の日本では、「死」をネガティブなもの、タブーとして扱う空気が海外と比べても強い。また、戦後、「寿命は延びるものだ」というのが常識になった結果、患者自身も「死」になかなか向き合えなくなっている。
いわば、医療者、患者、その家族を含めて「死について考える」のを先延ばしにするような風潮が、「尊厳死」の問題をさらに解決しづらくしていると感じます。
終末期医療においては患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)をいかに保つかということが問題になる(イメージ:アフロ )
終末期の治療には、新薬の使用も含めてたくさんの選択肢があります。どれが「最善の道」か、ということに客観的な正解はありません。だからこそ、まず患者自身の不安や望みを丁寧に「聞き出す」必要がある。それも、一度ではなく、何度でも。
ガワンデは、ダグラスという転移性卵巣がんを患った女性患者にとって「最善の治療」が何かを知るために、彼女にこう質問します。
もっとも恐ろしいこと、もっとも心配なことは何か? もっとも大事な目標は何か? どのような犠牲なら進んで差し出すのか、そしてどのようなものなら応じないか?
 (アトゥール・ガワンデ『死すべき定め』) 
女性は、痛みや吐き気、嘔吐からの解放を願っていること、また、家に戻れず、大切な人たちと一緒に過ごせなくなることを恐れていることなどを、ガワンデに伝えました。こんなふうに、医師が患者に「一歩踏み込んで問いかける」ことは、実は非常に重要なことじゃないでしょうか。
日本人の約8割は病院で亡くなっています。本当は、「家で看取る」という選択肢があってしかるべきなのに、現状はそうじゃない。
「延命治療」についても同じです。「延命治療」の継続や不開始について、そもそも「選択肢」を提示されていない。もっとも不幸なのは、延命治療を続けられてしまうことでも、延命治療を受けられないことでもなくて、いざというときに「最期をどう過ごすか」という重要な問題に関して「道を選べない」ことだと思うのです。
私はここ数年、定期的に診ている患者さん全員に「あなたは最期の時間をどう過ごしたいですか?」と気軽に聞くようになりました。
多くの国民が、かかりつけ医を持つ北欧などでは、医師が患者の「死」に対する考え方を普段から共有できているため、「延命治療」をめぐる問題は起きにくいとされています。
尊厳死問題の解決の糸口は、「あくまで命を延ばすことだけを考え、治療する医療者」「その治療を受け入れるだけの患者」といった立場を一歩踏み越えること――つまり、従来の医療者と患者の関係そのものを変えていく試みにこそ、あるのではないでしょうか。
福島奈美子(ふくしま・なみこ)
1979年生まれ。神奈川県出身。編集制作会社勤務を経て2010年よりライターとして活動。暮らし、カルチャー、ビジネスなどの分野で取材・人物インタビューを行っている。
【なぜ札幌の新人看護師は“自殺“したのか?】
北海道文化放送 2/3(金) 20:16配信
1項)
”労災“か否か 国は争う姿勢 初弁論 札幌地裁
 札幌市の新人看護師の女性が自殺したのは、長時間労働などで、うつ病を発症したことが原因だとして、母親が国に、労災認定を求めた裁判の初弁論が2月3日開かれ、国側は争う構えを示しました。
  訴えを起こしているのは、2012年12月、当時23歳で自殺した札幌市の新人看護師、杉本綾さん(当時23)の母親です。
  訴状によりますと、杉本さんは、2012年4月からKKR札幌医療センターに勤めていましたが、月に65時間から91時間の時間外労働など、肉体的、精神的に追い詰められ、うつ病を発症して自殺したとして、杉本さんの母親が、国に労災認定を求めています。
  札幌地方裁判所で3日に開かれた初弁論で、原告の母親は、「帰宅後の、娘の自宅での仕事は一切、時間外として考慮されていない」「離職率の高い看護職だからこそ、働き方を改善してほしい」と意見陳述しました。
  これに対し国側は、答弁書で請求を退けるよう求め、争う姿勢を示しました。
  杉本さんが勤務していた、KKR札幌医療センターは、今回の裁判や、当時の勤務状況について「コメントできない」としています。
  杉本さんの母親(53):「生きていたら27歳で、とても頼もしい先輩看護師になっていただろう。残念ながらかなわなかった。あの子みたいな子をつくっちゃいけない、という思いで闘っています」
なぜ札幌の新人看護師は“自殺“したのか?
友人の結婚式で
「睡眠は2、3時間」母親が気づいた“異変“
 「杉本さんです。いえい!」
  友人の結婚パーティーで、笑顔でカメラに写る杉本綾さん。自ら命を絶ったのはこの3年後。看護師になってわずか8か月。23歳でした。
  綾さんの時間外勤務の全記録には、働き始めてからの“過酷な状況“が残されています。看護師になって、わずか一か月後の2012年5月の時間外勤務は、91時間に及んでいます。
  証言などをもとに、一日の流れをみると、午前4時30分に起床し、午前6時のJRで出勤。受け持ち患者の記録を見るため、定時の1時間前には出勤していました。
  5人の患者の対応をし、その日のまとめを先輩看護師としたうえで、午前0時ごろ帰宅。足りない知識を補うため勉強し、また出勤するという毎日でした。
  そばで見ていた母親は。
  杉本さんの母親:「睡眠時間は2、3時間になっちゃっていたので、毎日毎日、わたしも働いているかのように、気持ちが安らがなかった」
  なぜ、綾さんは、生きるのをあきらめたのでしょうか…。
2項)
妹思い 祖父母の病気きっかけで“看護の道“を…
 「腕が見えてきました~」
  札幌市で生まれ育った綾さんは、5歳離れた妹の面倒をよくみる、心優しいお姉さんだったといいます。
  同居していた祖父母が、認知症や糖尿病を患ったことがきっかけで、高校に入って看護師の道を選んだ綾さん。札幌市内の大学の看護学部に進みました。
  杉本さんの母親:「実習は、つらくないの? と聞くと、『患者さんと向き合えるからすごく楽しい』と」
  大学の卒業アルバムには、こう記しています。
  「Q. どんな看護師になりたい? 心身ともに癒やす看護師」
  「Q. あなたの野望は? いつも“しあわせ“って言える人生」
  しかし、この思いは、打ち砕かれていきました。
なぜ札幌の新人看護師は“自殺“したのか?
