新聞2020.10~12
【目次】
【「迷惑をかけたくない」という日本人の死に方……藤木孝さん80歳の自殺に思う】YomiDr.9/30(水) 12:16配信富家 孝(ふけ・たかし)●【肥前精神医療センター(佐賀県吉野ケ里町)】●【家族や施設では支えきれず…「強度行動障害」医療が果たすべき役割は】西日本新聞10/5(月) 10:01●【小学校校長が児童に暴言で謝罪・四国中央市】テレビ愛媛●【薬物乱用防止 パネルで啓発 八幡浜】愛媛新聞10/10(土) 10:12●【「父親は殺人犯」女子高生の娘が生きた壮絶人生、「君たちを守るためにやった」に号泣した理由】東洋経済10/11(日) ●【弱者切り捨て連帯し防ごう 日本障害者協議会、松山などつなぎオンライン講演】10/11(日) 愛媛新聞●【精神疾患の入院患者虐待「事件は氷山の一角」 閉鎖的施設で連鎖】神戸新聞●【院長独裁神戸の精神科病院 利益優先、患者退院させず」2020.10.17神戸新聞●【患者虐待の神戸・神出病院院長「精神保健指定医」取り消しへ 国への報告、市が方針】神戸新聞2020.10.23●【虐待の精神科病院で私が見たもの 院長「独裁」、利益優先で患者退院させず】47News2020.11.2●【自殺者の頭の中 ネガティブな感情で脳が疲弊し理性を失う】女性セブン2020.10.29●【「上司や取引先とのトラブルでうつ病」労災認める…東京高裁、NEC課長職の男性自殺で】2020.10.24読売新聞●【生活保護打ち切り、足立区長へ取り消し要望 支援団体「事実誤認、あり得ない」】毎日新聞2020.10.27●【生活保護費引き下げは「違憲」か「国の裁量」か 25日に初の地裁判決 名古屋生活保護費引き下げは「違憲」か「国の裁量」か 25日に初の地裁判決 名古屋】毎日新聞20206.24●【精神科救急医療体制整備の課題など報告 - 厚労省、ワーキンググループの意見を整理】CBNews2020.10.27●【運輸・医療、長時間労働2万人増 新型コロナで負担集中 過労死白書10/30(金)2020.10.30時事通信●【18歳以上の自立支援 障害児施設の入所者 自治体交え協議会・厚労省11/1(日) 7:10】時事通信2020.11.1●【ハラスメント被害教員の口封じ? 口外禁止、誓約書にサイン求める 神戸市教委】2020.11.1●【なぜ女性の自殺はコロナ以降で増えた? 虐待、性被害、家庭でもっとも弱い存在11/9(月) 】2020.11.9Bussiness Inside Japan文・有馬知子)●【コロナ禍でホームレス巡回相談員が見た現実「法的に『死んだ人』救いたい」】神戸新聞2020.11.7●【6人殺害で死刑回避、「心神耗弱者は減刑」の難題】2020.11.8東洋経済青沼 陽一郎 :作家・ジャーナリスト●【15~29歳の介護者21万人。知られざる“若者介護者”の実態】女性自身2020.11.12 【近所の人は減刑の嘆願書を検討…神戸市祖母介護殺人の悲哀】女性自身2020.11.24●【治療を拒否しショック状態で運ばれた73歳男性の「最後の望み」 蘇生措置しない、と指示した医師だったが…】Yomi.Dr/2020.11.14●【特集 動く医療的ケア児 卒業後の不安 医療の進歩で“助かる命” 広島】2020.11.19中国放送●【障害者の就労支援 雇用と福祉が初の合同検討会】福祉新聞2020.11.18●【保護者が奮闘 “重症心身障害者”を支援・生活介護事業所「ぴぃーす」の半年 静岡市】2020.11.27.テレビ静岡●【涌谷の保育園で”パワハラ”労基署に”改善”指導を申し入れ】2020.11.30東北放送●【「判決も差別だ」原告、敗訴に落胆 旧優生保護法訴訟】2020.12.1朝日新聞●【委託費不正受給の認可保育園を1年間新規利用者受け入れ停止 京都市が行政処分】2020.11.30●【女性の「自死」急増の背景にある労働問題】2020.12.05.今野晴貴:●【コロナ対応限界、看護師退職止まらず…「命を危険にさらしてまでできない」】2020.12.09.読売新聞●【障害者施設、虐待防止の取り組み義務化へ 22年4月から】福祉新聞202012.08.●【入院患者死亡、身体拘束は「違法」 遺族側が逆転勝訴 高裁金沢支部判決】毎日新聞2020.12.16.●【男性看護師が精神疾患の入院患者に暴力 「殴られそうに」と虚偽報告も 病院が謝罪】京都新聞2020.12.17.●【生活保護の申請をよしとしない役所の「水際作戦」に、立ち向かう手立て】ダイヤモンド2020.12.18.●【精神科病院の身体拘束、諸外国の数百倍 「異様に多い」】2020.12.17.●【医師・看護師30人、次々離職 苦渋の決断、コロナ専門病院の「副作用」】47News.2020.12.18.●【大阪市保健所またも限界寸前、濃厚接触者の調査難航・クラスター続発】2020.12.19.読売新聞●【コロナ禍、看護師悲痛「夜間は戦場」 仮眠とれず オムツして業務も】産経新聞2020.12.19.●【介護施設「それいゆ」の5人死傷 地裁が遺族の訴え棄却】2020.12.21.朝日新聞●【医師たちが明かす、コロナ「感染とワクチン」後遺症のヤバすぎる実態】現代ビジネス2020.12.24.●【介護中の夫殺害で猶予判決 「うつ病悪化」仙台地裁】共同通信2020.12.24.●【精神病院「情報開示に消極的」な姿勢への大疑問】東洋経済、辻麻梨子記者:東洋経済 2020.12.28.●
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【精神病院「情報開示に消極的」な姿勢への大疑問】東洋経済、辻麻梨子記者:東洋経済 2020.12.28.▼精神疾患により医療機関にかかっている患者数は日本中で400万人を超えている。そして精神病床への入院患者数は約28万人、精神病床は約34万床あり、世界の5分の1を占めるとされる(数字は2017年時点)。人口当たりで見ても世界でダントツに多いことを背景として、現場では長期入院や身体拘束など人権上の問題が山積している。日本の精神医療の抱える現実をレポートする連載の第8回。猫:■各地で市民団体が地道に作り続けてきた精神科病院事情を伝える冊子(東洋経済オンライン)■情報公開に積極的な精神科病院は少数派:東京・東村山市にある猫:「多摩あおば病院」は、206床の入院病床を持つ精神科病院だ。東村山市とその周辺地域を中心に、他県からも多くの患者が訪れる、地域精神医療の拠点である。診療内容は幅広く、統合失調症や発達障害、気分障害のほか認知症、アルコールや薬物依存症プログラム、児童思春期の問題にも対応している。患者は10代から90代まで、疾患にかかわらず精神科の治療を必要とする人たちだ。同院では病院ホームページに「患者統計」として治療を行った患者に関する統計データを公開している。https://sinsinkai.com/about/statistics/)。主な項目は以下の通りだ。・年間入退院数・平均在院日数・病院の回転率・1年後残存率
・入院患者の退院先・外来数・デイケア数。●副院長の中島直(なおし)医師は、「情報公開は当然のこと」と語る。しかし、実際に自ら、こうした統計データを公開している病院は少数派だ。東京都内の私立の精神科病院団体である「東京精神科病院協会」に所属する63病院のホームページを調べたところ、スタッフ数の内訳や患者の治療状況がわかるデータを公開していたのはわずか6病院のみだった。多摩あおば病院のような詳細なデータに至っては、開示している病院はほぼ皆無だ。本連載『精神医療を問う』でも報じてきたように、精神科病院は「精神保健福祉法」に基づき、患者が拒否しても医師の診断と家族の同意で強制的に入院させる権限や、病棟の入り口が常時施錠される閉鎖病棟を持つ。入院患者には「携帯電話を持ち込めない」「面会を制限する」「外部とのやりとりは手紙だけ」などのルールが主治医の判断で課されることもあり、患者が病院内から情報を発信することも極めて難しい。そうした状況下で、根拠なく長期入院を強いられているケースや、看護師など病院スタッフによる虐待で患者が亡くなる事件が相次いできた。■2.そのため精神科病院には、通常の病院よりも自主的かつ積極的な情報開示が求められるはずだが、冒頭で見たとおり、その姿勢には乏しいのが現実だ。大多数の精神科病院の内情は、今もブラックボックス状態にある。それでは公的に行われる情報開示についてはどうか。全国の精神科病院の現状を知る手段の1つに、毎年厚生労働省が各都道府県を通じて実施する「精神医療保健資料」という調査がある。毎年6月30日時点の精神科医療機関の実態を把握する目的で行われ、■猫:通称「630調査(ロクサンマル調査)」と呼ばれる。●調査の対象は精神科病院、病床を持たないクリニック、訪問看護ステーションだ。医師などのスタッフ数や病床数、隔離病棟の数、入院料などの病院自体の情報に加え、患者の年代、診断名、在院期間、身体拘束人数、隔離措置人数といった質問項目もある。ただし公開されているのは、病院の設立区分や都道府県ごとに集計された数値にとどまる。本来、患者や家族が知りたいのは個別病院のデータのはずだが、そうした要望に応えるものにはなっていない。この調査を活用して、患者たちの要望に応える取り組みを行ってきたのが、全国で当事者の権利擁護を目的に活動する、猫:精神医療人権センターなどの市民団体だ。彼らは集計前の個別病院の実態がわかる個票を、情報公開制度を利用して集め、当事者が病院を選ぶときの参考にできる猫:■『精神病院事情』という冊子を各地域で作成してきた。冊子は病院に配布したり希望者に販売したりしている。■病院ごとの個別の事情を知ることが大切:
「病院ごとに治療方針や患者の待遇が大きく異なるため、個別の事情を知ることが大切です」。精神科病院での長期入院や、身体拘束の問題に長年取り組んできた市民団体、■猫:「東京都地域精神医療業務研究会(地業研)」のメンバーで看護師の飯田文子氏は、冊子を作る意義をこう説明する。実際に地業研が刊行する『東京精神病院事情2015年版』を見てみると、東京都内の70病院について、それぞれの病床数とレーダーチャートによる評価が記載されている。レーダーチャートの評価項目は「5年以上入院者率」「1年未満入院者率」「平均在院日数」「常勤医1人当たりの患者数」「常勤看護者1人当たりの患者数」狸:「常勤コメディカル(ソーシャルワーカーや臨床心理技術者、作業療法士など)1人当たりの患者数」の6項目。■3.それぞれ5段階で点数化しており、高得点であるほうが、スタッフ数が多く活動性の高い「望ましい病院」としている。統計データを踏まえた各院の特徴には、「平均在院日数は2424日(都平均230日)と断トツで都内最長。統合失調症の平均在院日数は何と3650日(同329日)に及ぶ」「死亡退院率が65%で群を抜いている」といった、驚きの記述もある。点数が高くても、身体拘束率などが高い場合もあり、特徴とチャート図を併せて見ることが大切だ。こうした個別病院を評価する判断材料が少ない中、患者や家族は病院選びに苦心している。●東京都内で開かれた精神障害者の家族会に参加した女性は、統合失調症を患い入退院を繰り返す娘の病院選びに悩んできたという。「精神科の場合、歯医者などと違って近所の人に『どこの病院がいいですか』と気軽に聞くこともできません」。また同じ家族会に参加した統合失調症の息子を持つ女性も、「病院のホームページの情報だけではあてにならないと思い、これまで保健所に紹介された病院や、ケースワーカーから話を聞いた病院に入院してきました。でも入ってみると看護師が少なくケアが不十分だったり、本人が合わなくて暴れてしまったりもする。どうしたらいいかわかりません」と悩みを打ち明けた。この女性に地業研の作成した先の冊子について話すと、メモをとり「そうしたものがあるとは知らなかった。ぜひ読んでみたいです」と話し、会場を後にした。■「速やかに破棄」を指示:ところが、こうした冊子の作成に欠かせないロクサンマル調査の個票の情報公開が、一時、全国で相次いで非開示となった。2017年度と2018年度のデータを中心に、個人情報の保護などを理由として、15の自治体が非開示や一部開示とした。そこには、それ以前までは全面的に開示をしてきた北海道、埼玉県、神奈川県、大阪府も含まれた。ロクサンマル調査はここ3年で2度、調査・集計方式が大きく変更されている。1度目は、2017年度と2018年度分の調査だ。これまで紙ベースで集計していたものを、各医療機関がウェブ上から調査票をダウンロードし、1人の患者ごとに1行ずつのデータを入力してそのまま厚労省に送信する方式とした。2度目は2019年度調査からで、この1行ずつの患者データを病院内で集計し、個別のデータはわからない状態で厚労省に送信する方式になっている。■4.このように、全面的に開示されてきた2016年度以前から集計方法が変わっているとはいえ、患者情報はすべて匿名であり、個人情報保護法上の「特定の個人を識別できるもの」は存在していない。突然非開示となった本当の理由はわからないが、厚労省や病院団体が市民団体によるロクサンマル調査のこうした活用法について、「苦言」を呈したのも同時期である。2018年7月、厚労省精神・障害保健課長名義で各都道府県や政令指定都市の精神保健福祉担当部局長宛に、ロクサンマル調査の依頼協力を求める文書が送られた。●同文書の別紙では、「調査票の取扱い」として「個人情報保護の観点から、定められた保存期間の経過後に速やかに廃棄する」よう指示している。さらに「精神科医療機関の個々の調査票の内容の公表は予定しておらず」、各自治体が医療機関に調査依頼を行う際は、この点を明示すべきとする文言が付記された。■猫:同年10月には精神科の私立病院団体である日本精神科病院協会(日精協)が、山崎學会長名で声明文を発表した。ロクサンマル調査は「個人情報保護の観点から問題の多いものであると認識していた」とし、声明文発表の2カ月前に毎日新聞が、50年以上入院する患者が全国に1700人以上いると報じた記事に触れ、「まさにわれわれの危惧が現実となったものである」と批判した。調査主体である厚労省が個人情報保護のための必要な措置を行わない場合は、「ロクサンマル調査への協力について再検討せざるを得ない」と、調査の存続危機をも思わせる声明となっている。●こうした情報公開に逆行するような動きに、当事者たちからは反発の声が湧き起こった。非開示や一部開示決定について不服を申し立てる審査請求の実施、日精協の声明文への批判、反対集会の開催など強い抵抗もあってか、2019年度の調査協力依頼文からは調査票の扱いを制限する文言はなくなっている。ただし、各市民団体が行った情報公開請求の結果をみると、■猫:身体拘束数などの一部のデータは依然として非開示のままだ。■5.前出の地業研の飯田氏は、「これまでの情報開示も、簡単に達成できたことではありませんでした。東京都や京都府でロクサンマル調査結果の情報公開を求める裁判を起こし、1999年に京都地裁が開示を認めた判決をもとに、活動に取り組んできました」と、現在に至るまでの経緯を語る。全国的には大幅な情報の非開示は改善されてきた中、例外的に2019年度分のデータさえも全面的に開示を拒んだのがさいたま市だ。
■今も続く非公開:埼玉県の精神医療を考える会は、さいたま市内の7つの精神科病院についてロクサンマル調査結果の情報公開請求をしていた。2020年9月にさいたま市から送られてきた「行政情報一部開示決定通知書」は、48項目に及ぶ全調査票のうち、47項目が一部または全面的に非開示とされていた。さいたま市が非開示とした理由は、主に2つ。1つは個人を特定できる可能性があるため、もう1つは病院の運営上の正当な利益を害するおそれがあるためである。だが、同会が埼玉県に対して行った同じ2019年度のロクサンマル調査の情報公開請求では、当時県側にデータが提出されていなかった1病院を除き、市内の6病院分のデータがすでに得られている。まったく同じ情報にもかかわらず、なぜ市は開示できないのか。●さいたま市の健康増進課の職員は取材に対し、「あくまで市の情報公開条例に基づいて判断している。埼玉県や他の自治体が開示しているかどうかは知らず、考慮していない」と回答した。同会はこの結果を不当だとして、市に対し情報の開示を求める審査請求を行っている。同会メンバーの女性は「困ったら病院に入れるのがゴールだと安易に思ったり、精神疾患を持つ患者が社会に出てきたら困ると思い込んだりしている私たち自身の偏見に向き合うためにも、ロクサンマル調査でわかるデータは行政や病院が抱え込むものではなく、市民にとってオープンであってほしい」と話す。■「恥であっても、現実」:多摩あおば病院が患者の統計を公開し始めたのは、2006年頃からだ。中島副院長は、「ロクサンマル調査はあくまで1つの指標であり、すべてがわかるわけではありません。自分たちもどうしたら病院や患者の状況が外に伝わるか試行錯誤しています」と、院内の情報公開の方針を語る。■6.例えば多摩あおば病院の場合、患者が他の精神科病院に転院することはなるべく避けている。治療を途中で他の病院に丸投げすることになるからだ。ホームページ上にある、「入院患者の退院先」のデータを見るとそのことがわかる。「ロクサンマル調査にあるような情報は、出すか出さないかではなく出すのが当たり前。長期入院などの問題は恥であったとしても、現実ですから。精神疾患を持つ人の受け皿をどう見つけていくかは、病院だけの責任ではない。そういう人がどれだけいて、みんなでどう支援していくかは社会の問題です。別に隠す必要はないんです」(中島副院長)●精神科病院に入院する当事者や家族が情報公開を求めるのは、治療や病院のあり方に対する疑問が根強いためだ。2020年5月に設立された神奈川県精神医療人権センター(KP)の相談窓口には、電話での相談が全国から寄せられている。家族が退院できなくて困っている、テレホンカードを購入させてもらえず病院の外と連絡が取れない、院内が清潔でない、など内容はさまざまだ。弁護士と連携し、退院支援などを行っている。さらにKPが特徴的なのは、精神障害当事者がピアスタッフとしてイベントを仕掛けたり、病院選択の情報を発信したりしていることだ。長年精神医療の実態を報じてきた、猫:■ジャーナリストの佐藤光展さんも活動に加わっている。「精神医療の世界では、これまで患者自身が声を上げる機会は乏しかった。それゆえ、危険な存在だと見下されているのが実態です。病院の情報開示はもちろんのこと、患者自身がもっと声を上げていくことが必要だと思っています」(佐藤さん) (第9回に続く)本連載「精神医療を問う」では、精神医療に関する情報提供をお待ちしております。お心当たりのある方は、こちらのフォームよりご記入をお願いいたします。
【介護中の夫殺害で猶予判決 「うつ病悪化」仙台地裁】共同通信2020.12.24.▼宮城県気仙沼市の自宅で2月、介護していた夫=当時(74)=を殺害したとして、殺人の罪に問われた無職千葉みつ子被告(70)の裁判員裁判で、仙台地裁は24日、懲役3年、執行猶予5年(求刑懲役5年)の判決を言い渡した。大川隆男裁判長は判決理由で、2010年ごろにほぼ失明した夫を献身的に介護したことでうつ病が悪化し、夫を殺害して自分も死のうと考えたと指摘。「被害者の恐怖は大きく、結果は重い」とする一方、重度のうつ病の影響を踏まえ、同じような事件と比べて悪質ではないと判断した。親族の処罰感情が厳しくなく、被告への支援が期待できる点も考慮した。
【医師たちが明かす、コロナ「感染とワクチン」後遺症のヤバすぎる実態】現代ビジネス2020.12.24.『週刊現代』2020年12月12・19日号より▼軽傷でも後がつらい:ようやく週に2~3回の習慣だったランニングが再開できる。林淳一さん(63歳・仮名)は、病み上がりの不調からも解放され、家の近所の川沿いをゆっくりとしたペースで40分ほど走った。11月末のことだ。 林さんがコロナに感染したのは10月頭のこと。幸い、症状は軽い咳ぐらいで、2週間、自宅隔離をしているうちに良くなった。だが、鈍った身体と頭をすっきりさせたいと運動を再開した翌々日、異変が起きた。「最初は筋肉痛かと思いました。年齢も年齢なので、運動してから筋肉痛が出るまで時間がかかりますからね。ところが、いつまでたっても倦怠感が抜けない。力が入らず、動く気力が起きません。少し無理をすると呼吸するのも苦しくて、肩で息をする有り様です。この症状はいまも続いています」(林さん)。病院で診てもらった結果、似たような後遺症を訴えている元コロナ感染者が多いとわかった。●多くのコロナ患者を診ている渋谷ヒラハタクリニック院長の平畑光一氏が解説する。「新型コロナに関して、さまざまな後遺症が指摘されています。肺の繊維化(一種の肺炎)や心筋炎などが話題になることが多いですが、このような症状は、重症の人たちに見られるものです。一方、感染しても比較的症状が軽く、自宅やホテルの療養で済んだ人にも後遺症は出ます。当院の患者さんにも病後のだるさを訴える方がとても多い」「単にだるいだけ」と油断してはいけない。恐ろしい病気が隠れている可能性もあるからだ猫:「慢性疲労症候群、別名で筋痛性脳脊髄炎です。とりわけ運動した直後ではなく翌日、翌々日にだるさが来るという人は要注意です。このような人は後遺症が重症化しやすい。運動を続けているとそのまま寝たきりになってしまう可能性があります」このような後遺症が起きるメカニズムは、いまだ解明されていないが、コロナ感染が引き金となって神経で炎症などの障害が起きているせいではないかと言われている。神経に異常をきたすと、免疫が暴走し、さまざまな症状が出るのだ。▼2.9割近くが後遺症:これまでに報告されている後遺症としては、慢性疲労(倦怠感)の他にも、呼吸困難、味覚・嗅覚障害、逆流性食道炎、胸の痛み、ブレイン・フォグ(頭がぼうっとする状態)、脱毛、歯が抜ける、などがある。日本ではまだ感染者数が少なく、統計が不十分だが、イタリアでは後遺症についての調査が進んでいる。それによると、コロナの症状出現後60日の段階で、なんらかの後遺症が残っている患者の割合は87・4%にも上る。症状としては、倦怠感が53・1%、呼吸困難が43・4%、関節痛が27・3%、胸痛が21・7%に認められた。またドイツからの報告では、診断後70日の時点で、78%もの人に心臓のMRIで異常があった。●「当院で採ったデータでは、女性のほうが後遺症を訴えるケースが多く、男性の1・5倍ほどです。イギリスの統計でも類似の結果が出ています。私が診ている範囲ですが、コロナの症状が軽かった人のほうがきつい後遺症に悩まされているようです」(平畑氏)コロナ自体と同じように、後遺症の治療法は確立されていない。「いずれも頭痛や息苦しさといった、不定愁訴的な症状が多く、はっきりとした原因はわかっていません。特別な治療薬はなく、対症療法として鎮痛剤や漢方薬で対応せざるを得ない。後遺症が2~3ヵ月経っても治らず、慢性化するケースがあるので厄介です」(感染症専門医の谷本哲也氏)普段から健康に自信があって、糖尿病やがんなどの既往歴がない人も、安心してはいけない。コロナから回復できたとしても、後遺症で長期にわたって苦しむ可能性が高いのだ。やっぱり、コロナに感染しないに越したことはない。そのためには、すでに各国で接種が始まっているワクチンを打てばよいのではないか―理屈ではそうなるが、現実は甘くない。●猫:12月2日イギリスは先進国で初めて米ファイザーと独ビオンテックが共同開発した新型コロナワクチンを承認した。米国やEUもこれに続く予定で、日本政府もこのワクチンを来年6月までに6000万人分用意する予定である。これさえ打てば、コロナ感染やそれに伴う後遺症から無縁でいられるのだろうか。結論からいえば、それは難しい。むしろ、予期せぬ副反応に襲われる可能性も否定できない。「ワクチンが原因で慢性疲労を起こすケースも出てくるかもしれない。