DSM

 【診断カテゴリー】出典:医学書院
 1. 通常,幼児期,小児期,または青年期に初めて診断される障害
 2. せん妄,痴呆,健忘性障害,および他の認知障害
 3. 一般身体疾患による精神疾患
 4. 物質関連障害
 5. 統合失調症および他の精神病性障害
 6. 気分障害
 7. 不安障害
 8. 身体表現性障害
 9. 虚偽性障害
 10. 解離性障害
 11. 性障害および性同一性障害
 12. 摂食障害
 13. 睡眠障害
 14. 他のどこにも分類されない衝動制御の障害
 15. 適応障害
 16. パーソナリティ障害
 17. 臨床的関与の対象となることのある他の状態
 18. 追加コード番号
付録(*付録E,Fの訳出は割愛した)
 A. 鑑別診断のための判定系統樹
 B. 今後の研究のための基準案と軸
 C. 専門用語集
 D. DSM-IV-TRの主要な変更点
 G. 一般身体疾患抜粋および投薬誘発性障害のICD-9-CMコード番号
 H. ICD-10コード番号をつけたDSM-IV分類
 I. 文化的定式化の概説と文化に結び付いた症候群の用語集
 J. DSM-IV協力者
 K. DSM-IV-TR 編集顧問
Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, DSM)】は、精神障害の分類英語版のための共通言語と標準的な基準を提示するものであり、アメリカ精神医学会によって出版された書籍である。 精神障害の診断と統計マニュアル
いずれも記述精神医学であり[4]、「特定の状態が特定の期間に存在する」という具体的な診断基準を設けた操作的診断基準に属する。疾病の解明に加え、各々の医師等の間における結果の比較を可能とし、また、疫学的調査に有用である。「したがって、極言すれば、診断基準は元々、個々の患者での診断を正確に行うために作られたものではない」と言うことも出来る[2]
a1(2).操作的診断基準(精神疾患の)operational diagnostic criteria (脳科学辞典)

操作的診断基準は、原因不明なため、検査法がなく、臨床症状に依存して診断せざるを得ない精神疾患に対し、信頼性の高い診断を与えるために、明確な基準を設けた診断基準である。操作的診断基準を用いて均一の患者群を抽出することによって、病態解明の研究や疫学調査を推進することに加え、治療成績や転帰の比較検討を可能にするといった意義がある。
 精神医学においてもほとんどの疾患が原因不明なため、診断基準が有用である。しかしながら1980年以前までは本格的な診断基準は皆無で、精神科医間の診断信頼性は極端に低く、国際的な比較等は到底できない状況にあった。これらの問題を解決するために、米国精神医学会による公式診断基準DSM-Ⅲ(1980)が作成された。また、世界保健機関(WHO)によるICD-10(1992)も同様である。重要な点は、客観的な検査法がほとんどなく、臨床症状のみに依存せざるを得ない(=症状記述主義)精神疾患に関する診断基準では、感度と特異度のバランスの前に、まずその診断の高い妥当性(validity)と信頼性(reliability)が求められることである。そのためDSMでは、さらに妥当性と信頼性を高めるための診断基準の改訂に向けて、DSM-Ⅲの刊行直後から個々の疾患に関する様々な情報の蓄積に努め、その結果1987年にはDSM-Ⅲ-R、そして1994年にはDSM-Ⅳと継続した改訂がなされてきた。逆を言えば、DSM-Ⅲ診断基準はbestでもbetterでもなく、その時点ではgood程度のものでしかない。つまり、原因不明の精神疾患の診断基準は、病因・病態だけでなく、治療反応性や転帰、疫学等に関する新たな情報が十分に得られた時点で、また新たな診断基準へと進化し続けていく宿命にある。精神科医には診断基準に翻弄されるのではなく、それらの本質を見抜き、それを治療的に有効活用する姿勢が重要である。