杉本さんの時間外勤務の記録
「心身とも癒やす看護師に…」就職後すぐ“時間外“91時間
 綾さんが就職したのは、札幌市豊平区の総合病院。肺がんや肺炎患者が入院する急性期病棟でした。
  母親は5月に入ると、異変を感じたといいます。
  杉本さんの母親:「だんだん血眼になるのが見えてきて、患者さんも受け持ちができて、午前2時、3時に部屋の電気がついているな、うたた寝しているのかな、とのぞくと、勉強していて。なんでそんなに勉強しているの? と聞いたら、『こうしないと、付いていけない』と。その言い方が、すごいつらそうで…」
  2012年5月の時間外は、約91時間。6月以降も“時間外“は続き、6月は85時間、7月は73時間、8月は85時間、9月は70時間、10月は69時間、そして11月は65時間の時間外勤務を重ねました。
  なぜ長時間労働は、続いたのか。仕事が終わってから、作成が毎日義務付けられていた、先輩看護師との記録には…。
  (作業報告記録より)
  「なんでその処置が必要か、根拠について確認してください」「知らない時は調べる」
  作業手順や考え方、知識不足を指摘され、その要求にこたえようと、必死になっていた綾さん。
  しかし、看護師になって3か月後、すでに心は折れていました。
3項)
「どうやったら病院に来なくていいか 存在消せるか…」
 (友人とのLINEより)
  「5月13日。この前の初めての夜勤で、事故起こしたんだよね。全盲の患者さんの麻薬の量、間違ったんだ。それがもう、とどめって感じで。
  「7月23日。ここ最近絶不調です。本気でどうやったら病院に来なくていいか、存在消せるか。死ぬか? とか考えました」
  8月の夏休み。楽しみにしていたという、富良野へのドライブも…。
  杉本さんの母親「ドライブ行ったの? と聞くと、『気力がなかった』と言った。それ以上どうして? と聞かなかったが、もう、いっぱいいっぱいなんだと思った」
  夜勤明けだった2012年11月30日。綾さんは、号泣して帰宅。その夜…
 (綾さんのSNSより)
  「11月30日。看護師向いてないのかもー。あー自分消えればいいのに、なんてねー」
  この2日後、一人暮らしのアパートで、遺体で発見された綾さん。遺書には、こう記されていました。
  「自分が大嫌いで、何を考えて、何をしたいのか、何ができるのかわからなくて。苦しくて、誰に助けを求めればいいのか、助けてもらえるのか、全然わからなくて。考えなくていいと思ったら、幸せになりました。甘ったれでごめんなさい」
  杉本さんの母親:「一生懸命、温めたら起きてくれるんじゃないかと思って、足をさすって温めようとしたが、結局、目を開けてくれなかった。気付いていた人は、いたはずなのに、どうして何とかできなかったのか」
  母親は、綾さんは、過労により、うつ病を発症したとして、労災認定を求めましたが、労働基準監督署は認めませんでした。その判断基準を聞くと…。
  北海道労働局 労働基準部 信田薫弘課長「(精神障害発症までの)6か月間を基本的に評価する。ひとつの目安として100時間、できごとの前後に、100時間くらいの時間外労働があれば、(精神的な)負荷を強める、という判断もしています」
  綾さんの精神障害は、仕事が理由なのか、判断は司法に委ねられます。しかし、この綾さんのケースは、新人看護師にとって特別なことではないといいます。
4項)
“慢性疲労ある“全体の7割 母親「綾がほっとしてくれるために…」
 北海道医労連 鈴木緑さん:「急性期の病院では、若い看護師のメンタル不全は結構いて、精神的、身体的な負担が大きいのが、一年目の看護師の特徴」
  新人看護師がどれだけ過酷なのか。札幌市内の総合病院に勤める、1年目の看護師を待っているのは、勉強に追われる日々です。
  1年目の看護師:「自分が入ったところは専門分野なので新しく学ぶことの方が多い。2~3時間くらいは自分が勉強して理解するのと、病院に行ったときに見てわかるようなメモを作るので、結構時間がかかります。勉強は、いまも続いています」
  1年目は、すべてが初めての経験で、勉強に終わりはありません。作業に余裕がないため、ミスもつきまといます。
  1年目の看護師:「名前が似た患者さんが同じ部屋にいて、違う人に、点滴をつなごうとして、直前で気づいたこともある。決められた時間があったり、担当する量も多いので、自分でスケジュールを組んでいるが、それを超えたら焦る。勤務終わったら、くたくたです。とにかく座りたい、帰りたい」
  日本医労連の調査では、慢性疲労があるという看護師は、全体の7割に達します。特に、重い責任と判断力が求められる、月に4回ほどの夜勤が、新人看護師にとって大きな負担になっています。
  1年目の看護師:「患者さんに、思いやりをもって関われているか、と言われると、自信がない。正しく技術をすることに必死すぎて、余裕がないです…」
  高齢化に伴う重症化や、認知症の増加も、忙しさに拍車をかけているといいます。
  北海道医労連 鈴木緑さん:「高齢化している分、看護の手が必要な時代になっているのが、昔とは本当に違う。看護師がまったく足りていない。『先輩に聞いちゃいけないかな』と、新人が気を使ってしまう。ものを言いやすい職場づくりも、非常に大事だと思う」
  誰にも相談できず、孤立化する新人看護師。杉本さんの母親は、娘の思いを訴えます。
  杉本さんの母親:「(看護師たちが)自分も、ひょっとしたら1か月後、うつになって亡くなるかもしれない。だから、“こんな働き方でいいのか?“ と考える機会になれば…。それで綾は、ようやく、ほっとしてくれるんじゃないかと思う」

UHB 北海道文化放送
【河北新報】(16・08・17)
残業未払い、休憩なし…介護士や保育士が悲鳴
  