因果関係は証明されていませんが、通常のワクチン接種後に、慢性疲労が起きたという報告もあります」(前出の平畑氏)▼3.何も起きない方が不思議:ここで、そもそもワクチンとはどのような仕組みで働くのか、確認しておこう。●猫:我々の身体がウイルスや細菌に感染すると、体内に侵入してきた外敵(抗原)に対して免疫システムが反応する。このとき作られるのが抗体だ。抗体は抗原に反応し、それに結合することで外敵の侵攻を防ぐ。ワクチンは、弱毒化もしくは無毒化した抗原を体内に取り込むことで、あらかじめ抗体を作り出し、ウイルスなどの感染を防いだり、感染した場合の重症化を防いだりする。ただし現在、世界で承認されつつあるコロナワクチンは、これまでのワクチンとは異なる点がある。アメリカの国立研究機関でウイルス免疫学を研究する峰宗太郎氏が解説する。「生ワクチンやインフルエンザなどで使われている不活化ワクチンは弱毒化、不活化したウイルスそのものを身体に打ち込みます。一方、ファイザーのコロナワクチンはRNAワクチン、アストラゼネカはベクターワクチンと呼ばれ、ウイルス成分を身体に打ち込むわけではありません。簡単にいえば、ウイルスの設計図を打ち込んで、身体にウイルスと似た構造のたんぱく質を作らせて免疫反応を呼び起こすのです」。従来のワクチンは工場でウイルスやその成分を作るため、時間もコストもかかり、大量生産は難しい。しかし、RNAワクチンは合成装置という機械だけで製造でき、コストやスピードの面で圧倒的に有利である。だが、ここに落とし穴がある。「RNAワクチンはいままで人類に対して承認されたことのない、まったく新しいワクチンなのです。本来はすぐに分解されるはずの遺伝子情報が残って、5年後、10年後に未知の副反応が出てくる懸念もあります。この懸念はどのメーカーも払拭できていません」(新潟大学名誉教授・岡田正彦氏)そもそもあらゆるワクチンに副反応はつきものだ。山形大学教授で同大病院感染制御部長の森兼啓太氏が解説する。●「例えば、ワクチンを接種した場所が腫れたり、痛んだりするのも副反応の一種で、これはほぼ避けられません。もっとも、いずれ腫れは引くものなので、これは心配する必要がない。問題は、より深刻な副反応です。アナフィラキシー(全身に起こるアレルギー反応で痒くなったり、呼吸困難になったりする)、脳症・脳炎、ギラン・バレー症候群(全身の筋力低下、嚥下力低下、呼吸困難)などが挙げられます」。歴史的に見ても1948年のジフテリア'70年の種痘、'05年の日本脳炎などのワクチンで想定外の副反応が生じて薬害事件となった例は枚挙にいとまがない。歴史上初めてともいえるまったく新しいワクチンが、未曽有のスピードでもって承認される。予期せぬことが、何も起こらないほうがおかしいのではないか。大阪大学免疫学フロンティア研究センター招へい教授の宮坂昌之氏も危惧を隠さない。「気になるのが、ロシアやアメリカ、イギリスなどで行われているワクチンの過剰ともいえる開発競争です。実際、ロシアでは第三相試験(予防効果や安全性を確認する最終試験)を終える前にワクチンの実用化が始まっています。アメリカでも、トランプ政権がワープ・スピード作戦と称してワクチン開発に拍車をかけてきました。しかし、ワクチンは早くできたものがいいとは限らない。ゆっくり開発・承認されても、安全で予防効果が高ければ、結局そちらが使われるようになるのです」アメリカではすでに、コロナで30万人近い死者が出ている。全世界では150万人以上だ。第三波が来ているとはいえ、死者・重症者の数が圧倒的に少ない日本と違って、一刻も早くワクチンを承認したい事情があるのは理解できる。だが、そのスピード感の裏で、安全性はなおざりにされている。「通常なら5年以上かかる開発を1年未満で成し遂げています。まさに驚異的な速度です。なぜ、これほど速いのか。理由の一つはRNAワクチンという最新のテクノロジーを使っている点。また、過去のSARS、MARSウイルスが新型コロナに似ているので、研究の素地があったこと。加えて政府や国際機関、ビル・ゲイツの財団などが大量に資本を投下したという理由もある。
しかしスピードを重視するあまり安全性や試験の透明性について粗雑な面が見受けられることも事実です」(前出の峰氏)前述したように、ワクチンを接種した人には、コロナの後遺症と似た症状を訴える人もいる。これから海外では何千万、何億という人たちがワクチンを打ち、次から次へと副反応の報告が上がってくるはずだ。▼4.実は医者も打ちたくない:たしかにコロナはいまのところ感染しても特効薬がない怖い病だ。しかし、それを恐れるあまりワクチンを打って、副反応に悩まされては元も子もない。現場の医師や専門家たちは、自分自身にワクチンを打つつもりなのだろうか。前出の医師、平畑氏は「最初は、自分は打たない」と断言する。「これまでもインフルエンザのワクチンは必ず打ちました。このワクチンを打てば必ずしもインフルエンザにならないというわけではないですが、少なくとも副反応の危険性はほとんどありません。一方で、ファイザーやモデルナのワクチンはまだまだデータ不足。少なくとも最初は打つつもりはありません。●仮にアメリカで1億人打ったとしたら、さまざまな副反応のデータも集まるでしょう。その時点で、打つか打たないか判断しても遅くないでしょう」新潟大学名誉教授の岡田氏も同意見だ。「懸念がのこるワクチンを打つのはいやですね。政府は高齢者や医療関係者に優先的に接種すると言っていますが、我々や高齢者をモルモットにするなと言いたい。まずは首相を始め政府の人間が打ってほしいと思います」一方で、接種に前向きな医師もいる。「私が住んでいる米国のモンゴメリーという場所は新規感染者数がうなぎ上りですので、身の危険を感じており、ワクチンを打つつもりです。ただし、私が日本に住んでいるとしたら、もう少し様子を見ると思います」(前出の峰氏)「私は感染症が専門なので、昔からなんらかのワクチンが承認されれば真っ先に打つようにしてきました。これは職業意識の面もあります。家族に関しては、それぞれの意思を反映し、必ず打てとは言いません」(神戸大学病院感染症内科教授・岩田健太郎氏)●このようにプロとして打たざるを得ない医師もいるが、一般人は状況が異なる。なんとしても東京オリンピックを開催し、景気回復を目指したい政府は積極的にワクチン接種を進めるはずだ。しかし、拙速かつ大規模な接種は、必ずや大問題を引き起こすだろう。そのときに慌てふためかぬよう、リスクとリターンをじっくり検討しておきたい。
【介護施設「それいゆ」の5人死傷 地裁が遺族の訴え棄却】2020.12.21.朝日新聞▼岐阜県高山市の介護老人保健施設「それいゆ」で2017年夏、高齢の入所者5人が相次いで死傷した問題で、死亡した男性(当時80)の遺族らが、施設を運営する医療法人「同仁会」に慰謝料など約2800万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が21日、岐阜地裁であった。鈴木陽一郎裁判長は、原告側の訴えを棄却した。原告側は、施設側が男性の食事中の誤嚥(ごえん)を見逃したため窒息死したと主張したが、判決は「死因が施設での食事の介助や食後の見守り中に起きた誤嚥による窒息とは認められない」とした。男性が心筋梗塞を発症していた可能性や、意識を失った後の職員による心臓マッサージが原因だった可能性も否定できないとした。同仁会の折茂謙一理事長は、「1年半以上の間、監視義務違反というレッテルの下で肩身の狭い思いだった。今後は自信を持って介護の仕事をすることができる」とコメントを出した。
【コロナ禍、看護師悲痛「夜間は戦場」 仮眠とれず オムツして業務も】産経新聞2020.12.19.▼新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない中、医療の最前線に身を置く看護師たちがギリギリの闘いを続けている。東京都は医療提供体制の警戒度を最高レベルの「逼迫(ひっぱく)している」に引き上げ。基幹病院は昼夜を問わず入院患者を受け入れており、使命感で献身する看護師らの疲労困憊(こんぱい)ぶりはもはや限界に近い。「夜間帯の現場は戦場」「どれだけ入院患者が増えても人員が補充されない」。悲痛な叫びは、コロナ対応の長期化と慢性的な人手不足に苦悩する医療現場の実態を示している。(三宅陽子)●グラフで見る・看護職の2交代病棟の長時間夜勤の実態●都内の病院で、中等症のコロナ患者を受け入れる専門病棟に勤務する40代の女性看護師がインタビューに応じ、コロナ第3波の実態を明かした。都内で連日過去最多の感染者を更新していた今月中旬。入院患者は一時、40人に迫る勢いを見せ、病棟で働く看護師の数を上回った。「患者はどこまで増えていくのか」。多い時で1日10人近くを受け入れたこともある。入院患者の増加はスタッフの負担増に直結するが、人員は補充されないまま時が過ぎている。入院してくるのは主に高齢者で、80代や90代の姿も珍しくはない。寝たきりや認知症の人らもおり、看護師らは通常業務のほか、食事や寝起き、排泄(はいせつ)などの介助業務にも追われる。感染が疑われる症状が出て、免疫力が低下していたり、持病があったりする高齢者も受け入れており、病棟には「院内感染は決してあってはいけない」との緊張感が張り詰めている。夜勤はさらに過酷だ。稼働する看護師は基本4人だが、夜間帯であっても入院患者は運ばれてくる。ナースコールも鳴りやまず、「苦しい」「早く来て」といった訴えに一つ一つ対応していかなければならない。その間にも、寝返りのできない高齢者が床ずれをしないよう体の向きを変えてあげたり、トイレの介助を行ったり…と必要な仕事は次々とわいてくる。夕方から翌朝までの16時間近くを少しの仮眠もとれず、ノンストップで働き続けるスタッフもいる状況だ。別の病院のコロナ病棟で働く看護師の中には、夜勤帯の忙しさを見据え、「トイレに行く時間が取れないこともあるから」と、大人用のオムツをして業務に当たる人もいると聞く。だが、どんなに忙しくても患者の訴えを「聞き流すことはできない」と感じている。些細な要望もできる限り応えてあげたい。「この病気の怖さは本人に自覚症状がなくても急激な容体の悪化があること。医師がすぐに対応に当たっても間に合わないこともある」●コロナに感染して亡くなった人を収容する「納体袋」に包まれた遺体を前にしたときの思いを、どう表現していいか分からない。感染患者と家族は感染防止のため、入院中は面会ができない。愛する人にみとられることも許されず、息を引き取る患者たち。訃報の知らせを受ける家族の思いを考えると、やりきれない気持ちでいっぱいになる。遺族には患者の入院時の様子や言葉を伝えてきた。コロナ患者の対応に明け暮れる日々の中で、自身の生活も様変わりした。感染が拡大した今春以降、ほぼ職場と家の往復を続ける。仕事から帰ればすぐに風呂場に向かい、同居する高齢の両親とは同じ部屋で過ごすことや会話もしないように努める。食事は一人、別の部屋で済ませている。●感染防御は徹底しているが「もし家族を感染させてしまったら」との不安は消えない。入院患者らへの影響を考えれば、休みの日なども不要な外出はしないと決めている。「現場はとにかく人が足りないが、スタッフは必死にストレスに耐えながら、患者と向き合っている」。女性は切実に訴える。
【大阪市保健所またも限界寸前、濃厚接触者の調査難航・クラスター続発】2020.12.19.読売新聞▼新型コロナウイルスの感染が収束しない中、大阪市保健所で、業務の逼迫(ひっぱく)が深刻化している。感染拡大に備えて体制を強化してきたが、想定以上に感染者が急増したことで、感染経路を調べる「疫学調査」が追いつかず、関係者には「感染に歯止めがかからなければ持ちこたえられない」と危機感が広がる。■■数日ずれ込み: 疫学調査は、感染者や濃厚接触者に聞き取りをして感染ルートを割り出し、感染拡大を防ぐ目的がある。大阪市では原則、感染者本人については、保健所の一部機能を各区役所で担う保健福祉センターの保健師が、行動歴や面会者を電話で聞き取っている。●11月1日~12月18日に判明した市内の感染者数は府内全体の45%に相当する約6200人。1日平均は約130人で、第2波の7月中旬~8月末(1日平均約70人)の倍近い。健康相談などの通常業務も担うセンター職員だけでは対応し切れず、保健所本体でも感染者への聞き取りを行っている。中でも難航しているのが濃厚接触者の調査だ。大阪府によると感染者1人につき平均で5人程度発生するとされ、保健所の保健師らが調査を担当。感染者の少ない時期は感染判明の翌日に調査できていたが、最近は数日ずれ込むケースもある。●今月上旬、従業員の感染が判明した市内のある事業所では、濃厚接触者の調査が入ったのは感染判明の3日後。結局、濃厚接触者にあたる人はいなかったが、その間、感染者と同じ部署の社員4人を自宅待機にせざるを得なかった。社長(60)は、「小規模な会社だと、想定外で社員を休ませることは死活問題だ」と苦言を呈す。感染者には、各区の保健福祉センターが、症状がなくなるまでの間、就業制限を促す「勧告書」を送っているが、発行が大幅に遅れ、陽性判明から2週間近くたっても届かないケースもある。事業者からは「回復して職場復帰できるようになってから勧告書を受け取っても意味がない」との声が上がる。●
保健所の担当者は「感染者の高止まりで、業務が全体的に後ろにずれこんでいる」と明かす。■■人材「争奪戦」:大阪市保健所では、第1波ピークの4月中旬、1日約1500件の相談電話が殺到し、濃厚接触者調査などの業務が滞った。4月時点で応援職員34人を含む計87人で新型コロナ対応にあたってきたが、予防接種など他の業務にあたる職員もいたため、5月に体制を立て直し、従来業務にあたる50人とは別に、51人体制のコロナ専門グループを新設。夏の第2波を乗り切った。9月には冬の第3波を見越して同グループを102人に倍増。さらに府も11月下旬から保健師や事務職員ら約30人を派遣した。疫学調査には、他県からの応援も含め40~50人が従事する。●体制の強化にもかかわらず業務が逼迫する要因とみられるのが、大阪市内の高齢者施設などで続発しているクラスター(感染集団)だ。市内のクラスターは6月中旬~10月上旬の約4か月間で13件だったが、10月10日以降の約2か月間で39件に急増した。このうち33件は高齢者施設や医療機関だった。クラスターが発生すると、濃厚接触者の調査に加え、現地調査や危険区域と安全区域を分ける「ゾーニング」の指導などが必要となり、保健師らの負担は格段に増す。市幹部は「想像を上回る感染者の増加で、業務量に体制強化が追いつかない」と語る。●市は保健師の募集を継続的に実施しているが、他の自治体との「争奪戦」になっている上、感染リスクを懸念する人も多く、応募はほとんどないという。松井一郎市長は18日、市役所で記者団に「組織を拡充してきたが、人材は無尽蔵ではない。今あるマンパワーの中で対応していかなければならない」と述べた。保健所長の経験がある浜松医科大の尾島俊之教授(公衆衛生学)の話「今後、大幅な人員強化が見込めない中で保健所の負担を減らすには、自宅療養者への健康確認を申告制に変え、感染者への調査をクラスターになりやすい病院や高齢者施設で重点的に行うなど、業務に優先順位をつけていくしかない。感染の波が早く収まるよう、市民に対策を強く呼びかけることが何より大切だ」
【医師・看護師30人、次々離職 苦渋の決断、コロナ専門病院の「副作用」】47News.2020.12.18.▼新型コロナウイルスの感染拡大を受け、大阪市の市立十三市民病院(同市淀川区)は2020年5月からコロナ中等症患者の専門病院となったが、その後、医師や看護師ら30人以上が相次いで退職した。大量離職の背景に何があったのか。取材を進めていくと、専門病院化の「副作用」が浮かび上がってきた。(共同通信=岩田朋宏、大野雅仁)▼看護以外の業務が増大●看護師が介護から病室の掃除まで―。十三市民病院でコロナ患者の治療に当たる女性看護師は「患者さんが退院したら、部屋の片付けもやらないといけない。看護師でなくてもいいのではと思う仕事が多く、しんどい」と漏らす。同病院では、12月上旬現在、入院患者約50人のうち70歳以上が7割を超え、寝たきりや認知症の人もいる。寝たきりの患者には、床ずれ防止のための体位変換など、頻繁なケアが必要だ。「意思疎通が難しい人は触れて観察し、自分の目と耳で確認する。認知症の人には刺激を与えるために日付を言ったり、家族の写真を見せたり。(一人一人に)時間を取りたいが、患者さんをたくさん受け持つと1人に割ける時間が少なくなり、申し訳ないと思いながらやっている」ともどかしさを募らせる。▼十三市民病院の森坂佳代子看護部長●感染者の病室には清掃業者や家族すら入れないため、看護師は掃除やこまごまとした身の回りの世話も担う。通気性の悪い防護服や、二重のマスクを着用しての作業は体力を容赦なく奪っていく。病室に入る時間は原則1時間半を限度としているが、2時間、3時間と長引き、脱水症状になることもある。感染者の受け入れを始めた当初は看護師1人で5人の患者をみていたが、高齢者の増加に伴って1人が担当できる患者数は3人程度が精いっぱいに。それでも夜勤帯は人手が薄くなり、1人で7~10人の患者をみることもある。森坂佳代子看護部長は「一番きついのが夜勤。食事の後に排せつ、投薬がある。その時間帯に集中して負荷がかかる」と語る。●感染拡大の長期化で厳しい状況に終わりが見えず、離職者が続出。さらに人繰りが厳しくなる悪循環に陥っている。西口幸雄院長は「離職を防ぐ方法があったら教えてほしい」と嘆く。▼専門外の治療「技術発揮できない。▼2.専門病院化は、各診療科で腕を磨こうとする医師のキャリアプランにも影を落とした。専門化が決まってすぐ、若手研究医が他の医療機関に移ったのを皮切りに、医師の退職が相次いだ。西口院長は「若い人はどうしても『手術をして腕を磨きたい』『内視鏡の技術を身につけたい』といった気持ちがある。同期が別の病院で活躍しているのを見て、焦る気持ちもあるんでしょう」と心中を思いやる。●感染者の治療チームには眼科や外科など、感染症とは縁遠い分野の人も加わっている。若手のみならずベテランの医師からも不満の声が上がる。「せっかく20年、30年かけて技術を磨いてきたのに、それを発揮できない。それなら別の病院に行こうかと。そういう気持ちも分かります」。同じ医師だからこそ、西口院長の悩みは深い。●専門分野に携わることができない苦悩は看護師も共通だ。周産期医療に力を入れてきた猫:十三市民病院は、母乳育児を中心とした新生児ケアで、世界保健機関(WHO)などから「赤ちゃんにやさしい病院」の認定を受けている。(写真:47NEWS)産婦人科には市内外から妊婦が訪れ、そのケアに携わることにやりがいを感じる看護師も多いが、休止状態が続いて辞める人も出た。森坂看護部長によると、看護師の中には家族から「あなたが望んだ看護ができないなら、よそに移った方がいいんじゃないか」と言われた人もいたという。●感染の「波」に翻弄された側面もある。春の第1波が落ち着いた6月には一時的に入院患者が激減。当時は全ての外来診療を停止していたため、院内から患者の姿が消え、現場のモチベーションを保つことすら困難な状況になった。それならば、と7月下旬に産婦人科の一部を除き外来を再開したところ、その直後に第2波、秋からは第3波が猛威を振るい、一転して第1波を上回る繁忙状態となった。急激な変化の中で、毎月のように離職者が続き、4月から11月末までに医師10人、看護師12人、看護助手9人が職場を去った。●開業する医師や他の病院に移る看護師。それぞれの選択について、西口院長は「離職する人は『みんなに悪いんですが…』と、すごく気を使って辞めていく。もうちょっと働いてなんて言えない」と苦渋の表情を見せる。「両親の介護をしていたり、配偶者が高齢だったりすると、自分が倒れてしまうと誰も面倒を見られない。そういう家庭の事情で辞めるケースもある」▼3.根強いコロナ差別●国内初の感染確認から10カ月以上たつが、医療従事者への偏見や差別を指摘する声は今も絶えない。猫:日本医療労働組合連合会(日本医労連)が8月に実施した全国調査では、回答があった医療機関120施設のうち、約2割が職員への差別的対応やハラスメントが「ある」と回答した。「知人や近隣住民から『近寄らないで』と言われた」(長野)、「保育園で預かり拒否やいじめ発言」(愛知)などの事例があったという。●十三市民病院でも専門化が決まった今春、職員がタクシーの乗車を拒否される事例があった。森坂看護部長は、今なお偏見で苦慮する職員がいると明かす。「この病院で勤めていることを口外しないよう、子どもに言い聞かせている職員もいる。恥ずかしいことではなく、むしろ誇れることをしているはずなのに、そう受け取ってもらえないことがある」。感染防止策を徹底しているとはいえ、いつ感染するか分からない恐怖と隣り合わせで、心理的負荷も高い。自身の家族にうつしてしまう懸念から、ホテル暮らしを続ける看護師もいるという。▼十三市民病院の西口幸雄院長▽「自分たちがやらなければ」●苦悩を抱えながら患者の治療に奔走する医療従事者の努力もむなしく、大阪府内では新規感染者の高止まりが続き、収束の兆しは見えない。本来は中等症専門だが、重症者向けの病床が逼迫しているため、患者の病状が悪化しても転院調整のめどが付くまで留め置くケースも増えた。患者急増、人手不足、医療対応の高度化。専門病院の名の下に、さまざまな形で十三市民病院にしわ寄せがいく。●ぎりぎりの状態で踏みとどまる職員らの目に留まるよう、病棟の廊下には全国から寄せられた激励の手紙が飾られている。「最前線で頑張って治療に当たっていただき、ありがとうございます」「皆さんの献身的な働きのおかげで、私たちは生活できています」。マスクやフェースシールドなどの物資を含め、これまでに寄せられた支援は300件を超える。「みんな必死でふらふらになっている。それでも職員は『自分たちがやらなければ、大阪のコロナ診療は崩壊する』との思いで、頑張っている。それが十三市民病院の意義であり、職員の使命だ」。西口院長は自らを鼓舞するように、最後の言葉に力を込めた。(終わり)●※新型コロナの感染拡大が続く大阪で、治療の最前線に立つ医療従事者の方を取材しています。現場の情報をお寄せ下さい。共同通信社大阪社会部twitter @kyodonewsosaka(DM開放しています
【精神科病院の身体拘束、諸外国の数百倍 「異様に多い」】2020.12.17.▼専用のベルトを使って、患者の体や手足をベッドに固定する身体拘束。精神科病院で行われているそうした拘束の人口あたりの実施率が、日本はオーストラリアの約580倍、米国の約270倍にあたることが杏林大学の長谷川利夫教授(精神医療)らの国際共同研究でわかった。●国際精神医学雑誌「エピデミオロジー アンド サイキアトリック サイエンシズ」に掲載された。研究は日本、米国、オーストラリア、ニュージーランドの研究者が、それぞれの国で公開されている2017年のデータを使って、4カ国の精神科病院での1日あたりの身体拘束の実施率を計算、比較した。日本のデータは毎年公表される「精神保健福祉資料」をもとにした。猫:1日あたり、人口100万人あたりで98・8人に身体拘束が行われていた。ただし、認知症患者が精神科病院に入院している日本の状況は特異なため、認知症病棟での拘束は除外したという。それに対して、オーストラリアは人口100万人あたり0・17人、米国は0・37人だった。ニュージーランドは15~64歳の人口100万人あたりで0・03人。日本は20~64歳の年齢層では、62・3人だった。年齢層に若干の違いはあるが、日本とニュージーランドの拘束率は2千倍以上の差があった。