明示的な診断基準がないため、以前の診断基準では、アメリカと欧州、また日本での東西によって診断の不一致が見られた[1][2]。このような診断の信頼性の問題により、明示的な診断基準を含む操作的診断基準が1980年のDSM-IIIから採用され、操作主義の精神医学への導入であり画期的ではあった。一方で、恣意的に適用されてはならないといった弱点はいまだ存在する[1]。依然として、どの基準が最も妥当性があるかという問題の解決法を持たず、他の診断基準体系との間で診断の不一致が存在するため、原理的に信頼性の問題から逃れられないという指摘が存在する[1]

a2.操作主義
operationalism)とは、特に心理学社会科学生命科学物理学における研究デザイン英語版において、直接には測定できないが、それが反映されて生じる間接的な現象として観測できるように、間接的な測定のため必要な一連の手続き(操作)として定義していく方法論である。

用途
多くの精神福祉の専門家は、患者を評定した後、確定と患者の診断を伝える手助けにこのマニュアルを用いる;一般的にアメリカにおける病院やクリニック、保険会社は患者を治療するためにDSMの診断を要求する。DSMはこのように臨床的に広く用いられ、また患者のカテゴリーとして研究目的で診断基準が用いられる。特定の障害における研究は、障害のためのDSMの基準の一覧に一致する症状を有する患者を募集する。66か国での精神科医の国際的調査が、ICD-10[要リンク修正]とDSM-IVの使用を比較し前者が臨床診断に、後者は研究での評価により頻繁に用いられていた[13]
DSM-5と、以前の版は、アメリカ精神医学会(APA)の登録商標である[7][14]
DSMは単なる診断基準であり、さらに客観的な指標として得点化する場合には評価尺度が用いられることがある。うつ病におけるハミルトンうつ病評価尺度のような特定の診断に対応したものが存在する。
なお、日本国内には、診断基準にDSMではなく、ICD-10を採用している病院もある。日本の行政においてはICD-10が用いられている[15]

統計
DSMはICD-10における「精神および行動の障害」にほぼ相当する。DSMの「Mental Disorder(精神障害)」は非常に幅広い概念である。DSM-IVでは374種類の障害が含まれる[注 1]。したがって、DSMに記載されたあらゆる精神障害の有病率を合計すると、著しく高い数値となってしまう。また、精神障害の有病率を調査する場合、特定の障害に絞り込んで調査することが一般的である[注 2]

障害定義
一般的には「Mental Illness(心の病)」と呼ばれるが、専門的には「Mental Disorder(精神障害)」が使われる。DSMでは、「Mental Disease(精神疾患)」ではなく、「Mental Disorder(精神障害)」という用語を採用している。日本語版ではDSM-IV以降、「Mental Disorder(精神障害)」が「精神疾患」に訳し変えられた[62]。精神医学用語の「疾患」は本項の「disorder(障害)」という概念であり、医学用語の「disease(疾患)」とは異なる概念である。前者は行動科学上の異常を意味し、後者は病理学上の異常を意味している[63]。また、「disorder(障害)」は「disease(疾患)」より軽い失調状態を意味している[64]。精神障害とは苦悩や異常を伴う心理的症候群または行動様式である[65]
「正常」「精神障害」の境界線が曖昧であることは、「精神障害」が存在しないことを必ずしも意味しない。また、20世紀末における生物学的精神医学の立場は、「すべての精神活動は、脳の活動に由来する。精神疾患を特徴づける行動障害は、その原因が環境起源であっても、脳機能の障害である[注 7]」とするものであった[67][66]。実際、近年においては、遺伝子解析、認知機能、脳画像、精神生理学、精神薬理学、動物モデル、血液生化学検査などを組み合わせた統合的なアプローチが行われ、それらから得られた生物学的な所見の診断への応用研究により、病因・病態研究から、新薬の開発と臨床試験も行われていると、富山大学医学部 (2012年当時) の倉知正佳は述べている[67]
2013年、DSM-IVのアレン・フランセス編纂委員長は、精神障害は本物の病気でも架空の神話でもなく、両者の中間だと説明している[68