 労働組合「総合サポートユニオン介護・保育支部」(東京)は、介護士や保育士を対象に仙台市で7月末に実施した電話相談の結果をまとめた。残業代未払いや過重労働などの相談が県内外から10件あり、支部は「業界の労働条件の改善が必要」と指摘する。
 県北のデイサービス施設で働く50代の介護福祉士は、休みを月8日から5日に減らされ、夜勤で休憩が取れなくても2時間取ったことにされると訴えた。残業代は「本人の能力不足のため」と支払われず、辞職を申し出ると「損害賠償請求する」と脅された。
 県内の50代の女性保育士は、毎日2~3時間の残業をしているのに、残業代は支払われていないと申し出た。休憩も取らせてもらえず、上司に相談したが聞いてくれないという。
 仙台市の保育所で働く30代の男性からも、月に100時間近く残業しているが残業代が払われないといった相談があった。
 介護施設や保育所は一定数の職員を配置する基準があるため、職員が減れば受け入れ可能な定員を減らさざるを得ない。過重労働で職員が退職を願い出ても、辞めさせないケースも多いという。
 支部は「職員不足で現場の負担がより過重になる悪循環を招いている。命を支える担い手の労働環境が崩れている」と指摘。「現状を変えるため、ぜひ相談してほしい」と呼び掛けている。連絡先は022(796)3894
【<日産婦>着床前検査、今春研究開始…中心の慶大不参加】
毎日新聞 2/14(火) 8:00配信
体外受精による受精卵の全染色体を検査し、異常のないものだけを母胎に戻す「着床前スクリーニング(PGS)」の臨床研究について、日本産科婦人科学会が、計画の中心を担う慶応大が不参加のまま始めることが分かった。日産婦は既に患者登録を始め、近く今春の研究開始を公表する方針。PGSは「命の選別」の懸念から現在禁止され、慶大では学内倫理委員会の承認が得られていない。「見切り発車」とも言える日産婦の対応に批判も出ている。千葉紀和
 臨床研究では不妊や不育症に悩む女性の妊娠率や流産率の改善効果を調べる。対象は35~42歳で、体外受精で3回以上妊娠しなかった女性と、流産を2回以上した女性。50人ずつ計100人で先行実施し、今後行う本研究に必要な症例数を決める。全染色体をコンピューターで網羅的に調べる「アレイCGH」という解析技術を採用。通常は計46本ある染色体の本数の過不足を調べて「適」「不適」「判定不能」に分け、原則「適」だけを母胎に戻して通常の体外受精と効果を比べる。
 日産婦は研究に参加する医療機関の名前や数を公表していないが、この分野をリードしてきた慶大は体外受精と受精卵検査の両方を担当し、研究の重要な取りまとめをする予定だった。だが、慶大の倫理委は研究計画や倫理面を問題視。このため、日産婦は検査担当に別の大学を加えるなど計画を変更し、体外受精は名古屋市立大のほか大阪などの大手民間クリニックの計4施設で実施。検査は3大学が分担することにした。
  日産婦は一部の重い遺伝病回避などの目的に限り、限定的な「着床前診断」を認め、PGSは禁じてきた。受精卵段階での排除や、男女の産み分けにつながるためだが、不妊に悩む夫婦の増加などを理由に2015年2月に臨床研究実施を決定。しかし、検査する試料の輸送や患者の費用も含め2年近く調整が難航した。研究責任者を務める日産婦の苛原稔・倫理委員長は「慶大の件は話せないが、PGSの医学的効果を検証する時期に来ている。データを踏まえて倫理面も議論したい」と語る。慶大側は「慎重に進めている」としている。
「命の選別」加速危惧…解説
  日本産科婦人科学会が始める着床前スクリーニング(PGS)の臨床研究は、医学的効果の検証が目的だが、染色体数の異常を理由に受精卵をふるい分ける社会的影響は大きく、「命の選別」が加速する懸念は残ったままだ。
  研究の中心施設がそろわないまま日産婦が開始に踏み切る背景には、不妊に悩む夫婦からの期待がある。不妊治療を受ける30~40代女性は年々増えており、新たな技術を求める声は大きい。不妊治療施設も競争が激化しており、差別化のため解禁を求める声が強い。
 それでも、本来生まれうる受精卵が「不適」とされ、排除される点は看過できない。21番染色体が1本多い「ダウン症候群」や性染色体が1本少ない「ターナー症候群」などでは社会で活躍する人も多い。
  生殖技術と倫理問題に詳しい柘植あづみ・明治学院大教授(医療人類学)は「なぜ急ぐ必要があるのか疑問だ。産むための技術という理由付けをして、生まれる可能性がある受精卵をも排除する。差別と見えづらいからこそ余計に危険性を感じる。一学会が決める問題ではなく、国のガイドラインなどで規制が必要だ」と指摘する。
【介護施設に「能面」ロボ=認知症改善で期待―宮城県】
時事通信 2/11(土) 20:01配信
 認知症の改善や予防に向け、宮城県名取市の介護施設で、コミュニケーション用ロボット「テレノイド」が導入された。
  能面のように特徴がない顔立ちで、逆に思い思いの人の姿を重ねることができ、会話を避けがちな高齢の施設利用者でも受け入れられやすいという。
  テレノイドにはカメラとスピーカーが内蔵され、遠隔からの操作や通話で、コミュニケーションを楽しむ。赤ちゃんほどの体格と重さで、四肢は簡略化されている。
  開発した大阪大学の石黒浩教授によると、ロボットとの会話により、認知症の予防や症状の進行を抑える効果が期待できる。研究目的を除けば、介護現場での導入は世界初。
 11日は導入した特別養護老人ホーム「うらやす」で記念式典が開かれ、出席した宮城県の村井嘉浩知事は「宮城県は東日本大震災で大きな被害を受け、(人口流出で)他よりも10年早く高齢化が進んでいる。新しい介護のモデルをつくって世界に発信したい」と述べた。