【生活保護の申請をよしとしない役所の「水際作戦」に、立ち向かう手立て】(フリーランス・ライター みわよしこ)ダイヤモンド2020.12.18.▼生活保護の申請書一式を 作成する新規サービス「フミダン」●12月15日、猫:一般社団法人・つくろい東京ファンドは、生活保護申請を支援するウェブサービス「フミダン」の運用を開始した。生活保護申請の高すぎる障壁を手の届くものにするための「踏み段」だ。アクセスすると、自分自身の基本情報、世帯の状況、収入の状況(就労収入を含む)、資産状況などの事項を入力するフォームが現れる。必須事項の記入が終了すると、申請する福祉事務所長宛の「生活保護申請書」「資産申告書」「収入・無収入申告書」がPDFで作成される。そのPDFを印刷し、当該福祉事務所に持参・郵送・FAXなどの手段で送付すれば、申請手続きは完了となる。●実際には、この他に身分証明書や預金通帳を確認したり、それらに基づいて生活保護の可否判定に必要な調査を行ったり、本人の生活状況の確認を行うことが必要とされる。このため、「本人と福祉事務所が一度も接触せずに保護開始」というわけにはいかない。しかし生活保護は、申請の意思を明確に示した時点で「申請された」とされる。本来は、福祉事務所を訪れて、あるいは電話をかけて、氏名・住所などとともに「生活保護を申請します」と口頭で述べるだけでもよいのである。●いずれにしても、生活保護を申請する意思が示された場合、福祉事務所は原則として2週間以内に生活保護の適用の可否を判断し、本人に文書で通知しなくてはならない。不足している書類や証明書は、申請から2週間以内に提示したり提出したりすることになるのだが、救済と調査の優先順位は、もちろん救済のほうが上だ。●生活保護の対象となった場合、保護費は申請日に遡って支給される。アパート住まいの場合は、家賃補助も支給される。たとえば家賃を滞納しており、12月分の家賃を支払わないと退去を迫られそうな場合、年末年始の閉庁中の12月30日にFAXで生活保護を申請しておくことの意義は大きい。●福祉事務所が対応できるのは1月6日以後となるが、保護費の家賃補助は12月分も給付される。家賃が高額な場合は、福祉事務所から転居を指導されることになるが、それでも当面、現在の住居や生活環境を維持することができる。▼2.あの手この手で申請を抑制 「水際作戦」の現実とは●「フミダン」は、画期的なシステムである。しかし「フミダン」によって実現されるのは、生活保護の本来の運用なのだ。なぜ、このようなウェブサービスが必要となるのだろうか。その背景にあるのは、いわゆる「水際作戦」、あの手この手での申請抑制である。生活保護を必要としている当事者が直接福祉事務所を訪れると、たいていの場合は「まずは相談を」と言われるだろう。そして、答えたくない部分も含めてプライバシーや経歴を答えることを求められ、「就労継続の努力が不足しているのではないか」「親に頼れないのは自己責任ではないか」といった質問に傷つけられ続けることになる。●「心を折られる」というよりは、心が複雑骨折させられ、折れたままの形で固まってしまいそうな成り行きの末、運がよければ生活保護の申請書が差し出され、めでたく申請手続きを開始できる。●しかし、多くの場合は3~4時間、場合によっては6時間以上に及ぶこともある「相談」の果てに、その日のうちに申請できない場合もある。「なんとか就労を継続しているけれども、生活を維持できそうにないから、生活保護を申請する決意をして福祉事務所を訪れた」という場合、長時間にわたる1回の「相談」が、生活保護申請の機会を決定的に失わせてしまうこともある。その人は、餓死や孤立死へと追い詰められ、遺体となってから発見されることになるかもしれない。●「つくろい東京ファンド」代表の稲葉剛さんは、「フミダン」開発の目的について、「水際作戦の無効化です」と明快に語る。「先にFAXで申請書を送っておき、申請の意思表示を行ってから福祉事務所に行けば、用件が生活保護の相談であることを明らかにできます。生活保護を申請する前に、『相談』に3時間取られたり、生活保護以外の制度や社協の貸付を案内されたりする必要はなくなります」(稲葉さん)▼3.まるでロールプレイングゲームの「ダンジョン」を攻略するように水際作戦を攻略しなければ、生活保護を申請することもできない。タテマエとしては、自治体にも福祉事務所にも各職員にも、申請する権利を侵害することはできない。しかし多くの自治体において、水際作戦は事実として存在し続けてきた。厚労省は各福祉事務所に対して「申請する権利の侵害と取られる行為を慎むように」と繰り返し通知し続けているのだが、生活保護の利用抑制と取れる指示を多様な形で続けてきたのも厚労省である。このため、「水際作戦」が消滅する気配はない。▼ネットカフェ難民が コロナ禍で受けた水際作戦●さらに、コロナ禍の影響もある。「今、福祉事務所のカウンターに行くと、職員はカウンターの上のビニールカーテンの向ここうにいるわけですが、当事者と支援者は狭い空間に一緒にいることになります。それは、新型コロナの感染リスクを高めることになります」(稲葉さん)東京23区の中では、中野区など1時間程度で「相談」が終わるところもあったが、他区では3~4時間に及ぶことが多かったという。福祉事務所の環境が新型コロナの感染リスクを高めているところに、水際作戦が重なる。●「4月、東京23区では生活保護の申請が前年度に比べて約40%増加したのですが、その時期は水際作戦が多かったです。支援者が同行せず、本人が1人で申請に行くと、どうしても水際作戦に遭う感じでした」(稲葉さん)●特に、ネットカフェが多い新宿区では、4月の緊急事態宣言でネットカフェが閉鎖され、比較的若い人々が多数、寝泊まりの場を失った。猫:生活保護を適用する責任のある自治体は、「その人の居住地(住民票がある)」「その人が今いる場所」のいずれかである。その日の朝まで新宿区のネットカフェにいた人が、新宿区で生活保護を申請するのは自然の成り行きだ。しかし福祉事務所の人員配置は、ネットカフェ難民が一斉に住居喪失する事態を想定していない。稲葉さんは、新宿区の福祉事務所職員に、電話で「みんな受け付けていると、私たちがパンクします」と言われた経験を持つ。▼4.「若い方が多かったですから、『親元に戻れば』とか『住民票のある自治体に行ってください』とかいう形の水際作戦も多かったです」(稲葉さん)●5月以後、生活保護の申請件数は4月に比べて減少したが、年末を控え、また増加傾向にある。稲葉さんは、「また、4月と同じように水際作戦が増えそうだ」という危惧を抱いている。「私たちは全件、同行申請する方針でいます。しかし、限界です。かなり疲弊しています」(稲葉さん)●なお、稲葉さんはじめ支援者たちが2020年春から夏にかけて当事者とともに経験した不条理の数々は、猫:岩波書店から11月30日に刊行されたばかりの書籍『コロナ禍の東京を駆ける: 緊急事態宣言下の困窮者支援日記』(稲葉剛・小林美穂子・和田静香著)に詳しく記されている。▼ テクノロジーによる 社会課題解決の可能性●年末年始、「フミダン」は申請書作成だけではなく、ウェブサービスだけでオンライン申請を完結させる機能を、東京23区内限定で試験運用する予定だ。厚労省は各福祉事務所に対し、年末年始も生活保護の申請を受け付けられる体制の整備を要望しているが、実際に対応しそうなのは江戸川区だけだ。●「オンライン申請」といっても、ウェブサービスから申請書が送付される先は、各福祉事務所のFAX機だ。いわば、インターネットFAXの機能を利用したハイテクとローテクの結合、ハイテク側からローテク側への申請書送付である。「なーんだ」と笑われそうだが、このような技術への需要は、たとえば「事業所内の古く安定したシリアル接続機器を、インターネットから制御可能にする」といった形で、常に存在する。●開発の中心となったのは、つくろい東京ファンドのスタッフ・佐々木大志郎さんだ。佐々木さんは、20代の時期に不登校を専門とするNPOに関わり始めた。2011年以後は、生活困窮者支援を行うNPOで、広報やファンディングや直接支援に関わり続けている。しかし、ICT技術を職業とした経験はないという。
【男性看護師が精神疾患の入院患者に暴力 「殴られそうに」と虚偽報告も 病院が謝罪】京都新聞2020.12.17.▼京都府立洛南病院(宇治市五ケ庄)は17日、12月上旬に60代男性看護師が精神疾患のある入院患者に対して足を複数回けり、襟首をつかんで揺さぶったりベッドに押さえつけたりする暴力を行っていたと発表した。看護師は主治医に「患者から殴られそうになった」と虚偽の報告を行い、患者は個室に鍵をかける閉鎖処遇を1日間続けられた。● 同病院によると、12月10日午後3時半ごろ、男性看護師は患者のナースコールで病室を訪れ、大声で名前を呼ばれた際、ベッドに座った患者の足を3回けったほか、襟首をつかんで前後に3~4回揺さぶり、ベッドに上半身を倒して20秒ほど押さえつけた。患者の右鎖骨付近に3センチの擦り傷があり、この際の暴力が原因の可能性があるという。●看護師は主治医に「大声を出され、殴られそうになった」と報告したため、患者は同日午後3時50分ごろから翌11日午後4時25分ごろまで、病室の鍵を外からかけられて閉鎖処遇を受けた。11日午後、別の看護師がこの処遇の経緯を記した記録を見た際、病室に設置されたカメラの記録映像に男性看護師が殴られそうになる様子は確認されず、報告が虚偽と判明。同処遇は解除された。●同病院は11日に男性看護師に聞き取ったところ、暴力を認め、「自分の身を守るためにとっさに行った」と釈明したという。同日から当面、自宅待機を命じるとともに14日に患者と家族に謝罪した。●山下俊幸院長は「信頼を損なう事態を招き、申し訳ない」とコメントした。●同病院は、精神科病院として1945年に設立され、現在は外来のほか、256床の入院機能がある。▼5.「広報のための技術は勉強していますし、クラウドファンディングを通じて『テクノロジーは市民社会に深く関わっている』ということを熟知しているつもりです。技術で食べているわけではありませんが」(佐々木さん)●支援者たちも、テクノロジーには大きな期待を寄せている。「こんなシステムがあったら」という夢は、しばしば語られる。しかし、データの整備やメンテナンスに必要なICTリテラシーを持つ人がいなかったり、いてもその業務に専念する余裕がなかったりするため、夢として立ち消えることが多いそうだ。●「フミダン」が現実となったのは、つくろい東京ファンドが4月から5月にかけて行った多数の緊急対応の経験からだった。増大するばかりのニーズに、いずれ対応し切れなくなることは目に見えていた。次の展開を稲葉剛さんと話し合い、「やってみようか」ということになったという。▼増大するばかりのニーズに どう対応すべきか●佐々木さんは当初、自分でスクリプトを使って開発しようとした。しかしすぐに、実際の運用でのセキュリティは「素人の手に負えない」と判断し、開発会社の選定にシフトした。6月には受託する企業が見つかり、開発がスタートした。9月から10月にはサービスのリリースが可能になるはずであったが、思わぬところに暗礁があった。暗礁の正体は、「どこかに、福祉事務所のFAX番号の一覧表があるわけではない」ということである。ほぼ手作業でデータを収集し、整備し、この年末年始の試験運用に漕ぎ着けたところだ。● 佐々木さんは、「フミダン」を通じて、今後のシビックテック(市民による技術活用)の可能性を確信したという。●「テクノロジーでやれることは、まだまだあると思います」(佐々木さん)日本に蓄積されている知恵と経験と技術で、明るい未来を実現できないわけはないだろう。
【入院患者死亡、身体拘束は「違法」 遺族側が逆転勝訴 高裁金沢支部判決】毎日新聞2020.12.16.▼石川県野々市市の精神科病院に入院していた大畠一也さん(当時40歳)が死亡したのは不当な身体拘束が原因だとして、両親が病院を運営する社会福祉法人に損害賠償を求めた訴訟の控訴審判決で名古屋高裁金沢支部は16日、請求を棄却した1審・金沢地裁判決(2020年1月)を変更し、法人に約3500万円の支払いを命じた。●判決で蓮井俊治裁判長は「人権制限の著しい身体拘束を選ぶには特に慎重な配慮が必要」と指摘。拘束の必要性を認めた医師の判断は不合理とは言えないとした1審判決に対し、医師が拘束を認めた時点で大畠さんが診察に抵抗していなかったことなどから「精神保健福祉法などで定める拘束の基準に該当せず違法」と認定した。●遺族側は、大畠さんは拘束開始後、ほとんど抵抗していないにもかかわらず6日間にわたって身体を拘束し続けたことは違法だと主張。病院を運営する「金沢市民生協会」(野々市市)に約8600万円の損害賠償を求めている。●判決などによると、大畠さんは統合失調症の診断を受け、16年12月6日に入院。同14日から手足や胴体を拘束され、同20日に拘束を解かれた直後に亡くなった。死因は肺血栓塞栓(そくせん)症(エコノミークラス症候群)だった。●判決後、記者会見を開いた父正晴さん(70)は「一也は亡くなってしまったが、これを機に日本の医療が変わってほしい」と話した。病院側は「判決は厳粛に受け止める。内容を確認の上、今後の対応を検討したい」とコメントした。
【障害者施設、虐待防止の取り組み義務化へ 22年4月から】福祉新聞202012.08.▼厚生労働省は11月27日、障害福祉施設に対し、虐待防止のための取り組みを義務付ける考えを「障害福祉サービス等報酬改定検討チーム」で明らかにした。障害福祉施設・事業所の指定基準に「職員研修」「虐待防止委員会の設置」「責任者の設置」の3点を加える。1年超の準備期間を経て、2022年4月からすべての施設・事業所で義務とする方針だ。虐待防止をめぐる施設・事業所の取り組みは、現在も法律や厚労省令で定めているが、強制力は弱い。一方、施設・事業所職員による虐待は年々増えていて、18年度の通報件数は2605件。そのうち592件が虐待と認定され、被害者は777人に上る=グラフ参照。▼身体拘束は減算拡大:身体拘束についても安易に行わないよう厳格化する。現在はやむを得ず拘束する際、必要な記録を取らないと報酬を減算する仕組みがあるが、職場内での研修や委員会の開催がない場合も減算するよう改める。23年4月から適用する方針だ。また、現在は拘束禁止が明文化されていない訪問系サービスの事業所にも拘束廃止の取り組みを求める。23年4月からは所定の要件を満たさない拘束については報酬を減算する。▼処遇改善は制限緩和:虐待や身体拘束は、主に職員の知識やスキル不足から生じるとされている。職員の定着を図ることが重要となるため、厚労省は職員の処遇についても現行ルールを微修正する。19年10月開始の福祉・介護職員向けの「特定処遇改善加算」は、事業所が配分する際のルールを緩和する。 現在は経験・技能のある職員に厚く配るため、他の職員と2倍の差をつけることとしているが、今後は「2倍」までは求めない。加算の取得率が低いことを踏まえ、事業所の裁量を広げることで取得を促す。育児・介護を理由とした短時間勤務の取り扱いも改める。現在は家族を介護するため勤務時間を減らすと「常勤」にならない。今後はこれを改め、週30時間以上勤務した場合には「常勤」と認める。また、常勤職員が育児・介護休業を取得する間の代わりの職員については、複数の非常勤職員の勤務の合計で常勤とみなす。
【コロナ対応限界、看護師退職止まらず…「命を危険にさらしてまでできない」】2020.12.09.読売新聞
▼待遇不十分 周囲から差別●新型コロナウイルスの流行が長期化する中、感染患者のケアに疲弊した看護師ら病院職員の退職が相次いでいる。感染の危険と隣り合わせの過酷な労働環境下で、十分な待遇もなく、周囲から差別されたことなどが背景にある。30人以上が退職した病院もあり、職員のサポートが急務となっている。▼極度の緊張:「いつ自分も感染するかと常に緊張を強いられ、負担が重かった」。コロナ患者を受け入れる北日本の総合病院を8月に退職した40歳代の看護師の女性はこう振り返る。女性は保育園児の息子の子育てのため10年以上勤めた診療所を辞め、4月に勤務の調整がしやすい大病院に転職した。非正規の看護職で外来に勤務していたが、感染拡大に伴い、陽性が疑われる患者の検査補助などを担当するようになった。病院では同僚の看護師がコロナに感染。ゴーグルやマスクをつけ、休憩室でも会話を控えるなど対策を徹底したが、感染の不安は拭えなかった。病院側にはPCR検査を希望したが断られた。極度の緊張の中、待合室では患者から「コロナがうつるから近づくな」と心ない言葉をぶつけられ、落ち込むことも度々あった。業務負担は増えたが、時給は約1400円のままで、コロナ対応の特別手当も月1万4000円程度。女性は「十分な待遇もなく、自分や家族の命を危険にさらしてまで勤務はできなかった」と語る。▼保育園で拒否:感染拡大に伴い、コロナ患者を受け入れる病院では職員の退職が相次ぐ。大阪市立十三市民病院では11月末までに医師10人、看護師・看護助手22人が退職した。同病院は18の診療科を持つ地域医療の拠点だったが、今年5月にコロナの中等症患者の専門病院となった。7月には一部の外来を再開したが、「本来の専門分野の患者を診られないのがつらい」「負担が重すぎる」などと退職する人が後を絶たないという。東京都の私立病院でも感染の不安などを理由に複数の看護師が退職したほか、別の病院でも退職や休職をする職員が出ている。労働組合には病院職員から悩みが寄せられる。日本医療労働組合連合会が8月に病院などを対象に行った調査では、120施設のうち2割が、職員への差別的対応やハラスメントが「ある」と回答した。子供の保育園で預かりを拒否されたり、美容室の予約を断られたりした事例もあった。▼「心のケア重要」:病院側も職員のサポートに取り組んでいる。国立国際医療研究センター病院(東京都新宿区)は職員や患者向けに、「つらい時は自分を責めずに誰かに話して共有する」など心の健康を保つ方法を紹介するパンフレットを作成。臨床心理士らによる面談にも力を入れる。同病院の心理療法士・曽根英恵(はなえ)さん(33)は「過酷な状況が長期化し、心のケアの重要性が高まっている」と話す。東京慈恵会医科大学付属第三病院(狛江市)では、家族への感染を心配する職員のため無料で寮を用意し、負担が過重にならないよう勤務体制を見直している。同病院精神神経科の谷井一夫医師(44)は「不安を抱えながらも懸命に働く職員たちがいることを知ってほしい」と訴える。筑波大の高橋晶准教授(災害・地域精神医学)は「コロナの影響で看取り(みと)ができないことなどを遺族から責められたり、周囲から差別的な発言をされたりすると、使命感が強い人ほど精神的に落ち込んでしまうことがある。病院側は職員のニーズを把握し、働きやすい環境を作ることが不可欠だ」と指摘する。
【女性の「自死」急増の背景にある労働問題】2020.12.05.今野晴貴:NPO法人「POSSE」代表。年間3000件以上の労働・生活相談に関わり、労働・福祉政策について研究・提言している。著書に『ストライキ2.0』(集英社新書)、『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)、『生活保護』(ちくま新書)など多数。2013年に「ブラック企業」で流行語大賞トップ10、大佛次郎論壇賞などを受賞。共同通信社・「現論」、東京新聞社・「新聞を読む」連載中。一橋大学大学院社会学研究科博士後期課程修了。博士(社会学)。POSSEは若者の労働問題に加え、外国人やLGBT等の人権擁護に取り組んでいる。無料労働相談受付:soudan@npoposse.jp。●様々なメディアが報じているように、コロナ禍において女性の「自死」が急増している。警察庁の発表によれば、今年7月から10月までの女性の自殺者数は2,831人(暫定値、11月16日集計)であり、前年の同じ時期と比較して4割以上増加している。●自死が増加している背景には、新型コロナの感染拡大に伴う経済的な影響、生活環境の変化、育児負担やドメスティック・バイオレンスなど家庭内の問題など、様々な要因があると考えられるが、見落としてはならないのが職場における「労働問題」だ。●私たちNPO法人POSSEがNHKと共同して実施した聞き取り調査では、コロナ禍の「労働問題」が女性の生活やメンタルヘルスに与えている影響について、一定の手がかりを得ることができた。いくつかの事例を紹介し、自死の拡大を防ぐために私たちに何ができるかを考えたい。▼非正規女性を直撃したコロナ禍●事例を紹介する前に、統計データを確認しよう。コロナ禍は、飲食業やサービス業などの女性労働者の比率が高い業種に深刻な影響を及ぼしているため、女性雇用の状況は男性以上に悪化している。●なかでも影響を受けやすいのが非正規雇用で働く女性だ。総務省が12月1日に発表した10月の労働力調査によれば、猫:正規労働者が前年同月から9万人増加しているのに対し、非正規労働者は85万人減少しており、このうち53万人を女性が占める。●また、最近、NHKが実施したアンケート調査では、今年4月以降に、解雇や休業、退職を余儀なくされるなど、仕事に何らかの影響があったと答えた人の割合は、男性が18.7%であるのに対し、女性は26.3%であり、女性は男性の1.4倍に上っている。●10月の月収が感染拡大前と比べて3割以上減った人の割合も女性の方が高い(男性15.6%、女性21.9%)。また、猫:今年4月以降に仕事を失った人のうち、先月の時点で再就職していない人の割合は女性が男性の1.6倍だという(男性24.1%、女性38.5%)。●参考:「新型コロナ 女性の雇用に大きな影響 解雇や休業は男性の1.4倍」(2020年12月4日、NHK)●こうしたデータから、新型コロナの感染拡大が女性の雇用により深刻な影響を与えていることがわかるとともに、雇用に関係する諸問題が女性の「自死」増加の要因になっていることが推察される。▼「労働問題」がメンタル不調の要因に●POSSEの調査では、こうしたマクロな調査では見えてこない「労働問題」の実情が見えてきた。これから見るように、調査結果からは「労働問題」がメンタルヘルス不調をもたらす要因となっていることがわかり、「自死」の増加との関連が示唆された。●この調査では、今年3月以降にPOSSE等に相談を寄せた女性に聞き取り調査への協力を依頼し、60人の女性から生活状況やコロナによる影響について回答していただいた。●まず紹介したいのは、仕事を失ったことが労働者のメンタルヘルス不調に直結しているケースである。情熱を注いでいた仕事を突如として失うことが、経済的打撃にとどまらず、絶望やショックを与えていることがわかる。●専門学校で教員として6年ほど働いていたが、猫:4月13日から5月19日まで学校が休みになり、休業手当は全く支払われず、6月には解雇された。●9月初めから眠れなくなり、一睡もできない日が何日もある。睡眠剤をもらって無理やり眠っている。うつ状態にあり、倦怠感があって体が思うように動かない。〔50代〕●スポーツクラブのインストラクターをしていたが、4月7日から5月31日まで休業となり、休業補償は全くなかった。9月末には突然メールで契約終了を通告された。毎日のように働いていたスタジオで、顧客とは家族のように接していた。契約終了を告げられた時は、怒りが湧き上がると同時に呆然としてしまい、「この先どうなるんだろう」という絶望感があった。〔40代〕●本来、自分を守ってくれるはずの会社から見捨てられ、あたかも「必要のない人間」であるかのような扱いを受けることが女性のメンタルに大きな影響をもたらすことは想像に難くない。●次の事例のように、より直接的に職場での理不尽な扱いがメンタルヘルス不調に直結しているケースもある。余裕のなくなった企業が強引な手法で労働者を退職に追い込むケースは、私たちに寄せられる相談にもよく見られる。また、解雇をすると公的な助成金を受けられなくなるためか、解雇を避け、自己都合退職に追い込むケースも多い。●パートの理容師として働いていたが、テナントとして入っている商業施設が4月から5月にかけて休業したため、自分の店舗も2ヶ月間休業した。●猫:休業明けに遠くの店舗にヘルプに行くよう命じられ、拒んだところ、高圧的な面談が3回続き、役職者2名に囲まれ、退職勧奨を受けた。