批判
1998年、アメリカ国立精神衛生研究所英語版統合失調症研究センターで所長を務めたこともあるローレン・モシャー博士は「DSM-IVは、精神医学が概して医学によって認められるように模造して作ったものである。内部の者はそれが科学的というよりも政治的な書物であると知っています。…DSM-IVはその最大の欠陥にもかかわらず権威ある書物となり、カネを生み出すベストセラーになった[注 9]」と述べている[79][80]
DSM-IIIRと同じ時期に出た抗うつ薬のフルオキセチン(プロザック)は、うつ病の定義のあいまいさから売り上げが急増し、DSMが製薬会社のマーケティングに使われてしまう危険性が認識された[87]。アレン・フランセスは、慎重に作成したDSM-IVによってADHDの診断が15%増加すると見込んだが、実際には3倍に増加し、小児の双極性障害は40倍に、自閉症は20倍に、成人の双極性障害は2倍となった[88]。このような診断のインフレはとどまるところを知らず、DSM-5の登場によりさらになる過剰診断と不適切な診察が増加されると推察される[89]。なぜなら、DSM-IIIの最高責任者であったロバート・スピッツァーが指摘するようにDSM-5では、議論の透明性をなくしたため安全で質の高いものに仕上げることができなくなり、アレン・フランセスの指摘するように、このDSM-5は正常な人にまで誤って診断を下すという診断のインフレを促し、適切でない薬の使用を助長する危険性をはらんだまま出版に至ったのである[90]
2013年、アメリカ国立精神衛生研究所(NIMH)の所長であるトーマス・インセルによれば、DSM-5は現在において最良のものではあるが科学的妥当性を欠いており、精神医学的な診断を作り替えるための研究領域基準(RDoC、Research Domain Criteria)の作成を進めている[91][92]。 臨床的な合意に基づいた現在の診断は症状に頼っており、定義は神経生物学を反映しておらず[93]、診断カテゴリーは神経科学や遺伝学の調査結果と一致しておらず、こうした問題は生物学的な指標に基づかない初期の診断システムにおいて発生する既知の問題である[94]。RDoCは、神経科学や遺伝学に基づくだけでなく、治療成績の向上なども視野に入れている[94]
DSMは、症状の合意に基づいて診断するため、例えば内科等の病気とは異なり、客観的な計測基準を持たず、まだ診断の信頼性妥当性が不足している[92][1]。DSMは、現状では、生物学的な基盤に基づいておらず[86]、生物学的な指標を持たない[94]。また、神経生物学を反映しておらず[93]、カテゴリは神経科学や遺伝学の調査と一致していない[94]
フランセスによれば、精神医学的な診断は、客観的な生物学的検査でなく、誤りがちな主観的な判断に頼っているためである[47]。新しいDSM-5は十分な科学的根拠を欠いており、新しい精神科の薬よりも危険性が高い可能性がある[6]。製薬会社は、DSMの緩い診断基準を使ってマーケティングしてきたし、診断が拡大されれば製薬会社の販売促進につながり、有害な副作用を持つ薬の不要な使用が増加してしまう[6]。障害の早期発見は素晴らしいが、障害を診断できるとされてしまえば、現在の非特異的な診断手段と潜在的に危険な治療法の組み合わせでは間違いであり、その前に非常に特異的な、ほぼ確実な生物学的検査と、リスク/ベネフィット比が確実に良くなる必要があるとしている[101]。まだ診断の安全性と有効性を監視するための効果的なシステムは存在していない[6]
DSM-5の作成に関わったパネルメンバーの約7割に、製薬業界との関係があった。

定義・病因[編集]