【目の難病>人工網膜で「光」回復 阪大教授ら効果確認】
 目の難病「網膜色素変性症」で失明した患者に電子機器の「人工網膜」を植え込み、視力を回復させる研究を、不二門尚(ふじかど・たかし)・大阪大教授(医用工学)らが進めている。既に臨床研究として失明患者への手術を実施し、効果を確認。来年度に本格的な臨床試験(治験)を申請し、医療機器として2021年の承認取得を目指す。
  網膜色素変性症は、網膜内で視覚情報を受け取る「視細胞」に異常が起き、視野が狭まったり、暗がりで見えづらくなったりする遺伝性の病気。3000人に1人が発症するとされ、進行すると失明につながる。iPS細胞(人工多能性幹細胞)を用いた再生医療も検討されているが、現時点では根治する手立てがない。
  人工網膜は、主に(1)電荷結合素子(CCD)カメラ付きの眼鏡(2)カメラの画像情報を受け取り送信する電子機器(3)画像情報を電気信号で再現する5ミリ四方の電極チップ--で構成される。電子機器は側頭部、チップは眼球後部にそれぞれ手術で装着し、電子機器とチップをケーブルでつなぐ。使用の際は、側頭部の外側に出た電子機器と、眼鏡フレームとをケーブルで接続する。カメラのスイッチを入れると、画像情報が眼鏡のフレームから電子機器を介してチップに届く仕組み。チップは視細胞のような役割を果たし、視神経を通して脳に視覚情報を伝え、脳内で映像が再現される。
  画像は白黒で、物体は黒い背景に白い点の集合体として認知される。不二門教授は「現在はぼやっと見える程度。改良しても、視力0.1程度、視野は15度までが理論的な限界」とする。それでも、14~15年に実施した失明患者3人を対象とした臨床研究では、2人が白線に沿って真っすぐ歩いたり、テーブルにある箸と茶わんを見分けたりする能力が向上した。人工網膜のスイッチを切った場合でもある程度視力が回復したという患者もいた。電気刺激を受け、残っていた視細胞などが活性化した可能性があるという。
  治験は失明した変性症患者6人を対象に18年から実施する方針。不二門教授は「有効性を詳しく確認し、患者の日常生活に役立つ機器にしたい」と話す。

【18歳アイドル急死】「致死性不整脈」とは何か 医師の解説】
中山祐次郎  | 一介の外科医  2/11(土) 17:43
今月8日に急死したアイドル・松野莉奈さん(18)の死因について、所属事務所は「致死性不整脈(ちしせいふせいみゃく)」の疑いがあると明らかにしました。この「致死性不整脈」とは何か、やや理解不足の報道が多い印象でした。そこで、専門用語をなるべく使わずに医師の立場から説明します。
 とても健康な18歳の女性が、突然亡くなったという衝撃。持病もなかったそうですから、よっぽどのことがないと、18歳で死亡するということはありえません。極めて稀なケースであると考えられます。
 死因については亡くなった報道の後に色々な怪情報が流れました。しかし、亡くなった直後に死因を診断するのは、長年患っていた病気がある患者さんを除いては不可能です。
 死因を診断するのには、筆者のような臨床医(=外来や入院患者さんと話したり検査をして診断をする医師)と病理医(=臨床医の依頼を受け、検査で取れた患者さんの病気の一部を顕微鏡で見たりして病気を診断する医師)の双方が関わります。その病理医である榎木英介医師も、こう発言しています
 
→亡くなった直後にすぐ死因を確定することは難しい。(中略)最終的には顕微鏡で組織を見たり、血液や気管のなかに菌などがいるかを培養検査で調べたり、薬の濃度を調べたりするなどし、かつ亡くなるまでの経過と照らし合わせて死因を特定していく。
 多くのメディアでは「死因は致死性不整脈の疑いでした」として、不整脈に詳しい医師に取材するなどして多数の報道がなされました。しかし、これは正確ではありません。
 というのは、「致死性不整脈」という病名は、はっきりと死因が特定できない時にひとまずつける死因であることが多いからです。前出の榎木医師も「致死性不整脈」について
 
→これは解剖したけど明らかな原因がわからないときに暫定診断としてしばしば使う診断名だ。つまり、まだ死因がよくわからないということだ。
「不整脈」とは何か?
 その上で、この病気の名前について説明します。まずは「致死性」と「不整脈」に分け、「不整脈」から。
 「不整脈(ふせいみゃく)」は聞いたことがある人が多いでしょう。「不整脈」とは、「心臓の縮むリズムが狂った状態」です。順を追って説明しましょう。
 「不整脈」とは、文字通り「脈(みゃく)」が「不整」になる病気です。この「脈」とは、左胸に手を当てた時に感じる「心臓の動き」と同じです。心臓がドクンと鳴る時、袋のような形をした心臓はぎゅっと筋肉の力で素早く縮まります。すると、心臓の中に溜まっていた血液が出口から押し出され、出口から繋がっている全身の細かい血管まで一瞬で行き渡るのです。これは、手や首の血管を触ることでピクピクした血液の勢いを感じられるため、「脈」と呼んでいたのです。ですから「脈」=「心臓がぎゅっと素早く縮まり、押し出された血液の勢いのリズム」=「心臓が縮むリズム」と言えます。
 この「脈」が「不整」になる、つまり「整わなくなる」という状態が「不整脈」です。
 実は、正常な人であれば普段は「脈」=「心臓が縮むリズム」は一定です。まあ、メトロノームほど正確に一定ではありませんが、ほとんど等間隔にドクッ、ドクッ、ドクッと動いています。これが「不整」=「整わなくなる」と、ドクッ、ドクッ、ドドドッ、ドクッドクッ、と連発したり、ドクッ、ドクッ、・・・・、ドクッ、と一回縮み忘れてしまったりします。この状態が「不整脈」です。つまり、「不整脈」とは、「心臓の縮むリズムが狂った状態」と言えます。
 「致死性不整脈」とは何か?