これをきっかけに、10月前半から胃腸炎、高熱といった症状が出た。精神科に通っている。仕事が好きだったので、退職勧奨を受けた時に、首を吊ろうかなと思うぐらい追い詰められた。〔20代〕▼公的支援制度の不備が「自死」の原因に・・・?●新型コロナの感染が拡大して以降、私たちのもとには、会社が公的な助成金を利用してくれないという相談が数多く寄せられ続けている。●猫:雇用調整助成金や小学校休校等対応助成金は会社が申請する制度であり、労働者が自分で申請することはできない。雇用調整助成金の機能不全を補うものとして作られた休業支援金・給付金の申請についても原則としては企業の協力が必要であるとされ、労働者が協力を求めても拒否されるケースが少なくない。●とりわけ非正規労働者からこうした相談が寄せられることが多く、非正規率の高い女性が申請の「妨害」の被害に遭いやすいと考えられる。以下の事例を参照いただきたい。●ティラピスのスタジオでアルバイトとして働いていたが、緊急事態宣言発令後、自宅待機を命じられた。残っている年次有給休暇を全て使わされ、それ以外の休業日については賃金の6割しか補償されなかった。休業明けもシフトに入れてもらえず、雇用調整助成金を使ってほしいと訴えたが、応じてもらえなかった。●仕事のことで悩んでいたためか、7月頃から、胃潰瘍が悪化して吐血し、自宅安静が必要な状況が続いた。メンタル不調があり、2日間寝られないこともあった。病院では「ストレスがあったのではないか」と言われた。〔30代〕●結婚式や写真館などの衣装の着付けのアルバイトをしていた。コロナの影響で休業になったが、休業手当が一切支払われなかった。会社からは「頼んだ時だけ仕事が発生する契約だから、休業ではない」と説明された。会社が休業の事実を証明してくれなかったため、休業給付金を利用できなかった。●会社が休業補償をしてくれなかったことから、心血を注いできた仕事なのに自分が大切にされていないと考えることが多くなり、気分が落ち込むようになった。自分がいらない人間になったと感じた。漠然とした将来への不安もある。〔40代〕●雇用主に対して、せっかく作られた公的支援策の利用を求めているにもかかわらず、応じてもらえないというのは、労働者にとって非常に理不尽に感じられ、ショックな出来事であろう。職場から切り捨てられ、公的な支援を受けることもできなかった女性が「自死」の選択に至ってしまったケースもあるのではないだろうか。▼経済状態や生活環境の悪化につながるケース●最後に紹介するのは、雇用や収入を失ったことにより、経済状態や生活環境が悪化し、体調不良やメンタルヘルス不調につながっている事例だ。健康状態や家庭生活に影響が生じてしまっているケースも見られる。●IT関連の会社で正社員として働いていたが、コロナの影響で仕事がなくなった。休業補償は6割と言われたが、実質的には以前の給与の4割程度だった。その状況が続き、9月に退職した。●食費を切り詰めていたこともあり、体調を壊してしまった。病院に通っているが、費用を支払えず、検査を受けることもできない。預貯金はほとんどなくなっている。死んだ方がいいんじゃないかと思っている。〔20代〕●スーパーで試食販売の仕事をしていたが、コロナの影響で仕事がなくなった。会社は「日々雇用のため、継続して雇っている認識はない。休業ではない」と主張し、休業手当は一切支払われなかった。休業給付金を申請したが、日々雇用を理由に使用者が休業の事実を証明しなかったため、受給できなかった。●余裕がなくなり、外食ができなくなり、日常的な買い物でも値段に気をつけるようになった。仕事がなく将来が見えない不安から、子どもを叱ってしまったり、夫とぶつかったりあったりした。憂鬱で気が沈んでいる。〔40代〕●以前は、家計における女性の収入の位置づけは家計補助的なものであることが多かったが、現在では、家計を維持していく上で不可欠のものになっている場合が多い。それにもかかわらず、女性の賃金は低く、コロナ禍に至る前からぎりぎりの生活をしていた人も多い。●ぎりぎりのところで何とか生活を維持していたところに、コロナ禍の影響が加わり、「自死」を選択せざるを得なくなるまで追い詰められてしまったというケースは少なくないのではないだろうか。「自死」の背景に、コロナの影響だけでなく、社会構造に起因する貧困があるという視点が重要だ。▼調査から見えてきたもの-権利行使を支えることの重要性●以上のように、コロナ禍に伴う労働問題は、単に仕事や収入を失うにとどまらない深刻な影響を女性に与えている。会社のために身を粉にして働いていたにもかかわらず、危機が迫った途端に切り捨てられ、公的支援制度の利用さえ拒まれる。こうした労働問題が「自死」増加の一因となっていると推察できる。●では、なぜ労働問題がこれほどまでに広がっているのだろうか。というのも、職場で従属的な立場に置かれやすい労働者を保護するために労働法が存在しており、コロナ禍ではそれに加えて様々な施策が講じられ、各種の公的支援策を活用することによりコロナに起因する「労働問題」は最小限に抑制できるようになっているはずだ。●それにもかかわらず、様々な綻びから、こうした法律や制度が十分に機能しておらず、貧困の拡大や「自死」に対する歯止めになっていない。私たちがまずしなければならないのは、こうした制度や法律を適正に機能させることではないだろうか。●確かに、企業も厳しい状況にあるのは確かだ。しかし、経営状況が悪いからといって、その矛盾を弱い立場にある女性や非正規労働者に押し付けるべきではない。少なくとも雇用調整助成金の特例措置が続いている間は、「女性だから」「非正規だから」といって労働者を切り捨てる企業が許されてはならない。●私たち市民は、こういう時だからこそ、職場において法律や権利が守られるよう厳しい目でチェックしていなければならない。法律や社会的要請を無視する企業に対しては、強く批判し、労働者の権利行使を支えていく必要がある。職場で理不尽な扱いを受ける労働者が少なくなれば、「自死」の抑制にもつながるだろう。●また、NPO法人POSSEと連携する総合サポートユニオンでは、非正規女性による労働運動が活発化しているという。職場で既存の法律を守らせ、制度を使わせるだけでなく、最低賃金の引き上げなど、現状の制度を変えていくための権利行使を行うことも非常に重要だ。●また、最近、猫:NHKが実施したアンケート調査では、今年4月以降に、解雇や休業、退職を余儀なくされるなど、仕事に何らかの影響があったと答えた人の割合は、男性が18.7%であるのに対し、女性は26.3%であり、女性は男性の1.4倍に上っている。10月の月収が感染拡大前と比べて3割以上減った人の割合も女性の方が高い(男性15.6%、女性21.9%)。また、今年4月以降に仕事を失った人のうち、先月の時点で再就職していない人の割合は女性が男性の1.6倍だという(男性24.1%、女性38.5%)。▼ 最後に、辛い状況にある方々には、ぜひ力になってくれる支援者を探していただきたい。全国で多くの支援団体や専門家が苦しい状況にある方々を助けるために日々奔走している。インターネットで検索することにより比較的容易に力になってくれる存在を見つけることができるので、諦めずに相談してみてほしい。▼参考:NPO法人POSSE「女性の働き方・生活へのコロナ影響調査(中間報告)」※ 本調査は、本日21時より放送されるNHKスペシャル「コロナ危機 女性にいま何が」でも取り上げられる予定である。【無料の電話相談ホットライン】名称:コロナ災害を乗り越えるいのちとくらしを守るなんでも電話相談会。日時:2020年12月19日(土)10時~22時。対象:全国の労働・生活相談を抱えている方。電話:0120-157-930(相談無料・通話無料・秘密厳守)。共催:「生存のためのコロナ対策ネットワーク」「コロナ災害を乗り越える いのちとくらしを守る なんでも電話相談会実行委員会」
【委託費不正受給の認可保育園を1年間新規利用者受け入れ停止 京都市が行政処分】2020.11.30
京都市は30日、南区の認可保育所「唐橋保育園」が委託費や助成金を不正に受け取っていたとし、2021年1月から1年間、新規利用者の受け入れを停止する行政処分を行ったと発表した。市は不正請求額に加算金を上乗せした約455万円の返還も求める。唐橋保育園は宗教法人天理教姫京分教会(同区)が運営し、1歳~5歳の園児25人が在籍する。市は不適正な運営に関する複数の通報を受け、20年2月から監査を行ってきた。市によると、唐橋保育園は19年5月~今年2月、保育士が必要数を満たしていなかったにもかかわらず、保育士の加配に対する国の委託費や市の助成金を不正に請求、受領していた。監査に対し、勤務実態のない保育士の派遣契約書類を提出する虚偽報告もあった。唐橋保育園は取材に対し、返還に応じる考えを示した上で「必要な保育士数が確保できず、市からのプレシャーもあって虚偽報告をしてしまった。不正請求をしようという意図はなかった」としている。
【「判決も差別だ」原告、敗訴に落胆 旧優生保護法訴訟】2020.12.1朝日新聞
子を産み、育てる権利を奪われた原告の訴えは届かなかった。大阪地裁は30日の判決で、旧優生保護法(旧法)を差別的で違憲としつつ、時の経過によって権利が消滅する「除斥期間」を適用し、国への賠償請求を退けた。原告や弁護団から落胆と怒りの声が上がった。●30日午後、大阪地裁の202号法廷。原告3人のうち聴覚障害のある70代女性とその夫の80代男性は原告席に座り、手話通訳を介し、判決主文や理由の説明を受けた。判決後、大阪市内であった会見で「裁判官は悔しさとか苦しみをわかってくれているのだろうか」「怒りがおさまらない」。夫妻は大きな身ぶりの手話で憤りを示した。●生まれつき耳が聞こえない女性は1970年、夫と結婚。4年後に帝王切開で赤ちゃんを出産したが、生後まもなく亡くなった。この日の判決で、出産の際、理由を告げられずに不妊手術を受けたと認定された。判決は、旧優生保護法(旧法)が差別的だとして法の下の平等を定めた憲法14条に違反するという初判断を示した。原告側弁護団の辻川圭乃(たまの)弁護士(大阪弁護士会)は「仙台地裁より踏み込んで評価できる」と指摘。夫も「法律が差別にあたると言ったのは良かった」とした。●それでも、訴えは認められなかった。夫は「判決も障害者差別だ。裁判所は、障害や長年の苦しみを理解していない」と落胆した。●夫妻は今後、旧法をつくった国の責任を問いたいとして控訴を検討する。妻は「周りの支援が得られれば、もう一度、私たちの訴えを司法の場で考えてもらいたい」。手話の手ぶりに力を込めた。●もう一人の原告、知的障害のある女性(77)の姉は弁護団を通じ「妹は長い間苦しんできた。請求が認められず大変残念に思う」とコメントした。
【涌谷の保育園で”パワハラ”労基署に”改善”指導を申し入れ】2020.11.30東北放送
涌谷町内の保育園で、園を運営する法人の理事長のパワーハラスメントを理由に保育士ら17人が30日付けで退職します。30日、その保育士が宮城労働局に対し保育園への指導を求めました。●保育士ら17人が退職するのは涌谷保育園です。17人は理事長のパワハラを理由に30日付けで退職します。子どもを預けている保護者からは慣れ親しんだ保育士が集団で退職する事態に不安の声が聞かれました。●一方、涌谷保育園を退職する保育士のうち5人が30日、宮城労働局を訪れ要望書を提出しました。このなかでは、理事長が保育士を子どもの前で叱責するなどのパワハラや就業規則が閲覧できないのは法令違反の可能性があるとして改善を指導するよう要望しています。保育士の1人は子どもを残しての退職は苦渋の決断だったと話します。●宮城労働局では事実関係を調べ、法令違反が確認されれば是正勧告などを行うということです。涌谷保育園では「コメントできる立場の職員が不在のため、取材には応じられない」としています
【保護者が奮闘 “重症心身障害者”を支援・生活介護事業所「ぴぃーす」の半年 静岡市】2020.11.27.テレビ静岡
重い知的障害と身体障害を合わせ持つ「重症心身障害者」、生活のすべてに支援が必要となりますがこうした人たちをサポートする施設がいま不足しています。●こうしたなか、障がいを持つ子の保護者たちが、自ら受け皿拡大のための施設を作りました。●通所型の生活介護事業所「ぴぃーす」●18歳以上の重症心身障害者の日常生活を支援●
「りおさん、おはようございます。熱測ります。36度4分です」●「おはよう、待ってたよ」●今年4月、静岡市駿河区にオープンした生活介護事業所「ぴぃーす」●18歳以上の重症心身障害者の日常生活を支援する通所型の施設です。●特別支援学校の卒業生の保護者たちが運営を始める●猫:18歳から37歳までの14人が利用していますが、運営を始めたのは特別支援学校の卒業生の保護者たちです。●NPO法人ぴゅあ・西澤浩子理事 「卒業後になると、どうしても学校とは違って障害の状態、支援の区分で行き先が決まりがちになってしまう。そういう枠を超えた居場所が欲しいという思いから活動を始めて」●日常的に医療的ケアが必要●週5日「ぴぃーす」を利用する叶吏央さん●叶吏央(りお)さん19歳。●今年、特別支援学校を卒業し、週に5日ぴぃーす」を利用しています。●生後10カ月頃、医師から、てんかんの発作が原因で体の機能が発達しない難病と宣告されました。●吏央さんの母・叶江利さん「病気は治療すれば治ると思っていたので、寝たきりと言われた時には、驚きしか最初はなかったです」●不足する重症心身障害者受け入れ先●希望していた施設には受け入れてもらえなかった●体の硬直や変形、飲み込みができなくなるなど症状が次第に現れてきた吏央さん。●猫:特別支援学校に通っていましたが、卒業後、希望していた施設に入ることはできませんでした。●吏央さんの母・叶江利さん「将来的にも自宅から一番近い施設がいいと思っていたので、そこを候補に挙げていたが、受け入れてもらえず」●猫:市内では重症心身障害者の受け入れ先が足りない状況が続いています。●重症心身障害者受け入れ先が不足●吏央さんは少量の食事は口からおこなえますが、大部分はおなかから直接胃に食べものや水分を送る必要があり、猫:施設で過ごすには医師や看護師などによる医療的ケアが必要です。●こうした医療的なケアが必要な18歳以上の人は市内で約90人います。しかし、受け入れ枠は70人分しかありません。●さらに、重症心身障害者は増えていて、医療的ケアが必要な18歳以下の未成年は●市内に100人以上いるといいます●2頁。●医療的ケアを担える人材確保が課題●専門家は、医療的ケアを行える人材の確保ができないことが要因として、施設でのケアを担える人材を増やす必要性を訴えます。●静岡県立大学短期大学部・立花明彦教授 「医療的ケアを担える人材が十分に足らないということが大きな問題としてある。福祉の職員そのものが医療的ケアも担えて、施設で利用者をケアできる体制づくりが必要になってくる」●自分たちで施設を開設:保護者のつながりで看護師も確保●「おつきさまとあそびたいな」受け皿がないなら自分たちでつくればいいと始まった「ぴぃーす」。保護者のつながりによって看護師も確保しました。●金融機関もサポート:
さらに、市の事業に申し込み土地を無償で借してもらったほか、事業に理解を示す金融機関から融資を受け運営しています。静岡銀行ソリューション事業部・鈴木英幸さん 「地域金融機関としては必ずやっていかなくてはいけないこと。とくに、医療・介護・福祉は地域の中で解決しなくてはいけない問題。そこは積極的に対応していきたい」●障害を持つ人と家族の支援体制作りが急務:利用者「みんな和気あいあいと楽しいです」別の利用者「カラオケが楽しいです。(Q:どの曲を歌う?)あいみょん」●週に5日通う叶吏央さんも、ぴぃーすでの時間を楽しんでいます。吏央さんの母・叶江利さん「徐々に笑ったり、泣いたり、怒ったりができるようになってきて、それが家では出せて、ここでは出せないではなく、ここでも怒ったり泣いたり笑ったりしたと毎日連絡を受けているので、自然に生活できていると思います」NPO法人ぴゅあ・西澤浩子理事 「悩み事を持っている親に寄り添って、悩み事をケアしていく、寄り添っていける活動もしていけたらいいかと」受け入れ先が足りない状況が続くなか、重い障害を持つ人と、その保護者の生活を地域で支えていく体制づくりが急務となっています。◆重症心身障害者のための施設◆静岡県内で生活している重症心身障害者の数は、2001年には1285人だったのが、医療の進歩もあり15年間でおよそ1.6倍に増えています。一方で、施設の受け入れ枠について、県は正確な数字は把握できていないとした上で「少しずつ増えては来ているが、まだ不足している」としています。ではなぜ施設はできないのか?多くの重症心身障害者に、医療的ケアが必要だからです。医療的ケアは、たんの吸引や管を使って体内に栄養を入れる経管栄養などがありますが、こうしたケアができるのは医師、看護師、家族に限られていて、医師や看護師が不足しているいま、施設を増やせないのが現状といいます。施設に入れない場合は、家族が自宅でつきっきりで支援しなくてはならない状況が生まれ、家族に大きな負荷がかかってしまいます。ぴぃーすの西澤理事は「重い障害を持つ人が地域にどのくらいいるのか知ってもらうことが、支援の輪が広がる第一歩」と話しています。
【障害者の就労支援 雇用と福祉が初の合同検討会】福祉新聞2020.11.18
厚生労働省は11月6日、障害者の雇用・福祉施策の連携強化に向けた検討会を立ち上げた。障害者の就労能力や仕事の適性を評価する仕組みをつくり、ハローワークや障害福祉サービス事業所で共有することなどを論点とする。2001年の省庁再編後も旧厚生省と旧労働省の審議会が別々に政策立案してきたが、障害者が働くことをめぐり、初めて合同で議論する。今後、関係団体から意見聴取した上で三つの作業班で議論を進める。21年6月に議論をまとめる。●初会合の冒頭で土屋喜久・厚生労働審議官は「障害者の就労支援はこの十数年で大きく変化した。雇用部局と福祉部局が一体となって検討会を設けるのは遅まきながら初めての試みだ。障害者の就労支援の施策、ひいては障害者施策全般を前進させる契機にしたい」とあいさつした。●検討事項は省内幹部による「障害者雇用・福祉連携強化プロジェクトチーム」が今年9月29日に中間報告として提起したことが中心になる見込み。●主に、障害者雇用促進法に基づく雇用率制度、障害者総合支援法に基づく就労系サービスにまたがることを議論する=表参照。●その一つが障害者の就労能力を評価する仕組みづくりだ。現在は統一した評価基準がなく、判断は現場任せになっている。就労支援に当たる人材育成についても共通の仕組みができないか検討する。●雇用率制度の課題も多い。障害者が労働契約を結んで働きながら支援も受ける福祉サービス「就労継続支援A型事業」をめぐっては、企業などに義務を課す法定雇用率の計算式に批判がある。●狸:現在は計算式にA型利用者を含めていることから「A型利用者が増えるにつれて法定雇用率も上がり、企業の負担が重い」とし、計算式から除くべきという主張だ。障害者を基準よりも多く雇う企業への助成制度についてもA型利用者を外すべきとの意見がある。● 企業が精神障害者を雇用しても、本人が精神障害者保健福祉手帳を持っていないとその企業の雇用率に算定されないことも問題とされてきた。検討会は、通院医療の自己負担を減らす受給者証の所持や新しい「就労能力の評価基準」での評価をもとに雇用率に算定できないか検討する。●検討会の委員は18人。座長には社会保障審議会障害者部会で座長を務める駒村康平・慶應義塾大教授が就いた。同部会は旧厚生省の障害保健福祉部が所管する。●座長代理は労働政策審議会障害者雇用分科会座長の阿部正浩・中央大教授。同分科会は旧労働省の職業安定局が所管する。残る16人も主に障害者部会、障害者雇用分科会から選ばれた。●検討会立ち上げの契機は、猫:18年夏に発覚した障害者雇用をめぐる中央省庁の水増し問題だ。再発防止に向けて19年6月に成立した改正障害者雇用促進法の国会審議で、雇用施策と福祉施策の一体的展開を求める付帯決議がついた。●.2.「雇用と福祉の連携」というとぼんやりするが、要は二つの部局にまたがる長年の懸案事項にいよいよ手をつけようということだ。特に、障害者が労働者でもあり福祉サービスの利用者でもあるA型事業はややこしい。●福祉サービスとしてのルールを守ることも実際には難しい。厚労省は11月9日、猫:利用者に支払う賃金の総額以上の生産活動収入が得られないA型事業所が、今年3月末時点でA型全体の6割に上ることを社保審障害者部会に示した。●事業所に支払われる狸:障害報酬を利用者の賃金に充てるのは指定基準違反だが、全体の6割はこの基準が守られていない。●さらに、この6割の事業所のうち8割に当たる事業所は、前年度も基準を満たせていない。つまり、A型全体の半数弱が2年続けての基準違反組だ。●これに対し、福祉サービスを提供する側から「基準を満たせない事業所には、基準を満たす事業所への障害報酬と差を設けることも検討すべきではないか」猫:「事業所の経営努力の問題か、制度設計の問題か、A型の在り方を検討すべきだ」といった声が上がった。●19年度の実績で猫:A型は事業所数3815カ所、利用者数7万1214人。12年度に比べて事業所も利用者も約3倍に増えた=グラフ参照。障害福祉サービスの中でも比較的大きな比重を占める。●もはや複雑に絡んだ問題を見ないふりできない段階に入ったと言えるだろう。●猫鯉:A型事業所の全国団体「全Aネット」の久保寺一男理事長は本紙の取材に、「利用者に賃金を払える仕事を十分に確保できないA型事業所の経営情報は、自治体が開示すべきだ。雇用率制度などでA型を適用外とするのであれば、企業からA型事業所に良質な仕事が発注される仕組みもセットで検討してほしい」としている。
【特集 動く医療的ケア児 卒業後の不安 医療の進歩で“助かる命” 広島】2020.11.19中国放送▼病気や重度の障害で、医療的なケアを必要としながら、手足を動かすことのできる「動く医療的ケア児」が増えています。医学の進歩により、助かる命が増えているということですが、その半面で、支援の手が追い付いていないという現状があります。●福田綾香さん、16歳。広島特別支援学校高等部の1年生です。起き上がったり、自力で座ったりすることはできません。重度の知的障害があるために、言葉を交わすこともできません。● 「生まれたときは、わたしたちより生きられないなと正直、思いました。だから心配はなかったのが素直な気持ちです。でも医療が発達して…」(母 福田美鈴さん)●肛門が閉じた状態で生まれた綾香さんは、すぐに人工肛門の手術を受けました。また、気道が狭く、自力での呼吸が難しいため、気管を切開し、のどから呼吸をしています。● 「寝ている間に3時間に1回は起きるか、呼吸のアラームが鳴るか、たんが詰まって吸引するか。」(母 福田美鈴さん)●容体はしばしば急変し、救命救急センターへの緊急搬送を繰り返しました。●母の美鈴さんは16年間、つきっきりで介護を続けています。懸命なリハビリの結果、手や足は動かせるようになりました。それは、福田家にとって大きな喜びですが、新たな悩みの種でもあります。●「はい、ミルク飲みます。今からが戦争なんで。ここが最重要ポイントかもしれん。」(母 福田美鈴さん)● 気管を切開している綾香さんは、口から食事をとることができません。鼻からの注入は医療行為にあたるため、ヘルパーに任せることはできません。●「ごめんね。ちょっとミルク飲まんといけん。ごめんね。」(母 福田美鈴さん)●常に医療的なケアが必要で、手足を動かすことができる綾香さんのような障害児は、「動く医療的ケア児」と呼ばれます。体につけるものすべてを拒む綾香さんは、鼻のチューブを引き抜こうとします。それを母親の美鈴さんは、全身を使って防ぎます。●簡単に抜いてしまう?