1970年代、100年経っても病因が不明なため、精神病は医学的な疾患と異なると見なされ、精神病の存在自体が議論されていた[103]
1998年、ミシガン大学エリオット・ヴァレンスタイン名誉教授は、精神障害生化学的、解剖学的、機能的な指標が発見されているという主張について、過去から現在の研究例を交え、実際には証明されていないと説明している。また、精神障害の主な原因について、心理社会的要因と生物学的要因が精神保健の専門職の意見を二分しており、一方が優勢になると他方が盛り返し、交互に優勢になることが繰り返されてきたと述べている[104]
2000年、ニューヨーク州立大学トーマス・サズ名誉教授は、疾患(disease)の病理学的定義を身体の病変(物質的異常)と説明し、脳は身体器官なので疾患になり得るが、精神は身体器官ではないため、比喩的な意味を除いて疾患にはなり得ないと述べている。精神的病気は行動科学上の存在であって病理学上の存在ではなく、精神的病気の有無を証明できる客観的検査もないと指摘している。また、客観的検査によって証明された場合は精神的病気から身体疾患に再分類されると指摘し、実例として、「神経梅毒」「脳損傷」「中毒症」「感染症」「てんかん」を挙げている[63]
2002年、アメリカ精神医学会はDSM-Vに向けて『DSM-V研究行動計画』を出版した。同書は、DSM-III以降の「精神障害の定義」について、精神障害と正常を画定できず、実用的ではないと評している。また、精神障害の検査指標の候補提案は多数あるが、発見された指標は一つもないと説明している。[105]
2005年、日本においては、精神障害の診断に光トポグラフィー神経科学的な客観的根拠を持たせようとする研究がある[106]。ただし、現在の神経科学等では、脳内の物理現象がどのように精神障害として具現化するのか因果関係が未だはっきりしない点も残っている。
2010年、京都府立医科大学大学院の中前貴(医学博士[107])は、精神障害の病因について、生物学的、心理学的、社会学的要素に対し理論中立的な立場を取る「生物心理社会モデル英語版」が現在の精神医学における中心的モデルであり、1970年代に体系的に発展し、DSM-IIIに導入されたと述べている[108]。DSMでは多軸評定によって生物心理社会的アプローチを提供している[109][110][111]
2010年、DSM-IVのアレン・フランセス編集委員長は、WIRED英語版で、「精神障害の定義は存在しません。戯言です。つまり、定義などできないということです[注 11]」などと発言している[112]
2011年、『ネイチャー』誌の論説は、精神障害の客観的指標(生物学的指標)に関する主張は多数あるが、脳波fMRI光トポグラフィ等のいずれも追試による再現性が低いと指摘している[113]
2012年、DSM-IVのアレン・フランセス編纂委員長は「残念なことに、精神医学における生物学的検査というのは未だにありません。…現在のところ、症状記述に頼るしかありません」と述べている[114]。また、DSMの改訂後に定義が拡大解釈されたことについて、「米国では数多くの勢力が(DSMの)変更点を丹念に研究しながら、どのようにしたら自分たちが考えている特定の目的に合わせて曲解できるかと待ちかまえているのです」と述べている[115][116]
2013年、DSM-5のデヴィッド・クッファー編纂委員長は、精神障害の生物学的、遺伝学的な指標の同定には程遠いと述べている[117][118]
2013年、国立精神・神経医療研究センター樋口輝彦理事長・総長は、精神障害の原因について、「ほとんどわかっていないのが現実です」と述べている[119]
2014年、日本精神神経学会の岩田仲生理事は、精神障害の生物学的研究について、「精神医学研究にみるべきものはない,そもそもレベルが低い,報告される内容も真理とかけ離れており再現性も乏しい,研究費を投入するだけ無駄ではないか〔ママ〕」といった指摘は概ね事実だが、進歩には研究が欠かせないと述べている[120]

有病率
1994年、カリフォルニア大学のスチュアート・カーク(Stuart Kirk)教授とカリフォルニア州立大学のハーブ・カチンス(Herb Kutchins)教授は、DSM-IVに関して、精神障害の診断には客観的検査(生物学的検査)がないため、アメリカ精神医学会の裁量で新たな障害を大量に作り出すことが可能であり、また、誰もが精神障害になり得ると指摘している。「このマニュアルにもとづいて、ミシガン大学が今年、調査を実施した。米国人の半数が精神障害を有するという結果が出たが、これは何ら驚くべきことではない[注 12]」と述べている[74][121]

コメント

人気の投稿