 いまお話しした「不整脈」に、「致死性(ちしせい)」をつけたものが「致死性不整脈」です。「致死性」とは、「死」に「致」る「性」質を持った、という意味です。要は命に関わるということです。致死性不整脈が起きてしまうと、心臓がほぼ止まってしまった時と同じような状況になっています。心臓が止まれば、数秒で失神し、数分で死に至ります。
 この「致死性不整脈」があるということは、「致死性でない不整脈」もあります。放って置いていい不整脈は、実はかなり多くの人が持っていると言われています。心臓は筋肉のカタマリですが、何十年も一度も休憩せずに、筋肉痛にもならずずっと動き続けるのですから、時々ミスはあるのです。
 「致死性不整脈」は病名というよりは、「命に関わる不整脈たち」というようなグループ名であり、どんな原因でも命に関わる不整脈はこう呼ぼうというものです。ですから、その中にはいくつかの病気があります(※1)。しかし病気以外にも「運動中に胸に強くボールが当たり、致死性不整脈を起こした」というケースも筆者は聞いたことがあります。
目の前で人がぶったおれたらすべきこと
 もし致死性不整脈が起きてしまった場合、その人はすぐに意識を失い倒れてしまいます。ほとんど心臓が止まった状態とイコールなので、大急ぎで処置が必要になります。
 しかし、目の前で倒れた人が「致死性不整脈なのか」なんて誰にもわかりません。そこで、目の前で人がぶったおれたらどうすべきか、ガイドラインがありますので引用します。

1、まず周囲の安全を確認する。
2、次に、肩を軽くたたきながら大声で呼びかける。何らかの応答や仕草がなければ「反応なし」とみなす。
3、反応がないか、よくわからなければ、その場で「誰か来てください、人が倒れています」と大声で叫ぶ。
4、来てくれた人に「119 番通報をお願いします」と他の人に 「AED(エーイーディー)を探して持ってきてください」と言う。
JRC蘇生ガイドライン2015
ここから、次に呼吸があるかどうかを確かめます。呼吸が無い、もしくはわからない時は胸骨圧迫を開始します。運転免許の取得の時にやった人も多いと思いますが、胸が約5cm下がるくらいに強く、一分間に100回以上ずっと続けます※2
 そして、AEDが届いたらどうするか。119番からその現場に救急車が到着するまでに平均8.5分(平成26年度全国平均、総務省HPより)かかりますから、自分でAEDを扱う必要があります。AEDにはいくつか種類がありますが、概ね同じ操作で使えます。
 簡単な流れは、ケースを開けて機械を取り出し、機械の電源をつけ、パッドを倒れた人の胸に直に貼り、音声でボタンを押せと言われたら押す、これが心臓の動きを再開させる極めて重要な治療になります。
 そのシステムを最後に紹介します。AEDのパッド(シールのようなもの2枚)を人間の体につけると、AEDは自動で心臓の動き(=心電図)を読み取り、さらに「致死性不整脈かどうか」を自動で診断するのです。そして「致死性不整脈」であると判断したら、音声で「ボタンを押してください」と言い、ボタンが押されたら「致死性不整脈」の治療(=電気ショック)をするのです。うまくいけば、これで救命出来ることも多々あります。AEDの使い方について詳細を知りたい方は、筆者の過去記事をごらんください
 
致死性不整脈には、「心室細動、持続性心室頻拍、トルサード・ド・ポワンツ、房室ブロック、洞不全症候群(日本心臓財団ホームページ)
【日本で売春を強要されたコロンビア人女性が証言する人身売買の闇】
(ダイヤモンド2016年11月11日プレスラボ 小川たまか)
米国国務省が毎年発表する人身取引年次報告書の2016年版で、日本は「人身取引撲滅のための最低基準を十分には満たしていない」と評価されている。しかし、日本に人身取引の被害者がいると聞いてピンとこない人も多いのではないだろうか。『サバイバー 池袋の路上から生還した人身取引被害者』は、1999年に来日し、セックスワーク(売春行為)を強要されていたコロンビア人女性の手記だ。コロンビアでベストセラーになったという本書について、ジャーナリストの安田浩一さんに話を聞いた。
「人身取引年次報告書」では4ランク中
 下から2番目の「監視対象国」
「人身取引」という言葉にどんなイメージを持つだろうか。「日本ではない、どこかの国で起こっていること」と考えている人も多いかもしれない。しかし、日本は米国国務省が発表する人身取引年次報告書(2016年)で4ランク中の下から2番目「第2ランク監視対象国(人身取引撲滅のための最低基準を十分には満たしていない)」と評価されている。
 報告書の中では「日本は、強制労働および性的搾取の人身取引の被害者である男女、および性的搾取の人身取引の被害者である児童が送られる国であり、被害者の供給・通過国である」(米国大使館による翻訳から引用)と書かれ、技能実習制度(TITP)を通じた強制労働や、強制売春、偽装結婚、アジアへの児童買春旅行などについての厳しい指摘がある。人身取引について、日本は「被害者の供給・通過国」と評価されている現状がある。
今年の8月に刊行された『サバイバー 池袋の路上から生還した人身取引被害者』(ころから出版)の著者、マルセーラ・ロアイサさんは1978年生まれのコロンビア人だ。彼女は1999年に来日し、2年の間日本でセックスワークを強要された。
 帰国後にカウンセリングを受け、その一環として日本での経験をノートに綴ったところ、これが評価され『ヤクザにとらわれた女――人身取引被害者の物語』というタイトルで出版することになった。コロンビアでベストセラーとなり、続編も発売されている。日本語訳して出版したものが『サバイバー』だ。
同書では巻末に、ジャーナリスト安田浩一さんによるマルセーラさんへのインタビューがある。この中で、安田さんは、人身取引年次報告書について「そもそも米国に他国を評価する資格があるのかといった疑問を感じる方も少なくはないだろう(私もそう感じてはいる)」と書きつつ、「だが、直接的な暴力や、暴力を用いての束縛がなくとも、自由で自律的な意志を制限することだけで、広範囲に『人身取引』『奴隷的労働』として捉えることは、いまや世界の常識なのだ」と指摘している。