「簡単に抜きます。1秒でピッと抜きます。1日1回は抜きますね。かわいそうだけど、やるしかないので、馬乗りになって、やるしかない。もう、やるしかないという言葉しかないです。やらないといけないので。ただただ、がむしゃらに毎日、介護をやっている感じですね。」(母 福田美鈴さん)●綾香さんは、人工肛門から出た便をためるパウチという袋をおなかに装着していますが、それも気になり、外そうとします。●「夜、目が覚めて、いいにおいがするなと思って、目が覚めたら、パウチの袋を破って、全部、うんちがたれながしで、ウンチまみれになることはしょっちゅうあります。目を離したら、破っちゃうので。」(母 福田美鈴さん)●美鈴さんに自由な時間はほとんどありません。●「外出できるのは90分。看護師さんが来てくれる90分が、わたしが唯一、家から出られる時間。綾香が生まれて、寝ても3時間以上続けて寝たことは、主人が交代してくれる週末以外、ないです。」(母 福田美鈴さん)●綾香さんは、広島特別支援学校 高等部訪問学級の1年生です。今は週に1回、学校に通学できるようになりました。●「綾香さんが入学した小学部1年。まだ寝転がったまま。全く動けない状況でした。」(広島特別支援学校 中尾秀行校長)●学校では、綾香さんの能力を高めるための指導を続けています。綾香さんのような医療的なケアの必要な子どもが増えています。●「医療の進歩によって、そういったお子さんたちの命がつながっているということが大きな理由だと思います。」(広島特別支援学校 中尾秀行校長)●しかし、つきっきりでの医療的なケアが必要な人を卒業後に受け入れてくれる施設は多くありません。●
「進路がものすごく厳しいんです。今の綾香さんの実態からすると、行き場が本当に限られてくるし、本当に受け入れてもらえるんだろうかというのは、わたしの不安でもあります。」(広島特別支援学校 中尾秀行校長)●「この子の卒業後はどうなるのっていう不安はあります。卒業後、行き場所がなかったら、自宅で一日中、2人で過ごすことになると思うので。」(母 福田美鈴さん)●部屋の外から笛の音が聞こえてきました。●「綾ちゃん、獅子舞が来た。どうする? 獅子舞が来た。怖いわ。」(母 福田美鈴さん)●南区では、秋になると邇保姫神社の獅子舞が、氏子の家を1軒1軒回ります。福田さんの自宅にも獅子舞がやってきました。●「最初は手も使えない、寝たきりだった子が手も使えるようになった、足も使えるようになった。毎年、毎年、たくさんいろんな問題が増えてくる。この子を預ける場所がない。」(母 福田美鈴さん)●綾香さんは、2年後には高校を卒業します。いまだに受け入れ先の見通しはありません。
【治療を拒否しショック状態で運ばれた73歳男性の「最後の望み」 蘇生措置しない、と指示した医師だったが…】Yomi.Dr/2020.11.14
鶴若麻理「看護師のノートから~倫理の扉をひらく」
73歳男性。他院で狭心症と診断され、カテーテル治療をした。その数年後の検査で、再度、狭心症が判明。カテーテル検査や手術を勧められたが、拒否し、通院も自己中断した。その影響もあり、ショック状態で当院へ搬送されてきた。重度の心不全であった。● IABP(心臓のポンプ機能が低下したときに循環を補う補助法の一つ。バルーンのついたカテーテルを心臓に近い大動脈に留置し、心臓の動きに合わせてバルーンを拡張・収縮させる)を挿入し、集中治療室へ入室。患者はNPPV(非侵襲的陽圧換気療法:挿管することなくマスクを介して換気を行う治療法)をつけていたが、苦しがり、装着していなかった。患者は名前を言えるものの、完全には意識がはっきりしていない状態であった。●親父が亡くなった年齢まで…●なぜ患者は治療を拒否し、家族が治療を勧めても受け入れないのか。担当看護師は疑問に思い、看護師によるカンファレンスで、「重症心不全で、急変の可能性があるため、患者の治療拒否の理由や今後どうしたいのかを、意思疎通が図れる今、本人に聞いたほうがいいのでは?」と提案した。一方、同僚の看護師からは、「鎮静薬でようやく落ち着いたのに、いま声をかけるときなの?」という意見も出た。「今まで何度か、患者の意向がわからず、治療の方向性に悩んだ」と、複数の看護師が話した。そこで、患者の体調に配慮しながら、短い時間で話を聞いてみることになった。●患者のベッドサイドで、担当看護師が「どんな思いで治療をしなかったのか」と聞くと、患者からは「同じ病気の親友が、『手術すれば元気になる』と言っていたのに、死んでしまった。だから治療をしたくない。親父(おやじ)が亡くなった年齢(80歳)まで生きられるなら、そのためなら手術しても……」と、途中、言葉が途切れ途切れになりながらも、話してくれた。看護師はもう少し話を聞きたかったが、身体状況を考慮してそこまでにとどめた。患者はその後、感染症にかかり、敗血症ショック状態で意識レベルが下がっていった。医師は、患者の妻と娘に急変する可能性があることを説明し、同意を得て、急変時はDNAR指示(蘇生すべからず)の方針となった。●看護スタッフは、医師によるカンファレンスの記録から、手術のような積極的治療の方向性はないと思っていたが、2日後、担当医は手術を前提として、IABPを再挿入した。担当看護師は、医師と看護スタッフ間で、今後の方向性について認識の違いが生じており、患者や家族のケアのことを考え、医師に話し合いの時間をもちたいと伝えた。カンファレンスには担当医と循環器内科医数人、看護師数人、理学療法士が参加した。●集中治療領域で長年のキャリアのある看護師から、「この選択が、本当に患者の意向に沿っているのか悩んだ」と、語ってくれたケースです。
2.
●担当医「可能性を捨てられない」●多職種カンファレンスで、担当医からは「現段階で治療をあきらめるべきなんだろうか。まだ73歳だし、可能性を捨てられない」、また、「親父の年齢まで生きたいと言っているし、治療をあきらめるという方向で考えていいのか」と発言があったそうです。また、理学療法士は、「今まで拘縮の予防や手足を動かすリハビリをしていたが、手術や長期間の入院によって筋力が落ち、元気に歩いて退院することは難しい。車いすを使った生活ができるかどうか」と言いました。別の医師からは、「この患者の場合、ガイドラインに則れば、手術の推奨度は高くない。全身状態不良な現時点で手術は勧められないんじゃないか」という意見も出されました。●話し合いの中で、「手術がうまくいったとしても、家での生活は難しく、転院先の病院で、大半の時間をベッド上で過ごす状況になる」という見通しは、合致していることがわかりました。●手術のメリットやデメリットは、すでに担当医から家族に説明されていました。しかし、手術しても全身状態がさらに落ち込む可能性、内科的治療で心不全が改善してもADL(日常生活動作)が向上しない可能性など、それぞれの場合の見通しと予想される状態が十分理解を得るよう、改めて説明し、治療方針を考えていくプロセスが大事ではないかと考え、「本人の意思が確認できるまで内科的治療を継続しよう」という方針になりました。実際は、話し合いの3日後に、看取(みと)りを迎えたそうです。●患者さんの心に迫る努力の積み重ね●この看護師は、「チーム内での患者への治療の方向性が一致していない状態では、患者さんや家族にどうかかわっていけばよいか、わからなかった」と、多職種カンファレンスを提案した理由を話してくれました。「方向性が違う」という思いを抱えながら、患者さんのケアにあたれば、患者さんや家族は一貫性のない対応に戸惑いをおぼえるでしょう。●この事例では、看護師と医師の間で「治療の方向性」について、看護師同士で「患者の意向を聞くべきタイミング」について、考えが違っていました。このようなことは、医療の現場においてよくあります。専門性によって見方が異なる場合もあれば、それぞれの個人的価値観が影響することもあります。「なぜ、そう考えるのか」という理由や根拠を伝え合うことで、各自が「理解していなかったこと」が明確になります。この患者さんの治療やケアの目標は何か、医療者として目指すべきことが互いに共有されているかどうかを常に考えていくことの重要性を、この看護師の実践は教えてくれています。●実際のところ、「親父の年齢まで生きられたら」という言葉だけでは、今後どのような生活や生き方をしたいか、具体的にはわかりませんし、治療の方向性を導くことはできないでしょう。しかし、そうであったとしても、「患者の意向を知りたい」という看護師の行動に意味がなかったわけではありません。患者さんが何を思い、どうしたいのか。そこに迫ろうとする日々の積み重ねが、まさに患者さん主体の医療につながっていくのだと思います。●
3.●聖路加国際大准教授(生命倫理分野)、同大公衆衛生大学院兼任准教授。●早稲田大人間科学部卒業、同大学院博士課程修了後、同大人間総合研究センター助手、聖路加国際大助教を経て、現職。生命倫理の分野から本人の意向を尊重した保健、医療の選択や決定を実現するための支援や仕組みについて、臨床の人々と協働しながら研究・教育に携わっている。2020年度、聖路加国際大学大学院生命倫理学・看護倫理学コース(修士・博士課程)を開講。編著書に「看護師の倫理調整力 専門看護師の実践に学ぶ」(日本看護協会出版会)、「臨床のジレンマ30事例を解決に導く 看護管理と倫理の考えかた」(学研メディカル秀潤社)、「ナラティヴでみる看護倫理」(南江堂)がある。
【15~29歳の介護者21万人。知られざる“若者介護者”の実態】女性自身2020.11.12●家族による介護といえば、40代や50代の世代が自分の親を介護しているというイメージがあるだろう。だが、じつは10代や20代で介護している若者が多くいる。相談する相手もおらず、理解もされない孤独な介護を強いられているーー。●「小・中学生や高校生など18歳未満の『ヤングケアラー』や18歳以上の『若者ケアラー』が大勢いることを知ってほしいです。しかも、通学や仕事をしながら家族を介護している、そんな若年介護者は増加しているのです」●そう語るのは、16歳から難病の母親の介護した経験から、ヤングケアラーの支援や若者ケアラーの転職支援を行っている「Yancle(ヤンクル)」代表の宮崎成悟さん。●総務省の調査によれば、15~29歳で家族を介護している人は’17年で21万100人。その5年前の調査(17万7600人)から急増している。そのうち10代は全国に3万7100人いることが、毎日新聞の分析で判明した。●「総務省の調査では14歳以下の小・中学生が含まれていないため、本当の実態は把握できていません。ヤングケアラーのなかには、8歳からアルコール依存症の父親の世話をしていた人もいます。家族を介護している子どもたちはもっと多い可能性があります。若年介護者が増加している背景は、少子高齢化社会が進んだうえに、シングル世帯や共働き世帯も増加したこと。家族ケアをする大人の人手が少ないことから、たとえ未成年でも大人が担うような介護をしているのです」(宮崎さん)●そんな若年介護者の問題点はどんなことなのだろうか?●「家族がケアすることは悪いことではありません。ただ、認知症の祖父や祖母のケア、障害のある兄弟姉妹の介護、病気の親の世話などをするなかで、負担が限界を超えて、学業や就業、若者らしい生活や将来、自由まで犠牲になってしまう。その結果、不登校になったり、中退したり、進学や就職を諦めてしまったりするケースが多いのです」
●宮崎さんも、高校卒業する直前に母親の容体が悪化。介護に注力するため大学進学を一度は諦めた経験がある。さらに、介護の話をしても周囲が理解してくれない場合も多いという。●「介護は中高年層がやるものだという認識が強いため、若くして介護していると『なんであなたが?』と疑問視されることが多い。そのため学校や会社でも事情が伝わらず、1人で抱え込んでしまうケースも少なくないのです。若年介護者の多くは、どんなにつらくても、家族のことだからとSOSの声を出しづらい。まずは実態把握が急務。さらに相談したり、カウンセリングが受けられたりするサポート体制が必要です。そしてなにより大切なことは、私たち大人が、若年介護者がいることに無関心でいないことです」●厚生労働省は12月から若年介護者の実態調査を始める。今も多くの若い介護者が苦しんでいることを胸に刻んでおこう
「A子ちゃんが、笑顔でおばあちゃんの車いすを押している姿を見かけたことがあります。本当は自殺したくなるほどつらい思いをしていたのに、無理やり明るく見せようと思うたんかな……。あの笑顔を思い起こすだけで胸が痛みます。おばあちゃんの面倒をみていたのは彼女だけだったと近所の人間は知っていますから、みんなで減刑の嘆願書を出そうかと話し合っていたんです」(近所の住民)
【近所の人は減刑の嘆願書を検討…神戸市祖母介護殺人の悲哀】●昨年10月、兵庫県神戸市内の自宅で、介護中の90歳の祖母を殺害した元幼稚園教諭・A子(22)の判決が9月18日、神戸地裁で言い渡された。懲役3年執行猶予5年。●社会人1年目で、当時21歳だったA子は、なぜ大好きだった祖母を手にかけてしまったのかーー。神戸市須磨区にある事件現場を取材した。●「おばあちゃんの家の近くには3人の子ども、A子ちゃんにとって父親、伯父、叔母が住んでいます。でも、おばあちゃんの家に出入りしていたのはA子ちゃんだけだったと思います。一度、おばあちゃんが自宅前の坂道で転んだことがあり、近所の人が『徘徊もあるし、施設に入れたほうがいいのでは』と親族に話したら『施設や病院ではなく、最期は家でみとりたい』と言い返されたそう。でも、介護はA子ちゃんが1人で背負っていたのですね」(近所の住民)●A子は幼いころに両親が離婚し、母親と暮らしていたが、母親が亡くなり児童養護施設に。その後、祖母が引き取った。地元紙記者が語る。●「A子は、しばらく祖母の家で暮らしていましたが、気性の激しい祖母との生活で精神のバランスを崩してしまい、中学校に上がったときに叔母の家に身を寄せました。ところが、’19年2月に、祖母はアルツハイマー型認知症と診断され、要介護4に。1人ではトイレに行くことも身の回りのこともできなくなってしまった。親族から『あんたがするのが当然』と言われて、祖母の面倒をA子がすることに。祖母は幼稚園の先生になるための学費や生活費を工面してくれた人。自分がやるしかないと思ったのでしょう。幼稚園教諭として働きだして1カ月後に祖母と同居が始まりました」●それから5カ月間は祖母の介護をたった1人で担っていたA子。夜中に何度もトイレに起きる祖母につきそい、睡眠時間は毎日1~2時間だった。親戚からケアマネジャーとの接触を禁止され、相談する人もなく孤立無援での介護が続いた。さらに仕事場でも……。●「幼稚園での仕事では、ミスをしたり、遅刻したりすることもあって上司や同僚からよく叱られていたようです。祖母の介護をしていることを説明しても『嘘つき』と信じてもらえなかったことも。それでもA子は懸命に仕事と介護を続けていましたが、昨年10月8日早朝、汗をかいた祖母の体を拭いているときに『あんたがおるから楽しくない』と怒鳴られ、謝っても非難され続けた。『もう黙って……』とタオルを祖母の鼻と口に押しつけたのです」(地元紙記者)●裁判では、介護による睡眠不足や仕事のストレスで心身ともに疲弊していたことがあったと結論づけられたが、A子の父親は報道陣に「刑務所に入るべきだ。『かわいそう』との前提で判決が出ている」と語ったという。●祖母とA子が暮らした自宅の前にある花壇は荒れ果て、枯れ草が風に揺れていたーー。●「女性自身」2020年11月24日号
【6人殺害で死刑回避、「心神耗弱者は減刑」の難題】2020.11.8東洋経済青沼 陽一郎 :作家・ジャーナリスト
●人殺しても、6人殺しても、死刑にはならない。そんな判決の確定が今年になって続いている。●前者は2015年3月、兵庫県の淡路島でいわゆる〝ひきこもり〟の男が、近隣の民家に相次いで押し入って住人5人を刺殺した事件。後者は、同年9月に埼玉県熊谷市でペルー人の男が見ず知らずの住宅に次々と押し入り、小学生2人を含む6人を殺害した事件だ。●いずれの事件も一審の裁判員裁判では死刑判決が言い渡されている。ところが、二審の高等裁判所は犯行時の「心神耗弱」を認めて死刑判決を破棄し、無期懲役とした。猫刑法39条には「心神喪失者の行為は罰しない。心神耗弱者の行為は刑を減軽する」とある。
■「電磁波兵器で攻撃されていた」と主張●淡路島の事件では、被告人が医療機関への通院歴もあり、「電磁波兵器で攻撃されていた。犯行は、その反撃だった」などと主張していた。ペルー人の男は事件前に「ヤクザに追われている」と語るなど、誰かに追われているという妄想があったとされる。●熊谷の事件は、この9月に最高裁判所で無期懲役が確定。淡路島の事件は、今年2月に弁護側が上告したものの、検察側が上告を断念したことから、無期懲役以下の刑が確定している。裁判員裁判の死刑判決が覆るのは、これで7件となる。●残る5件のうち1件は、2012年6月に2人を刺殺した大阪心斎橋通り魔事件で、こちらも精神障害の影響を考慮して、死刑が回避されている。●人を殺しても、まったく罪に問われないケースがある。●今年8月、函館市のスーパーの駐車場で、面識のない男子大学生を後ろから包丁で刺して殺害しようとした疑いで逮捕、送検された韓国籍の男が、10月26日付で不起訴処分となっている。「心神喪失」のため刑事責任が問えないと判断したものだ。●これが報じられると、たちまちツイッターでは、この話題がトレンド入り。「韓国籍」というところに反応したものも多いようだが、裁かれないことに対する疑問や抵抗を覚えるといったコメントも少なくなかった。●それどころか、こうした場合、むしろ犯罪者は手厚く保護される。「心神喪失者等医療観察法」(医療観察法)に基づき、専門医療施設に措置入院となるからだ。●この法律は、2001年の大阪・池田小学校児童殺害事件をきっかけに施行され、心神喪失または心神耗弱によって重大な他害行為(殺人、放火、強盗、強姦、強制わいせつ、傷害)を行った人に対して、適切な医療を提供し、社会復帰を促進することを目的としている。
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検察官は、そのため裁判所に「審判」の手続きをとる。審判では裁判官と精神科医の各1人が措置入院の採否を判断する。措置入院が正式に決定すると、〝社会復帰を促進すること〟を目的に、同法に基づく指定入院医療機関に送られていく。
■罪に問われず、苦しむ遺族●この医療観察法によって、2人を殺しながら罪に問われず、それによって苦しむ遺族を過去に取材したことがある。●いまでは遺族も「忘れたい」「触れたくはない」という意向なので特定を避けるが、事件は九州で起きた。2009年5月の大型連休中のことだった。●当時50歳の女性Aさんは、向かいで一人暮らしの当時60歳の女性Bさんの家を訪れていた。そこへこの家の隣に住む男が入ってくると、いきなり刃渡り約19センチの短刀で、Aさんの背中を突き刺した。男はBさんの甥だった。突然のことにAさんは庭に逃げ出す。甥の凶行に驚き、止めに入ったBさんも腹部や胸部を数カ所刺されてしまう。さらに男は、Aさんを追いかけて、背部や左上腕部などを執拗に突き刺し、2人を殺害した。●男は短刀を持ったまま、道路を挟んだAさんの自宅に押し入る。その家族を狙ったようだが、幸い自宅には誰もいなかった。男はこの家を出て路上にいたところを、目撃者によって取り押さえられ、逮捕された。●この男には、精神疾患で入院していた経歴があった。検察による鑑定留置の結果、刑事責任能力が問えないと判断され、不起訴処分となる。●しかし、これに納得のいかなかったAさんの遺族は検察審査会に審査を申し立てる。●というのも、男は医療機関を退院後に実家で家族と同居していたにもかかわらず「借家で一人暮らしをいている」と嘘をついて、生活保護の給付を受けていたことや、襲撃のためのAさんの家への出入りには、怪しまれないように短刀を袖口に隠していたこと、それに何より、犯行時に騒ぎに気付いて止めに入った男の父親が、家から出て両手を広げて男の行く手を阻もうとしたところ、その脇の下をくぐり抜けて被害者を追いかけていった、ということがわかったからだ。
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したがって、完全責任能力が欠如していたのではなく、再鑑定を実施して起訴すべきだ、というのが遺族の主張だった。●こうした事情を受けて、一般市民から構成される検察審査会では、「不起訴処分不当」の議決を下している。●ところが、この議決は無視され、医療観察法による措置入院が決まった。しかも、その審判でのことだ。●本来ならば非公開のものを、検察官のはからいで、Aさんの夫と長女だけが、男に気付かれないことを条件に、傍聴することが認められた。男と長女は、小学校から高校までずっと同級生だった。●男は検察官の尋問に、Aさんの家族が憎い、同級生だった長女も憎い、殺したい、とはっきり答えたのだ。その理由は判然としない。●通常であれば、こうして不起訴となり、裁判が開かれなければ、犯行現場で何が起きたのかも不確かなまま、どういう事情で犯行に及んだのか、どうして責任能力が問えないのか、遺族にはまったくわからない。「死刑にしてほしい」という遺族の処罰感情も無視される。●それどころか、不起訴になった時点で捜査資料も開示されることがない。しかも、わずか3年で捜査資料の全てが処分される。犯人が他の関係者を恨んでいたとしても、わからずに終わる。●さらに遺族を恐怖に陥れるのは、措置入院となった相手がいつ医療機関から退院してくるかわからないことだ。●いったい、どこの施設に入れられて、治療の効果や健康状態はどうなのか、そんな情報すら伝わってこない。医療施設を抜け出すことだってあるかもしれない。退院すれば、父親の暮らす向かいの家に帰ってくることだって考えられる。そうでなくても、憎い、殺したい、と語っている相手だ。いつ襲われるともわからない。
●「一人で外に出るのも怖い」とAさんの長女は当時、私に語っていた。■裁判員裁判の判決も覆される●調べてみると、この事件の1年後の2010年5月には、医療観察法による入院治療を3カ月前まで受けていた男が、大阪市で男性2人の胸などを刺して殺害するという事件も起きている。●この九州の事件の起きた3週間後の5月21日からは、裁判員制度がスタートしている。仮にこの事件が通常どおりに起訴されていたら、裁判員裁判の第1号になった可能性が高い。だが、現実にはこの年の8月に東京地方裁判所から裁判員裁判は始まっている。
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その裁判員裁判で導かれた死刑判決も、冒頭のように、精神状態を理由に覆される。裁判員の負担だけがむなしく残る。本当に5人、6人を殺害して極刑が免れることがあっていいのだろうか。それで遺族が納得するのか。裁判員もそこを悩んだはずだ。まして、不起訴処分となると人を殺しても裁かれることすらないまま、猫温かいベッドの入院生活が待っている。●「被害者、遺族からすれば、事件の真相もわからず、運が悪かった、ということで済まされてしまう。おかしくないですか」●そう語っていたAさんの夫の言葉が、いまも忘れられない。
【コロナ禍でホームレス巡回相談員が見た現実「法的に『死んだ人』救いたい」】神戸新聞2020.11.7
今年、降ってわいたように出現した「新型コロナウイルス」は、私たちの暮らしを激変させました。いきなり窮地に立たされ、戸惑い、迷う日々を送る人はたくさんいます。コロナ禍を生きる人たちの声に耳を澄ましました。●猫ホームレス巡回相談員・63歳、男性/路上生活者を保護し、自立を促す神戸市の「更正センター」で25年勤務。定年退職後、再任用で現職。男性、63歳。
■給付金届けたい●私は神戸市内を歩き回り、ホームレスの生活や健康、悩みなどの相談を受ける「巡回相談員」です。●新型コロナで、街にホームレスが増えるのではと心配しましたが、どのルートを歩いても「新人」がいる気配はない。少し安心しました。まだ油断はできませんが…。
●神戸市内のホームレスは昔に比べてずいぶん減っているんです。●15年前までは300人以上いたんですが、ここ数年は35人前後で推移しています。巡回相談員は2人ですが、全員と接触できるんです。
●その代わり毎日、とてつもなく歩きます。スマホの歩数計は毎日だいたい2万5千歩くらい。この仕事は「健脚商売」ですわ。ははは…。●5月下旬から8月中旬までの課題は定額給付金でした。国から支給される10万円をホームレスにも届けないといけません。ハードルは高いけど、手続きをきっかけに心を開いてくれたらなぁ、と思っているんです。
●まずは本人の情報を聞き出さないといけません。●名前と生年月日、これまでどの町に住んできたか。データを市の定額給付金室の職員に伝え、本人確認をしてもらうんです。
■反応は「給付金?何それ」●新聞やテレビを見ていない人が多いから、いきなり「給付金」と言うと、疑われることも結構あります。だれだって急に他人から「お金をあげる」と言われると身構えてしまいますよね。●給付金のことを伝えても身分を明かしてくれない人も、全体の4割くらいいます。昔より数が減った分、複雑な事情を抱えている場合が多いのです。過去に生活保護を受けようとして失敗しているとか、借金をして逃げているとか…。●そういう人は、少しずつ心をほぐしていくしかありません。2日に1回くらいは顔を合わせ、何度も話しかける。申請期限の8月18日まで、粘り強く受給を呼び掛けました。●「彼らはみんな、何らかの事情があって路上生活をしている。でも人間として生まれてきたんだから、人間らしい暮らしに戻ってほしい。家を借りて生活保護を受け、その次に仕事を見つけて自立してほしい。●定額給付金の10万円は、そのきっかけになるんじゃないかと思ってます。●
■人間の弱さ、痛いほど見てきた●私は25年間、更生センターの職員としてホームレス支援に携わってきました。巡回指導員は4年前からです。
●人間の弱さを痛いほど見てきたつもりです。●特に男は弱いもんで、酒やばくち、女性がきっかけで簡単に人生が狂う。でも狂ったものは、必ず元に戻せるはず。少しでもその手助けをしたいんです。●「相棒」のNさんと2人で神戸市内を巡回し、定額給付金の交付のため、5月下旬から名前と住民票のある住所の聞き取りを始めました。●1回目の接触で集めた情報が住民票と合致し、すんなり申請書が渡せたのは6人だけ。情報が間違っていたりして、本人は受給したいのに申請手続きに入れない人も10人ほどいました。
■ポイントは住民票のありか●ホームレスが給付金をスムーズに受け取れるかどうかは、住民票のありかによって決まります。●4月27日時点の住民票が(1)神戸市内にある人(2)市外にある人(3)何らかの理由で住民票がなくなってしまった人-の3パターンがいるんですな。●(1)なら話は早い。すぐに申請書を渡せるので、受給までの道筋がはっきりと見通せます。(2)なら、その自治体の連絡先などを調べ、本人に伝えます。問題は(3)です。改めて住民登録するために、本人の置かれている状況を聞き取る必要がある。●家がある友人がいれば、住民票を置かせてくれないか頼むのも手です。それでもだめなら、簡易宿泊所にしばらく住み、「居住実態がある」として申請することも考えないといけません。
●なぜ住民票がなくなるか? いろんな事情があるからねぇ…。●例えば、今回初めて名前を教えてくれた男性は、住民票を照会すると家族の申し出で住民票が消されていました。10年ほど前にふらっと行方をくらまして、家族からも居場所が分からなくなったからです。
■法的に「死んだ人」救いたい●法的には「死んだ人」。そんな状態だから、改めて住民登録の手続きをするよう指導しました。●時間はかかるけど、今後彼が立ち直るためにはどのみち必要なこと。それが分かっただけでも大きな収穫です。●苦労のかいあって、受給を希望する約15人全員が給付金を受け取れる見込みです。後は彼らがこのお金をどう人生に役立てるか。われわれも注目しています。
【なぜ女性の自殺はコロナ以降で増えた? 虐待、性被害、家庭でもっとも弱い存在 】2020.11.9Bussiness Inside Japan文・有馬知子)
2020年7月以降、命を絶つ若い女性が増えている。●芸能人の自殺報道によって、若者らの自殺が増える「ウェルテル効果」の影響が大きいとの識者の指摘もあるが、他にもコロナ禍によって生まれたさまざまな要因が、心を追い詰めているようだ。●専門家は、彼女たちの孤独感や悩みが深刻化する前の「小さな生きづらさ」の段階で、丁寧にケアする必要性を訴えている。●
●「女子の原因」があるはず
厚生労働省の指定法人で自殺対策に取り組む「いのち支える自殺対策推進センター」(JSCP)の「コロナ禍における自殺の動向に関する分析」によると、4~6月は前年に比べてやや少なめに推移していた自殺者数は、7月以降に急増。男女ともに増えてはいるものの、増加幅が大きいのは女性だった。●特に8月は、過去5年間5~14人で推移していた女子中高生の自殺者数が30人に増え、男子の28人を上回った。2020年3月まで防衛医科大教授を務め、子どもの自殺問題に詳しい高橋聡美氏によると、日本では全年代で女性より男性の自殺の方が多い傾向があり、女性の数が上回るのは異例だという。●例年、夏休みが明けて新学期を迎える9月初旬が、最も子どもの自殺のリスクが高まるとされている。●当初は「コロナの影響で8月に新学期が始まる地域が多かったため、9月の増加分が前倒しになっただけでは」との指摘もあった。●しかし、厚労省が毎月発表している「地域における自殺の基礎資料」(暫定値)によると、9月も未成年の自殺者数は男女ともに前年を上回り、必ずしも「新学期」が原因ではないことがうかがえる結果となった。●
またJSCPは前述のレポートで、7月以降に著名な芸能人の自殺が報道され、それを見た人の自殺が増える「ウェルテル効果」が大きく影響した可能性が高いと指摘した。●しかし、高橋氏はこう訴える。●「自殺は多くの場合、複数の要素が絡み合って起こる。特に女子の自殺が顕著に増えた以上、新学期クライシスやウェルテル効果以外にも、女子ならではの要因があると考えるべきだ」
2.