『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』(光文社新書/2010年)では、日本で過酷な労働状況に置かれる外国人実習生を追った安田さんに、『サバイバー』について話を聞いた。
部屋で日本人男性の顔を見た瞬間
 「怖い」と言ったマルセーラ
◎『サバイバー』のあらすじ
 21歳のシングルマザー・マルセーラは、娘や母、兄弟の面倒を見ながらコロンビアで暮らしていた。貧困に苦しむ毎日の中、あるきっかけから日本で働くことを決める。仲介者を通じて日本へ入国するが、東京で待っていたのは「500万円の借金を返すまでは帰国させない」「売春婦として働き、1日2万円を支払うことができなければ借金の利子がつく」という言葉だった。マルセーラは日本に着いた日からすぐに、池袋の路上で売春婦として仕事を余儀なくされる――。
――安田さんはアメリカでマルセーラさんに取材した際、彼女から「怖い」と言われたそうですね。「日本人の男性を目の前にすると、どうしても昔の記憶がよみがえってしまう」と
安田 最初に会ったのはモーテルのロビーでした。そのときはすごく朗らかに握手をして明るい表情だったのですが、ホテルの部屋の中に入って通訳の女性と3人になったときに、表情が急に強張って緊張した感じになったんですね。
安田 「どうしましたか?」と聞くと、「怖い」と。あ、そうか、ここはホテルの一室。そこは応接室もあるような広い部屋だったけれど、それでも日本の男と同じ部屋にいるというのは、彼女にとって(過去を思い起こさせる)恐怖なのだということが伝わってきました。そのときに、軽くどつかれたぐらいのショックを受けましたね。彼女がどのぐらい傷ついているのか、あるいは日本という国や日本人の男性という存在に対してどれほどの恐怖や嫌悪を持っているのか、そのときにわかった。自分の甘さみたいなものを、冒頭で知ることができたと思いました。
――マルセーラさんは1999年頃から池袋の路上に立って売春をしていたと本書では書かれています。
安田 当時、僕は週刊誌の記者をしていて、池袋のあたりの状況をよく知っていました。当時は池袋や、歌舞伎町の職安通りから新大久保にかけては多くの南米人、特にコロンビア人がいました。その後、新大久保は韓流ブームで韓国街に変わりましたが。僕は外国人を特に担当していたわけではないけれど、日本の中で外国人が増えていく時期で、すごく気になる問題でした。
外国人セックスワーカーを買っているのは日本人
安田 1990年代後半は入管法が緩和されたこともあり、外国人の姿がすごく目立つようになってきた時期です。それまでは外国人といえば金髪で青い目のアメリカ人だったのが、その頃からアジアや中東、南米などさまざまな国からさまざまな目的と思惑を持って出稼ぎに来る人が増えてきた。合法か非合法かは問わず。その中で、それまで単なるゲストだった外国人の意味付けが変わったんですね。一部は人材不足の生産現場を手助けしてくれる助っ人、一部は迷惑に見える人。そういった中で、外国人との軋轢が増えていったのがこの時期だと思います。マルセーラさんは、こういう時期に日本に来たんですね。
――マルセーラさんの体験は非常にショッキングな内容ですが、すでに10年以上前のことです。「もう10年前のことだから」という反応もあるのではないかな……とも思いました。
安田 僕もそう思いました。新しい話ではない。それは事実です。一斉検挙があったり、現在はコロンビア人の入国は厳しくなっているということもある。ただ、マルセーラ自身の話が古いのは事実だけれど、今現在、違う形で日本では外国人であるがゆえに様々な制約を受け、時として搾取され、日本社会から守ってもらえずに自分だけで解決していかなきゃならない状況にいる人は、ますます増えていると思うんですよ。
――路上で外国人女性が立っているのを見たことはありますが、彼女たちの背景を考えたことはこれまでありませんでした。どちらかというと、「治安を悪くしている人」という目で見ていたな、と。『サバイバー』を読んで自分の偏見に気づかされました。
安田 僕も含めてメディアもやっぱり煽っていた部分があった。外国人と結びつけるのは治安とか犯罪とか、そういう観点でしか見ていなかった。でも、(外国人が売春をしているとして)誰が買ってるのかって話になるわけですよ。コロンビア人のブローカーが連れてきたのかもしれないけれど、買うのはみんな日本人ですよ。日本人が呼び寄せてるわけです。
番号で呼び、若くてきれいな子から選ばれる外国人実習生の集団面接
――マルセーラさんが書いている「コロンビアでは女性が『日本へ行く』というのは売春をするという意味で捉えられていた」という話が衝撃でした。日本は、海外からそう思われているのか、と。
安田 1980年代や1990年代半ば頃まで、韓国やフィリピン、タイに女性を買いに行く男性のツアー客は多かったと思いますよ。
――安田さんは『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』などで、外国人実習生を取材してらっしゃいますね。
安田 中国人実習生の取材をしているときに、中国人の通訳の方からこんな話を聞きました。日本の中小企業が縫製工場で働く女性の採用をする際に、女性の胸に番号をつけて並ばせて、「〇番を雇います」って選んでいくんだと。その様式そのものが人身売買そのものに見えるけれど、中国側も日本側も正当な集団面接だと思っている。それを見た中国人の通訳は嫌な気持ちになったと言っていました。なぜなら、若くてきれいな子から選ばれていくから。「あなたはミシンの経験がどのぐらいある?」とか「どんな技術がある?」とか、そういう話ではないと。
実習生へのセクハラも横行 知られざる日本社会の闇
――それは最近のことですか?
安田 2006~7年頃に聞いた話です。実習生へのセクハラも実際相次いでいますね。純粋に人材を欲しがっているのでしょうが、結局、下心をもって接する経営者も少なくない。
――そういった状況や、人身取引報告書で厳しい評価をされていることを知らない日本人も多いかもしれませんい。
安田 アメリカの国務省が、報告書の中でセックスワーカーと外国人実習生の両方を挙げていることがとても重要です。日本って実は少しも開かれていない国だということがよくわかる。日本は外国人が生産現場で働いていいという法律は一つもないんです。外国人は工場で働いちゃいけない。じゃあなんで、工場で中国人やベトナム人が働いているのかというと、これは移住労働者ではなく「実習生」だから。出稼ぎ労働は日本では禁止されている、先進国の中では極めて特殊な国です。でも労働力が足りないから、"抜け道"として実習生制度があったり、日系人が活用されている。日本の外国人政策って遅れてますよ。
――『サバイバー』は日本でどのように受け止められると思いますか
安田 僕もそこに興味があります。セックスワーカーの女性がどんな体験をしたのだろうという興味本位で手に取る人が多いと思います。僕はそれでもかまわないと思っています。本を読むきっかけなんて、興味関心で良いと思っているので。読んでいく中で、日本社会の醜悪な部分や、出稼ぎに行かざるを得ない南米の女性の問題を、少しでも理解してもらえたら関わった一人としてうれしいですね。
1990年代の池袋の光景の中ではなく、日常的に、もっと身近なところに無数のマルセーラがいるということですね。そういう社会だと気が付くことが必要だと思います。
◆Marcela Loaiza(マルセーラ・ロアイサ)
1978年コロンビア生まれ。1999年に来日し、セックスワークを強要される。2001年に帰国し、2009年に日本滞在中の出来事をまとめた手記が大ヒットし、2011年に続編を刊行。その後、米国に移住し、人心取引撲滅のためのNPO Fundacion Marcela Loaizaの代表として活動する。
安田浩一(やすだ・こういち)
1964年静岡県生まれ。週刊誌記者を経てフリージャーナリストに。主な著作に『ネット愛国』(講談社+α文庫)、『沖縄の新聞は本当に「偏向」しているのか』(朝日新聞出版)
【届かぬ障害者のSOS 施設での虐待 後絶たず】
長崎新聞 2/26(日) 9:21配信
長崎県諫早市にある障害者就労支援施設の元利用者で精神障害がある女性2人が、施設を運営するNPO法人の男性理事からセクハラやパワハラを受けたと主張していた訴訟で、長崎地裁は21日、セクハラ行為などを認め、理事や法人に損害賠償を命じた。施設という「密室」で繰り返される性的な虐待。専門家は「表面化するのは氷山の一角」と指摘する。
原告は24歳と42歳の女性2人。どちらも精神障害があり、数年前まで諫早市のNPO法人「マンボウの会」が運営する施設でパンの販売などをしていた。そこで2人は、指導員の男性理事(73)らからセクハラやパワハラの被害を受けたとして、2013年12月に提訴していた。
判決によると、24歳の女性は11年、自宅にやって来た理事からキスをされたり下着の中に手を入れられたりした。当時まだ18歳だった。42歳の女性は13年、施設でキスをされたり体を触られたりした。体重についてからかわれ、「おまえたちは俺たちの税金で生活しよるとぞ」と暴言を浴びせられたりもしたという。
42歳女性は被害を受けた後、男性職員(51)に相談した。男性は法人の理事長に「(理事を)辞めさせるべき」と進言したが聞き入れられず、その後解雇された。男性も解雇無効を求める訴訟を起こしたが、地裁は「告発」が解雇理由とは認めなかった。
男性は「施設での虐待に職員が気付いても、辞めさせられるのが怖くて言えない雰囲気がある。障害がある人が(被害を)言ってもなかなか信じてもらえない」と虐待が表面化しにくい実情を語る。
24歳女性は警察にも相談したが「証拠がないので訴えたら不利」と言われ、事件化を諦めた。女性は取材に「病気があっても信じてほしかった。今回裁判所が訴えを認めてくれてうれしい。もうこれ以上、自分のような被害者が出てほしくない」と話した。
判決後、男性理事に取材を申し込んだが「弁護士に聞いてください」。被告側は判決を不服として25日までに控訴した。
【<福島第1原発事故>困窮する「自主避難者」 神奈川】
毎日新聞 3/10(金) 6:30配信
東京電力福島第1原発事故で国の避難指示が出ていない地域から避難した「自主避難者」への住宅無償提供が、今月末で打ち切られる。ほぼ唯一の公的支援がなくなるのを前に、「放射能から子どもを守りたい」と神奈川県内に母子避難した自主避難者の中には、生活に困窮するケースも出始めている。
  福島県いわき市から自主避難している母親(44)は2月下旬、自治体の窓口で生活保護の申請を相談した。脊柱(せきちゅう)管狭さく症でつえが無いと歩けず、うつ病も発症。収入は児童扶養手当と失業手当のみで、その失業手当も7月までに切れてしまう。
シングルマザーで、高校2年の息子(17)と小学6年の娘(12)を養う。2011年末、神奈川に避難したのは「親として子どもを守る義務がある」という一心からだった。
  震災前、いわきでの暮らしは気に入っていた。近所でアルバイトをして暮らし、近くの実家の母は子どもの夕食づくりを手伝ってくれた。週末には子どもたちと海へ行き、ふ頭で投げ釣りをしたり磯遊びをしたり。親子とも友人が多かった。
  「このまま、ここで暮らしていきたい」。そう思っていた矢先の震災だった。避難を提案すると、子どもたちは「友達と離れたくない」。親も「いわきは安全」と反対した。それでも、放射能への不安を払拭(ふっしょく)できない。「守れるのは自分しかいない」と避難を決めた。