●これまでとは違うタイプの相談増えた
電話とオンラインチャットで、子どもたちのさまざまな悩み相談に応じる猫NPO法人の全国組織「チャイルドライン支援センター」では、2020年4月1~15日の相談電話の発信件数が2万7500件と、前年同期の1.8倍に跳ね上がった。●同センターの年次報告書によると、コロナ禍に伴い「「大学に入学したのに通学できず、バイトも見つからずお金も不安。毎日死にたいと思ってしまう」といった声も。●都内でチャイルドラインを運営する「しながわチャイルドライン」の矢吹陽子副代表理事は、「コロナ禍以降、これまでとは違ったタイプの相談が増えた」と話す。●猫本来は学校になじめそうなタイプの子たちが、臨時休校中にゲーム依存に陥るなどして生活リズムが崩れ、学校再開後も授業についていけなくなったり、友達を作るきっかけを失ったりして、不安を募らせているという。
●「父親の暴言や罵倒が耐えられない」
同センターが5月に発表したコロナ関連の事例によると「仕事が休みで収入が減り、親がけんかしている」「父の暴言や罵倒がひどくて耐えられない」といった内容もあった。●親子関係に関する相談は、特に女子から多いという。●猫しながわチャイルドラインでは、家に居づらくなり、外から電話を掛けてくる女子に、「一番近いコンビニを目指して」などと、明るく人目のある場所へ行くよう促して、身の安全を確保することもあるという。●厚生労働省によると2020年1~6月の児童虐待相談件数(速報値)は、前年同期比より約1割多い猫9万8814件に上る。
●家庭の中でもっとも弱い存在
兵庫教育大大学院教授で精神科医の野田哲朗氏は、「女子はえてして、家庭の中で最も弱い存在。両親が家にいる時間が延び、子どもが夫婦間の暴力を目の当たりにさせられる面前DVや身体的虐待、性的虐待を受けるリスクも高まった。被害を受けても相談相手が見つからず追い詰められたところに、芸能人の自殺が追い打ちをかけた可能性もある」と分析する。●中高生だけでなく、女子大生の精神状態も悪化しているという。●野田教授は今年5月と7月、同大の学生それぞれ500人以上の心理状態をうつ・不安障害の検査猫「K6」を使って調べた。●その結果、女子大生は2回とも、評点の平均値が5.6と、メンタルに何らかの問題を抱えている可能性があるとされる評点5を上回った。大学生は小中高生よりもリアルの学校再開が遅く、一部で対面講義を再開した大学もあるものの、引き続きオンライン中心の大学も少なくない。
●女子大生の自殺は9月も前年同月を上回った。
前述の高橋氏はこう推測する。●「女性は、おしゃべりやランチなど対面でのコミュニケーションでストレスを発散する傾向が強い。リモート授業が長引く中、ストレスへの対処が難しくなっているのではないか」
3.
●夜の街の女の子も不安に
野田教授の臨床には、風俗産業にいる10~20代の女性たちも訪れる。●中にはコロナで店が臨時休業や短時間営業になり、収入が激減したストレスで、猫市販薬やアルコール依存に陥る人もいるという。●「今風俗に残っているのは、中卒など低学歴で他の仕事に就けず、助けてくれるはずの親との関係も悪くて生活のために働かざるを得ない子たち。もともと依存傾向のある人が多い上に、同僚が減ってしまった孤独感も精神状態を悪くしている」●若い女性の予期せぬ妊娠に関する相談も急増している。猫NPO法人ピッコラーレに寄せられた妊娠に関する相談件数は4月、前年同月比1・5倍に増加した。●ある児童相談所の関係者は「4~5月は地元助産師会への、妊娠に関する相談が例年の2倍に増えた」と明かす。●家に居場所がなく、寂しさから恋人と避妊せず性行為をしてしまった、勤め先のキャバクラが休業し、お金を稼ぐため個人的売春に走ったなどのケースもあった。●またかつて性被害に遭うなど、もともと性的にハイリスクな環境にいる子どもほど、不安を感じた時に、性的な問題行動が表れることも多いという。●この関係者自身、関わっていた16歳の女の子が妊娠し、「性的な関心はさほどないタイプだと思っていただけに、驚いた」と語る。●また、現在も妊娠を隠して生活している女子によって「数カ月後には、妊婦検診も母子手帳の交付も受けていない妊婦の駆け込み出産が増える恐れもある」とも話した。
●子どものSOS、伝わりづらくなっている
しながわチャイルドラインでは、近年、すぐに「死にたい」「消えたい」と話す子が増えているという。●「死がタブー視されなくなったと感じる」と、矢吹さんは話す。●彼らは死を口にする一方、悩みを相手に分かるように説明したり、「つらい」「苦しい」などの感情を表現したりするのが、苦手になっているとも感じるという。●いじめ自殺の検証などに関わる、前出の兵庫教育大大学院の野田教授は言う。●
「自殺を試みる子どもでも、直前までSNSに絵文字を使って明るい言葉を書いていることがある。悩みの深刻さを表現できない子が多くなった分、大人が子どもたちのSOSを拾い上げづらくなっている」
4.
●現場には限界も。不足する公的支援
子どもの自殺問題に詳しい高橋氏は、性教育や虐待予防、ソーシャルディスタンスの中で失われた「おしゃべり」の場を復活させるなど、さまざまな面から女子の「生きづらさ」に対処する必要があると訴える。●さらにこう強調した。●「子どもたちが精神的に追いつめられてからではなく、『部活のレギュラーを外された』『親に叱られた』といった小さなつまずきを、学校やチャイルドラインのような相談機関が丁寧に拾い上げることが、結果的に自殺防止につながる」●ただし、教師や相談機関も人手やリソースに限界があるのが現状だ。●野田教授はこう指摘する。●「教師たちは努力しているが、忙しくて手が回らない。このため学校では本当にケアが必要な子ほど、手間のかかる落ちこぼれ、問題児として排除されてしまいがちだ」●猫チャイルドラインは、全国68団体、計2072人のボランティアが活動し、人間関係や思春期の心と体の悩みなど、幅広い話を聴いている。●しかし、しながわチャイルドラインのボランティアは、無償どころか会費を支払い、連絡先を記したカードの製作費などに充てているという。
●自殺予防の活動に取り組む「いのちの電話」も民間団体だ。●高橋氏は「国として自殺防止に取り組むなら、民間の努力に依存すべきではない。相談機関や教員研修などに公的な資源を振り分け、子どもたちのメンタルケアを充実させる必要がある」と訴えている。●猫 厚生労働省・こころの健康相談統一ダイヤル0570-064-556(相談対応の曜日・時間は都道府県によって異なる)文部科学省・子供のSOSの相談窓口0120-0-78310チャイルドライン0120-99-7777(毎日 午後4時~午後9時、チャットは毎週木、金、第3土曜日の午後4時~9時)●いのちの電話0570-783-556(ナビダイヤル・午前10時から午後10時迄)、0120-783-556(フリーダイヤル・無料・毎日16時から21時まで、毎月10日午前8時から翌日午前8時まで
【ハラスメント被害教員の口封じ? 口外禁止、誓約書にサイン求める 神戸市教委
神戸市教育委員会が全教職員約1万2千人を対象に実施しているハラスメント調査のヒアリングで、被害を申告した教員に対し、内容を口外しないよう誓約書へのサインを求めていることが分かった。市教委事務局は「公務員の守秘義務に基づくもので、公正に調査するため」と説明するが、教員からは「問題の口封じだ」と反発の声も上がる。ハラスメント対策の支援団体も「声を上げた人を守り、徹底して対応する姿勢が求められているのに、どこを向いているのか」と疑問を呈している。(長谷部崇)
市教委は昨年10月、神戸市立東須磨小学校で教員間暴行・暴言問題が発覚したことを受けて、全教職員を対象に書面によるアンケートを実施。約1600人から計1755件の情報が寄せられた。 年月が経過して事実確認が難しい事案や、回答者が「調査を求めない」とした事案を除く約半数について、事務局がヒアリングや関係者の処分を進めている。新型コロナウイルスの影響で、調査は当初の予定より遅れているという。 事務局によると、誓約書は「自身が発言した内容を含め、当該案件にかかる全ての内容について、地方公務員法34条に従い、秘密を厳守します」という内容で、サインは任意。同法34条は公務員の守秘義務を定め、違反した場合の「1年以下の懲役か50万円以下の罰金」や懲戒処分の可能性にも言及していた。 事務局は「誰からハラスメントを受けたかという情報は『職務で知り得た秘密』に当たり、口外されると、公正・平等な調査に支障が出る恐れがある。加害者とされる側の人権侵害にもつながりかねず、守秘義務について再確認してもらっている」と説明する。誓約書は加害者側にも書かせているという。 これに対し、調査でハラスメント被害を訴えた教員の一人は「学校現場の問題をつまびらかにすることが調査の目的だったのでは。口止めや脅しのようで、本気で取り組む気があるのか、市教委を信じられなくなった」と嘆く。別の教員も「勇気を出して被害を申告した人たちの気持ちを踏みにじっている」と憤る。 一般社団法人「職場のハラスメント研究所」(東京)の金子雅臣代表は「ハラスメントの調査は、声を上げた人を守り、徹底して対応していくという当局側の姿勢が鉄則なのに、被害者側を口止めするというのは、どこを向いて調査しているのか分からない。調査に不信感を抱かれても仕方ない」と話している。 ◇ ◇ ■調査用紙は管理職が取りまとめ「被害申告しにくい」 神戸市教育委員会によるハラスメント調査を巡っては、各学校の管理職が調査用紙を取りまとめる方式だったため、教員から「被害を申告しにくかった」という声も上がっている。 調査は、教員が書面のアンケートに記入後、封筒に入れて管理職に提出し、学校で取りまとめて市教委に送られた。教員がメールや郵送で直接事務局に送ることもできたが、管理職への報告が必要だった。 あからさまな無視など、管理職によるハラスメントを経験したという女性教員は「もし管理職が封を開けて記入した内容を知ったら、と思うと、恐ろしくて書けない、出せないと思った」と振り返る。この教員は白紙の調査用紙をいったん管理職に提出後、別の調査用紙に匿名で自身の体験を書いて事務局に送ったという。 別の女性教員も「上司のパワハラを理由に退職していった先生や、『ハラスメントを受けていた当時を思い出すのがつらくて書けなかった』という先生もいる。1755件という数字は氷山の一角ではないか」と話し、「この調査で終わりにしないでほしい」と現場の教員が声を上げやすい仕組みづくりを市教委に求めている。
【18歳以上の自立支援 障害児施設の入所者 自治体交え協議会・厚労省11/1(日) 7:10】時事通信2020.11.1
厚生労働省は、18歳以上で障害児施設に入所している障害者について、自立した生活を送れるように、就労支援施設など成人向け施設への移籍支援策を検討する方針を固めた。●円滑に移ることができるような枠組みを話し合う自治体を交えた協議会を12月に設け、来夏に結論を出す予定だ。●障害児施設は主に18歳までの身体、知的、精神に障害を持つ児童が入所している。18歳以上の障害者に対しては、自立へ向けた適切な支援を行うため、障害児施設から地域の就労支援施設などへの移籍が進められている。●ただ、障害の特性により専門的なケアを必要とするなど移籍が難しい場合は、障害児施設にとどまる人もいる。特に都市部では重度障害者へのサービス支援が不足していることなどを理由に、現在でも移籍が進んでいない地域があるという。2020年7月29日時点で、障害児施設にとどまったままの18歳以上の入所者は約400人に上る。●協議会は都道府県や市町村の担当者のほか、障害児施設や移籍先となる可能性がある自立支援施設の職員らで構成。円滑な移籍へ向けた行政の実務的な流れや、その後の自立支援の在り方を議論する。入所者の大半が18歳以上の障害児施設の場合は、成人向けの支援施設への転換を図るなど、受け皿整備のための効果的な方策についても検討する考えだ。
【運輸・医療、長時間労働2万人増 新型コロナで負担集中 過労死白書】2020.10.30時事通信●政府は30日、2020年版の「過労死等防止対策白書」を閣議決定した。白書では、新型コロナウイルス感染拡大の影響で、4月に運輸・医療両業界に従事する長時間労働者が前年同月より計2万人規模で拡大したことが明らかになった。●4月は、全体として景気悪化や緊急事態宣言への対応で就業時間が減少していた。人々が日常生活を維持するのに欠かせない仕事をする「エッセンシャルワーカー」に負担が集中した形で、厚生労働省の担当者は「対策を取らなければならない」と語った。
【精神科救急医療体制整備の課題など報告 - 厚労省、ワーキンググループの意見を整理】CBNews2020.10.27
厚生労働省は26日、「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」(第5回)の会合で、「精神科救急医療体制整備に係るワーキンググループ」の進捗を報告した。● 厚労省は、ワーキンググループの意見を整理しており、「精神科救急医療体制整備を取り巻く課題の整理および検討」については、▽精神科救急にかかる対象者像▽精神科救急医療圏域の設定▽地域における相談体制▽精神科救急外来と精神科救急入院の役割▽精神科救急医療施設の役割、身体合併症対応、かかりつけ医との連携▽精神科救急医療体制連絡調整委員会の機能(都道府県または指定都市の責務)-などを挙げている。●具体的な意見も列挙しており、例えば、精神科救急医療施設の役割、身体合併症対応、かかりつけ医との連携に関しては、「常時対応型医療施設については、ある程度の指標や条件の設定によって質を担保し、地域での責任や公的な役割を果たせるような文脈のなかで位置づけが可能となるよう整えていけるとよい」「常時対応型医療施設は24時間365日受け入れを断らないことが重要」といった意見を取り上げている。●検討会の構成員からは、働き方改革の影響で輪番制の対応施設、診療報酬改定に伴って常時対応型医療施設(スーパー救急)が危機に瀕しているとの指摘があったほか、クリニックの精神科救急医療提供体制を議論するよう求める意見も出た。
【生活保護費引き下げは「違憲」か「国の裁量」か 25日に初の地裁判決 名古屋生活保護費引き下げは「違憲」か「国の裁量」か 25日に初の地裁判決 名古屋】毎日新聞20206.24
2013年8月以降の生活保護費引き下げは「生存権」を保障した憲法25条に違反するとして、愛知県内の受給者18人が自治体と国に減額の取り消しや慰謝料を求めた訴訟の判決が25日、名古屋地裁(角谷昌毅裁判長)で言い渡される。全国で1000人以上が同種の訴訟を起こし、29地裁で争われている。初めての地裁判決となり注目されている。●国は13年8月から3回に分けて、生活保護費のうち食費や光熱費に充てる「生活扶助費」を平均6・5%、最大10%引き下げた。減額は総額670億円に上る。理由について、「08年以降、デフレ傾向による物価下落で生活保護受給世帯の可処分所得が実質的に増えた。一般国民との不均衡を調整する必要がある」などと説明。減額は生活保護法に定められた厚生労働相の「裁量権」の範囲内であるとした。
【生活保護打ち切り、足立区長へ取り消し要望 支援団体「事実誤認、あり得ない」】毎日新聞2020.10.27
東京都足立区が30代男性への生活保護の支給を4日で打ち切っていた問題で、男性を支援する団体や区議らが27日、打ち切りの取り消しを求める区長あての要望書を提出した。支援団体は「十分な調査もなく、本人が失踪したと決めつけて廃止するなどあり得ない」と抗議した。区側は今回の対応が適法だったか弁護士に調査を依頼しているといい、2週間程度で結論を出すと表明した。●要望したのは、男性の生活保護申請に同行した「新型コロナ災害緊急アクション」と「足立生活と健康を守る会」のメンバー、立憲民主党、共産党の区議の計9人。区は、男性が一時的に滞在していたビジネスホテルを通じて、男性と連絡が取れなくなったことを理由に打ち切った。だが、男性は仕事に通いながらホテルに滞在していた。支援団体は「失踪は区の事実誤認。なのに、『正当な(行政)処分』と主張するのは、法に基づいて正しく運用すべき行政の信用失墜行為だ」と、処分の取り消しと近藤弥生区長の謝罪などを求めた。●区長に代わり対応した長谷川勝美副区長は「最後のセーフティーネットである生活保護について、このような要請があったことは重く受け止める。適切な対応だったか区総務部でも検証する」と話した。
【「上司や取引先とのトラブルでうつ病」労災認める…東京高裁、NEC課長職の男性自殺で】2020.10.24読売新聞
●NECの課長職だった男性(当時49歳)の自殺を三田労働基準監督署(港区)が労災と認めず、遺族補償を不支給としたのは不当だとして、男性の妻が国に労災認定を求めた訴訟の控訴審で、東京高裁(川神裕裁判長)は21日、請求を棄却した1審・東京地裁の判決を取り消し、労災と認める判決を言い渡した。● 1、2審判決によると、男性は同社の社会貢献事業部門で課長職を務めていた2009年1月中旬にうつ病を発症し、同年7月に自宅で自殺した。●原告側は、「上司や取引先とのトラブルが原因で発症し、その後も不得意な業務を担当させられるなどして病状が悪化した」と主張。しかし昨年10月の1審判決は「男性に強い心理的な負荷が生じていたとはいえず、仕事が原因で発症したとは認められない」と判断した。●これに対し、2審判決は、「仕事以外に心理的負荷の存在を認めることはできない」と指摘。その上で、「上司や取引先とのトラブルで発症し、担当業務の変更などで症状が悪化しており、労災と認めるべきだ」と結論づけた。●三田労基署は「判決内容を検討し、関係機関と協議しながら今後の対応を決めたい」としている。
【虐待の精神科病院で私が見たもの 院長「独裁」、利益優先で患者退院させず】47News2020.11.2
神戸市の精神科病院「神出(かんで)病院」で入院患者に虐待をしていたとして、元看護師ら男6人が暴行や監禁などの罪で10月までに有罪判決を受けた。手すり付きベッドを逆さにして患者に覆いかぶせ、閉じ込める。患者の陰部に塗ったジャムを別の患者になめさせる―。おぞましい虐待事件はなぜ起きたのか。同病院で以前働いていた看護師Aさんが共同通信の取材に応じ、実態を明かした。(共同通信=大湊理沙、山本紘平)●
▽看護師長が虐待指導●虐待事件があったのは、重い統合失調症や認知症などの患者が入院する同病院の「B棟4階」。逮捕、起訴された元看護師5人と元看護助手1人は、10月27日までに3人が実刑、残り3人も執行猶予付き有罪が確定した。●判決によると、6人は18年9月~19年11月、男性患者2人の顔を押さえて無理やり口づけさせる▽患者の顔にホースで水を掛ける▽頭を粘着テープでぐるぐる巻きにする―など計10件の虐待をした。●患者への暴言や暴力は遅くとも2015年ごろから行われていたとされる。Aさんは「看護師長が虐待のやり方を部下に教え、看護部長も虐待を黙認していた」と証言。6人以外にも複数の看護師らが「大なり小なり」虐待をしていたと話す。
▽医師たちも容認●精神保健福祉法では、「患者に自殺や自傷の恐れが切迫している」「代替の手段がない」といった条件を満たし、医師が必要と判断した場合のみ、隔離や拘束が認められているが、B棟4階では医師の指示に基づかない拘束などが常態化していた。●Aさんによると、虐待や不適切な隔離・拘束がエスカレートしたのは18年ごろ。認知症患者のほか、身体疾患と精神疾患を併せ持つ高齢者が増え、病棟の環境が変わったという。●点滴を抜いてしまう人、昼夜逆転で夜中に歩き回り転倒する人、他の患者の持ち物を取ってしまう人…。「説得しても、認知症で理解してもらえない」。B棟4階には看護師、看護助手が計約20人勤務していたが、夜間は3人で50~60人ほどの患者に対応しなければならない。
2.対応が追い付かず、転倒を防ぐため患者を車いすにベルトで固定したり、部屋から出ないよう病室の扉に外から粘着テープを貼ったりする不適切な対応につながっていった。●「病院が十分な態勢を取らないまま、他の病院が手に負えない患者でも利益のためどんどん受け入れたため、負担は全部、現場に回ってきた」●医師たちもこうした不適切な隔離・拘束を知っていたが、「ちゃんと閉じ込めておいてよ」などと容認していたという。●
▽認知症5万人が入院●背景には、ケアが難しい認知症の人が介護施設などで受け入れを断られ、精神科病院にたどり着くという現状がある。●厚生労働省によると、17年時点で全国の精神科病院に入院する認知症患者は約5万2千人。全体(約27万8千人)の2割近くを占める。家族にしてみれば、医師や看護師が24時間いる病院は「安心」という感覚になる。●だが、病院は「暮らしの場」とは言い難い。認知症ケアの専門家は「過ごしやすい環境で穏やかに接したり、身体の不調を取り除いたりすれば、行動障害はそれほどひどくならない」と口をそろえるが、慣れない環境で不適切な対応をされれば患者は混乱する。● ケアする側から見ると「徘徊」や「不穏な行動」と映り、丁寧なケアをするだけの人員がいなければ、隔離・拘束するしかないという悪循環に陥る。「あの状況でどうすればよかったのか。教えてほしい」。Aさんは今も答えを見つけられずにいる。●
▽満床を誇りに●Aさんによれば、こうした状況を招いた大きな要因が院長の利益優先の経営方針だった。精神科病院では数十年間入院している患者も珍しくなく、国は退院を促して地域で暮らせる取り組みを進めているが、院長は満床状態を維持するため、ある患者を退院させた医師を叱責したこともあったという。患者を積極的に退院させようという姿勢は感じられなかった。●同病院は大阪、兵庫で病院や介護施設などを展開する「錦秀会グループ」の一つ。「院長は満床にすることを誇りに思っていたようで、患者さんよりも病院の利益を優先していた。独裁的で、誰も逆らえなかった」とAさん。建物の修繕も二の次で「老朽化して雨漏りする病室もあったのに、放置されていた」と明かした。
3. 病院は昨年12月、兵庫県警から虐待の疑いがあるという連絡を受け、今年1月に「虐待防止委員会」を設置したが、「委員会のメンバーは院長お気に入りのスタッフばかりだった」。元看護師ら6人の公判で有罪と認定された行為の一部についても、院長は必ずしも虐待とは言えないといった認識を周囲に示していたという。●病院は9月に再発防止策に関する院長名の文書を公表したが、そこでも「インフルエンザなどの患者様が、感染症についての病識が乏しいために離室」「重ねて説得するものの、徘徊を繰り返して他の患者様に迷惑行為を繰り返す」などと、患者側に問題があるかのような記述をしていた。●Aさんの証言について見解を尋ねた取材に対し同病院は「現在、市に提出した業務改善計画に沿って再発防止の取り組みを進めており、個別の質問に答えるよりも、それに尽力することが信頼回復の近道と考えます」と回答した。●
【患者虐待の神戸・神出病院院長「精神保健指定医」取り消しへ 国への報告、市が方針】神戸新聞2020.10.23
神戸市西区の神出病院で元看護師らが精神疾患のある入院患者を虐待した事件で、神戸市は同病院の男性院長が持つ精神保健指定医の指定取り消しを求め、国に報告する方針を固めた。22日の市会福祉環境委員会で明らかにした。猫●精神保健福祉法は、精神保健指定医について、同法に違反した場合や職務で著しく不当な行為があった場合などに、厚生労働大臣が指定を取り消すことができると定めている。市保健課によると管理者である指定医はこれ以外にも、管理者責任を果たさず、患者の人権が侵害された場合も指定取り消しの対象になるという。●患者の行動制限や強制入院には指定医の診察や判断が必要。市は、同病院が患者4人を約2週間にわたって同じ部屋に閉じ込めるなど不適切な隔離をしていたことを監視カメラの映像で確認しているが、この病棟を担当していた猫指定医3人は市の聞き取りに「知らなかった」と話しており、市はこれらの指定医の責任を問うのは難しいとみている。●院長の指定取り消しは今後、市の報告を受けた厚労省が、審議会の答申を踏まえて判断する。指定を取り消された場合でも通常の診療行為はできるという。●同病院では、男性患者同士を無理やりキスさせたり、ホースやバケツで水や湯を掛けたりするなどの虐待行為をしたとして、元看護師の男ら6人が起訴され、3人が執行猶予付きの有罪判決、3人が実刑判決を受けている。(長谷部崇)
【自殺者の頭の中 ネガティブな感情で脳が疲弊し理性を失う】女性セブン2020.10.29
三浦春馬さん(享年30)、芦名星さん(享年36)、竹内結子さん(享年40)……芸能界に相次いだ自殺の連鎖に、多くの人の心はざわめいたはずだ。たとえ「死にたい」という言葉を口にしても、実際には思い留まる人が大半だが、人が本当に自殺を“実行”してしまうとき、その人の頭の中では、何が起こっているのだろうか。精神科医の樺沢紫苑さんはいう。〇「人は本当に追い込まれたとき、思考が狭くなり、“ゼロか100か”でしか物事を考えられなくなります。“もう、つらいから死のう”と、ほかの選択肢がなくなって死を選ぶ。異常な心理状態になっています」(樺沢さん)〇この心理状態にいたっているとき、その人の脳の中でも、ある変化が起こっているという。長い間ネガティブな感情にとらわれ続けていると、脳が疲弊して理性を失うのだ。脳科学者の杉浦理砂さんはいう。〇「感情には、突発的な『情動』と、持続する『気持ち』の2種類があります。問題は、“悲しい”“怖い”といった気持ちが長く続くと、感情を司る扁桃体が過剰に活動するようになります。すると、扁桃体の活動を抑制していた前頭前野が疲弊して、感情の“ブレーキ”が効かなくなる。思考力や判断力、意欲や関心など、前頭前野の高度な機能が著しく低下することがわかっています。〇その結果、心の視野狭窄を示す『トンネルビジョン』という状態に陥り、客観的・多角的な視点や判断力が失われてひとりで抱え込みやすくなり、一度“死にたい”という気持ちになったら、死ぬことしか考えられなくなるのです」(杉浦さん)〇持続する“死にたい”という気持ちに、突発的な怒りやショックという情動が加わると、その勢いに任せて、自殺に踏み切ってしまうのだ。大分大学医学部精神神経医学講座教授の寺尾岳さんはいう。〇「自殺を考えている人は、精神的な視野が狭くなって悲観的になり、“何をやってもダメで自分には生きていく価値がない”と思い込んでいます。〇あくまで想像するしかありませんが、自殺の直前には、誰かに頼ろうとする気力も失せ、孤独感が深まり、生きていくこと自体が苦しくてたまらなくなる。“一刻も早くこの苦しい状況から逃れたい”と切望した結果、そのために唯一できることは、“苦しんでいる自分自身を殺すこと”と、絶望的な気持ちになってしまうのではないでしょうか」(寺尾さん)
2.
愛知県に住む会社員の女性(34才)は、10代の頃からリストカットを繰り返し、「死にたくなるのって、普通のことじゃないんですか?」と、医師に話した。〇貧困やいじめといった、誰から見ても「さぞつらいだろうに」と思われるような、わかりやすく明確な「痛み」がなくても、「なんとなく死にたい」という人もいる。しかし当然ながら、その根底には、本人さえも気づいていない問題がある。社会学者で大学院大学至善館教授の橋爪大三郎さんはいう。〇「社会や家族、職場やクラスでの関係になんらかの障害を感じていて、“自分の居場所はない”“評価されていない”“愛されていない”といった漠然とした苦痛があるはずです。 〇そうした人たちは、“いまの状況は自分に問題がある。自分が悪いのだ”と思ってしまう。職場で評価されなかったり、親から愛されないことよりもつらいことはたくさんありますし、そもそも、評価しない、愛さない方が悪いのかもしれない。なのに、気づかないうちに長い間苦痛にさいなまれることで視野が狭まり、自分を責めるようになっていくのです」(橋爪さん) 【相談窓口】「日本いのちの電話」ナビダイヤル0570-783-556(午前10時~午後10時) フリーダイヤル0120-783-556(毎日午後4時~午後9時、毎月10日午前8時~翌日午前8時)
【院長独裁神戸の精神科病院 利益優先、患者退院させず」2020.10.17神戸新聞
看護師らによる入院患者への虐待事件があった神戸市の精神科病院「神出病院」で以前働いていた看護師が共同通信の取材に応じ、「患者への不適切な身体拘束や隔離を医師が容認していた」「院長の経営が独裁的で、病院の利益のためベッドを埋めておこうと、患者を退院させなかった」などと証言した。
認知症患者の受け入れが増え、現場に余裕がなくなったことが拘束や隔離、虐待を招いた一因と指摘。神戸市の定期的な実地指導の際には、拘束を解いたり看護師の人数を増やしたりして、指導を免れていたことも明らかにした。神出病院は取材に「再発防止の取り組みを進めることが信頼回復の近道」とした。
【精神科病院「B棟の4階」のおぞましい実態】看護師らが法廷で明かした真相とは2020/9/10 07:00
神戸市内の精神科病院「神出(かんで)病院」で今年3月、看護師ら男6人(現在は全員退職)が患者に虐待をしていたとして、準強制わいせつや監禁などの容疑で兵庫県警に逮捕された。その後、神戸地裁で開かれた公判では常態化した患者虐待のおぞましい実態が次々と明らかになった。だが、浮かび上がった問題はそれだけではなかった。(共同通信=市川亨、山本紘平)
6月23日、神戸地裁。法廷に現れた33歳の元看護師2人はどちらもおとなしそうな、どこにでもいる普通の青年だった。それに対し、検察側が明らかにした2人の行為は、外見からはとても想像ができない内容だった。
おとなしそうな青年
1人は2018年10月の早朝、他の元看護師ら2人と一緒に、60代の男性入院患者を病室でベッド上に押さえつけ、陰部にジャムを塗り、食べ物に執着の強い別の50代男性患者になめさせた。
もう1人は19年9月の夜、他の元看護師ら2人と共謀し、60代の男性入院患者を布団の上に寝かせ、手すり付きベッドを逆さにかぶせ、閉じ込めた。患者のそばにポテトチップスを置き、手を伸ばす姿を見て面白がった。〇 事件の舞台となったのは、重い統合失調症や認知症などの患者が入院する同病院の「B棟4階」。いずれの事件でも現場では、「主犯格」とされる元看護助手(27)がスマートフォンで動画を撮影。LINE(ライン)でグループをつくり、共有した動画を見て仲間内で盛り上がっていたとされる。
6人の起訴内容はこれだけではない。▽男性患者2人の顔を押さえて無理やり口づけさせる▽患者の顔にホースで水を掛ける▽頭を粘着テープでぐるぐる巻きにする▽鼻の穴に指を突っ込んで引っ張る―など計10件に及ぶ。
▽「上司が率先して…」
なぜそんなひどいことを―。法廷で問われた元看護師らはこう答えた。 「(15年に)病院に就職した最初の頃から、他の看護師たちが暴力行為をするのを見ていて、自分もやるようになった」「『患者をおちょくって一人前』という空気があった」
検察側の主張によれば、B棟4階では虐待が常態化していた。▽患者を投げ飛ばしたり引きずり回したりする▽車いすごと後ろにひっくり返す▽病室のドアに粘着テープを貼って閉じ込める―といった行為がたびたびあった。
元看護師の1人は捜査段階で「看護師長ら上司が率先してひどいことをしているので、そういう人が出世していくところなんだと感じ、上層部に言っても仕方ないと諦めていた」と供述したという。〇起訴された元看護師らの供述 (2015年4月に)就職した最初の 頃から、他の看護師たちが暴力 行為をするのを見て、自分もや るようになった ・患者をおちょくって一人前、と
いう空気があった ■看護師長ら上司が率先してひど いことをしていたので、そうい う人が出世するところなのだと 思った ・患者をペットの動物のように見
ていた ■動画を撮ったのは、患者のリア クションが面白く、メンバー内 で会話が盛り上がるから
中には上司に相談した被告たちもいた。だが彼らは法廷で「その上司も虐待に参加していたので、しっかりした話し合いにならなかった」「相談したが、何も変わらなかった」と話した。
事件を招いた要因について検察側、弁護側の意見は一致した。B棟4階で勤務し始めた時点で既に上司や周りが虐待をしていたので、感覚がまひしてしまったのだ。だが、上司らは罪に問われていない。
事件が発覚したきっかけは、元看護助手が病院以外の場所で女性の体を触ったとして強制わいせつ容疑で逮捕され、捜査でスマホから虐待の動画が見つかったからだ。つまり「たまたま」であって、病院の自浄作用が働いたわけではない。この別の事件がなければ今も虐待は続いていたかも知れない。
警察が立件できた理由も、この動画が動かぬ証拠となったからで、重い精神障害がある被害者の供述では、裏付けは難しかったとみられる。実際、6人は被害を訴えることができない重度の患者を狙って虐待を繰り返していたとされる。
▽安倍首相の友人が病院グループCEO
「神戸市の病院」と聞けば、街中に立つ風景を思い浮かべるかも知れない。だが現実には、神出病院は神戸市の外れで林野に囲まれた場所にある。敷地の正門には「関係者以外立入禁止」と書かれ、外部の人間を寄せ付けない雰囲気がある。
長年続いていた虐待に病院や行政は気付いていなかったのだろうか。3月の兵庫県警の逮捕発表当日、取材に応じた病院の事務部長は「県警から話があった昨年12月に(初めて)知った」と主張。神戸市の担当者も「定期的な調査を毎年してきたが、把握できなかった」と話す。〇ただ、警察の逮捕後に市が病院の職員に実施したアンケートでは、虐待行為を聞いたことがあると答えた職員が数人いた。市の担当者は「そういう声が上に伝わらない組織の在り方に問題がある」と指摘。市は8月17日、院内で相談や報告ができるよう改善命令を出した。〇 病院は「虐待防止委員会」を設置して再発防止策を検討し、抜き打ちで夜間に巡回するといった対応を公表した。しかし、上司ら他の職員による虐待や処分については「誤解を招く恐れがあるので回答は控える」と一切、明らかにしていない。〇同病院は大阪、兵庫で病院や介護施設などを手広く展開する「錦秀会グループ」の一つ。グループの籔本雅巳最高経営責任者(CEO)は安倍晋三首相の友人で、たびたびゴルフや会食をする仲だが、その社会的地位に照らすと、病院の説明責任の果たし方には疑問が残る。〇公判で検察側が読み上げた供述調書で、被害を受けた患者の家族はこう話していた。「病院の医師や看護師に問いたいです。あなたたちはこんなことをするために医師や看護師になったのですか。あなたたちは同僚の虐待に本当に気付いていませんでしたか」〇8月末現在、元看護師ら6人のうち3人は神戸地裁で有罪判決を受け、残り3人は公判が続いている。〇 ▽取材後記〇起訴された元看護師らを法廷で見ていると、彼らのほとんどは就職した病院が違ってさえいれば、今でも普通に働いていたのではないかと思わざるを得なかった。そう考えると、彼らもある意味では被害者のように思えてならない。病院の上層部は本当に虐待に気付いていなかったのか。本当だったとしても、これだけ異常な事態に長期間気付くことができない組織もまた異常だろう。神戸市のチェックも、果たして機能していたのかどうか。罪に問われるべきなのは、6人だけではないはずだ。
【精神疾患の入院患者虐待「事件は氷山の一角」 閉鎖的施設で連鎖】神戸新聞2020.10/13(火) 7:30
「事件は氷山の一角」。12日の判決公判を傍聴した民間団体「兵庫県精神医療人権センター」(神戸市長田区)の吉田明彦さん(58)は、険しい表情で語る。一連の公判では、閉鎖性の高い精神科病院で虐待が常態化していたことが明らかになった。「このままでは第2、第3の神出病院が出てくる」。吉田さんらは法改正や監視体制の整備を訴える 事件が発覚したきっかけは、元看護助手の男(27)が病院外で起こした強制わいせつ事件だった。スマートフォンから、患者を虐待する様子を写した複数の動画が見つかった。吉田さんは「この事件がなかったら、公になっていなかった。病院内から一度も声が上がらなかったわけで、問題は根深い」と言う。
県内の精神科病院での虐待事案は相次いでいる。今年8月、県立ひょうごこころの医療センター(神戸市北区)では、患者の顔を殴って重傷を負わせたとして県が男性看護師を停職の懲戒処分にした。2018年には加茂病院(加東市)で、女性患者の胸を触るなどの行為を繰り返した男性准看護師と、男性患者に馬乗りになって平手打ちをした男性看護師が退職した。 身体拘束や鍵のかかる部屋への収容が法的に認められる一方、外の目が届かない精神科医療の現場。神戸市は年に1回、市内の全精神科病院に実地調査をしていたが、幹部や事務職員への聞き取りと書類のチェックにとどまっていた。公益通報についても「積極的な働きかけではなく、現場の職員に周知できていなかった」(市の担当者)。 市は、不適切行為があれば市に報告するよう、全病院にあらためて呼び掛けた。市精神保健福祉担当の村田秀夫課長は「発見の糸口をできるだけ広く持てるよう要請を続ける」と話す。 同センターなど民間の支援団体も病院を回って患者に聞き取りを行うなどの活動を続けるが、神出病院を含め訪問を断る病院も多い。 法の不備もある。障害者虐待防止法の通報義務は、精神科病院など医療機関は対象になっていない。今回の事件を受け、同市は医療機関にも通報を義務づけるよう法改正を国に要望。日本弁護士連合会も同様の声明を出している。 大阪府では府や市、認定NPO法人などでつくる協議会が、病院への訪問活動を始めている。吉田さんは法改正の必要性とともに「自治体の病院内の環境チェックや患者への聞き取りには、民間団体も加わった方が有効。兵庫でも官民協力体制をつくるべき」と訴える。(小谷千穂) 【障害者虐待防止法】 2012年に施行。障害者に対する虐待を発見した人に通報を義務付け、通報を受けた自治体などが適切に権限を行使する責務を規定した。虐待をしているのが家族の場合には、福祉サービスの案内も行う。医療機関に通報義務は適用されず、自主的な防止措置にとどめられている
【弱者切り捨て連帯し防ごう 日本障害者協議会、松山などつなぎオンライン講演】10/11(日) 愛媛新聞
生活保護や障害者福祉の在り方を考える講演会が10日、東京と愛媛県松山市内の会場などをつなぐオンライン形式であり、NPO法人日本障害者協議会の藤井克徳代表が「だれ一人置き去りにしない社会をめざして」と題し、分野を超えた連携の必要性を語った。
講演は、生活保護基準額の引き下げは違憲とする訴訟で、今年6月に名古屋地裁が原告の訴えを棄却したのを受け、「いのちのとりで裁判愛媛アクション」と「きょうされん愛媛支部」が催した。愛媛を含む29都道府県の約1000人が同様の訴訟を起こしている。 藤井氏は、菅義偉首相が政策理念として掲げる「自助・共助・公助」に触れ「自助は他者から強要されるものではない。公助が最後の語順も気になる」と指摘。弱い立場にある人が、より厳しい状況に追い込まれると懸念した。 ナチス政権下のドイツで起きた障害者虐殺を批判した司教の言葉を引用し、障害者の切り捨てを見過ごせば、次は高齢者、病人と弱者探しの連鎖が起こると強調。生活保護や障害者福祉は全ての人に関係する問題とし、近い分野で手を組み、広く連帯し国や社会に働き掛けていくことが大切だと語った。
【「父親は殺人犯」女子高生の娘が生きた壮絶人生、「君たちを守るためにやった」に号泣した理由】東洋経済10/11(日) 大塚 玲子 :ジャーナリスト
1.
親が犯罪者になった子どもの立場の人に話を聞きたい、と思ってきました。被害者やその遺族の手前、表に出てきづらい存在ですが、被害者側の苦しみとはまた別のところで、加害者家族の苦しみも、確実に存在します。
取材申し込みフォームから連絡をくれたのは、20代の田嶋架純さん(仮名)。架純さんの父親は、彼女が高校生のときに殺人と覚せい剤使用により逮捕され、いまも刑務所で服役中です。メッセージからは彼女の迷いや苦しさが、輪郭をもって伝わってきました。
待ち合わせたのは、7月の休日、都内のデパートのカフェでした。新型コロナの緊急事態宣言が出てからはオンラインの取材が続き、外出が久しぶりだったためか、目に入るものがどこか生々しく感じられます。蒸し暑いテラス席でコーヒーを飲み、ちょっと一息ついた頃、まっすぐな瞳をした架純さんが現れました。
■薬物中毒者の娘である自分も、人間ではないのか
架純さんが5歳のとき、両親は離婚しました。父親は仕事柄、遠くへ行くことが多く、また「遊び人だった」こともあり、もともと家にはあまりいませんでした。
架純さんたちが住んでいたのは、父方の祖父母の持ち家の1つでした。会社を起こして財を成した祖父と、名家の出身で手に職があった祖母。伯母やその夫も社会的地位の高い人物でした。父親はそんな親きょうだいに囲まれ、コンプレックスを感じて育ったのでしょうか。
祖母は「優しいおばあちゃん」でしたが、後に聞いた話では、意外と豪胆な人物でもあったようです。父親が悪い相手から金を借りた際は、身一つで事務所に乗り込み、金をたたき返してきたこともあったとか。そんな祖母のすすめもあり、母親は離婚後も祖父の会社を手伝いつつ子育てをし、そのまま祖父母の持ち家で暮らしていました。
父親は覚せい剤を使用して刑務所にいる。それを知ったのは、小学5年生のときでした。祖父母が同じ敷地内に家を新築してくれ、引っ越し作業をしていたところ、引き出しの奥から父親が書いた手紙が出てきたのです。この頃、父親に手紙を送っても宛先不明で戻ってきていたので、どうしているのかと気になり、つい中身を読んでしまったそう。
それは架純さんにとって、「とんでもない」手紙でした。父親が犯罪者になっていたことへのショックと、母親に宛てた手紙を読んでしまったことへの罪悪感。誰にも話すことができず、むしろ「母親の前で不用意に父親の話題を出すのはやめよう」と思ったといいます。
2.