避難先では、福島県と神奈川県が自主避難者のために無償提供する「みなし仮設住宅」のアパートに入居。パソコンでデータや印刷物を作製するDTPの知識を生かした仕事をしながら、子どもたちが学校になじめるようにと学校の役員活動も積極的に取り組んだ。
  「賠償金もらっているから楽だよね」。子どもを通して知り合った親から言われ「うちはもらっていないけれど、家は自治体が用意してくれているの。家計はギリギリだよ」と伝えた。「子どもを守る義務を果たしているだけ。悪いことはしていない」と思いながらも、自主避難への偏見は心に重くのしかかった。
  住宅の無償提供が「いつまでも続かない」という危機感と「自立しないと」という焦りもあって心労が募っていった昨春、「住宅無償提供は17年3月末で打ち切り」というニュースを知った。将来への不安はストレスになり、次第に眠ることができなくなった。うつ状態で仕事に集中できなくなり、重い腰痛も発症。7月に脳動脈瘤(りゅう)も見つかり、肉体的にも精神的にも仕事はできないと手術を機に辞職した。
  心身が追い詰められる中、子どもたちにこれ以上、転居による負担をかけたくなかった。だが、学区内の県営住宅は3度落選。焦りが募る中、学区外だが約30分歩けば同じ学校に通える距離の市営住宅への入居が決まった。昨秋、引っ越し費用を抑えようと荷物を自ら運搬し、腰痛を悪化させてしまった。
  娘と駅でホームに立っていたら、娘が腕をギュッとつかんできたこともあった。ホームから飛び込みそうに見えるぐらい、「落ちた顔」をしているのかと気付かされた。
  全国で無償提供打ち切りに反対する署名活動などが広がっているが、賛同したい気持ちと賛同したくない気持ちがある。「いつまでも甘える気持ちはない」との思いからだ。だが、家賃の負担は大きい。「母子避難で親がからだを壊している人は少なくないと思う。自主避難者にも、もう少し自立に向かう補助をしてくれたら」
  来年高校3年になる息子は国公立の大学入学を目指し、受験勉強をしながらアルバイトも始めた。「自分ももう一度がんばりたい」という思いもある。でも、身体的、経済的な不安が頭をもたげ、すぐに落ち込んでしまう。気持ちは行ったり来たりしながら、生活保護はまだ申請せずにいる。
パソコンでデータや印刷物を作製するDTP
【<自主避難>10都道府県が住宅支援策】
2017年01月15日日曜日
東京電力福島第1原発事故の自主避難者に対する住宅無償提供を3月で打ち切る福島県の方針を受け、避難先の10都道府県が公営住宅に関する独自支援策を打ち出していることが、福島県のまとめで分かった。東北6県は山形のみで、山形を含む全国5道府県は一定戸数を無償提供する。転居費など金銭的補助は山形、秋田を含む5県が実施。青森、岩手、宮城各県などは入居要件緩和にとどまり、避難先によって支援内容に差が生じている。
<要件緩和が大半>
 主な支援は表の通り。福島県が昨年12月、自主避難者のいない高知、徳島両県を除く44都道府県に聞き取りした。
 山形県は県職員公舎50戸を無償提供し、転居費用も5万円を上限に補助する。担当者は「経済的に行き場がない人の住まいを最低限確保する必要がある」と説明する。ただ応募は少なく「子どもの転校を避けたい」といった希望との食い違いが課題となっている。
 秋田県は2016年度から、県内での転居費用を10万円まで補助。住民票の異動が要件で、担当者は「定住希望者が一定数いたため支援を決めた」と話す。
 全国では、一定期間無償提供したり、入居抽選などで避難者の「優先枠」を設定したりする対応が目立つ。市町村では、札幌や鳥取、伊勢(三重県)各市などが公営住宅の無償提供を決めている。
 ただ、大半は国と福島県の要請に基づき、自主避難者を「持ち家なし」や「所得を半分」とみなすといった公営住宅の入居要件緩和で対応する方向だ。
 青森県の担当者は「(金銭的補助など)財源措置は難しい」と説明。ただ「可能な範囲で支援したい」として、公営住宅の当選確率を2倍にしているという。
<「本来は国対応」>
 東日本大震災で被災した宮城、岩手両県は独自支援は行わない予定。「生活困窮者であれば、生活保護などの公的扶助で対応可能」と宮城の担当者。岩手は「津波被災者がどうしても優先になる。(原発事故避難者については)県をまたぐ話で、本来なら国が対応してほしい」と指摘する。
 これに対して福島県は家賃や県内への転居費用を補助するほか、公営住宅に専用枠を設けた県外の自治体には修繕費用などを一部負担することにした。
 ただ無償提供の打ち切りを撤回する考えはなく、県生活拠点課は「避難区域外では帰還できる環境は整っている。戻れる方には戻っていただくのが基本スタンスだ」と説明する。
 自主避難者への対応の在り方について、福島大の今井照(あきら)教授(自治体政策)は「全ての責任は福島県にある。本来は福島県が県民の声を聞き、等しく支援が続くよう(財源措置などについて)国に働き掛けないといけない」と指摘する
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nyanya
【投稿】
裁判員制度については、そもそもの議論は一般人が人を裁けるのか?という事ではなかったでしょうか?一般人が有実か無実を見分ける事ができるのか?見分けていいのか?だったと思います。
この記事は、「凶悪犯」「常習犯」とされた被告に対して、死刑を裁判官より先んじて裁判員が死刑を下すべきだという議論に発展させています。
裁判員制度の是非、「凶悪犯」「常習犯」とされた被告に対する死刑の適用の是非、明確に分けて議論すべきと思います。



nya

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