普段は以前と変わらず、活発に過ごしていましたが、中学校の授業で「薬物乱用防止」のビデオを見たときは泣いてしまいました。「薬物中毒者は人間ではない、人間をやめたのだ」と言われ、「薬物中毒者の娘である私も、人間ではないのか」と感じてしまったのです。
「人間やめますか?」という薬物防止のキャッチフレーズは、依存症患者を追い詰め、回復をより困難にするものであることが認識され、最近はあまり見かけなくなりましたが、実は依存症患者本人だけではなく、その子どもたちのことも、ひどく苦しめていたのです。
■娘には優しく、厳しかった父親への思い
服役していた父親が「帰ってきた」のは、中2のときでした。この頃、祖父母は架純さん一家のすぐ「裏の家」に住んでおり、父親もそこで暮らすようになったのです。架純さんには、戸惑う気持ちと、うれしい気持ちが両方ありましたが、弟はただただうれしかったようで、毎日のように「裏の家」に行って父親と過ごしていたそう。
母親は内心、複雑だったでしょう。以前、父親が一時帰宅した際、母がインターホン越しに「帰ってよ!」と怒鳴っていたことを、架純さんは覚えていました。一方的に離婚を告げた父親に対し、怒りがなかったはずはありません。しかし母親は、子どもたちの前ではいっさい父親の悪口を言わなかったといいます。
「すごいな、と思います。私や弟が『お父さんに会いたいな』と言ったとき、『あんな男、父親だと思うのはやめなさい』とか、そういうことは一度も言われたことがないので。
大人になってから『なんでそういうことを言わなかったの?』って聞いたら、『どんな人であっても、あなたたちにとって父親であることに変わりはないから。自分の親を嫌いになるのは悲しいし、つらいことかなと思ったから、ママはそういうことは言わなかった』って。
そういうふうに育ててくれたことには、すごく感謝してます。自分の血縁って、ある意味1つのアイデンティティーじゃないですか。それを悪く言われるのは、少なからず自分の一部も否定されることになると思うから」
ただやはり、架純さん自身も父親に対しては、複雑な気持ちがあるようです。話を聞いていると、父親を好きだと言いたい気持ちと、それを口にしてはいけない、するべきではないという気持ちが、彼女の中でせめぎ合っているのが感じられます。
3.
昔一緒に住んでいた頃、どんな父親だった?そう尋ねると、「優しい、怖かった」と口にし、いろんな思い出を話してくれました。
料理が上手で、周りの子どもたちがうらやむようなかわいいキャラ弁を作ってくれたこと。小さかった架純さんが食べ物を残したり、片付けができなかったりすると、とても厳しくされこと。弟の出産のため母親が入院していたときは、架純さんの髪を結ってくれていたこと。
「そういう日常的な、超どうでもいいことが、自分の中では『めっちゃ大事だったな』と思えるんです。かわいがってもらったと思うし、大好きだった」
■事情を察して電話をくれた幼なじみのお母さん
事件が起きたのは7月、夏休みに入ったばかりの時期でした。高校で部活の練習を終えた架純さんは、先輩とおしゃべりをしており、「じゃあ帰ろうか」と戸を開けると、土砂降りの雨が降っていました。そこで母親に電話をかけ、車で迎えを頼んだのです。
家に着くと母親はすぐ、祖父母が住む裏の家へ。よくあることで、ここまではいつもどおりでした。しかし、弟の様子がいつもと違います。聞くと、この日は父親が祖母の看病をするはずだったのに帰ってこなかったため、代わりに弟が裏の家にいたところ、警察から電話がかかってきたそう。「お父さんに話を聞いている」と告げられたようです。
お父さんが、また何かした――。架純さんはこのとき察しました。
「うち、普段はテレビをつけないんですけれど、たまについていることがあって。夕方6時過ぎ、キー局番組の合間の5分とかで、地方ニュースをやるんです。そこで『〇〇市の民家から、女性の遺体が発見された。一緒にいた男性に事情を聞いている』みたいなことが報道されて。なんか、2人で見入っちゃって。弟と何か話をしたと思うんですけれど。全然覚えていないけど」
殺されてしまったのは、父親が入れ込んでいた、近くの飲食店の女性でした。
その後、電話がかかってきたのか、かけたのかわかりませんが、弟が泣きながら父親に「いつ帰ってくるの? 今日約束してたじゃん、早く帰ってきてよ!」と言っていたことを、架純さんは覚えています。夜になると、おそらく新聞記者でしょうか、家のチャイムが鳴りましたが、「出てはいけない」と感じ、弟と2人でやり過ごしたそう。
夜8時頃、架純さんの携帯に電話をくれたのは、幼なじみのお母さんでした。家族ぐるみで仲良くしており、架純さんの家の事情もよく知っている人です。
4.
彼女もおそらくニュースを見て察したのでしょう。しかし事件のことには何も触れず、「最近物騒だからさ、架純ちゃんたち大丈夫かな? と思って電話しちゃった」と言います。「大丈夫、ありがとね」と答えましたが、架純さんはほっとして泣きそうでした。本当は、どうしようもなく不安だったのです。
この日は眠れませんでした。深夜、幼なじみに電話をかけて、何を話したかは覚えていませんが、2人で大泣きしていたところに、母親が帰宅します。このとき架純さんは、父親が覚せい剤で捕まった過去を知っていることを伝え、父親から来た手紙を読んだことを謝ったところ、母親は「架純が知っててくれて、よかった」と言ったそう。すべてを自分の口から説明せずに済んで、ほっとしたのでしょう。
その後、架純さんたちは、警察から事情聴取を受けました。何を聞かれたかは覚えていませんが、ずっと「ドラマみたい」と感じていたそう。あまりのショックの大きさに、現実を現実として受け止めることを、脳が拒否していたのかもしれません。
■「親父さん、刺しちゃったんでしょ」泣いて帰った弟
心配になるのは周囲の人々の反応ですが、当時弟が通っていた中学校の対応は、ありがたいものでした。以前、架純さんの担任をしていた先生がちょうど弟の学年におり、報道を見て「架純の家では」と気づき、連絡をくれたのです。そこで3人で中学校へ行き、母親は校長と弟の担任と話をし、その間、架純さんと弟は、連絡をくれた先生などと話をしました。
「いま何がいちばん心配か、と聞かれたんですけれど。その亡くなった方には、私たちと同じくらいの子どもたちがいたんです。そこもシングルマザーだったから、それがすごく心配で申し訳なくて。その子たちはどうなっちゃうんだろうって、本当に申し訳なくてしょうがなくて。そのことばかり言っていました。
ママたちも話が終わって家に帰ろうとしたとき、私、本当にそれまでお母さんが泣いた姿を一度も見たことがなかったのに、そのとき初めてお母さんが先生たちの前で、『本当にありがとうございます』って言って涙を流したのが、すごい衝撃で、覚えています」
5.
世間では残念なことに、犯罪加害者の家族を犯罪者と同一視して、差別する人もいます。でも架純さんの通った中学校は、そのようなことがないよう、静かに、かつ速やかに配慮をしてくれたことは、心底ありがたいことでした。
なお、架純さんが当時通っていた高校には、近所の生徒があまりおらず、事件に気づく人はほとんどいませんでした。電話で一緒に泣いてくれた幼なじみがずっと同じクラスだったこともあり、周囲の差別でつらい思いをすることは、幸いなかったと言います。
「ただ、弟は本当にかわいそうでした。中学は近所の子がたくさんいたので(みんな父親の犯行を知っており)、何か言い合いになったとき『おまえの父ちゃん人殺しのくせに』と言われたり、部活の先輩に『おまえの親父さん、刺しちゃったんでしょ』と言われて、なんかさめざめと泣きながら帰ってきたりしこともあったらしくて。でも、ちゃんと学校に行き続けたんですよ。本当にすごかった、えらかったと思う」
弟がそれでもなんとか通い続けられたのは、おそらく、中学の先生たちのフォローのおかげもあったのかもしれません。
その後、弟は大学生のときにアルコール依存症になってしまい、一時は入院して治療を受けていたといいます。父親の事件との関係はわかりません。「でももう立ち直って、いまでは私をたくましく支えてくれる、立派な、優しい大人になりました」と架純さんは話します。
■弟には見せられなかった、父親から来た手紙
架純さん自身は、父親の犯行で周囲から責められたりはしなかったものの、それでも大きな苦しみを抱えて生きてきました。それは、なぜだったのか? 理由の1つは、「私たち(架純さんと弟)がそばにいるだけではダメだった(父の支えになれなかった)」という思いだといいます。
もう1つは、架純さんは亡くなった女性と面識があり、「私のことも応援してくれる、優しい人だな」と好感を抱いていたことです。
また親しく話したことはなかったものの、女性の子どもたちとも面識があったといいます。亡くなった女性や子どもたちのことを想像すると、とてもやりきれませんが、そのやりきれなさと架純さんは向き合ってきたのです。
最も苦しんだのは、父親から送られた1通の手紙です。大学生のときに初めて、弟とともに刑務所へ父親の面会に行ったのですが、その後父親が送ってきた手紙に「お父さんは、君たちを守るためにやった」と書かれていたのです。
6.
真相はわかりませんが、父親は殺害した女性とその兄が手を組み、架純さんや弟を傷つけようとしていたと信じており、それを防ぐために罪を犯したのだというのです。架純さんには、耐えがたい話でした。
「だって、自分を守るためにお父さんが人を殺しているっていうことですよ。『私は一生幸せになれない』と思いました。聞きたくなかったです。お父さんが私や弟のことを大事に思っていたのはわかったけれど、それでも、やっていいことと悪いことがある。弟には、この手紙のことは言っていません」
この頃が、いちばんつらい時期でした。なんでもないときにふと父親や事件のことを思い出し、涙が止まらなくなることも。高校を出て地元を離れ、やっと「新しい人生を始められる」という希望があったのに、実際はまったくそんなふうにはいかなかったのです。
その後、架純さんの中で1つの転機となったのは、「ダルク」との出会いでした。ダルクは薬物依存の人の回復を手助けする民間施設で、全国にグループがあります。大学のとき、彼女が住んでいた家の近くにもたまたまダルクの施設があり、連絡をしてそこを訪れたのです。
■「つらかった」と言っていいと思えたダルクとの出会い
「過去と向き合うために行ってみようと思ったんですけれど、でも私が行っていいのかな、とも思いました。私は(薬を)やっていないし、父がやっているところを見たわけでもない。でも電話をしたら『来てみてください』って言われて。2度目に行ったクリスマス会のとき、『みんなの前で、架純の話をしてほしい』って言われて、話をしたんです。
めっちゃ泣きながら話したから、顔も上げられなかったんですけれど、終わってみたら本当にみんな泣いていて。来ている人が本当にみんな、『よく頑張ったね』『話してくれてありがとう』って言ってくれて。自分の気持ちのままでいいんだなって思えて、すごく救われたな、と思ったんです」
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救われた、というのは、自分を責めなくていいと思えたということですか? そう私が尋ねると、架純さんは「自分を責め『すぎ』なくていい」と感じたのだと言いました。
「『私よりつらい思いをしている人はもっといっぱいいる、だから、つらいって言っちゃダメだ』って、本当に暗示のように思っていました。でもダルクで話をしたとき、私も『つらかった、しんどい』って言っていいんだって思えて、すごくラクになったんです。いまでもたぶん(我慢するところは)まだあると思うけれど、昔よりは本当にましになったので」
さらに決定的な転機は、最近になって訪れました。いまの夫との出会いと、結婚です。新婚ほやほやなので仕方がありませんが、架純さんがここにきて、急に全開でのろけ出したので、笑ってしまいました。ここまでの話とトーンが違いすぎます。ほっとして、涙さえ出そうです。
「(夫は)めっちゃかっこいいんですよ(笑)。それにすごく優しい。付き合い始めた頃、ちょっとつらいことがあって電話で話したら、彼が泣いてくれたんです。私は泣いていなかったんですけれど、私のことをすごく心配して泣いてくれたとき、『あ、この人とだったらずっと一緒にいられるかもしれない』と思って。
それまで私は、たぶん一生幸せにはなれないと思っていたし、結婚もたぶん無理って思っていた。でも彼と出会って、私は幸せになれるかもしれないと思って。この人と家族になるんだ、この人と生きていけるんだと思ったら、未来に希望がもてるようになってきた。いまの状況は、これまでつらかったことをトントンにしているんだなって思えるんです」
架純さんは、こうしていまやっと、自分の人生を取り戻しつつあります。
この話を読んで、「被害者がいるのに、加害者の家族が幸せになるなんて許せない」と感じる人も、もしかしたらいるのでしょうか。
でも、父親が犯罪者であることについて、架純さんには、何も責任がありません。子どもは、親を選べませんし、架純さんと父親は、別の人間なのです。
当連載では、さまざまな環境で育った子どもの立場の方の話をお聞きしています(これまでの例)。詳細は個別に取材させていただきますので、こちらのフォームよりご連絡ください。
大塚 玲子 :ジャーナリスト、編集者
【薬物乱用防止 パネルで啓発 八幡浜】愛媛新聞10/10(土) 10:12
麻薬・覚醒剤乱用防止運動期間(10~11月)に合わせ、愛媛県は8日、八幡浜市中心部の新町商店街で薬物の害などを訴える啓発パネルを展示した。パネル展は期間中、県内5カ所で開かれる。
【小学校校長が児童に暴言で謝罪・四国中央市】テレビ愛媛
10/9(金) 19:3
先月四国中央市の小学校で、校長が女子児童をたたいたり、暴言をはきながら叱ったとしてその後、児童と保護者に謝罪したことがわかりました。
四国中央市教育委員会によりますと、市立小学校の58歳の男性校長は先月25日、クラス担任に代わり4年生の授業を担当。
女子児童の1人が、宿題をしてこなかったことをごまかしたため、「あほか」「ろくな大人にならんぞ」などと暴言をはきながら叱りました。
このほか今年4月には、この女子児童の背中をたたいたこともあったそうです。
男性校長は事実を認め、その日のうちに本人と両親に謝罪しましたが、女子児童は医師に「急性ストレス反応」と診断されその後、登校できていないということです。
市教委は、校長を口頭で厳重注意しています。
【家族や施設では支えきれず…「強度行動障害」医療が果たすべき役割は】西日本新聞10/5(月) 10:01
自傷行為や身近な人への他害なども見られる強度行動障害。家族や施設だけでは支えきれず、長期間、精神科病院に入院する人も少なくない。「医療」はどんな役割を果たすべきなのか-。治療や支援に詳しい国立病院機構・肥前精神医療センター(佐賀県)療育指導科長の會田(あいた)千重さんが福岡市内で講演。病院側も地域生活への移行を見据え、「普段から福祉や教育など関係機関と連携を密にし、暮らし全体を支えていく意識が大切だ」と訴えた。
「医師が1人でできることは限られている」。同センターで約15年、強度行動障害の患者の治療や研究に携わってきた會田さんは、冒頭からそう指摘した。
行動障害が表れるのはもともと自閉症や知的障害の人が多く、その特性や周囲の環境のミスマッチが原因とされる。治療にも、表面上に表れた行動を分析し、検証しながら当たる必要があることから「患者の24時間の生活に接する多職種の力が欠かせない」と言う。
※家族などの安全網
全国で強度行動障害のある人は療育手帳交付者の1%程度とされ、行動障害関連の福祉サービス利用者を含めると5万人を超える。
多くは自宅で通所施設などを利用しながら暮らしたり、障害者施設に入所したりしている半面、地域の精神科病院や、国立病院機構など専門の医療機関で入院している患者もいる。
行動障害そのものを軽減する治療だけでなく「自傷行為による失明や、キーホルダーなどを飲み込んで開腹手術が必要になるなど、病院が関わらないと命を落としかねない例も少なくない」(會田さん)ためだ。
福祉での短期入所が難しい場合は、同居する家族や施設職員の一時的な休息のための短期入院も受け入れており、医療が「在宅や福祉での対応が難しい人々のセーフティーネットの機能」を果たしていることは間違いない。
※薬物療法から脱却
ただ精神科病院では、特に状況が切迫しているような場合など、行動障害を薬で鎮静化する薬物療法が一般的。「薬を使いすぎれば、消化管の動きやのみ込みが悪くなるなど副作用も心配される」。個室や保護室などで24時間、行動を制限する対応も珍しくない。
2.
このため會田さんが強調したのは、問題行動に至る前後の様子をよく観察し、本人が落ち着きやすいよう部屋などの環境を整え、写真や絵のカードを用いて意思疎通する-など、福祉施設などで実践されている支援を医療に取り入れる「非薬物療法」の重要性だ。
同センターには看護師だけでなく、保育士や心理士、児童指導員など多様なスタッフが所属。入院患者には一日の生活スケジュールに合わせて治療や薬の調整を行い、徐々に個室から出て、小グループでの活動など行動の場を広げていくようにしている。いずれも患者が「自宅や施設に帰ったときのギャップ」を回避し、スムーズに地域生活に移行できるようにする狙いがある。「地域の精神科病院でも、個室でその人が好きな音楽や絵本を提供するなど行動拡大を促す取り組みは可能では」(會田さん)
※院内にヘルパーも
理想の支援のあり方として會田さんが思い描くのは、医療が「セーフティーネットの最終手段」ではなく、本人や家族を中心に福祉施設や相談支援事業所、行政、学校などがつながるネットワークの輪に「医療機関も当初から関わる」姿。
外出時にヘルパーが付き添う行動援護など、福祉サービスの入院中の利用も病院が積極的に認める▽本人が得意な意思疎通方法など個別の情報を学校が提供し、関係機関で共有、統一する-などしてそれぞれが多様なサービスを行えば「地域に帰ったときの生活保障」につながるからだ。
しかし現状では医療と福祉の間でさえ分断しがちで「連携していても、一病院と一事業所がお互い何とかしようと無理を重ねる例が多く、限界が出てくる」。
※どうすれば関係機関が手を携えていけるのだろう。
現在は入院患者が行動援護を利用している同センターでも、当初、看護師からは「抵抗」があった。「本人はヘルパーとの外出を楽しみに出掛け、機嫌良く帰ってくる。そんな効果を実感すると、今後も(福祉サービスを)入れましょう、と変わっていった」という。
大事なのは「患者が地域に帰った姿を想像しながら、支援者同士も、お互いを知っていく」こと。それが支援の地域格差の解消にもつながっていくと、會田さんはみている。 (編集委員・三宅大介)
【肥前精神医療センター(佐賀県吉野ケ里町)】
1945年に「国立肥前療養所」として開設された精神神経疾患の基幹医療施設。計564床のうち、全国の国立病院機構でも数少ない「療養介護・医療型障害児入所支援病棟」(計100床)で、重い知的障害や自閉症などの発達障害があり、強度行動障害を伴う患者の治療や療育を行っている。
【「迷惑をかけたくない」という日本人の死に方……藤木孝さん80歳の自殺に思う】YomiDr.9/30(水) 12:16配信富家 孝(ふけ・たかし)
今年はなぜか有名人の自殺が続きます。女子プロレスラーの木村花さん(22)、俳優の三浦春馬さん(30)や芦名星さん(36)に続いて竹内結子さん(40)。先日は、やはり俳優の藤木孝さん(80)の自殺が報じられました。ただし、藤木さんの自殺は、80歳という高齢のため、若い人の自殺とはまったく違うことを、私は考えさせられました。それはなぜ、死期が近いのに、わざわざ死のうとするのかということです。
*高齢になって自死を選ぶ理由
当初の報道によると、藤木さんの自殺は息子さんに発見され、遺書も見つかりました。そこには、「役者として続けていく自信がない」ということが書かれていたとされ、コロナ禍で家にいることも多く、仕事もなかったと伝えられました。しかし、その後の報道によると、藤木さんは、東京・中野区の住宅街の8畳と6畳二間にキッチンがある2Kのアパートで一人暮らしをしており、ときどき、息子さんが見に行っていたようです。仕事がないわけではなく、テレビのクイズ番組に出演し、来年上演予定のミュージカルへの出演も決まっていたそうです。
とすると、これは自殺といっても「自裁死」だったのではないでしょうか。
*自裁死という西部邁氏の死に方
「自裁死」というのは、自らの意思で死んでいくことを指します。2018年1月に入水を図った評論家の西部邁氏(享年78)の死について、使われた言葉です。自ら裁いて死ぬから、自裁死というわけです。
西部氏の場合、日頃から死ぬときは自分の意思で死ぬと周囲に告げ、当日は信奉者2人に手伝いを頼みました。そのため、2人は自殺幇助(ほうじょ)の罪に問われ、世間に大きな波紋を呼びました。西部氏の遺書には、「家族に介護などで面倒をかけたくない」とあったと伝えられました。
実際、西部氏は遺稿となった『保守の遺言』(平凡社新書)のなかで、こう述べていました。
「極端な例を挙げれば、オツムが痴呆(ちほう)状態に入ったままで、あるいは糞尿(ふんにょう)垂れ流しのままで死期に近づいている自分の姿について、『今此処(ここ)』の心身が健全(といってよい)状態にあっても、何ほどかの予測・予想・想像をもってしまう。」
この先自分がどうなるか、想像がつくというわけです。そこで、「極端な場合、そんな種類の死が間近に待っていると強く展望されるなら、今のうちに自裁してしまおうと決断し、そのための準備をし、そしてその決意を実行する、ということになって何の不思議もない。」と続きます。
西部氏の決断は揺るぎないものでしたが、持病が悪化して、すでに手足が不自由だったため、信奉者の助けを借りざるをえませんでした。周囲の話では、一にも二にも人に迷惑をかけず、死んでいきたいと望んでいたといいます。
2.
最期への重要な思いは「迷惑をかけたくない」
「迷惑をかけたくない」。高齢になって死を意識するようになると、決まってこの言葉を聞きます。実は私も、そう思っています。延命だけの終末期医療は、人間の尊厳を損なうので拒否するのはもちろんですが、その理由として、「家族や周囲に迷惑をかけたくない」という気持ちが強くあります。
高齢者の自殺といえば、もうお一人を思い出します。 2011年に自宅マンションから飛び降り自殺した音楽評論家の中村とうよう氏(享年79)です。彼が主宰した雑誌「ミュージック・マガジン」の遺稿には、年を取って他人の世話にはなりたくない旨が述べられ、最後に「もう思い残すことはありません」と書かれていました。
脚本家・橋田壽賀子氏は95歳を超えてもなおご健在ですが、著書『安楽死で死なせて下さい』(文春新書)のなかで、こう述べています。
「人に迷惑をかける前に死にたいと思ったら、安楽死しかありません」
尊厳死は、死も自己決定権に含めた考え
このように見てくると、日本人の死生観を決定づけているのは、「迷惑をかけたくない」という思いではないかと、私は思います。これは、欧米の死生観とは大きく違っています。
欧米では、なによりも尊厳死が尊重され、スイスなど一部の国で安楽死が認められているのは、あくまで「死ぬ権利」としてです。死をも自己決定権に含むという考え方で、日本のような「迷惑をかけたくないから死ぬ」という考え方は、ほとんど聞きません。
家族任せだった介護を社会で受け止めようという狙いで、介護保険制度が始まったのは2000年のことです。介護をプロの介護サービスに任せることで家族の負担を軽減し、本人が「世話になって迷惑をかける」という思いを持たなくてすむようにする仕組みでもあります。とは言え、個人の価値観はそれぞれです。
終末期にどうするかを話し合っておきたい
問題はその後にあります。何も意思表示をしないと、今の日本では、病院や施設で延命治療が行われます。そのこともあって、日本は寝たきり老人が飛び抜けて多い国です。一方で、内閣府の平成29年版高齢社会白書を見ると、65歳以上で「延命のみを目的とした医療は行わず、自然にまかせてほしい」と回答した人は9割を超えています。
「迷惑をかけたくない」と自裁するのは、極端な選択ですが、延命のみを目的にした延命治療によって、本人の苦痛が長引き、家族や周囲の精神的、肉体的な負担が増すのは、だれも望んでいないことです。80歳の自殺を聞いて、私が思うのは、終末期にどうするか、家族とも話し合っておくのが大切だということです。
富家孝
医師、ジャーナリスト。医師の紹介などを手がける「ラ・クイリマ」代表取締役。1947年、大阪府生まれ。東京慈恵会医大卒。新日本プロレス・リングドクター、医療コンサルタントを務める。著書は「『死に方』格差社会」など65冊以上。「医者に嫌われる医者」を自認し、患者目線で医療に関する問題をわかりやすく指摘し続けている
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